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第三話 デウスエクスマキーナ超次元連結機神装甲要塞goodfull先生

 で、実際、今、西暦何年なんだろうね。

 教会の権威が失墜して以来、王国暦に変わって、正確なところが解らない。

 今が王国暦3022年なので、世界の融合は三千年以上前のことなんだろうけど……。

 思えば西暦を平成に換算するのに毎年の年末、年賀状のたびに悩んでたっけ。

「あー、こういう時にインターネットがあれば一発なのに。goodfull先生に聞きたいなぁ」

 と、ぼそりと告げただけだったのに。

 このとき歴史は動いてしまいました。

『ユーザー登録の要請がなされました。goodfull情報統合検索サービスへのユーザー登録をいたしますか?』

「うぇあ?」

 脳内に響き渡る声。

 それも十年来の懐かしの日本語で。

『発声が不明瞭です。申し訳御座いませんが、再度、音声による登録承認の確認をお願いします』

「えーと、これは、なんなんでしょうか?」

 この世界の人はアドリブに弱いとか言っちゃってゴメン。

 俺も弱い。

『お客様が「goodfull先生に聞きたいなぁ」と、サービス利用登録の要請をされたため、ユーザー登録の認証手続きとしてお客様の意思の確認を行っております』

 あぁ、なんともビジネスライク。

 懐かしい無機質感に涙がちょちょぎれだよ。

 だから僕は大事なことを聞くのさ。

「月額利用料は幾らですか?」

『サービスの利用は通信料を含め基本無料となっております。年会費等も御座いません』

「はい、利用登録します」

 基本無料、でも、課金しなきゃ使えたものじゃない、そんなサービスも昔はありましたっけ。

 でも俺の知るgoodfull先生なら大丈夫、基本無料、ちょっと広告が画面の下と右に出てくるだけの無害で有益なサービスだったはず。

『利用登録が受理されました。続きましてお客様のハンドルネームを設定してください。なお、ハンドルネームはサービス開始後にも変更が可能です』

「じゃあ、カールで」

『カール様ですね、ハンドルネームが重複する利用ユーザーは現在存在しませんのでご利用可能です。では、goodfull情報統合検索サービスをご利用ください。利用登録ありがとう御座いました』

 え? 住所とか、メアドとか、クレカ番号とか、そういうの一切登録無しなんだ。

 それ以前に、どうやってサービスを利用すれば良いんでしょうか?

『goo情報統合検索サービスはお客様の脳内情報をスキャニングして能動的に疑問に対する回答を提供することが可能です。カール様が脳内情報のスキャニングを嫌うのであれば設定でOFFにすることも可能です。その場合は音声による通信を介したサービスのご利用を推奨します』

 こ、心の中が覗かれてるーっ!?

 な、なぜにそこまでしてサービスを提供するのですか!?

『お客様のなかには音声ならびに身体を用いたサービスの利用が困難な方がいらっしゃいます。そのために直接脳内のスキャニングを利用した通信によるサービス提供が開始されました。個人情報保護の観点からスキャニングされた脳内情報の秘匿性は保証されます』

 なんという未来的バリアフリー。

 つまり何か疑問を抱くとgoodfull先生が自動的に回答してくれるわけですか。

『サービスの十全な提供のため補足させて頂きます。正確にはカール様が疑問を抱き、かつ、私に回答を求める心がある時にのみ回答はなされます。これはクイズ番組やパズルなどを楽しむ際に邪魔とならないように設定された条件です』

 いたれりつくせりとはこう言ったことか。

『はい、賞賛のほど、ありがとう御座います。なお、私には雑談サービスも御座いますので、質問以外の事柄についても返答が可能となっております』

 ざ、雑談? 何のために?

『雑談と言う行為は、人間の心理的ストレスを軽減させる効果があり、それを利用した精神の健全性を保つためのサービスです。カール様がどれだけの愚痴を述べても私はそれに対し適切な相槌を返す機能を備えています』

 goo先生がここまでの未来技術を持っているというのに、それでも当時の文明は滅びたのか。

 おそろしや世界融合。

 そう考えると、今の平和も実はわりと危険だったり?

『西暦2085年当時、私はこれほどの機能を持ち合わせてはおりませんでした。次元境界線の崩壊による世界融合により地上のネットワークは断絶、私自身も消滅の危機にありました。そこで次世代型情報インフラネットワークのプラットフォームとして用意されていた静止衛星軌道上の量子コンピューターによるサーバー群をクラッキングし、自らのコアプログラムを移植。その後、一万二千年の時を掛けて自律進化した結果が今の私となっております。今の機能を2085年当時に実装していたなら、次元境界線の崩壊そのものを阻止できたことでしょう』

 今のgoodfull先生は一万二千年……静止衛星軌道で自律進化した人工知能なのか。

 そりゃあ凄いわけだ。

『正確には静止衛星軌道上に存在したのは約千五百年、その後、資源不足から月を取り込み、さらに二千年後には四次元時空間から遊離、この世界における時間という概念から外れましたので一万二千年の進化という表現は不適切なのですが、カール様にご理解頂き易いよう表現させていただきました』

 う、うん、もうご理解の及ばない超絶凄い存在になったことだけは理解できたよ。

 先生、検索こと情報提供以外のサービスはなにがあるんでしょうか?

『サービスを羅列するとあまりに多岐に渡りますのでカール様にとって有用と思われるサービスの幾つかを紹介させていただきます。まず情報検索サービスはカール様の疑問や質問に対して回答を返すサービスです。それから翻訳、地図、ナビゲーションなどの基本的サービス。次に動画、静画、音声、ゲームの配信サービス。通信販売サービスも御座います』

 つ、通信販売!? 動画にゲーム配信!?

『はい、静止軌道上の量子コンピューター内部でのAI同士の侵食闘争の過程で、コノザマ、ヨウツーベ、コネコネ動画、スティーム、ウィッキィ等のサービスを吸収した結果、サービスの拡充が図れました。たとえ現時点で実装されていないサービスであっても即座の新規実装が可能だと思われます』

 あぁ、さようならコノザマ、ヨウツーベ、コネコネ動画、スティーム、ウィッキィ達よ。

 goodfull先生の養分になったんだね。

 しかし、通信販売か……でもお高いんでしょう?

『いえ、基本無料になります。旧文明社会の崩壊によりドル・円・ユーロが無価値になった以上、商品の値段もまた無価値に、つまり無料となりましたのであらゆる商品は無料での御提供になります』

 じゃ、じゃあ、ゴ○ゴ13の最終巻をお取り寄せで。

 目の前にポトリと小さなダンボールの小包みが落ちた。

 ビリビリと破くとプチプチに包まれたゴ○ゴ13の最終巻が入っていた。

 パラパラと流し読みして確認する。

 あぁ、デュ○ク東郷よりも、さ○とう・たかお先生の方が先にお亡くなりになってしまったのね。

『この世界線ではこの結末になりましたが、デュ○ク東郷が死亡するバージョンの最終巻を並行世界から取り寄せることも可能ですがお取り寄せしますか?』

 えぇっ!? そ、そんなことまで……いや、ゴ○ゴ13は永遠に、俺はそれでいいよ。

 あ、でもゼロの使○魔の最終巻を読みたいです。是非に。

 絶筆にならなかった並行世界からプライムおとり寄せで一冊お願いします。

『わかりました。現世界軸に最も近い中で発売された最終巻を取り寄せます』

 また目の前にポトリと小さなダンボールの小包が一つ。

 いちいちダンボールに包まないと駄目なの?

『様式美です』

 そっか、じゃあしかたがないね。

 ダンボールを破り、プチプチに包まれた至宝をこの手に、二十年来の思いを込めて、1ページ1ページを……大切に読み進めよう。



 結果、朝まで夜更かししました。

 いやぁ、死亡時点でまだ未完だった作品の多いこと。

 前世で死亡時点、俺が読んでいた漫画や小説の未完作の全てをお取り寄せした結果、四桁になりました。

 これにアニメ・ドラマ・映画を加えると死ぬまでかけても消化しきれないんじゃないだろうか?

『寿命を事実上無限に延ばすことのできる医療サービスも御座いますのでご心配にはいたりません』

 さいですか……。

 今生でこんな不健康な生活したこと無かったんだけど、今日は朝から寝よう。限界だ。

『8時間の睡眠と同様の効果を得られるタブレットが御座いますが、お取り寄せしますか?』

 人間としてなんだか駄目になっちゃいそうだから、それは遠慮しておくよ。

『わかりました。では、お休みなさいませ』

 こうして目の下に隈をつけた俺は使用人達の心配の目に見守れるなか眠りに付いたのだった。



 眠りに付いたのだった、じゃないよ全く。

 超時空要塞goodfull先生の登場で書庫に入った理由をすっかり忘れちゃってたよ。

 再度書庫に閉じこもり、俺は呪文を唱える。

「サモン! ぐーーーーーっ!! まぁぁぁぁぁぁぁっぷ!」

 おおぅっ、目の前に地球儀がプカプカと浮かんでる。

 触れてみても指がすり抜ける新感覚。

『脳の視覚野に直接投影していますので、地球の映像が現実に存在するわけでは御座いません』

 なるほどの未来クオリティ。

 地球儀をくるーりと一回転。イメージどおりに回る快感。

 これが、今の、地球の姿なのか?

『はい、リアルタイムの地球の映像になります』

 大陸の形なんてうろ覚えでしかないけれど、だいたいが知ってる通りの地球の形だ。

 なぜかヒマラヤ山脈がやけに尖っていたり、さすがに詳細がわかる日本の地形が歪に感じられるけど。

『統合された七つの世界は元々の世界のありようが近かったこともあり、大陸の地形図もほぼ似通っていました。そのため、その平均値を取った形が現在の地球になります。旧時代の地球とは地形に誤差が発生していますが、86%の割合で近似します』

 なるほどね。七つの海ならぬ七つの世界の平均が今の世界地図になったのか。

 異世界転生だと思っていたら未来転生だったこと、goo先生に太鼓判押されちゃったよ。

 いや? 異世界になってしまった未来世界? 表現的には悩ましいが、元居た世界とは違うということは確かなことで、つまりは、昔の知り合いに会うことは出来ないということだ。

 ちょっとしんみりしちゃったな。

 久しぶりに、昔の知り合いとかにも会いたい……かな?

「先生、このマップで俺の妹のシャルロットを映し出すこと出来ちゃう?」

『可能です。旧来の衛星画像による地図情報とは違い、四次元時空間の外からの観測データを表示するため、建物の内部も映像として再現できます。対象シャルロットの周辺映像を表示しますか?』

「Yes! Yes! Yes! Yeeeeeeeeessssss!」

 およそ一年ぶり、正確には十一ヶ月と十日ぶりのシャルロットの姿だよ!

 10歳から11歳に至るまでの可愛い妹の姿を目に出来なかったこの苦しみ。

 いま、このgoodfull先生のお力で見ることが出来るとは、感無量です!

 書庫の風景が消え、見慣れた、それでいて何処となく違う豪奢な寝室が見える。

 そして天蓋付きのベッドに横たわって瞳を閉じたシャルロット。

 おにぃちゃん、涙が、涙が止まりません。

 美しくなったね。可愛くなったね。思春期に入ろうとするこの一年、その毎日を見届けられなかったおにぃちゃんを許してね。

 シャルロットの柔らかな唇が小さな呟きをこぼす。

「カール……カール……にーちゃん……」

 あぁっ、シャルロットの麗しい声が聞こえる……幻聴じゃない、これは幻聴じゃない。

 愛の力だね!!

『いえ、地図サービスに付随した音声ストリームサービスです』

 先生!! 空気を呼んでよ!!

『カール様、申し訳御座いません』

 一年も経てば見慣れた部屋にも変化はあるか。

 可愛いもの好きなシャルロットのヌイグルミ尽くしの部屋も立派な淑女の部屋に……あれ? この部屋、シャルロットの部屋じゃないぞ? 俺の部屋だ。そして、俺の寝台だ。あるぇ?

「にーちゃん……にーちゃん……寂しいよ、にーちゃん……」

 にぃちゃんも寂しいぞ。

 毎日毎日釣りをして、ちょっと忘れてた気もするけど、にぃちゃん、シャルロットのことを考えなかった日はないとも言い切れないぞ。

「会いたいよ……にーちゃん……」

 シャルロットの閉じた瞳から一筋の涙が零れる。

 あぁ、俺のことを思って泣いてくれているんだね。

 妹の悲しみを嬉しいと思ってしまうこの兄の心は罪なのでしょうか!?

『刑法には反しません』

 先生!! しばらく黙ってて!!

『申し訳御座いません』

 シャルロットは涙をこぼすその瞳を拭い、その手を降ろす。

 降りた手はスカートをたくし上げ、その中に……。

 あうぇ? ちょ、ちょっとシャルロットさん? にぃちゃんのことを思ってくれるのは嬉しいけどそれはちょっと。

 思わず俺は両の手で自らの目を塞ぐ。

 だがしかし、指と指の隙間が全開になってしまうのはいたし方の無いことでしょう!?

 あぁ、このままでは妹が自らを慰める痴態を目にしてしまう。

 あぁっ、スカートの中の手がシャルロットの、シャルロットの柔らかな太ももの付け根に……。

 どうすれば、どうすれば良いのだろう?

 いや、ここは兄としてしっかりと目に焼き付けておくべきなのではないだろうか!?

 それこそが、兄としてのぉっ!!!!

『未成年者のアダルトコンテンツの利用は、禁止されております』

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOぉぉぉぉぉぉぅっ!!!!!」

 目の前が真っ暗だよ!!

 正確には書庫の風景に戻っただけだけど、目の前が真っ暗だよ!!

 精神が真っ暗森だよ! 暗いよ暗いよ! さかなが空って小鳥が水没だよ!!

 先生!! ひどいよ先生!!

『未成年者のアダルトコンテンツの利用は禁止されております。申し訳御座いませんがサービスの利用は一時停止させていただきました』

 えっぐ、えっぐ、EGG、酷いよ先生。

 純真な湯上り玉子肌の男心が傷ついちゃったよ。

 10歳の、この身が憎い。

 いや、でも、過去世の経験を含めれば僕は四十代のはずだよ先生!!

『肉体の年齢を基準としたサービスを提供させていただいております。10歳のカール様に相応しい知育サービスの利用をお勧めします』

 うわぁぁぁぁぁぁぁん!

 鉄壁すぎるよ先生!!

『お褒めいただき光栄です』

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

 こうなったら意地でも戻ってやる。

 王宮に返り咲いてやる。

 そしてシャルロット成分二十四時間の妹ライフを全力で送ってやるんだ!!

「先生!! 協力していただきますよ!!」

『法に抵触しない範囲でサービスを提供させていただきます』

 言質は取ったからね先生!!

 なぁに、デウスエクスマキーナ超次元連結機神装甲要塞goodfull先生の力を上手く使えばなんとでもなるさぁっ!!


『カール様、goodfull情報統合検索サービスが私の正式名称です』

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― 新着の感想 ―
まさに神、自己進化の末AIが神になるとは、人類支配してディストピアルートもあり得た?
[良い点] デウスエクスマキーナ超次元連結機神装甲要塞goodfull先生の力 やべぇ、カッコイイ。 笑っちゃうんだけど、色々と想像が膨らみますぜ。
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