第九十二話 ストケシアシステム
午後八時の中央公園。さすがに広い公園であってもこの時間帯に人が通る事はまったく無かった。それもこれも公園の周りには人が集るような施設が無く、休日には賑わうものだが、さすがにこの時間帯には誰も居ないのだ。昇達とフレト達以外は。
十人の人影が二つのグループに分かれて、それぞれから一人ずつ前に出た。シエラとラクトリーだ。
二人は精神を集中させると一気に解き放つ。
『精界展開』
二人から光の柱が天に向かって伸びると、ある一定の高度の達する。そこから中央公園を包み込むように光の幕は展開される。
これで精界は出来上がり、世界は白くなる。どうやらシエラの精界が内側に展開されたようだ。
それからそれぞれの精霊武具とアルマセットを行い。フレトから語りかけてきた。
「さあ、これで準備は整ったようだな」
勝つ自信があるのかフレトは昇にそう告げてくる。確かにこれで戦闘準備は整った。後は戦闘の火蓋を切るだけだ。
「そうだね、今日こそは負ける訳には行かない。絶対に勝たせてもらう」
昇もフレトに負ける事無く言い返すが、それがフレトに火を付けてしまったのだろう。フレトは奥歯を強く噛み締めると鋭い視線を投げ掛けてきた。
「それはこっちのセリフだ。俺達は絶対に勝たないといけないんだ。セリスのためにもな!」
それだけ宣言するとフレト達は大きく後ろに跳んで昇達から距離を取る。それを見た昇達も後ろに跳んで二組の間には大分距離が開いた。
「行くよ」
昇は静かに宣言すると精神を集中させて意識だけを黒い空間へと沈める。それを見ていたフレト達は先手を打つためにすでに動き始めていた。
「行け! 半蔵にレット」
「はっ」
「御意」
真っ先に動いたのはレットだ。一気に飛び上がると上空から昇達に接近する。
それは昇達も見ていたのだが、昇の陣営は誰も動こうとはしなかった。半蔵とレットが動き出したのだから、真っ先にシエラが動きそうなものだが誰も動かない。
その頃、昇は黒い空間に意識を沈めて四本の赤い紐を手にしていた。その紐を持ったまま意識を浮上させるとシエラ達に向かって告げる。
「ストケシアシステム起動。行くよ!」
それぞれに返事をするシエラ達。そんな昇達の陣営に真横から手裏剣が多数も投げ掛けられていた。レットに目を向けておきながら半蔵から攻撃を仕掛けたのだろう。
昇はそれを見て素早くストケシアシステムを作動させる。
「アースウォール」
手裏剣に対してミリアが壁を作って防ぐ。幾つもの手裏剣が土の壁に阻まれて止まるが、その隙にレットが空中から一気に降下してくる。どうやら半蔵の攻撃こそ囮だったのだろう。
そんなレットに対して閃華が一気に跳び上がると、龍水方天戟とテルノアルテトライデントがぶつかり合う。そして琴未が上空に向かって雷閃刀を突き上げた。
「落雷陣」
閃華の後ろを一筋の雷光が過ぎ去ると上空に魔法陣が展開される。それと同時に閃華はレットのトライデントを弾く。その反動を利用して一気に降下していく。当然、レットとしては空中で動きの取れない閃華に追撃を掛けるが、その前に琴未が動いた。
「行っけ~」
落雷陣から一気に幾つもの雷を落とす琴未。それはレットに向かって落とされており、閃華への追撃を諦めるしかなかった。
その間に昇の後ろから空間の裂け目が出来る。そして半蔵がそこから一気に飛び出してくるが、半蔵の空斬小太刀は昇に届く事無く、ミリアのアースシールドハルバードによって阻まれる事になった。
このまま力比べになると思われそうだが、なにしろ小太刀と重量のあるハルバードだから力比べの勝敗は明らかにミリアの方である。それが分っているだけに半蔵はすぐさまミリアから遠のくが、それを予想していたかのようにシエラが一気に半蔵に向かって飛び込んできた。
シエラのスピードだ。さすがの半蔵もこればかりは、なんとか受け止めたが弾き飛ばされてしまった。シエラはそのまま半蔵の追撃に移ろうとするが上空からレットが迫ってきていたので、そちらの対応に周った。
さすがの半蔵もあそこまで連続で攻められてはやられていただろう。けれども半蔵も百戦錬磨の達人であるすぐに起き上がると、再び攻撃に移る。対象はミリアだ。先程やられただけに一番近くにいる標的に狙いを定めたのだが、半蔵の横を突く形で琴未が雷閃刀を振るってきた。
どうやら半蔵が吹き飛ばされている間に琴未が追撃を掛けていたようだ。
けれども半蔵の強さは閃華から良く聞かされている。普通に相手をしていてはまともに戦えない事を琴未は分っていた。だからこそ、今ここで特訓の成果を出そうとしていた。
「行くわよ」
これが私の考えた新しい剣術。その名を昇琴流。私が昇のために作り上げた剣術を今こそ使うときよね。琴未はそう決意すると雷閃刀を下段に構えて軽く跳び上がると右足を思いっきり踏み出す。
そして雷閃刀を一気に突き出した。
─昇琴流 雷華一輪刺突─
突き出された雷閃刀から一筋の雷撃が出ると、それが幾つにも枝分かれして、まるで雷の花でも咲いたかのように枝分かれした雷撃が広範囲に展開される。さすがにこれを避けきるのは今の半蔵には無理だ。
そんな半蔵の足元から土砂が一気に舞い上がる。
「アースドーム」
既に迫っていたラクトリーが半蔵を守るためにアースドームを発動させた。半蔵を包み込むようにして守る土砂に琴未の攻撃は完全に防がれてしまった。
そんな攻防が行われている隙にミリアは反撃に移るために強大な力を発動させていた。
「ブレイクアースシュート」
アースシールドハルバードを地面に突き刺したミリアの矛先から一筋の地割れが起こると、それはラクトリーと共に迫っていた咲耶に向かって伸びて行った。
そして咲耶の元に達すると一気に土砂が吹き上がり、咲耶はその土砂の破片をまともに喰らう事になってしまった。
そんな咲耶を援護するために上空から一気に舞い降りてくるレット。そんなレットの前に立ち塞がったのはシエラだった。
「フルフェーザーショット」
ウイングクレイモアの翼を思いっきり広げて、そこから飛び出してくる羽の弾丸にレットの足は完全に止められてしまった。
レットが動けないとなると今動けるのはラクトリーだけだと思われたが、もう一人だけいる事を昇は忘れてはいなかった。
ミリアの攻撃が終わるとそこには咲耶の姿は無かった。どうやら途中で攻撃を受けるの覚悟しながらも半蔵が咲耶の救援に入ったようだ。
その半蔵は空の属性でいつの間にかアースドームの中から出ていたようだ。その事が分っていたからこそ、昇はあえてアースドームを破壊する事はしなかった。
ここまでは昇達が優位に戦闘を進めていた。
やっぱりこのシステムは凄いな。後で与凪さんにお礼を言っておかないと。
昇がそんな事を思えたのはフレト達が一旦引いたからだ。あのまま続けていても不利になるばかりだと思ったのだろう。一旦体勢を立て直すために引いたようだ。
もちろん昇達もフレト達にそんな時間を与えるつもりは無い。だからこそ一気に攻めに転じる。
真っ先に突っ込んでいくシエラと閃華。その後にミリアが続いて琴未が最後方だ。そんな陣形で一気に突っ込んで行く昇達の陣営にラクトリーが立ち塞がる。
「アースブレイカー!」
どうやら昇達の反撃を予想していたようで、すでに力を溜め込んでいたラクトリーが大技を発動させる。
アースブレイククレセントアクスから伸びた幾つもの赤い光が地面を崩壊させる。その威力はミリアとは比較にはならないだろう。
そんなラクトリーの攻撃にシエラは閃華の手を取ると上空に大きく舞い上がり、ミリアはアースドームを波動させて琴未と一緒に立てこもる。
アースブレイカーはかなり上昇すれば攻撃が届く事は無い。けれども地上にいるミリアと琴未はどこまで耐えられるかわかったものでは無い。その事はミリアもよく分かっていた。
「さすがお師匠様、破壊系の発動が早いな~」
「って、関心してる場合じゃないでしょ! ちゃんと守れるんでしょうね?」
さすがに心配なのだろう。なにしろ相手は完全契約をしたフレト達だ。今まで見てきたミリアのアースブレイカーとは格が違う。
そんな会話をしているうちに地面の崩壊が始まる。幾つもの箇所から地面が崩壊して行き、土砂が舞い上がる。
そんな中でミリアはしっかりと琴未に言って見せた。
「大丈夫だよ。私は皆を守る盾なんだから」
そして見せた笑顔に琴未はミリアを信頼する事に決めた。
ラクトリーが発動させたアースブレイカーの破壊力はかなりのもので、広範囲に土砂を巻き上げ、地割れを起こし、完全に地面を崩壊させたのだが、空中に逃げたシエラと閃華は無傷だった。
さすがにそこまでは攻撃は届かなかったのだろう。そんなシエラ達はすぐさま急降下を始めた。それはもちろん、相手の反撃を読んでいたからだ。予想通りにレットがすぐさま現れてシエラ達がいた場所に攻撃を加えるが、ただ空を切るだけだった。
そんなレットに対して完全に無視を決め込んだシエラは一気に敵陣へと切り込んで行った。閃華の手を離して、閃華から突撃させるのだが、当然フレト達からも反撃がある。
「桜炎」
上空から落ちてくる閃華に炎の桜をぶつけてくる咲耶。そんな咲耶の攻撃に閃華は真正面から立ち向かう。
「龍水閃」
龍水方天戟の水龍が大きな口をあけると高圧縮された大量の水を一気に噴出した。そしてぶつかり合う桜炎と龍水閃。威力としては完全契約をしている咲耶の方が上だ。けれども閃華としては地面に着地するだけの時間を稼げればよかった。
さすがの咲耶といえども一度放ったものを曲げるという芸当は出来ないだろう。だから一時的にでも桜炎を止める事が出来れば、閃華が着地する時間は充分に稼ぐ事が出来た。
けれども油断は出来ない。着地した直後は動けないのだから、そこを狙ったかのように半蔵が空間を切り裂いて姿を現すが、半蔵の後ろにはシエラの姿が既にあった。
まさか自分が後ろを取られるとは思っていなかった半蔵は閃華への攻撃を諦めて、シエラの攻撃に備える。シエラの武器も重量型。そのうえハイスピードで振られては、さすがの半蔵も踏ん張る事が出来ずに弾き飛ばされてしまった。
そんな攻撃直後のシエラに上空からレットが一気に舞い降りてくる。シエラの攻撃直後を狙った攻撃だ。さすがのシエラも対応せずには要られないだろうとレットは思っていたのだが、それはまったくの間違いだった。
シエラはレットを無視するが如く、その場を退く。当然後を追うレットの目の前に現れたのはラクトリーの攻撃を耐え切った琴未の姿だった。
─昇琴流 夜天昇雷覇─
雷閃刀の切っ先を地面に付けて雷撃を溜めていた琴未は一気に雷閃刀を振り上げると、強大な雷が夜空の精界に向かって放たれた。
レットはシエラを追っていた直後の攻撃だ。これを避けるのは至難の業だが、レットは完全契約でシエラと同等のスピードを得ている。だから奇襲とも言える琴未の攻撃を避けたのだが、完璧に避けきる事が出来ずに左腕に攻撃を喰らってしまった。
レットの装甲もシエラと同じで軽装だが、それなりの防御力と耐久度を持っている。けれども琴未の攻撃はそんなレットの装甲をも破壊するほどの威力を持っていた。
まともに喰らっていたら完全にやられていただろう。
傷を負って一旦退がるしかなくなったレットに対して、代わりに咲耶が出てきた。どうやら先程の攻撃ではそんなにダメージは受けていなかったようだ。
だからレットの援護に出てきたのだろう。そんな咲耶は琴未に桜華小刀を向ける。
「樹刺」
地面から飛び出してきた気の根っこのような物は琴未を串刺しにすべく伸びだす。そんな琴未の前に土の壁が現れると咲耶の攻撃を完全に防いだのだが、その直後に土の壁は完全に破壊された。
どうやら土の壁はミリアのアースウォールのようで、それを破壊したのはラクトリーのようだ。
確かにラクトリーの破壊力ならミリアのアースウォールを破壊するのは簡単だ。問題はその次に出る行動だ。
ラクトリーはそのままミリアを目指して駆け出す。どうやらこのままミリアとの一騎打ちをするつもりなのだろう。けど、それを許さないが如く、閃華がラクトリーの前に立ちはだかると、そのまま閃華とラクトリーは打ち合いを始めた。
ラクトリーの破壊力なら閃華の龍水方天戟ですらも破壊できると思われるのだが、精霊武具はそこまでヤワではない。それに閃華を弾き飛ばす事も可能に思われるが、閃華は攻撃はせずにラクトリーの攻撃を全て受け流している。
確かにまともに正面から立ち向かえば閃華は一瞬にして弾き飛ばされてしまうだろう。けれども、どれだけ破壊力を持っていても、その力を逸らしてしまえば意味は無い。だからこそラクトリーの相手に閃華を選んだのだろう。
その間にミリアと琴未は咲耶へと迫るが、そんなミリアの前に半蔵が突然現れた。突然の事なのだがミリアは半蔵の攻撃を簡単に受け止めると、そのまま押さえ込みに入った。どうやらこのまま半蔵の動きを封じるつもりらしい。
その間に琴未は一気に咲耶に向かって突き進む。そんな琴未に咲耶は桜華小刀を向けようとするが、咲耶の後ろにはすでにシエラが居た。
「フェザーバインド」
シエラがウイングクレイモアを振るうと三枚の羽が飛び出し、大きくなるとそのまま咲耶を縛り上げる。これで咲耶の動きも完全に封じてしまった。
ラクトリーの相手は閃華がしており、半蔵はミリアによって押さえ込まれている。そしてレットは負傷中で未だに動ける状態ではない。そしてつい先程、咲耶の動きすらも封じられてしまった。これ程の絶好な好機は無いだろう。
「この間の借りを返させてもらうわよ!」
琴未はそう叫ぶと走ったまま雷閃刀を八双に構えると雷を溜める。
「あんたの為に取っておいた技よ。光栄に思いなさいよね」
そして咲耶が間合いに入ると一気に雷閃刀を振り下ろす。
─昇琴流 天雷斬─
八双から振り下ろされた雷閃刀は強大な雷と共に咲耶を一気に斬り下げると共に強大な雷を天から打ち下ろす。
「───ッ!」
声に出せない程の悲鳴を上げる咲耶。これで前回の借りは完全に返したと琴未に少しだけ油断が生まれる。それは昇も一緒だった。だからこそ、次の行動が少しだけ遅れた。
突然吹き飛ばされるシエラと琴未。その向こうにはフレトの姿があった。完全に押されている状況をただ見ている訳には行かなくなったのだろう。
今までは昇が動かなかったからフレトも動かなかっただけであり、咲耶がやられる寸前となれば動かずにはいられない。そのまま咲耶を見殺しには出来ないのだから。
完全契約での負けは即、死亡に繋がっている。つまり契約解除ではなく消滅である。そんな契約を交わしている相手をフレトでなくても見殺しには出来ないだろう。
だからこそフレトが動かざる得ない状況になった。こうなると昇も動くとフレト達は思ったのだが、昇はまったく動こうとはしなかった。
最初の地点、つまり現在の戦闘地点を全て見渡せる場所からまったく動く事無く。それで何かをしているようにも見えなかった。そんな昇にフレトは奥歯を強く噛み締める。精霊達が危なくなれば嫌でも出てくるだろうと、昇を戦闘に引き出そうと強気になって攻め始める。
だがその前にやらなければいけないことがある。まずは動けない咲耶を後ろに下がらせると一旦後退を命じるフレト。このままそれぞれ戦っていては押される一方だ。だからここで仕切りなおさないといけないと考えたのだろう。
昇達も深追いはせずに少しだけ下がった。それでも昇の元までは引くことは無かった。先程の戦闘地点から少しだけ退いただけだ。
そんな昇達を見てラクトリーはフレトに語りかける。
「どうやら何かをやっているみたいですね。それが何かは分かりませんが、相手の契約者が参戦してこないのが不気味ですし、この強さはエレメンタルアップで強化されたものでは無いみたいです」
「そうか、どちらにしてもこちらが不利な事は確かだな。ここからは俺の指示で動け」
それぞれに返事を返すフレト陣営。これで完全にフレトも前線に参加する事になった。
フレトはまずラクトリーとレットに前線に突っ込ませた。確かに戦闘能力的に見ても、この二人が最前衛にするのが一番効果を発揮できるだろう。
そんなフレト達に対して昇達は琴未と閃華、それにミリアまでもが一気に駆け出して行った。
こうして再び戦いの幕が上がった。
まずはラクトリーがアースブレイククレセントアクスを大きく振り上げると一気に振り下ろした。
「アースウェーブ」
クレセントアクスが振り下ろされた地点から、まるで水面に水滴が落ちたかのように地面が波打ち始める。これで琴未達は動くどころか立っている事も困難だ。
そんなラクトリーの攻撃を少しでも防ぐためにミリアも対抗する。
「アースウォール」
土砂が一気に舞い上がると琴未達の前に土の壁が出来上がり、完全にラクトリーの攻撃を遮断する事に成功した。
けれども空中にはすでにレットが舞い上がって上空から狙っているが、そんな事は昇達も充分に承知している。だからこそシエラがレットの迎撃に向かっていた。
打ち合うクレイモアとトライデント。二人の空中戦には誰も手出しが出来ないだろう。これでシエラを封じたとフレトは考えているようだ。
だからこそここで半蔵を動かし一気に攻める。
半蔵は空間に切れ目を作り出すと移動を開始する。もちろん、先程ミリアが作り出した壁の向こうへとだ。どうやら琴未達の後ろを取ろうというのだろう。
そして半蔵が姿を現すと驚愕する。なにしろ既にそこにはミリア達は居なかったのだから。更に間を置くことなく後ろから感じる殺気。半蔵が後ろを振り向くとそこには閃華の龍水方天戟が迫っていた。
半蔵はそのまま後ろに下がって閃華の一撃をかわす。だが下がった先には琴未が回り込もうとしている。どうやら完全に前後を取られてしまっているようだ。
そんな半蔵の援護に入るためにラクトリーはわざわざミリアが作り出したアースウォールを破壊してその破片を琴未達にぶつける。さすがにこれには琴未の足が止まり、半蔵はその間に再び閃華へと向かって行くことが出来た。
これで半蔵の援護を出来たラクトリーなのだが、突然後ろから殺気を感じると振り返るとすぐに弾き飛ばされてしまった。そこにはミリアの姿があった。どうやらラクトリーが攻撃した直後を狙っての攻撃だ。これはさすがのラクトリーも避けられなかった。
そんなラクトリーにミリアは追撃を掛けるが、そこにフレトと咲耶が連携で救援に入ってきた。
「我が炎よ、剣となり敵を突き刺せ」
「桜炎」
炎の剣と桜の花弁が無数にミリアに迫る。さすがにこの状態ではラクトリーの追撃を諦めるしかなった。
「アースウォール」
ミリアは土砂を巻き上げて再びアースウォールでフレト達の攻撃を遮断した。
その頃、半蔵は閃華と打ち合っていたのだが、なかなか押す事も退く事も出来なかった。こちらが退こうとすれば閃華が押し出し、半蔵が押し出すと閃華が退く。どう見ても時間稼ぎだ。それが分っているからこそ半蔵は焦る事無く、その時を待った。
それでその時になったのだろう。半蔵が退くのと同時に閃華が退いた。これで両者の間にかなりの距離が出来たわけだが、それで終わりという訳ではない。
「雷撃閃」
半蔵の着地地点を狙ったかのように幾つもの雷が半蔵に向かって伸びていく。だが半蔵の着地地点前にはすでに空間が切り裂かれており、半蔵はその中に姿を消して雷撃閃はどこにも当たる事無く通り過ぎてしまった。
さすがは半蔵じゃな。そんな感想を思う閃華だが、その間にも戦闘は続いている。
「炎の大蛇よ、その牙を持って敵を焼き尽くせ」
フレトが琴未に向かって攻撃を繰り出してきた。フレトのマスターロッドから放出された炎は巨大な蛇の形となり、琴未に向かって行く。
琴未も攻撃した直後だ。すぐにこんな大掛かりな技を避ける事は出来ない。
「龍神激」
だが閃華の龍水方天戟から水龍が離れると炎の大蛇に向かって行く。そしてぶつかり合い巨大な爆発を引き起こす。なにしろ水と炎だ。そんな二つが強大な力で一気にぶつかり合えば水蒸気爆発を引き起こすのは当然だ。
そんな爆発に巻き込まれる琴未。動けないところに爆発だ。さすがにこれはまともに巻き込まれてしまった。
「樹縛」
そんな琴未に追撃を掛けるべく咲耶が動く。地面から幾つもの木の根が飛び出してくると琴未を絡めとろうとする。
「アースドーム」
だが寸前で救援に入ったミリアがこれを完全に阻止してしまった。二人を守るように吹き上げられて形成された土の壁は二人を包み込み。木の根は土の壁に阻まれてしまった。
「なら、樹刺」
それならばと木の根をトゲのように鋭くして一気にアースドームを突き破って中に居る二人を貫こうとしたのだろう。
「ブレイク!」
けれどもその前にミリアは自らアースドームを破壊すると辺りの木の根に向かって、アースドームの破片をぶつける。かなりの強度を持つ土の塊だ。そんな物が勢い良くぶつかればさすがに咲耶の攻撃は完全に潰されてしまった。
これでフレトと咲耶の攻撃を完全に防ぎきったミリアと琴未だ。少しだけ油断して隙が出来る。そんな隙を半蔵が見逃すはずが無かった。
二人の後ろから現れた半蔵はミリアに向かって空斬小太刀を振るうが、その攻撃は閃華によって阻まれてしまった。
「相変わらずじゃのう。じゃからお主の行動は読みやすいんじゃ」
半蔵を弾き飛ばして距離を保つ閃華。これでお互いに距離を取ったので戦闘は一時的に膠着状態へとなった。
だが空中では未だにシエラとレットの空中戦が行われていた。お互いにハイスピードでの戦いは徐々に高度を下げていた。どうやらシエラが少しずつ高度を下げながら戦っているようだ。
けれどもレットはその事に気付いてはいなかった。なにしろ完全契約とはいえ翼の属性を相手に戦っているのだから、シエラのスピードに追いつくのが精一杯だ。これで完全契約でなければ完全にシエラにほんろうされていただろう。それが分っているだけにレットには余裕が無かった。
シエラとしても上手く高度を落とさないといけないので、二人の戦いは互いに打ち合いつつ移動するヒットアンドランになっている。
そんな状態でシエラは一気に高度を落として降下していく。さすがに急降下したシエラに何かしらの罠を感じるレットだが、地上では戦線が膠着状態になっているので戻ろうとしているのだと考えたようだ。
それならば自分から戦闘を再会させるべく、シエラをそのまま追うレットに向かって琴未に雷閃刀が伸びていた。
そこから放たれる一筋の雷光。これでレットの足止めでもしようとしたのだろうが、レットもスピードに自信がある。その程度の雷などは軽く避けてしまった。
そして、そのままシエラを追おうとしたのだが、シエラは九十度も角度を変えると一気に後退を始めた。
「落雷陣!」
その時に下から聞こえる琴未の声。その声にレットは下を見下げるが、見なくてはいけないのは上だった。
先程の雷光は落雷陣を作るための物で、レットを攻撃したわけではなかったのだ。攻撃はこれから行われる。
落雷陣から幾つもの雷がレットに向かって落ちる。怒涛と共に迫ってくる雷にレットが気付いた時にはもう遅かった。
幾つもの雷がレットを通り越して地面へと走る。
「ガッ!」
さすがに悲鳴は上げなかったのはレットならではだろう。けれども完全に攻撃を受けてしまったのは確かで激痛が体中を走る。
そんな琴未の攻撃が終わるとシエラが追撃に入るべく、再びレットに向かって飛ぶが。さすがに高度を落としすぎたのだろう。半蔵が突然現れるとレットを引きずって、そのまま空間の裂け目に消えてしまった。
「マスター」
この機を逃すまいとラクトリーはフレトに一時撤退を進言した。ラクトリーには何が起こっているのか分っているのだろう。
だから半蔵がレットを連れて戻るとフレト達は大きく後ろに跳び、再び大きく距離を取った。さすがにこの距離から一気に迫る事は昇達にも無理だ。
そうなるとフレト達から戦闘を再開させるか、こちらの陣形を立て直して再び攻め込むかのどちらかである。
一時休戦と言ったところか双方とも一度、大きく距離取り、シエラ達も昇の元へ戻って来た。
「さすがに凄いわね」
そんな事を真っ先に口にする琴未。そんな琴未に対して閃華が問を投げ掛けてきた。
「どっちが凄いんじゃ」
「どっちもよ。私達のストケシアシステム。それにあいつらは対応できなくても、あそこまで足掻いてきてる」
「まあ、どちらかと言えば完全契約にこれだけ対抗できるストケシアシステムが凄いんじゃがな」
そんな事を言って軽く笑う閃華。そんな閃華に昇も少しだけ安心する事が出来た。
確かにストケシアシステムは与凪のお墨付きが付いてるとは言っても、本当に完全契約に対抗できるか不安だったのだろう。
けれども現状はこうやって優位に戦闘を維持できている。これからの本番を考えれば戦闘は激化し、ストケシアシステムもどんどん使っていかないといけないだろう。そのうえ、まだ昇達にはエレメンタルアップという切り札がある。ここまで来たら次は使う事になるだろうと昇は考えていた。
なんにしても昇への負担は大きくなるばかりだろう。
そんな昇を気遣うかのようにシエラは昇の手を取った。
「昇は大丈夫?」
「うん、今のところはね」
正直に答える昇。確かに今回はストケシアシステムに集中してたから負担は少なかったが、これから戦線に参加するとなると昇への負担は大きくなるばかりだろう。
けれども弱音を吐く事は出来ない。なにしろ精霊王の力が掛かっているだけでなく、昇が描く未来も掛かっているのだから絶対に負けられない。
昇がそう決意している頃にはフレト達の陣営にも動きがあった。どうやらラクトリーが何かに気付いたようだ。その事をフレトに告げようとしていた。
そんな訳でいよいよ始まった昇とフレト達のラストバトルですが、さすがにこのような急展開な戦闘シーンは楽しいのですが、今回はストケシアシステムの影響で少しややこしくなっているかもしれませんね。
けどまあ、そのストケシアシステムの真髄こそ、そのややこしさでありますからね。まあ、ストケシアシステムについては次回、ラクトリーがしっかりと語ってくれるでしょう。どうやら何が起こっているのか感づいたようですからね~。
そんな訳で次回予告終わり。
ではでは、そろそろ締めますね。ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、昨日一日で今回の話を上げた葵夢幻でした。