追話 いやぁ乱世乱世。本当に。
さて、家なき子となった俺のホームグラウンド、アルプス連合王国に戻ってきました。
亜人奴隷達の亜人至上主義のキャンペーンイベントは既に終ったようで見逃してしまいました。
ロッテンマイヤーさん以下、館の面々に世話になった亜人達が本気で怒ってしまったのです。
それはそれは辛辣で「今お前が食べてるもの、今お前が着ている服、今お前が住んでいる家!! その全ては彼女や彼等が用意してくれたものなんだぞ!! そんなに人間が嫌いなら、ものを食うなっ! 服を脱げっ! 家から出ていけっ! そして、バチカン法皇国にでも帰っちまえ!!」とかなんとか。
そうね、暖衣飽食を無償で与えられながら、その功労者に文句を言うならそうなるよねぇ。
これが我慢の臨界点だったようです。
そう、黒カマキリさんの一件からまだ半年もたたないのです。
衣食住の全てはおもにグローセ王国から「与えられている」ものなのです。
亜人といっても馬鹿ではないのです。
素敵なお家を建ててくれるロッテンマイヤーさん。
ここで生きるためのルールや言葉を教えてくれるハインツ老。
美味しい料理を作ってくれるけど、どうしても虫を混ぜてくるロニーさん。
荒れた生態系を戻そうと必死に頑張ってエルフさんとイチャイチャしてるから滅すればよいデニスさん。
毎日毎日自分達のために食料を運んでくれる輜重隊のみなさん。
対話の通じない異世界の危険な生物と自ら進んで戦ってくれているアルブレヒト君にその部下達。
ここまでされておきながら感謝を覚えない亜人に居場所はありません。
結果、人間蔑視の差別主義者たちは放逐されました。
物理的に、バチカン法皇国へ空輸で。
えぇ、差別主義がどう言ったものか身をもって知れば良いんじゃないですか?
差別される側としてさ、命がけですけど。
ほら、バカチンから我々の所有物がなんとかで返せって書状も来てましたし、お返しましょうそうしましょう。
悲しいけれどこの世界「強者の権利」はあっても「弱者の権利」なんてものは存在しないのです。
奴隷として生まれ、奴隷として育ち、学もなく、人間を憎しみ、自分の夢を叶える術をもたない彼等には同情はします。
そして、可能な範囲でそれを保護してきました。
それでも、憎しみを忘れられないものや、亜人こそ偉いと勘違いした者達を、調査し、追跡し、選別し、リストにまとめ、そして粛清が行なわれました。
一斉駆除でした。流石の手際としか言いようがありません。
流石の腹黒の手腕でした。
「せっかく、平和に暮らせる場所に逃れて来れたのにね」
「心とは、ままならぬものゆえなぁ」
お互いに頷きあう。
ここは「女帝」が住む……と言われている館。
そもそも、姐さんは洞窟のほうが好みだそうで、外交上の理由などで賓客を迎えるときにのみ使われる特別製の館だ。
どう特別かといえば、ドラゴンが入れる。これが特別でなければ何が特別なんでしょう?
「しかし、ままなりませんねぇ」
「ままならぬなぁ」
メランコリックな会話が通じるだけ、我が「寝取られ号」よりも話が通じて大変よろしい。
「そういえば西ハープスブルク王家の復活に伴い、東ハープスブルク王家も東の名前を付け直すことにしたそうです。おかげで看板等の新調で忙しいそうですよ。まったく、碌なことをしませんね、あの禿は」
「うむ、まぁ、義憤に駆られての事ゆえな。あれでヴィルも若い頃はヤンチャでな、いまのレオンハルト王子に似ておったよ。あれこれやらかしてなぁ。髪の色も、髪の量も、そう考えるとレオンハルト王子の未来は暗いな。いや、明るいのか?」
今はフサフサな獅子の鬣も、寄る年並みには勝てませんものね。
金の髪か禿頭、どちらにせよレオンハルト兄様の頭部の未来は明るいようです。
二人で「くっくっく」と笑う。
「あぁ、そうだ。一つ聞きたいことが。フランク帝国の中央が滅び分裂するという予想でしたが、全くそんな予兆が無かったのですが? なにか情報に間違いでも?」
「いや、実際に分裂しておるではないか。カール王子は自分自身を計算に入れてなかったのではないかな?」
……なんですとぉ?
「ほれ、カール王子にはルイーゼとシャルロットと言う美人姉妹が居る。それがあの魔王シャルルマーニュの手に落ちると考えたなら、カール王子はなんとしてでも滅ぼすに決まっているだろう? ほれ、余の予想通りではないか」
「こんにゃろう。嵌めやがったな」
マクシミリアン陛下はニヤリと笑った。
「嵌まってよかっただろう? あの魔王が姉妹の美しさを知れば必ず全面戦争を仕掛けてでも奪いにきたはずだ。むしろ今まで知られずにいたことの方が幸運だったとも言える。小国の王として知られぬように手配するのはずいぶん苦労したのだぞ?」
「つまり、貸しだと言いたい訳ですか?」
なんとも答えずに、肯定とも否定ともとれないニヤリという悪い笑み。
まぁ、シャルロットが助かったと思えば、国の一つや二つ助けた程度のことはチャラで良いのでしょう。
あぁ、会いたいなぁ。シャルロット……。
にぃちゃんは、今日も、お前のために頑張ってるぞ~。
「そう言えば、カール王子は王子で無くなったのだったな。では、王女でなくなったマリアと平民同士で吊り合うのではないか? うむ、よい考えだと思わんか?」
くっくっく、狭い館に閉じこもって世界を知らぬ貴様には解らぬだろう。
聞いて驚け、俺はこのために帰ってきたのだからな。
「はい、グローセ王家からは継承権剥奪、絶縁、国外追放の処分を帯びたこの私。このたびハイランド王国の副王になりました!!」
「……なっ!?」
はっはっは、見たかった、この顔を。
ありがとうマーリンのじっちゃん。この点だけは感謝しよう。
この腹黒に勝利できました!!
「何がどうすればそうなるのだ!? うぬぬぬぬ、解らぬ! 全く解らぬわ!!」
「ほれ、平民のマクシミリアンよ、余にかしずくが良い。あと、敬語を使いたまえ、庶民である君とは違うのだからねぇ。今までの非礼は許すが、次からは不敬罪であるぞっ♪」
「くっくぅぅ、閣下、お許しを……」
「ほっほっほっほっほ、許してやろう。かっかっかっかっか」
副王は国王の代理人であり基本的に国外では王と同等に扱われる存在である。
つまり、平民が口を利ける立場ではないのだ。
気が付けば王子から副王までランクアップしてるじゃない俺。
「などと言うと思ったかぁぁぁぁぁぁ!!」
「不敬であるぞぉぉぉぉぉぉ!!」
まぁ、そんなこんなでマクシミリアン陛下にはアルプス連合王国で隠居と言う名の相談役を務めてもらっているのでした。
国を動かしたことのある人が居ないと建国したって潰れますからねぇそりゃ。
うちの禿より優秀なブレインを調達できてなによりでした。
むしろブレインを失ったあの禿の方が心配です。抜け毛的なもので。
いまだにあの禿はマクシミリアン陛下の生存を知らず、陛下の墓標の前で「マックス……余は、お前の国を救ったぞ……。だが、お前を、マリア王女を救えなかったこの無力……許してくれ……」などとヒロイックなことを涙を溢しながら言っておりました。
先生経由で見て大笑いしましたけどね。ぷぷーっ!
ちなみに、うちの王家では未だにだーれも知りません。
バレちゃうと売国奴の王! とか、西ハープスブルク国民からヤンヤヤンヤと突付かれますから。
刈り取りの経緯はこんな感じでしたっけ。
先生、マクシミリアンとマリア王女の人形を、細胞レベルで再現したものをお取り寄せお願いします。
『アダルトコンテンツに相当するためサービスの利用は認められません』
……あぁ、下半身に付属したアレか。
では下半身に付属したアレを取り除き、アダルトコンテンツに抵触しない範囲で再現した人形をお願いします。
『かしこまりました』
ダンボールビリビリ、プチプチをプチプチ。
いやぁ、凄いですねぇ。匠の技ですねぇ。
本人にしか見えない。
さらに血管内には血を再現したものまで詰まってる。
でも、下のアレは着いてない模様。さらにニップルも着いてない模様。
さらにお口も使用不可の念の入れ具合。アダルトコンテンツの壁は硬いなぁ。
とりあえず、服やら甲冑やらを着せていそいそと。
これでバレないでしょ? きっと。
「と、言うわけで姐さん、ワイバーン上のマクシミリアン陛下を口の中に咥え、この人形を地面に落としてください。お願いします」
卵を抱えた姐さんは少々グズったが、ジークフリート兄様を引き渡した件で恩を売ってあるから大丈夫だ。
そんなことより泣けたのは、
「私が死んで、主が生きるのであれば本望! せめてと思えば一撃で、私を苦しめることなく死なせて欲しいことを望むだけだ」
先生の翻訳サービスを用いて、マクシミリアン陛下のワイバーンを説得したときのこの男前っぷりだ。
兄貴って呼んでいいですか?
と、いう段取りで行なわれた八百長空中戦。
マクシミリアン陛下は死ぬつもりだったらしいがそうはいかん。
後始末をこっちに押し付けるな、お前も働け。
なのでワイバーンの命を賭した協力の下、姐さんのアマガミ地獄という刑罰にかけながらアルプス連合王国へ誘拐しました。
姐さんいわく、ずっと口の中に入れておくのは大変だったそうです。
マクシミリアンいわく、たいへん臭かったそうで、姐さんにそれを伝えて懲らしめて貰いました。
年長者には敬意を払いなさい。一万歳越えの才女さまですぞ。
あとお前のために命を捨てたワイバーンに謝れっ!!
マリア王女の方は簡単でした。
まず先生に頼んで居場所を特定、王宮内、自らの自室で父の無事を祈って目を閉じて祈るマリア王女。
そこを、背後からテイザーガンでバリバリッっとな。一丁あがりです。
女性に対して乱暴? 知るか! こっちは忙しいんじゃ!!
「寝取られ号」が王宮内でやんややんやと騒いでいるうちに人形を置いて、すたこらさっさです。
アルプス連合王国に帰ってきてからマクシミリアン陛下を姐さんの口からポイッちょした上で一言、
「馬車馬のように働け、さもなくばお前の娘に不幸が起きるぞ」
実に素敵な取引でした。
あの腹黒陛下も娘を人質に取られては従わざるを得ないのか身を粉にして働いてくれました。
恋に恋をしていたマリア王女には、なんだか最近、避けられ気味です。
きっとドラゴンに乗って颯爽と現われ帝国軍を殲滅、そして手を取り合う二人……のようなものを期待なさっていたのでしょう。
現実にはジュネーブの人々の心を折って降伏を誘った敵でしたけどね。
彼女の王子さまは「英雄」で、俺は「魔王」ですから、夢から覚めてしまったんでしょう。
良い事です。
彼女には僕よりも、もっと素敵な誰かがお似合いですよ。
フランク帝国の元領土は皇子に皇女が正統皇位継承者を名乗ってバッラバラ。
さらには魔王に対して長い長い恨み辛みを持つ者たちが蜂起。
魔王という脅威から逃れた従属国は一斉に独立を宣言。
バカチンどもは聖騎士団を失い戦闘要員を欠如、幻想世界種の人間奴隷達が一斉蜂起。
そんなところに亜人至上主義者を放り込んで置きました。三国志?
まぁ、そんなこんなで世界は乱世。原因は主に俺っ!!
これからどうなっていくのでしょうやら?
いやぁ乱世乱世。本当に。
まぁ、僕の知ったこっちゃありませんけどね。
世界を巡って平和にする? そんなことは「英雄」さまにおまかせしますよ。
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残酷なことはしてるけど、残酷「描写」はしてないよね?
ちょっと不安。でもつけなーい。むしろそういう描写を期待されるとこまるからー。




