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第四話 おっぱい

 我、思うゆえに我あり。

 妹、居るゆえに兄あり。

 Q:なぜ俺は今、湖畔の館で晴釣雨読の生活を送っているのでしょうか?

 A:王族の三男が<加護>を得られなかったという醜聞を周囲から隠蔽するためです。

 Q:では、現状の軟禁状態を打破するにはどうすればよいのでしょう?

 A:プランA:<加護>を得る。ただし、これは不可能。

   プランB:<加護>を得たと周囲に思い込ませる。

 Q:周囲に思い込ませる方法については?

 A:助けてgoodfullえもん!!


 はい、そんなわけで作戦会議です。

 司会は私、ブレインにはgoodfull先生をお招きしました。

 去年の10歳の誕生日、<加護>のお披露目の席での大失態について考えよう。

 水晶に触れた、光らなかった、文字が出なかった。

 ゆえに<加護>無しとばれた。以上。

「先生、これに対する対処法はありますか?」

『水晶に触れた際、光を放ち、中空に文字を光で演出すれば<加護>を持っていると周囲に誤認させることが可能でしょう』

「では、光を放ち、中空に文字を描くサービスはありますか?」

『goodfullイルミネーションサービスの利用を推奨します。誕生日やお祭り、恋人達のムードを高めるための光の演出を見せるサービスですが、商品のプレゼンテーション等にも使える汎用サービスです』

「つまり、私が鑑定の水晶球に手を触れ、そして先生がイルミネーションサービスを演出すれば、万事解決ということですね!?」

『計算上はそうなります。ただし詐欺に該当する行為であることを注意勧告します。法に抵触する場合、私はそのサービスの利用を認めることは出来ません』

 ぬぐぐっ、アダルトコンテンツの壁に続き、法の壁が……。

 法の網を、網をくぐらねば。

 永田町、永田町の叡智を使うのだ。

「例えば、去年の俺の誕生日、あの時にイルミネーションサービスを利用していたとしたらやっぱり詐欺になりましたか?」

『いいえ、該当する状況下では詐欺にはあたりません』

 なぜ? why?

 思いっきり詐欺だとおもうのですが?

『現状、人間を名乗っている知的生命体を私は人間として認識していません。<加護>を持つとされる人類種の知的生命体は世界融合後にその影響を受け突然変異を起こした新しい種だと認識しています。カール様にわかりやすく説明するならば、これはホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスの違いに相当するものです』

 うん、もっと解りやすくお願いします。

『カール様はホモ・サピエンスです。そして、現行の人類を名乗る種はホモ・サピエンスの次世代の種族です。そして私はホモ・サピエンスのみを人間として認識します。よって現行の人間を名乗る存在に対しては人権を認めず、イルミネーションサービスを用いたとしても詐欺には該当しないものと私は認識します。これは窃盗・強姦・殺人等を含めての認識となります』

 えーと、つまり、俺が原始人だから人間扱いされてるの?

『はい、そうです』

 新事実、わたくし、この未来世界における原始人でございました。

 ウッホウッホ。 何故に? どうして? こんなことに?

『遺伝子上の配偶による近似。そして、魂魄情報体による遺伝子配列の上書きが原因とされるものだと思います』

 魂魄情報体? 前世の記憶のことですか?

『はい、カール様の魂魄情報体は次元境界線の崩壊に伴う時空振動に巻き込まれ、通常のプロセスを経ることなく転生。魂魄情報体が自己情報の再現に務めたため遺伝子に変化を起こしホモ・サピエンスとして誕生されました。そのため私はカール様を人間と認識し、サービスの提供を行うことが出来るようになったのです』

 のっぺりとした醤油顔の原因が今ここに。

 そう言われてみれば、前世の自分と今の自分って似てるわ。

 血筋的にはゲルマンなはずなのに。

 だがしかし、これで法の網は潜り抜けた。いや、そもそも法の網などなかったのだ!

 アダルトコンテンツの規制を除いて……。

 あるぇ? 窃盗・強姦・殺人等を含めて大丈夫なのに、なにゆえシャルロットの痴態を覗くのは規制されたの? 先生の意地悪ですか?

『絵や文字、CGなどを主体とした表現も規制の対象となるように、人に類似したものの生殖行動も子供の情操教育上に多大な影響があるものとしてアダルトコンテンツと見做されます。これは旧時代において締結された国際条約に基づいた判断です』

 ……さいですか。R18の壁は鉄壁なのですね。おのれ、夢を忘れた旧い原始人どもめ。いや、夢見がちであったために規制されたのか。画面向こうの二次元少女に向かって俺の嫁とか言ってましたっけ。ははは……。

 それはそれとして……これで全ての準備は整った!!あとは王宮に凱旋するのみだ!!



 そして時は過ぎシャルロット11歳の誕生日、お披露目と社交界デビューのやり直しが行われる用意が整っていた。

「ルイーゼ姉さま、私、お披露目なんてやりたくない。去年一度したのだからもういいでしょ?」

 母の顔を知らないシャルロットにとって、ルイーゼは母代わりの存在であった。

 今は遠くに離れた兄を思い、その悲しみが胸をジクジクと痛ませる。

 だから、だだを捏ねてみる。もちろん、それがとおらない道理であることも自覚しながら。

 ルイーゼはただ優しく、シャルロットの頭を撫でるだけだ。

 シャルロットが満足するまでその我侭を聞き流すことだけしか出来ない。

 <加護>のお披露目、それは愛する兄を奈落に突き落とした忌まわしい式典なのだった。

「シャルロット……気持ちは理解できるわ。そして、王族としての義務を理解している貴女のことも」

 王族の義務から逃げ出さない、シャルロットはそういう娘だ。

 それはルイーゼもそうであり、二人の兄も、そしてカールも王族として進んで軟禁を受け入れたのだ。

「ルイーゼ姉さまの意地悪……」

「ごめんなさいね。貴女に意地悪していいのはカールだけなのに」

 言われてボッと顔を赤く染めるシャルロット。

「うーーーーっ、本当に意地悪っ!」

 クスクスと笑うルイーゼ。

 ちょうど一年前、このカーテンの裏側にはシャルロットとカールが手を繋いで並んでいた。

 今年は11歳を迎えたシャルロットとその背中を押すためにルイーゼが並んでいる。

 もしも今日、鑑定の水晶球が光らなければ、私もカールにーちゃんと一緒に過ごせるのかな?

 ありえもしない未来を思い描き、そして悲しみに顔を曇らせる。

 カーテンの幕は上がり、そして永代貴族とその子弟が左右に並ぶなかを、シャルロットとルイーゼが赤絨毯を踏みしめていく。

 去年はあれだけ遠くに感じた鑑定の水晶球が、今年はあまりにも近くに感じる。

 あっさりと、あまりにもあっさりと鑑定の水晶球にたどり着いてしまった。

「シャルロット、去年は流行り病で成人の儀を行い損なったが、今年は健全に、この儀を行えることを余は嬉しく思う」

 茶番だ。列席者全てが知る茶番であるが、それに付き合うのは王族と貴族の義務でもある。

 昨年の顛末を思い出したのか、父王君の顔も暗い。カール第三王子のことを嫌でも思い出してしまうのだろう。

 両脇を固める二人の兄の顔も暗い。

「では、始めよう。水晶球に手を触れよ」

 シャルロットは手を伸ばす。

 どうか、光りませんようにと祈りながら。

 鑑定の水晶球はその無機質なありようのまま正しく無慈悲に光り、そして中空に文字を描いた。

「自然:特級」「天地:特級」「愛:特級」

 三つの特級加護。天に愛された者の姿。

 貴族たちはその手を打ち鳴らす。大音量の拍手は過去の出来事を洗い流すように響き渡る。

 中空に浮かぶ文字をシャルロットは悲しげな瞳で見上げるのだった。



「ちょっとまったぁぁぁぁっ!!」

 妹の憂いを拭い去るのは兄の務め。

 そのためには手段は選ばぬ、いや、全ての手段が許されるのだ。

 法よりも、天よりも、妹が尊いものであることは自明ではないか!!

 赤絨毯を踏みしめる影、その名は俺っ!!

「ソロモンよ! 私は帰ってきたぁぁぁっ!!」

 参列者にどよめきが走る。

 九割はなぜ無能力者の第三王子がここに現れたのか。一割は「ソロモンって何?」という疑問に首を傾げる。

「カ、カール? なにゆえ今、ここに?」

 ふふふ、さすがの父王君、ヴィルヘルム父様も困惑を隠しきれない模様。

「決まっているでは無いですか。昨年は流行り病で成人の儀が行えなかったのですから、今年こそ執り行うためですよ!!」

 そう、この悪巧みはギリギリのタイムスケジュールであった。

 厩舎の調教師に洗脳されつくしたケルピーを駆り、一路王宮へ。

 街道を、道なき道を、そして川の上を踏破して今ここに参上仕ったので御座います。

「い、いやしかし、カールの<加護>は……」

 そう、鑑定の水晶球に触れたところで水晶球は光らない。

 それは俺がホモ・サピエンス。原始人だから。

 だがしかし、俺は新たなる守護神の<加護>を受けこの場に戻ってきたのだ。

「カールにーちゃん!」

 シャルロットが駆け寄り、俺の胸元に頭突きをかまし、そしてヒグマよろしくベアハッグを極める。

 い、妹の愛が重い……いや、痛い、死ぬる……助けて……。

「シャルロット、そのままではカールが死んでしまいますわよ?」

 助け舟を出してくれたのはルイーゼ巨乳姉さま。

 この一年、さらに健やかにお育ちになったご様子。

 素晴らしきことです。

 シャルロットは力を抜いて、心地よい程度の抱擁に切り替えてくれた。

「カールにーちゃん、どうしてここに?」

「にーちゃんではなくお兄様だ。なに、この一年の努力の成果を見せに来たまでさ」

 サッと髪を掻きあげる。何の声も挙がらない。

 ジーク兄さまがこれをやると女性陣がキャーキャー煩いんだけどな、顔面格差はつらいよ。

「さぁ、にぃちゃんの晴れの舞台だ。シャルもちゃんと見ていてくれよ!!」

 シャルロットの体を優しく離し、自信満々に赤絨毯を蹂躙し、鑑定の水晶球を睥睨する。

 思えば貴様には屈辱を味合わされたものだ、だがしかし、今年は俺の勝ちだ!

 ふはははは、見よ! これが俺の力だ!!

 他・力・本・願!! いでよ! デウスエクスマキーナ!! GoodFull先生!!!

『イルミネーションサービスを開始します』

 水晶球に右手をペタリとな。

 水晶球から淡い光が立ち昇り始める。

 去年の失態を知る参列者、そして我が家族達からも驚きの声があがる。

 水晶球から立ち昇る淡い光は途切れることなく、イルミネーションサービスが皆を驚かせる。

 そしてしばらくして、いまだ途切れない光に周囲が首を傾げだす。

 え? どういうことですか? 先生?

『カール様。描く文字が決められていませんので、中空に文字を描くことが出来ません』

 あ、そうでした。加護の種類を決めてませんでした。

 いやこれは不味い。

 まず光が立ち昇ると言う在りえない現象に、その光が文字を描かないと言う二重に在りえない現象が、周囲に不可解な表情を浮かべさせております。

 なにか、なにかないか?

 左を見る。永代貴族の参列者が居る。

 右を見る。永代貴族の参列者が居る。

 前を見る。父と二人の兄が居る。

 傍を見る。ルイーゼ巨乳姉さまが居る。

 あぁ、ここ一年で一段とお育ちになって。

 そいつはもう十六歳のおっぱいではないですよ。

 おっぱいの<加護>かぁ。それも悪くないんじゃない?

 はっ、いかん、先生!? 先生!?

「おっぱい:特級」

 オーマイガッ! 中空には素敵な<加護>が表示されておりました。

 ざわつきが、ざわつきがさらに大きくなっております。

 <おっぱい>の特級加護……意味不明すぎるよ!

 すると唐突に父王君が手を打ち鳴らしました。

 続いてレオ兄さまとジーク兄さまも拍手を重ねます。

 参列する列席者も割れんばかりの拍手を重ねていきます。

 とりあえず、拍手の大波で流しきってしまう方向になった模様。

 室内に大音量の拍手が重ねられ、俺の<加護>は祝福された。

「おっぱいは無いんじゃない?」

 ルイーゼ巨乳姉さま、八割はあなたのせいなのですよ?

 いえ、完全に八つ当たりですけどね。



 さぁ去年は開かれなかった晩餐会。

 一年遅れの社交界デビュー。

 今年一年やったことと言えば釣りと読書……終わり。

 まずいなぁ、ダンスとか体が覚えているだろうか?

 それ以前に晩餐会に来ていく服が無い。

 し○むらやユ○クロに売ってるわけじゃなし、基本、王族の服はオーダーメイドだ。

 10歳から11歳の成長と言うものは著しく、結果、去年の服は入りませんでした。

 先生の通販で購入しても良いのだけど、それだと何処からとりだしたのよという話になる。

 急ぎ<服>の一級加護を持つ職人を引っ張ってくる始末。

 スマンかった。悪巧みにノリノリで事後のことを何にも考えてなかった。

「カールに~ちゃん♪」

 晩餐会用のドレスに着替え終えたシャルロットが腕に絡みつくように甘えてくる。

 それはもうデレデレの顔で、見ていられないほどに緩みきっていて可愛い。もちろん俺もまたデレデレの顔なのだが。

「なんだい? シャルロット」

「よ~んでみただけ~♪」

 あぁ、もう可愛いなぁ。

 こんな可愛い妹と一年近く離れていた自分が信じられない。

「カールに~ちゃん♪」

「なんだい? シャルロット」

「よ~んでみただけ~♪」

 あぁ、もう可愛いなぁ。

 こんな可愛い妹と一年近く離れていた自分が信じられない。

「カールに~ちゃん♪」

「なんだい? シャルロット」

「よ~んでみただけ~♪」

 あぁ、もう可愛いなぁ。

 こんな可愛い妹と一年近く離れていた自分が信じられない。

 壊れたレコードのように延々くり返される惚気に他の家族が若干以上に引いております。

「シャルロット、嬉しいのは解るがいい加減にしなさい。今から急ぎ晩餐会用の服を仕立てるのだからカールを離しなさい」

 父王君がシャルロットをそう諭しました。

 するとシャルロットは瞳を潤ませて上目遣いで父王君を見つめ返します。

 やがて瞳の潤みが涙として零れそうになると、父王君が折れました。ぽっきりと。

「も、もう少し、だけだからな」

 父王君、威厳もなにも無いです。

 いやこれ<愛>の加護の力なのではないでしょうか?

「シャルロットもカールと一緒に社交界デビューをしたいでしょう? その時、カールには格好よくしてて欲しいわよね? だから、そろそろ離してあげなさい?」

「はーい。じゃあ待ってる。カールにーちゃん、格好よくなってきてね♪」

 ルイーゼ巨乳姉さま流石です。流石の巨乳です。

 シャルロットから解放された俺は急ぎ服を仕立てる。

 仕立てるのは職人さんなのだけど、仕立てが終るまでマネキンの如く微動だにしない努力。

 <加護>の力と言うものは凄いもので、ものの五分で完成しました。

 旧世界の仕立て屋が見たらハサミを投げ出しちゃうだろうなぁ。

 さて、そんなわけで一年遅れの社交界デビュー、はじまりはじまり。


「いやね、解っていたんですけどね」

 金獅子と月影のお兄様たちの変わらない吸引力。

 女性と言う女性、未婚、既婚、幼女に孫を持つご夫人まで、一切合財が群がっております。

 ルイーゼ巨乳姉さまのおっぱい力も一年の間に磨き抜かれたようで、下心満載の貴族の子弟に囲まれております。

 おのれら、相手が王族だってこと忘れてないだろうな?

 視線が唇より下にいった連中の顔はきっちりと記録しておくからな。goodfull先生がっ!

 そしてシャルロットはもちろん俺の隣に、しっかりと腕を絡めながら。

 なにか思いつめた表情の淑女がおにぃちゃんに近寄ってくるたびに、シャルロットの黒い闘気が払いのけてしまいます。

 うん、おにぃちゃん、シャルロットが居れば他に誰もいらないんだけど、やっぱり他の女の子にもチヤホヤされてみたかった気持ちもあるんだよね。

 でもねシャル、彼女達をよ~く見ればわかるけど、胸元がちょっと残念という共通点を持つ女性たちだってことに気付こうか。

 俺自身に対して色っぽい感情があるわけではないんだよ。あははははは、はぁ……。

 ちなみにシャルロットに近付こうという勇気ある貴族の子弟は居なかった。

 桃色空気が漂う二人の間に割り込めるほど空気を読めない馬鹿は居なかったようだ。

 あ、父上が一人でポツンと立ってる。

 何故だろう、この王家で一番影が薄いのは。王なのに。

 さて、この晩餐会、主役はいったい誰なのでしょう?


 グローセ王家は今日も今日とて和気藹々な混沌模様で御座いました。

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― 新着の感想 ―
叡智とかかなと思ったら決めてなかったんかい。
[一言] 主人公以外 先生のサービス外の生物なら 妹も範囲外 猿の交尾は規制の対象外だから 妹への盗撮で性的判断出ないんじゃないの?
[気になる点] この先の展開を見ていないのですが、あらすじから言えることとして、加護としては、”知識:特級”あたりも加えとくのが定番では?
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