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第2話

 正面のスクリーンに『misson clear』の文字列が表示された。そしてこれに続くようにアナウンスが筐体の内部に響く。


『演習を終了します。データスティックの固定を解除。ハッチを開放します』

「やれやれ、ここまでは特に変わった所はなしか。それにしても演出が凝ってるな、この筐体は」


 昴のため息交じりの言葉が筐体の内部に響く。

 昴の見るところ、いつも通りにゲームは終了した。異なる所と言えば、アナウンスに最後のセリフと同時に筐体のドアが解放された事くらいだ。

 プレイの内容はというと、対NPC戦闘であったので敵側に若干有利な条件ではあったが、所詮ゲーム仕様のNPCが相手である。判定は当然のように此方の優勢勝ちだった。

 幾つか微妙に異なる点をああるとすれば、先ず操縦に対する筐体の揺れが多少大きかった事と、次いでアニメや小説の設定と同じように、最後に筐体のドアが音を立てて自動で開いたという事が挙げられる。

 昴の知る限り、日本国内にここまで凝った演出をする筐体は存在しない。

 やはり北斗おやっさんの言うように此処は違う場所なのかと考えながら、昴はゲームに必要な全てのデータが記録されたデータスティックを取り外す。そしてこれまでと同じように上着のポケットにしまって外に出て、そこで声を失って立ち尽くしてしまった。


「どうなってんだ、これは……」


 彼の目の前に広がっていたのは、喧騒と多様な色にいろどられた馴染みのアミューズメントのフロアの光景ではなく、賑やかさとは全く無縁の殺風景で静かな空間だったから。

 残った理性を総動員して周囲を見渡してみれば、目の前に広がる光景に衝撃を受けた友人達が、自分と同じようにそれぞれの筐体の脇で呆然と佇んでいるのが見える。

 3人とも目の前に広がる光景をどう解釈していいのか判らないらしく、自分と同じように茫然と辺りを見回していた。

 視線を今しがた出てきたばかりの筐体へと向けてみる。

 その外観も昴の記憶にあるものとは大きく異なっていた。

 ゲームという性格上、筐体には会社のロゴやらゲームの名前がこれ見よがしに印されていたはずである。だが現状を見るに、自分達が出てきた筐体にはそんなモノは何一つ記されていない。個々の筐体を区別する為に付けられた無味乾燥なデザインの数字だけが、この筐体が持つ唯一の装飾だった。

 まるでアニメか映画で出てくるTFシミュレーターそのものだ、昴は頭の片隅でそう思った。

 視線を正面に戻してみる。

 灰色一色で塗装された周囲の壁には一切の装飾が見当たらない。

 筐体が置かれているフロアは周囲から一段低くなっており、壁の上の方には窓が見える。恐らくはこの筐体の様子を見るための覗き窓だろう。

 一段高くなったフロアの向こうの奥には、これまた無機質な金属製の階段が見える。

 そしてその階段から続くキャットウォークを進んだその先に、外部へと繋がると思われるドアがあるのが見えた。

 そして気がついてみれば、そのドアの正面には、うだつの上がらない学者のような風貌の、それでいていかにも軍属である事を示すような服を着た1人の男が立っている姿が見える。

 男の視線は思いの外鋭く、自分達を値踏みしているように昴は感じた。

 男は無言のまま昴たちのいる場所まで階段を下りてくると、前置きもなしにこう発言した。


「やあ、君たち。すまないけれど、君たちの事について詳しく聞かせてもらえないかな?」


 男の発した言葉は丁寧なものであったが、そこには一切の拒否を許さない意志が込められていた。

 思わず顔を見合わせる昴たち4人。

 状況が全く解らない4人には、これを跳ね除けるという選択肢は存在していなかった。


   ***   ***


「とりあえず適当な場所に腰かけてください」


 窓というモノが一切ない地下道のような通路を通って昴たち4人が通されたのは、10人も入れば満員になる広さの、飾り気の全く無い部屋だった。

 中には折りたたみ式の長机と椅子があり、会議にでも使うのか、ホワイトボードのようなモノが壁面の一面に用意されているだけ。通路と同じく窓が無いせいで、天井の照明から降り注ぐ光が余計にこの部屋を無機質なモノに見せている。

 男に促されるままに腰を下ろす4人。

 奇妙な緊張感だ漂う中、最初に話を切り出したのは、軍服モドキ(?)を着た男の方だった。


「私はこの基地でTF搭乗者の適正試験を担当していた士官です。名前は高原流星たかはら りゅうせい、階級は少尉になります」


 そう名乗った男は軍属である事を明かすと、座ったまま軽く会釈をしてみせた。

 立ち上がっての敬礼でないのは、彼なりに民間人(?)である4人を気遣ったからだった。その証拠に1人称には”私”という威圧感を与えない表現を使っている。

 4人もこれに応えて、各自の名前を名乗った。

 高原と名乗った少尉は4人の自己紹介を聞き終えると、表情を変えぬままに昴たちに説明を始める。


「先ずは貴方たちが行っていたシミュレーションの結果からお伝えさせてもらいます」


 これを聞いて銀河と織姫が思わず声を上げそうになったが、北斗が無言のまま視線でそれを制止した。


「貴方たち成績は、前線で闘っている現役のTF操縦者と殆ど変わらない素晴らしいものでした。

 戦闘時のデータをざっと解析してみて解りましたが、貴方たちの動きは一朝一夕で身につく物ではありません。それ相応の期間に渡って経験を積んだ結果、その身に培われたモノであると私は判断します」


 高原少尉はそこで言葉を区切ると、表情と口調を一転して厳しいものに変えて昴たちを見渡す。

 元の容貌のせいで威厳や迫力というモノからは程遠かったが、そこには自分の責務を果たさんとする強い意思が秘められていた。


「此方の権限で貴方たちの所有するデータスティックに記録されているデータを調べさせてもらいましたが、小官の正直な感想を言わせて貰えば、貴方たちの正体は何者なのだと問いたくなりました」


 自身の立場をおもんばかったのか、高原少尉の1人称が”私”から”小官”に切り替わっていた。


「適正試験を受けに来た受験者であるならば、当然登録されているはずの項目に幾つもの欠落がある。だが軍のデータベースには、パイロットとしての貴方がたのパイロットネームと小隊の名前『スターダスト』が登録済み。

 何らかの理由で復隊した方たちかとも思いましたが、負傷した際に必須な血液型などの生体データが丸ごと抜けているのでその可能性はゼロ。傭兵というのも同様に否定されます。

 偽名を使って何処かの企業と極秘に契約したテストパイロットという可能性も考えたのですが、その解釈にもかなり無理があります。何しろ外から報酬が支払われた形跡が見受けられないのに、貴方達の個人口座にはかなりの額の金額が振り込まれているのですから。しかも……」

「ちょっと待って下さい。俺達の口座ですって?」


 だが高原少尉が次の言葉を口にするより早く、昴は自分が感じた疑問を問いかけていた。他の3人も程度の差はあれど、皆驚きの表情を見せている。

 筐体の中で語られた北斗の推測によって、ここが異世界だという事は既に覚悟していた。そして高原少尉の話の流れから、自分達がプレイしていたゲーム『巨人達の戦場』の筐体が、こっちでは実際に存在するTFに乗るための訓練装置シミュレーターというのも、何となくではあるが察していた。

 しかし高原少尉の言う「個人口座」には、4人に思い当たる所が何もなかったのだから。

 そんな昴たちの反応も想定内だったのか、高原少尉の態度には少しも揺らぐところがない。


「やはりご存じなかったのですか……。貴方達はそれぞれ18万から31万(プルート)の金額を持っていると、そのデータスティックに記録されていますが」

「なんですって?」

「オイ、マジかよ」

「良くわかんないけど、ボク達ひょっとしてお金持ちなの?」

「まさか……」


 高原少尉の言葉に狐につままれたような声を出す昴達だが、北斗だけは何かに気付いたらしい。

 そんな表情の違いを読み取った高原少尉は、その根拠となる数字の説明を始める。


「先ず『シリウス』の星川さんでしたか? 貴方の口座にはおよそ24万P、『リゲル』の龍ヶ崎さんと『プロキオン』の月読さんの口座にはおよそ18万P、そして『ペテルギウス』の神崎さんの口座にはおよそ31万Pが入金されています」

「えっ!」


 予想をしていた北斗以外の3人の口から、驚きの声が異口同音に零れ落ちる。

 その数字は、紛れも無く昴達が『巨人達の戦場』で獲得し、先のイベントの直前に確保していたはずのゲームポイントの数字であったからだ。

 ゲーム内通貨の扱いであったモノが、ここでは表記こそ同じだが名前が変わって現実の通貨、しかも電子マネーとして世界中で流通している事実が、4人に小さくない衝撃を与えてた。

 そして流星の「1(プルート)が直近のレートでおよそ100円に相当する」との説明に、驚きは更に拡大することになった。自覚もないままに1千万円を超えるお金を得てしまったのだから。

 そんな仲間3人を様子を見て、今度は北斗が高原少尉に質問を投げかけた。


「此方からも質問……、いえ、確認したい事が幾つかあるのですが」


 北斗の視線に含まれる意を汲んだのか、高原少尉は無言で頷いて了承の意を示した。


「では了解も取れた事ですので、順番に確認させてもらいます。少尉さんは、自分達が”本来いるはずのない存在”であると推測しましたね?」


 北斗のこの衝撃的な質問にも関わらず、高原少尉の態度は少しも揺るがない。

 平然とした表情のまま、判断の理由を付けて答を返してきた。


「その通りです。

 貴方たちの使う日本語は滑らかで、それを母国語としているのは間違いありません。ですが我が国の国民ならば、この世界で暮らす人間ならば知っていて当然の情報、自国通貨と有名な国際通貨、と言っても電子マネーですが、それの名前と為替レートを知らない。

 我が国の戸籍データに該当する人物がいないというのもそうですが、自分の大切な財産である口座の存在を知らないというはあり得ない事です。

 TFの操縦技術や虫食いの情報が記録されたデータスティックなど、多くの不審な点をなんとか説明できそうなのは、貴方たちがどこか異なる世界から来た異邦人であるとする、ライトノベルのネタのような突拍子もない答えしか自分には思いつきませんでした」


 唖然とする3人を他所に、北斗の確認は続いていく。

 自分達がいる国が日本であるのは救いであるのだが、その正式名称はなんと「日本皇国にっぽんこうこく」。大雑把な世界状況を聞いたところでは、周辺の国々の名前も国境線も異なっていた。

 中でも一番驚かされたのは、自分達がいる場所がつい先ほどまでプレイしていたはずの街ではなく、そこから遙に離れた北海道の美幌にある軍の基地であるという事。しかも十日ほど前に旧ロシアの後釜で現在の敵国である新ソビエト連邦に侵攻を受け、北方4島の内の択捉島と国後島と北海道の北側、面積にして凡そ1/4が占領された状態だという話だ。

 更に間の悪い事に、今現在の時点で新ソ連軍は複数の方面から圧力を加えてきており、北海道に残された戦力のほぼ全てで迎撃と予想される侵攻に対する警戒に当たっているという。

 当然だが、この基地からも相応の戦力が迎撃の為に出撃中との事だ。

 時間に至っては、十年以上未来の数字が出てきた。まあ此方の世界では空想の存在でしかなかったTFが現実のモノとして稼動しているというのだから、その意味ではコレが唯一納得できる情報だった。

 次々と明らかになっていく現実に、昴達は驚きのあまり声も出せずにいる。


「なるほど、ありがとうございました」


 北斗はそう言うと、慇懃いんぎんに高原少尉に頭を下げた。

 だがその視線は厳しく、彼はまだ高原少尉に対して警戒を解いてい事が分かる。

 高原少尉の方もそう易々と信頼を得られるとは思っていないようで、そんな北斗のあからさまに警戒した態度を咎める事もなかった。


 そして高原少尉が話を次の段階へ移そうとしたその時、部屋に設えられたインターフォンから呼び出しの電子音が鳴り、スピーカーからいかつい声が流れる。


『高原少尉、その部屋にいる試験合格者4名を連れて、今すぐ私の部屋に出頭したまえ。これは命令だ』


 インターフォンはそれだけを伝えると、役目はこれで終わりとばかりに切れる。

 そのあまりにも唐突な事態の変化に、部屋にいる全員が言葉を失っていた。


  ***  ***


 少しばかり時間を遡る。

 ここ美幌基地の司令官である石原修司いしはら しゅうじ准将の下に、偵察部隊からの緊急報告が届いていた。


「なんだと? それは本当か」


 報告を耳にした瞬間、石原准将の眉間に皺がよった。


『肯定であります。部下たちの報告によれば、TF10機を含む敵の機甲部隊が、ルート333に沿って東に移動中。部隊の後方には対地ミサイルを始めとする支援火力が多数確認されたとの事です。このままですと、後数時間で当基地が敵長距離砲の射程に入るものと推測されます』

「どうして今まで気付けなかった」

『申し訳ありません』


 敵の予想される移動ルートの先に遠軽の街がある。既に住民の避難が完了していて無人だが、そこは美幌の街から北西約50㎞の位置にある。仮に遠軽にロケット砲か対地ミサイルの部隊に陣取られると、この基地としてはかなり拙いことになる。

 そこまで侵攻せずとも、適度に開けた土地さえあれば遠軽に拘る必要はないのだ。石原准将が怒るのも当然だろう。

 それに相前後して、複数のレーダーサイトが樺太と占領された紋別から南下してくる複数の編隊を探知したとの報告をしてきた。千歳と釧路の航空団がこれ等に対応する為にスクランブルをかけた。

 石原准将は焦った。

 戦闘車両などの機甲戦力だけなら、対応できる数をこの基地は確保している。だが動かせるTFとパイロットが足りないのだ。

 この基地にはTFは3個小隊12機が所属している。だがその内の1個小隊は同盟国の強い要請により、国連の治安維持活動として半年前から国外に遠征中。つまり現在この基地には、TFは2個小隊の8機しかいない。

 正確には予備機としてもう4機存在するが、残念なことにそれらには操縦者がいない。

 理想を言うのなら予め予備のパイロットも確保しておくべきなのだが、TFのパイロットはどの国も確保に躍起になっており、予備のパイロットを確保できている国は無いに等しい。最前線にあるこの基地ですら、適性試験が行われたのがその証拠ともいえる。

 最前線からの戦力の引き抜きなど愚の骨頂でしかないが、悲しいかな今はそれが現実である。

 単純に南下してくる敵を迎撃するだけなら、手持ちの戦力を全てぶつければいい。だが物量で優位にある敵(新ソ連)の戦術の傾向として、他の方面から圧力を加えてくる可能性を無視できない。

 旭川を占領した大部隊が全く動いていないのも不気味だった。

 このせいで札幌とその周辺に展開した地上戦力が動かせないのだ。

 幸いにして敵の航空戦力は千歳と釧路の航空団が対処しくれるとの報告が来ているが、石原准将はそれだけでは済まないような気がしていた。


 しかし戦力を渋って返り討ちにあっては元も子もない。石原准将はTF2個小隊とそれに連動させる戦車、自走砲、対戦車ヘリを含む1個機甲中隊に出撃命令を下した。


 石原准将の懸念はある意味では正しかった。

 迎撃部隊が出撃して間もなく、標津しべつの海岸と港にいきなり敵の地上戦力が上陸したという報告が来たからだ。どうやら占領された択捉島か国後島から来た潜水艦型強襲揚陸艦を使用したらしい。

 念のために言っておくと、この世界の軍艦の多くは潜行が可能である。


 続けて国後・択捉島方面から敵機と思われる機影が複数探知されたとの報告がくる。


 標津に上陸した敵地上戦力に対しては、中標津なかしべつの駐屯地からの迎撃が間に合いそうだ。航空戦力の方も、釧路にまだ余力があったので対応できるとの報告が来る。

 石原准将は今回も何とかなりそうだと安堵の息を吐いたが、それは早計だった。

 標津に上陸した戦力は、数こそ多いがその全てが旧式の装備で、しかもTFの存在が確認できないとの追加情報が上がってきたからだ。

 広大で遮蔽物のない平原や砂漠ならいざ知らず、都市や市街地での戦闘ではTFの存在が不可欠と言っても言い。普通に考えるならありえない編成だった。

 唯一考えられたのは、標津に上陸した敵の戦力が捨て駒で、自分たちがはめられたという不愉快なモノだけ。そしてその考えを証明するかのように、網走に新たな敵の部隊が上陸し、守備隊が全滅したのの報が入ってきた。

 悪い事に、網走に上陸して来た部隊は本格的な編成で、TFだけでなく対戦車ヘリまで確認できたという。

 網走から美幌までは凡そ20㎞。遠軽よりは遥かに長距離砲で狙い易い。紋別を占領していた敵の地上部隊が動いたとの報はまだ入っていないが、恐らくは網走へ上陸した部隊の後詰めを任されているものと推測される。

 可能なら海から砲撃でも掛けたいところだが、オホーツク海の制海権を失った状態ではそれも不可能。

 何とかしなくてはこの基地が陥落してしまう。そんな危機感に駆られた石原准将は、必要と思われる命令を出しつつ、どうやってこの事態を乗り切るかを考えていた。


 報告を信じるならば、網走に上陸した戦力の規模は、ここの残存戦力をかき集めれば数字上は何とかなる程度。野砲やロケット砲の部隊の動きが鈍いことから推測するに、どうやら敵の指揮官はこの美幌基地をできるだけ無傷で制圧・占領したいらしい。

 目的は基地のデータバンクにあるデータか、それとも……。

 此方としては出撃して追い返したいのだが、此方には動かせるTFがない。正確には予備のTFはあってもそれを動かすパイロットがいない。アレが使えればまだやりようはある。

 どうすれば予備機として置いてある4機のTFを活かす事ができるか? あれさえ使えれば、最低限敵の敵TFの牽制くらいはできるはず。そうすれば地の利の分だけまだ勝算はあるのだ。

 整備班から人を出すという考えは、即座に破棄された。彼らは機体の整備修理を効率的に行うためにTFの動かし方を知っているに過ぎない。戦闘行為をさせるなど、自殺行為も甚だしい。


 機体はあるのにソレを動かすに足る人がいない。そんな現状に苦悩する石原准将。

 そして唐突にある事を思い出した。つい先ほどまで、この基地でTFの適正試験が行われていた事を。

 記憶が確かなら、最初の出撃命令を下したのは試験終了直後で、受験者たちは万一に備えて全員基地のシェルターに避難させていた。

 彼らの中から多少なりとも使える人間を抽出し、予備機で出撃させれば、多少なりと時間稼ぎになるはず。少なくとも整備班の人間に無理をさせるよりはマシだ。

 手続きに多少の問題はあるが、そこは戦時特例に加えて自分の権限で何とでもなる。それに予備機としてあるのは、未だ現役で使う国が多いとはいえ我が国では旧式の機体。ここで失う事になるのは少々痛いが、基地を失う事に比べれば安い出費だ。

 TFの武装も射撃を中心に手数を重視したモノにしてやれば、試験で及第点ギリギリな戦闘の素人でも時間稼ぎは可能、そう思いたい。

 どうせ責任を被るのは自分だと無理やり納得をつけた石原准将は、基地指令としての権限をフルに使い、適正試験の結果の検索を始める。

 そして10分もしない内に、彼は求める条件を十二分に満たす者たちを見つけ出すと、それを有効に使うべく、自分に認められる全ての手段を用いて、彼らを自軍の戦力として加える手続きを開始していた。


  ***  ***


 高原少尉と昴たち五人は、基地司令の執務室に到着していた。

 中に入ると、正面にはいかにも権威で相手を威圧するために作られたような立派な造りの机がある。そしてその向こうにしかめっ面をして椅子に腰かけているのが、此処の司令官を務める石原准将。

 そして彼の脇には、細身でいかにも神経質そうな男性(石原准将の副官の日輪ひなわ中佐)が、これまた難しい表情をして控えていた。


「先ずは試験に合格、おめでとうと言わせてもらおう。そして残念ながら、君たちにはこの後すぐに出撃してもらう」


 自己紹介もそこそこに、最初に石原准将が口にした言葉がコレだった。


「失礼ですが司令、彼らは試験に合格はしましたが、この基地に配属された兵士ではありません」


 高原少尉が昴たちの裏事情を隠しながら抗弁するが、その試みは日輪中佐に真っ向から撃破されてしまう。


「少尉、彼らの所属が未定であった事は私も承知している。だが既に基地司令の権限で、彼らはここの所属として登録したので問題ない」

「ですが、中佐殿」

「情報だけならば、半年前から彼らの小隊の名前が我が軍のデータベースに記録されている。パイロットネームだけであれば更にその前からだ。不自然と言えば不自然だが、我が軍の記録としてそうなっている以上、指揮官はそれを活用して我が国の領土と国民を守る義務がある。ましてや現在は新ソ連の侵攻を受けている最中だ。利用できるものは何でも利用し無ければならぬ。司令はその職責を果たされただけだ」


 既にデータベースの方も手を回してある事を言われ、高原少尉は反論を封じられてしまった。

 反論がない事を確認すると、石原准将は命令を下した。


「諸君ら『スターダスト小隊』は、正式にこの基地所属の部隊としてとして登録された。指揮官には高原少尉、貴官に命じる。そして『スターダスト小隊』の最初の任務は、網走から侵攻してくる敵戦力の漸減ぜんげんまたは撃退である。

 目標の達成が困難と判断された場合でも、可能な限り持久して増援を待て」


 これを受けて日輪中佐が続ける。


「遠軽及び他の基地から撤退してきた戦力を再編成した部隊が先発している。貴様達はこれを追い、合流後は彼らと連携して敵に当たれ。

 使用する機体は既に装備を整え、ハンガーでパイロットを待っている状態だ。パイロットは至急ハンガーに向かい、パイロットスーツ着用の上これに搭乗せよ」


 ここで敢えてパイロットスーツの着用を命じたのかと言うと、緊急時には稀に制服のままで搭乗するケースもあるからだ。

 なお、私服での搭乗は、国際法上の問題もあって認められていない。漫画やアニメではよくあるシチュエーションでも、国を護る立場にある身としては、そのような行いは認める事はできないのだ。

 ここで日輪中佐は言葉を切り、視線を高原少尉に向ける。


「少尉は彼らの指揮官として指揮車でこれに同行。車両の運転手及びオペレーター担当には話を付けてある。彼らのTF搭乗確認の後、直ちに出撃せよ」

「了解しました!」


 命令を受けて高原少尉が敬礼をした。

 そして少尉が敬礼したのを見て、昴たちも慌ててそれに倣う。

 もっとも恰好をその場で真似ただけなので、威厳とか規律からは縁遠い代物であったが、石原准将と日輪中佐は何も文句は言わなかった。

 石原准将は答礼を返すと、最後にこう付け加えた。


「今回成り行きで出撃する事になってしまった『スターダスト小隊』のパイロット諸君だが、軍の規律を守る都合上階級を定めない訳には行かない。よって我が軍でTFの搭乗資格を認められる最も低い階級である『二等兵曹』として登録した。

 以後は臨時徴集された兵士という扱いになるが、我が国の兵士として恥じる事のない行動をする事を期待する」


 異世界に来て1時間も経っていないが、昴たちは軍属として戦争に参加する事が決定してしまった。



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