第九話 いともたやすく行われるえげつない行為
私は、今、深刻な悩みを抱えていました。
これはかの大先生ですら答えられない問題でした。
新たな技の構想はあります。ですが、名称が決まらないのです。
そうこうしているうちに戦争のお時間が近づいてきて焦っております。
ニップルレィザァ、そう、それは「英語」だったのです!!
ウカツでした、「エレクトリカルパレード」も英語です!!
私、ドイツ人アルよ! 英国人違うアル!! 米国人でも違うアル!!
あぁっ、アーサー王が名乗りを上げその口上を始めやがった!!
空気読めよっ!! 俺はまだ考え中だぞっ!!
「我が名はアーサー、アーサー・ペンドラゴンである。ハイランド王国の国主にして12の部族を纏める長なり!! 一万と三千年にわたる屈辱。今日、この日、この場にて晴らさん!! フランク帝国皇帝!! いや、魔王シャルルマーニュ!! 一万三千年に渡り恐怖で国を、民を、隣国を、支配し続けてきた貴様の所業!! 美しき者と見れば男であろうと女であろうと、人の妻であろうと、人の夫であろうと、大人であろうと、子供であろうと、自らの子供すら!! その全てを己が閨に連れ込み、老いて美しさを損なうと見るや無情にも斬り捨てる……貴様の悪行は今日ここに潰えるものとしれっ!! 我はアーサー・ペンドラゴン!! ハイランド王国の国主にして、貴様を憎み恨む者達の剣の代行者であると知れっ!!」
うっわー、勇者さま感たっぷり。
アーサー王伝説だとあんまりパッとしない方なのに、騎士の中の騎士さましてる。
しかし、シャルルマーニュ、ほんとに下半身に正直すぎるのな。
そこまで憎まれながら玉座から引き摺り降ろされないって、どれだけの魔力持ってるんだろね?
これは怖いわー、アーサーくんは「勝てる……いや、勝つ!!」って言ってたけど、これは勝ちフラグか負けフラグかわかんないな。
とりあえず、がんば♪
その言葉には「アーサー王の心が折れない限り勝てますよ」と励ましておいた。
ちゃんとアーサーくんは頷いたよ。
「余は、シャルルマーニュ。魔王と呼ばれるのは心外であり光栄である。力あるものが己の求めるものを手に入れるのは世の必定。余は美しきものを愛するがゆえ、醜く朽ちることを許せぬのだ。そしてそれは慈悲でもある。余に奪われたくなくば抗うがよい、己の力を持って。余に愛されたくなくば抗うがよい、己の力を持って。そして、余の命を欲するのなら奪うがよい、己の力をもって。奪い奪われしは世の必定。力を持って肉を食らいながら、力を否定することなかれ。それは、じつに滑稽であるぞ? だが、その滑稽なる姿も美しい。余の愛しのアーサーよ。余に抗う君の姿はじつに美しい。余に友を奪われ怒りに震えた君もまた美しい。その君が決着を望むというのなら、余は力を持って君を屈服させよう。余の閨のなかで屈辱に歪む君を愛そう。恥辱に涙を流す君を愛そう。そして余の閨のなかで屈服する君を愛そう。さぁ、愛し合おう。余はシャルルマーニュ。フランク帝国、始まりの皇帝にして終ることなき皇帝なり」
意訳:力こそ正義、いつだって良い時代です。
わかるわかる。
だから、殺すね?
力尽くで、殺すね?
「誰も聞いていないけど、言うことだけは言っておこう。俺は、お前を殺す。邪魔だから殺す。恨みがあるから殺す。憎いから殺す。嫌いだから殺す。うっとうしいから殺す。とりあえず殺す。とにかく殺す。生きているから殺す。生まれてきたから殺す。死ぬのだから殺す。目の前にいるから殺す。そして……怒っているから絶対に殺す。我が名はカール・グスタフ・ペンドラゴン。終りなき皇帝に終わりをもたらす者だ」
我ながら、物騒な呟きだね。
もし自分の目の前にいたらピーポくんに通報だ。
あいにくと、この世界には居ないので、諦めて?
あぁ、それから、廃嫡され国外追放になった俺は、不可侵条約を守ってやる立場に無いのでよろしくな?
名乗りと口上が終り、そして両軍に戦いの開始を告げる角笛が響き渡る。
では、始めよう、魔王様? おさらばです。
「ニップル!! フラァァァァァァァァァッァァァァァァァァァッッシュ!! レクゥイエィムゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!」
太陽を背にして戦うのは戦の常道。ならば、作って見せよう太陽を!!
南に輝く秋の曇り空? 相手にならんな!! イルミネーションサービスの最大出力……ではないけれど、我が乳首より放たれるは太陽の光!! 命の源!! 真夏の蒼天の太陽を超える我が光を見よ!! そして我が乳首は二つにて、さらに二倍に輝くぞ!! 瞼を閉じる? 目を閉じて戦えるのか貴様等は? はははっ、それは器用だな。私はただここで光り輝こう。これはアーサー王の正義を示す後光と知るが良い!!
あぁ、それからな、馬に乗っていると、危険だぞ?
この戦場に似合う選曲はやはり、怒りの日、ヴェルディの名曲だろう。
先生の手によるフルオーケストラだ、楽しむが良い。
あとな、ついでに高音バージョンも流しておいてやろう。
人の可聴域は二万三千Hzだが、馬は三万三千Hzまで聞こえるのだよ。
幻想世界の馬でも試したが、ちゃんと、その通りであったよ。
だから、クレイジーでノイジーな大爆音を響かせてやろうじゃないか。
和名:ちくヴィブレーション。
そう、相手の聴覚に対し致命的な打撃を与え混乱のバッドステータスを付けるデバフ効果の我がスキルだ。
音の周波数を調整することによって対象を選ぶことが出来るのが利点だ。
そして今日のライブのお客様は馬! ごめん馬! お前達は悪くないっ!!
角笛の音の響きの終わりと共に、ハイランド王国軍の後方から太陽の光が、太陽よりもまだ眩しき光が現われてフランク帝国軍の将兵と馬の目を眩ませる。蒼天の太陽より尚眩しく輝くそれは目を、顔を向けさせることを許さない。
光に対して背を向けたハイランド王国軍は違う。
神々しい乳の光を背に受けて、はっきりと浮かび上がるは邪悪なるフランク帝国の軍勢。
さらに戦場には神がその怒りを示す大音響の楽曲が響き渡る。
恐慌状態に陥る馬。
「突撃せよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
アーサー王の号が下る。
今まで、ハイランド王国軍は本当の意味で全力を出して戦うことが出来なかった。
己の力を高めれば高めるほどに装備がついてこれないからだ。
だが、今日は違う。
十分な力を、十全の力を、全力の力を迸らせることが出来るのだ!!
十五万の目を閉じた兵と、一万五千の目を開けた兵のどちらが勝利するか?
そんなことは決まっている。
馬もまた怒りの楽曲に恐慌し、暴れ、振り落とし、踏み潰し、十五万の魔法騎兵は、十五万の暴れ馬と踏み潰されまいと逃げ惑う魔法使いに別れた。
あはははははは、マリア王女の恋路を邪魔した貴様等だ、馬に蹴られるのも運命だろう!?
「仲間割れなどしおってからに、普段から愛しておかないからだ、なぁ? 「寝取られ号」?」
音を鎮める魔法を使おうとした者がいた。
だがな、すでに恐慌状態に陥った馬が一時の静寂を得たからと言って収まるわけが無いだろう?
振り落とされ、そして踏み潰されそうになりながら、自らの愛馬を焼き殺した魔法使いが居た。
フランク帝国軍の語る愛とはそんなものか、俺はシャルロットに引き裂かれそうになっても耐えて見せたぞ?
王が王なら兵も兵だ。
皆、一切合財揃って死ぬが良い!!
事前に耳栓をしておいた二頭のドラゴンが空を舞い、炎で兵馬を嘗め尽くす。
だがこれらは、未だ陽動だ。
戦争とは、やはり、兵と兵の戦いだ。
正面を向けない魔法使いと、全力で迫り来る戦士の群れ。
一方的な蹂躙戦。
ハイランド王国軍の兜には、少しだけ、細工をしておいた。
シールド、まぁ、サングラスだ。
己を鍛え、そして、その力を存分に発揮できるその場は彼等にとって夢のような場所だろう。
俺TUEEEEEと、いうやつか?
だが、相手は馬に乗り、逃げながら魔法を射掛けることしかできない臆病者だぞ?
敵YOEEEEEじゃないのかな?
まぁ、どちらでも良い。
一人当たり10人と、少々獲物が少なすぎる。
済まなかった、謝るよ。一人当たり30人ほどは用意したかったんだけどね?
50万は来ると思ったのだが、魔王様にはガッカリだ!!
期待はずれだ。死んで欲しい。まぁ、死んでもらうんだけどね?
頼むよ? アーサーくん。
勝てると言ったのだから勝ってくれよ?
一万三千年を生きる魔王シャルルマーニュ、一万三千年を生きる騎士の王。
距離さえ詰めれば魔法使いと剣士の勝負、一方的になるかと思ったが、やはり大魔王さまはラスボスで、一筋縄にはいかぬようだ。
その気になれば十や二十のドラゴンを軽く屠れると言う話。
まぁ、地球を軽く屠れる先生とともにある俺にとっては羽虫も同然ですけどね?
右手にカリバーン、左手にエクスカリバーを持ち、その一閃ごとに地面に亀裂が入るほどの剣戟を加えても、魔力の塊がそれを許さない。一万三千年を研鑽に挑んだ剣士の剣が、閨で怠惰に過ごした魔法使いに届かないのだ。
ただ強大な魔力を生まれ持った、それだけで皇帝であると、大地の支配者であると称した男。
一万三千年、ただその魔力のみで人々を支配し抑えつけてきた真性の怪物シャルルマーニュ。
歯がゆい。実に歯がゆい。
ただの一閃が通らない、手を振るわれるだけで稲妻が地面を舐める。
ここに居るのは人ではない、城塞なのだ。
こんなものは一人の人間が相手をするものではない。
だが、俺は横槍を入れたくはなかった。
アーサーが、一万と三千年の間に積み上げた想いを汚したくは無かった。
分厚く濃厚な魔力の塊は、ただそこにあるだけで剣の侵入を許さない。
だが、それで諦められるほどアーサーの想いは浅くない。
一万と三千年分の想いをただ剣に乗せ、アーサーは戦い続けた。
「ははは、楽しいなぁ! 思えば一万三千年、余に挑む者は少なかった。いや、余に挑める者が少なすぎた。争いになる前に終ってしまうのだから退屈極まりないことばかりだったよ!! 余とて男だ。争いの美学は持ち合わせておる!! ……だがなぁ、争える者が居なくては余とて争えぬ。ゆえに、アーサー、君をずっと見逃し続けていたのだよ!! あぁ、本当はいつだって余は君を捕らえ屈服させることができたのだ!!」
そこには防御すらなかった。
鉄の塊に人の拳をぶつけてもどうともならぬどころか人の拳の方が砕けてしまうようなものだ。
カリバーンが、エクスカリバーが、軋み悲鳴を挙げる。
どのように見てもアーサー王の側に分の無い勝負だ。
だが、彼は止まらない、彼は止まれない。そう、一万と三千年かけて、やっと初めて追い詰めた相手だ。
「貴様の非道は今日で断つと言っただろうっ!! 我が剣は貴様に届く!! 我が剣は必ず貴様に届く!! 必ずだっっ!!」
そのアーサーの憤りにすらシャルルマーニュは微笑みで返す。
爆炎が、雷撃が、そして山のごとき氷塊が、だがアーサーはそれを避け、逸らし、防ぎ、あるいは受けながら致命傷を避けた。
もともと魔王シャルルマーニュにはアーサーを殺す気がないのだ。
猫がネズミをいたぶるように、いや、男の子が大好きな女の子を泣かせて喜ぶような、嗜虐的な快感に酔いしれているだけなのだ。
戦ってすらいない、そもそも避けやすいように示して見せても居る。
ただ、愛しいアーサーと、遊んでいるだけなのだった。
一時間が過ぎ、二時間が過ぎ、中天にあったはずの太陽が西へ、空が夕暮れに染まる頃になっても未だその戦いのような遊びは終らなかった。
戦士と戦士の一騎打ちに割り込めるものは居ない。それは戦士を侮辱する行為だ。
さらにいえば、割り込めるだけの者も居なかった。
フランク帝国軍十五万の兵は全て死に絶えた、ただ、一匹の怪物だけが残った。
「これだけ戦い、まだ心が折れぬか。余はその強情なる美しさを心の底から愛そう」
シャルルマーニュには未だ傷一つ無い。
そして、アーサーの心にも未だ傷一つ無い。
「これだけ? まだ半日も経っていないぞ? もう降参か? 私の心を折りたければ一年でも十年でも、いや、一万と三千年でも付き合ってもらうぞぉぉぉっっっ!!!!」
カリバーンを振り下ろすが魔力の壁をなぞるだけだ。
そして返されるは雷撃の雨。
転がるように避けながら、飛ぶように地に立ち、飛ぶよう翔けて一直線にエクスカリバーを突きたてた。
そして、貫いた。
「……………………………………っっっ!?」
シャルルマーニュの胸に、浅く刺さったエクスカリバーの剣先。
飛び退くように逃げた為に、致命傷には至らなかった。だが、剣先は確かに届いた。
血が流れるも魔法により即座に止まる。
手を振るえば業火が横薙ぎに奔った。
それを天高く飛び上がり、カリバーンとエクスカリバーの二重の剣閃が奔ると、シャルルマーニュの胸に十字の線が刻まれる。
吹き出す血、だが、やはり魔法で……血は、止まらなかった。
さらに両の手足に向けてアーサーの剣閃が奔ると、シャルルマーニュは地面に仰向けになって倒れた……。
「は、はははは、はははははははははっ!! 美しいな、アーサー!! まさか、余が敗北を喫するとは!! 君はとても美しいな!! アーサー、余は君を愛しているぞ!!」
血を流しながら、シャルルマーニュは心底嬉しそうに笑った。
加虐趣味のみならず被虐趣味でもあるのだろうか?
「言ったはずだ! 貴様の悪行は今日ここに潰えると!!」
地に伏せたシャルルマーニュをアーサーは怒りに満ちた瞳で見下す。
彼は英雄だった。
「認めよう、余の敗北だ。……アーサー、君に命を奪われるなら、それも良いっ!! それも愛だっ!!」
自分の死すら喜びに変える魔王シャルルマーニュ。
だから、俺は、用意しておいたんだ。
さてここで!! 空気を読まない男、のっぺりーの男爵参上っ!!
アーサー王と魔王シャルルマーニュの間に空気を読まず割り込みましたっ!
「はいっ! ここでご紹介いたしましょう!! こちら、ハイランド王国で、もっとも醜いという栄誉を受けたお方です!!」
うん、自分で言っておきながら酷い紹介だけど、確かに文字通りのお方なので失礼には……あたるわなぁ。
正確にはgoodfull先生に検索していただいた、シャルルマーニュが最も嫌悪する風体の持ち主なのですが。
さーて、アーサー王のお手伝いをした分、私の取り分をいただきますね?
「カ、カール? その醜……いや、なんだ、彼は誰だ?」
「はい、魔王シャルルマーニュさま専用のエクスキューショナー、スペシャルな処刑人としてお呼びしました!!」
にっこりと微笑む。ペンドラゴンは自由な存在です。
魔王様の美しいものに目がないという自負は心の底から本当らしく、処刑人さんの顔には吐き気を催すほどの嫌悪感を抱いたようだ。
先生調べで、最も嫌いそうな形状の何だかヌメッとした棍棒をもった、吐き気のする顔のエクスキューショナーさんに失礼だよ?
「アーサー王ほどでは御座いませんが、私もシャルルマーニュ様には随分と深い恨みが御座いまして、お美しいアーサー王の手による幸せな最後を迎えさせてやるほどお人よしではないのです。どうか、シャルルマーニュの最後の身柄をお譲りいただけませんか?」
偉大なる英雄アーサー王が、このような非道な真似を行なうわけにはいかない。
だが、アダマンダイト他、多数の援助をした俺からの要求であれば報酬として渡さざるを得ないだろう。
「アダマンダイトによる装備の貸与や、我が手による光や音による援護、我がドラゴンの貸与を行ないました。そして私はハイランド王国の家臣では御座いません。一介の傭兵ですから、その取り分としてシャルルマーニュ様の悲劇的で無残な死を要求します。私が居なくても勝利できたとアーサー王が仰るのであれば、どうぞ拒否なさっても結構です」
大魔王シャルルマーニュが怯えた子供のようにアーサー王へ懇願の目を向ける。
「解った。余としては遺憾であるが、カール殿には返しきれぬほどの恩がある。その返礼の一端としてシャルルマーニュの身柄を引き渡そう。余、自らの手で切り捨てられぬのは残念だが仕方が無い」
自らの手で斬り捨てたいが、相手にそれを喜ばれては怒りのやり場もない。死んでいった仲間も報われない。
彼には彼に相応しい、悲劇的で悪意に満ちた死を、ここに居る誰もが望んでいる。
だが、ここに居る誰もが戦士としての誇りを持つ者達であり、それは彼等には出来ない選択だった。
なので、私が引き受けた、ただそれだけの話だ。
さぁ、いともたやすく行われるえげつない行為の始まりだ!!
「や、やめろ、やめてくれぇぇぇ!! アーサー! アーサーよ、君が余を斬ってくれぇぇぇ!! 美しい君がボクを斬ってくれぇぇぇぇぇ!!」
もちろん、その願いは叶わないませんでしたとさ。
あはははははははははははははははははは!!
めでたし、めでたし。




