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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
他倒自立編
81/166

第八十一話 閃華の企み玄十郎と一緒 密室密着大作戦

 見慣れた服装をした人物と新鮮味を感じる人物が昇の前に並んでいた。

 なんか新鮮味が有るよね〜、特にシエラと与凪さん。

 昇が着替え終わり元の部屋に戻るとシエラ達の着替えも終わっていた。全員巫女装束を着ており、普段巫女装束を着ている琴未や閃華はともかく、シエラや与凪、そしてミリアには新鮮な感じがあった。

 まあ、ミリアは巫女さんというより子供巫女のような感じで幼く見えるが、これは致し方ないことだろう。

 そんな光景に認めれている昇を頭を玄十郎は軽く小突いた。

「いつまで見とれておるんじゃ。まあ、琴未に関してはそれもしかたないとして、そろそろ動いてもはないといけないぞ」

 つまり琴未の巫女装束だけはいつでも似合っているっと玄十郎は言いたいのだろう。そこが玄十郎が琴未に甘いところだ。

 それに夏祭りで琴未達が関係者という事もあり、琴未と閃華、それに彩香は巫女装束だけでなく千早という上着のような物まで来ていた。一応手伝いのバイト巫女との見分けを付ける為だろう。

 千早は長襦袢と同じく白で半透明の物だ。それえを赤い紐で締めている。千早は琴未達も滅多な事では着ることは無い。なにしろそこまで着る必要も無いし、防寒能力があるわけではない。それに一番の理由が面倒という事に限るだろう。

 千早も巫女装束の一つなのだが、上位の巫女や特別な神事でも無い限り着る事は滅多に無い。だからこそ普段は着ないのだが、それを着ている琴未や閃華にも新鮮味を感じるのは昇だけでは無いだろう。

 なにしろ千早だけで普段の姿とは違った印象を与えるのだから。

 そんな巫女姿のお披露目を終わると玄十郎はそれぞれに指示を出してきた。

 シエラとミリアは彩香の手伝い。これは売店の売り子のようだ。昇は琴未と一緒に荷物運び。ご進物やお供え物や蔵出しなどいろいろと物運びをやらされるようだ。そして与凪は閃華の指示に従えばよいとだけ伝えられた。

 総指揮は玄十郎。売店の指揮は彩香が取り、その他の指揮は閃華が取るようだ。そこは琴未が指揮を取るんじゃないのかなと昇は思ったが、閃華が何かを企んでいた事を思い出し、これはその一環ではないのかと察してしまった。だからと言ってここまで来ては逃れる術は無い。

 しかたなく昇は閃華の指示に従い動き始めた。

 ちなみに神社の関係者。琴未の両親だが、こちらは神事と氏子の接待などで全員借り出されているようだ。だからこそ玄十郎が裏方の指揮を取っている。

 それに玄十郎は閃華の力も充分に理解している。それは戦闘力ではなく頭の方だ。しっかりと指示を出して仕切ってくれるだけの器量を持っていると把握しているから、そちらは全て任せる事にしたのだろう。

「さて、それでは各々持ち場に行って説明を受けてもおうか。動いてもらうのはそれからだな。なにしろこれから忙しくなるか覚悟はしておいてくれ。それでは解散」

 玄十郎はそれだけ告げるとやるべき事があるのかさっさと部屋を出て行ってしまった。

 取り残された面々はそれぞれに指示を受ける。シエラとミリアは彩香が連れて行き、残された昇達も移動を開始した。

 はぁ〜、これから一体何がおこるんだろう。

 移動しながらも昇はこれからの事に不安を覚えざる得なかったのだった。



 昇達が移動してきた場所は神社の裏。社務所や拝殿の裏にあたる。そこには明かりらしい物はほとんどなく、遠くからの祭りの明かりだけで充分に辺りを見渡せる拓けている場所だ。

「さて、やってもらう作業じゃが。昇と琴未には蔵から必要な物を出してきてもらおうかのう。それを私と与凪で運ぶんじゃ。何か質問はあるかのう?」

 口をつぐむ三人に閃華は頷いて見せた。

 昇が視線を暗がりの方へと向けると確かにそこには蔵が存在した。小さい時にはあそこで遊んだ経験も有るから勝手が分っていると思われているのだろう。

 そういえばあの蔵で琴未とよく遊んだっけ。一応あそこで遊んじゃいけないって玄十郎の爺さんに怒られたけど、結構楽しかったよな。

 そんな事を思い出していると琴未が声を掛けてきて作業を始めると言いだしたので、一緒に蔵の扉へと向かった。扉には鍵が掛かっているのだが、その鍵はすでに琴未の手にある。

 琴未は少し戸惑いながら扉の鍵。南京錠のようだが、それを開けるのに少し手間取りながらも開錠に成功した。

 重い音を立てながら開く蔵の扉。中は真っ暗だ。琴未は扉の傍にある電気のスイッチを探り当てて押すと、あまり明るいとは言えない豆電球のような照明が蔵の中を照らした。

「じゃあ行きましょか」

「そうだね」

 中に入っていく昇と琴未。その光景を閃華は笑みを浮かべて見守っているのだった。

「一体何を企んでるんですか?」

 そろそろ聞いても構わないだろうと与凪は閃華に尋ねた。聞かれた閃華は与凪に顔を向けると、これまた意地の悪そうな笑みを浮かべて与凪に詰め寄る。

「な〜に、大した事では無いぞ。じゃが、与凪にも協力してもらうがのう」

「もしかして私を共犯者にするために呼んだんですか?」

「そうじゃな、確かに与凪の力が必要じゃからのう」

 つまり閃華の計画には与凪の力が必要不可欠であり、そのために森尾を餌に与凪を巻き込んだ訳だ。

 そんな事になっているとは気付かないままに昇は琴未の後を歩いて蔵の奥へと進む。

 へぇ〜、さすがに昔と変わってないね〜。やっぱりあまりいじくらないからかな。

 昔遊んだ光景と同じような光景が昇の前に広がっていた。それは随分と懐かしい光景で楽しい思い出だった。だからだかろう、閃華が何かを企んでいる事を忘れているのは。

「さてと、ここだったかな」

 蔵の一番奥の棚。そこに辿り着いた琴未は物ではなく、まるで場所をチェックするように辺りを見回した。

「何を運べば良いの」

「えっと、確か……」

 曖昧に答えただけで明確に答えない琴未。そんな琴未が何かを発見すると昇を傍へと呼んだ。

「そうそう確かこの箱だよ」

 確かにそこには箱があるが。それ以上に箱の周りには様々な荷物が乱積みになっていて、今にも崩れそうになっている。

 周りに気を付けながらも昇は箱を持ち上げようとしたが重すぎてとても持ち上がらなかった。

「これってどうやって運ぶの?」

 さすがにこれだけの重量を持っている物をそう簡単には運び出す事は出来ない。けれども琴未は胸を張って言い切った。

「私の属性って雷でしょ。だから多少磁力にも干渉できるのよ。昇も知っていると思うけど地球にも磁力があるでしょ、それと反対の極をこの箱に流すのよ」

「なるほど、そうすると反発して軽くなるって事か」

 そういうこと、と琴未は頷くと早速箱に向かって手をかざし静電気のような物を放出する。磁力といえども電気に干渉するには違いない。だからこそ箱にそのような事をしたのだろう。

 作業が終わったのだろう。琴未は箱に手を掛けると昇に反対側を持つように行ってきた。昇もその通りに二人で箱を持ち上げた瞬間だった。

 床に電気が一気に走ると崩れ去り昇達は突如として出現した穴へと落下する事になってしまった。



「んっ」

 ……あれっ、何か暗いけど、ここは何処だっけ?

「あっ、昇気が付いた」

「えっ、えっ! 琴未!」

 いきなり琴未の顔が目の間に有る事に昇は大いに驚いた。事態の状況すらよく分かっていないというのに琴未とこんなに急接近するとは思ってはいないどころか予想すら難しいだろう。

「あっ、ごめん、今」

「昇ダメ!」

 いきなり動き出そうとする昇に琴未は待ったを掛けるが遅かった。とりあえず上に動こうとした昇は思いっきり頭をぶつけて激痛で唸る破目になったからだ。

「いつつ〜、一体どうなってるの?」

 ワケの分らない昇は琴未に状況説明を求めた。その琴未の説明によると、昇と琴未はもろくなっていたから床が崩れて落下したようだ。その時に乱積みにされていた周りの荷物も一緒に落下し、昇達は生き埋め状態になってしまった。

 幸いな事に琴未の属性で自分達を守るバリアは張れたが行動範囲は無いに等しい。このバリアは電磁波のような物で出来ており、感電する事は無いが完全に壁と化している。

 そのためか琴未と昇の体は密着している。あの瞬間でも昇は琴未を守ろうと下に身体を持って行ったようだ。そのため昇の上に琴未が寝そべっている感じになっている。

 更に最悪なのが、バリアを張る時間が無かったのかほとんど身体が動かせない状態だ。なにしろ時間が無かったのだから自分達に沿うようにしかバリアを張ることが出来なかった。

 つまり張られているバリアは昇と琴未に沿って張られており、手足を動かすスペースなどほとんど無いという事だ。

 完全な密室密着状態になってしまった。

 その事をやっと理解した昇は携帯で閃華か与凪に連絡を取る事を提案してきた。確かに二人なら傍に居る。だから連絡すればすぐに来てくれるだろう。

 けれどもそれは無理だと琴未はすぐに否定した。

 昇達が張られているバリアは雷の属性、電波なども遮断してしまう。要するにここは電波の圏外になるというわけだ。

 試しに昇は何とか手を動かして自分の携帯を見てみるが圏外と表示されていた。

 あ〜、やっぱりダメか。じゃあ、どうしよう?

 完全に連絡手段が無くなった昇だが、琴未が言うにはまだ連絡手段があるようだ。

「そういえばさっき閃華から何かあったら連絡用に無線機のような物を預かったのよ。携帯サイズのね。それを使えば閃華達に連絡が取れるんだけど……」

 言葉を詰まらせる琴未。その理由を問いただしてみると仕舞っていた場所に無いそうだ。つまりは落とした事になる。そうなるとその無線機を探し出さないといけないのだが、昇には一つの疑問が浮かんだ。

「そういえば、このバリアって電波も遮断しちゃうんでしょ。それなのに無線機なんて使えるの?」

 確かに先程の説明ならそうなるが、そうでは無い事を琴未は説明した。

「渡されたのは与凪さんの属性を使った無線機なのよ。ほら、私達もよく与凪に連絡する時に使ってるでしょ。あれを応用したものみたいなものなの。だからバリアの影響を受けないのよ」

「なるほど」

 与凪の属性は霧。霧は何かを隠したり見えづらくしたりするが、幻覚等も発生させる事が有る。与凪はその幻覚作用を連絡手段に用いている。だからこそ今までも昇達の前に自分の姿をモニターのような物で姿を写していたわけだ。

 これは霧の幻覚作用と投影作用があるからこそ出来る事だ。

 まあ、与凪の属性に関してはさておき。現状にとって一番大事なのはその無線機を探し出す事だ。

 琴未の話しでは袴に入れていたらしい。つまりは足の方だ。けれども琴未の手は昇の胸辺りを掴んでおり、バリアは腰辺りで一気に狭くなっている。つまり琴未に無線機を探し出せるのは無理だ。そうなると……。

 ……僕が探し出すしかないんですか。

 そんな事を思う昇はこれが閃華達が張っていた企みではないかとようやく気付いた。だが気付いたところで状況が好転するわけではない。ここは何としても無線機を探し出さなくてはならない。

 幸いな事に昇の手は琴未の背中に回っている。そこから手を伸ばせば何とか探し出せるかもしれない。

 昇は一応琴未に探し始める事を告げると手を動かし、なんとか腰辺りの狭い空間に手を突っ込もうとした。

「きゃっ!」

 そんな時にいきなり声を上げた琴未に昇は思わず手を戻す。

「あっ、ごめん、変なところを触った?」

「あっ、うん、別に嫌じゃいないんだけど、いきなりだったから」

 二人とも赤面する。なんとも気まずい雰囲気が流れる。

 どうやら昇の手は琴未のお尻に触れたようだが、行動空間が狭いため触れずに手を伸ばすのは不可能だ。

 えっと、どうしよう。というか、どないせいというんですか!

 心の中で突っ込みに近い叫びを上げる昇は少しだけ冷静になった。

 このままだと、また琴未のお尻に……というか、すでに胸がもう……。あ〜っ! そうじゃない。どっちにしてもこのままじゃダメだ。どうにかして手を動かせるスペースを作らないと。でもこのままだと……あっ、そっか、その手があったけど……しかたない!

 昇は覚悟を決めると琴未を見詰めた。その顔は赤面しており、見詰められた琴未までもが赤面してしまう。

 そんな琴未に昇は告げる。

「ごめん、琴未。少し辛いかもしれないけど、思いっきり抱きしめて良い?」

 えっ、それって、どういうこと。昇の言葉に混乱する琴未だが、同時に別の考え、いや、妄想が暴走する。



「ごめん、琴未。もう我慢できないんだ。琴未を……思いっきり、いや、永遠に抱きしめていたい!」

「そんな昇、いきなりそんな事を言われても。心の準備が」

「大丈夫、僕が琴未の全てを包み込んであげるよ。だから安心して」

「……昇」



「……み、琴未」

 昇の呼び掛けにようやく現実に戻って来た琴未。そんな琴未に昇は先程言った言葉の意味を説明する。

「このままだと無線機を探し出せないから、だから手を動かすスペースを広げるためにもっと密着しないといけないんだ。嫌だっていうならしょうがないけど、ここは我慢して欲しいんだ」

 なんとも昇らしい言い方だ。そんな昇の言葉に琴未は超高速で首を横に振る。

「ううん、別に嫌じゃないし、全然構わないわよ」

 うんうんと何度も頷きながら昇の提案を受け入れる琴未。それを見た昇は先程の言葉どおりに実行する。

 琴未の腰に手を回すと思いっきりでは無いが、琴未が痛がらない程度に力を込める。出来るだけ密着させないと意味は無い。琴未の方でも昇の首に手を回して身体を押し付ける。こうして密着させる事でようやく動けるスペースが広がった。

 うっ、さすがにドキドキするな〜。それに琴未の……胸が。琴未って結構大きいからね〜。って、そうじゃないだろう!

 自分自身の心に突っ込みながら昇は行動を開始する。

 昇は手をバリアに沿うように動かすとようやく伸ばしきる事が出来た。どうやら琴未に触れる事無く通過できたようだ。

 そんな時だ。琴未がいきなり軽く笑った。

「えっ、どうしたの? なにかやっちゃった?」

 昇としては自分に非があると思っただろうが、琴未は笑みを絶やす事無く否定した。

「そうじゃないの……やっと、夢の一つが叶ったかなって」

 首を傾げる昇。何のことか分らないのだろう。まあ、その言葉だけで理解しろというのも無理だし、朴念仁の昇に察しろというのは更に無理な話だろう。

 そんな昇と見詰めあいながら琴未は夢の続きを語る。

「私ね、一度だけでもよかったから昇に抱きしめてもらいたかったんだ。もちろん二人っきりでね。……そう、それだけでよかったんだ。こうやって昇の温もりを感じて、しっかりと昇に抱きしめてもらって。まるで守ってもらっているような感じで、そんな感じを味わいたかったんだ。だから……もう少しだけ……こうしていたいな……って」

 そんな言葉を聞いた昇の手が止まる。さすがにそんな事を言われては無線機を探すどころでは無いし、このまま何もせずにはいられないのだろう。

 まあ、少しだけなら。

 昇はそう思うと手を琴未の腰に戻し、琴未を優しく包み込むように抱きしめるのだった。



 蔵の中での出来事を想像している閃華は笑みを浮かべながら楽しそうに身体を揺らしていた。どうやら蔵の中を見よとしているのだろうが、決して入ろうとはしない。それはそうだ、ここで入ってしまっては今までの計画が台無しになってしまう。

 そんな閃華の隣で与凪は溜息を付いた。

「私を呼んだのはこのためですか」

「うむ、その通りじゃ。おかげで上手く行きそうじゃのう。これも与凪のおかげじゃ、感謝しておるぞ」

「はぁ、それはどうも」

 うんざりとした返事を返す与凪。閃華の計画に巻き込まれる予感はしていたものの、実際にこのような事をさせられると不満では無いが少しはうんざりとはするようだ。

 それに森尾の事があるから絶対に断れない。たぶん森尾もどこかで何かを手伝わせれて居るのだろう。

 そう思うとすっかり閃華に乗せえられた事に半分うんざりしながら、半分は少しワクワクしながら事の成り行きを見守っていた。

 与凪とて二人の仲がどうなるのか知りたい。なにしろ琴未にはライバルが多すぎるから、それを出し抜いての企みだ。どうなるのか興味が沸くのは当然だろう。

 だからこそ、こうして協力をしているわけだ。

 与凪がやっているのは蔵の存在を隠すこと。つまりそこに蔵があり、昇と琴未が居る事をシエラやミリアに気付かせないようにしている。つまり与凪が力を発している限り誰にもこの事には気付かない。そのために閃華は与凪までも巻き込んだのだから。

「それにしても、今回はどんな狙いがあってこんな事をしでかしたんですか?」

 今回の作戦理由を尋ねる与凪。今までの企みでは誘惑系が多かったのだが、今回はまったく違った物だ。そこには何かしらの理由があるのだろと気付いたのだろう。

 現に閃華も「良いとこに気付いたのう」と返事をしてから説明を開始した。

「今までの事で分かったんじゃが、昇は理性が強すぎるというか耐性が無いというか、とにかく押しが強すぎると戸惑ってしまうようじゃからのう。じゃから今回は搦め手から攻めてみたんじゃ」

「というと?」

「つまり、密室で密着状態の二人じゃ。その場では何事も無くとも、その事が切っ掛けになり今後は意識し始めるかもしれん。意識し始めれば多少の邪魔があっても物ともせんじゃろ」

「そういう事ですか」

 要するに閃華が企んだのは二人の仲を進展させる事には違いないが、今までのように一気に進展させるのではなく、少しずつ進展させようという事だ。

 つまり、密室密着状態の二人。そこでは必ず二人はドキドキするだろう。それが琴未には恋だと分っているが昇には分ってない。その事が昇を動揺させる。

 そうなると琴未と二人っきりになるたびに、その事を思い出させて動揺してしまうだろう。そしてそれが恋だと誤認させる。まあ、この場合は本当に誤認かどうかは分らないが。どちらにしても昇に琴未が好きだと思わせる隙を作る。

 今回はその切っ掛けを作る企みにすぎなかった。その後は昇を上手く誘導して琴未を意識させれば良いだけだ。もちろんシエラ達の妨害もあるだろうが、今回の事はそれ以上に効果があるだろうと踏んだ。

 だからこそ与凪まで巻き込んで今回の企みを絶対に成功させようとしているのだ。

 そんな閃華の企みを察した与凪は今後の展開を聞いてきた。

「そう上手く行きますかね」

「上手く行かせたいものじゃな」

 率直な答えだけ返す閃華。まあ閃華としてはそうとしか言えないだろう。けれども与凪は意外な事を言い出した。

「でも上手く行かせるにはシエラさんだけは注意しとかないといけませんよ」

「じゃから与凪を呼んでここまでやってもらってるんじゃろ」

「そうではないですよ。昇とシエラさん、たぶん何かありますよ。滝下君は気付いてないと思いますけど、シエラさんには何か奥の手が有るようにも思えますけどね」

 与凪の言葉が終わると閃華は少しだけ鋭い視線を与凪に向ける。一方の与凪は閃華の視線を微笑みながら受け流すだけだった。

 与凪が昇とシエラの事で何かを察している可能性は有る。けれども具体的な事は閃華に教える気は無いようだ。

 与凪としても今回は巻き込まれたわけだし、閃華に多大な恩義が有るわけでもない。それどこか、このままシエラまで巻き込んで三角関係を高みの見物すらしてみたいとも思っているだろう。

 まあ、あまりドロドロの修羅場を期待している訳ではないが、少しはこじれた場面を高見の見物をしたいのだろう。

 与凪の性格からして傍観者として楽しい物を見ていたいのだろう。だからこそ今回も閃華に協力したし、閃華に情報を渡さなかった。それは後々の展開を考えると面白くなると踏んだからだ。

 そうなると与凪は絶対に閃華に情報を漏らさないだろう。

 閃華は諦めに似た溜息のように息を吐き、与凪も微笑からいつもの顔へと戻る。そして二人の視線は再び蔵へと向かった。

「さて、そろそろ助けに入ったほうが良い頃じゃな」

「一体どうなってるんでしょうね」

「もしかしたら濡れ場まで行ってるかもしれんのう」

 そんな閃華の冗談に笑いながら二人は蔵に向かって歩き出すと、与凪の周りに幾つかのモニターが現れると赤い画面で『ALERT』と白い文字が表示されて警戒音が鳴り響く。

 ALERTとはアラートと読み警戒を意味する。

「どうしたんじゃ!」

 突然の事で驚く閃華。その間に与凪はアラートの情報を収集しつつ整理する。情報整理が一区切り付くと与凪は警戒音を切り、モニターも全て消し去った。それから閃華に真剣な顔を向けるととんでもない事を呟く。

「誰かが……精霊王の力に干渉しようとしたようです」

「なんじゃと!」

 再び驚く閃華。それも無理は無い。閃華達が封印して管理している精霊王の力が有する危険性は良く知っている。それに与凪の力で精霊王の力を発見する事すら困難なのに干渉までしてくるとは、相手もかなりの情報を持っていると思ってよいだろう。

 何にしても、このまま呑気に閃華達の企みを続ける訳には行かない。閃華は与凪の顔を見て頷くと全速力で昇達の元へ駆け出した。



 はぁ〜、なんかドキドキしたり混乱したり困ったり大変だったよ。

 やっと蔵から救出された昇はそんな感想を抱いた。なにしろ閃華達が来るまで琴未を抱きしめ続けていたのだから。その場を見られただけでも恥かしいのに、いきなり緊急事態とか言われてなんかここに引っ張り出されたり、一体何がなにやらワケが分からない状態だ。

 その場所とは蔵の近くにある先程まで閃華達が居た場所だ。

 そこには与凪が幾つものモニターを出しキーボードを叩いている。そして閃華はシエラ達を呼びに行ったようだ。状況からしてかなり切羽詰っているらしい。

 そんな時だった。昇の頭に先日与凪から言われた事が頭を過ぎる。

『誰かが閃華達が封印した精霊王の力を解き放とうとしている』その時は不確定な情報で誤報というのも否めなかったが、与凪の表情からしてもしかしたら現実にそのような事態が起こっているのかもしれない。

 そしてもし閃華達の封印が解かれたりしたら……昇達は再び精霊王の力と対峙する事になるだろう。それだけはどうしても避けねばならなかった。

 精霊王の力が強大な事もあるが、それ以上に以前のような悲しい出来事を繰り返したくは無かった。

 だから精霊王の力は昇達にとって悲しい力と認識されている。だからこそ封印を解かれる訳にはかない。あのような悲しく不毛な戦いを昇達は望んではいないのだから。

 昇がそんな事を考えているとシエラ達を連れた閃華が戻って来た。連れてきたのはシエラとミリアだけだ。二人とも未だに巫女服を着ており、その姿に見とれそうになるが、今はそれどころでは無いと昇は煩悩を振り払う。

 閃華が二人だけを連れてきたという事は昇の推測がほぼ当たっているという事を意味している。他に緊急のようなら彩香や森尾、それに玄十郎も連れてきても構わないだろう。

 その三人を連れてこないって事は事態が精霊に関する事を意味しており、昇はそれが精霊王の事に関する事だと察していた。

 全員が集ると与凪はキーボードを叩いてた手を一旦止めると集った面々を見渡す。それから全員に驚かないように忠告を交えながら、先日昇に話したのと同じ事を話した。

 今度は未確定ではなく確定した情報としてだ。

「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、また誰かが雪心と同じような事をしようとしてるの?」

 真っ先に反応を示したミリア。あの事件で一番の悲しみを負ったのはミリアだ。だから精霊王の力に一番関わりたくないのはミリアだ。

 そんなミリアに与凪は複雑な表情で頷く。

「ロードナイト達のような事をしようとしてるかは分らないけど、誰かが精霊王の力を流出させようとしてるのは確かみたい。私と閃華さんが厳重に封印してあるから簡単には解けないだろうけど、このまま手を打たなかったらいつかは破られるのは確かよ」

 放っておく事は出来はしない。精霊王の力に関しては昇達が一番良く知っているのだから。だからここは何かしらの手を打たなくてはいけないくなってきた。

「今のところはどんな状況なんじゃ」

 とにかく相手の出方が分らない限り手の打ちようが無いと判断したのだろう。閃華が与凪に現状を尋ねたが与凪は首を振るだけだった。

「もう反応が無くなったわ。どうやらあっちも様子見がてらちょっかいを出してきたみたいね。たぶんこっちの反応を見たいんだと思うのよ。あの封印は結構強力だから私達を引っ張り出したいんでしょ」

「引っ張り出してどうするのよ」

 そんな疑問を琴未がぶつけてきた。まあ、相手にしてみればこちらが出てくればいくらでも手の打ちようは有るだろう。倒して封印を解除させるとか和解するとか。どちらにしても昇達を引っ張り出そうとしている事は確かなようだ。今回の事はその手始めと言ったところだろう。

「つまり相手は僕達を引っ張り出して封印をどうにかしようとしてるんだ」

 昇の言葉に閃華と与凪とシエラは頷く。三人とは少し送れて琴未とミリアも事態を把握した。

 つまり封印の鍵は昇達が持っている。その鍵を奪うなり壊すなり話し合うなりするには昇達を見つけ出さないといけない。そのためには封印を解こうとしている自分達の存在を昇達に知らせないといけない。今回のアラートは自分達の存在を知らせるためだったのだろう。

 だから与凪が調べ始めた頃にはもう退散していたという事だ。

「それでどうするの?」

 これで事態は把握できた。相手は自分達が精霊王の力を狙っていると知らせてきた。それは宣戦布告かもしれないし、和解や講話の材料にするのかもしれない。どちらにしろこのまま放っておく事は出来ない。

 時間さえ掛ければいつかは封印は解かれてしまうのだから。

 だから昇は俯いて少しだけ考えると顔を上げて与凪に尋ねる。

「与凪さん、その人達は明日も来ると思う?」

「う〜ん、たぶん来るでしょうね。あちらとしてもこちらに会いたがってるんだから」

「そっか……なら決まった。明日……会ってみよう」

 とんでもない事を言い出した昇にシエラと閃華は頷き、ミリアと琴未は驚きを見せた。「昇! 本気で言ってるの?」

 相手の正体が分らない以上は接触するのは危険ではないかと琴未は主張するし、ミリアとしては精霊王の力にちょっかいを出すような相手など問答無用で倒してしまえば良いと思っているのだろう。

 けれども昇には違う考えがあった。

「確かに相手が何を企んでいるのかは分からないけど、もし……話し合いで決着が付くならそうしたい。無駄に戦う必要なんて無いんだから。なにしろ精霊王の力が掛かってるんだから。そのためには相手に会わなくちゃいけないだろ。大丈夫、まだ敵だって決まったわけじゃないんだから」

 確かに相手はまだ敵だと決まった訳ではないが敵である可能性がかなり高い。分の悪い賭けなのだが、昇にしてみればその賭けに乗るだけの価値は有る。なにしろ精霊王の力だ。

 無駄な戦闘で影響を与えたくないし、悪巧みをしているなら早めに潰しておきたい。そのためにも一度は接触しないといけない。相手が分からないからにはどうする事も出来ないのだから。

 昇はその事をロードナイト達の事で充分に学んでいた。まずは相手が何をしようとしてるのか、それを見極めるのが重要だという事をしっかりと刻み込んでいるのだ。

 だからこそ今回のような決断をする事が出来た。

 そんな昇の判断に閃華と琴未と与凪は頷き、ミリアは納得が行かないような顔をしている。そんな中でシエラだけが手を上げて意見を言い始めた。

「昇の意見に反対はしないけど準備だけは怠らない方が良い。相手が敵と決まったわけじゃないし、準備不足での戦闘は不利になる。それに和解するのであれば準備が無駄になるだけ、やっておいて得は有っても損は無い」

「うん、そうだね」

 もし相手が敵意を剥き出しにして襲い掛かってきた時に何も準備も無しに相手をするのは不利になるから、そういう場合を想定しての準備をすべきだという事だ。

 確かにシエラの言うとおりだと昇も思った。相手が味方だと決まったわけじゃない。話しが通じるとも限らない。ただ戦うしかないのかもしれない。なんにしても、どんな事態になっても不利にならないようにはしとかないといけない。

 昇は与凪には更に詳しい状況を集めてもらい、閃華はそのサポート。シエラには偵察を頼み。琴未とミリアには現状に合わせて動いてもらう事にした。まあ、はっきり言ってしまえば琴未とミリアは雑用係である。けど、それもしかたない。

 能力的に琴未とミリアの能力は戦闘向きでこうした情報収集やサポートには向いてない。それとは反対に与凪の能力はサポート向きで閃華は与凪との親交が深いために与凪の手伝いが出来るだろう。

 シエラはその飛行能力から偵察などの単独任務に向いている。なにしろスピードタイプでシエラの全速力に追いつける者など早々居ないだろう。同じ翼の属性か速の属性を持ってないとシエラには追いつけないだろう。

 ちなみに速の属性は簡単に言うと足が速くなるだけである。翼の属性とは違い空を飛ぶ事は出来ないが、地上での走りは敵うものは居ない。翼は空、速は地上、どちらもスピードタイプではトップクラスの属性だ。

 だからこそシエラには偵察という役割をまわした。

 それぞれの役割にシエラと閃華は感心せずにはいられなかった。なにしろ適材適所としか言いようの無い配置だ。与凪と閃華はともかく、シエラ達まで上手く使えるようになってきたのだから大将としての器が育ってきているのだろうと実感せざる得なかった。

 そんな感じで話しがまとまると閃華はそろそろ解散しないといけないといいだした。

「なんじゃ、皆忘れておるのか? 今の私達は神社の手伝いをしてるんじゃぞ。このままサボるわけにはいけなんじゃろ」

 確かに閃華の言うとおりだ。昇達が高戸神社に居るのは夏祭りの手伝いと閃華の企みがあったからこそだ。

 閃華の企みが終わったからとしても手伝いは残っている。もちろん昇と琴未にも。だからこそ今は夏祭りの手伝いをしなくてはいけない。

 それを思い出しただけでミリア達はうんざりし始め、渋々元の配置へと戻っていった。今やるべき事は精霊王の力に対する対策ではなく。夏祭りの手伝いなのだから。

 まあ、これもしかたなか〜。

 昇もそんな風に納得して閃華の指示通りに動き始めるのだった。



「今晩は賑やかだな」

 とある高級ホテルの一室で窓の外を見ながらフレトはそんな事を呟いた。

「どうやら夏祭りがあるようで、それで賑わっているみたいですよ。行って見ますか、主様あるじさま

 清楚な少女が何故か巫女装束を見にまといフレトに紅茶を差し出しながら言葉を口にする。

「いや、やめておこう。先程封印に手出ししたばかりだからな、相手の動きが早ければ鉢合わせになりかねない。こちらとしてもしっかりと準備だけはしておかねばな」

 それだけ言うとフレトは差し出された紅茶を口へと運び感想を漏らした。

「腕を上げたではないか咲耶さくや。最初の頃に比べればなかなかの味わいだ」

「お褒めにいただき光栄でございます」

 咲耶と呼ばれた巫女服をまとった少女は深々と頭を下げた。それからフレトに気遣わせないように紅茶のセットを片付けると静かに退室して行った。まるでメイドのような振る舞いだ。それで巫女服を着ているのだから、なんともある人種には受けが良い事だろう。

 そんな事を考える事無くフレトは窓の外、ある一点を見詰め続けた。

「待っていろセリス。もうすぐだ、もうすぐ精霊王の力でお前を。それだけが俺の望みなのだからな」

 強大すぎる精霊王の力。それは地球の力その物と言ってもいいだろう。だからフレトにはそれが希望に見える。強大な力だからこそ絶望にも争いになる事にも気付かないままに。その事にフレトは気付きはしない。なにしろフレトの望みは一つだけなのだから。







 え〜、そんな訳でこんな展開になってきたエレメですが……あかん、頭が白くなってきて後書きのネタが浮かんでこない。まあ、そんな訳で適当に書いてみましょう。

 さてさて、今回急接近した昇と琴未ですが、まあ、身体的にですが、かなり美味しい展開ですよね。……あ〜、一度でも良いからあんな体験をしてみて―――っ!!!

 おっと、つい欲望が暴走してしまった。まあ、確かにあの状況は憧れる人もいるのでは人は居るのではないのではしょうかと勝手に思い込んでます。

 さてさて、それからもう一つ。今回は私の野望をとうとう実現させました。それは……全員巫女化計画!!!

 いや〜、全員に一度巫女服を着せてみたかったんですよね〜。……絵師さんがいれば是非とも描いてもらいたい状況です。まあ、その前に自分で絵の勉強でもしようかと企んでますけどね。

 なんにしても、まだまだ時間が掛かる事が多いです。なので、少しずつ一つずつ消化していきましょう。

 さてさて、そんな訳で話しが尽きた所で締めますか。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、なんとか今年中に萌酒を手に入れたい葵夢幻でした。

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