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第七話 春夏秋冬色々とありました

 春夏秋冬色々とありました。


 まずは、我が母国グローセ王国ですが、平和の一言に尽きました。

 ただ、プロイセン王国が荒れたために行なわれなくなった塩の供給はBex塩鉱山と元バチカン法皇国から奪い取った塩の備蓄で賄われました。

 内乱でどうにもならなくなった各地の貴族達が泣きついて来た為、侵略ではなく併呑という形で徐々に大きくなり、多少残った貴族の領土もそのうち泣きついてきて、いずれはプロイセンという国は消えるでしょう。

 貴族の地位は保証されましたが、グローセ王国の法が適応されますので、なんちゃって貴族の苦しみにどれだけの貴族達が耐えられるでしょう?

 グローセ王国の民は土地に縛られずフットワークが軽いですから。

 表向きは封建制ですが、裏向きには民主主義国家なのです。

 票の代わりに人口が動きます。

 人口が減れば領地や貴族の力自身が減ります。

 住民の移住の禁止を口にすれば、その貴族の土地から人が居なくなりますので、そんな弱小貴族どころか無力貴族の法案が通ることはありえません。

 人口を失った貴族は王権により即座に廃絶。

 そして新しい<永代>貴族を立てることになるのですが、実態を知っている者はこぞって逃げ回ります。

 ときおり馬鹿が手を挙げて、子孫永劫続く呪いを受けるのです。うっひっひっ。

 力がなければ法を通せない、法を通そうとすれば力が無くなる。

 実によいデッドロックです。

 たった一つの法で2500年間、貴族の腐敗を防いだ<政治>の特級加護の持ち主と出来れば一度お会いしたかったものです。

『カール様。もう、お会いしておりますよ?』

 え? 2500年前の知り合いとか知らないですよ。

 ぼく、そんな歳じゃないですよ? まだまだ可愛い盛りの12歳ですよ?

『マクシミリアンです。マクシミリアンの前世が法を作った彼になります』

 あぁ、なるほど。

 あの腹黒は前世から腹黒だったのか。納得の黒。

 腹の底どころか魂の奥底から黒かったのか。

「貴族だよ~貴族の称号はいらんかね~」

「欲しいです!」

「つ~か~ま~え~た~。うひひひひひひひひひひ」

 恐ろしい、巨大湖のババアよりも恐ろしい妖怪貴族誘いです。

 その呪いは子孫にまで及びますから。

 七代呪う? いいえ、<永代>に呪いますから良い子の皆はジャンジャン引っかかってください。

 良い子募集中。仕事内容は貴族と言う名の総務課です。



 西ハープスブルク王国は彼の大英雄リカルド(運の良かった人)を王に迎えながら、アルプス連合王国に対する領土奪還という無謀極まりないスローガンを打ち立てた人も居ましたが、命の源泉である塩と、荒れた国土に対する支援という形で融和政策が図られています。

 さすがに一度は全国民を奴隷の身分に落とした身。

 マクシミリアン陛下も二度目とは苦しめたく無かったのでしょう。

 もう一度、ドラゴンを嗾けて心の底からポッキリと挫けさせてやれば良いものを。

 あと、その優しさを俺にも向けろ。



 ドラゴンといえば「竜王」こと蟲料理人のロニーさんが「俺は新しい蟲に会いに行く」などと言いだしまして、亜人からドラゴンからマクシミリアン陛下に至るまで総出になって必死に止めました。

 万が一のために超国家機密である「竜王」の作り方をマクシミリアン陛下にはお伝えしておきました。

 まず<料理>の一級加護を持つ料理人を用意します。

 次に、蟲料理を作らせます。泣くまで作らせます。泣いても作らせます。禿げても作らせます。吐血をしても作らせます。作らせ、作らせ、作らせ続けることによっていつか蟲の美しさに気付くまで作らせます。

 実に簡単なレシピと材料ですから、実に簡単に作れます。

 おや、地下牢獄、ではなく、地下の豪華調理設備の整った料理人ならまず涎を垂れ流すこと間違いなしなキッチンから、二代目「竜王」候補の泣き叫ぶ声が聞こえた気がしましたが、気のせいでしょう。

 王族とは、時に、心を鬼にしなければならないのです。

 君の尊い犠牲は忘れない。君が蟲の美しさに気付いて幸せになったときには忘れるけど。



 ドラゴンと言えばもう一つ、ジークフリート兄様と「女帝」こと姐さんの卵が孵りました。

「もうすぐ子供が孵るから、カール、ちょっとお祝いに見にきて」と「寝取られ号」の言付けで向かった先にはもうすぐ孵化しそうな卵がプルプルと震えておりました。

 姐さんの住居である洞窟に向かう間、「寝取られ号」が「我が主カールよ。わざわざ連れ出して、苦労をかけて済まぬな」と珍しく殊勝なことを言った時点で気付いておくべきでした。

 姐さんは「寝取られ号」と話があるらしく、洞窟の外でお喋りをしています。

 元は友人で恋人で、子供さえ作った二人の間柄、積もりに積もった話もあるのでしょう。

 プルプル震える卵を見つめながら、男の子か、女の子か、雄か、雌かの四択クイズを考えます。

 私のBETは雌です。

 あの「女帝」の姐さんの子、雌に違いありません。

 プルプルと言う震えから卵に皹が入り、そしてパリーンと割れて生まれたのは赤い髪をした美しい少女でした。

 残念! ハズレた! 惜しい!

 そして産まれ立ての赤い髪の少女はトテトテトテと危なっかしい足取りで私の元まで走ってくると、スリスリと頬擦りをしてくるじゃありませんか。

 あぁ、産まれ立ての姪っ子の頬擦り。可愛いものです。愛らしいものです。

 冷や汗がタラタラでしたけどね。

「ジークフリート様ではなくて、アタイに似た赤髪だったかい。でも、瞳はジークフリート様似だね」

 えぇ、とても都合よくタイミングよく姐さんは戻ってきました。

 姐さん貴女、託卵を企んだね?

 上手いこと言った! ドイツ語だとぜんぜん上手くないけど!

 刷り込み効果と書いてインプリンティングと読む、まず目に入ったものを親と認識するあの効果。

 なんでも、育児の義務から解放されるとドラゴンの雌は再び発情期に入るそうです。

 姐さんの寿命は永遠、ジークフリート兄様の寿命は有限、可能な限り愛し合いたいのだと悪びれずに教えてくれました。

 ドラゴンにとって魔法で姿形を変えるのは造作もないこと、そして燃え上がるような赤い髪の美女の姿をした姐さん。

 初めての子作りもこの美人スタイルで行なわれたそうです。

 なので、私は熱弁しておきました。

「愛が真実であるならば、姿形など上っ面に過ぎません。姐さんがジークフリート兄様を心の底から愛し、ジークフリート兄様が姐さんを心の底から愛しているならば、真実の姿で向き合い、そして愛し合うべきです!! そう、次の子供を作る際には、必ず真実の姿で行なわれるべきなのです!! 人間の姿をした姐さんではなく、ドラゴンそのままの姐さんを愛するだけの度量がジークフリート兄様には御座います!! ジークフリート兄様を信じて、真実の愛を追求してください!!」

 私の熱弁に、姐さんは感涙の涙を溢して頷きました。

 そう、整形美人よりもスッピンで当たるべきなのです。愛が真実であるのなら!!

 熱弁の理由は100%ジーク兄様への八つ当たりでしたけどね。

 「寝取られ号」も人間の姿には成れるようで、黒い髪に、黒い瞳、そしてのっぺりとしていない端正な顔立ちをしていたので「俺が生きている間は絶対にその姿をとるな」と命じておきました。

 キャラ被りはいけません。黒髪に黒い瞳、そして端正な顔立ちが二人も並んでいては世の女性陣の目の毒です。

 決して男の嫉妬などでは御座いませんよ? 決して横に並ぶと比べられて落ち込むからなどでは御座いませんよ?



 産まれ立ての姪っ子は可愛く、甘えん坊で、あーんをしてあげないとご飯を食べてくれないのです。かぁいいのぅ。

 そんな可愛い姪っ子と私との微笑ましい姿を実父であるジークフリート兄様の前で披露すると、暗黒のオーラが生まれました。

 ジーク兄様の<加護>って影じゃなかったですか?

「はい、あーんして?」

「あーん♪」

「美味しいかい?」

「美味しい!!」

 愛娘を前にして一瞬にして父性愛に目覚めたのか、目の前で行なわれる愛娘の愛くるしい行動に暗黒のフォースがダダ漏れです。

 そんな愛くるしい愛娘がジーク兄様を見る瞳は「知らないおじちゃん」でした。

 はっはっはっ、俺ならもう即座に滅してますね。

 ただ、それをしてしまうと愛娘を育てられる人間が居なくなるので出来ませんけどね。

「はい、あーんして?」

「あーん♪」

「美味しいかい?」

「美味しい!!」

 シャドウではなくダークなフォースが全開に、羨ましいならどうぞ、お二人目をお作りになってくださいよ。

 本来の姿でなっ!! げはははははは!!

「はい、あーんして?」

「あーん♪」

「美味しいかい?」

「美味しい!!」



 ご落胤ではない初孫にヴィルヘルム父様はジジ馬鹿になりました。

 その紹介をする過程でマクシミリアン陛下やマリア王女とも再会して感涙の涙を流してらっしゃいました。

 ですから、あの偽者の墓前で行なわれた感動のスピーチをそらんじてやったところ、羞恥心からか激しく怒り「勘当だ! 勘当してやる!!」と感動の言葉を繰り返されました。

 いやもう、廃嫡して離縁状送ったじゃないアナタ。

 それを望んだのは私でしたけどね。

 初孫の顔を見ると爺本能に目覚めたのか、週に一度は来て、週に二度は来て、週に三度、週に四度、週に五度……帰れよ!

 あんたグローセ王国国王だろ!! ここアルプス連合王国だから!!

 お前の国で仕事しろっ! 玉座に座っていることが仕事だろっ!?

 ちなみにレオンハルト兄様に関しては「色んな女の人の匂いがするから、ヤッ!嫌い!!」と一刀両断。

 初めての姪っ子には一指たりともどころか10m圏内にすら入れずに落ち込んでおりました。

 黄土色の子猫よ、自業自得です。

 ドラゴンは純愛がお好きなのです。

 まぁ、私も人のことを言える立場ではないのですが……。



 ヒルヒルは、あわてんぼう姫将軍の称号に恥じぬ神速でフランク王国を統一。

 飢えた民には食料を、肥えた豚には剣先を、誇り高き貴族には栄誉を、与えるべきものを与えてまわり国内から膿を一掃。

 そののち、フランク王国の皇帝の冠を得て、これを地面に叩きつけて砕き割ることにより、周辺の従属国に謝罪と独立の承認をおこないました。

 元々本国から遠く離れた旧世界で言うスペイン地方にも独立を承認。

 北風よりも太陽を。

 あの乱世を雪解けから半年もせずに治めてしまいました。さすがは「英雄」ヒルヒル号、よく走りましたね。

 自らは半月もせず王の座から引責辞任、素敵美少年ピピン君を王座に付け、自らは後見人としての立場を貫くと宣言しました。

 政治から一歩退いて暇が出来たのか「カール、来るのじゃ、おぬしに借りを返す」と実に男らしい果たし状を受け取りました。

 借りを返すなら、向こうから来るのが筋でしょうに。

 そうして「寝取られ号」に乗り向かった先でのこと。

 まぁ、状況から見て全ては理解できているのですが、ヒルヒルが動こうとしないので動いてあげません。

 子一時間、ずーっと、このままです。

「の、のぅ……見れば、解るじゃろ?」

「いえ、さっぱり。言葉にしていただかないと」

 天蓋付きの寝台の上で、モジモジと初心な顔をしてのの字を書き続けるヒルヒル。

 高級感溢れる薄布がボリューム感溢れる乳房に押し上げられた艶のある姿と、純情すぎる初心なヒルヒルの心のギャップがとても楽しいです。

「お、おぬしには……助けてもろうたから……その、な……我の乙女を……じゃな」

「援助したから抱かせてやるというのならお断りです。それじゃあ金を払って抱く商売女と同じじゃありませんか」

 戦場ではあれだけ勇ましいのに、どうして寝台ではこうまで初心なのですか。

 いや、それこそが俺のサディスティックな琴線をビンビンと掻き鳴らしているのですけれど。

「ううぅ……意地悪じゃ……カール、我はそなたを愛しておる……じゃから、抱いて欲しい……子が、欲しいのじゃ……」

 いや~、初心な乙女を追い詰めるのはたまりませんなぁ。

「抱いて欲しい? 借りを返すと言ったのに、新たに借りを作りたいのですか?」

「ぬぬぬ……四の五の言わずに我を抱くのじゃ! 乙女に恥をかかすでない!」

 羞恥か怒りか半分にして顔を真っ赤に染めたヒルダ。

 こうしてからかうのも楽しいひとときなのですが、そろそろこちらも我慢が利きません。

 先生の医療サービスの応用で12歳の体を20歳まで大きくしていただきました。

 もちろん、下半身の方も。ちょっと三割り増しで。ここは男の見栄と言う奴でしょうか?

「魔法です」

「ま、魔法……そうか、魔法じゃな……いや、魔法は解るのじゃが……その、な……むか~し、ピピンのそれを見たときと、形と大きさが随分と違ってじゃな……」

 視線の行き先は主に下半身。

 ヒルダははしたないお嬢様ですね。

「ではヒルダ。愛し合いましょう。私も、貴女を愛していますよ」

 有無を言わさず寝台にポテンと押し倒す。

 未だにあわあわとうろたえ続けるヒルダ。

「ま、まままままま、まてっ……その……なんじゃ……優しく、じゃぞ?」

 俺はゆっくりと頷きました。

「激しくですね?」

「優しくじゃ!!」

 それはそれはもう、激しく愛してやりました。




 南に位置するバチカン法皇国はその忌まわしい名を捨て、今は名も無き国となっていました。

 そのなかで陣頭指揮をとっているのは「英雄」いえ、「英雄の卵」<先見>のラウロくんです。

 特級に至るまでのその魂の<在り方>それは、どうすれば人々を幸せに導けるだろうか、という想いから始まったものでした。

 ただ、その人々のなかに幻想世界の人間や、亜人達が含まれなかっただけでした。

 ただしく、人々が幸せになれるように。

 ただしく、人々が不幸に足をとられないように。

 ただしく、皆が生きて行けるように。

 彼の<先見>は、まず塩の売買から始まりました。

 亜人を使者としてアルプス連合王国に塩の取引を持ちかけ、その対価として当面の衣食住を整えました。

 荘厳だった教会からは金や銀や宝石は消え、ただ質素な石と木だけが飾られていました。

 「慈悲」と「清貧」と「赦し」を奴隷として虐げてきた人々から与えられ、そうして彼は「英雄」の道をようやく歩み始めたのでした。

 宗教革命万歳!!



 でも、世界は良いことばかりだけではありませんでした。

 バルト三国にエストニアを合わせた四カ国連合が旧ポーランドを中心とするアウグスト帝国に叛旗を翻し、戦争状態に陥りました。

 戦争は長く、終わりは見えません。

 ですが、戦に向いた<加護>を持たずとも戦えると知った四カ国連合が必ず勝つことでしょう。

 <加護>が掛かっていない弓の矢でも、当たれば人は死ぬのですから。

 矢ですらない投石であっても人は死んでしまいます。

 その創意工夫の考え方は、ある意味、ミハイルくんが残してくれた置き土産なのかもしれません。



 旧スペインでは土地を二分三分した争いが未だに続いています。

 フランク王国との境にはヒルヒルが軍を駐留させていますから、内陸部まで火種が飛ぶことは無いでしょう。

 それぞれの地方がフランク王国に支援を求めて使者を送っていますが、一切合財を門前払いに処しているので、戦いたい人達はどうぞご自由にということなのでしょう。

 いずれ彼等のなかから「英雄」が現われてどうにかしてくれることでしょう。

 早く現われることを期待するばかりです。



 ハイランド王国では今日も今日とてアーサー君が政務に追われて泣いておりました。

 マーリンのじっちゃんはチェスの研鑽に忙しいのだそうです。頑張れじっちゃん。永遠に勝機は無いぞ!!

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