第二話 スケルトンさんのクッキング教室
ぐろてすく?な表現が含まれます、注意してください
たららったったったったん♪ たららったったったったん♪
スケルトンさんのクッキング教室のお時間です。
はい、今日は死後世界種の知的生命体スケルトンさんのお宅にお邪魔しました。
解説はいつものごとく、goodfull先生です。
よろしくおねがいします
『はい、よろしくおねがいします』
お家の元ご主人は既にお亡くなりになっているので、この家は廃屋扱いとして所有者はきっとスケルトンさんで良いのでしょう。
えーとまず、肉の塊を天井から吊り下げましたね。
これには、どういった意味が?
『はい、死後世界種の魂魄情報体は塩に弱く、そのため、肉の内部より塩分を取り除かなければなりません』
あぁ、なるほど、血抜きと言う作業ですね。
『はい、心臓から脳に掛けては太い血管が走り、また、構造上、全身の血液が集まる心臓に近いことも作業効率を高めます。また、頭部を下にするのは重力による落下運動を排出作用へと変換するためです』
なるほど、だから逆さ吊りになるのですね。
私も血抜きの作業をすることがあれば頭部を下にする形で作業を行ないたいと思います。
ゲームなどでよく、金属製のフックを使って首で支える形などを見ますが、あれは間違いなのですか?
『精肉加工の作業工程としては間違っています。正しくは、足を上にするべきです。ですが、ゲームのなかでの話ですので、映像としての見栄えを考慮した演出だと思われます』
なるほど、演出ですか。
たしかに実際に食べるわけではありませんから見栄え重視で良いですよね。
『はい、旧世界にあった何層建てもの豪華なウェディングケーキの可食部が見えている面積に対して極端に少ないように、イベントとして視覚的な娯楽を重視した結果だと思われます』
なるほどなるほど、理解できました。
おや、血抜き作業は順調に進んでいるようですね。
しかし、これだけ作業に時間をとっても大丈夫なのですか?
ほら、これから魂魄情報体を汚染するわけでしょう? 体から魂が逃げてしまいませんか?
『生物学的な死からおそよ二十分間は魂魄情報体も肉体内部に滞留し続けます。ですから、次の工程で魂魄情報体を汚染する際に転写する魂魄情報体を傷つけないため、時間ギリギリまで肉の内部から塩分を取り除く作業を行なうのです。また、熟練のスケルトンになると生きた状態から工程を始めることが多くみられます』
なるほど、職人ならではの技ですね。
一秒でも長く、そしてより多くの塩分を抜き取る。匠の技ですね。
しかし、先ほどから足首から下方向に太ももまでさするような行為、これには何の意味が?
『これは、搾り出しの工程です。太ももが第二の心臓と呼ばれるように、こうして血流を人工的に作り出すことで作業効率をさらに高めることができます。複数の死後種が立会い、共同で作業を行なうこともあります』
あぁーなるほど、これから生まれる赤ちゃんのことを想って、愛情をもち絞っているのですか。
農家の方の乳絞りにも似た、美しい光景です。
しかし、20分間もこの光景を見ているのも暇ですので、質問してもよろしいでしょうか?
『はい、カール様、なんでしょうか?』
スケルトンさんは、どうやって動いているんですか?
ほら、筋肉とか全くありませんし、超能力か何かでしょうか?
『死後世界種の知的生命体は魂魄情報体を中核とした精神生命体であり、現界のための媒体である物質を中心にしたエネルギーフィールドを魂魄情報体により媒体表面に展開し、その力を利用して活動します。また、効率的な活動のためには間接等の物理的なサポートを必要としますので、新しい肉体となる獲物の骨を砕いたり、折ったりといった行為は比較的避けられています。ですが修復不能なわけではなく、魂魄情報体のエネルギーを使用することによって、折れた骨を繋ぎなおしたりヒビを修復することは可能です』
ふむふむ、なるほど。
では、人形などでも十分なのでは?
『人形には魂魄情報体を繋ぎ止めるための糊となる部分が存在しません。ですから魂魄情報体を定着させることが不可能なのです』
あ~、それでは、美少女ロボット型のスケルトンさんは作れないのですね。
それは非常に残念です。
ところで、スケルトンさんは塩に弱いと言うことですが、塩を掛ければナメクジのように死んだりするのでしょうか?
『大量の塩で全身を埋めたならば死に至りますが、ただ塩を投げつけるだけではその通過した範囲の魂魄情報体を傷つけるだけに終わりますので効果的とは言えません。塩を水に溶かすなどの行為によって媒体に付着させ継続的な破壊を試みた方が、より効率的な破壊活動を行なえるでしょう』
なるほど、とにかく表面に塩分を塗るなり叩きつけるなりすればダメージを与えられるわけですか。
『はい、その通りです』
ありがとうございます先生、随分と参考になりました。
おや? もう血抜きの作業が終ったようですが、これは制限時間いっぱいということでしょうか?
『はい、こちらの獲物は死後に工程を始められたので、工程に掛けられる時間は非常に短かったようです。まだ肉のなかの塩分量は多量に残っていますね』
これは、失敗ということでしょうか?
『いえ、わざとです。作業をしていたスケルトンのそばにフワフワと浮かぶ魂魄情報体があります。今回はこれが対象への憑依を行なうようです』
憑依ですか? 転写ではなく。
『はい、事故等により現界するための媒体を失った死後種の魂魄情報体はこのように浮かんだまま再生の時を待ちます。こうして仲間が用意した媒体の魂魄情報体を捕食すると同時に糊となる部分へ自身の魂魄情報体を付着させ、媒体との同調を果たします。補足ですが、十分に塩分の抜け切っていない対象に憑依を試みても体内の塩分により阻害され、場合によっては憑依を試みた側が死に至ります』
浮遊霊が死に至るというのはとても詩的情緒溢れる表現ですが、浮遊する彼等に出会った場合は手でささっと散らしてやれば殺せるのですね?
『はい、十分に可能です』
しかし、作業時間が短かったことが「わざと」と言う表現の意味が解らないのですが?
『嫌がらせです』
あぁ、なるほど、わざと塩分の残る対象に憑依させることによって、その苦しむさまを見たいわけですか。
なんとも、性格が悪いですね。
『カール様ほどではございません』
……………………え?
ぅ、うん、さて、憑依が始まったようですねっ!!
新しい生命の誕生です! 感動の瞬間です!
あぁっ、誕生の苦しみにもがいています! 生命誕生の苦しみに激しく悶えています!!
『魂魄情報体が傷つけられ、肉体で言うところの苦痛を感じているようです』
おぉ、作業をしていたスケルトンさんが指さしてカラカラと笑っていますね。
確かに嫌がらせだったようです。
『こう言った場合、憑依後にさらに血抜き、あるいは適度な水温のお湯で肉を腐らせるなどの手段で塩分を取り除きます。ですが、今回はいまだ足から吊るされた状態なので何も出来ないようです』
あぁ、確かに、この状態ではなにも出来ませんね。
言葉は解りませんが新しいスケルト……ゾンビさんは物凄く怒って罵っているみたいですね。
それをスケルトンさんは物凄く馬鹿にしているようです。
まぁ、新しい肉体を用意してあげるほどの仲なのですから喧嘩できるほどの友達なんでしょう。
友情って、美しいですね……。
さぁ、ジタバタするゾンビさんを背景に質問をしたいのですが、憑依と転写の違いは何でしょうか?
『憑依は今現在見た通り、獲物の魂魄情報体を捕食しつつ自己の媒体として利用するものです。転写は対象の魂魄情報体を初期化、そして自己の持つ魂魄情報を転写して自身のコピーを作る作業です』
なるほど、その場合はきっと、自分の息子の為として丁寧に作業するんでしょうね。
つまり、彼等の目的は自身のコピペでしたか。
これはたしかにウィルスだわ……。
以上! 死後世界種の知的生命体スケルトンさんのお宅からお伝えしました!!
さて、過去の情報からスケルトンさんこと死後世界種の知的生命体への対策を考えなければならないわけですが、どうやって、こんな面白生物が誕生できたのでしょうか?
『科学の進展とその失敗によるものです』
え? 科学? ゾンビなのに科学?
あぁ、ウィルスとか、そういう理由付けになってたよね。
最近はナノマシンの暴走とかも多いよね……いや、一万二千年前でした。
あのゲームとか懐かしいなぁ、リアルサバイバルなこの世界でやりたいとは思わないけれども。
『人類の夢である不老不死を完成させるための実験でした。今で言う死後世界の科学は魂魄に触れる領域に達しており、そこで肉体に縛られた自我を魂魄情報体に転写することでそれを完成させようと試みました。複数回の失敗の末、結果としては成功しました。ただし、転写された情報には性格や思考、記憶の他にも自己保存、自己増殖といったものまで含まれていたのです。そして、二番目に精神生命体化に成功した被験者の男性から魂魄情報の汚染が始まり、死後世界の知的生命体は通常の人類から死後種と呼ばれる精神生命体に取って代わられました。もともとは一人の男性の人格なのですが、その後の経験により個体差は発生しています。ですが、本質的な部分は変わりません』
つまり、本質的に性格悪いんですね。
三つ子の魂百までどころか一万二千までですか。
性格が悪いと言うか、悪戯が好きと言うか、なかなかに憎めないスケルトンさん達だなぁ……。
お調子もので、お祭り好きで、死を恐れることなく、永遠を生きる、素敵なスケルトンさん達だなぁ。
でも、悲しいけどこれ、生存戦略なのよね。
ところ変わってここは我がグローセ……では無かった、禿のグローセ王国の兄弟国であるプロイセン王国の王都ハンブルグ。
クローゼ王国のなんちゃって貴族とは違い、本家本元の気位のお高いお貴族様のお国です。
この国、あんまり好きじゃないんだよね……滅べばいいのにと思うくらいに大好きなくらい好きじゃない。
自称ブルーブラッド、青き血をしてるそうですがミュータント生物かなにかですか?
兄弟国と言ってもプロイセン王国が兄の国で、グローセ王国が弟の国、ようするに見下されている状態です。
グローセの貴族は平民に媚びているとか、グローセの王家は品が無いとか……あれ? 後者は言い返しようがないぞ?
まぁ、とにかく、彼等の上から目線が私は嫌いなのです。
それでもプロイセン王国が兄の国であると自称するのは塩の供給権を握っているからです。
そんなところにアルプス連合王国からの親善大使としてやってきた私。
弟の国の、さらに弟の国であっても、親善大使がやってきた以上、外交儀礼として夜会の一つも開かなければなりません。
王族貴族って面倒くさいですね。ありがたいことに。
田舎貴族と思って質素なものを出されるかと思えば超豪華なものでした。
<料理>の加護持ちが作ったと思われる絢爛豪華な満干全席ときましたか。
さらには無駄に有力な貴族とその子弟をこれでもかと集められたようで、その歓待、私は嬉しく思います。
どうやら国力の差を見せ付けたいご様子。
ですよね、親書はともかく贈り物がただの毛皮なんですから。
彼等の言いたいことは口にしなくても解ります。
「こんな豪勢な料理、見たことも無いんだろう? この田舎者は」って。
お前達こそ「竜王」ロニーさまの蟲料理を見たことないだろ!!
見た目は凄く酷いんだぞっ!! 泣きたくなるほどになぁっ!!
それから、そんなお貴族様の態度にアルブレヒトくん以下数名がすでにキレかかっています。
そして、その怒りに満ちた瞳で早く動けよこのバカって「魔王」を脅すのです。
イタリアへの観光ツアーに連れてって以来こうなのです。
憧れのイタリアへのショッピングツアーを無料でプレゼントしたのに理不尽だとおもいませんか?
まぁ、とりあえず、敵を弱めんとすればまず強めよ、でしたっけ?
調子に乗るだけ乗っていただきましょうではないですか。
贈り物に魔物の皮を持ってくる蛮族相手に、貴族としての手本をお見せいただきたい。
「カール王子、おっと失礼、廃嫡されたのでしたね。えー、カール大使? あなたの<加護>は<おっぱい>でしたかな?」
あぁ、久しぶりに人の口から聞いたなぁ。
俺の加護は建前上<おっぱい>の特級だったっけ。
じつに、いやらしい笑みで嘲笑ってくれる。
じつに、醜い嘲りの挑発的な笑みだ。
彼等とて貴族、本当に馬鹿なわけではない。
あえて俺を挑発し、親善大使である「私」に無礼を働かせて、外交上の優位を得る気なのだろう。
じつに、拙い手だ。使い古された下策も下策だ。
外交は戦争だと言ったような言葉がある。
戦争も外交の一部だと言ったような言葉もある。
俺は今日この場に、実際に戦争に来ているのだ。
ここにお集まりの貴族たち諸君、戦場に来ておきながら少々、覚悟が足りないのではないかな?
「え、えぇ、まぁ、<おっぱい>ですが」
「おぉ、<おっぱい>ですかぁ、それはそれは素晴らしい。是非、私の情婦の胸も大きくしてくださいよ」
「いえいえ、私のお気に入りの娼婦こそ先にお願いしたい」
11歳児をここまで悪意で囲めるとは筋金入りのお貴族様だなぁ。
一周して褒めてあげたいくらいです。
ただ、同じ手を何度も使うということは、次に同じ手を使ったときは罠にかかるということですよ?
「やはり。これは、あれですかな? 母上のおっぱいが恋しくて得られたのですかな?」
命を賭して産んでくれた今生の母を中傷されて、覚悟が決まりました。
そろそろ笑えよ、こっちはわざわざ笑い者になりに来てるんだから。
「それはあまりと言うものです、たしか王子、いえ、廃嫡された大使どのの母君は一年も持たずに亡くなった筈。覚えてらっしゃらないでしょう。いえ、覚えてらっしゃらないからですかね? いやしかし、おっぱいとは、実に素晴らしい」
夜会の会場に大笑いの声が響いた。
周囲の者達も釣られてクスクスと笑い出す。
たしか、ルイーゼ巨乳姉様がこの夜会に出向いた際には娼婦かなにかのようにその胸をジロジロと見詰められていたことを思い出した。
シャルロットを嘗め回すように見てたロリコンも居ましたっけ……あ、あの太った奴だっ! 覚えているぞっ!!
塩の利権を握られている。
だから、グローセ王国は今迄、長きに渡る屈辱の下にあった。
東西を大国に挟まれたが故に協力しあった兄弟国であったはずなのに、現実はこれだ。
国の格には上があり下があり、外交儀礼上の過失があればグローセ王国が頭を下げるほか無い。
塩の供給を止められれば日干しになる。
ルイーゼ巨乳姉様は耐えた。ジークフリート兄様も耐えた。レオンハルト兄様ですら必死になって耐えた。ヴィルヘルム父様は家族を守るためにことさらに耐えてきた。グローセ王家は歴代ずっと耐えてきた。
でも……俺は耐えてやらないからな?
「そういえば、一つ、嬉しい報せがありまして、我がアルプス連合王国内で塩鉱山が見つかったのです。それからバチカン法皇国からも塩を手に入れることが出来るようになりました」
ドラゴンによる強盗も「手に入れることが出来る」の範疇だろう。間違いは言ってない言ってない。
塩鉱山とはBex塩鉱山のことだ。
前世の知識では知らなかったが、岩塩の存在は知っていたので先生に検索してもらったところ見つかった。
人間には辛い作業だが穴が大好きドワーフさんにとっては簡単なお仕事でした。どれだけ穴が好きなんでしょう。アルプス山脈を東から西まで貫通させる気だそうです。
塩の利権を握っていた、だから今までプロイセン王国は兄の国であれた。
それくらいの認識はちゃんと持っている。だから、誰もがこの一言の持つ重さは理解できただろう。
ざわつき始めたところで、さらに追い討ちを掛けるとしよう。
「それから貴様等、誰に対して口を利いているつもりだ? 余はハイランド王国、副王カール・グスタフ・ペンドラゴン。さきほどから情婦だ娼婦だと実に面白い話をしてくれたな? さらには余に対する嘲笑、許せぬな。プロイセン王国国王フリードリッヒ陛下。この不敬、この屈辱に対する懲罰はいかが致すつもりであるかお聞かせ願いたい?」
階段の上から11歳児を見下ろしていたフリードリッヒ陛下の顔色が失われる。
嘲笑ってた階段下の住人も同じだ。
国外での外交の場において副王は王と同じものとして扱われる。王の代理人なのだから当然だ。
俺に対する嘲笑とは、アーサー王に対する嘲笑となんら変わりが無いものなのだ。
不敬罪は基本的には極刑で、応用的にも極刑だ。
でなければ宣戦布告となんらかわりない。咎の無い親善大使を斬ることも宣戦布告と何ら変わりない。
懐にはアーサーくん直筆の身分を証明する書も携帯している。
「カールの敵は余の敵だ。いついかなるときでも好きに使え」と、アーサーくんが押し付けたものだ。必要なら使わせてもらおう。
ハイランド王国民の血は一滴も流させる気は無いが。
選択肢は三つある。
まず、俺達をこの場で始末し事故として処理する。一番妥当な決定だ。
二番目は、この場で俺を嘲笑した有力な貴族を全て切り捨てることだ。
三番目は、ハイランド王国に宣戦布告をすることだ。
フリードリッヒ陛下の手が振られると、会場を警備していた騎士達が一斉に抜剣する。
アルブレヒト君たちが俺の身を守るように立ちふさがる。未だ剣は抜いていない。
「こいっ! 「寝取られ号」!!」
もう阿吽の呼吸ですね。
夜会会場のバルコニーやら壁やらからドラゴンの首がニョッキニョキ。
さて、剣は抜かれた。これで三番目は無しだ。宣戦布告するならば使者として俺を帰さなければいけないのだから。
首だけ返すという野蛮なやり方もありますが、それはこの国の流儀ではない。あと、物理的にも不可能でしょう。
「では、もう一度、お尋ねしたい。その兵士達の剣の向く先について。血を見るまで鞘に剣が納まることはありませんよ?」
多数のドラゴンごと俺達を殺すのか、有力貴族の子弟を余さず刃にかけるのか、実に素敵な二択の問題。
プロイセン王国国王フリードリッヒ陛下、どうぞお選びくださいませ?
実に豪華な晩餐会で、実に豪華な顔ぶれだった、だけど青い血を自称する彼等の血が赤かったことだけは不思議でした。
領土的野心を持って雪解けと共に元フランク帝国領土に押し入るつもりでなければ、こんなことをせずにすんだのですが。
人間、手元にあるものだけで我慢するって大変ね。
さて、ドラゴンの威圧に負けて自国の有力貴族を大量にお斬りになられたプロイセン王国国王フリードリッヒ陛下はこの先どうなさる……いえ、どうなるのでしょうか?
頑張ってくださいませ。




