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短編

マミ子さんの秘密

作者: 高塚由宇

小説家のたまご様の「たまごの物語、テーマ:受付嬢」に投稿し、掲載して頂いた掌編です。

今年で24歳になる磯村マミ子は『オーエド・ファイナンス』という中小企業で受付嬢をしていた。マミ子自身は『オーエド・ファイナンス』の社員ではなく、派遣会社から派遣されて勤めていたのだが、来客への対応も大変礼儀正しく、社内でも1、2を争うほどの人気があった。


「磯村さん、今日も可愛いね」

「またそんなお世辞言って」


「磯村さん、今日良かったら飲みに行こうよ」

「ごめんなさい、今日は予定があるの」


「あなたみたいな人がうちの会社の受付にも居たらなぁ」

「うふふ、ありがとうございます」


マミ子が受付にいる時は大抵このような会話がされている。だが、そんなマミ子には人には言えない秘密があった。




――今から半年ほど前。


「磯村君、例の話考えてくれたかね?」

都内にある派遣会社『狩野スタッフサービス』の一室の机に座る恰幅の良い一人の中年男性が尋ねる。机の前には、華奢で細身の髪の短い若い男性が1人立っていた。


「ほ、本当に僕がそんな事を?」

「先方の要望に答えられる人材が君しか居ないんだ、頼む」


「でも、もしバレたりしたら……」

「大丈夫、君なら問題ないはずだ」


『狩野スタッフサービス』には、"接客がきちんとできる受付嬢"を派遣してほしいという依頼がきていた。しかも、急ぎの案件だったため、約束の期日までに派遣してくれれば、他のスタッフの派遣に比べて3倍ほど人件費を多く払うという話だったのだ。


『狩野スタッフサービス』側からしたら、こんなチャンスは滅多にないとすぐに派遣を決めたのだが、適当な女性の人材が見つからなかった。そのため、登録されていたスタッフの中で一番中性的で化粧をすれば女性に見える磯村健吾に白羽の矢が立った。


磯村健吾は、化粧をし声色を変えて、磯村マミ子という女性として『オーエドファイナンス』に派遣された。派遣された当初から、彼女……いや、彼の容姿に男だという疑念を抱くものはおらず、すぐに人気の受付嬢となった。磯村本人は、男である事がバレるのではないかと、常にドキドキしていたのだが、そういった表情や、緊張している様子が可愛いという周りの評価を生み、さらにマミ子の人気が増す結果となってしまっていた。




――そんなある日。


「社長さんは居るかい?」

髭面でサングラスをかけた、いかにもいかつい感じの男が受付にやってきた。

「アポイントはお取りですか?」

磯村は冷静に対応する。

「そんなもんは無い。とにかく社長に会わせろ。こっちは社長のせいで大変な目にあってるんだぞ!」

『オーエドファイナンス』は消費者金融を営んでいるため、このような輩が来る事がたまにあるのは分かっていた。しかし、今回の男はとにかくしつこい。

「お約束がとれてない以上はお会いする事はできません」

磯村が拒むと、男は懐から出刃包丁を取り出した。

「これでも会わせない気なんだな?」

磯村は恐怖で顔が青ざめた。


すると、ちょうどその時、社長が外出するために1階に到着したエレベーターから下りてきた。

「おう、社長さんじゃないか」

男が包丁をむき出しにしたまま、社長のもとへとゆっくりと近づく。

「またあんたか。うちにはなんの責任もない。お金を借りたのはあなたの責任だ」

社長は毅然とした態度で対応する。

「うるせぇ!! お前のせいで、俺がどうなったか!」

男は大きな声をあげると、そのまま包丁を社長のほうに向けたまま勢い良く駆け出した。すると、

「やめろぉ!!!」

と、受付のほうから野太い男の声がする。磯村の声だった。


受付から飛び出した磯村は男のもとへ一目散に向かうと、スカート姿なのも気にせず、男に向かってハイキックを一閃。男は一発でノックアウトとなった。実は磯村は昔、キックボクシングを習っていた事があったのだった。しかし、その時の男の地声とハイキックの破壊力から男である事がみんなにバレてしまった。


「磯村さん、君……」

社長は目を丸くし、言葉を失う。

「……はい、男です。騙していてすみませんでした」




次の日から、社長の命を救った磯村マミ子は、磯村健吾として、受付ボーイという役目を与えられ、『オーエド・ファイナンス』の正社員として働く事になったのだった。



昔は、男女の職種に今以上の違いがあったかと思いますが、現代においても受付嬢はその言葉通り、"女性の特権"、"女性が勤めるべき職種"というイメージがあると思います。そういったイメージを覆すような内容であれば、何か面白い話になるのではないかと思い、本作品を書いてみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「やめろぉ!!!」で笑わせてもらいました。(笑)
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