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第八話 幼馴染の巫女

「それじゃあ、行って来るわね」

「というか母さん。何でいつもその服に着替えてから出かけるの」

「なに言ってるの、これがお母さんのパート先の制服だからよ。それにこれ着るのに結構時間がかかるのよね。だから、お母さんはいつも制服を着てから出かけるのよ」

「いや、そういわれても…」

 それでも昇には、なんとなく不に落ちなかった。何しろ彩香が着ている制服というのは巫女装束なのだから。

 彩香がそんな服を着ているのは他でもない、パートに出かけるためだ。この家の家計は海外出張中の父の給料で十分補えているのだが、それでも家計が苦しいのか、それとも暇なのか、彩香はいつの頃からか神社にパートに出るようになっていた。

 まあ、母さんが良いんなら僕も別に良いんだけど。それより母さん、よくそんな格好で町中を歩けるね。

 改めてみても明らかに浮いているだろと思う昇だった。

「そういえば、あなた達も今日は出かけるんでしょ?」

「うん、なんかシエラとミリアが他にも必要な物がある。とか言い出して今日はその買出しに行って来る」

「そう、気をつけてね。ああ、そうそう、お金はちゃんと渡したわよね?」

「うん、あれだけあれば十分だと思う」

「そう、じゃあ、いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 元気よく彩香に対して、実は昇は少し呆れていた。

 只でさえ和服は目立つのに、よく母さんは巫女装束で出かけられるよな。

 昇はそんなことを思いながらも、キッチンで後片付けをしているシエラと、未だに自室で寝ているミリアを起こしに向かっていった。



「はぁ〜」

 パート中の彩香だが、何故かこの時は仕事に身が入らず。思わず溜息を漏らしていた。

「珍しいですね。おばさんがそんなため息するなんて」

 そういって話しかけてきたのは彩香と同じ巫女装束を着ており、歳は昇と同じショートカットの女の子だった。

「あら琴未ことみちゃん。ごめんね、昨日からドタバタしてたからつい…」

「いえ、それは構わないんですけど。どうしたんですか?」

 琴未の問いに彩香は「う〜ん」と唸り声を上げる。どうやら話して良いものかどうか迷ってるみたいだ。

「おばさん、私は昇の幼馴染ですよ。だから何か迷っているなら気兼ねなく話しちゃってください」

「う〜ん、そうね。昇の事でちょっとドタバタしているから、ここで琴未ちゃんに話を聞いてもらうのもいいかもね」

「昇の事って、昇に何か遭ったんですか?」

 急に険しい剣幕になる琴未を見て彩香は戸惑いの表情を見せる。

「別に昇に何か遭ったわけじゃないんだけどね」

 その言葉に琴未はほっとしたように息を付いた。どうやら昇に何か危険なことが遭ったのかと心配してたようだ。

「それで、昇がどうかしたんですか?」

「それがね……」

「琴未、こっちは終わったぞ」

 そう言って姿を見せたのは、同じく巫女装束に身を包み、長い黒髪を後ろで束ねた少女だった。歳は琴未よりも下だろうか、身長も琴未よりも頭半分ほど低い。だが、容姿は整っており、それなりの美少女とも言える少女だ。

「あら、始めてみる子ね」

「あっ、はい。昨日から来てもらってるんですよ」

 その間にも少女は二人の元に来て、彩香を見ていた。

「琴未、このご婦人は」

「ああ、前からパートで来てもらってる人でね。昇のお母さんなの」

 それだけ聞くと少女は思い当たる節があるのか、ポンッと手を打った。

「なるほど、この方が琴未のおもいび…」

「わーわー、ちょっと、閃華せんかなに言おうとしてんのよ」

 よっぽど言ってはいけないことなのか、琴未は慌てて閃華の口に手を当てて塞ぐ。

「ひゃにって、しゃんしつを」

 それでも喋り続ける閃華に琴未は思いっきり溜息を付く。

 まったくこの子は、少しは私の気持ちも考えなさいよね。おはさんの前でそんなことを言ったら……。


 ─注意、ここからは琴未の妄想であって本編とはまったく関係ありません─


「まあ! 琴未ちゃんったら、そんなにも昇の事を思っていてくれたの!」

「いえ、そんな、私はただ昇の事を見てきただけで、そんな、大それた事は……」

「なに言ってるの琴未ちゃん、それだけ昇にはもったいないぐらいの果報者だわ。琴未ちゃん、ありがとう」

「いえ、そんな……」

「なら、もうこの話はもう決まりね。琴未ちゃん、昇の所に来てくれる?」

「……私でよかったら、その」

「なに言ってるの、もう昇には琴未ちゃんしかいないわ」

「そんな、それでは、不束者ですが、よろしくお願いします」

「こっちこそ、昇をよろしくね琴未ちゃん」

「はい、お義母様」



「しょとみ、しょとみ」

 めくるめく妄想の中で、琴未は不思議な声で現実へと引き戻された。

「琴未ちゃん、そろそろ手を離してあげたら」

「えっ?」

 言われてから初めて、琴未は未だに閃華の口を封じていることに気付いて慌てて手を離した。

「まったく、いくら母君の前じゃからといっても、いつもように想像で補うのは良くないのではないか」

「べっ、別にそんなんじゃないわよ!」

「そんなに慌てて言っても説得力が無いぞ、琴未」

「うるさい」

 言われているのが的を射ているのか、琴未はそっぽを向き、閃華は不敵な笑みを浮かべる。

「それで琴未ちゃん、そろそろこの子の事紹介してくれないかな」

「あっ、はい、すいません、おか、いえ、おばさん」

「ふっ、想像から溢れ出そうになりおったな」

「うるさい!」

 突っ込んだ後、琴未は閃華の手を取り自分の前に立たせた。

「この子は閃華って言って、昨日からウチで住み込みで働いてもらってるんですよ」

「へぇ〜、なんでまたこんな子を住み込みで。見た感じまだ若すぎる気もするけど」

「えっと、それはですね。その、なんというか……」

「それは私と琴未がもう二度と離れられない関係に」

「閃華は余計なことを言わないで!」

「なにか特別な事情があるみたいね」

「いや、まあ、その……」

「まあ、契約をしてしまったんだからしかないじゃろ」

「いやーーー、そのことは言わないで」

 せっかく昇のために、ううん、昇のためだけに取って置いたのに、まさかこんな形で失うなんて。

 いやーーーーーーー、私の、私の始めてを返してーーー!

 そのまま悶絶する琴未。さすがにここまでくると彩香も呆れた目線になっている。

「えっと、閃華ちゃんだっけ。琴未ちゃんどうしちゃったの」

「うむ、あれはいつものことで病気のような物じゃ。まあ、あまり気にしなくても問題は無いぞ」

「そっ、そう。それにしても閃華ちゃんて、ずいぶん変わった喋り方をするのね」

「そうか、まあナリがこんなんじゃが、歳が結構行ってるからじゃろ。こう見えてもそなたより年上じゃぞ」

「そうなの! じゃあ失礼な物言いをしちゃいましたね」

「別に先ほどどおりで構わんぞ。ナリこうじゃからの、そういう風に扱われることには慣れておる」

「でも」

「私が構わんと言ってるんじゃから、いいじゃろ」

「そお、じゃあ、これからも閃華ちゃんて呼ばせてもらうわね」

「うむ、そうしてくれ。それで奥方殿、先程からなにやら疲れた様子じゃが、なにか心配事でもあるのでは?」

「あっ、やっぱり顔に出てるのね」

 気丈に見える彩香だが、それはウチに居る時に皆の前に見せないだけで、さすがにあんな状況になってくると昇ことが心配でならない。やはり、そこいら辺は母親だからこその心配なのだろう。

 そしてそれを話したくなってくるのも、人の心情のなす業である。

「それじゃあ、閃華ちゃん。聞いてくれる?」

「うむ、私は別に構わんぞ。それに心配事は人に話したほうが軽くなる物じゃからな、どんどん話したほうが良いぞ」

「そうね、そういうものなのよね」

 彩香は改めて人に話すということが大事なことであることを思うのと同時に、閃華にシエラやミリアとは同じようで違う、そんな変な感覚にも捕らわれていた。

 シエラ達と同じようでどこか違う、そう思いながらも彩香は閃華に向かって全てを話す事にした。

「実はね、昇が、昨日女の子をウチに連れ込んできたのよ」

「なんですってーーー!」

 だが、その言葉に一番で反応したのが今まで悶絶していた琴未だった。

「昇が女を連れ込んだってどういうことですか、というか誰ですかそんな不届きな奴は、いったいいつの間にそんな事態になってたんですか」

「どうどう、とりあえず落ち着け琴未」

「これが落ち着いていられると思う!」

「思わんな。じゃが、私は琴未との契約をし…」

「いやーーー、だからそのことは言わないで!」

 再び悶絶をする琴未、閃華はそんな琴未を押さえつけると、どこからか縄を持ち出して琴未を一瞬で縛り上げてしまった。なんとも早い神業である。そして地面に転がすと再び彩香と向き合った。

「あの、話を続けてもいい?」

「あっ、うむ、琴未はこのまま私が抑えているから奥方は、そのまま話を続けてくれ」

「そう、じゃあ、でね、連れ込んだのが一人じゃなくて、二人も女の子をウチに連れ込んできたのよ。まあ、何かしらの事情があるみたいだけど、それも全然話そうとしなくれそうにないの。はぁ、まあ本人達が話したがらなくて、いきなり押しかけて、それで住み込んでるわけだから何かしらの事情があると思うんだけど、私としてはどうも心配で」

「うむ、奥方の気持ちは良く分かるぞ。そしてその行動も正しいと私は思う」

「そう?」

「うむ、それにまだ一日しか経っておらんじゃないか。ここは長い目で見詰め続けるのが正解じゃと、私は思うのじゃがのう」

「そうよね、私もそう思ったから特に何も言わないで受け入れたんだけど…」

「今は只、見守ってやるが良いぞ」

「そう、そうね、そうするわ」

「うむ」

 そこまでは普通に話していた閃華だが急に呟くように、それは独り言のように言葉を口にする。

「奥方の息子が選んだ道はそうとう険しいからのう」

「えっ、閃華ちゃん何か言った?」

「いや、別に気にすることではない。さて、後はこっちをどうするかじゃな」

 閃華は縛り上げている琴未の縄を解き、再び縄をどこかへと仕舞い込んだ。

「さて、どうするつもりじゃ?」

琴未は服に付いた土埃を払うと、まるで、いや、本気で敵を見る目になりながら握り拳を力強く握り締めた。

「そんなの決まってるでしょ。これから昇の所に行って、その二人の女ときっちりけりをつけてやるわよ」

「そういえばあの子達、今日は商店街に買い物に行くって言ってたわね」

「ありがとう、おばさん。さあ閃華、いくわよ」

「ふむ、そうじゃのう」

「へぇ〜、珍しく素直じゃない」

「何を言う。琴未の一世一代の大ピンチだ、それを助けん出どうする」

「ありがとう、閃華。それじゃあ、おばさん、後はお願いします」

「はい、いってらっしゃい」

「いってきます」

 神社の仕事を彩香に全て託した二人はそのまま神社を後にする。

「これも青春なのかしらね」

 そんな二人を彩香は微笑みながら見送るのであった。



「琴未」

 商店街を走っている最中に突然閃華が声を掛けてきた。

「なに、閃華」

「覚悟しておけ」

「どういうこと?」

「あの奥方、ほんの少しだが精霊の気配を感じた。まあ移り香のようなものじゃと思うだが、そうだとすると……」

「なにもったいぶってんのよ、早く言いなさいよ」

「その昇が連れ込んだ二人は精霊かもしれん」

「えっ、それって…」

「うむ、つまり昇もどこぞの精霊に目を付けられて契約をした可能性があるということじゃ」

「なんですってーーー!」

「いきなり大声を出すなバカモノ、驚くではないか」

 もし閃華の話が本当だとすると、昇も精霊と契約をしたことになる。つまり…キ、キスしたってこと……。

 ……許せん。昇の、私の昇のファーストキスを奪うとは。

 ふっ、ふっふっふっ、あっはっはっはーーー。どんな奴かは知らないけど覚えてらっしゃい。例え精霊でもこの罪は軽くは無いわよ。この以上ない苦痛を与えて滅ぼしてやる。

「ふふふっ、あっはっはっはーーー!」

「琴未、気持ちは分かるが街中で走りながら不適に大笑いするのはやめたほうがいいぞ」

 そんなことはお構い無しに琴未は商店街を目指して走り続ける。いつの間にか距離を置いて付いてくる閃華に気付きもしないまま。

 どうやら今日も昇にとっては長い一日になりそうだ。







 さて、いろいろとあって更新が遅れましたが、やっとアップできました。

 さて、今回からまた新展開ですが、前とは違う雰囲気をだしてると私は勝手に思ってます。(というか、琴菜のキャラがたちすぎてる?)そして新しく出てきた二人ですが、これからどうなっていくのか、それよりも昇は大丈夫なのか(出番が)

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、次回から凄いことになりそうだと思う葵夢幻でした。

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