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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
他倒自立編
96/166

第九十六話 他倒自立の先に

 並べられた紫黒の銃口から放たれたヘブンズブレイカーは一直線にフレトに向かって行く。だが、その眼前にはフレトの放ったハリケーンバスターが昇に向かっていた。

 そして両者の放った技がぶつかり合う。重苦しい重低音が辺りに鳴り響き、両者の攻撃が激しくぶつかり合い、その衝撃を辺りに撒き散らす。

 木々は激しく揺れ動かし、今にも引っこ抜かれそうだ。そんな衝撃の中で昇とフレトの二人は更に力を込めていく。

 拮抗状態に入った為、二人とも身体を持っていかれそうな衝撃に耐えながらも、お互いに一歩も引く事無く技に力を込め続ける。そんな状態に昇は驚いていた。

 決めきれないっ! エーライカー状態のヘブンズブレイカーなのに、ここまで耐えるなんて、凄い覚悟と力を持ってるんだ。だけど……僕だって負ける訳には行かない。そのためのエーライカーなんだから。だから、そろそろ決めさせてもらう! 昇がそう決意していた頃にはフレトはかなり消耗していた。

 くっ、まさかこんな隠し球を持っていたなんてな。……ちっ! このままでは押し負けてしまう。それだけは、それだけはなんとか防がないと。負けられない……負けられないんだ! この戦いにだけは絶対に。

「そう、セリスのためにな!」

 フレトはそう叫ぶと更に力を込め始める。けれども拮抗状態は崩れる事無く。フレトの体力を奪い続けるだけだった。

 そんな状態に昇は一つの事を察する。

 そろそろ相手の体力も限界かな。だったら、そろそろ決めるかな。そんな事を考える昇。

 そう、今回の状態で決定的に違っていた事、それは昇はエーライカー状態でまだ余裕があるが、フレトは限界に近いということだ。そうなると拮抗状態の勝敗も目に見えてくるというものだ。

「いっけーっ!」

 昇は叫ぶと共にヘブンズブレイカーの出力を一気に上げた。今度こそ手加減無しの本気でヘブンズブレイカーを放ったのだ。

 先程のヘブンズブレイカーよりも二周りほど大きな力がハリケーンバスターに迫る。そして昇が放ったヘブンズブレイカーはハリケーンバスターを突き破ると、そのままハリケーンバスターを四散させながらフレトへと迫った。

 まさか、そんな。目の前の状態が信じられないフレトは迫ってくるヘブンズブレイカーにどうする事も出来なかった。ただただ呆然と見ているだけで、心の中では敗北するのではないのかという真実とそれを認められない思いが葛藤していた。

 俺はここまでなのか、ここで終わってしまうのか。このままセリスを助けられないままに……認められるか、そんな事! このまま終わってたまるか!

 フレトは最後の足掻きとも思われる行動に出る。迫ってくるヘブンズブレイカーに四散されているハリケーンバスターを再び集中させようとしていたのだ。けれども昇のエーライカーを使ったヘブンズブレイカーにはまったく、そんな事は通用せず。ただただ風を操るが、上手く操る事が出来なかった。

 そんなフレトの眼前にヘブンズブレイカーが迫る。セリスっ! 心の中でそう叫ぶフレトはそのままヘブンズブレイカーの光に飲み込まれていった。



 俺は……生きているのか。

 フレトが目を開けると白く染まった夜空が瞳に映った。それから立ち上がろうと身体を動かそうとするが、フレトの身体はそんなフレトの意思を拒絶するかのようにまったく身体を動かす事が出来なかった。

 ……負けたのか、俺は。さすがにこんな状態ではもう戦う事が出来ないのだと、フレトは自覚せずにはいられなかった。心の中ではまだ戦えると思ってはいるものの、身体がそれを拒絶している。だからこそ心を納得させるために負けを認めると言い聞かせるしかなかった。

 そんなフレトの視界に昇が写りこんだ。未だに仰向けに寝ているフレトを見下ろす昇は紫黒をフレトに向けるのだった。

「俺は……負けたのか」

 どうする事も出来ないこの状態にフレトはそんな言葉を呟く。そんな呟きに昇は紫黒の銃口を向けながらも答えた。

「そうだね。このまま負けを認めてくれるなら、そうなるのかもしれないね」

「嫌な物言いだな」

「けど、これが真実だ」

「なら、トドメを刺せば良いだろう。そうすればお前の勝ちだ」

 けれども昇は首を横に振ってフレトの提案を拒否した。

「僕は僕の未来を作る為に、君にはここで降参して欲しい。そうしないと僕が望んでいる未来はやってこないから。それにもう勝負は付いている。僕の勝ちは揺ぎ無い。だからこそ、君にはここで降参して欲しい」

「トドメを刺せば自然とお前の望みは叶うのだろう? 俺は力を失って精霊王の力に手を出す事は出来ない。契約した精霊達も自然へと帰っていく。それで終わりだ」

「それは僕の望みとは違う。だから降参して欲しい、もう……この戦いは終わりにしよう」

 昇はそう言うと紫黒の銃口をフレトから逸らして、膝を折ってフレトの瞳を真っ直ぐに見据える。

「それに勝負に賭けていたのは精霊王の力だけじゃない、お互いの未来も賭けていたはずだ。僕が賭けていた未来を得るためには、ここで君に降参してもらわないといけない。だから……負けを認めて欲しい」

「お互いの未来か……ふっ、そうだな」

「じゃあ」

「分った。あまり納得が行かないが負けた者はしょうがない。お前の言うとおりにしよう」

「ありがとう」

「礼を言うのは変だろう」

 そう言うとフレトは軽く笑みを浮かべ、昇は満面の笑みを浮かべた。それから昇は立ち上がると未だに戦っている精霊達に大声で勝負が付いた事を告げた。



 戦いが終わり、ラクトリーと閃華がフレトの両側に座って治療の術をフレトに掛けていた。

 戦いが終わった直後は、まだ戦えると言い張ったレットや咲耶はフレトの言葉で負けを認めざる得なくなってしまった。そして戦いは終わり、今は両者の陣営がフレトのところに集り、フレトの治療を見守っていた。

 レットや咲耶は未だに悔しそうにしているが、フレトがこんな状態になってしまってはしかたない。むしろ昇がフレトにトドメを刺さなかった事に不審を抱いているようだった。

 まだ何かを企んでいるのではないか。そう思うのだが、戦いの勝敗が付いた今ではどんな策略を用意したところで昇に何の利益も無い事は確かだろう。それが分っているだけにレットも咲耶も不安だった。

 それとは反対に昇側は満面の笑みを浮かべていた。なにしろ絶対的に不利と言われている完全契約をした精霊達に勝ったのだ。先の戦いで負けた屈辱をここで晴らしたのだ。これほど嬉事はないのだろう。特にミリアと琴未は今回の戦いでは満足の行く勝利を得られた事が嬉しかったようだ。

 そんな感じで黙り込み、フレトの治療を見守っていると、フレトは身体が動くようになると治療をしてくれていた二人に「もういい」と告げて立ち上がった。

 そして昇はフレトの前に進み出る。そんな昇にフレトは片膝を付いて、負けた証として頭を下げたのだが、昇は慌ててフレトに頭を上げるように言うのだった。

「負けた者が勝者に屈するのは当然だろう?」

 昇が示した行動にフレトはそんな疑問を投げかけるが、昇はそうでは無いと首を横に振るのだった。

「確かに負けた者は勝った者に屈するのは当然だけど、僕が描いた未来では君に屈してもらうつもりは無いよ。ただ一つの事を許してもらいたいだけなんだ」

 昇がそう言うとフレトは首を傾げる。昇が何を望んでいるのか未だに分らないのだろう。それはシエラ達も同じだ。

 シエラ達はただ勝つ事だけを考えて戦ってきた。だから昇がその先に描いている未来までは未だに知らされていなかった。

「そのたった一つの事とはなんだ?」

 フレトがその事を尋ねると昇は困った顔をした。それからシエラに時間を尋ねるともう少し待つように全員に言うのだった。

 それから数分後、精界を突き破って一人の人物が昇達の集団に合流した。

「どうもお待たせしました」

 それは与凪だった。与凪は真っ先に昇のところに行く。

「よかったですね。無事に勝つ事が出来て」

「与凪さんが作ってくれたストケシアシステムのおかげですよ」

「そお? それなら後で私のお願いもしやすくなるかな~」

 与凪さん、もしかして何か企んでます。そんな突っ込みを心の中でする昇は一度咳払いすると話を元に戻すためにフレトと向き合った。

「他倒自立の理。他者を倒してその上に自分が立つという真理だ」

「それは分っている。それでお前は俺の上に立って何をする気だ?」

 負けたという真実が未だにフレトには納得しきれないでいるのだろう。けれども既に結果は出ている。だからフレトは昇に従うしかない。そうと分っていながらも、やはりフレトには納得しきれないのを隠す事は出来ずに、昇を睨み付けるように訪ねるのだった。

 そんなフレトに昇は笑みを浮かべるとはっきりと宣言した。

「僕に……いや、僕達に君の妹を治療させて欲しい」

「なっ!」

「えっ!」

 さすがに昇と与凪以外の全員が驚きを隠せなかった。まさか昇がそんな事を言い出すとは誰しも予想が出来ない事なのだろう。

 けれども昇は他倒自立の理を閃華に教えてもらった時から、この事を決めていた。そう、自分達が勝ったらフレトの妹であるセリスの治療をする事を。それこそが昇が描いた未来である。

 それぐらいなら話し合いでも決着が付きそうだと思いそうだが、そういう訳には行かない事を昇は分っていた。

 なにしろセリスの治療には精霊王の力を使う。昇もラクトリーの話を聞いてセリスを治してやりたいと思ってはいるが、精霊王の力をフレト達に委ねる事は出来ない。

 だからと言ってセリスの治療をさせてくれと言ってもフレトが素直にセリスを引き渡すとは絶対に無いだろう。

 だからこそ、昇はこの戦いに勝ってセリスを治療する権利を得たかったのだ。そうすれば誰も傷つかないで済む。それが昇の描いた未来像だ。

 けれどもいきなりそんな事を言われて、すぐに納得が出来るフレトではなかった。なにしろセリスはフレトにとってたった一人の掛け替えの無い存在だ。そのセリスを昇達に委ねるなど、到底許せる物ではなかった。

「そ、そんな事が出来るわけが無いだろう」

 なんとか拒絶を口にするフレト。確かに精霊王の力を使ってセリスを治してやりたいと言う気持ちは今も変わってないが、それは自分の手でやる事で昇に委ねる事が出来ないのだろう。

 だからこそ拒絶したのだが、そんなフレトに昇ははっきりと言いのける。

「今回の戦いで勝ったのは僕だ。そして君は僕の願いを叶える必要がある。それは僕にとっては権利であり、君にとっては義務だ。それこそが他倒自立の理なんだから」

 負けた者は勝った者の言う事を聞かないといけない。非情なる戦いの真実である他倒自立の理。その理からはどんな言葉を連ねたとしても逃れる事が出来ないとフレトは事の時にやっと他倒自立の理を理解した。

「それが……お前の望みか?」

「そうだよ。僕達としても精霊王の力を君に委ねる事は出来ない。それは君だって同じだ。たった一人の妹を僕達に委ねる事は出来ない。だからこそ戦う必要があった。それぞれに譲れない物があるからこそ戦って、そして僕達は勝った。だから」

「だから俺にはその義務を果たさなければいけないという事か」

「それが他倒自立の理だ」

 非情といえば非情だろう。けれどもこれこそが戦いにおける真実である。昇はそれが分っていながらも戦いに応じた。だからこそ絶対に負けられなかった。それはフレトも同じだろう。

 その両者の違いはたった一つ。戦いの理をどこまで理解しているかだ。負けたら大切な物を失う事になる。それが分っているからこそ、昇は誰も悲しまない未来を描いた。誰も傷つかない、誰も悲しまない。そんな未来を昇は勝ち取ったのだ。

 そうなるとフレトは……もう昇にすがるしかなかった。プライドも何もかも捨て去って昇にセリスを委ねるしかないと自分で自分に言い聞かせる。必死にそう納得しようとしていた。

「ほ、本当にセリスを治してくれるんだな」

「僕達に出来る事は全部やるよ。もちろん精霊王の力を使ってね。だから君がやろうとしていた事を僕に任せて欲しい」

「それは……負けた者へ対する命令か」

「半分はお願いだけどね」

 そう言って昇は照れながら笑みを浮かべて見せた。

「ラクトリーさんから君達の事情を聞いた時は困ったけど、僕達もそう簡単に精霊王の力を委ねる訳には行かなかった。だから考えたんだ、どうすれば誰も傷つかない、悲しまない未来を作れるかって。そうして出た答えは君に折れてもらうしかなかった。たとえ戦う事になっても、戦って、勝って君に折れてもらうしか僕には思いつかなかったんだ。だから信頼して欲しい。僕達を、君達に勝った僕達を」

「他のやつらもそれで良いのか?」

 フレトはシエラ達にも意見を求めた。確かに勝ったのは昇達だが、シエラ達も戦って勝ち取った勝利だ。それを昇の一存で決めて良いのか不安に思ったのだろう。だからこそシエラ達にも意見を求めたのだが、シエラ達はあっさりと答えてきた。

「私は昇の剣だから、昇の意思に応えるだけ。それだけで充分」

 あっさりと答えるシエラに続き琴未も口を開いた。

「私達の役目は昇の意思に従って戦う事なのよね。それに、そういう事を考えるのは昇にまかっせっぱなしだから、今更私が言うとは何もないわね」

「そうじゃな、ここにおる者は皆昇の意思と共に戦っておるんじゃ。今更昇の決めた事に何も言う事も無いのも確かじゃな」

 閃華もそんな事を言うとミリアが元気良く手を上げて、閃華に続いて口を開いた。

「私はそういう事を考えるのがめんどうだから昇に任せてるよ~。だから昇の決めた事に何も言う気は無いよ~。だってめんどうだもん」

 えっと、ミリアさん。そこまで僕を信頼してくれるのは嬉しいんだけど、少しは自分の考えを持とうよ。あぁ~、ミリア、後ろ後ろ。

 昇が呆れた視線をしているとミリアの後ろに黒いオーラを出したラクトリーがいつの間にか立っていた。

「ミ~リ~ア~」

「お、お師匠様っ!」

 ラクトリーの気配を察したミリアは逸早くその場から脱出しようとするが、その前に後ろの襟首を引っ掴まれて脱出に失敗してしまった。

「ミリア、めんどくさいとはなんですか、めんどくさいとは! 少しは自分の考えという物を持ちなさいと前に言いましたよね」

「痛い痛い痛い、お師匠様~、痛いですよ~」

 ミリアの頭をグーでグリグリと押し付けてお仕置きをするラクトリーに必死に抗議するミリア。そんな光景にいつの間にか先程までの緊迫した空気が消え去っており、フレトも自然と昇を信頼しても良いのではないのかと思い始めていた。

「滝下昇……だったな」

 いきなりフレトに名前を呼ばれてミリアからフレトへと視線を移す昇。フレトは真剣な眼差しで昇を見詰めていた。

「約束してくれるか、セリスを……治してくれると」

「うん、精霊王の力を使ってどこまで出来るか分らないけど約束するよ。僕達に出来る事はなんでもすると」

「そうか……では負けを認めて信頼するとしよう。それが敗者となった俺の務めだ」

「主様」

 咲耶が心配そうにフレトを見詰めてきたが、フレトは心配ないとばかりに咲耶に向かって笑みを向けるのだった。

 それからフレトは肝心な事を聞くために再び昇に視線を戻した。

「それで、どうやってセリスを治すつもりだ」

 そう聞かれて昇は困ったように頬を掻きながら、誤魔化すように笑みを向けると視線を与凪へと移した。

「えっと、与凪さん、そこら辺の説明をお願いしますね」

 そう言われて与凪は昇をからかうような笑いをした後に昇とフレトに向かって説明を開始した。

「正直に言うと聞いただけだとよく分からないんですよね~。だから実際にここに来てもらわないと手の打ちようが無いんですよ」

「精霊王の力が手に入ればセリスをこっちに呼ぶつもりだった。だから近いうちにセリスをこっちに呼ぶ事も可能だ」

「なら、そこは問題ないですね。後は事前に詳しい情報が欲しいのですけど」

「ラクトリー」

 与凪にそう言われてフレトは未だにミリアにお仕置きをしているラクトリーを呼び寄せて与凪に引き合わせた。

「なんですかマスター」

「セリスに関する詳しい情報を送ってやれ、出来るだけ詳細にな」

「はい、かしこまりました」

 フレトに軽く頭を下げたラクトリーはそれから空中にモニターを出現させると、同じく空中にあるキーボードを叩いてセリスに関する情報を与凪の方へと送って行く。

「うわっ、こんなにあるんですか」

 どうやらかなりの情報が送られてきたみたいで与凪は驚きを隠せなかった。そしてうんざりしたように昇に目を向けてきた。

「滝下君、さすがにこれだけの情報を私一人じゃ処理が出来ないわよ」

「じゃあ、閃華に手伝ってもらえば」

 確かに閃華も与凪と一緒に情報を処理した事もしょっちゅうあるのだが、今回はセリスの事だけで大量の情報を処理しなくてはいけないのだ。二人でやっても追いつかないと与凪は昇に向かって愚痴をもらした。

 そんな愚痴を聞いた昇はとんでもない事を言い出す。

「じゃあラクトリーさんに手伝ってもらえば良いよ」

「なっ!」

「えっ?」

 えっと、なんで皆さん、そんなに驚いているんですか?

 一人だけ事情が分らない昇は首を傾げるだけだった。そんな昇にラクトリーは申し訳なさおうに尋ねるのだった。

「あの~、私達は先程まで敵同士として戦っていたのですよ。それなのに今更手伝ってもらえっていうのは……その」

 そう昇とフレトは敵同士。けれども昇は今になってはそう思ってはいなかった。だからこそ、昇はラクトリーにも手伝ってもらおうと思ったのだ。

「それはさっきまでの話ですよ。これからはセリスさんを助けるために協力して行った方が早いじゃないですか」

「……えっと、あなたはそれで良いのですか?」

「はい、それが僕の出した答えですから」

 昇がはっきりと答えるとラクトリーは嬉しそうに目を閉じる。それから少し考えたような仕草をすると目を開けてフレトに向かって口を開いた。

「マスターのお考えは?」

 ラクトリーとしては昇の考えに賛同したいのだろうが、そこはラクトリーの一存で決める事は出来ないとフレトに意見を求めたのだ。

 そう聞かれてフレトは昇の顔を真っ直ぐに見据えてみる。それからはっきりと思った。

 負けたな。この瞬間がフレトに完璧な敗北をもたらした瞬間かもしれない。それは戦いだけではなく、その次まで考えていた昇への敗北なのだから。

「協力が必要だと言ってるんだから協力してやれ」

「はい、マスター」

 少し照れながら、それでも少しだけ偉そうにそういうフレト。たとえ敗北を認めたといえどもプライドまでもが消え去ったわけでもないようだ。

 それが分っているラクトリーなだけに、ラクトリーも少し笑みを浮かべながらもそう答えるのだった。

 それからラクトリーと与凪はセリスに関する情報処理をするために互いに話し合いを始めた。その事でやっと解放されたミリアがよろけながらも昇の元へやってきた。

「昇~、もう……ダメ」

 えっと、まあ、あれだけお仕置きされればね。

 そう言って昇に寄り掛かってくるミリアを抱き止める昇だが、ミリアはすぐに琴未によって蹴り飛ばされてしまった。

「はいはい、もともとはミリアが悪いんだから昇に甘えない」

「う~、せっかくのチャンスだったのに」

「そういう事を企んでるんじゃない。……そこも!」

 そう言って琴未は思いっきりシエラを指差した。どうやら琴未とミリアが揉めている隙に何かを企んでいたようだが、琴未によって見抜かれてしまったため、シエラは残念そうに顔を背けた。

「まったく、油断も隙もないんだから」

 えっと、琴未。そう言いながら腕を絡めてくるのは何ででしょう? ……うっ、琴未、む、胸が……当たって。

 どうやら琴未は二人を注意した隙を付いて昇と腕を組んで思いっきり胸を昇の腕に押し当てているようだが、そんな事をしていれば黙っている者がいるはずが無い。

 あっ、やっぱり琴未が蹴り飛ばされた。いつの間にか琴未の後ろに回り込んだシエラとミリアが琴未を背中から思いっきり蹴り飛ばした。そのため琴未は昇から押し剥がされて、昇の両側にはシエラとミリアが陣取る事になってしまった。

 だがそんな事は許さないとばかりに、いきなり現れた濁流によってシエラとミリアは琴未の元へ押し流されて行ってしまった。どうやら閃華の仕業らしい。

 そうして三人揃うと、いつものように言葉の交わしあいから、いつの間にか本格的な戦闘へとなだれ込んで行った。

「やれやれ、まったく、しょうがない奴らじゃのう」

 というか閃華さん、ワザととやってますよね。ワザと三人が揃うようにやりましたよね。どうやら閃華は面白がってワザと三人が揃うように押し流したようだ。

 もちろん、そんな事をすればいつものように大騒ぎになる事を楽しんでの行動だ。

「止めなくていいのかよ」

 さすがに心配になったのだろう。レットがそんな事を言ってきたが、閃華は大丈夫だとばかりに手を振りながら答える。

「なに、心配はいらんぞ。いつものことじゃからのう」

「そ、そうなのか」

 いつもの事と言われてさすがに驚きを隠せないレット。確かにいつもこんな感じなら驚きもするだろう。けれども、そんな騒ぎにまったく驚かない人物が居る事も確かだった。

「まったく、巫女なら巫女らしく、おしとやかでないといけないというのに」

 レットと並び出て咲耶がそんな事を言い出した。どうやら今回の事で琴未をライバル視するどころか、巫女として少しだけ先輩面をしたくなってきたのだろう。

 そんなフレト達の精霊に言われて昇は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。そんな昇の肩にフレトは手を置いた。

「滝下昇、お前もなかなか苦労しているんだな」

 大きなお世話ですよ。というか、なんで僕の事をフルネームで呼ぶんですか?

 すっかりいつもどおりの空気に戻った事が昇に安心感を与えていた。やっぱりこうして皆で大騒ぎしていた方が昇達らしいのだろう。

 今回に限ってはフレト達もすっかり傍観者として楽しんでいるようだ。

 まあ、なんにしても今回の事が丸く収まって一安心する昇だった。



 シエラ達の大騒ぎも一段落して収まり、与凪とラクトリーの情報処理も目処がたったのだろう。全員は一度、昇とフレトの居る場所へと集った。

「一応、再確認しておこう」

 フレトがそう言うと昇は頷いた。

「そちらの与凪といったか、与凪とラクトリーの二人でセリスの治療を行う。その他に協力できる者はそれぞれ協力する事でいいな」

「そうだね、セリスさんの命が掛かってるんだもの。こっちも協力は惜しまないよ」

「……ありがとう」

 思いっきり照れながら礼をいうフレトに昇は軽く笑みを浮かべた。それからフレトは照れ隠しの為に咳払いをすると更に話を続けた。

「そういう事だから、俺達もここに残る事にした」

「えっ、帰らなくて大丈夫なの?」

「それは心配ない。精霊の事や争奪戦の事はすでに知らせるべき者には知らせてある。それにセリス一人をここに残す訳にはいかないだろう」

「まあ、そうだね」

 確かに昇にセリスの治療を任せるからと言ってフレト達だけが帰国する訳にはいかないのだろう。だからこそフレトもここに残ると言い出して当然なのだろう。

「だから当分の間は一緒にいる事になるな、滝下昇」

「まあ、それは構わないけど、暮らす場所なんてあるの」

「それはこれから手配する。自分達の事は自分達で出来るから、そこまで心配してもらう必要などは無い。分ったか」

「うん、分ったよ」

 やはり偉そうなフレトに対して昇はまったくいつもと変わらずに返事を返す。まあ、それがこの二人らしいのだろう。

 そんな二人の会話に与凪は口を挟んできた。

「だから残っている問題はセリスさんの事だけですね。詳しい事はセリスさんがこっちに来てからでないと分りませんが、精霊王の力を使えば病気も完治できる可能性が高いですよ」

「そうか、それならよかった」

 与凪の言葉を聞いて一安心するフレト。

「よかったですね、主様」

 フレトに続いて精霊達も喜びの言葉をフレトに掛ける。フレトにしてみればセリスの病気を治すために、こんな遠い地まで来たのだ。その念願が叶い始めているのだから喜びも一層増す物なのだろう。

 フレトは精霊達と喜びを分かち合った後で昇の元へとやってきた。

「今回の事では礼を言う。そしてこの借りはいつかは返そう。困った時はいつでも協力する。グラシアス家の家名に掛けて誓おう」

 そう言ってフレトは握手を求めてきた。そんなフレトの言葉に昇は少し照れながら答えるのだった。

「別にそこまで礼を言われる事じゃないよ」

「いいや、今回の事ではセリスの恩人だ。だからそれぐらいは当然だ。だからそれぐらいはやらせてくれ」

「ありがとう、じゃあ困った時はいつでも相談するよ」

 そう言って昇はフレトの握手に応じようと手を差し出すが、昇の手はフレトの手と握手する事無く。昇はそのまま地面へと倒れてしまった。







 そんな訳で後書きのコーナーがやってきました---っ!!! 

 ……いやね、今回はちょっとハイテンションで入ってみようかなと思っただけですので、特にここが盛り上がる事は無いと思われます。

 さてさて、そんな訳で他倒自立編のラストバトルも終わりましたね~。そんな訳で他倒自立編も残り数話となりました。

 そんでもって次の話なんですが、なんと……未だにプロットが上がってませ~ん!!!

 ……いや、その……ごめんなさい。

 そんな訳でそっちもやらないといけないので残り数話の更新が遅くなるかもしれませんが、ご容赦ください。

 ……えっ、ダメ!? そんな、そんな事をいわんといて~。そんな事を言われるとラクトリーさんに折檻されるから、それだけは、それだけは~~~っ!!! ……はい、そろそろ遊ぶのも終わりにしましょうか。 ではでは、締めますね。 ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。 

 以上、A列車に乗って旅立ちたいなと思った葵夢幻でした。

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