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第三話 我が名はレオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセ!!

 さて、スケルトンさん(ゾンビ含め)は知的生命体です。

 しかも、今の中世風の時代よりも、もっと先の時代を生きた人でした。

 自分の前世の世界が一番科学的に進んでいる、なんて考えていたのは傲慢な考えでしたね。

 ですから、彼等は現代人に等しい、あるいは、それ以上の科学的知識を持ち、その上で行動します。

 ただ永遠の命と言うのは人を堕落させるもので、明日やればいいことは明日やる。明後日でいいなら明後日。一年後なら一年後。十年後でも百年後でも、べつに構わないという思考にさせるようです。

 しかし、自己保存の観点から「死」そのものは嫌がるようで、絶対に死なない、安全な、戦略をとります。

 決して殺しすぎず、生かしすぎず、人口を減らしすぎないよう、人口が増えすぎないよう、いやらしく、計画的に動くのです。


 そして味方をするのは冬将軍。水が凍りつき塩水が作れない環境。

 <加護>のために文明の停滞を起こした中世の人々の戦闘術など手の平で転がすようなもの。

 氷を暖めて水にすれば良いじゃないかと思えば、暖め続けるための熱源が24時間体制で必要になります。なにせ、相手は昼夜問わず、天候を問わずで襲ってくるのですから。

 吹雪の日など、彼等にとっては天国でしょう。

 そして、人間にとってはその反対の国。

 そんなバルト三国の冬は「地獄」の一語であらわせます。

 いつ襲い来るかわらない死者の骸骨。見張りを立てたところで塩水が無ければ倒すことも敵わず。

 <剣>や<槍>や<弓>の加護を持つ兵士であっても決して殺せず。

 ただ、見逃されることだけを祈り続けるそんな地獄の季節。

 秋が冬へと変わるころ、水が氷に変わる頃、寒さは北からやってくる。

 だから彼等も北からやってくる。



「うっわー、これ百万単位じゃすまないでしょ?」

 そんな地獄の黙示録な風景を空から眺めながら感想を述べました。

 えーと、観測結果は白が10で、白が10?

 雪の色は白い。スケルトンさんも色白だ。結果、真っ白。

 真っ白いお骨をした北国美人のスケルトンさん、雪と氷の世界ではさっぱり数がわかりません。

『現状直下に見られる死後世界種の数はおよそ2000万になります』

 2000万のアンデットの群れ、なのに、会話は陽気。

 もうこれ、違和感しか感じないわ。

「うー、さびさびさびさびぃ、嘘だけど!」

「あはははは、そういうの忘れてもう一万年ほど? よくわかんねぇや」

「そうだよな、時間とか、もうよくわかんねぇわ。俺、今、幾つなんだ?」

「お前も俺なんだから解るわけないだろ?」

「げらげらげら、違いない。俺はそういう細かいことは気にしない主義だったわ」

「そもそも、この体になった歳って何歳だっけ?」

「…………え?」

 スケルトンさんが一斉に立ち止まって首を傾げます。

 お前ら自分の享年覚えてないのかよ。

「た、確か、30は、越えて無かったよな?」

「お、おう、二十代後半……いや、二十代前半だったっけ?」

「三十後半だっただろ。この体で俺同士で見栄ついてどうすんだよ」

「「「確かに、げらげらげらげらげら!!」」」

 

「実際、正確なところ何歳だったっけ?」

「……う~ん、覚えてねぇわぁ」

「30過ぎると人生早いからなぁ」

 うんうん、解る。

 30過ぎると一年が早く感じるんだよねぇ。二十代よりもさらに早く。

「う~ん、じゃあ18際ってところでどうだ?」

「若すぎるだろそれ、22歳でどうよ?」

「じゃあ間をとって二十歳でどうだ!?」

「「「成人式だ! いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」」」

 混ざりたい! 激しく混ざりたい!!

 だから混ざりましょうっ!!

 軍団の先頭に向かって~、ドラゴンのドン!!

「うおっ、すげぇ! ドラゴンだ!」

「おぉぉぉぉぉ、かっけー!!」

「始めて見たわ、うわっ、感激!! 誰かカメラ持ってない?」

「「「ねぇよ、げらげらげらげらげら!!」」」

 やっぱりドラゴンはかっこいいんだね。男の子の夢だもんね。

 お前等、男の子じゃなくて三十後半だとバレてるけどね!!

「我が名はレオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセ!! 貴殿等に決闘を申し込むものなり!!」

「「「うぉぉぉぉぉぉ!! ドラゴンナイトだぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 あぁ、そのドラゴンに憧れた虚ろな空洞の瞳がちょっと気持ちいい。

 どうだ~! 羨ましいだろ~! 俺の「寝取られ号」だぞ~!

「貴殿等の軍団の総司令官殿にお会いしたい!! 我より直々の宣戦布告を行ないたいがゆえっ!!」

 俺の言葉にスケルトンさん達がざわつきます。

 なぜぇ? どうしてぇ? こんなにかっこいいドラゴンなんだよ?

 ざわつきの中、一人のスケルトンさんが手をあげた。

「あの~、俺等の軍団って言うか、俺等にはリーダーって居ないんですけど?」

「えっ!? そうなの? 参ったなぁ……誰か、代表決めてくれる?」

 前方のスケルトンさん達がジャンケンを始める。シュールな光景。

 おっ、最後はチョキで勝ったぞ。

 彼が代表者になってくれるようだ。

「我こそがこの不死の大軍団を指揮する総司令官なり! ドラゴンナイトよ、貴殿の宣戦布告承ろうぞ……」

 ノッリノリだなぁ。

 ジャンケンに負けたスケルトンさん達もキリッとした軍人顔でこちらを見つめている。

 見た目ではよくわかんないけど気迫的なもので。

 これぞ死者の軍団って感じで大変よろしい。いままでスノーボード持った若者の集団みたいだったからなぁ。

「では、騎士の作法に則って、合戦の戦場と時間を定めたいと思う。我としては今日より15日後、ここよりペイプシ湖の対岸、ムストペーの地の付近で行ないたいと思うがいかがかな?」

「………………」

 返事が無い。ただの屍ではない。

 あれ? どしたの?

「……あ、ごめん。ペイプシ湖とムストペーの名前も場所も知らないんだわ」

「え? そうなの? ごめんごめん、じゃあちょっと地図見てくれる?」

 「寝取られ号」を飛び降りて、総司令官殿の下へ。

 こうして遊んでる間は本能のままに動いたりはしないだろう。

 襲い掛かられても「うなぎバリア」があるから大丈夫だし。

「えーとね、ここ、この大きな湖がペイプシ湖で、今は凍ってるから通れるんだ。で、今、君たち居るのココね。平原とかこの辺にないからこの凍った湖を戦場にしようと思ったんだけど、大丈夫?」

「ん、OKOK。いっつも通ってるところの近くだわ」

「じゃあ、ムストペーの方では松明を燃やしておいて目的地わかりやすくしておくから。日程は15日で足りる?」

「うん、大丈夫。いつものペースなら辿りつけるよ。湖つっきってくから目印の方をヨロシク」

「じゃ、そういうことで」

 そうして俺は「寝取られ号」に再び乗り、ドラゴンナイトらしく踏ん反り返る。

「総司令官殿。いや、不死者の王よっ!! このレオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセよりの宣戦布告、受け取っていただけるかな?」

「ふふふ、生きとし生けるものは我が獲物よ。貴殿も、貴殿のドラゴンも、我が眷属に加えてやろうぞ!! くっくっくっ、我に、我が不死の大軍団に挑んだことを後悔させてやろう……ぐははははははははは!!」

 俺はニヤリと微笑み嘲笑う。

 スケルトンさんの表情は解らないが、おそらく似たような表情を浮かべたのだろう。

「では、戦場にて会おう。不死者の王よ! この「竜王」たる我に敵うかな? ふはははははははははは!!」

 飛び去り際にも俺は挑発の言葉を述べる。

 ごめ~ん、称号詐称しちゃったよロニーさん。

「この「不死王」が貴様を天から必ず叩き落してくれるわっ!! ぐはははははははははは!!」

 大変良い切り替えしをいただけた。

 ありがとう、スケルトンさん。

 あ、仲間内で喧嘩が始まってる。羨ましすぎるぞてめぇとかなんとか。

 あぁ、仲の良いスケルトンさん達だなぁ。

 しっかし2000万かぁ……怯えて逃げなきゃ良いけど。


 「「「ドッラッゴン!! ドッラッゴン!!」」」

 うん、あいつ等は絶対に逃げないわ。

 一斉に声挙げて声援まで送ってるもの。

 地上のドラゴンコールに応じるように一周二週と彼等の上空を回ってから俺は離脱した。


 それにしても、最後までどうして話が通じたのか気付かなかったな、彼等。

 スケルトンさんたちは独自のテレパシー的なものを利用し会話しているので普通の生き物とは会話できません。

 もしも、バルト三国の人々が彼等の本性を知ったなら怯える前に怒りすら覚えるんじゃないでしょうか?

 下手に言葉が通じなくて良かったよ。

 しかし、テレパシーすら圏内とは先生の翻訳機能は素晴らしいですなぁ。

『お褒めに預かり光栄です』


 ではではこれで細工は流々。

 あまりに今までが無敵すぎて危機感無くなってるのかしら?

 それとも? まぁ、そへんのところは後で調べておきましょう。

 さーて、ではでは、この世で最後のお勤めをさせていただきましょうか。

 なむなむ。



 人類種最大の国家、アウグスト帝国。

 それは旧世界でいうポーランドを中心とした帝国だ。

 エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国にベラルーシまでの土地に刃を向けてその上がりを搾り取るヤクザのような国である。

 東から迫る不死の軍勢。毎冬ごとに訪れる死神に疲弊しきった各国を肉の壁として利用しながら、温存された自国の戦力で貢納を迫る。

 実に素敵なお国柄である。

 このようなお国柄のためか、バルト三国にベラルーシまで、彼の国を憎まない国は無い。だが、冬ごとに現われる骸骨の群れが国力を落としてしまう。

 生かさず殺さず、まるで、骸骨たちと手を取り合うかのように支配した。

 積み重なるは恨みも恨み。

 だが、己の無力に嘆く暇なく生きるための努力を行なわなければ生きていけなかった弱国の民達。

 働けど喰われど我が暮らし楽にならず、というところ。

 しかし栄枯盛衰、盛者必衰、諸行無常は世の理。

 一つが変われば全てが変わる。

 東が変われば西も変わる。

 積み重ね続けてきた恨み辛みが彼の国に災いをもたらさなければ良いのですけど。

 うひょひょひょひょ。



 さて、やってまいりましたバルト三国最北の国エストニアの王宮へ!

 「むっ、この私がレオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセだと信じられぬと申すか!! 無礼ものっ!!」

 金のカツラにシークレットシューズ、涙を飲んで男の矜持を捨ててまで望んだこの変装。何故通用せぬかっ!!

 「あ、いえ、その~、グローセ王国のレオンハルト王子はたいそうな美男子だと……」

 顔かっ! 顔かっ! お前も顔で差別するんだなっ!!

 既に雪に包まれたエストニアの質素な王宮の門兵に無理難題を押し付けて押し通ろうと思ったのにっ!!

 人が平和的にことを進めようと思ったのに、そっちが顔で差別するならこっちはこうしてやる!!

「いでよ! 「寝取られ号」!!」

 ドラゴンのドン!!

「だから主よ、最初から失敗すると言ったではないか」

『カール様。私の試算でも99.99998%の確率で失敗すると申し上げました』

 そんなんしらんもーん。

 今日の俺はのっぺりーの男爵ではなくレオンハルト兄様なんですもーん。

 カラーコンタクトまでして似せたのにっ!

『カール様、眉と睫毛の色を変えることを忘れています』

 なるほど! では、眉と睫毛の色を変えた場合の成功確率は!?

『0.0003%上昇します』

 か~わ~ら~な~い~。

 さて、こんな顔面差別主義者の兵士は放っておいて外交と行きましょう。

 門の兵士? 腰を抜かしているから放っておきます。

 この顔面差別主義者め。


 ドラゴンの威を借りた獅子(偽)が大きなつづらを片手に質素な王宮を進み行く。

 だが、我が友T・A・M・S・D<タクティカルアーマドマッスルスーツD型>君はドラゴンよりも強い!

 さらにgoogfull先生に至ってはこの宇宙より強いのだぞ!!

 全ての威を借りた俺をドラゴン如きの威しか借りていないと思い込むとは!! 貴様等の目は節穴だな!!



「し、して、そなたが、グローセ王国の第一王子レオンハルト殿で、ある、のか?」

「はい、我こそがグローセ王国の第一王子レオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセです。本日は陛下にお見せしたきものがあってお持ちしました」

「う、うむ。レオンハルト殿は、かなりの美……うむ、その見せたいものとやらを見せてくれたまえ」

 くっ、こいつも顔面差別主義者か。

 ええいっ、やはり見捨ててくれようかっ!

 そう思いながら持ち込んだ大きなつづらに掛けられた暗幕を取り除いてやった。

 すると、その場にいた俺以外の全ての人間が蒼褪めて固まった。

 顔面差別主義者共め、ざまぁ。

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