第六話 二万一千四百二十五体
皆には内緒だがgoodfull警戒サービスを利用しているため索敵において一切の心配は無いのです。
しかし、そんな俺の行動は兵士諸君にとってウカツ極まりない行動に見えたようだ。
安全確認の取れていない林に無防備に入る。
安全確認の取れていない川に無防備に入る。
安全確認の取れていない山に無防備に入る。
愛馬ケルヒャ号の高性能極まりない登坂能力に任せた俺の行動は、小隊全体から見てあまりに高機動すぎるためにそうなった始末なのですが、結果、愛馬ケルヒャ号を取り上げられました。何故だ!?
『カール様の行動の結果、小隊内部での不安感と不信感が高まりすぎたためです』
はい、そうです。
何一つ言い返すことが出来ません。
そんなわけでケルヒャ号は今、副官アルブレヒトくんとイチャイチャしてます。
輜重隊の荷馬車のなかに放り込まれた僕はイチャイチャの惚気を見せ付けられているのです。
あ、アルブレヒトくんの手からケルヒャがニンジンを食べよった。
ニンジンを与えてくれるなら誰でも良いと言うのかい? ケルヒャ号よ?
そして、せめて人が乗る馬車に僕を乗せようよ。
荷物と一緒に荷馬車に乗せるのはどうかと思うんだ。仮にも一国の王子をさ。
まるで俺がやっかいなお荷物であるかのようではないか!
その通りなんだけどさ!!
戦闘においては役立たず。先頭においても役立たず。
よし上手いこと言った! ドイツ語だとぜんぜん上手くないけど。
しかし、戦闘かぁ。
いざと言うとき、確かにどう戦ったものだろう。
剣を持っては素人並み、槍を取っては素人並み、弓を引いたら顔をベチンとする始末。
こんな王子の下で、誰が戦いたいと思うものか。
こんな僕でも戦えそうな武器はないかと通信販売のカタログを眺めていると、重力子線照射装置や分子結合崩壊波動砲など素敵な名前のロマン武器名が並んでいましたが、<加護>がおっぱいだから使えない。ばれちゃいけない知られちゃいけないおっぱいマンが誰なのか。
俺の<加護>はおっぱいだ。
だから、おっぱいにかこつけた、そんな戦闘方法を編み出す必要があるのです。
字面におっぱいが含まれていれば<加護>特有の出鱈目さで皆も納得してくれるのではないだろうか?
おっぱい、おっぱい、乳首、ニップル……はっ!? 俺は今、とても良いことに気付いたかもしれない。
先生、俺のアイディアは実行可能ですか?
『その効率性と見た目はともかく、可能です』
やったね、これで僕も闘えるよ!
一軍の将として、一国の王子として恥じることなく戦うことが出来るよ!
こうして俺の脳内で戦闘方法が確立されたところで、かといって待遇が変わるわけでもありませんでした。
昼間は荷馬車に揺られドナドナを歌い、夜はロッテンマイヤーさんの館に宿泊する毎日です。
脳内インターネットで動画鑑賞できないと暇で暇で死に絶えるところでしたよ。
そして今は国境に一番近い最後の街から遠く離れ、国境を守る北バーゼル砦へ向かっているところで御座います。
途中、野盗に身を落としたのか、それともそもそもそういう生態なのか解らないゴブリンさん達の襲撃を受けましたが、<剣>の一級加護を持つアルブレヒトくんがフォンと一振りすると肉塊が散らばるのみで御座いました。
幻想世界との国境と言っても全ての種族と同盟や不可侵条約を結んでいるわけではないので、ゴブリンやオーク、コボルトなどの懐かしのRPG的雑魚キャラさん達はよく人間種世界でも悪さをします。
そしてドラゴンやユニコーンなどの知的生命体さんがやって来られると大変困ります。
ペガサスさんはわりと人気なのですが、ユニコーンさんの処女厨は凄まじく、男性や非処女が近づこうすると突き殺そうとしてくるので大変嫌われております。男性陣にはもちろん私は処女であると言う顔をしたい女性陣にも大変な不人気さんなので、多少暴力的な方法でお帰り願うようになっております。主に弓で射殺す形で天に。
幻想世界の人達にとっては聖獣だそうですが、我々にとっては性獣でしかありません。
そもそもユニコーン種の雌の非処女の待遇はどうなっているのでしょう?
処女馬の雌を雄が股間の角で突いたあと、事後になって頭の角で雌を突き殺すのでしょうか?
なんともまぁ鬼畜極まりない外道生物です。ここはぜひとも絶滅させましょう。
処女が神聖なのであって、お前等が神聖なわけじゃねぇんだよ勘違いすんなツノ馬が!
そんな馬鹿なことを考えながら荷馬車でドナドナっていると、国境を守る北バーゼル砦にようやく到着しました。
よくよく考えてみれば百人規模の大名行列。
これを襲おうと考える魔物や野盗の類など居るわけも無く、本当にお披露目目的の道中だった模様です。
戦果はゴブリンさんが5~6体ほど?
ふふふ、晒し者になった成果がこれですか。
僕は、自分の生きている価値について思い悩むほどに苦しんだのにコレが成果ですか。
なんともはや、人生とはままなりませんな。
「砦の壁にタッチしたので往路は終わり。もう、復路に入って帰りましょうそうしましょう」
「駄目です。ちゃんと砦の司令官に挨拶しないと」
アルブレヒトくん、ノリと扱いが悪いですよ。
そんなわけで気乗りしない砦の慰問をこなす為、門を潜り、我が小隊が砦の中庭に着くと、砦の司令官が守備兵達と共に膝を着いて最敬礼をいたしました。ケルヒャ号に乗ったアルブレヒトくんに向かって。
あ、ドナドナってて荷馬車から降りるの忘れてたわ。
固まったアルブレヒトくんを愛馬ケルヒャ号から引き摺り下ろし、愛馬の背をとり戻します。
「国境の監視、防衛、大儀である。楽にして面をあげよ」
頭を下げる前、ケルヒャに乗っていたのはアルブレヒトくん、頭を上げるとのっぺり顔の11歳児が乗っていた。
司令官の目がポツンとなってて可愛いです。
くくく、アルブレヒトめ、日頃から俺を粗略に扱うからこういう目に会うのだよ。
王族に対する敬意と言うものが足りんなぁ貴様には。ふははははは。
「我が名はカール・グスタフ・フォン・グローセ、グローセ王家第三王子である。皆の忠義の礼、嬉しく思う」
俺は魔法カード、グローセ王家直伝「無かったことにする」を発動。
司令官以下、兵士諸君も空気を読んで再度の敬礼を返してくれた。
「ここは国境線。国防の要であるゆえ、堅苦しい礼儀作法のために軍務を疎かにするわけにもいかぬ。ゆえに、守備兵の皆は各々の役目に戻るが良い。夜には我が連れし<料理>の一級加護を持つ料理人の食事を振舞うゆえ、期待して夜を待つが良い」
現実問題、俺の言葉なんかより美味しいものの方が慰問になるよね。
今日は、アルブレヒトくんの無様を見れた、その一点だけでもこの旅の成果はあったと思おう。
それほどまでに通り抜けてきた街々で受けた歓迎から失望までのアップダウン効果は俺の心を荒ませていたのだ。
農村は良かったなぁ。王子だからって過剰な期待がなくてさぁ。
兄より優れた弟なぞ存在しないんだよ。
みんな、そのことを解ってください。
そんなこんなで旅の終着駅。
人類種と幻想種の国境線、北バーゼル砦の壁の上に立って観光に務めてみます。
なぜこの砦が北バーゼル砦なのかといえば、川の向こうには南バーゼル砦があるからです。
旧世界においてバーゼルはスイス領なのですが、ライン川を国境線とする過程で、北側はうちの王家の敷地扱いになった模様。
ライン川を挟んで南側が幻想種の領域、そして北側が人類種の領域なのだが、人の目で見た感覚ではとりたてて違いがわかるわけでもありません。
川の向こうにあるのは砦と森であり、川のこちらにあるのも砦と森だからです。
人の手が入らないと何処もかしこも森だらけです。
エコロジストの天国ですね。野生の王国とも言いますが。
川向こうには幻想種の人間が作り上げたと思われる砦が存在し、こうして砦同士で睨みを利かせあっている次第。
しかし人間以外と殺伐とすることに事欠かないこの世界では、人間同士の仲良いご近所付き合いが行なわれているようです。
人類種の人間と、幻想種の人間、文字の上でもややこしいことこの上ないのですが、そのうえ目で見比べてみても違いが解りません。
感覚的には他国人の感じがするなぁと言う感じはするのですが、あまり人種的に離れているようにも見えない。
日本人の感覚でいえば金髪で白人なら全て同じ外人に見えてしまうあの感覚。
「幻想種の人間も、こちらの人間とあまり変わらないのだな」
「そうですね、普段から隣り合っている我々でも見た目では区別が付きませんから、間諜には気をつけねばと常々心を配っております」
そう司令官殿ことガイドさんは口にするが、緩みきった空気しか感じられない。
「食べるものなども、似たようなものなのか?」
「そうですね、多少の違いはありますが、向こうの料理は味付けが薄めの傾向があります。塩の流通に困っているそうですよ。時折、塩を分けて欲しいと頼まれます」
うん、もう完全に向こうの砦の連中と仲良く付き合ってるのな君たち。
「例えば、私が川向こうの砦に挨拶に出向いたとして、彼らは歓待してくれるのかな?」
「そうですね、わりと気の良い連中ばかりですから歓迎されると思いますよ。こちらの砦ではエールが主体ですが、向こうはワインが盛んなので、酒に合わせた料理の違いも楽しめるかと思います」
いっさい隠す気すら無いのですね。
実際、争いあってはいない人間同士、民間(?)の付き合いが良好であることは悪いことじゃない。
敵に回すなら人間よりも人間様以外で十分な世界なのです。
とはいえ、いきなり隣国の王子がお忍びで国境を跨ぐのもまずいだろうからここは一つ我慢しよう。
だって11歳児はお酒を飲めないし。
そして見るだけならgoodfull先生のマップサービスがありますからこれで我慢といきましょう。
というわけで、マップ機能をON。
ふむふむ、ライン川が国境線になっていて、ライン川沿いに転々と砦が第一次防衛線として用意されているのか。
そして、その後方に城塞都市を置くことで、緊急時には後方支援の形を取っていると。
やるではないか我が軍は。
そして、川の向こう側は……なんだか真っ赤だな。
地図上、南に10kmほど離れたあたりに真っ赤な点が一杯です。
先生、これはなんじゃらほい?
『赤い点はカール様にとって有害と思われる敵性対象をマーキングしております』
ふむふむ、つまり、川の向こうに大量の敵が存在していると。
『はい、そうなります。現在時速300mで北上中、明日の昼にはこの地に到着するでしょう』
「ははは、明日の昼ですか。ではまだ24時間あるわけですね?」
『正確には残り21時間40分になります。また、敵性対象の行軍速度の変動によりこの時間も変化するでしょう』
「なるほどなるほど。それで、その数はいかほどに?」
『敵性対象は現在、二万一千四百二十五体確認されております』
なるほどねぇ、川の向こうの南方10km先には二万の敵が居て、それがゆっくり北上中だってさ。
そして砦の皆は誰一人としてそれに気が付いてないんだってさ。
あははははは。先生!! goodfull警戒サービスはどうなってるんですか!?
『警戒サービスは6時間以内に訪れると予想される危険物に対して警告を発するサービスです。今回の場合はいまだ猶予時間が残されているために音声による警告は為されませんでした』
はっはっは、ヘルプをちゃんと読まない世代はこういうときに困るんだな。
あぁ、軍靴の音が聞こえる。
……どうしよう?
とりあえず、マップ機能の3D投影で敵性対象とやらを映し出す。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
人間大の黒光りするカマキリさん達が黒い絨毯を作ってらっしゃるじゃないですか!
森の中では軍隊黒カマキリVS耳長エルフさんの戦争風景が映し出されておりました。
goo先生の戦力分析の結果は10:0で黒カマキリさんの優勢。
黒カマキリさんの鎌の性能はハイス鋼と同等の硬度を誇り、体を覆う外殻もそれに準じるものだそうです。
柔らかな部分は眼球と間接部くらいで飛翔する機能は持たないものの、腹部にも外殻を持ち弱点らしき弱点はないそうです。
対する耳長エルフさんの攻撃手段は弓と風の魔法。
ただの鉄の矢尻はハイス鋼よろしく御堅い鋼鉄の外殻に阻まれ、真空の刃はそよ風のように表面をなぞっております。
黒カマキリさんを傷つけるには硬度も速度も重量も、なにもかも足りてらっしゃらないようです。あぁ、メタルス○イム。
幸い、森の耳長エルフさん達は樹上から一方的に遠距離攻撃を加えているため今のところ被害は出ていない模様。
それに対する黒カマキリさんの戦術は根元からの森林伐採。
戦後、百年ほど木材に困ることは無さそうです。
木が倒れるごとにエルフさんは後方の木に飛び移っているけれど、戦闘域の外側では黒カマキリさんが逃走経路となる木材を着々と伐採しております。
黒カマキリさん、への字をした鶴翼の陣を敷きながら木を切り倒して北上中。
中心部の伐採速度は遅く、外側の伐採速度は速いので、両翼包囲が完成し、への字が○になったときエルフさん達の命運は尽きるのでしょう。
すっぱい葡萄に手が届かないなら木を切り倒せば良いじゃない。
イソップ童話を根底から覆す、なんて合理的解法。
蟲なんて大したこと無いだろうと思っておりましたが、ちゃんとした戦術眼をお持ちなのですね。
樹上を飛び回れない生き物は伐採ついでに黒カマキリさんにパックンチョされてご臨終。
時速300mの北上速度というのも木を切り倒すと言う一手間のためであって、木を切らないならどれほど早くなるものやら?
『伐採を行わない場合の移動速度は時速30kmに相当すると思われます。カール様が乗り物として使用なされているケルピーの移動速度は時速60kmを超えますので、十分に安全を保った避難行動が可能でしょう。ケルピーが使用出来ない場合においても空中輸送用の乗り物を購入することで安全かつ確実な避難が行えます』
あぁ、それはとても合理的判断ですね。
相変わらず俺以外の人間達をホモ・サピエンスとして認めてらっしゃらない先生の判断は無機質で御座いますなぁ。
とりあえず、危険が迫ってることを司令官殿にお伝えしようか。
平和ボケしているとはいえ監視に役立つ<加護>の持ち主は配置されて居るわけで、<目>の五級加護を持つ監視兵に南方10km地点の森を観測させてみたところ、なにかとなにかが争っていることだけは確認できたようです。
うん、俺でもなにかがワサワサ動いてるのは見えるよ。
木の蔭になって何が動いてるか解んないけど。
そして、その脅威が北上中ということを含めて急遽作戦会議が開かれることに。
元・作戦会議室こと大食堂に司令官以下、城内の兵士が揃って頭を抱えております。
砦の人員が総勢五十名、小隊の面々が総勢百名。
閑職極まりない砦の面々、敵の戦力も実態もなにも掴まないままに作戦を考えようとしております。
うん、何かが間違っている。
あぁ、敵を知り己を知ればの孫子の一文を知ってるだけでも俺は時代を一歩先行く存在だったのですね。
情報がない=作戦のたてようがない、そんなことにも気が付かない面々。
まずここは斥候でしょう? でも国境線を越えちゃうから、そこのところが不味いよね。
というわけで、まずは川向こう、幻想世界の南バーゼル砦の司令官どのに越境のお伺いと注意勧告を行うことにしましょう。
するとどういうわけか、ライン川を越えて南の司令官どのもこちらの砦においでになって頭を抱えております。
北バーゼル砦の司令官と南バーゼル砦の司令官が仲良く頭を抱えております。
あぁ無能。
さて、そんなことより自主的に遅滞戦術を行ってくれているエルフさんたちの保護を考えなければいけないのだけど、私、外国の王子なのよね。人情的には助けたいけれど、そのために自国の兵を使うわけにはなんとやら。
黒カマキリのへの字が完全な○の字になるまであと五時間ほど、その後、お食事タイムのムシャムシャが数時間あるとして、それで北上が止まれば御の字なのだけど、群蟲種というのは止まることを知らないマグロのような男らしい生き様をしていらっしゃるとのことなので、このまま北上してくることはまず間違いないでしょう。
「まずは斥候を送り敵性戦力の把握、それに並行する形で近くの城塞都市に援軍を頼むのはどうでしょう?」
それだ! という顔をするんじゃない両司令官が! すでに斥候も援軍要請も済んでるものだと思ってたよ。
城塞都市までケルヒャ号を最速で飛ばしても五時間、通常の軍隊が急いで寝ずの行軍をしたとしても砦にたどり着くには二日間、さらには援軍のための軍団の編成から始まるのだから間に合うわけないですね。とほほ。
「ちなみに、現在南方の森で戦闘中にある存在について予測の付く方はいらっしゃいますか?」
答えを知りつつ演技するのも心苦しいなぁ。
「一方は、南方の森を住処とするエルフ族であると思われますが、それに敵対している側の種については思い当たりませぬ。ゴブリンやオークの類とは別種の敵性存在のようだとは思うのですが」
南の司令官どのはエルフについては解っていても、その敵の正体には気が付いてない模様。
ドラゴンとか、オーガとか、そういうの想像してるのかしら?
ここで敵は群蟲種な鋼鉄の黒カマキリさん二万体だよと教えてあげたなら、きっと絶望的な顔を浮かべてくれるに違いない。
「エルフの総数、戦闘能力はいかほどで?」
「女子供を含めれば凡そ五千といったところでしょう。エルフは男女問わず弓と魔法の使い手ですから、早々に敗北することは在りえないと思うのですが、物見の報告では一行に戦闘の気配は止むことが無いようです」
黒カマキリさんがちょっと硬すぎて手も足も出ない、相性の問題ですな。
拳銃で戦車に対抗するには火力が足りないという残酷なお話。
いっそのこと森に火でも放とうかしら、エルフさんの火葬も出来て一挙両得なのではないでしょうか?
『この時期の成木に火をつけても森林火災として広がる可能性はかなり低いと予想されます』
ですよね。
先生のサービスで黒カマキリさんの駆除を出来たりします?
『はい、goo害獣駆除サービスによる衛星軌道からのレーザー照射により、およそ四十秒で駆除を完了させることが可能です』
……さいですか、実に素晴らしいサービスですね。
『お褒めに預かり光栄です』
それは最終手段として、それを上手に利用出来るよう知恵を絞ろうじゃないか。
上手に、知恵を絞ろう、おもに俺のために。
「カール王子。王子は砦に残り戦闘に参加するおつもりのようですが、それは認められません。どうか我々と共に撤退してください」
アルブレヒトくんの常識的判断に南北司令官が絶望の表情を浮かべる。
うん、アルブレヒトくん、それは間違いではないと思うのだけど、ここで見捨てるのも人としてどうかと思うじゃない?
「アルブレヒト。私が父王君から受けた勅命は何であるかを述べよ」
「それは……街道上の治安維持のための魔物の討伐で御座います」
そう本音は晒し者、建前は街道上の魔物退治。
つまり、その終点たるこの砦もその任務の対象なのだ。
「であれば、ここで退くことはその勅命に逆らうことになる。それは当然の帰結であろう? この砦を抜かれたなら街道上の治安は崩壊してしまうのだからな」
「しかし! 殿下!!」
「みなまで言うな! 戦闘に向かぬ者は城塞都市フライブルグまでさげると共に、周辺の砦からの援軍要請の人員として利用する。これは私の受けた勅命を最大に解釈した上での王命として皆に命じる。南バーゼル砦を第一陣の陽動として使用した後、ライン川を防壁として北バーゼル砦を本命の防衛線として利用。遅滞戦術を行い各地からの増援を待つ形をとる。南バーゼル砦の指揮官殿、此度は種を超えた危難であるため、全面のご協力、領土内への進入の許可を願えるかな?」
カール王子11歳児の雄弁な語りに頷きを返す南の司令官殿。
アルブレヒトくんも俺の変貌に驚きを隠せず、いや、敬意を込めた目で見つめ返してくる。
そう、俺は幼くとも王子なのだ!! 加護が<おっぱい>でも王子なのだ!!
ふふふ、へへへ、ははははは、これでおっぱい王子の汚名を返上してくれるわ!!
黒カマキリよ、お前等のはらわたを抉り裂きハリガネムシを引きずり出してくれるわ!!
goodfull先生がなっ!!