第九話 グローセ王家総力戦マイナス父上・前編
広域地図を広げ、まず、敵性戦力の配置を確認します。
「では、現在判明している敵集団の位置を……」
「大きな集団はここだ、それと、小さめな集団がココとココとココ、あとはココだな。他には斥候として小集団が30箇所ほどに散らばっている。個体で動いている蟲も居るな」
はい? 脳筋だったはずのレオ兄さまが、唐突に地図上へ黒カマキリ達の駒を置いていきます。
「え? レオ兄さま? どうして解るのですか?」
俺が質問するとレオ兄さまは天井を指差した。
なので天井を見上げる。木目が美しいですね。
「太陽が見ているからだ。俺には蟲の位置がわかる。そして蟲が行ってきた殺戮行為も見てきた。だから、これ以上は見逃せないっ!!」
あぁ、そういうチート能力もお持ちなのですか。
そして、だからこんなにも怒りを覚えてらっしゃったのですね。
確かに駒の位置はgoodfull先生のマップ情報とほぼ正確に一致しております。
ジークフリート兄さまも頷いているあたり、月を通して蟲の位置を把握してらっしゃったご様子。
ううう、俺のアドバンテージがガリガリと削られていく……最強は先生のはずなのに。
斥候の位置、本隊の移動ベクトルから考えるとチューリッヒから南西に、南側の山地を迂回してベルンを経由し、そして王都のジュネーブ方向へカマキリさん達は食道楽の旅路を歩む模様。
それは西ハープスブルク王国側も理解している様子で、民間人はジュネーブ方面に逃がし、ベルン近郊の城塞に兵を集めて決戦を仕掛けるおつもりのようです。
ですが黒カマキリもさるもの、その動きを見切り、南北の山あいに斥候を兼ねた伏兵を進ませており、いざ決戦となればベルン、ジュネーブ間を分断、そのまま巨大な包囲陣を敷いて個々の城塞を各個に殲滅。あとは守備兵力を完全に消失した王都ジュネーブをパックンチョ。
蟲に負けてどうするよ人間様。
「兄様、姉さま、差し出がましいようですが、私が全軍の指揮を執らせていただいてもよろしいでしょうか? レオンハルト兄様は前線の指揮官ならびに戦力として、ジークフリート兄様には後詰の役割が、ルイーゼ姉様にはここコンスタンツの守備と皆には役割がありますので、唯一戦力とならぬ私が全軍の情報を統括し行軍の指示を出させていただきたく思います」
年少の弟が全軍の司令官に着任する。
そんな在りえない申し出なのだが、
「おう、細かいことは任せた」
「ふふっ、弟の成長を見るのは嬉しいものですね。自ら進んで雑事を引き受けてくれるとは」
「私はそういった細かいこと苦手だからカールに任せるわね」
「にーちゃん、私は? ねぇ、私は?」
あぁ、<加護>に関係しないことは雑事としか考えず、細かな作業が苦手な血族でした。
総兵数は非戦闘員を含めて四百名あまり。
ただし人間核弾頭が二匹に衛星からの援護射撃もあり、逐次、敵の位置情報が把握出来ております。
チートだなぁ、チート以外のなにものでもないが、生存競争に綺麗も汚いもないのですよ。
公平な戦争? なんですかそれ?
では黒カマキリさん、さようなら。わが王家の憂さ晴らしとなってくださいまし。
「にーちゃん!! ねぇ、わたしは!?」
シャルロットには天候を操作してもらい、太陽と月の目が曇らないよう<加護>で戦域全体の雲を散らしてもらいました。
その権能の全体像が未だ不明なので戦力として期待してはいけない、という建前でコンスタンツにてお留守番です。
もちろん、シャルロットは怒りのベアハッグと麗しの上目使いに乙女の涙という武器をもって抗議を申し立ててきたのですが、にぃちゃんはシャルロットの手を血で汚したくはないのです。なので血の涙を流し吐血をしながらの必死(文字通り)の説得を用いて、なんとか納得していただきました。
しかし、天候操作って、一年雨が降らなきゃ国を滅ぼせるぞチート妹よ。
だが、可愛いので許します。国を滅ぼすほど可愛いのですから仕方がありません。シャルロットに愛されない国は滅べばいいのです。
こうしたやり取りを経てコンスタンツを出発した我等チート軍団はまず大本営となる軍令部をチューリッヒ近郊に構えます。
ロッテンマイヤーさんの<加護>で豪華な館が一時間もせずに立ち並んでいく姿は壮観です。
この地は黒カマキリさんにとっては「既に食らい尽くした場所」なので、斥候に見つかる心配もなく安心です。
「一度砲弾の落ちた窪みは安全だ」に習ったわけではないのですけれどもね。
近くには未だ煙が燻るチューリッヒの城塞都市が見えて気分を鬱にしますが、兵士諸君にとっては逆に士気を高める一因になるようでした。
久しぶりのカルチャーギャップ。
一応、生き残りを探してはみたのですが、黒カマキリさんは実に念入りに餌を求めたのか、老いも若きも男も女も、人も家畜も、等しく捕食されておりました。血の染みと細かな肉片、あと黒カマキリさんが孵化したと思われる卵の後を発見。うわぁいエイリ○ン。
勝利するごとに数を増やす。黒い悪魔Gよりもやっかいな生き物です。
血と肉の有機物を捕食ながら鋼鉄を身に纏うその生態に謎が残りますが、世界で最も硬い物質は炭素の塊なのだからと気にしないことにしておきましょう。
軍令部の設営が終った頃には日が傾いておりましたので、レオ兄さまの出番は終了で御座います。
太陽の王子は宵闇に弱いのです。お疲れ様でした。
「なぁ、カール。蟲の一番大きな集団に突っ込んで皆殺しにしちまった方が楽だったんじゃないか?」
「それをすると斥候かつ伏兵として分裂している小集団が個々のコロニーとなり四方八方に散り散りに逃げ出してしまいます。そうなれば、むしろ手に負えなくなりますから駄目です。それにここはあくまで他国領なのですから、四方八方に兄さまが暴れ回るわけにも参りませんでしょう?」
あぁ、なんだかアルブレヒトくんの気持ちが解ってきたような気がする。
無茶ばかりしようとする主をなんとか引きとめようとする気苦労とはこういうものだったのですね。
ごめんよアルブレヒトくん。
「そうか、そうだな。ここは西ハープスブルク王家の領内だったか。忘れてたぜ」
「うん、どうか忘れないでお兄様。あと親善大使として親書を渡しにきただけだってこともね」
「あぁ、親書……どこにやったかな?」
いやだぁぁぁぁぁぁ!!
ここにきて輝かしいレオ兄さまの駄目な所ばかりが目に入ってくるよぉ。あのカッコイイ兄貴は今どこに?
女子ならばそのアバウトさにもイケメン補正で母性本能をキュンとさせるのでしょうが、残念なことにワタクシは男性です。
なので、イラッとしかしません。
「では、私はこれからジーク兄さまと共に近場の斥候を潰してまいりますので、レオ兄さまはお休みになってください」
「え? 一番槍は俺だろ? カール、それはないんじゃないか?」
ううう、自らが暴れることしか考えてないよこの兄。
「斥候同士の戦いですから決戦というわけではありません。ですから、一番槍とは関係の無い戦いですので安心してお休みになっていてください」
「そうか、解った。俺は寝るぞ」
扱いやすいのか、扱い辛いのか、微妙なレオ兄様で御座います。
さて次は「月影の聖弓」ことジークフリート兄様のチート能力の出番です。
一射で十万を屠ると伝えられるその弓の技、あれ? 二十射すれば戦争終っちゃう?
いやいや、<加護>を使うにはMP的なものが削れるのだからそこまで連射は出来ないはず。
一日一射の制限付きとかそのくらいのものでしょう。
そうであって欲しいと信じておきます。自分でも信じてませんが。
「では、ジーク兄さま、チューリッヒの南東、ゼンティス山付近に群がっている小集団から殲滅するとしましょう。彼等にこちらの本陣を発見されると厄介です」
俺は南東のゼンティス山の方角を指差しながらこれからの行動について伝える。
「そうだね。こちらが見つかる前に敵の目を潰してしまうのは実に合理的な考えだ。解ったよ。僕の弓と矢で、忌まわしい蟲達を貫き屠ってやろうじゃないか」
ジーク兄さまはそう口にすると自らの影から矢を一本取り出して南西向けて弓を引き絞り、そして一射なさいました。
マップ情報を見ると、ゼンティス山に群がっていた十万を超えていた赤い点が一斉に数を減らします数千までに。
ちょっと待って、ジーク兄さま、ここらからゼンティス山まで100km近くあるのですが?
「ちょっと矢の数が足りなかったね。もう一射しよう」
「いやいやいやいや、待って待って待って。ジーク兄さま待ってぇぇぇぇぇ!!」
いけない、ジーク兄さまのチート性能を見くびっておりました。
このままでは味方の高性能のために私の悪巧みが潰されてしまいます。
アルプス山脈内にはドワーフの地下王国がありゼンティス山にはその入り口があるのですが、ドワーフとグローセ王国の間に今のところ国交は無く、この群蟲種の一件を通して恩着せがましい国交を開始する予定が今の一射で台無しに?
いやいや待て待て、まだ間に合う。
「レオ兄さま起きてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
寝付いたばかりで眠たそうな精鋭から二百名を連れ、レオ兄さまの<戦>の加護を用いて時速100km超えの高機動行軍を開始。<戦>の加護が掛かると眠気が吹き飛んだのか皆がナチュラルハイになりました。これはこれで一周して心配な状況です。
幻想世界には複数の知的生命体が居て、複数の王国が重なり合うように存在します。
西ハープスブルク王家の領内でありながらドワーフ王国の領土であったり、エルフ族の領域であるなんてことはざらなのです。そして、国交を結ぶ相手は人間に限る必要はないのでした。
国境線とはあくまで人間と人間の間にある約束でしかありません。
事実、人間種の領域であるグローセ王国内にも幻想種のコロニーは多数存在します。
ジーク兄さまの<月>の加護のおかげで夜道も昼の街道のように、結果、一時間と掛からずに黒カマキリさんたちの集団とご対面と相成りました。チートが二倍で安心安全ですなぁ。
「レオ兄様、それでは約束の一番槍をどうぞ」
一番槍ではなく剣なのですが、レオ兄様が剣を一振りすると放射状に広がった剣圧が前方の黒カマキリさん達をノシイカに変えてしまいます。
夜間は太陽の加護による索敵が効かないためか、あまり効果的に力を振るえていないご様子。
それでも続くジーク兄様の影牙月天射(命名:ジーク兄様)の一射が降り終えると地上に残った黒カマキリさんは殲滅完了。
ジーク兄様が一仕事終えた顔をしておりますが、本当の仕事はここからですよ?
太陽と月の目が届かない、ドワーフの地下王国へ入り込んだ黒カマキリ達は未だ千以上を数えておりドワーフの軍勢と戦闘は継続中です。
狭い坑道を上手く利用したのか、よくあの黒カマキリを相手に戦ってきたものだ。
ドワーフの戦士達は血に塗れながら、それでも一進一退の攻防を繰り返しております。
エルフとは違い、鋼鉄の武器と膂力にものを言わせたその戦い方は相性が良かったのでしょうな。
五分と五分の戦いを見せています。
さすがは先生の3Dマップ、太陽よりも月よりも、確かな目を持ってらっしゃる。
「レオ兄さま、ジーク兄さま、戦闘はまだ終わりではありません」
そう口にした俺に対してジーク兄さまが首を傾げた。
たしかにジーク兄さまの索敵能力では坑道内の黒カマキリは見えませんから終った気になっていたのでしょう。
「ゼンティス山にはドワーフの地下王国に続く坑道があり、いま尚、坑道内では戦闘が続いていることでしょう。これの殲滅をもって始めて勝利となります。太陽と月の目から隠れたところにある民であるからと言って見捨てるお二人ではないでしょう?」
ふふふ、勝った! goodfull先生の索敵能力の方が上だと証明されたぞ!!
索敵のアドバンテージ、ふっかぁぁぁぁぁぁぁつ!!
やっぱり凄いのはgoodfull先生だよ! 先生こそが最強だよ!!
『私の索敵能力は地上地下に宇宙、たとえマントル層の下であっても圏内です。使用時間が限られたり、雲などの遮蔽物などで使用不可となる半端なサービスと一緒にしないでください』
そうです! 先生こそが最高なのです!!
さぁ、一振り十殺の精鋭揃いが二百名、さらに<戦>の加護がつき、レオ兄さまが先頭を行くのですからもはや負けようの無い、傷付きようのない、一方的な残酷な狩猟の時間で御座います。ぐらぁぁぁぁぁんぎにょぉぉぉぉぉぉる!!
千以上の黒カマキリ? 我が兄様方を殺したいならのその万倍もってくるのだな!! それでも足りないけどねっ!!
一方的な殺戮、一方的な惨殺、一方的な射殺、じつに気持ちの良いものです。
全ての戦闘行為とはこうありたいものです。
復讐は何も生まない? いえ、実に気持ちの良いものですよ。 チューリッヒの惨状を見た後では特に。
坑道の内部は分岐したり合流したりを繰り返し、迷路のように入り組んでいましたがさすがは先生、goodfullロケーターサービスでもって俺にしか見えない光のラインを使い最短距離のナビゲート。
あとはレオ兄様をその道へと誘導するだけの簡単なお仕事です。
ふふふ、流石ですなぁ。
『お褒めにあずかり光栄です』
間断なく攻め入ってくる終わりの見えない黒カマキリの群れの後方から、黄金の獅子がその剣で軽く薙ぎ払いつつ自らへ向かってくる姿にドワーフ達はなにを見たのでしょう?
最後の黒カマキリをレオ兄さまが斬り伏せた時、最前線に立っていたドワーフの将と思われる人物が膝をつき、王に対する敬意を表します。そして続いて他のドワーフの戦士達も膝をつきました。
黄金の獅子を前にした実に美しい光景。
俺が先頭に立っていなくて本当に良かったです。
「他にも敵はあるか? 俺が、手を貸すぞ?」
「はっ、こちらの坑道にて未だ蟲が残っておりますゆえ、案内させていただきます」
あぁ、威風堂々、王の威厳とは素晴らしいものですね。
異国の将兵をも自らの部下として扱い、異国の王を自らの主として崇めさせてしまう、種族の差すら乗り越えて主従を誓わせてしまうカリスマ性能。
実に素晴らしいものですね。仕事が楽で良いです。
心情的にレオ兄さまの軍門に降ったドワーフ達にも<戦>の加護は及ぶようになったようで、一進一退の攻防が一方的な蹂躙戦に、子一時間も掛からずにゼンティス山の殲滅戦は終ったのでした。
そして、お楽しみの事後処理の時間が始まります。
さーて、誰が戦後処理の雑務を行なうのでしょう?
「眠い。寝る」
ははは、レオ兄さまは実に自由でらっしゃる。
「私は本陣に戻るとしよう。あまり長く空けておくわけにもいかないだろう?」
ははは、ジーク兄さまめ、雑務から逃げおったわ。
ちくしょうめ。やはり俺か。
坑道の壁に背中を預けて堂々と寝入ったレオ兄さまにうろたえるドワーフの将校と楽しいお取引の時間となりました。
精鋭兵の200名にも睡眠を命じます。どうせレオ兄さまが起きないと行動できないのですから。
まずは、こちらの軍勢がどれほどの武力を有しているのか、これを確認していただくために坑道の外にドワーフの将軍様をお連れいたしましょう。
ずっと坑道の中で血なまぐさい空気を吸い続けていたのです外の空気は美味しいでしょう?
でも、十万余の黒カマキリの骸が周囲一帯に転がっていますから、血臭はあまり変わらないと思いますけどね?
「これは、あの御方が?」
「そうですね、まぁ大体はそうだと思っていただいて構いません。我が兄の名は黄金の獅子ことレオンハルト・フリードリッヒ・フォン・グローセ、グローセ王家の第一王子です。ちなみに私は第三王子のカールと申します」
ごめん、ジーク兄さま。説明がめんどくさいので飛ばします。
逃げたし、あなた。
「グローセ王家……なぜ、我等ドワーフを助けに?」
「人が人を助けるのに、そんなに深い理由が必要ですか? 兄はそういった方です。この場合は人がドワーフを、ですが、そういった細かなことに拘る人ではありませんから」
そう告げて俺は笑う。
えぇ、本当に細かなことに拘ってくれない人なんですよ。怒りを覚えるほどに。
「この山の入り口はこうして守られましたが、他山からの侵略もあるのではないですか? 遠慮することなくおっしゃってください。我等は勝手に戦わせていただきますので」
ただより高いものはない。
実に良い言葉です。
ドワーフの将軍様ことドーガは渋い顔をしつつ、それから黒カマキリの死骸の山を見下ろし、そして地図上の数箇所の山を指差した。王国の入り口は機密事項なのだ。
人間同士の争いにドワーフは干渉しないしドワーフの争いに人間は干渉しない、その不文律が横たわりながらも、群蟲という脅威を前にして心が弱っていたのかも知れない。
山の位置的に考えて、おそらく俺がバーゼルで戦っていた頃より以前から戦闘は始まり、そして途切れることの無い黒カマキリの波に抗い続けてきたのだ。
三ヶ月、それとももっと長くだろうか?
よく耐え切ったものです。ここは素直に賞賛しましょう。
ドーガ将軍が示した地図上の地点には確かに十万単位の黒カマキリが群を作っており、そこでは未だ終りの見えない戦いを強いられているのでしょう。
人間の国とドワーフの国、両王国を相手に二正面作戦を展開するとは黒カマキリさん達もずいぶんと余裕をかましてくれるじゃありませんか。
群蟲種にとってドワーフと人間の区別が付かないのかもしれませんが。
さて、ではこちらは二正面作戦ならぬ挟撃戦と参りましょう。
内からはレオ兄さまが、外からはジーク兄さまが、二大チートを相手に黒カマキリさん達にデッドリーなダンスを踊ってもらうとしましょう。
そして俺は高みから、衛星軌道よりもさらに高い四次元時空の外の高次元から見物させてもらうことにします。
「この山の周囲の安全は確保されましたから、レオ兄さま達が目覚められたなら地下坑道内を通って他の戦線への応援に駆けつけてください。これは私が指図することではありませんが貴方やレオ兄さま達が向かうことで他のドワーフたちにも希望の光が灯されることになるでしょう?」
ドーガ将軍は俺の言葉に素直に頷いた。これで一つ目の細工は流々です。
さて、雑務から逃げて本陣まで逃げきった気になっているジーク兄さまを捕まえてもう一仕事のお時間です。
まずは愛馬ケルヒャ号の最高速度と先生のロケーターサービスを用いてジーク兄の首根っこを確保、そして引きずりながら他の山々に群がる黒カマキリ達を適度に、それぞれ数千程度を残して影牙月天射で狩ってもらいます。
「カール? なぜ、全滅させずにわざわざ蟲を残すのかな?」
「全滅させるとレオ兄様が怒るからですよ」
「なるほどね。それは確かに怒られそうだ」
兄弟間ならではの納得の行く答えに満足していただけた様子。
ここまでお膳立てしておけばレオ兄さまや精鋭たちにとって何の危険も無いはずです。
退かず、媚びず、省みない黒カマキリさん達は果敢にも未だに玉砕覚悟の突入を継続していますが、眠れる黄金の獅子さんが、明日の朝には目覚めて残党を駆逐してくれることでしょう。
連戦するごとにドワーフたちがレオ兄さまに敬服し、<戦>の加護を帯びたドワーフの数を増していきますから、後半になるほど容易くなるはずです。
そうしてドワーフの地下王国内から黒カマキリを駆逐したあとにはレオ兄さまも本陣へ戻ってきてくれることでしょう。
子供じゃないんだから。




