第九十三話 完全連携
「それでラクトリー、何か分かったのか」
昇とフレトの両陣営が退いてからというもの小休憩に入ったかのように、どちらかも攻撃を仕掛けようとはしなかった。
やはり先程の戦闘で昇達が優位に戦えたのがフレト達に考える時間を必要とさせ、昇達には昇が休む時間が必要だった。
なにしろ戦闘はこれからは更に激化して行くのは必至だ。
そうなるとフレト達にとって気がかりなのは、どうして昇達が完全契約をしている自分達と対等に渡りあったかだろう。
いや、それどころか昇達に押されていた時も有った。完全契約で完全にフレト達が優位なのに、それでも昇達が優勢に戦った。そこには何かしらの秘密があるようで、ラクトリーはそれが何なのか察しが付いたようだ。
「はい、マスター。これはかなりやっかいな事になってそうです。しかもこのシステムを破るのは困難かと」
「遠い言い回しはしなくてはいい、簡潔に説明しろ」
「はい。相手がやっているのは、そうですね、言葉にすると……完全連携です」
「完全、連携だと?」
頷くラクトリーにフレトは困惑の色を示した。どうやら完全連携の意味が良く分かっていないようだ。そんなフレトにラクトリーは説明を開始する。
「戦闘が始まれば私達は私達の意志で動きます。もちろんマスターの指示通りに動きますが、それでも自由自在とは行かないですよね。なにしろ意思の伝達には時間が掛かりますから」
「まあ、そうだな」
「その意思伝達時間をゼロに出来たらどうなります」
「……ッ!」
驚きの色を示すフレト。どうやらやっと昇達が開発したストケシアシステムについて理解できたようだ。
「つまりこういうことか、俺はチェス盤の駒を自由に動かせないが、あいつは自由自在に動かせるという事か」
「はい、そういう事です」
分りやすく説明するとこうである。
戦闘では前線に出てしまうと個人の判断で動く事が主に成ってくる。指揮では大まかな動きだけで、細かな動きは個人の判断でなくてはどうする事も出来ない。
つまりそこか戦略と戦術の違いだ。先程の戦いでフレトが出した指示は戦略に当たり、昇達は戦術レベルで自由にシエラ達を操る事が出来る。
大した違いには思えないかもしれないけど、実際に戦闘している側にとっては、かなりの違いが出てくる。
なにしろ昇はチェス盤の駒を自由自在に動かせるのに大して、フレトは大まかな動きしか動かせる事が出来ない。もっと簡単に説明すると昇はチェスのルールを無視して駒を動かせるが、フレトはルールに沿ってしか駒を動かすことができないという事だ。
それが前線の戦闘員を自由に動かせるのと自由に動かせないとの違いだ。
なにしろ今回のような小さな戦場では戦略よりも戦術の方が大いに効果を発揮する。だからこそ完全連携が出来る昇達の方が優位に戦いを進める事が出来たのだ。
「なるほど、確かにこれはやっかいだな」
「はい、マスター」
フレト達がそんな会話をしていた頃、同じような内容を昇達も話していた。
「なんとかストケシアシステムでやってこれたけど、今度は相手も対抗してくるよね?」
そんな事を閃華に尋ねる昇。確かに完全連携を可能にしていたストケシアシステムだが対抗策がまったくない訳じゃない。全てにおいて完璧などというシステムなど存在しないのだから。
だからこそ閃華もはっきりと答える。
「そうじゃろうな。じゃがストケシアシステムはまだ使えるはずじゃ、それとエレメンタルアップもじゃがな」
「そうだね」
そんな会話をする昇と閃華にミリアは首を傾げた。どうやら話している内容がいまいち理解できていないようだ。
そんなミリアに説明するかのようにシエラが語り始めた。
「ストケシアシステムは私達が見たもの聞いたものを瞬時に昇の思考に伝達する。それを受け取った昇の思考は私達がどう動けばいいのか瞬時に伝達してくれる。つまり私達の意志が一つになって動けるようになるのがストケシアシステム」
「それは分ってるよ~」
「そのストケシアシステムはエレメンタルアップの応用で生まれたシステム。だからそこからエレメンタルアップに切り替える事はそう難しいことじゃない」
お互いの繋がり。それがエレメンタルアップを使用する絶対条件だ。ストケシアシステムはその繋がりを利用して瞬時に思考のやり取りをするシステムと言えるだろう。
つまりはストケシアシステムを発動させている間もエレメンタルアップを使用可能にする繋がりを持つ事が出来ているという訳だ。だからこそ、ストケシアシステムを発動させている間はエレメンタルアップに切り替える事も出来るというわけだ。
「つまりストケシアシステムが使える状態にだからこそ、エレメンタルアップに切り替えてるって事」
ミリアがそう答えるとシエラは珍しく驚いた表情を見せた。
「そう、まさかこんなに理解が早いとは思わなかったけど正解」
「う~、なんか遠回しに馬鹿にされてる気がするんだけど」
「はいはい、そこまでにしときなさいよ」
そんな事を言いながら琴未が仲裁に入ってきた。それでミリアも退き下がるしか得なかった。
二人を止めた琴未は何度か頷くと今度は閃華に問い掛けてきた。
「それで、相手はどんな手でくると思う」
そう、一番肝心なのはそこだ。ここまでは昇達が優位に攻めていたが、ストケシアシステムの全貌を悟っているなら対抗策を必ず出してくるはずだ。昇達はその対抗策を打ち破らなければいけなかった。
「それは簡単じゃ、今回の戦いは互いに人数は同じじゃからのう」
「つまり……個人戦に持って行こうって事?」
「そう出てくるじゃろうな。ストケシアシステムを封じるにはそれしかない。それに相手には完全契約という強みがある。個人の戦いなら完全に相手の方が上じゃ」
「そうよね……」
完全契約の強さは前回の戦いで嫌というほど見せ付けられた。それを今度もやられると厳しいものがあるのは確かだった。
それが分っているだけに、次に戦いの幕が上がったら先程のように行かない事は明白だ。けれども昇は堂々と宣言する。
「確かに相手はそう出てくるかもしれない。けど、それを打ち破ることが出来るのもストケシアシステムだ。それとエレメンタルアップの同時使用。これが出来れば何とかなる」
「じゃが昇、分っておろうが、昇への負担は大きなものになるぞ。その覚悟はあるんじゃな」
「もちろんだよ」
ちゅうちょなく答えた昇に閃華はそれ以上の事を問わなかった。そこまでの覚悟を認めたからだろう。それに昇がそれだけの覚悟を持ってこの戦いに挑んでいるのも確かだ。全ては自分自身が描き出した未来の為に。
その頃、フレト達の陣でも方針が決定していた。
「答えは簡単だ。相手に連携させる隙を与えなければいい。全員で突っ込んで行き、一人の相手に集中しろ。数は同じだ、それで完全連携を防ぐ事が出来る」
そんなフレトの指示にそれぞれに返事をするフレトの精霊達。こちらもこちらで昇達の読みどおりの作戦を展開させようとしていたが、それはフレトにも分っている事だった。
要はそんなに難しい事ではない。個人の強さではフレト達が完全に強いのだから、フレトが自分達に優位な戦線にしようとしているのは昇でなくても分かる事だろう。なにしろそれだけ完全契約という強みを持っているのだから。
けれどもフレトの不安が消えた訳ではない。本当にこれで良いのかと迷いも生じていた。
それは昇達のストケシアシステムを簡単に読み取る事が出来たからだ。これだけ簡単に読むことが出来たシステムだ。まだ何かあってもおかしくは無い。もしかしたら、まだストケシアシステムには秘密があるのでは無いのかと思いも生まれてきた。
そんなフレトを見て咲耶ははっきりと思っている事を言葉にした。
「主様、主様の不安も分ります。ですが、ここは私達を信じてください。必ず勝ってみせます。主様のためにも、妹様のためにも、必ず」
「そうですよフレト様。今度はさっきのように無様な戦いはしません。どうか我らを信じてください」
咲耶に続いてレットもそんな言葉を掛けてきた。そんな二人の言葉を聞いてフレトは静かに目を閉じた。そして思い描く、自分が望む未来の姿を。セリスが元気になって自分の傍にいる姿を。
「……分った。俺はもう迷わない。ここは自分を信じて突き進むのみだ。お前たちも……付いてきてくれるか」
そう宣言するフレトに対して精霊達は頭を下げた。
「御意」
「もちろんです」
「私達はマスターを選び、マスターと戦える事を光栄に思っております」
「我ら一同、一丸となって主様の為に戦う事をここに誓います」
そんな精霊達の言葉を聞いて頷くフレト。そしてマントを翻すと昇達の陣営に目を向けた。
「では行くぞ」
『はっ』
「どうやら相手が動いてきたようじゃな」
閃華がそう言うと昇はフレト達の陣営に目を向けると、ゆっくりではあるがこちらに向かってきてる事は確かだ。
そんなフレト達からシエラ達に視線を戻した昇は真剣な眼差しで皆の顔を一通りに見回した。
「次こそは総力戦になる。僕もさっきのようにはストケシアシステムに集中できないから、かなり性能が落ちるけど……これからエレメンタルアップをやって迎え撃つ」
そんな昇の言葉に頷くシエラ達。どうやらこちらも戦闘を再開させる気が熟したのを察したようだ。
昇は精神を集中させると既に手の中にある赤い紐に目を向けると一気に力を流し込む。
「エレメンタルアップ!」
赤い紐から昇の力がシエラ達に流れ込んでいく。これで完全契約した精霊とも対等に戦えるはずだ。それにストケシアシステムまだ生きている。
これだけの準備をしていれば、もう後は戦うだけだ。
昇達もフレト達に向かって歩き出した。
両陣営がある程度まで距離が縮まると一気に飛び出したのがシエラとレットだ。二人とも一気に空中に舞い上がり、レットはかなり高度を上げている。どうやら一対一の戦いにするために高度を上げて邪魔が入らないようにしたいようだ。
そんなレットの思惑を読みながらもシエラはレットの誘いに乗るかのように高度を上げていった。
上空での戦いが始まろうかとしている頃には地上でも既に動きが出ていた。
『ブレイクアースシュート!』
ミリアとラクトリーが同時に同じ技を発動させた。ハルバードとクレセントアクスの先端が地面へと突き刺さり、そこから地割れが起きて破片をお互いの陣営に向かってぶつけ始めている。
まるで弾幕のように見えるが、一つ一つをコントロールしているわけでは無いので、破片の行き先などは二人とも予想が付かない。
それに先程のエレメンタルアップによりミリアの技は完全にラクトリーと拮抗しており、互いの陣営にそれぞれの被害を出すはずだったが、両陣営ともそれぐらいの攻撃は分散して避けきってしまった。
けれどもこれで良い。なにしろ昇もフレトもこの展開を望んでいたのだから。これで完全に個々に分かれて戦闘になってくる。前回の戦いと同様な展開が再現されているように見える。
それが二人の狙いなのだから。
上空ではシエラとレットが、地上では半蔵と閃華、琴未と咲耶、ミリアとラクトリー。そして昇とフレトがそれぞれ対峙しており、互いに援護できない距離に開いてしまった。
これでさっきのようにスケトシアシステムは使えない。でも、もう一つの使い方がまだ残ってる。今度はそれを駆使して戦わないと。そんな事を考えている昇にフレトは既に攻撃態勢に入っていた。
「冷たき鷹、その凍土を持って敵を滅せよ」
フレトのマスターロッドの先に氷が形成されるとそれは鷹の形となり、鈍い音を立てながら羽ばたくと昇に向かって突っ込んでくる。
そんなフレトの攻撃に対して昇は二丁拳銃たる紫黒を氷の鷹に向けると正確かつ早急に照準を合わせる。
「フレイムシュート」
紫黒から炎の弾丸が発射されるとそれは的確に氷の鷹を射抜いて見せた。けれどもフレトの攻撃はそれだけではなかった。氷の鷹が消えるのと同時に風が一塊となり昇に向かって来ていた。どうやら昇に休む暇を与える気は無いようだ。
それが昇がストケシアシステムの司令塔だと理解していたからこそ、昇を戦場に引っ張り出して他に気を向けさせないようにしている。
それは的確な判断だといえるだろう。けれども昇はそんなフレトの攻撃を避けて見せた。攻撃直後にフレトの攻撃を避けるなどとは至難の業だ。昇はそれを軽々とやって見せた。
どうやら一筋縄ではいかないようだな。昇の動きを見てフレトもそう感じ取っていた。けれどもフレトはまだ気付いていなかった。ストケシアシステムの真髄を。
「この前は完璧にやられたけど、今度はそうは行かないわよ」
咲耶を前にして琴未は雷閃刀を向けながらそう宣言した。そんな琴未に咲耶は軽く笑ってみせた。
「確かにそうですね。先程は大きな一撃を貰ってしまいました……ですが、今度は先程のように救援はありませんよ」
「そうね、だからこそ……今度は完璧に勝たせてもらうわ」
そんな琴未の言葉にさすがの咲耶も笑みが消えて真面目な顔になる。
前回の戦いであれだけやられて自信が喪失してもおかしくない状況なのに、琴未にはまるで何かがあるように咲耶は思ったからだ。
それは何かしらが不気味なように感じたが、それで腰が引ける咲耶ではなかった。それどころか逆に咲耶に火を付けてしまったかのように咲耶の目は今までに見たことが無いぐらい鋭い物に成っていた。
何かしらの罠があるのは分かっております……けど! 主様の為に、ここで負ける訳には行かないのですよ。咲耶はそう決意すると桜華小刀を琴未に向かって差し向けた。
さあ、ここからが勝負ね。琴未としてもやる気は充分だ。だからこそ咲耶が動く前に琴未から一気に駆け出して間合いを詰めようとした。
桜華小刀は遠距離用の刀だ。そんなのを相手に距離を取っていては勝負にならない。だからこそ、琴未は自ら駆け出した。
そんな琴未を迎え撃つべく咲耶も攻撃を仕掛ける。
「土突!」
咲耶は桜華小刀を一旦真下に向けると一気に振り上げた。その直後に琴未の前面から土砂が一気に舞い上がった。どうやらこれで足止めをするつもりだろう。
けれどもそうは成らなかった。
─昇琴流 雷華一輪刺突─
琴未は土砂が噴出している数歩手前で右足を一気に踏み出すと雷閃刀を一気に土砂の中に突き刺した。
一気に噴出している土砂である。そのまま雷閃刀が吹き飛ばされても不思議は無いのだが、すでに琴未の技は発動している。
噴出す土砂を払いのけて雷閃刀から一筋の雷光が伸びて行き、それは幾つもの枝分かれを一気に繰り返して雷の花となり咲耶へと襲い掛かった。
これは咲耶に対抗するために琴未が考えた遠距離用の技だ。しかも効果範囲がかなり広いために避けるのはかなり難しい。
完全契約をした咲耶でも完全に避けるだけで精一杯だった。だからこそ、すでに傍に迫っている琴未に気付くのに一瞬の遅れが出てしまった。
「はぁっ!」
気合と共に雷閃刀を振るう琴未。咲耶はそんな琴未の初撃を何とか避けて見せた。けれども琴未は攻撃の手を緩める事無く雷閃刀を振るう。咲耶もそれを全て避けている。
咲耶としては桜華小刀で受け止めても良いのだが、その瞬間に何が起こるか分らない。なにしろ琴未がエレメンタルアップで格が上がっている事には既に気付いているのだから、今の琴未が前回の琴未だと思ったら大間違いだと咲耶は自分に言い聞かせていた。
そうして気を引き締めておかないと琴未の思うがままになってしまうような気がしていた咲耶だった。
けれども気を引き締めているのは琴未も同じだった。
これだけ攻撃しても当たるどころか、かすりもしないなんて、さすがは完全契約ね。咲耶の動きに少しでも気を抜けば反撃が来る事を琴未は察していた。
そんな拮抗したような状態をしばらく続けていた琴未と咲耶だが、さすがに琴未もこのまま攻め続ければ、いつかは隙が出来ると余裕があるうちに退かなければいけなかった。このまま攻撃し続けるとどうしても動きが大雑把になる事は琴未が良く知っている。
だからこそ反撃が来ると分っていても琴未は一旦攻撃を中断すると間合いを取った。その瞬間に咲耶が攻めに出た。
「樹縛」
地面に突き刺した桜華小刀。そこから放たれた樹の属性は木の根を一気に伸ばすとそのまま地面に突き出て琴未の雷閃刀に絡み付こうとする。
そんな咲耶の攻撃に琴未は後ろに跳んで更に距離を開けるが、木の根は更に伸びてくる。
─昇琴流 天雷斬─
そんな木の根に対して琴未は雷閃刀を八双に構えると天雷斬で一気に木の根を消滅させた。
けれどもこの機を咲耶が逃すはずがなかった。琴未が距離を取ったのを良い事に一気に責めに出てくる。
「桜炎」
炎の桜が琴未に向かって怒涛の勢いで攻めて来る。けれども琴未もこういう反撃を予想しての撤退だ。だからこそ咲耶の攻撃をかわす事が出来た。
だが今度は咲耶の方が一気に攻め続けに出てきた。
「風刃」
桜華小刀を振るう度にその軌跡から風の刃が形成されて琴未へと襲い掛かってきた。空気を切り裂きながら見えない刃が琴未に向かって迫ってくる。
そんな咲耶の攻撃に対して琴未も応戦する。
「雷撃閃」
琴未は雷閃刀を突き出すとそこから幾つかの雷が咲耶に向かって放たれる。琴未としてはこれで咲耶の攻撃を防ぎたかったのだが、雷は幾つかの風刃を消滅させたものの、全てを消し去る事が出来ずに、琴未に一陣の風が吹くと幾つかの切り傷を琴未に残した。
さすがにあれだけの数を一瞬の間に全て消し去るのは不可能だったようだ。そんな琴未に追い討ちを掛ける咲耶は、攻撃を受けて一瞬だけ怯んだ琴未に向かって大技を放った。
「雷龍」
桜華小刀を真上に上げるとそこに雷が落ちる。けれども咲耶にダメージは無い、それどころか桜華小刀に雷が溜まっているようだ。そして桜華小刀を振るうと溜まっていた雷は龍の姿になって咲耶の上にその姿を現した。
随分と派手な事をするわね。それにこっちの属性に合わせてきたって事は、私の昇琴流を封じる事にもなってるわね。そう考える琴未は的確に咲耶の思惑を読み取っていた。
確かに昇琴流は剣術に雷の属性を付加させて威力を上げた物だ。咲耶はそんな昇琴流の特性を読み取って雷の属性だけでも相殺するために、わざわざ雷の属性で龍を作り出したのだろう。
けれども咲耶の属性は巫。威力だけはどうやっても雷の属性に及ばないのだが、そこは完全契約でカバーしている。つまりは通常の琴未と一緒で雷の属性が発する威力は同じという事だ。
でも、私の技は昇琴流だけじゃないのよ!
そんな覚悟を心の中で叫んだ琴未は自ら咲耶が作り出した雷の龍に向かって走り出した。それを見た咲耶も桜華小刀を振るい。雷龍を琴未に向かって放ち、雷龍は琴未にその牙を尽きたてんと一気に飛び出していった。
そのまま一気に琴未と雷龍の距離が一気に縮まると、琴未は急停止を掛けて雷閃刀の切っ先を地面に付ける。
─新螺幻刀流 奥義 地脈抜刀─
雷龍がその牙を琴未に付きたてようとしたその時、地面から抜き取られた雷閃刀は今までに溜めてた力と共に一気に振り上げられた。
その衝撃と破壊力は凄まじい物で振り抜かれた雷閃刀によって雷龍は真っ二つに切り裂かれてしまった。
新螺幻刀流はまったく属性を使っていない剣術だ。だからこそ属性を無視して雷龍を斬り裂いた。それは剣だけで稲妻を切るようなものだが、エレメンタルアップが掛かっているからこそ出来る琴未の奥義だ。
まさか、こんなにもあっさりと雷龍が消し去られると思っていなかった咲耶は一瞬だけ呆然としてしまった。あれだけの力を込めた雷龍だけにその衝撃は大きかったのだろう。だからこそ、その間に一気に間合いを詰めてきた琴未に遅れを取る事になってしまった。
咲耶に向かって雷閃刀を振るう琴未。咲耶もその攻撃を避けるが、先程の一瞬が未だに尾を引いており、その動きは少しだけ遅かった。だからこのまま避け続けるのは難しかった。
だから琴未の雷閃刀を桜華小刀で受け止めても何も不思議は無いのだが、それが大きな過ちだった。
琴未は咲耶が避けたのを良い事に身体を一回転させると、先程の攻撃よりも高スピードで雷閃刀を振るう。そうなると咲耶は桜華小刀で受け止めるしかない。
─新螺幻刀流 嵐崩し─
だがそれを狙っていた琴未は雷閃刀を桜華小刀の下から当てると上に弾き飛ばしてしまった。さすがに咲耶の手から桜華小刀が離れる事は無いが、体勢が崩されたのは確実であり、咲耶の前面はがら空きだ。
もちろんそれを狙っていたのだから琴未も更なる追撃に移る。振り上がっている雷閃刀に雷を一気に溜めると今度は振り下ろした。
─昇琴流 天雷斬─
雷の属性をまとった雷閃刀はそのまま咲耶に向かって振り下ろされるが、咲耶は身体が後ろのめりなっている事を利用して、そのまま後ろに飛び退く。
けれども今度の攻撃は雷の属性をまとっている。体勢を崩したまま退いた咲耶が完全に避けきるのは不可能だ。
そこに天雷斬が振り下ろされて、地面への衝撃と破壊を発生させる。
そんな琴未の攻撃に咲耶は完全に吹き飛ばされた。いや、半分は自分で衝撃に身を任せたのだ。威力がでかいだけに、その衝撃波も大きかった。それだけに咲耶の身体は琴未から大きく距離を取って弾き飛ばされた。
完全に避けきれない悟った咲耶はダメージを覚悟して、琴未から距離を取るためにした行動だ。つまりは多大なダメージを負ってでも、これ以上の追撃を避けたかった。そうしないと次こそは本当にトドメを刺されてしまう。それが分っているだけに咲耶は自ら吹き飛ばされたのだ。
琴未としてもこれを機に追撃を掛ける予定だったのだが、咲耶が思っていた以上に吹き飛ばされたために、追撃を諦めざる得なかった。そうなると再び間合いを詰めるために駆け出す。
このまま遠距離で居れば咲耶の思うがままになってしまう。それが分っているだけに琴未は一気に駆け出したのだが、そんな琴未は豪快に転んでしまった。
なんで、こんな感じな時に。どうやら自分でも何で転んだか分らないようだ。とりあえず足元を見ると木の根が琴未の足に絡み付いている。
そう、咲耶は吹き飛ばされて地面に叩きつけられるとすぐに桜華小刀を地面に突き刺して、樹の属性で琴未の追撃を防ぐために『樹縛』を発動させていたのだ。
だから木の根は琴未の足だけでなくそのまま上に登ってこようとしていた。それを察した琴未は逸早く立ち上がるが、足は完全に縛られてしまっていた。
……こうなったらしかたないか。
琴未は覚悟を決めると雷閃刀を地面へと突き刺した。
─昇琴流 夜天昇雷覇─
琴未は雷閃刀を一気に振り上げると、雷の属性だけを自分に向けて発動させる。激痛が走る中で琴未は耐える。
どうやら夜天昇雷覇の威力で樹縛を切り裂こうとしているようだ。確かに刃が自らの体に触れることは無いが、雷だけは琴未の身体を駆け抜ける。
確かにこれなら樹縛から抜け出せるが、琴未自信も只では済まない。なにしろ自らの技を自分で喰らっているのだから、多少加減しているとは言ってもダメージが無いわけじゃない。
けれどもこれで完全に樹縛から解き放つ事に成功した。
その頃には咲耶も立ち上がっており、桜華小刀を琴未に向けていた。どうやらこれ完全に仕切り直すしかないようだ。
「そんな身体で、なかなかやるじゃない」
まだ呼吸が整っていないまま琴未はそんな言葉を咲耶に掛けた。正直、琴未も咲耶も少しだけ休憩したい気分だったようだ。だからこそ琴未の語り掛けに咲耶も答える。
「それはこちらのセリフです。前に戦った時とはまるで別人のようです」
「だから言ったでしょ、今度はそうは行かないって。今日こそは完全に勝たせてもらうわよ。前回の負けが消え去るぐらいにね」
そんな言葉を口にする琴未は笑みを浮かべていた。それは咲耶も同様だ。
互いに負けられないのは確かだ。だがそれ以上にこの戦いは二人とって特別な物なのかもしれない。
けれども、そんな事に関係なく勝敗だけは付けなければいけなかった。このままいつまでも戦っていたいと二人とも思っていたかもしれないが、互いに負けられない理由があるからこそ、ここで全力を尽くすしかない。
「行くわよっ!」
「望むところです!」
再び戦いの幕を開ける琴未と咲耶。そこからかなり離れた距離では、もう一つの因縁がある戦いが繰り広げられているのだった。
そんな訳でいよいよ秘密が明かされたストケシアシステムですが。まだ何かがありそうですね~。それに両者の戦力は拮抗してますからね~。これから先の戦いは何が鍵になってくるのか、それもお楽しみの一つだと思いますよ……たぶんね。
さてさて、今回は大活躍した琴未ですけど、如何でしたでしょうか。なんか琴未らしくないとお思いでしょうけど、それでもあれが本来の琴未であり、エレメンタルアップの力なんですよ。
いや~、なんか今まで普通にエレメンタルアップを使っていたから、その凄さを改めて実感してもらおうと思って、このような展開になりました。やっぱり凄いんですね、エレメンタルアップって。
……はいはい、分ってますよ。自画自賛はやめておけって言うんでしょ。あなたがそんな事を言う人とは思ってなかったわ。……終ね、もう……私達。でも、せめて……エレメが完結するまで見捨てないで!!!
……なに? この一人芝居は?
いやね、なんかつい調子に乗ってやってしまった。
ではでは、戯言が終わったのでこの辺で。ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、感想をくれて本当にありがたいのですが、評価もくださると更に喜んでしまう葵夢幻でした。……いやね、ここ最近は評価がまったくなくって、ちょっとねだちゃった、てへっ……ごめんなさい。