第一話 ふはははは、ずっと俺のターン!
俺は「英雄」じゃない。
俺は「魔王」だ。
……俺も昔は若かった、今でも11歳なので幼いのです、つまり若い時期などなかった?
いやいや、そうじゃない。
ジーク兄さまの病気が移ってしまうところでした。
厨二を始めるには、まだ三年の猶予があるはずなのです。
そう、俺は「魔王」しかし、アルプス連合王国にはさらに偉大な王が居たのです。
彼は「竜王」蟲料理人ロニーさん。
男の心を掴むには胃袋を掴めと言いますが、まさか、ドラゴンの心も胃袋で掴みきれるとは。
ドラゴンは基本的に主以外の「命令」は聞きません。
でも友達の「お願い」は聞いてくれます。
なので、蟲料理人ロニーさんが「ちょっと世界の半分を焼き尽くしてきて?」とお願いすれば快諾されてしまうのです。
なんということでしょう。
姐さんが「女帝」として君臨しているとは言え、野生のドラゴンはその配下にあるわけではありません。
グローセ王国から廃嫡されたこの私に未だに忠誠を誓ってくれているっぽいロニーさん。
この友情は永遠のものとしておきましょう。
世界を半分こね。半分ずつ仲良く割ろうね♪ ロニィとボクとで半分こ♪
そして協力しあうことで幸せは二倍になるのです♪
フランク帝国の崩壊からおよそ二ヶ月。
色々なことがありました。
まず首都であったパリは滅びました。
もとより皇子や皇女が多い土地、さらに魔王シャルルマーニュの居城、近衛とされて居た者達も心の底から魔王に従っていたわけではありません。王都の守備兵ももちろんのこと、誰が味方で誰が敵であるかも解らない混沌のなかに沈みました。
残念なことはエッフェル塔を見損ねたことくらいでしょうか?
そして、もともとは魔王の子供を始祖としながらも、代を重ねるごとに関係が薄れていった貴族間の争い。
ある者は皇子を立て、ある者は皇女を、ある者は自分自身をフランクの国土の主であると宣言し派閥争いが発生しました。
首都から大きく離れた旧スペインの地では全土が独立を宣言した上で東西に別れての大戦争。ポルトガルもこっそり参戦。
もと従属国である国々からは絶縁状と宣戦布告。
自分で言っててなんですが……「わけがわかりません」。たぶん、これが一番正確な表現。
そんなこんながありましたが、雪が降ると共にぜんた~い、止まれっ。
人の軍隊は冬という時期に弱いのです。
雪が振り出せば帰りの行軍も考えて停止せざるを得ないのでした。
寒さに弱い爬虫類だから冬とか辛くないの? と、「寝取られ号」に尋ねたところ、ご主人様の質問に嬉しそうに尻尾を振って俺へと攻撃を加えやがりました。
ぬるりん♪
「我はドラゴンであるぞ!! いくら我が主カールとはいえ爬虫類呼ばわりは許せぬ! そしてその防御、なまじ無傷で受け止められるよりも腹が立つっっっ!!」
二度三度と尻尾を振って児童虐待を「ぬるりん♪ぬるりん♪」この国の児童福祉法はどうなっているのですかっ!! はい、存在しません!!
やがて「寝取られ号」は諦め、深くなが~~~~~い溜息を吐いてグッタリしましたので、久しぶりに主従関係を理解させることが出来ました。
さて、敵の地上部隊は動けず、こちらの空挺部隊は動ける。
こ・れ・は……やりたい放題の状況ではないですか!?
竜王様ばんざぁぁぁぁぁぁい!! ジーク! 竜王! ジーク! 竜王! ロニーさま万歳ぁぁぁぁぁぃ!!
ちなみに、アルプス山脈のドラゴンをかったっぱしから俺が殴ってドラゴン軍団を作る予定もあったのですが、一人の主には一頭のドラゴン。主を巡って死闘(文字通り)が行なわれ、ラストスタンドなドラゴンだけが生き残るそうです。
不可能でした。
ではまずはフランク帝国残党最大勢力であるヒルヒルへの嫌がらせからと参りましょう。
ヒルヒルは、バカチンとのあの戦闘らしきなにかを終えた後、次の動きが無いかを見張るためニース周辺に駐屯し続けました。
あるいは、あの色ボケ魔王に抱かれるのを嫌がっての行動かもしれませんけどね?
そうして軍として不自然でないほどには引き伸ばそうとでもしたのでしょう。
まぁ、そんなことしてるからチキチキ!暴君だらけのフランク帝国皇位継承権ロイヤルバトルに出遅れたのですが。
一万三千年を生きたあの大魔王がポックリ死ぬなんて思いませんよね、普通は。……おい、腹黒マクシミリアン陛下、普通じゃないぞお前。
そんなこんなで決戦地のカーン、そして首都であるパリから混乱した情報が錯綜、遠隔地まで正しい情報が伝わるにはとてもとても長い時間がかかりました。
ニースでバカンスに興じていたヒルヒルが魔王の死を知ったのは、皇族のなかで一番最後だったんじゃないでしょうか?
そうなるように僻地に誘ったわけですけどね。ぷーくすくす。
そして、パリへの帰還を目指すのですが300万も軍勢を抱えてちゃ、単身拙速とは参りませんよね?
さらには地方領主が叛旗を翻し、通行を邪魔してくる始末。
邪魔者が現われ、道中の状況も解らず、背後のバチカン法皇国にも睨みを利かせなければならずで進退窮まった模様。
それでもニースからマルセイユにアヴィニョン、そして北上しリヨンまでを走破したのは流石です。流石、あわてんぼう姫将軍ヒルヒル。
しかし、そこで冬将軍様に捕まってしまいました。
いやぁ、天候には勝てませんなぁ。天に愛されしシャルロット以外には!!
あん? 天の野郎、俺のシャルロットに色目使ってんのかてめぇ! こっちには天よりお強いgoodfull大先生が着いてんだぞゴラァ!!
滅ぼしてやろうか天の野郎!?
『カール様、現宇宙を破壊しますか?』
やめてつかぁさい。やめてつかぁさい。お願いしますから、やめてつかぁさい。
さて、現場のカールさんと中継が繋がっております。
「ドラゴンが来たぞぉぉぉぉぉ!!」
狼少年は、そう嘘をついて死んでしまいました。
でもボクは嘘をついていないので、死にません。
「ギャース! ギャース! ギャース!!」
まぁ、ボクが言わなくてもドラゴン達の叫び声が先に街に届くんですけどね。
偉大なる「竜王」さまのお力をお借りして、空中からの爆撃を行ないます。
リヨンの街の皆様は「キャーキャー! ドラゴンさんカッコイイー!」と口々に、建物の中に逃げ込みました。
ヒルヒルの魔法兵団の魔法は怖いですからね、まず高高度から急降下、水平に滑空しながらピンピントの精密爆撃、そして急上昇して高高度へ離脱。
ふふふ、あの生きたアンサイクロペディア、大魔王ルーデル閣下を思わせる急降下爆撃と反転離脱の急上昇。
魔法兵団? ははは、目に捉えられてもおらぬではないか。
素晴らしい、素晴らしいぞ我がドラゴン軍団よ!! ……あ、軍団は「竜王」ロニー様のものでした。
都市に落とすための手頃な材料ならばいくらでもありました。
以前、黒カマキリさんたちがエルフを追い詰めた際に伐採した今後百年は困らないほどの木材が。
地味に邪魔だったんですよね、アレ。森の再生のためには下手に腐っても困りますし。
環境省長官ことエルフさんに囲まれていて死ねばいいデニスくんから処理を頼まれていたので、処分のついでに落としておきました。他にも色々と転がっていたものも。
産廃産廃、夢のアイランド♪
「おのれカールっ! 毎度毎度ようもやってくれるわ! こちらが動けぬ身と知ってのやりたい放題!! この借りは、必ず返すからのぅ! 覚悟しておれよっっ!!」
「お姉さまはカール様を大変高く評価なされていたのではないですか? とてもよい男だとおっしゃてたはず……」
ヒルヒルの弟とは思えない素直な美少年ピピンくんが尋ねる。
あの色ボケ魔王の唯一の長所は子供も美形というその一点だけだな。
しかし、ピピンくんは美少年だなぁ、素直で可愛いなぁ、のっぺりーの男爵はジュネーブの都で彼と比べられていたのか……。
許すまじヒルヒル。
貴様にとって最も屈辱的で濃厚な敗北感を与えてやるわっ!!
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! ピピン、絶対にカールのような男になるではないぞ? おぬしはそのまま素直なままに育つのじゃぞ!? 解ったの? 解ったのっ!?」
え? ボク素直ですよ? 自分の心に。と~っても。
姉の言葉と剣幕に、怯えたように……いや、完全に怯えて頷くピピンくん。可哀想じゃないか。
八つ当たりはいけないよヒルヒル。
「くそうっ! くそうっ! くそうっ!!」
普段は見せない姉の醜態に、どう反応を見せてよいのか解らないピピンくんが可哀想でした。
ごめんね、ピピンくん。全てはヒルヒルが悪いのだよ。
ふはははははははは!!
次のターゲットはバカチン法皇国、この際、色々とショッピングさせていただきましょう。
むか~しむかし、この国には150万もの(自称)聖なる騎士達がおったそうな。それは遥かな昔、三ヶ月前のことじゃ。
カマキリの赤が怒りに狂い、行列を埋め尽くす大ガスとなって押し寄せてきた。枢機卿を滅ぼし、聖騎士を飲み込み、自らの命が失血死で果てるまでゾンビ達は戦い続けた。
以来、この国に生息している知的ナマモノは三種類です。
まず神よりの恩寵である聖なる<加護>を持ち、戦闘能力は素人の自称聖人達。
そして、長い長い間、自称聖人達の手によって苦しめられてきた幻想世界種の人間達。
最後に、奴隷生活から逃亡しながら人間への憎しみを捨てきれなかった元・逃亡奴隷の亜人の皆様と、奴隷と関係なく他所からやってきて亜人至上主義を掲げた馬鹿の面々だ。
まさしく三国志。
はっはっは、どれが、魏・呉・蜀かな?
じゃあ俺は黄巾賊ね! 張角ね! 時系列? しらんがな。
ゾンビ映画と言えばショッピングモールでのお買い物が定番だよねっ!!
お買い物をするには籠が必要です。なので、ドラゴン用の手提げバックを用意しました。
大きいですね。
手提げバックというより、バケツかな?
これはショッピングのやりがいもあるというものです。
「アルブレヒト殿。そして戦闘部隊の皆。輜重隊の皆。それから、エルフにドワーフ、そして多くの亜人達よ……。廃嫡された王子に過ぎないこの俺に、未だ着いてきてくれたことを感謝する。これからも、皆、俺に着いてきてくれるか!?」
「カール王子……。いえ、カールさま、水臭いことを……我々は、貴方とともにあったことを誇りに思っております。このアルプス連合王国という平和な土地を作り上げた貴方様に皆、着いていきますとも!!」
「皆……ありがとうっ!!」
アルブレヒトくんの言葉には感動です。そして、その言葉に頷く面々にも感動です。
こんなボクに着いてきてくれるなんて……。
なので、ショッピングバックに詰め込みました。
「カ、カール様!? これはっ!?」
ドラゴンは主以外の者を乗せる事を好みません。好まないどころか殺意を見せます。主からの頼みでやっとと言うところです。
なので、着いてきてくれるという皆には手荷物になっていただきました。
「いや、皆、着いてきてくれるって言ったじゃない? 頷いたじゃない?」
「いえ、それはこう言う意味ではっ!!」
「フォロミー。は~い、ドラゴンの皆さん、ショッピングバックに乗客の皆さんを詰め込んでお空の旅に出発で~す」
否応なく離陸させました。
もちろんボクは「寝取られ号」の背中です。
もしボクが他のドラゴンのショッピングバックの中に入っちゃうと嫉妬されちゃいますからね。
仕方が無いですよね?
わくわくのドラゴンショッピング。まず最初のターゲットは食料庫です。
もともと聖騎士団150万人分の食料と、逃亡した亜人奴隷の分も用意されていたはずですから、少々大幅にガッツリと搾り取っても全然構わないはずです。
ドラゴンさんはよくお食べになりますから、まずは彼等を納得させましょう。
ショッピングバックから降りたアルブレヒト君達を使って他のドラゴンの持つ空のショッピングバックに食料を詰め込みます。
ほらそこ、嘔吐してないでキリキリ盗むっ!!
満載になったバックを持ったドラゴンさんには一度帰っていただいて、次の合流地点で落ち合う手はずとなっております。
一つの建物あたり十頭のドラゴンさんに囲まれて、バチカン法皇国の皆さんが一切の抵抗なさらないので随分とショッピングが捗ります。
途中、キラキラした建物や、豪華な建物がありましたので、なんだか綺麗だなぁと思える金色のものとか銀色のものとかキラキラ光る石も回収しました。
もちろん、ドラゴンさんに囲んでもらった上で。
あとは命の源、塩ですね。さすがに三方を海に囲まれた長靴半島。塩作りは盛んで備蓄もたっぷりでした。
わっせわっせと運びます。
ときおり「不可侵条約がっ!」と言われる方がおりましたが、こちらは「山に入ったら殺す」としか言っておりませんので知りません。
条約なんてありませんよ?
一応、聖人様達の倉庫や建物や住居のみを一切合財に狙いましたから、この方々が清貧に生きる分は十分に残ったことでしょう。
北から南、東から西へ、この長靴型ショッピングモールは大きすぎます。
途中、羅馬とか言われる土地に一際豪華なテナントがありまして、その一室である見知った、いえ、一方的に見知った知人と出会いました。
たしか<先見>のラウロ君でしたっけ?
彼の目に何が映っているかは知りませんが、まぁ、あまりよろしくない未来なんでしょう。ほら、ヨハネの黙示録とかそういうの好きじゃないですか、キリスト教って。
本懐本懐。ちょっとソドムとゴモラってくださいまし。
ディ~エ~スイッラェ♪
「………………………………………………魔王」
ボソッと一言だけ告げられました。
いえ、私の名前はカールです、信長ではありませんよ?
あと、我等の中では一番の小物がボクですよ?
「竜王」ロニーさんに比べたらゴミのようなものです。
最後にほんのちょっとだけ、わずか五年ほど生きられそうな食料やその他を、元・奴隷である幻想世界種の人間さんたちが暮らす領域にドラゴンさんたちが落としちゃったことだけが残念でした。
三秒で拾えなかったので三秒ルールの外になってしまい、本当に残念でした。
自分達だけ逃げ延びた奴隷と、逃げられなかった奴隷。
神に選ばれし人間と、幻想世界の人間と、亜人至上主義者の亜人。
皆様方の間には言葉では語りつくせないとてもとても深い絆があることでしょう。
その美しい友情に涙しながらボクは初めてのイタリア旅行でのショッピングを終えたのでした。
ショッピングバケツで連れまわした結果、アルブレヒト君たちの忠誠心が10ほど下がった気がしたので、あとで褒美:金100を何回かコマンドしなければならないかもしれません。
あのゲーム、金やモノで買える忠誠心ってなんなんでしょ?
「竜王」ロニーさまには「カース・マルツゥ」というイタリア特産の呪われたチーズを献上して機嫌をとっておきました。なにせ「カース」です。
これは、チーズのなかに生きたマゲッツがうごうごしたチーズで、これを見た瞬間「これだっ!!」と言う顔をされましたから、きっと彼の蟲料理の世界は更に広がりを見せることでしょう。
そう、蟲は甲殻類だけじゃないよ!!
僕は絶対に口にしないけどね!!
……あ、「真実の口」を見物し忘れた。
そして、まだまだ続くぞっ! ふはははは、ずっと俺のターン!
「まずは、おめでとうございます。と、賛辞を申し上げたほうがよろしいのでしょう。おめでとう御座います、元・正統ハープスブルク王国国王にして、現・東ハープスブルク王国国王フェアディナント陛下」
「それは何かの皮肉かな? カール大使どの」
苦笑いしながら、実に愉快そうに笑われた。
「いえいえ、以前お会いしたとき陛下が兄弟であるような国である西ハープスブルクの滅亡を悲しまれておりましたので。このたびの復活は実に喜ばしく感じているものかと思いましての賛辞です」
「くっくっく、実に目出度い。して、廃嫡されし王子、カール大使よ。このような寒空の中、この度のご用向きはなんであるかな? 降伏勧告か? その前に宣戦布告でもしにきたのかな?」
現在王城の上を大群のドラゴンが飛び回る、大ドラゴン砲艦外交中なのでした。
事実上、核爆弾を首都に持ってきてからの外交ですね。
「いえ、我が「女帝」から言付かりましたお言葉を申し上げます。貴国が正統ハープスブルク王国となった際、親書とともに祝いの品々を送り届けた。であるのに、貴国からはアルプス連合王国の建国に対して祝いの品どころか親書の一つも寄越さぬとはどういう了見であるかと。我が国を下等なるドラゴンの国と見下しておるのであれば、相応の報いをもってこれに応じよう。だ、そうです。祝いの品としては貴国が国境線として主張しているアルプス山脈の全てをお望みです。どうお応えいたしますか? 陛下」
宣戦布告はしない。
ただし、お祝いの品として国土を割譲せよという力こそジャスティスな外交法。実に楽で良いです。
「…………はぁ~~~~~~。失礼をした、詫びの意味も込めてアルプス連合王国へ我が国が国境線として主張している全ての山脈領土を放棄する。国境線を山の麓にうつすゆえ、失礼の程お詫び申し上げると「女帝」陛下にお伝え願えるかな?」
親書には「山に入ったら殺」と実に解りやすく書いてあったので、祝いの品どころか親書すら届けようがなかったわけですけどね?
えぇ、もちろん親書は私が書きました。
だって、姐さん、ペンを持てないんだもの。
「しかし……国境を接する国に、実に厄介な国が出来たものだな。余の代で潰えるか……」
顔を曇らせたフェアディナント陛下、俺が貴方の立場でもそう思ったでしょうね。
「いえ、それほど悪い話でも御座いません。ドラゴンたちは群蟲種を大変好んで食しておりますので、貴国内にて群蟲種を発見した際には是非ともお知らせ願いたいとのこと。すでに近隣の国々にもお伝えしたところ、実に喜んでいただけました。もちろん、御代はいただきません。ですが、そのために上空を飛行し通過することだけはお許しください」
「竜王」ロニーの作るものなら蟲に限らず美味しく食べるのだが、ドラゴンたちも「竜王」さまの機嫌をとるためなら喜んで蟲を駆除し、そして搬送してくれる。
未来のことを考えると、二代目、三代目の「竜王」を用意しておく必要があるやもしれない。
いっそ、アルプス連合王国の郷土料理は蟲ということにしてしまおうかしら?
みんな、泣き叫んで喚き喜んでくれることでしょう。
「なるほど、それは、実に嬉しい話だな」
非常識極まりない、天からの贈り物、それが領土割譲への対価であった。
「でしょう? 他の国々も、是非、自らの国の山にドラゴンの駐屯地を作ってはいただけないかと申し上げております」
実際にはアルプスに生息するドラゴンに頼らなくとも、現地のドラゴンと話をつければ良い。
群蟲種を持っていくと「竜王」が美味しい料理にして食べさせてくれる。というグルメ情報を流すだけで十分なのだ。
グルメ、という概念を持たない野性のアニマルは本当に<料理>の加護に弱いんだなぁ。
ほんと「竜王」さまは生きた国家機密だわ。
「理解した、我が方にも得がある、いや、大きく得があるということですな? 発生の報告を告げるための使者は山に入っても大丈夫であるのでしょうな?」
俺は、用意した旗の布を差し出す。
アルプスの山々を背景にした雄々しきドラゴンの旗だ。
アルプス連合王国の国旗である。
「はい、こちらの旗を印にしていただければ、これを見つけ次第、本国まで参らずともドラゴンの方からやってくることでしょう」
野生のドラゴンの情報網は井戸端おばちゃんネットワークよりも早いのだ。
「うむ、山など魔物が湧いてでてくるだけの場所。それを譲ってドラゴンの加護が得られるなら申し分無い……いや、夢のごとき条件だ。群蟲種の侵攻にはたびたび泣かされる……どころではない被害を受けたと歴史でも知られておる。西ハープスブルク王国もそれで一度は亡国の危機を迎えたことも鑑みれば、実に、魅力的な条件だ。むしろ、余の方こそお礼の品を用意せねばなるまい」
「で、あれば、一つ。周辺の国々と連絡をとり、群蟲種の発生を伝え合えるように環境を整えて頂きたい。群蟲種の襲来を他国の不幸だと笑うことなく」
「…………………………………………………………よかろう。承った」
こうしてヨーロッパ東南方面における群蟲種への対抗戦略が決まり、国家をこえた警戒索敵防衛網の構築へと繋がっていくのであった。




