隠し撮り……なんてハードル高いだろ!
「はあ……はあ、はあ……」
私は、家に帰ると真っ先に我が妹の部屋の前に向かい、純香の顔を隠し撮りしようとしていた。緊張のせいか、息が切れてくる。
注意、私は決して変態ストーカーではない。
「はあ、はあ……」
注意、私は決して変態シスコンではない。
たしかに純香は可愛いけど。たしかに純香のことは好きだけど! でも、シスコンなんて、そんなんじゃないよ!?
「お姉ちゃん、なにしてんの?」
「ひ!」
視線の先には、眉を寄せてカメラを手にした私を見下ろす妹の姿があった。うわー! 作戦がー!
「カメラ……? お姉ちゃん、くだらないことするのやめときなよ」
純香は小さくため息をついて、そして階段を降りていった。せ、セーフ……?
でも、隠し撮りのハードルがさらに上がった! どうしよう、依琉に殺されるよぉ……。
正直に言ったら撮らせてくれるかな? いや、でも断られた上に余計に隠し撮りができなくなるって可能性も。
わーもう、私はどうすればいいの!?
今日は金曜日だから、明日依琉に謝ることもできないし。私携帯持ってないし。依琉の家電知らないし。
「もう、最悪……」
私は、ため息をつくほかなかった。
仕方なく隠し撮りを諦めた私は、月曜日依琉に素直に謝ろうと考えた。
そりゃあ、依琉は怖いけど、でも、純香に嫌われる方がよっぽど怖い。だって純香は家族だもん。
そういうわけで、月曜日。
「ごめん依琉! やっぱり私、純香の隠し撮りは出来ない!」
「はあ!?」
朝っぱらから言うべきじゃなかったと、口にしてから後悔する。でも、言ってしまったものは取り消せない。どうせなら、言い訳をさせてもらおうじゃないか。
「萩香……あたしさァ、週末ずーっと楽しみにしてたんだよなあ~。この気持ち、分かるか?」
またほっぺたをつねられる。この間と同じパターンだ。でも、私はそれを振り払って答えた。
「気持ちは分からなくもないけど、でも、ほんとに無理なの。私、妹が大切だから」
自信満々で言い放つと、依琉は堪えきれないというようにふきだした。し、失礼だな……。
「萩香はそういうやつなんだよな。うん、わかったわかった。今日のところはこれで許してやるっ」
依琉は笑顔でそう言うと、思いっきり頭を殴ってきた。えぇ!?
「ちょ、依琉? 今、めっちゃ痛かったんだけど」
「そりゃあそうだろ。このあたしが本気で殴ったんだからな」
「え、ええ?」
なにそれ。今日は許すってことは、私これから毎日殴られなきゃいけないってこと? なにそれなにそれ!
「ちょ、依琉さん? ラブアンドピースだよ? 暴力反対だから、私。ね? ちょっと落ち着こう。話し合えばわかるって」
私は焦りながら依琉を説得しようとする。しかし、効き目はない。
にやにやして私を見つめてくる。ちょっと……その視線、かなり怖いんですけど。
その光景を微笑ましそうに見守るのは、今日もゴテゴテの化粧をしてきている杏珠。いつも通り、一般人の私からすればホラーメイクだ。
ってか、まったく微笑ましくないんで、見守る余裕があったら依琉に何か言ってやってくれないかなあ……。
「ねえ、杏珠。依琉をどうにかしてよ。私、もう耐えられないんだけど」
「依琉に好かれたらそうなるのは決まりみたいなもんよ。萩香も、潔く諦めて下僕になった方がいいわよ?」
「待って今すごい言葉が聞こえた気がする!」
杏珠もまた、変わり者だった……。私、杏珠は、杏珠だけはまともな人だと思ってたのに……。
メイクは信じられないほどのゴテゴテさだけど、それでも、性格はまともだと思ってたよ!
「……そうか、グルだったのか……」
私はため息をついて、そうつぶやいた。