第4話
昴の耳に織姫から悲鳴のような報告が届いた。
『ミサイル! 10時方向から多数! 待ち伏せされたよ!』
その報告が終わらない内に、昴達は反射とも言える速度で対応を開始していた。
先ず機体数か所に装備された煙幕弾が発射される。
発射された煙幕弾は広範囲に飛び、スターダスト小隊各機の取るであろう行動を敵対者から隠した。
この時代の煙幕弾は、通常の視界を遮るだけでなく、赤外線やレーダーによる照準も狂わせる仕掛けが成されている。
目標を見失ったミサイルは、最後に設定されたコースを維持したまま飛翔を続けるが、昴たちが煙幕弾の発射と同時に回避行動を取ったため、何もない地面で弾頭を炸裂させるに留まる。
『どうする?』
この簡潔な問いは、最後尾に位置する北斗からのモノだ。
通信が使えるのは、照準用のレーダーと通信に使用される波長が異なっているお陰だ。
北斗の問いかけに昴の思考は一気に明晰になっていく。
刹那の間を置いただけで、すぐさま指示を下していた。
「相手の位置と規模が掴みきれていない。いつも通り3-1で行く」
『おっし』
『解ったわ』
『了解』
返事が終わるや否や、4機は隊列を変更して煙幕から跳びだしていた。
*** ***
「これは思わぬ逸材かもしれませんね」
張り巡らされた煙幕の中、遮蔽物を求めて移動する指揮車に座る高原少尉は、昴達の素人とは思えない動きの良さに感心していた。
テクノロジーの発達により迎撃/回避の成功率が上がり、ミサイルが必殺の兵器で無くなって久しい。
だがそれでも長い射程に一撃で与えるダメージの大きさ、そして使う者の腕にあまり頼らないで済む利便性は捨てがたく、今でも重要な地位を保持し続けている。
現在での主な使われ方は、相手の探知の範囲外から撃ちこむか、今回のような待ち伏せによる急襲。さもなくば機動戦においてジャブのように相手を牽制、消耗させるためだ。
探知外からであれば、発見と対応が遅れて迎撃が間に合わない可能性が高まる。
待ち伏せであれば、相対距離の短さと憂慮時間の短さで一方的に攻撃を受ける事になりかねない。
機動戦の最中であれば、ミサイルに気を取られている隙に銃弾や砲弾を食らったりその逆もある。
だが昴たちは、慌てる事無く最適解と言える行動を選択してのけた。
データリンクによると、スターダスト01~03が前方に展開。スターダスト04が後方から援護する恰好を作りつつ、進路上の敵を警戒しているようだ。
その事を確認した高原少尉は、コンソールを操作して無人探査機を射出する。
同時に操縦士に手近な遮蔽物を見つけ、その陰に車体を隠すように指示を出した。
*** ***
機体が煙幕を抜けると、さほど時を置かずに再びミサイルが発射された。
ただ今回違うのは、その発射地点を昴たちがしっかり視認できた事だ。
確認された発射地点は7つ。それらに戦術コンピューターが番号を付与する。
その内の2つは地上付近であるからあれは歩兵の放った携行ミサイルだと断定した昴は、それ以外の5つを敵TFとみなし、中央部に位置する番号への攻撃を指示する。
「3と5に集中。炙り出して分断を狙う。2x2だ」
その指示から間髪置かずに、銀河からの問い合わせが入る。
『信管は? DかNか』
この世界では、ロケット弾とえいども母機の側から信管の調節ができるのが当たり前になっている。
この機体の仕様の場合、と言うよりはTF全般に共通する仕様であるが、コンソールパネルのスイッチでその設定が可能だ。
Dであれば直撃しないと信管は作動しないが、Nで設定すれば対象物から一定距離で信管が作動する仕組みになっている。
なおNでの作動範囲は、出撃前に設定された数字を機体の側から変えることはできない。
「初弾N、指定。以後、自由」
これは1射目はN設定で指定された目標を狙い、2射目以降は状況を判断して信管も目標も自由に選べという意味だ。
その指示に、誰も異論を挟まない。
これはゲームの時からよくあった事だが、近距離でミサイルやロケット弾が炸裂すると、その爆炎でしばらく周囲が見えなくなる。そこに時間差で攻撃を喰らうと、初級プレーヤーでは碌に対処できない。中級以上が相手でも牽制として有効な戦法だった。
つまり1射目で盛大に炎と煙を上げ、目眩ましで動きが鈍った敵を攻撃するという訳だ。
驚いた事に、これらの指示と相談を行いながらも、昴たちは迫りくるミサイルに対する行動を怠っていなかった。
不規則な曲線を描く回避運動により未来の座標を掴みにくくし、装備された機関砲であわよくば撃ち落とそうとする。
そして昴たちは、発射されたミサイルの凡そ半数を見事に撃ち落とし、残りの回避に成功していた。
「初弾、撃て」
昴からの簡潔な指示と同時に、4機のTFからロケット弾が2発ずつ発射される。
まず右のランチャーから。そして一拍置いて左のランチャーから。
この様に間をおいて発射するのは、迎撃手段の発達に対する対抗策だ。
ミサイルやロケット弾を迎撃する場合、弾幕を形成するのでない限り、前面に爆発物を撃ち出してその爆圧で吹き飛ばすか誘爆を誘うしかない。このどちらの場合でも有効な距離と範囲は限られており、ある程度の間を置いた上で微妙に方向を変えて発射されると、それだけで対応が難しくなる。
この時代においての標準的なロケット弾の使い方だった。
対する敵もさるもので、こんな攻撃は教科書通りだといわんばかりに、回避運動と弾幕で対応してきた。
だがこの対応こそ、昴たちの望んだモノだった。
敵のTFがそれまで隠れていた場所から飛び出し、左右に別れたからだ。
だがここで敵にとって不幸な事故が起きた。
ロケット弾は敵陣の中央部に向けて放たれた。
そしてその中央部には、2つの簡易陣地と指揮官たるクロノフ大尉が乗るTFがあったのだ。
左右から逃げ道を塞ぐように迫るロケット弾を目にして恐怖したクロノフ大尉は、自分の機体こそが狙われたのだと勘違いしてしまう。
「げ、迎撃しろ! 一発も私に当てさせるな!」
自機に回避運動を取らせる事も忘れ、ひたすらにロケット弾の迎撃を命じるクロノフ大尉。だがそのせいで、簡易陣地の味方を巻き込む恐れのある防御兵装を作動させてしまう。
その防御兵装は的確に動作し、弾幕を潜り抜けてくる中から機体に対して一番脅威度の高い目標に向けて、専用の榴弾を射出する。
榴弾は正確に目標に向けて飛びその直前または至近で起爆し、ロケット弾を弾き飛ばすか誘爆させるはずであった。
だが実際には、榴弾よりも先にロケット弾が起爆したのだ。ロケット弾の目標が、TFでなく簡易陣地であった為に。
爆圧に押し戻された榴弾が。僅かに遅れて起爆する。
それは不幸にも、一方の簡易陣地の真上であった。
5発が迎撃され、都合3発のロケット弾と榴弾が起爆した。
爆炎が広がり、爆風に乗って多量の破片が周囲に飛び散る。
その広がる先にあるのは、二つの簡易陣地とクロノフ大尉が搭乗するTFだ。
TFの装甲に護られたクロノフ大尉は無事であったが、命令に従い簡易陣地で迎撃行動を取っていた兵士たちは、この攻撃により全滅する事になった。
「何たる様だ!」
ところが、クロノフ大尉は自分の指揮の拙さではなく、指揮下にあった歩兵たちを不甲斐ないと憤っていた。しかも未だに自分の機体に回避行動を取らせる事なく。
それはあまりにも致命的なミスであった。
初撃が目論み通りに効果を発揮したのを確認した昴は、爆風によって隠ぺい効果が破られても回避行動一つ行わずにその場で棒立ちになっている敵のTF、タロスの姿に疑念を憶えていた。
「機体の故障か?」
敵からの攻撃を受けて何も対応策を採らないのは、一方的に攻撃してくださいと言っているのと同じだ。これがゲームであれば、機体のダメージが酷くてリスタートを狙う為の行動と取る事が出来るのだが、今彼らのやっている事は現実の戦闘で戦争だ。
あれでは殺してくださいと言っているようなものになる。
照準に捉えているあの機体に向けてトリガーを引くべきか。
躊躇の時間は1秒の間もなかった。
昴が止めを刺すべくトリガーに指を掛けた直後、そのタロスは味方の放ったロケット弾を2発の攻撃を受け、1発は迎撃に成功するも、もう1発を胴体中央部に喰らって爆散していた。
この直後、北斗からの通信が入る。
『すみません。つい狙ってしまいました』
北斗もあのタロスの挙動の不審さに気付いていたが、ゲームの頃からの支援のクセのせいか、迷うことなくトリガーを引いていたのだ。
「気にしなくていいですよ、おやっさん。無駄撃ちを避けられたから、ね!」
そう言うと、昴は自分の左に機体を急旋回させ、その先で回避運動を続ける2機のタロスに向けてロケット弾を発射する。
放たれた都合4発のロケット弾は、その先で回避行動を取りながら銃撃を加えていたタロスに向けて飛ぶ。
狙われた方も防御兵装を使用するが、ソレで迎撃できたのは3発までで、1機が最後の1発を腰部に受けてしまった。
機体の足が止まり、音を立てて崩れ落ちる。
機体中枢に致命的なダメージを受けた証拠だった。
あっという間に僚機を落とされた敵TFが、遮二無二機関砲を発砲してくる。先に指揮官機を落とされたのが効いているのかもしれない。
ミサイルも併用してくるが、今は相対距離が縮まったこともあり、速度が乗る前に昴たちに撃ち落とされてしまっていた。
「このままもう1機も片付けます」
『了解』
もう1機が倒されたのは、それから数分後の事であった。
*** ***
昴と北斗から分かれた格好になった銀河と織姫であるが、こちらも2機の敵機を相手に堅実な戦闘を繰り広げていた。
「ちくしょう。意外と固いぞ、こいつら」
「そうだね。でも倒せない程じゃない」
最初の一撃を与えて以降、彼らも数回ロケット弾を発射している。だが相手はそれらの攻撃を堅実に捌き、致命的なダメージを避けていた。
指揮官機が落とされてしまったはずだが、それも全く影響していないように見える。
崩せそうで崩せない状況が続いているが、二人に焦りの色はない。まだ機関砲の弾もロケット弾も十分な余裕があると判断しているから。
そこに指揮車の高原少尉《スターダスト0》から通信が入った。
『無人機での索敵では、周囲に脅威となる存在は確認できません。安心して攻撃を続行してください』
その通信を受けたとたん、銀河の乗るTFの行動に変化が出た。
伏兵がいない事を知り、より積極的に、より意欲的に前に出るようになったのだ。
「ちょっと、そんなに急かさないでよ」
慌てて織姫の機体がそれに続くこうとする。
だがそれに銀河は待ったを掛けた。
「俺が前に出る。そっちは連中の気を引いてくれ。格闘で確実に沈めてやる」
「いつものだね。うん、分かった」
その通信の直後、彼らは二手に分かれ、敵TF2機を左右から挟み込むように攻撃を加えはじめた。
これはゲームでは二人が良く取っていた戦法だった。
二手に分かれ、一方が側面から射撃を仕掛け、もう一方がその隙に一気に間合いを詰めて格闘戦を仕掛けるというモノ。
迫ってくる機体に気を取られ過ぎると側面からの射撃で削られ、側面からの射撃に意識を向けすぎるともう一方に格闘戦が出来るまでに接近を許してしまう。コレを避けるには一対一の状況にして連携を阻むか、片方に攻撃を集中してそちらを早急に片を付けるしかない。
敵も当然のようにそうしようとする。この場合優先的に狙うのは、接近を図る銀河の機体だ。
「へっ、そうは行くかってんだ」
銀河は操縦席で不適に笑うと、敵のTFが同一射線上に来るように自機の進路を変更する。もちろん、機関砲での牽制射撃をしながらだ。
敵もそうはさせじと機体を移動させるが、そこに側面から織姫の機体からの攻撃が降り注ぐ。
「残念でした。ボクがいるんだからね!」
織姫は自分の機体から見て左側、銀河の機体に近い方に機関砲の一連射を加えると、機体の上半身をねじって右側の敵に向けてロケット弾を放つ。
牽制が目的なので信管の設定はNだ。
一発は迎撃され、一発が至近距離で爆発。熱と多量の破片が敵TFの装甲を叩くが、この程度のダメージでどうにかなるような造りにはなっていない。
それでも視界を塞がれ、衝撃で機体が軋み、一時的に銀河の機体に対する銃撃の勢いが緩まった。
敵はこの攻撃にどう対処すべきか一瞬迷った。
機体の基本性能では、殆どの面でTF-15Jの方が上回っている。IZH-20が勝っているのは装甲の厚さと火力くらいしかないが、その優位も僅かなものだ。
機動力で劣る以上、早急にどちらかを沈めないとこのまま翻弄されて押し切られる可能性が高い。
既に隊長機が沈められた上に、もう一方に回った2機の僚機の内、片方が沈められたとのシグナルが入ってきていた。
何とかしてこの目の前の2機を片付け、僚機の援護に回らなくてはならない。でなければ全滅してしまう。
その恐れからか、2機同時に攻撃を側面に回ったTF-15Jに向けてしまうと言うミスを犯した。
「かかった」
その敵の行動を見た銀河は、自分の機体を目いっぱい加速させる。
同じTF-15中でも日本のJタイプは俊敏性に重きを置いた改良が成されている。複雑で急峻な国土での運用をより効果的にするためだ。
銀河の意を受けた機体はその性能を如何なく発揮し、彼我の距離を一気に詰めていった。
この突進は敵にとって想定外だった。
通常の対TF戦闘で、東側のTFが格闘戦を行えるほど機体が肉薄する事は稀だ。殆どのケースでは、そうなる前にミサイルかロケット弾を受けて機体が大破している。
IZH-20を始めとした東側のTFにも格闘戦用の装備はあるが、通常時の使用方法はというと、障害物を破壊して進路を確保するためであったりする。戦闘時に於いては殆どお守り代わりだ。運悪く射線が通らない森や都市で、出会い頭に敵機と遭遇した時に一か八かで使用するモノでしかない。
西側のTFのように、銃撃戦の最中に敵機の側面や背後に忍び寄り、一気に距離を詰めて突き倒すなどという戦術は考慮されていないのだ。
これは東側のTFの静粛性と機動性が西側に比べて大きく劣る事が原因である。
そして二手に分かれたのは十字砲火を形成する為、ならば側面からの攻撃は装甲と迎撃システムで凌げると考えていたせいで、銀河の機体の肉薄を許してしまう。
「いただき!」
銀河の機体は左手にTF用ナイフを持つと、それを眼前のIZH-20に向けて突き出した。
一撃。続いてもう一撃。
こう言った使い方を始めから考慮されている武骨なナイフは、西側に比べて重厚とされるIZH-20の装甲を苦も無く貫通しその下にある様々な装備に重大な破損を引き起こしていた。そしてその破壊は操縦系統にも及び、パイロットから機体の制御を奪う。
機能を損失した装備が幾つも停止し、機体が稼働する事を止める。
制御を失った機体は、音を立ててその場に崩れ落ちた。
「まくるぞ!」
「うん!」
この時既に稼働しているIZH-20は残り1機になっていた。
側面から銀河の機体に、そして正面から織姫の機体に攻撃を受けた敵TFは、どちらを優先して対処すべきか迷う内に、織姫の機体からのロケット弾攻撃を受けて大破してしまった。
*** ***
「なんとかなりましたか」
待ち伏せされたと知った時、高原少尉はどうなる事かと危ぶんでいた。
何しろシミュレーターの成績は現役のTF乗りと同等以上であったが、実際の戦闘はこれが初めて。バージンなパイロットが戦場の雰囲気に中てられて暴走したり動けななく為ったりと言う話は枚挙にいとまがない。
だがいざ蓋を開けてみれば、損失はゼロで被害らしい被害もない。
強いて挙げれば敵TFが放った機銃弾をいくらかもらい迎撃したミサイルの破片の洗礼を受けた程度だが、それくらいは地上での戦闘ではあって当たり前。逆に無い方が奇異に見られる。
戦術の選択も、彼の眼からは粗は見つける事ができなかった。
最初に敵を炙り出し、それと同時に分断を図る。
最初の牽制とも言える攻撃で敵の歩兵を全滅させる事が出来たのは僥倖であるが、そこから先の対TF戦闘は見事と言う他ない。
「まったく、自分は一応指揮官だというのに、指揮する必要なんて何処にも無かったじゃないですか。それどころか重要な場面では、彼らに判断を委ねてしまってすらいる。
自分がやった事といえば、彼らに必要になりそうな情報を送っただけ。これでは何時もの仕事とあまり変わらないじゃないですか。指揮官失格です」
高原少尉が愚痴ったように、彼の本分は情報の収集と分析、そして重要度の高いモノを現場指揮官へと伝える事だ。その領域が著しく電子分野、それもネットワークやコンピューターに関わる部分に偏っており、こういった戦場での機微には他の現場指揮官よりも疎いと言う自覚があるし周囲からもそう見られている。だから今までは戦線に出るような任務からは外されていたのだ。
だが皮肉な事に、今回のこの戦闘で図らずも実績ができてしまった。
「まいったなぁ……、これを機会に、今後も彼らの面倒を見るようにと言われそうな気がしてきました」
そんな高原少尉の愚痴を待っていたのか、通信装置が呼び出し音を立てた。
慌てて通信をオンにする高原少尉。
スピーカーから響いてきたのは、この先で迎撃戦を繰り広げている部隊の指揮官からだった。
『こちら遠軽1。スターダスト0、状況を報告せよ』
報告の必要を感じた高原少尉は、慌ててこれに応じる。
「こちらスターダスト0。状況を報告します。
我が小隊は先刻敵TF1個小隊とそれに付随する小規模の歩兵集団と接触。戦闘の末、これの撃破に成功しました」
『今一度確認したい。遭遇したのはTF1個小隊と歩兵の集団で、撃退ではなく撃破だな?』
向うからすれば、スターダスト小隊は臨時で徴集された間に合わせの戦力にしか過ぎない。状況と立場の都合で撃破を命じたが、本当にソレが可能であるとは予想だにしていなかったのだ。
疑いたくなるのも無理はない。
その事に苦笑を憶えながらも、高原少尉は形式に則り再度返答する。
「その認識で間違いありません。我が小隊は敵戦力の撃破に成功しました。なお、幸いにして此方の損害は極めて軽微。作戦行動の継続は可能です」
『了解した』
スピーカーから流れる声には、納得と安堵の響きが含まれていた。
そこに気付いた高原少尉は、即座に質問を発していた。
「そちらの方で、何か動きがあったのでしょうか」
『その通りだスターダスト0。つい先ほど入った情報だが、連中に撤退の動きがあるらしい』
向うの指揮官『遠軽1』からの情報によれば、標津に上陸した戦力の殲滅に成功。航空戦力に関しても、膠着状態を嫌ったのか各所で撤退の兆しを見せ始めているという。
現状で交戦状態にあるのは、ここ美幌から出撃した部隊だけだ。
誰が考えた作戦なのかは分からないが、敵の指揮官のあまりの慎重さに高原少尉は我知らずため息をついていた。
これまでの傾向としては、敵は多方面から圧力を加えると同時に突破する箇所に過大なまでの物量を投入する傾向があった。択捉、国後と続いて北海道の1/4をあっさりと奪われたのは、この戦術によるところが大きい。
だが今回は、一部を捨て駒としたにも関わらず、突破口として予測された箇所に戦力の集中が見られない。
此方の対応が早かったのに加え、恐らくは向うの予測した程網走の戦力が進出できなかったのが効いているのだろう。
既に敵の航空戦力は押し返されつつあり、網走までの制空権は此方が握っている。遠軽上空も敵にとっては安全とは言えない。加えて敵の地上戦力も想定外の存在(スターダスト小隊)による損害が出ている。
旭川どころか士別の戦力も動かずにいるのは、多分向うが期待したほどの損害を此方が被っていないからだ。
「それで我が隊は如何しますか? 先ほども報告しましたが、引き続いての作戦行動は可能です」
高原少尉としては、このままなし崩し的に昴たちを戦争に引きずり込みたくない。彼らがこの世界の人間出ない事を知るが故に。
だが日本皇国軍の士官としては、このまま敵を見逃すのには抵抗がある。
結局士官としての責任感が上回り、口から出たのは軍人として指示を仰ぐ言葉だった。
そんな内面の葛藤が声に漏れていたのか、『遠軽1』から出たのは次のような指示であった。
『ではスターダスト小隊に指示を与える。
敵に撤退の動きが見られる。だがその動きはまだ明確ではない。よってTF装備のロケット弾による対地砲撃を命じる。指揮車にそのための支援プログラムが入っているから問題はないはずだ。
後退しようとする敵の最後尾にぶちかましてやってくれ』
「進路上、又は敵集団中央ではないのですね」
『その通りだ。最後尾を攻撃するのは、向うが自棄になるのを防ぐ意味もあるが、さっさと逃げろという此方の意思表示だ』
「了解しました」
高原少尉は『遠軽1』との通信を切ると、対地攻撃支援プログラムを立ち上げると同時に、現状待機を命じたままのスターダスト各機に対して通信を繋げ、事情を説明する。
「状況は僅かに此方に有利なようです。ですが決定的と言うほどでもありません。そこで我々に下されたのは、その流れを明確に此方に傾けるため、ロケット弾による敵集団への対地攻撃です。ランチャーの残弾全てを使用します」
ゲームでしかTFと言うモノを知らない銀河に織姫はもちろん、昴もそのようなことが可能だとは知らなかった。例外は北斗であるが、それも小説でそのような描写がされたシーンがあったのを記憶していただけ。しかもそこに出て来たのは、射撃や砲撃に特化した装備を施された機体になる。
だからこの指示は彼らにとっては晴天の霹靂にも等しかった。
序列で言えばおかしいのだが、何時もの流れて北斗が質問を放つ。
『こちらスターダスト04。我々はそのような訓練を受けておりませんが』
戦術コンピューターが指示した目標の座標は、此処から数㎞も先にある。これまでゲーム(シミュレーター)でしかTFを駆った事がない身としては、そのような遠い位置にある目標を狙う方法など知る由もない。
だがこの質問は、高原少尉からすれば既に想定されたものだ。
「問題はありません。これよりスターダスト全機を此方の制御下に置き、此方で方位・射角の調整を行います。貴方達がすべきことは、射撃地点を定めて此方の指示に従いトリガーを引く事です」
より正確に言えば、目標地点の指定とそこを狙う為の各種データを送信し、機体に準備をさせる事までが指揮車の仕事だ。機体の方では自動で送られたデータに従い機体の向きや発射角度を調整するのだが、最終的にどの場所から何時トリガーを引くのかは操縦者の判断に委ねられている。
『了解しました。指示に従います』
昴からの返事を受信すると、高原少尉はスターダスト小隊各機に命じられた地点を砲撃する為のデータを転送する。
データを受けた機体は、それに従い機体の向きを変え、ロケット弾のランチャーの発射角度を修正した。
凝り性なのか、北斗は機体の位置まで変えている。
『こちらスターダスト01。発射準備完了』
『同じくスターダスト04。発射準備完了』
『スターダスト02も発射準備完了だぜ』
『スターダスト03。準備完了だよ』
報告を受けた高原少尉は改めてモニターで各機の状態を確認する。
機体が分散して立っているのに加えて距離があるので着弾地点はかなりの広さになるが、撤退を促すには十分であろう。
そう判断した高原少尉は命令を下した。
「ではロケット弾の残りを全て指示された地域に撃ちこみます。
全機……発射!」
一瞬の間合いを置いて、スターダスト小隊の全TFからロケット弾が発射された。
発射されたロケット弾は緩やかな放物線を描いて数キロ先の目標へと飛んでいく。
途中の風の影響で弾道が乱れたそれらは指定された範囲を超える地点に着弾。撤退途中で最後尾を護る敵の戦力に対し、少なくない被害を与える事になった。
こうして昴たちの初めての実戦は終わりを告げた。
戦果は攻撃ヘリ2機を撃墜、TF5機を撃破、歩兵1個小隊を壊滅。そして最後の対地支援攻撃にて装甲車4台を大破、戦車およそ5両を小破ないし軽微な損傷を与えていた。
対して被った被害はというと、敵のミサイルを迎撃した際に受けた破片と、敵が牽制で放った25㎜機関砲弾による軽微な損傷だけである。
紛う事なき大勝利であった。
此処までが発掘した部分。
感想・ご意見お待ちしております。
できれば評価の方もお願いします。




