表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
他倒自立編
94/166

第九十四話 弟子と師匠

「アースウェーブ」

「アースウォール」

 ラクトリーのクレセントアクスが地面へと突き刺さり、そこから地面が波打つと、波に揺られるように大地とその上に立っている建造物や木々を破壊していく。

 そんなラクトリーの攻撃に壁を作ったミリア。それはまるで防波堤と言っても良いぐらいの壁だ。問題はそのアースウォールでラクトリーの攻撃を防ぎきれるかだ。

 そんな心配を抱きながらもミリアはラクトリーの攻撃に備える。そしてアースウェーブがミリアのところにまで到達するとアースウォールと正面からぶつかり合う。

 それでもミリアの作り出したアースウォールはヒビ一つ入る事無く、完璧にラクトリーの攻撃を防いでみせた。

 これで少しだけ安心するミリアだが、すぐにラクトリーが反撃に来る事は分っていた。いや、正確には知らせてきた。

 そんなラクトリーに備えてミリアも行動を開始する。

「ブレイク」

 先程作り出した壁を自ら破壊して壁の破片をラクトリーの居る正面に向かって打ち放つ。けれども正面にはラクトリーは居なかった。ラクトリーもミリアの反撃が来る事は分っていた。だからこそ、大きく右へ迂回しながらミリアに迫っていた。

 ミリアも先程の攻撃で時間が掛かってしまった。ここからは大技で応戦するのは無理だ。ラクトリーとしてはこのまま接近戦にもって行きたいのだろう。

 確かに属性の技が使えなければ完全契約をしているラクトリーが大いに有利だ。けれどもミリアはあえてそんなラクトリーの行動に合わせるかのように駆け出した。

 互いに距離を詰めていくミリアとラクトリー。そして両者は互いの間合いに入る寸前に己の武器を振り上げると、一気に振り下ろした。ぶつかり合うアースシールドハルバードとアースブレイククレセントアクス。

 お互いに武器をぶつけ合えば完全契約をしているラクトリーがミリアを弾き飛ばしてもおかしくは無いのだが、どちらも弾き飛ぶ事無く力比べの拮抗状態に入っていた。

「なるほど、これがエレメンタルアップの力ですか」

 完全契約したラクトリーと同じ力を持つには確かにエレメンタルアップの力が必要だ。だからこうして拮抗状態に入っているのだとラクトリーは考えたのだろう。けれどもミリアは笑みを浮かべて見せた。

「お師匠様、それだけじゃありませんよ」

 そんなミリアの笑みに何かがある事を感じたラクトリーは、そのまま一気に勝負に出るために押し出すが、一向に押し出す事が出来ずに拮抗状態が続いている。

 これはいったい……そういう事ですかミリア。やっとミリアのやっている事に気付いたラクトリーは微笑を一瞬だけ浮かべるとすぐに行動に出た。

 ラクトリーは正面に押し出している力を一気に横に方向転換させた。急にそんな事をすればミリアもラクトリーも体勢を崩してしまうのは当たり前だ。

 そのため横に倒れこもうとしているミリアに対してラクトリーは素早くクレセントアクスを手放すと、倒れている身体を片手で支えてミリアに蹴りを入れた。

 重装備のミリアにその程度の蹴りでダメージを与える事は出来ない。だがミリアは体勢を崩した直後の蹴りだから弾き飛ばす事には成功した。

 あのまま拮抗状態を続けていても意味は無い。それにミリアの力を考えるとあれ以上続けるのもラクトリーには不利になる可能性が高かった。だからこそ拮抗状態を崩すための行動だ。

「アースシールドハルバード、その名の通り大地の盾を持つ槍斧。ミリア、あなたはやっと自分の武器をちゃんと使いこなせるようになったのですね」

 追撃をしないでそんな言葉を口にするラクトリー。その顔は真剣なのだが瞳の奥には少しだけ優しさが見える。けれどもミリアはそんな事に気付きもしないで立ち上がると早々にハルバードを構えるのだった。

 ラクトリーもすでにクレセントアクスを手にしている。けれども構える事無く、まるでミリアの言葉を待っているかのように沈黙を保っていた。

 けれどもミリアはラクトリーに言葉ではなく行動でそんなラクトリーに応えた。一気に駆け出したミリアはハルバードで地面を削るように、切っ先を地面に付けながら走り。ラクトリーが技の間合いに入ると一気にハルバードを振り上げた。

「アースボール」

 ミリアの周囲から一気に土砂が吹き上がると、その中から大地が球状に削り取られたような形の物が幾つも出現した。

「シュート」

 アースボールをラクトリーに向かって放つミリア。その時にラクトリーには迷いが生じていた。前回のミリアならこの攻撃もクレセントアクスで楽に破壊できただろう。けれども今のミリアは前回とはかなり違い、そのうえエレメンタルアップまで掛かっている。だからラクトリーはアースボールを破壊できるかどうか迷い、そして決断した。

 迫ってくるアースボールを避けながら駆け出すラクトリー。

 先程の防御力といい、力の拮抗といい、あの子は自分の利点を最大限に伸ばしてきたようですね。そんな考えを抱いたからこそラクトリーはあえてミリアの放った弾幕とも言える攻撃、アースボールを避ける事にしながら接近を試みた。

 それはミリアが防御力を中心に力を上げていた事を証明するものであり、そのうえエレメンタルアップを警戒した上での決断だ。さすがにこれだけの条件下でアースボールを破壊しながら進むのは次に備える事は出来ないし、多少の危険は覚悟の上でアースボールを避けた方が懸命だ。

 だからラクトリーの判断としては間違ってはいないが、やはり全てのアースボールを避ける事は出来ず。多少のかすり傷や軽い打撲を負ってしまった。少々ダメージを与えたというところだろう。

 そしてラクトリーはミリアに向かって突進する。それはミリアの行動を読んでの行動だ。

 アースボールは囮。この後に大きな攻撃が来る。ミリアならそうするはずだとラクトリーは読んだ。だからこそ突進して先制攻撃を仕掛けようとしたのだが、弾幕を潜り抜けたラクトリーの眼前にはミリアの姿は無かった。

 いったいどうして? 自分の読みが外れて困惑しながらもミリアを探すラクトリー。そんな時だった。ラクトリーは突如として後ろに殺気を感じるとそこにミリアの姿があった。

 どうやらミリアは弾幕を放つのと同時に弾幕を迂回してラクトリーの後ろに回り込んだようだ。

 確かにアースボールは囮だった。けれどもこんな手で来るとはラクトリーには読みきれていなかった。

 接近戦ではミリアの方が圧倒的に不利だ。なにしろ二人ともお互いの事をよく理解しており、ミリアは一度もラクトリーに勝てた事が無いのだから。

 確かにエレメンタルアップで能力が上がっているが、経験と技術ではラクトリーの方が大いに上回っている。

 それなのに接近戦を仕掛けてきたという事は何かしらの手があるのだろう。少なくともラクトリーもそう考えたし、ミリアも考え無しに突っ込んで行った訳ではない。

 確かにシエラと比べればスピードはかなり遅いけど、やっぱりお師匠様だよ。こんなにも早くこちらを向いてきた。でも、私だって毎日シエラと特訓していた訳じゃないよ~。

 ミリアがシエラを相手に特訓していた理由がそこにあった。

 ミリアは一気にラクトリーに迫るとハルバードを横一線に振り切る。けれども膝を一気に落としてラクトリーはミリアの攻撃をかわしてきた。ラクトリーはそのまま足払いを掛けてくる。

 そしてそこからは鈍い音が響き渡った。

 ラクトリーの足払いは的確にミリアの足に命中した。けどそれだけだ。ミリアは逸早くラクトリーの足払いを察すると思いっきり踏み込み、その場で耐えしのいだ。

 そう、これがミリアがシエラを特訓相手に選んだ理由の一つだ。それがこの反射神経である。

 なにしろシエラの攻撃はラクトリーとは比べようが無いほど速い。そんなシエラを相手にしているのだから反射神経を思いっきり駆使して戦わないと行けなくなる。その結果としてミリアはラクトリーの足払いを耐える事が出来た。

 これでラクトリーの頭上はがら空きだ。ミリアはハルバードを振り上げると一気に振り下ろした。そんなミリアの攻撃を横に転がりながら避けるラクトリー。さすがに体勢が悪いため、その場で受け止めるような事はしなかった。

 もし受け止めていたら確実にミリアのハルバードに押されていただろう。それが分っているからこそ、ラクトリーは反撃が来るかもしれないが転がりながら避けたのだ。

 けれどもミリアは反撃をしなかった。ラクトリーは半分安心するのと同時に半分は迷いが生じた。

 先程はミリアにとって最大の攻撃をするチャンスだったはずなのに、ミリアはあえてそれを見逃した。見落としたわけではなく、見逃したのだ。それが何を意味しているのかラクトリーには未だに分っていなかった。

 けれどもおかげで体勢を立て直す時間を稼ぐ事が出来た。立ち上がったラクトリーはすぐにクレセントアクスを構える。

 もちろん、ミリアもただ黙って見ていた訳ではない。先程の時間で思いっきり力を溜める事が出来た。だからこそ一気に大技を仕掛ける事が出来る。

「アースブレイカー!」

 ミリアはハルバードの切っ先を地面に突き刺すとそこから赤い光が幾つも地面を走り、ラクトリーを目掛けて、その軌跡を延ばしていく。

 赤い光から地割れが起きて、まるで重力が無くなったかのように大地が上下する。そして始まる崩壊。土砂は一気に舞い上がり、地面は波打ち地上に有る物を全て破壊していく。大地が擦れ合い、幾つもの衝撃を生み出して破壊は傍に有る物の存在を許さないかのように破壊を続けていく。

 そして破壊は少しずつ収まり、全てが収まると舞い上がった土砂と大地が一気に落ちて大量の砂埃を宙に舞い上がらせる。

 地面からハルバードを抜いたミリアは全神経を砂埃の向こうへと集中させる。未だに砂埃でなにも見えないが、これぐらいでラクトリーが倒せるとミリアは思っていないのだろう。

 そんなミリアの予想が的中したかのように土砂の向こうから土壁の破片が幾つも飛んできた。けれどもそれはミリアを的確に狙ったものではないようで、ミリアはハルバードを振り回すだけで土壁の破片を全て打ち落とす事が出来た。

 この攻撃……お師匠様はアースドームを使ったのかな? そんな推測を立てるミリア。そう考えたのにはちゃんとした理由がある。なにしろ土壁の破片はある一点を中心に三百六十度、全方位に向かって放たれた物だからだ。

 確かにアースドームを作り出した後にブレイクをすればそのような結果になる。ミリアはそう考えたのだ。

 なにしろラクトリーはミリアの師匠だ。だからラクトリーがミリアの事を知っているように、ミリアもラクトリーの事を知っている。だからこそお互いの手を知り尽くしての戦いとなっているから相手の手が読みやすくなっている。これはそういう戦いだ。

 そうなると次は……。次にどんな手でラクトリーが打って出てくるか考えるミリア。けれどもこの砂埃だ、この中にいるラクトリーの動きが分らない。さすがにこればかりはストケシアシステムも使いようが無い。なにしろ誰も中の状況が見れないのだから。

 そのような状況の中でもミリアはアースシールドハルバードを構える。ラクトリーがどこから攻めて来てもいいように備えなければいけない。なにしろこの砂埃だ。中で何をしているか分ったものではない。

 そんな警戒をしつつラクトリーの攻撃に備えていると、突如として砂埃の中心から光の柱が天に向かって伸びると衝撃が走り、砂埃を一掃してしまった。

 予想していた事とはいえ衝撃に吹き飛ばされないように踏ん張るミリア。そして砂埃が消え去った後に残る光の柱。その中にはラクトリーの姿があった。

 この技は!

 これからラクトリーが仕掛ける技が分っているのだろう。ミリアはアースシールドハルバードを前面へ押し出すと、ハルバードに力を集中させる。

「タイタロスブレイク」

 ラクトリーは呟くようにしてそのような言葉を発すると光の柱はアースブレイククレセントアクスの切っ先にその力を溜め込み、矛先をミリアに向けた。

 やっぱり、これは……お師匠様が持つ最大限の技だ!

 つまりはラクトリーが持つ奥の手と言ってもいい技だ。そんな技をあの短時間で発動させるとはさすがはラクトリーと言ったところだろう。

 クレセントアクスの切っ先に溜まっている力が一気に大きくなり、それは地震となって辺りの大地を揺すぶる。それ程の力を秘めた攻撃をしてくるつもりなのだろう。

「アースドームにアースウォール!」

 そんなラクトリーに対してミリアも最大限の防壁を一気に築き上げる。これでラクトリーの攻撃を防ぎきる自信は無いが、直撃を喰らえば確実にやられてしまうだろう。避けるという手も無いわけじゃない。

 けれども戦場は他でも展開されている。ここでミリアが防壁を築かないと、どの戦場に影響が出るか分ったものではない。

 それにラクトリーもミリアが避けたとしても別の敵に、つまり昇達の誰かに当たる角度で撃って来るだろう。それが分っているだけにミリアはここで立ち止まるしかなった。けれどもそれはミリア自信も望んでいる事だ。

 私は皆を守る盾なんだから、お師匠様の攻撃を完璧に防いで見せる。

 防壁の内に身を隠しながら、更に防壁を強化しているミリアはそんな事を考えながらラクトリーの攻撃に備えていた。

 そんなミリアの防壁にクレセントアクスを向けるラクトリーは、ミリアをこれで落とせると確信していた。そして溜めていた力を一気に解き放つ。

「シュート!」

 クレセントアクスから淡い光を煌々と光らせながらタイタロスブレイクシュートは放たれた。それは一直線にミリアの築いた障壁へと向かい。そして直撃するとその場で大爆発を引き起こした。

 さすがに貫通は出来ませんでしたか、成長しましたねミリア。攻撃の手応えでそう感じ取るラクトリー。

 ミリアの築いた防壁はよほど堅かったのだろう。ラクトリーの攻撃を貫通させる事はしなかった。けれども中にいるミリアは爆発の影響でどうなっているのか未だに分らない。

 だからラクトリーは完全にこれでミリアを倒した、または戦闘不能状態に持ち込んだと思っていた。ラクトリーがそう思ってもなんら不思議は無い。なにしろラクトリーが持つ技の中では最大の破壊力を持つ攻撃だ。

 その技だけはミリアも習得前で何度か見ただけの技だ。そんな技の直撃を受けてミリアの防壁が耐えられるはずが無い。それは二人を知っているものなら誰でも思った事だろう。

 けれども昇達は違った。これでミリアが落ちたとは思ってはいない。それどころかストケシアシステムを最大限に利用していた。

『ミリア、大丈夫』

 ストケシアシステムを利用して昇の言葉が直接ミリアの頭に届く。けれどもミリアからの返事が無い。そんな時に上空にいるシエラからストケシアシステムを使って通信が届く。

『爆発の影響で上空からの確認は無理。けれども相手は油断している、叩くなら今しかない』

『ミリア、返事をして』

 昇は自分の闘いをしながらも、頭の中ではそんな会話をしていた。これがストケシアシステムの真髄。つまりは思念通話と言っても良いだろう。頭の中で話したい相手に話す事が出来るシステム。それがストケシアシステムの真髄だ。

 先程の完全連携もこの思念通話でお互いに連絡を取り合って、昇が司令塔になって命令できたから出来た物であって、完全連携を実現するだけがストケシアシステムではない。

 お互いに見たもの、聞いたものを瞬時にやり取りするシステムがストケシアシステムなのだ。けれども未だにミリアからの返事は誰の元にも届いていなかった。



「なかなか成長しましたけど、今一歩及ばなかったようですね」

 爆煙が上がる場所を見てラクトリーはそんな言葉を呟いた。そこは先程までミリアが居た場所だ。いくら敵同士に成ったからとは言っても、自ら望んで敵に成ったわけでは無いし、師弟関係も切った覚えは二人には無かった。

 だから今でも二人は師弟関係なのだろうけど、この状況がその関係を認めるわけにはいかなかった。だからこそラクトリーは最大の力を持ってミリアを倒しに掛かった。

 その結果が目の前にある爆煙だ。未だに煙は晴れていないが、先程の攻撃でミリアが落ちたのは間違いないとラクトリーは思っていた。それほどまでに技の破壊力には自信があったからだ。

 けれどもその心境は複雑だろう。なにしろ師匠が本気で弟子を倒さなければいけないのだから。これが逆なら喜ばしい事なのかもしれない。けれどもラクトリーにもフレトの為に負けられない理由があるからには手加減などは出来ない。

 だからこそ全力で技を放った。ラクトリーが知っているミリアでは確実に防ぐ事も避ける事も不可能だ。

 けれども突如して地震が起こり始めた。突然の事で多少足を取られたラクトリーだが、バランスを一瞬だけ崩しただけで、後は普通に立っている。さすがは地の精霊といったところだろう。地震が起きてもバランスを崩す事無く立てるようだ。

 ……これは!

 起きている地震に違和感を感じたラクトリーは辺りを調べてみると地震が起きているのはこの周囲だけで、昇達のところでは何の異変も起こってはいない。

 まさか、そんな事が!

 何かを察したのだろう。ラクトリーは地震の震源地と思われる場所を凝視する。そこは未だに煙が晴れていない爆煙の中。けれども次の瞬間、何かの力が一気に解き放たれると爆煙が一気に吹き飛ばされて、その中からミリアが現れた。

 矛先は既にラクトリーに向けており、力を思いっきり溜め込んでいる。

「耐え切ったというのですか、そんな身体で!」

 確かにラクトリーが言ったとおり、ミリアの身体はボロボロだった。重武装だったミリアだが、今ではほとんどの武装が破壊されており、身体には少ししか武装が残っていないほどだ。その他にも傷を数えたらキリが無い。

 それほどまでになりながらもミリアは先程の攻撃を耐え切ったのだ。他に被害を出す事も無く、見事に盾としての役割を果たしたのだ。

 そんなミリアがラクトリーの顔を見るとはっきりと言葉を口にした。

「お師匠様! 最後の技、確かにご伝授していただきました」

「まさか、覚えたというのですか、たった数回見ただけの技を、先程受けた技を。そんな事が出来るわけがありません」

 そうはっきり言い切るラクトリーに対してミリアは否定も肯定もせずに沈黙で答えた。そう、ミリアにもはっきりとは言えなかったのだ。

 お師匠様の言うとおり、さっきの技を完璧に撃てるとは限らない。けれども何度も見たし、体で覚えた。だから出来るはず、ううん、絶対にここで撃たないと私達に勝ちはないよ。

 そう自分に言い聞かせるミリア。そうしなければ、ここでこんな反撃などは出来ないどころか思いも付かなかっただろう。ミリアがラクトリーに抱いている師匠としての尊敬は未だに消えてはいない。

 だからこそ、今回の戦いでミリアはラクトリーに勝たなければいけなかった。それこそが弟子として師匠にして上げられるたった一つの事だと考えたからだ。

 だからこそ、ミリアは覚悟を決めると技を放つ。

「タイタロスブレイクシュート!」

 ラクトリーと同じように淡い光を放ちながら煌々と輝く力はラクトリーに向かって一直線に突き進む。そして巻き起こる大爆発。

 ミリアのタイタロスブレイクシュートが何かに直撃したのは確かなようだが、それがラクトリーなのかは確かめようが無い。なにしろ先程と同等の力が放たれて、先程と同じように爆煙を巻き上げているのだから。中の様子などは分りはしない。

 そんな光景を目にしたミリアはハルバードに寄りかかるように膝を地面に付ける。

 さすがお師匠様の最大技だよ。こんなにも消費するなんて思っていなかった。けど……すごい破壊力。完璧に撃てたとは思えないけど、かなり完成度は高いと思うよ。だからきっと……お師匠様を……。

 そんな事を考えるミリアはボロボロの身体を少し休ませる。なにしろラクトリーの最大技を受けてからの、真似をした最大技だ。いくらエレメンタルアップの影響下であってもその消費は凄まじく、昇に負担を掛けないためにミリアは全ての力を出し尽くしたつもりで撃ったのだ。

 だからミリアの負担は大きく、今ではハルバードに寄りかかりながら荒い息を整えていた。今ラクトリーの反撃が来れば確実に対処は出来ないだろう。けれどもあの爆煙だ。ラクトリーも無事では済まないだろう。

 なにしろ威力はミリア自身で証明されているのだから、たとえ威力が及ばなくてもかなりのダメージを与えたはずだ。少なくともミリアはそう考えていた。

 さ~て、これでお師匠様が無傷だったら……どうしようかな~。

 けれども不安が残っているのだろう。そんな考えも頭を過ぎるミリアだった。



 爆発で舞い上がった砂埃が少しずつ落ちて行き、今まで見えなかった砂埃の中も徐々に見え始めた時だった。ミリアはこちらに向かってくる足音を確かに聞いた。

 やっぱりダメだったのかな~。

 そう考えるミリアの前に現れたのは予想通りのラクトリーだった。

「成長しましたねミリア。まさかここまでやるとは思いませんでしたよ」

「でも、お師匠様には通じませんでしたね」

「そんな事はありませんよ、先程の技はかなりの破壊力を持っていましたから私もこの通りですよ」

 そう言われてミリアはラクトリーの身体を見てみるとかなりの傷が目に付いた。どうやら完璧に防がれたわけではないようだ。それだけじゃない、どうやらダメージも結構大きいようだ。

 そんなラクトリーの身体を見てミリアは少しだけ微笑む。ラクトリーにダメージを与えられたのが嬉しいのではない。ラクトリーに褒められた事が嬉しいのだ。

「子が親元をいつかは離れるように、弟子もいつの間にか師匠から離れていくものなのですね。ミリア、今のあなたを見てそう思いました」

「お師匠様……」

「先程の技、完璧とは言えませんが確かに完成していました。たった数回見せただけなのにものにするとは、私が教える事はもう無いのかもしれません」

「……」

 ミリアの頬を涙が流れる。それだけラクトリーの言葉がミリアの胸に刺さったのだろう。

 ラクトリーに褒められ、認められた。これでミリアはやっと一人前となったのだ。その事を実感すると同時にもうラクトリーから離れないといけないと思うとやはり寂しいのも確かだった。

 そんなミリアにラクトリーは師匠として最後の言葉を掛けた。

「立ちなさいミリア。まだ戦いは終わっていないのですよ。ここで終わるあなたではないでしょう」

「……はいっ!」

 ミリアはハルバードに寄り掛かりながらも立ち上がると、ラクトリーに向かってハルバードを構えた。

 そんなミリアにラクトリーは微笑を一瞬だけ向けると真剣な顔付きになり、手にしているクレセントアクスをミリアに向けた。

「これからは敵として、本気で行きますよ。私達は絶対に負けられないのですから」

「負けられないのはこっちも同じだよ~。昇のため、皆のために私は盾にならないといけないんだから~」

 そんな言葉を掛け合い。お互いに一度だけ微笑み合うと戦いは再開されて、今度は師弟ではなく敵としての戦いが始まるのだった。



 おかしい?

 上空で戦っているレットはそんな事を感じていた。確かにシエラのスピードはエレメンタルアップの効果で飛躍的に上がっているが、それでも対等に戦える。いや、スピードでは負けていない。

 そんな事はありえないとレットは考えている。いくら完全契約と行っても爪翼の属性が有するスピードには限界がある。だからエレメンタルアップが掛かっているシエラにはスピードでは完全に負けると思っていたのだが、そんな事は無くて戦闘は拮抗状態を続けている。まるでシエラが手加減しているかのように。

 いや、違う。攻撃に転ずる事無く、防御に徹しているのだ。でも……何故だ?

 そう推測するレット。確かにエレメンタルアップの掛かっているシエラを前にした時は、負けるとは思わなかったが押されるとは思っていた。それほどの激戦になると予想していたのだが、実際にはシエラは攻撃を抑えており、そんなに激戦とまではならなかった。

 だからレットにもそんな事を考える余裕が生まれた。

 それはシエラにも言える事だ。けれども正確に言うとその余裕を作り出すためにシエラはワザとこんな戦い方をしているのだ。

 なぜそのような戦い方をしているかというと、それはやはりストケシアシステムが関わっているのだった。



「極寒の塊、その力を持って敵を悠久の凍土へと誘え」

 マスターロッドの先端から冷気の塊が放出されると、それは昇に向かって突き進む。

 昇もフレトの攻撃に対して二丁拳銃の紫黒、その銃口を向かってくる冷気に照準を合わせると引き金を一気に引き絞る。

「フレイムシュート レーザー!」

 紫黒の銃口から飛び出した炎は、その形をレーザー状にしてフレトの出した冷気に向かって一気に突き進む。

 その両方がぶつかり合い水蒸気爆発を引き起こした。けれどもこんな爆発如きで二人の動きが止まる事は無い。

 なにしろ先程からこのような戦いを繰り広げているのだから。

 二人とも遠距離の攻撃型だ。だからお互いに接近する事無く。動き回っては相手の隙を狙って遠距離の攻撃を行っている。

 フレトは呪文を使っての攻撃と風の属性を上手く使いこなして攻撃を仕掛けてくる。昇もそんなフレトの攻撃をさばきながらも、時には拮抗状態を作り出してストケシアシステムを使用したりもしていた。

 けれどもフレトの攻撃は苛烈かれつを極めるほどだった。それほどまでにフレトをかき立てる物が存在していた。それがセリスなのだろう。彼女の存在があるからこそ、フレトはここまで戦える。

 一方の昇も負けられない理由がある。それが精霊王の力。でも、それは建前で本当は今の生活が気にいっているのかもしれない。

 シエラとの契約から始まったこの生活を今では楽しんでいる自分をどこかで自覚していた。だから精霊王の力も重要だが、今の生活を守る事も昇には凄く重要な事なのだろう。

 だから双方にも負けられない理由があるからこそ、お互いに全力を出して戦っている。フレトとしてはここまで追い詰められる事は計算外だったが、それでも今は全力で戦うしか手が無い事はフレトが一番良く分かっている。

 只でさえ完全契約という有利な条件を最初っから持っているにも関わらず、そのうえ充分な準備までしてここまで来たフレト達だ。

 その攻撃は決して油断できるものでは無い。そこまでの攻撃をフレトはしているのだ。それなのに粘ってくる昇達。

 まさかここ数日でこんな状況になるまで成長するとはフレトも思っていなかった。だから押されている事に驚かされていても、決して弱気になる事は無く。未だに昇達の戦いも拮抗状態が続いていた。

 昇達としてもストケシアシステムとエレメンタルアップが無かったら、とっくにフレト達に敗れていただろう。けれどもここまで戦えたのはこの二つを駆使してるからだ。

 だが決着は付きそうになかった。二つの勢力が有している力は同等であり、このままではいつまで戦っても決着が付きそうに無い。戦っている誰もがそう思っている中で昇だけが違う考えを持っていた。

 そう昇は最初っから知っていたのだ。完全契約の弱点とこの戦いを終わらせる為の方法を。







 さてさて、そんな訳で今回は師弟対決をメインにしていた訳ですが、如何でしたでしょうか。ミリアがどんな成長をして、そんなミリアを見てラクトリーもどんな思いを抱いたのか、そこいら辺を楽しんで頂けたなら幸いです。

 さてさてさて、そんな訳で他倒自立編も終盤に向かって突き進んでいるワケですが……次のプロットが上がってない。というか、話し自体があまり出来上がってない。

 というかですね、頭の中ではある程度はまとまってるのですが、今一歩足りなくてこんな状況になっております。そんな訳で次の更新も遅れると思いますが、今年中には後一話か二話ぐらいは上げたいと思っております。

 そんな訳で次の話は……いや、これはまだ言わないでおきましょう。なにしろ他倒自立編が終わった訳ではないですからね~。

 ではでは、話しが終わった所でそろそろ締めますね。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、最近はいろいろな方面で多忙な葵夢幻でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ