第七話 パクリ
さて、悪巧みの進行を進めがてら。
バカチン、もとい、バチカン法皇国の様子を見てみよう。
順調に、亜人の奴隷が減って……いや、もう居ないじゃない。絶滅危惧種どころか絶滅だよ。
行動早いなぁ皆。逃亡に失敗した亜人の方が多いのだろうけど、それは自分の力不足を恨んでください。
なむなむ。
では、お楽しみの枢機卿会議の模様を眺めてみましょう。
きっと面白いことになっているはず。
「<先見>のラウロ卿? 遠い未来は見通しがたいと前に言ってたな? しっかし、今回はずいぶんと近い未来を見通せなかったもんだ。<加護>を失ったか?」
聖騎士団団長ロンバルディくんも意地が悪い。
先生が相手なんだからしょうがないじゃない、大敗北しても当たり前でしょ?
ほら、返す言葉が無くてラウロくん泣いちゃうよ? いや、もう瞳が潤んじゃってる。可哀想。
「起きたことは仕方がありません、我々のみで進めましょう」
<虫>のオルダーニ卿は前向きですね。
黒カマキリさんと赤カマキリさん、20万を用意して自分の仕事は終らせたわけですから。
どうやって終らせたかについては考えませんけど。
「当面の、奴隷不足。これの解決だな。亜人は駄目だ、幻想種の人間を捕まえてこなけりゃな」
ロンバルティくんはイケイケの模様。
質素、清貧に務めればなんとかなるんじゃない?
今の奴隷の数でもさぁ。
「聖騎士団団長ロンバルディ卿、ネロカヴァリエーレとロッソカヴァリエーレの用意は整っております。海岸沿い、ニースから入り、共に進んで奴隷狩りとまいりましょう。なに、現地で数を増やしつつ行軍すれば敗北することもありますまい。」
あぁ、一度覚えた贅沢は忘れられないものね。
オルダーニ君も民衆の幸せを考えた良い統治者ですね。
「オルダーニ卿! ロンバルディ卿! それを行なった場合、我が<先見>は300万からのフランク帝国軍による攻撃を受け全滅すると示しています!!」
おぉ、ラウロ卿、正解。
ヒルヒルはそれくらい群蟲種を脅威と感じてますよ。
きっとそのくらいの数を用意してくれるでしょうね。
でもね、人の信用って一度失うと戻ってこないんだ。
それも、そんな信じられないようなことを口にしてもね。
「300万といえば、フランク帝国軍の半数以上じゃねぇか。ねぇよ。そんなこと」
「ロッソカヴァリエーレの力は、相手の数に変わらず効果を示します。例え300万でも十分に勝利できますよ。ニースからマルセイユまで浄化したなら十分に数も揃って勝利できます」
残念だよ、ラウロ君。
君は敵にする相手を間違えたのだ。
ふははははは、悪巧みの天才である先生に敵うと思ったのが間違いだ! いや、そもそも思いつきもしてないか。
『カール様、悪巧みをしたのはカール様ご自身です』
……そうね。そうでした。いつでもボクが悪いんだぁ~電信柱はもうないし~赤いポストももうないし~。
「信じてください! オルダーニ卿! ロンバルディ卿! 私の<先見>の加護はそう告げているのです!!」
うん、ぼくも信じる。
きっとそうなる。
「信じて、それで閉じこもって、奴隷不足が解決するのか? 他の手段が思いつかないなら黙っててもらえるか? <せ・ん・け・ん>のラウロ卿」
えぇ、そうなんですよね。
労働力の地盤を失った以上、同じだけの幸福を味わうには補充する他ないのです。
ロンバルディくんがバカチンの仲間じゃなけりゃあなぁ……あぁ、でもそれだと攻めてこないか。
ままなりませんなぁ。
「では、別の部屋で話を詰めましょう、ロンバルディ卿」
「聖騎士団、全軍を今回は動かさなけりゃいけないか……めんどくさいな」
そうだね、経済損失の穴埋めには全軍で奴隷狩りしないとね。
でも、軍隊が大きく動くと、それがたとえ自国内でも他国に見つかっちゃうよ?
今まで<先見>のラウロ卿の策略に丸投げしすぎちゃってたんだね。
うちの王国と同じで自分の<加護>に関係しないことは君らも興味持たない人達だったんだね。
いや、感じるよ、その親近感。
そう考えると、うちの<政治>の特級加護の持ち主って神算鬼謀も良いところだったのだなぁ。
「私の<加護>は失っていない、私の<加護>は失っていない、私の<加護>は失っていないっ!!」
一人取り残された部屋のなかではラウロ卿の悲痛な叫びが挙がっておりましたが、誰も耳にはしていませんでした……。
あ、俺が耳にしてたわ。
<先見>に頼りきってた戦争の素人と、ヒルヒルのどっちが勝つかなぁ。
俺はヒルヒルに賭けるけど、先生は?
『私もヒルヒルに賭けます』
それじゃあ賭けにならないじゃない。
『では、カールさまがBETを変えてください、そうすれば成立します』
…………え?
さて、もう一方の御用意を見ましょうか。
大魔王カール大帝とヒルヒルの会談風景を。
おぉ、物凄くやる気のなさそうな大魔王がヒルヒルの言葉を聞き流してる。
左右には半裸の美女と美少女と美幼女と美少年と美男子。
ゲームでしか見たことない風景……いや、ゲームでも見たことないわぁ。
しかし、大魔王様、脂肪分たっぷりの豚かと思ったら、意外なことに金髪の美丈夫でした。
さらに、たいそうなイケメン。アーサー王と良い勝負だ。
この二人が絡み合うなら、それはそれで芸術的に良いんじゃない?
シャルル「俺はノンケでもかまわず食っちまう危険な男だぜ?」
アーサー「激しく断る」
まぁ、この仲ですから仕方ありません。絡み合いは戦場で行なっていただきましょう。
「解りました、皇帝陛下。では、300万での行軍の後には我の乙女を献上いたします。その前祝として行軍をお許し頂けますでしょうか?」
……おや!?大魔王のようすが……!
「ふむ、お前の純潔を奪うまでにあと一年は熟すのを待つつもりであったが、早詰みの果実というのも、それはそれで良いものだ。よかろう、行軍を許す。傷物になっては困るゆえ、好きなだけ兵を連れて行くといい」
あぁ、自らを犠牲にして国を守ろうなんて、皇女の鏡。
涙なくして見れません。ぶぇぇぇぇぇぇぇぇん。
じゃなくて、自らの娘もいけちゃう危険な男なのですか?
ちょっと下半身がフリーダム過ぎませんか?
「はい、ありがとうございます皇帝陛下。行軍の後には御寵愛を承りたいと思います」
悔しいのだろう、ヒルヒルが見えないところで拳を握り締めて、爪が食い込んでるよ。
ヒルヒルの手は優しくて綺麗なんだから、そんなことしちゃ駄目だよ?
いやしかし、実に簡単に派兵されるものなのですなぁ。
では、ラブレターの一通も送れば、あの方は伝説の樹の下にも来てくれるかしら?
来てくれるわよね? 待ってるからね? アーサー君の乙女心を傷つけないでね?
さて、こちらはこちらで準備を進めましょう。
この現世界、融合世界の鉱山掘りは命がけです。
なにしろ異世界の魔物がうようよしてますから。
異世界の肉食性のただの動物=魔物なんですけどね。
まず、鉄を掘るためには道の安全を、次に坑道口の安全を、山や森と言うのは魔物と呼ばれる愉快な仲間達の天国ですから、餌がやってきたとワラワラと喜んで押し寄せます。
つまり、安全に鉱山を掘るのなら、まず山の魔物を皆殺し、と言う実に費用対効果が悪い経済活動になるほかないのです。
なので鉄は貴重で、下手をすれば銅の剣で戦わなければなりません
そんな環境下では冶金技術も衰えて、科学的なアレコレは忘れ去られてしまいました。
そりゃね、クロムとかチタンとか希少土類とか集めてらんないよね。
そこで、わたくしは新しい素材を用意しました。
じゃーん、黒カマキリさんの超硬甲殻~♪(いつもどおりの素材)
なぜでしょう? 始めは人間を捕食する凶悪な生き物にしか感じなかったのに、今では高級素材にしか感じられない。
これが蟲料理人のロニーさんが言っていた蟲の……あぁ、美しい……いやいや、口にはせんぞ、絶対に!!
それでは冗談はここまでにして、アダマンダイトの作り方を説明します。
超硬甲殻方両腕刀剣類の名の示すとおり、黒カマキリさんの甲殻は超硬度を誇ります。
次に、ドワーフの職人が剣や槍の形に整形しつつ<魔法>により耐久性や硬度をさらに上昇させます。
そして仕上げとして、グローセ王国の鍛冶職人が<加護>をもって自己修復や耐久性向上や硬度向上などの付与を上乗せします。
一点一点の品質や特質はドワーフや王国の職人の腕によって変わります。
ですが、一番最低のものでも、銅の剣よりはマシでしょう。もちろん鉄の剣よりも。そして鋼の剣よりも。
さて、なぜここまでの品を用意するかと言えば、文化の違いでした。
アーサー王の剣は特別として、彼は「戦場で予備の剣を持たぬ阿呆」と言いました。
彼等は<マナ>を内向きに、身体能力の上昇と、武器に練り込む形で<魔法>を使用します。
ですから、それだけ大きな負荷を掛けられる武器や防具は消耗が激しく、完全な消耗品です。
だからアロンダイトがエクスカリバーと打ち合っても壊れなかった、ただそれだけの事実で至宝扱いされるほどです。
ですから量産してみました、擬似アロンダイトことアダマンダイトを。
彼等の軍を動かす以上、それなりの餌と保証は必要ですよね?
これが量産品だと知って彼等がガクブルする姿が今から楽しみです。
私、グローセ王家を追放されましたが、アルプス連合王国からは追放された覚えがございませんことよ?
おほほほほほ。
そして、ここ、キャメロットにアーサー王の名で各部族長への集合令が出されました。
部族と言っても蛮族ではないので、皆さんそれぞれ素敵でお洒落な格好で現われました。
そのうちの三分の一のおっさんは毛脛でした。おそらく寒い地域に特化したのでしょう。剛毛でした。
おっさんだぁ……。
スカートだぁ……。
ブレイブなハートがぁ……。
めぇぇぇるぅぎぃぃぃぶそぉぉぉぉん……。
現実は、常に残酷です。
気を取り直しアダマンダイトの武具をお披露目と行きましょう。
お披露目と言っても簡単なものです。
数百単位で並べたアダマンダイト制の剣や槍、鎧に盾、具足を展示してまわっただけです。
どうぞご自由に手でお触れくださいと立て看板をして。
よくて鉄剣、悪くて銅剣しか持って居なかった彼等が手に持ち、触れ、その強度を試すと、持って帰ろうとしました。
なので蹴りました、お披露目だと言ってるだろ!!
俺は弱いっ! だが我が友T・A・M・S君は強い! ただ、女には弱いっ!! 何故かっ!?
とりあえずこれは一品物ではなく現在も製作中で、さらに数が増えることを伝えました。
材料はまだ二百万体以上ありますし?
あとで買えるつもりなら、盗みを働きはしませんでしょ。たぶん。
有機物を食べてこの殻を作る生体システムが不思議でなりませんが、先生には尋ねません。
どうせろくなことになりませんから。
それから、ペンドラゴンの称号は実に便利でした。
11歳児と舐めてかかった、どう見てもバイキング風の戦士がペンドラゴンと聞いて土下座をしました。
あるんだ、土下座。
常在戦場とか、二本挿しとか、じつはここ日本なんじゃない?
実際に提供する数はもう用意できているのですが、タイミングがまだなのです。
ある、未来の逝人は言いました。
マルセイユにフランク帝国軍を誘き寄せ、そして間隙を突いてリヨンを落とすと。
ですから僕はパクリました。
ニースにフランク帝国軍を誘き寄せ、そして間隙を突いて大魔王を殺すと。
はっはっは、知的財産権という概念の無いこの世界を恨むと良いわ。
しかし、普段から「寝取られ号」を乗り回しているため、この世界の軍団の編成から行軍速度の遅さにはイライラします。
バチカン法皇国のサン・ピエトロ大聖堂からニースまではおおよそ700km。
パリからニースまでおよそ800km。
<魔法>や<加護>があるため、行軍速度は若干は早くなるのですが、両者が出会うまであと一月あります。
アーサー王との悪巧みこと作戦計画も済み、暇で暇で仕方が無いのです。
やるべきことがありません。
適切な時期にアーサー王直筆の恋文を大魔王様にプレゼントして、南で行なわれるヒルヒルVSバカチンのデスマッチ(文字通り)と時期を合わせたいですから、あと二週間ほど暇なのです。
しかたがないので琵琶湖の8倍の面積を誇る巨大湖のほとりで太公望をしていると、とても美しい女性に出会いました。
なんでも彼女、湖の乙女と呼ばれる妖精だか精霊だかのやんごとなき人だとのこと。
カリバーンやらエクスカリバーをアーサー王に授けた女性だそうですが、アーサー王から直々に忠告を受けていましたのでフラグを回避できました。
なんでも美形の男性はマン島ことアヴァロンに連れて行かれて大変な目にあうとのこと。
アーサー王も愛ドラゴン「ドゥースタリオン」の助けがなければヤバかったと愚痴をもらしておりました。
でも、のっぺりーの男爵の顔は好みでなかったらしく、そもそもフラグは立っておりませんでしたとさ。
めでたし、めでたし。
アヴァロンに縮退性惑星解放型崩壊弾を撃ち込んでやろうかしら?
『お取り寄せしますか?』
結構です。




