四畳半の配達屋
王都オラクルにはある噂がある。
それは【どんなものもこの世界にあるところならどこにでも運んでくれる配達屋がある】というものだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
「ここ...だよね」
かわいいフリルをまとった少女の目の前にはかなり小さな【ハル屋〰どんなものでも届けます〰】という看板を建ててある建物があった。
彼女名前はナルーシャ
メイドである。元々は遠い雪山を越えた偏狭の村〈シルウィード〉に住んでいた村娘であったが、ある日こんな偏狭な村にいるのが嫌になって村を飛び出した。王都オラクルへ行こうとしたのだ。しかし雪山を越えることは例え屈強な冒険者と言われるものでも十日は掛かるといわれるほど厳しい環境だった。
当然なにも戦闘技術も食糧も持っていない彼女は雪山をさまようことは死ぬことと同意な意味だった。
しかし彼女はそこで運命の出逢いをする。彼女は雪山で今後メイドとして遣える貴族ルーミヤ ドエルに助けられたのだ。そして彼女は唯一の肉親である祖母に別れを告げメイドとして遣えることになった
ドエル家に遣える日々はとても心地よかった。それもそのはず。ドエル家は待遇がいいというのが評判でドエル家のメイドの求人倍率五十倍を越えることは当たり前なほどだったのだ。
メイドとして遣える日々はいつのまにか十二年がたった。幸せな日常を過ごす内にもう故郷のことなんて殆ど忘れかかっていた。
しかし先日シルウィードから手紙が届く。どうやら偶然シルウィードに通りかかった冒険者が届けてくれたらしい。
別れの手紙だった。彼女の祖母は原因不明の病に倒れ後一ヶ月持つか持たないと書かれていたのだ。その他にも祖母からの暖かみのある言葉に彼女は涙を流した。
手紙が書かれたのは『十四月の二十五日』そしてある冒険者が手紙を受け取ったのは書かれてから二十五日たった『十五月の二十日』そしてドエル家に届いた日は『十五月の二十三日』。その冒険者はよっぽど腕がたったのだろう。通常十日以上掛かると言われているあの雪山をわずか三日で越えることが可能だったのだから。要するにもう既にナルーシャの祖母は死んでいるかもしれない
彼女は手紙を出そうかどうか迷っていた。手紙を配達には金がかかる。金貨二枚だ。しかし住み込みのメイドとして働いているナルーシャは給料を貰っていない。貰っていないというより欲しい物があるときはドエル家が金を出してもらえるからもらう必要がないといった方が正しい。実際にナルーシャも銀貨十枚ほどのものだったらどんどん買ってもらっている。しかし今回は銀貨二百枚もかかる出費だ。だから彼女は手紙を出したいというのを躊躇していた。
しかし出すことを決意したのはルーミヤに手紙くらい出しなさいと言われたからだ。金貨二枚を渡され、オススメの配達屋も教えてもらった。彼女はナルーシャの優しさに涙した
ーーーーーーーーーーーーーー
「本当にこんなところがドエル家御用達の配達屋なの?...」
彼女はもう一度地図を確認する。しかし地図はちゃんとここを示していた。彼女は深呼吸をしてドアを開く。
するとチャリンチャリンと甲高い音が店中に響き渡った。ナルーシャは驚くが中に入っていく。しかし店の中には人影がない。
(留守なのかしら...)
ナルーシャは周りを、見渡してみる。そこにはつい最近できたと噂の魔道具があった。それにドエル家でよく見かけるシャンデリアという高級な照明が部屋を薄暗く照らしている。外見のみすぼらしいのとは裏腹に内面は小綺麗になっているのにナルーシャは軽く驚いていた
「はい...なんでしょう...」
眠たそうに目を擦りながら階段から黒コートを着た青年が降りてくる。
「いや...配達のお願いがありまして」
「え?お客さん?ちょっと待って...今コーヒーをいれるから」
そう言って店長らしき青年は魔道具らしきものの変なでっぱりを押す。暫くすると下に置いてあったマグカップにコーヒーが注がれた。素晴らしい技術だとナルーシャは感心した
「すごいでしょこの魔道具」
その感心の目を向けられていたことに気づいた青年はナルーシャに話題を持ち出す
「はい、凄い技術だと思います」
「これ、俺の友達の作品なんですよ、そいつ腕は確かなんですけど、なんか作る魔道具が使い勝手が悪いものばっかりなんですよねー」
「ふふ、確かにそうですね」
思わずナルーシャは笑う。確かにコーヒーを作るための魔道具なんて使い勝手が悪すぎる。
しばらくするとコーヒーとお茶菓子が運ばれてくる。
「私、配達代しかもってませんよ?」
彼女は恐る恐る言う。彼女がそう言うのも無理はない。本来コーヒーやお菓子は貴族のための飲み物、食べ物なのだ。
「いや、別にいいよ、これはお客様がくれたもだから」
「こんな高いものをくれるなんて...」
ナルーシャは目を点にする
「いやーこの店を贔屓にしてもらっているドエル家とカミーシャ家には頭上がらないよーこの内装のシャンデリアとか全部ドエル家とカミーシャ家がくれたものだからね」
そう言って青年はコーヒーを啜る。
「あら、そうなのですか」
意外なところにドエル家の名前が出てきて彼女は目を丸くする。
「そういえば名前いってなかったなレイン ハルシオンです」
彼はそう言って頭を下げた
「あっ申し遅れました私ナルーシャと申します」
慌ててナルーシャも立ち上がって頭を下げる
「じゃあナルーシャさん、依頼の内容を聞かせてもらってもいいですか?」
彼の目には既に眠気など欠片も存在してないようだった
ーーーーーーーーーーーーーー
「なるほどね...ナルーシャさんの叔母が」
「はいそうなのです、だから手紙を配達...」
「え?そうなの?ナルーシャさんをシルウィードに配達するんじゃないの?」
「え?いやどっちにしろ、私がシルウィードに行ったとしてももう既に叔母は...」
「いやいやまだ間に合うよ、うちをなんだと思ってるんだよ?早い、安心、安いがモットーのハル屋だぜ」
「いやでも...」
ナルーシャは視線を落とす
「あーもうナルーシャさんは行きたいの?行きたくないの?」
レインはめんどくさそうに頭をかきながら問う
「私は...」
彼女は言葉をつまらせる。彼女はレインがこんなことを言ってくるなんて思ってもいなかったのである。
「行きたいです。会ってサヨナラが言いたいです」
ナルーシャの頬に一筋の涙が流れる
「そうか..なら行こうかシルウィードへ」
「はい!!」
「半日は掛かると思うけどいいか?」
彼は申し訳無さそうに言う
「...え?半日で着くのですか?」
「うん、だってハル屋だからな...」
「そ、そうですか」
彼女は目を点にする
「じゃあ行きますか」
そう言ってレインはナルーシャを抱き抱える
「え?え?」
彼は駆け出した
速い...とにかく速い。しかし速いことが彼の本当の凄いところではない。本当の凄いところは全く魔物に出くわさない所だ。彼はまるで魔物がいるところが分かっているかのようだった。駆け出して僅か二時間で最も雪山の近くの村に着いた
「ここから一気寒くなる。これを着といてくれ」
そう言ってレインはロングコートを渡す
「あ、はいありがとうござい...」
「さぁ一気にいくぞ!!」
レインはまた再びナルーシャを抱え駆け出す
雪山に入って六時間初めて魔物を見かけた
「レインさん!!魔物!!」
「わかってる!!」
そう言ってレインは短刀を取り出す。短刀は青く美しかった
「うぉぉぉお!!」
レインは一気に加速し敵を切り裂く。すると魔物は二秒もかからない内に倒れた
「...凄い」
「さぁ後少しだ。早くいこう!!」
ーーーーーーーーーーーーーー
「はぁはぁ着いた...」
彼はそう言ってナルーシャを降ろす。空はもう暗くなっていたが村はまだ明かりがついていた
「行ってきてくればいい、俺は適当に宿をとって休んでいるよ」
そう言ってレインはどこかへ行ってしまった
「お祖母ちゃん!!」
そう言ってナルーシャは勢いよくドアを開いた
「なんでナルーシャがここにいるんだい!?」
ナルーシャの祖母は目を点にする
「配達屋さんに連れてってもらったの!!それより待っててね!!今から病人でも食べれるようなごはん作ってあげるから」
そう言ってナルーシャはロングコートを脱いでメイド服姿に戻る
「ごはんはいらないよ、それよりナルーシャのお話が聞きたいな」
その言葉にナルーシャは反論しようとするが祖母の変わりきった姿を見て食べれる状態ではないことを察した。彼女は黙って側にある椅子に座った
「村に出てからね...」
そう言ってナルーシャの昔話が始まった
.........
......
...
「...でねーだから私凄いところに遣えることができたのー」
祖母はニコッと笑いながらウンウンとうなずく
「ナルーシャ」
「うん?なにお祖母ちゃん?」
「今幸せかい?」
「うん!!今とっても幸せ!!」
ナルーシャはヒマワリのような笑顔を見せる
「そうかい」
そう言って祖母はベッドに倒れこむ
「ならよかった...」
「お祖母ちゃん?」
「最後に孫の姿を見れてよかった...」
「お祖母ちゃん!!死んだらダメだよ!!」
「もう、いいんだよナルーシャ、私はナルーシャがわざわざ来てくれてとても嬉しかった。本当に嬉しかった」
そう言って祖母は涙を流す
「お祖母ちゃん...」
彼女は言葉をつまらせる
「ナルーシャ笑って生きておくれ」
これがナルーシャの祖母ハールの最後の言葉だった
「急いで行ってよかったな」
レインは木の上で寝転びながら呟いた
「お別れは済ませてきたのか?」
「はい!!」
朝になってナルーシャの表情には迷いがすっかりなくなったように見えた
「そうか...なら帰るか」
そう言ってレインはナルーシャを抱き抱える
帰りは少しだけゆっくり雪山を越えた
ーーーーーーーーーーーーーー
「ありがとうございました!!でも本当にいいんですか?金貨二枚で」
「いいんだよハル屋だからな」
そう言ってレインは金貨二枚を受けとる
「じゃあこれで」
「おぉーまたのお越しを」
そう言ってレインは頭を軽く下げた
「あぁーー!!!店長見つけた!!それよりもシルウィードに連れていってほしい人がいるんですよ!!」
ハル屋のもう一人店員である少女がドアを思いっきり開けながら騒ぐ
「うるさい黙れルーシー、で誰をつれていってほしいんだ?」
「私シルウィードの村に立ち寄ったんですよ。そしたら病気のお祖母ちゃんと出会って手紙を届けてほしいって!!大事な孫に届けてほしいって!!だから私、店長にその孫の人をシルウィードに連れて行ってほしいんですよ!!その人は」
「ドエル家のメイドだろ?」
レインはサラリと口を挟む
「あー!!そうです!!ってなんで知ってるんですか!?」
「昨日つれていった」
「え!?そうなんですか!?」
「それよりもルーシーお前シルウィードから王都まで三日もかかったそうだな」
そう言った瞬間ルーシーの顔が青くなる
「な、なんでそれを...」
「ナルーシャが教えてくれたよーたった三日で手紙を届けてくれてすごく喜んでたよーでもここはハル屋だぞ?ルーシー、ハル屋のモットーは?」
「早い、安心、安いです...」
「やはりまだ修行が足りないな...もっと特訓増やすか...」
「えー!!!勘弁してくださいよ!!店長!!」
こうして四畳半の小さな配達屋ハル屋の日常は過ぎていく
連載にするかもしれません。ぜひアドバイスをしていただくと嬉しいです