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第二話 ジュネーブの休日

「して、我が身はどうなるのじゃ?」

 皇女殿下の態度は堂々たるものでした。

 諦めきって開き直った、ふてぶてしい態度とも表現できますが。

「どうとも? 正式に宣戦布告がなされてはおりませんし、幸い戦端も開かれておりません。殺されかけたのが私で良かった。これが西ハープスブルクの将ならば即時開戦の意味を持ちかねないところでしたからね。感謝してくださっても構いませんよ? それとも、このさいグローセ王国に宣戦布告でもなさいますか?」

 被害者はグローセ王国の王子。

 加害者はフランク帝国の皇女。

 西ハープスブルクは無関係、親善大使はレオンハルトお兄様ですから。

「そうか、なるほどのぅ。我は王子に助けられたのじゃな。我はフランク帝国皇帝シャルルマーニュの娘、皇女ヒルデガード。心からの謝罪と感謝の意をここに示そう。感謝の印として王子にはヒルデと呼ぶことを許そうぞ」

 いや、おっぱいを揉ませてくれたほうが……なんでもないです。

 こちらとしては素直に帰ってくれればそれで良いのだけなのだけれど、殺されかけた分だけの仕返しはしておこう。

「では、ヒルヒル。貴女はこれからどうします? この国に留まるも、軍団に戻るも自由です。この時期のレマン湖は美しいですよ? 一見の価値がありますから私と一緒に見に行きませんか? あぁ、都市の内部を散策するのも良いかもしれません。群蟲種に襲われて絶望していた民達も、今は明るく希望に満ちた顔で元気にやっていますから。恋人達が巡るような観光名所をご案内して回りましょうか?」

 にこにこと笑顔でお勧めしよう。

 この、美しく、優美な、ジュネーブと言う街のことを。 せめて、心に深く刻まれるように。


「カール王子は、実に、残酷であるのじゃな。良いじゃろう、恋人達が巡るような数々の名所に、レマン湖の情景を是非とも案内してもらいたい。しかし、我と王子では恋人ではなく、姉と弟に見えるのではないかの? あと、ヒルヒルか……なかなか可愛い呼び名じゃな。許そう」

 はっ、この11歳児ボディーと皇女殿下の18歳前後のボディーでは釣り合いが……まぁ良いか。

 それでは楽しいジュネーブの休日とまいりましょう。真実の口はどこだっけ?

『ローマです』

 知ってますよ、先生。



 身長の差というものはいかんともし難く、腕を組めば掴まった宇宙人。

 手を繋いだなら姉を引っ張りまわすやんちゃな弟。

 いけない、どう足掻いても色っぽい感じにはならないではないですか!!

 空中散歩を別にすれば、初めて女性をエスコートするデートなのに日本男児として不甲斐ないっ! いや、ジャーマン男子?

 先生……goodfull先生……デ、デート、したいです…………デートがっ!

『シークレットシューズをお取り寄せしますか?』

 NOっ! 男心を解って先生!


 色っぽいことをしたいわけでもないので、まぁ、ここは良しとしましょう。

 皇女殿下にオイタをするにはちょっと勇気がいりますからね。 帝国と全面戦争を辞さないくらいの。

 さて、ジュネーブと言う都市には素敵な観光スポットがいくつもあります。

 まずは、サン=ピエール大聖堂から参るとしましょう。

 俺自身、この目に焼き付けておきたいですから……。


「ここが、かの有名なサン=ピエール大聖堂です。どうですか? 美しいでしょう? 世界が融合を起こす前から残る貴重なキリスト教の教会です。今からおよそ一万三千年前に建てられた建物で、幾度もの修繕を重ねながら歴史を感じさせる造形は宗教に関わらず見るもの全てに感動を与えます」

 よくぞまぁ生き残ってくれたものです。

 幻想世界の人間にとって宿敵たるキリスト教会でありながら、文化財として残してきたジュネーブの人々の心の広さには感動を覚えます。

 あるいは、ギリシャ風の概観のために教会と気付かなかったのかもしれませんが。

 サン=ピエール大聖堂はカトリックの腐敗を嫌ったプロテスタントによって建てられた教会なのですが、そのカトリック嫌いから「じゃあ俺はギリシャ神殿建てたるかんなっ!」と言う反骨精神の持ち主です。

 兄貴って呼んでいいですか?


「フランク帝国の皇女である我を、かの法皇国の教会に連れてくるとは、王子は意地悪じゃのう?」

「王子ではなくカールと及びください。せっかくのお忍びのデートなんですから。……実はこの大聖堂、法皇国のものではないんですよ。それは旧時代のこと、一万二千と五百年ほど前に法皇国から独立して敵対した派閥の大聖堂なのです。だから、憎まないでやってくださいね?」

 ギリシャ神殿風……の、面影が残る程度の修繕ではあるものの、旧世界の遺物に出会えたのは感動だ。

 一万と二千年ぶりだねぇ……前世で来たことないけれど。

「ほぅ? カールは博識なのじゃな。そうか、旧世界では法皇国に敵対した者たちもおったのじゃな。その者達の残したものと思って見れば、素直に美しい造りの建造物として見られるぞ。ありがたいことじゃ」

 ジュネーブは宗教革命、プロテスタントの本場。

 まぁ、向こうがバチカンを名乗っている以上、嘘は言ってないはず。

 あれがカトリックだとは認めませんが。


「では、中に入りましょうかヒルヒル」

 姉を引っ張りまわす弟の図で建物のなかに入る。

 この弟感にもはやもやするが、皇女殿下は素直に着いてきてくれた。

 なんだか慣れてるようでもある。これは……皇女殿下に男の影が?

「華美や装飾といったものを一切取り払いながらも、調和した美しさを保とうと試みている建築者の努力が感じられるでしょうか? ヒルヒルは法皇国の大聖堂を見たことは……ありませんよね。まぁ、敵地のただなかですし」

 俺が苦笑いすると、皇女殿下はフォローをしてくれた。

「たしかに法皇国は敵地じゃが、その内情はちゃんと探らせておる。神殿……教会と申したかな? それは、金と銀と宝石に飾られた欲と虚飾に満ちたおぞましき造りをしておるものと聞いたことがあるぞ。なにやらそのなかで慈悲と慈愛と清貧についての説法をするのだそうじゃ。あやつ等は滑稽極まりない道化どもじゃが、この聖堂を造った者達はそれに反抗した者達だったのじゃな。その心の在り様が、実によくわかる造りをしておる」

 え? 法皇国の教会ってそんなことになってるの?

 教えたつもりがむしろ教えられてしまった。

 金と銀までは予想できたが宝石と来ましたか。

「正面に飾られたあの三枚のステンドグラス、それのみがこの聖堂の飾りつけであり、他は石工達の手による自然な美しさの表現を試みています。一応は、神を奉るところですから、そういった形の芸術活動はお許しくださいね? さすがに適当に石を積みあげただけとはまいりませんから。祈りのさなかに隙間風が吹くのは不味いでしょう?」

 俺の冗談に、皇女殿下は苦笑いと笑顔を半分にしながら上品な笑い声を挙げる。

 なかなかにエスコート上手なんじゃないか? この俺は。

 いえ、全てgoodfull先生の受け売りなんですけどね。

「過去には、そう言った者たちもおったのじゃな。おぼえておこう。カール、感謝するぞ」

「えぇ、確かに、おぼえておいてください」



 つぎは、あれですよね、イタリアンジェラート~。

 お姫様をお忍びで連れ廻すのだから、これは欠かせない。

 でもここはイタリアではない。そんなときに頼りになるのは、

 教えて! goodfull、今、ジュネーブで人気の氷菓子のお店、かつ、デートっぽい雰囲気で、それから、今の場所から近いところ!

『旧ジュネーブ大学跡地に移設されたブールド・フール・広場をお勧めします。南西100m以内。ロケーターサービスを利用しますか?』

 これだけ曖昧でも的確に答えてくれる先生は素敵だなぁ、ロケーターサービスを一丁お願いします。

『かしこまりました』

 俺だけに見える光のラインが表示されて目的地へと誘導してくれている。

「では、ちょっとジュネーブで人気の氷菓子を食べに行きましょう。どうか、エスコートさせてください」

 紳士はそう言って手を差し伸べた。

 皇女殿下はその手を優しく受け取り、やっぱり弟が姉をひっぱる形になった。くそうっ!

 そうこう俺が苦労しているうちに、皇女殿下の方から歩幅を合わせていただいてしまいました。

 ……淑女に気を使わせるとはなんたる不覚。のっぺりーの男爵は確かに胴が長くて足が短いんだけどさぁ……。


 旧ジュネーブ大学こと現ブールド・フール・広場は活気に溢れていた。

 群蟲の脅威から解放されて人々は前を向いて生きていた。

 それで、氷菓子はどこでせう? あぁ、あの屋台ですか。

 光のラインを辿りながら、仲良く手を繋ぎ、仲良く横に並びながら二人で向かう。

 そこにあったのは……何故? イタリアンジェラートじゃないですか!?

『正確にはイタリアンジェラートでは御座いません。アイスクリームを作る際、空気を混入させるための職人の技術が未熟なために上手くいかず、そして乳性をケチったために低脂肪に、果汁と果肉の量でごまかした結果出来上がった失敗作が粘りある独特の触感となって若者に受けたジュネーブ発の氷菓子ですので、ゲンフアイスまたはジュネーヴグラースに相当するでしょう。ですが、旧時代にイタリアンジェラートと呼称されていたものと、ほぼ同じ成分をしています』

 ありがとう先生、食べる前に失敗作って教えてくれて……。

 先生の優しさに涙が出そう、でも、天は俺に味方したんだと思い込もう!

 それで先生、お勧めの味は?

『甘いもの好みであればメロン、酸味のあるものが好みであればサクランボをお勧めします』

 基本のバニラは?

『存在しません』

 …………………………ふぁっ!?

 なんで? アイスといえばバニラでしょ!?

『バニラはメキシコ、中央アメリカが原産の植物ですので、海洋貿易の無い現在では入手不可能のハーブになります。旧時代に植林されていた熱帯の地域では野生化した種もありますが、現在のヨーロッパには御座いません。通信販売サービスでお取り寄せなさいますか?』

 いや、今、取り寄せてもアイスにならないから。

 バニラアイスが無い世界なんて、アイス=バニラのイメージがっ、このド畜生がァーーーーーッ。

 でも僕、アイスはス○カバーが好きですから気にしません。あと、人を殺せそうな小豆の凶器も好きです。


「カール? どうかしたかの? 先程から何を悩んでおるのじゃ?」

 あぁ、いけない、ついつい先生と話し込んでしまった。

「いえ、甘いものと酸っぱいもの、ヒルヒルはどちらが好みなのかと迷いまして。本人に聞いたほうが早かったですね」

「そうか、気を使わせたのぅ。我は酸っぱいものの方が、好みじゃな」

 よし、ごまかせた。

 人と居るときは、先生との相談がやりにくいなぁ。

『申し訳御座いません。カール様の脳内の演算速度を速めることで対処できますが高速演算化サービスを利用しますか?』

 NOっ! サイボーグ戦士にはなりたくないです!

 と、いうわけで、皇女殿下とのデートに意識を集中集中。

「では、サクランボをお勧めします。私は甘い方が好きなので、メロンにしますね。ご店主、お願いします」

 王子と皇女のオーラに圧倒され続けていた……もとい皇女のオーラのみに圧倒され続けていた屋台のおじちゃんが、急いで器に詰め込んでくれました。

 お代金は要りませんから! とかなんとか言われてしまいましたが、ちゃんと払っておきます。

 このままでは営業妨害になるので歩きながら、はしたなく食べましょう。

 この方が、ジュネーブの休日っぽいでしょう?


「なるほど、カールが勧めるだけの美味しさじゃの。気に入った。この粘り気のある食感というのも重ねて気に入った」

「でしょう? 今、若者……いやいや、恋人達に人気のお店なんですよ」

 皇女殿下は本当に気に入ったようで、氷菓子の美味しさに微笑を浮かべていた。

 うーん、美人が、ものを口にするところって……いいよねぇ……。

「ふむ、こうなると、甘い方も試してみたくなるのぅ」

「それでは、こちらをどうぞ?」

 我が手のなかのメロン味を差し出す。

 もちろん我が食べさしである。

「カールは、いつもそうやって女を口説くのかの?」

 少しは躊躇うかと思ったのだが、余裕の表情で間接キッスをこなされてしまった。

 むむむ、敵はなかなかに……。

「では、カールも我のサクランボ味を試すが良いぞ。なに、遠慮するな食べさせてやるでな。ほ~ら、口を開けよ」

 ごめんなさい、レベルが違いました。

 必殺のアーンをされるとは。

 だがしかし、それはシャルロットとの間で何度も繰り返した行為!!

 ドンと行為!!

「うん、サクランボの味も美味しいですね」

「うむ、カールの頬もサクランボの色になるほど気に入ったようじゃのぅ」

 負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



 ほんとうに、一万と二千年という月日は、残酷なものですね。

「あちらに見える石の壁、あれも旧世界の遺物なんですよ」

 指差したのは宗教改革記念碑、プロテスタントの偉人を称えた石壁と石像だ。

「ふむ、カールは本当に博識なのじゃな。我にもカールと同じ年頃の弟がおるが、同い年とは思えぬ聡明ぶりじゃ」

 暗に、弟以上の扱いはしませんよと予防線を張られた予感。

 皇女殿下も女性なのですね。

 いや、この美女が女性でなければ世の中の女性人口が万分の一に減ってしまうじゃないかっ!


「それで、次はどんな知識を披露してくれるのじゃ? 我も楽しくなってきたぞ」

「では、傍に寄って見てみましょう」

 石壁は、植物に侵され、ひび割れ、偉人の数も減らしていたが、確かに残っていた。

 さすがにこれは美術品扱いされなかったようで、風雨にさらされたままに修復はされなかったようだ。

「これは、先ほど紹介した大聖堂に勤めていた派閥、慈悲と慈愛と清貧を尊んだ偉人達を称えた壁と像なのです。中央に四つの像があるのですが、一つは朽ちて欠けてしまっていますね。解りますか? 風雨に晒されて人の形をあまり残していませんけれど」

「ふむ、なるほどのぅ、言われてみれば、人の形に見えなくも無い」

 時は、残酷だな。

 女性からのみではなく、石からも美しさを奪うのだな。

「左からファレル、カルヴァン、ベーズ、ノックス、いずれも当時の法皇国の腐敗に立ち向かった偉人達です。金で権力が買え、金で罪が許され、慈悲と慈愛を口にしながら弱きものから搾り取り、そして自分達は神に近き尊き者であると金と権力と暴力で言い張った、そういった者達に立ち向かった偉人たちです」

 こう説明をしたところで、沈黙が訪れた。

 隣を見ると、皇女殿下は黙祷を捧げているようであった。

 そういえば姫将軍様でした。立ち向かったと言われてしまえば、戦士の慰霊碑に見えてしまうのでしょう。

「……よく考えてみると、あまり、男女の逢引には相応しくない場所でした」

「たしかに。じゃが勉強になった。次は、我に何を見せたいのかの?」

 俺は、石壁を背にして、その前方に広がる光景に手の平を向けた。

 そこには屋台が立ち並び、平和な世界が広がっていた。

 家族や、恋人達がなかむつまじく平和なときを過ごしていた。

 あいにくと空模様は曇り空なのだが、先日まで死と隣併せにあった人々の顔は明るかった。

 王宮の方角で、雷雲っぽいものが発生していることは視界から外しておこう。どうか、死者が出ませんように。


「これが、見せたいものかの? この平和な風景が、見せたいものなのじゃな?」

「そうですね。見せたいもの、いや、見ておきたいものでしょうか? 親善大使の名の下に、グローセ王家が命を賭けて助けた人達です」

 群蟲の脅威から守った人々は、レオンハルト兄様こそが自分達を救った英雄だと思っていた。

 凱旋パレードでは蒸発現象を利用した不参加状態だったので、だーれも僕に気付かない。

 なので、のっぺりーの男爵の姿には気付かれないのでした。よかった。

 ふふふ、僕はシャドウヒーローなのさっ! ……ジーク兄様が感染したか?



「しかし、グローセ王国の親善大使殿は本当に群蟲種を二百万も滅ぼしたのか? 疑うわけではないのじゃが、あまりに信じがたい偉業でもあるぞ?」

「えぇ、王族の血に誓って本当のことです。親善大使であるレオンハルト兄様と護衛の兵士300名の旅程に群蟲種の行軍が運悪く重なってしまい、これを皆殺しにしたまでです。もちろん、西ハープスブルグ軍の助けも借りました。正規兵も、義勇兵たちもです。彼等もまた、英雄でしょう」

 嘘は言っていない。

 情報が大幅に不足してはいるけれども。

「それが本当じゃとしたら……うむ、失礼……その英雄とは絶対に争いたくはないものじゃな」

「グローセ王国とフランク帝国の間には不可侵条約がありますから、絶対に、大丈夫でしょう?」

 ニッコリと微笑む。

 条約がある限り、フランク帝国とグローセ王国が戦うことはないのだ。

「そう願いたいものじゃ。我等はこたび五十万の軍勢を用意してきたが、相手は超硬甲殻型両腕刀剣類が二百万、いや、二百六十万じゃったか。その数が相手では確実に勝利できたとは思えぬ」

 えぇ、先生が保証してくれています。

 皇女殿下は黒カマキリさんに美味しくムシャムシャされる予定でした。

「ヒルヒル、計算を間違えてますよ? 群蟲種は戦いに勝利するたび、つまり捕食をするたびにに数を増やしていく生き物ですよ? ここ、ジュネーブの民が捕食された後であれば、五百万にまで数は膨れ上がっていたことでしょう。五十万の兵士達が五百万の群蟲種に敗北して美味しく食べられてしまう結果ならば私が保証してさしあげますが?」

 群蟲種は勝利と共に増殖する。

 それを計算に入れない軍勢は、むしろ相手に利するばかりだ。

 わざわざ餌になりに行くことと何も違いはないだろう。


「……そうか、そうじゃな。グローセ王国の者達には、このジュネーブの民のみならず、我等も命を救われたのじゃな。これでカールには二度も助けられたことになるわけじゃな。これでは借りばかりが増えて困るのぅ。呼び名の次は、何を与えればよいのじゃろうな?」

 皇女殿下は現実的な数字を計算し、勝敗を考えられる良将でもあるのですね。

 ならば、この人に伝えるだけで十分だろう。

 借りについては、その豊満ボディの堪能でも良いのだけれど、フランク帝国との全面衝突の壁がなぁ……。

「それよりもヒルヒル? あまりにも色恋から離れすぎた会話だと思うのですが?」

「おぉ、すまぬのカール。たしかに今の我は、女として色気に欠けておったわ」

 うん、美人さんは苦笑もまた美人さんだから見てて飽きませんなぁ。



 さて、最後の観光スポットは定番のレマン湖です。

 恋人達が語り合うのに最適な湖のほとりに二人仲良く並んで座っている図は、やっぱり姉と弟が並ぶ図にしかなりません。

 いや、のっぺりーの男爵の座高は高いのだから、立っているときよりは多少はいけているハズ!!


「ほんとうに、綺麗ですね」

「そうじゃな、レマン湖を見るのは初めてじゃが……美しい湖じゃ」

「いえ、あなたがですよ。ヒルデ」

「……そうじゃな、15点をやろうぞ」

 いやはや厳しい採点です。

 さーて、外交外交。

 平和を満喫中のレマン湖さんには悪いけど、これ、戦争なのよね。

「ここだけの話なのですが、聞いていただけますか? いえ、勝手に独り言を申し上げます」

 皇女殿下はこちらを一目し、そして頷いた。

「超硬甲殻型両腕刀剣類にはその亜種として赤い種が居ます。黒い種に比べて甲殻は柔らかいのですが、それらは毒の息を吐き、それに触れた人間や亜人は周囲の者全てが敵に見えてしまいます。そうなると仲間同士で殺し合いを始めてしまいます。あとは、まぁ、法皇国の枢機卿がどんな<加護>を持っているか、ご存知でしょうから、お任せします」

 皇女殿下からの反応は無い。

 ただじっと、レマン湖を眺めているだけだ。

 こうして静かにより沿って、レマン湖を眺めている二人の姿は恋人同士に……。

『98%の確率で見えません』

 ですよね。あははははははは。

 いや、2%で見えるのか!? やったよ、それは某ロボットSLG内ではわりと命中する確率だよ!!


「では、そろそろ帰りましょう。今日はあいにくの曇り空でしたが、快晴のレマン湖は、さらに美しいのでしょうね。それだけが残念です」

「うむ、カール。ほんとうに世話になった。では、帰るとしようぞ」



 もちろん皇女殿下が帰る先は、自らの軍団です。

 護衛の兵士を引き連れて、始めて出合って殺されかけた西門で別れの挨拶を済ませます。

 マクシミリアン陛下も皇女殿下の見送りに出てきましたが、微妙な表情でした。

「では、ヒルヒル。お元気で」

「うむ、カールも息災でな。マクシミリアン陛下、あわただしい訪問で城内城下を騒がせたこと、申し訳なく思う」

「気になさらず。あわただしい事に対して最近、余は慣れておりますからな。特にカール王子のおかげで」

 その言い回しに皇女殿下はケラケラと笑った。

 真実と受け取ったようだ。失敬な。

「次に、訪問する際は、ゆっくりと参られよ。余も歳でな、あわただしいのはカール王子のみで十分だと思うのだ」

「うむ、気をつけることにしようぞ。次に会うときはゆっくりと参るとしよう」

 皇女殿下はそうして馬の背に乗り、外に待たせていた軍勢を率いてジュネーブから去っていった。

 それから途中一度振り返り、こう述べた。


「そういえばの、告げ忘れておったが、15点で満点じゃ!!」

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