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第五話 レストインピース

 それにしても2000万と言う数は目の前にすると壮観壮観。

 右から左、左から右までスケルトンさんでいっぱいです。

 生まれたてのゾンビさんは道中で間接部が凍りついたのか辿り着けなかったようですね。

 しかし、スケルトンさん達は少々気が弛んでいます。緩みすぎています! 

 これは、活を入れてやらねばならないでしょう。

 名乗りを挙げて鼓舞する相手が敵と言うのは実におかしな話ですが。

 では、大きく息を吸い込んで~、

「我が名はレオンハルト・フリードリッヒ・フォン……」

「いや? カール・グスタフ・フォン・グローセだろ?」

「それは廃嫡された名であるから、今はカール・グスタフ・ペンドラゴンのはずだが?」

「カールの廃嫡はただのお芝居ですから。今だってグローセ家の一員ですよ?」

 ………………………………………………はい?


 レオンハルト兄様が居ました。

 ジークフリート兄様が居ました。

 アーサー王一万三千ちゃいも居ました。

 マーリンのじっちゃんも……寄る年波からか寒さに凍えておりました。あんた何しに来たのよ?

「どうしてこちらに?」

「太陽が見ていた」

「月は貴方を見逃しませんよ?」

「うむ、「寝取られ号」の友人が「ドゥースタリオン」に知らせてくれてな! 戦争をするのであろう?」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……さ、寒いのぅ。寒いのぅ」

 約一名の老人は無視しましょう。

「いや、そうではなく、何故、こちらに来られたのでしょうか?」

「弟が喧嘩するって言うんだから、兄貴が手を貸して何が悪い?」

 レオンハルト兄様がバツの悪そうな顔をして述べました。

 児童虐待の恨み、忘れてませんからね?

「レオ兄様はマリア王女が生きていると知って、カールに謝りたがっていたんですよ。一日中館から出ないわけではありませんから太陽の下に出ることもありますよ。それで、カールの戦争の手伝いのために私の妻である「女帝」に連れてきてもらったのです。ふふふ、可愛いと思いません?」

「言うなぁっ! ジーク! お前、最近カールに似てきたぞっ!!」

 あぁ、なるほど。そういうことでしたか。

 でも、児童虐待の恨みは忘れませんからね?

「では、余の番だな? 副王であるカールが戦争をするというのだ、それは国主たる余の戦争でもある。ゆえに「ドゥースタリオン」に乗って飛んできた次第。なんだ、その、今、そこで震えている老害については意識の中から外せ」

「解りました」

 要約すれば「喧嘩に混ぜろ」この一言でしたか。

 この戦闘狂どもめ。

「では、レオンハルト兄様。総大将として名乗りを挙げていただけますか?」

「俺で良いのか? カールの戦争だろう?」

「レオンハルト兄様が総大将でないと<戦>の加護の効果が及ばないでしょう? アーサー王には副将をお頼み申し上げます」

「む~、他国の王子の下か……仕方が無い、カールの願いだ我慢しよう」

 どこかの黄土色の子猫とは比べ物にならない物分りの良さ、アーサーくん、君はそのままでいてください。

 では、名乗りを挙げる上での注意点を少々。

 レオンハルト兄様の耳を、引き抜くように引っ張りつつ、耳打ちしましょう。

「いだだだだだだだ!! うん? なに? なるほど、解った。そのように名乗りを挙げるとしよう」

 えぇ、やはり私が総大将というのは似合いません。

 いつだって黒子で十分です。

 なにしろ諸悪の根源、黒幕なのですから。


「我が名はレオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセ!! グローセ王国の第一王子にして不死者に死を与える者なり!! この空に輝く太陽のある限り、我が剣は貴様達の存在を許さない!! 救国の大英雄にして亡国の大悪党ミハイル・ヤロスラヴィチ!! 貴様が手にかけし祖国の者! 他国の者! 異国の者! そして、北の大地で怯え暮らす者の無念と怒りと憎しみを代弁し、我が剣に乗せよう!! 我が名はレオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセ!! 大悪党ミハイル!! 貴様を断罪する刃である!! 悪党の名乗りなど不要!! 聞く耳持たぬ!! では、戦争を始めようっ!!」

 はっはっは~、名前を呼ばれてスケルトンさんことミハイルくん達が驚いてますな。

 そして、カタカタと顎を鳴らしています。

 大満足でしょう? ミハイル君の死に様として。

 スケルトン2000万の気配が一斉に変わった。

 ここからは愉快で陽気なスケルトンさんではなく、優秀で冷徹な軍人のミハイルくんなのでしょう。

「総員、突撃っ!!」

 <戦>の特級加護が働いて、2000万の数に怯えていた20万の義勇兵もブレイブハートに、数の差も忘れて凍った湖へと突進します。

「影牙月天射っ!!」

「俺の一番槍がぁぁぁぁぁぁっ」

 おぉ、久しぶりに見ました。蒼空が黒く染まり、10万のスケルトンの頭を撃ちぬくっ!!

 だがしかし、効果は無かった!!

「ぶはははははははははははははははは、効いてないじゃねぇか!! ジークのば~~~~~か!!」

「なっなっなっ、余の影牙月天射が効かぬだとっ!?」

 えぇ、まぁ、頭を貫いてもスケルトンさんの行動に支障はありませんから。あと一人称が魔王ですよ?

 狙うなら腰ですね、腰骨。

 あと、そんな風に兄弟でジャレあってるから……。

「余の左手にあるはカリバーン! 余の右手にあるはエクスカリバー! 貴公等を切り裂く断罪の刃の名を覚えておくがいい!! 我が名はアーサー・ペンドラゴン!! 戦士として余に斬られることを誇りに思うがいいぞっ!!」

 一番槍の栄光を手にしたのは<戦>の加護を受けたアーサーくんことリアル怪物くんでした。

 一振りで百近く、それも二刀で二倍、ズバズバと切り裂いてます。

 さらにその連撃が早い早い。アーサー君は手数で勝負する方でしたものね。

 今なら魔王シャルルマーニュも秒殺できるんじゃない?

「俺の一番槍がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

「ぶはははははははははははははははは、レオ兄様のあ~~~~~~~~~~~~~~ほ!!」

 あぁ、そんなところで金獅子と月影の聖弓さまが醜い兄弟喧嘩を始めないでください。

 ほらほら、20万の義勇兵達にも抜かれてますよ。

 スケルトンさん、優秀な軍人であるミハイルくんにとって武器など現地で調達すれば良いという考えだったのでしょう。

 徒手空拳、それにむき出しの骨という男装備に対して、こちらは魂魄情報体のエネルギーフィールドにベチーンと塩鞭を。

 うわっ、痛そう! 普通の鉄製の武器に対しては最強ですけど、塩分を含んだ武器が相手だと全身これ急所ですからなぁ。

 激痛に転げ回っています。

 金の玉を蹴られるのとどっちが痛いんだろう?

『魂魄情報体を傷つけられた苦痛の側が五倍の痛みとなります』

 ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!

『箪笥に足の小指をぶつけた痛みに換算すると300倍になります』

 あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!

 あ、あの、ご、ごめん、ミハイルくん、こんな武器作って。

 こんなに凶悪なものだとは思わなかった。ハーグ陸戦条約に違反してしまう。

 あぁでも、流石は元は優秀な軍人さん。素人相手なら簡単に背後に廻り込んでぇ……残念でしたっ! 防寒具として用意したマントにも期間限定で塩分増量中で御座います!!

 あぁ、触れたスケルトンさんに蹴り上げられた五倍の痛みがぁぁぁぁ!!

 見てるほうが痛ぁぁっぁぁぁいっ!!

「待たせたな! 俺の剣を見せてやろう!」

 ホントに待ちましたよ。なにをジャレてたんですか、この黄土色の子猫は。

 毛糸の玉とでも戯れていましたか? お家の柱で爪を研いでないでしょうね?

 では、ここからは黄金の獅子さんとして頑張ってくださいな。

 おぉっ、流石は一振り万殺の暴虐の嵐。なんの防具も着けていないスケルトンさん達はバラバラだっ!

 レオンハルト兄様が力の一号、アーサー君が技の二号と言うところでしょうか?

 さーーーーっ! 斬斬バラバラ♪斬斬バラバラ♪ 本日のフィーバータイムです。皆さん切っちゃってください!!

 皆さん、張り切って、骨を切っちゃってください。

 あ、そういえば役立たずのジーク兄様は何を?

「勘違いさせて……すみませんね。私には、弓のみならず影の力もあるのですよ……。切り裂きなさい! 影斬冥王鎌!!」

 おぉぅ、自らの影の中から厚みの無い黒い鎌が飛び出して、鞭のように自由自在にしなりながら周囲のスケルトンを賽の目斬りにしてらっしゃるじゃないですか!!

 あああ、これはカッコい……認めん、認めんぞぉ!!

 ジーク兄様には近距離攻撃もあったのですね。

 今まではずっと近づく間もなく終ってましたから知りませんでした。

 さて、ここまでの首尾は上々、でも相手も軍人。

 私以上の科学知識を持つやも知れない、このまま徒手空拳のまま一方的にとはいかないでしょうね。

 さ~て、なにが出てくるのやら。



 ゴスッと鈍い音が立ち、義勇兵の一人が崩れた。

 あ、これはまずい。流石の軍人さんの応用力、すでに対応を取られ始めてる。

 触れると不味い。

 ならば、触れなきゃ良いじゃない?

 雪を球にして、それを自らのフィールドで圧縮硬化。

 氷の硬さにした上での全力投球。

 むむむ、原始的かつ歴史上最も長く使われた投合武器ですか。


 Q:氷の塊を野球のピッチャーが10mの距離から全力で四方八方から投げてきたならどうなるか?

 A:フルボッコ死。


 後方で雪玉いや、氷塊を作る部隊、搬送する部隊、そして前線にて投擲する部隊が既に出来上がっている。

 一対百の数の暴力の為せる業か。

 とりあえず化物三人組は放っておいて20万の義勇兵から先に潰しに来たようです。

 当たり前のことですが、盾は向けている方向しか守れません。

 この寒さの中、金属の鎧なんて着た日には、ただそれだけで凍死します。

 せいぜいが厚い皮の帽子に皮の鎧。

 氷塊の全力投球を全周囲から食らえば亀になって身を守るほかありません。護身の極みですね。

 ぬぬぬぬぬ、人間種の人々よりもカマキリさんや死後種スケルトンさんの方が頭が良いってどういうことなのよ?

 旧人類として情けなくて涙がでるわっ!!


 では、ここまで劣勢になれば十分でしょう。

「総員! 元の岸辺、本陣に向かって退却せよ! ジークフリート兄様は中央、レオンハルト兄様は左まわりに、アーサー王は右まわりで撤退援護を! 氷の塊を運ぶ部隊を狙ってください!!」

 まず化物三匹で投擲部隊と輸送部隊を分離、投げるものを失えばただのスケルトン、塩の鞭とマントを恐れて道を譲るほかありません。<戦>の加護がかかっていますから氷の上、時速60kmとはいかなくても、時速40kmのオリンピック100mで金メダルを取れる速度。スケルトンさんの追いつける速さではありません。

 さて、本陣を敷いたムストペー側の岸に無事帰還。

 青痣はたっぷりですが、死に至った義勇兵は居ない模様。

 やはり石ほどの硬さは無かったのでしょう。死人が出なくてよかった。

 ですがまだまだ終わりません。スケルトンの軍団が湖を走って追ってきています。

 岸まで上がれば樹木や石などさらに有効的な武具を即席で調達できますから更に不利になることでしょう。

 なのでここは予定通り先生のお力をお借りして新たなる技ニップルサンシャインを……いや、やめましょう。

 私は黒子。「英雄」の仕事は「英雄」が居るのですからお任せしましょう。


「レオンハルト兄様、えーと必殺剣の太陽戦刃剣でしたっけ? あれを使って湖の氷を溶かしてください。蒸発まではさせないでくださいね?」

 湖の中央でぶつかった両陣営、こちらが岸辺にさがったことで2000万のスケルトン達は全て氷結した湖の上だ。

 例え融けても淡水湖とでも思っているのか余裕のムードですね。

「あの技だと難しいな一帯が蒸発しちまう。この辺一帯の太陽を強めて夏の暑さにして氷を融かしても大丈夫か?」

「はい、氷が融けるなら十分です」

「じゃあ、やるぞ!」

 急激に天の太陽が光の量を増し、冬のうっすらとした日差しが、真夏の青空に浮かぶしっかりとした太陽へと変化した。

 急激な気温上昇にペイプシ湖の表層を覆う氷はひび割れ、その大地としての役目を失う。

 さぁ、死にたがりの滅びたがり、でも、自殺はできない臆病な、そんなミハイル君にプレゼントです。

「では、「寝取られ号」にドラゴンの皆さん方、爆撃してください」

 集めに集めた塩の数々。

 岩塩から天然塩まで、どっぽんどっぽんと湖に落としていきます。

 ペイプシ湖は巨大な湖なので、塩分濃度をあげるのにはとてもとても多量の塩を要しますが、今回はそこまであげる必要はありません。それに塩水は水の下の方に溜まりますからね。

 水に対する骨の比重は2.01、空気を溜めることのない体は浮かぶことはなく沈むだけ、水の抵抗で進むことも戻ることもできない間に薄い塩分でじんわりと、継続ダメージで成仏していただきましょう。

 これが流行の減塩ブームってやつでしょうか?

 継続的な苦痛も伴うのだから十全に体を動かすこともできず逃げられもしないでしょう?

 どうぞこの湖の底で成仏していただきたい。

 ぎゃーてーぎゃーてーはらそーぎゃーてー、なむあみだぶつのほーほけ経。



 さて、彼等が成仏する前に伝えておかなければならないことがある。

 先生、翻訳を、彼等にだけ聞こえるようにお願いします。

『かしこまりました』

 嘘は、やっぱり駄目だよね?

 目を閉じて、そして、語りかけるべき言葉を選んだ……。

「我が名はカール・グスタフ・フォン・グローセにしてカール・グスタフ・ペンドラゴン。ドラゴンに跨って……ミハイル、君の前に宣戦布告のため姿を現わした少年だ。戦士……いや、軍人として君の前に立ち塞がり、軍人として君と戦い、軍人として君に勝利した少年だ。祖国を救いし救国の大英雄ミハイル・ヤロスラヴィチにして、祖国を、自らの世界を滅ぼせし大罪人ミハイル・ヤロスラヴィチよ。その栄光と大罪を魂に刻み、ここで苦しみ朽ちるが良い……。我が名はカール・グスタフ・フォン・グローセにしてカール・グスタフ・ペンドラゴン。君を軍人として扱い、軍人としての死を与える戦士の名前だ。魂に刻み付けて……安らかに眠るといい。では、実に長きに渡る任務……諸君、ご苦労であった!!」

 俺の演説は数多のミハイル達に届いたようで、苦痛に身悶えする中からゲラゲラという笑い声が聞こえた。

 goodfull先生、彼等から魂魄情報体が破壊される苦痛を取り除くことができますか?

『はい、goodfull医療サービスを用いることで可能です』

 では、彼等の苦痛を和らげてやってください。

 第二次世界大戦の最中、死を約束された軍人達がモルヒネを投与されたように、苦痛ではなく安らぎの中で逝けるように。

『はい、かしこまりました。goodfull医療サービスを実行します』

 魂魄が削り取られる苦しみが消えて安らぎが訪れたのか、一人である彼等は一斉に大笑いの声を挙げた。

 レストインピース。ロシア語ではなんと言ったかな? まぁ、いいさ、きっとちゃんと伝わっている。

 大きな笑い声の大合唱は、やがて少なく、もっと少なく、そして二時間の後には消え失せた。

 湖にはただの真っ白な骨だけが沈んでいた。返事が無い、ほんとうに、ただの屍のようだ。




「ほはぁぁぁぁぁぁ、日の光は温まるのぉぉぉぉ」

 マーリンのじっちゃんよ。アンタ、本当に何しに来たのよ?

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