表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
76/166

第七十六話 降り積もる雪のように

 昇達と相対しながら、風鏡は静かにゆっくりと瞳を閉じる。それは一瞬だけど、その一瞬で今までも事が一気に思い出される。



 カサカサと、静かに舞い降りる雪のように、私の心には密かな想いが積もっていく。



 私は昔から一人で居る時が多かった。両親などは顔すら知らないし、物心が付いた時から施設で同じような境遇の子達と一緒に暮らしてた。

 中には親の事について知りたいと思う子が多かった。だけど私はそんな風に思ったことはほとんど無かった。

 一度も無いわけじゃない、私もそういう風に思ったことはある。……けど、どうせ最後は一人になるのだから、それなら最初から一人でも同じだと思っていた。

だから施設の子達とも一緒に居る事も私は無かった。そんな孤独の中で、私は私なりに生きていた。

 中学と高校は寮のある所を選んだ。施設に居てもいつかは出て行くんだし、それなら早めに出た方が楽だと思ったから。それに、施設の子達にも美味く馴染めなかった私が早く出て行った方が残った子達にもありがたかっただろう。

 そして寮に移っても……私は一人だった。別に友達が居なかったわけじゃない。その頃になれば、それなりの処世術も身に付けていたから、今までのような孤独感からは少しだけ解放された。けど……私を理解してくれる人は居なかった。

 そんな感じで学生時代を終えた私は、適当に就職してそれなりに仕事をしていた。何も問題も起こさなかったし、人付き合いもそれなりにしていたから普通の生活を送っていたと言える。

 ……けど、私は常に一人だった。心の奥底では理解者を求めてた。誰でもいい、誰かに私の気持ちを分って欲しかった。でも、自分からそういう考えをひけらかすのはためらった。なにか……同情を買うみたいで嫌だったから。

 そんな時にあの人が……拓也が私の前に現れた。最初は私も普通に接していた。世間一般で言う大人の付き合い方というやつで。

 ……けど、拓也はある日、私の心を見透かした。

 それは仕事で拓也と話しているときだった。丁度会話が切れて適当に笑顔を作って話題を繋げようとした時だった。

「何か悲しいことでもあったんですか?」

「えっ?」

「いや、凄く悲しい目をしていたから」

 笑顔を崩した事も、悲しい表情をした覚えも無かった。ただ、唐突に理解した。私は……いつでも目に悲しみを漂わせていた事を。

 その時は適当にはぐらかしたけど、それからの私は拓也の言葉が頭から離れなくなり、いつでもその事を考えていた。

 その後も何度か拓也と会う機会があった。拓也はその度に私を元気付けようとしてくれた。何度も誤解だと言ったけど、拓也は聞こうとしなかった。たぶん、私の瞳から悲しみが消えなかったから。

 けど、私もそんな拓也の行為を拒絶しなかった。どこかで望んでたのかもしれない、拓也が……もっと私の中に入ってくるのを。

 それからしばらくして拓也から個人的な呼び出しを受けた。そして言われた事。

「よかったら僕と……付き合ってくれませんか」

「……」

 びっくりした。いや、最初は何を言われたのか理解できずに黙っている事しか出来なかった。黙り続ける私に拓也は狼狽して勝手に話し続けて、最後には勝手にフラれたと勘違いして話を終わらせようとした。

 そんな拓也に私は慌てて声を上げて、出来る限り自分の気持ちを伝えた。その時に話した事は良く覚えてないけど。拓也が私の手を取って嬉しそうにしていた事は良く覚えてる。その時から、私達は恋人になった。

 それから私の世界が変わった。今まで常にあった孤独感は消えうせて、いつでも拓也が傍に居るようだった。そんな温もりを、私はいつでも感じるようになっていた。

 それだけじゃなく、拓也は私をいろいろな所に連れて行ってくれて、その度に私の世界は広がって行った。

 そして時が経つにつれて、拓也の傍に居る一分一秒が降り続ける雪のように私の中に積もっていく。それは大切で、掛け替えの無いもの。大事な、大事な時間。

 その時間の中では私は一人ではなく、すぐ傍に幸せを感じることが出来た。たとえ離れていても傍に感じることが出来た。喧嘩をしても、それでお互いを深く知る事が出来た。大事な存在。

 だから疑う事が無かった。これからもそんな時間が続いていく物だと思ってた。

 けど……そんな日々は、突然音を立てて崩れ去った。

 大した理由があったわけじゃない。ただ、拓也が海を見に行こうと言い出したので、私達は海の見える岬へと向かった。

 小波と海鳥の音を音を聞きながら、私は拓也に寄り添っていた。いつまでも続くと思っていた時間がそこにあった。

 だけど……突然世界が色を変えて、海鳥の泣き声が聞こえなくなった。

 静か過ぎる世界、聞こえてくるのは小波の音だけ。そんな世界に突然迷い込んだ私達は狼狽するばかりだった。そして……あいつが現れた。

「なかなか面白い能力をお持ちですね」

 突然私達の後ろに現れた白衣の男。隔離された世界であいつは笑いながら悠然と私達に近寄ってきた。

「初めまして、私はエルク・シグナル。アッシュタリアの開発技術者です」

 どう見ても怪しい状況に妖しいエルクが現れたのだから、拓也は私を守るように立ちはだかった。私は拓也の腕を掴みながら震えているのが分った、私も……そうだったから。

 エルクは笑みを浮かべていたけど、その奥から感じる恐怖が私達を動けなくしていた。

 そしてエルクは私を庇う拓也に笑顔で言った。

「大丈夫ですよ。そちらのお嬢さんには危害を加えません。用があるのは……あなたなんですから」

 突然私は弾き飛ばされて拓也から離された。そして私が顔を上げると、拓也は何かに縛られてるみたいに身動きが取れずに、宙に浮かされてエルクの前にまで移動させられた。

 楽しげな笑みを浮かべながらエルクは拓也の胸に手を宛てると、エルクの手はそのまま拓也の中に入って行った。

「ぐああっ、あ、あ」

 苦しそうな声を上げる拓也。私は目の前で何が起こっているのか分らず、その場を動けないで居た。

「おや、やはり珍しい能力ですね。心の能力、属性は考ですね」

 更に拓也の中を引っ掻き回すエルク。その度に拓也は苦しそうな声を上げた。

「ほう、これは、なるほど。心の能力は相手を思いやる者、また相手の心を読む術に長けた者が使える能力なんですね」

 それだけを言って拓也の中から手を引き抜くエルク。私はこれで突然の悪夢が終わるものだと思ってた。だがエルクは不気味な笑みを浮かべた。

「心の能力を目にしたのは初めてですよ。これはぜひとも研究したい物ですね。けどこれは……データさえあれば充分ですから」

 見えない何かを手にするエルク。

「器は要らないんですよ」

 それを一気に引っ張り、次の瞬間……拓也は中から弾け飛んだ。

 暖かい物が私に降り注ぎ、それを確認する暇も無く、拓也の頭が私の方にだらりと落ちてきて、無機質な瞳が私を見つめる。

 胸の鼓動が高く早くなり、頭が無理矢理現実を伝えてくる。

「いやああああああああああああああああああああっ!」

 やっと悲鳴を上げた私に構う事無く、エルクは平常と変わらない声で言葉を発した。

「さて、後は器を始末するだけですね。まったく、今の人間社会はめんどうですからね。まあ、事を荒立てなければ自由に出来るワケですから、やる事はちゃんとやりましょう」

 未だに宙に浮いている拓也と一緒にエルクが岬の先に向かって歩き出した。私は震える体を動かして拓也を掴もうとしたけど、エルクによって再び弾かれてしまった。

 そのままエルクは拓也を岬の外にまで持って行き、私の視界から拓也が消えた。

「あっ、あっ」

 震える体をはわせながら、私は岬から乗り出して下を見た。はるか下、岩場のところに拓也が居た。ただ見詰めるだけの私にエルクは無常な言葉を投げつけてきた。

「後を追いたいならどうぞ。止めはしませんからご自由になさってください」

 ワケが分らなかった。ほんの数分前までいつものように笑っていた拓也が、今は冷たい岩場にいる。

 信じられない光景に私は涙を溜めた目をエルクに向けた。

「な、なんで、こんな事を」

 それが出せる精一杯の言葉だった。そんな私にエルクは笑顔を向けて当たり前のように答えた。

「決まってるじゃないですか。いらなくなった道具は捨てる。当たり前の事ですよね」

「どう、ぐ」

「ええ、普通の事ですよ。缶コーヒーも飲み終わったら器は捨てますよね、それと同じですよ。まあ、最近はリサイクルの時代ですから再利用してもいいんですけどね。それもめんどくさいじゃないですか。それに、あなたには器だけでもあった方が良いでしょう」

 それだけを言い残して、エルクは私の前から消えた。そして世界は元に戻り、私に待っていたのは……警察の尋問だった。

 あの場所に居たのは私だけ。当然私はエルクの事を話したが、そんな男は見かけていないという事で処理された。そして拓也の死は事故死となり、真相は全て覆い隠された。

 悔しかった。悔しさで押し潰されそうだった。何も出来なかった事、何も分らない事、何も……拓也にしてあがられ無かった事。そう、拓也は私に大切だと思える時間をくれた、孤独だと思っていた私を引っ張り出してくれた。拓也は……本当に私に大事な物をくれた。

 ……けど、私は何も拓也にしてあげた事は無い。

 だから、だからせめて、敵だけは討つ。それが……唯一、私に出来る事だから。

 そう決意した時、常磐と竜胆が私の前に現れて力をくれた。敵を討つ力を……。

 だから、こんな所で止まれはしない。邪魔する者を全て倒してでも、あいつを……エルクの存在を消してみせる。

 そのためには……どんな事でもしてみせる!



 風鏡はゆっくりと目を開くと鋭い眼光を昇と閃華に向ける。それから視線を少しずらして常磐と竜胆が戦っているのを目にする。

 二人とも戦闘を開始したようで戦っているのだが分った。それから風鏡は昇達に視線を戻すと自らの精霊武具、氷雪長刀を構える。

「では、行きますよ」

 静かだけど鋭い声に閃華は昇より前に出ると龍水方天戟を構えてから、ゆっくりと口を開いた。

「じゃが、その前に言っておこうかのう」

「なんですか?」

「昇の能力じゃ。風鏡殿の能力はこの前見せてもらったからのう」

 昇達が常磐と竜胆に絡まれた時は昇の能力は使っていない。だから風鏡にも昇の能力は分かっていない。

 だが風鏡の反応は冷たいものだ。

「わざわざそのような事を言わなくても結構です。どちらにしても倒す事には変わりありませんから」

「くっくっくっ、では勝手に言わせて貰おうかのう。昇の能力はエレメンタルアップじゃ」

「エレメンタルアップ?」

 聞き覚えが無いのか風鏡は少しだけ考えるような顔になるが、気持ちを切らさない事を優先したのか、すぐに考えるのをやめた。これから倒す相手だから、どうでもよい事なのだろう。

 そんなに風鏡に閃華は言葉を続ける。

「エレメンタルアップは契約した精霊の力を限界以上に上げる事が出来る能力じゃ。まあ、ドーピングの強力版と思ってもらってよいぞ」

 なんか……そう言われると嫌な感じだな。

 閃華の後ろで黙っていた昇はそんな事を思う。まあ、間違いではないのだから、そう言われてもしょうがないのだろう。

 だが風鏡はそれがどうしたという感じで、今にも動き出しそうだが、閃華はそんな風鏡の殺気を軽く流すように笑う。

「くっくっくっ、昇の能力を聞いても闘気は薄れんのう。全て分っているのか、それともまったく分ろうとしないのか、どちらにしても心は折れんか。じゃがな」

 閃華は姿勢を低くするといつでも動けるようにする。

「それ故に、何も見えておらん、何も聞こえておらん。そんな事では……潰されるだけじゃ」

「なら、やってみてはどうですか」

 風鏡も姿勢を下げると、いつでも突っ込めるように構える。

 睨み合う閃華と風鏡。そして動き出す前に、閃華は昇に向かって言葉を放つ。

「昇、分かっておるな。風鏡殿を止めるには潰すしかない。手加減するでないぞ」

「分ってるよ。けど、風鏡さんを潰す気は無いよ。あくまでも力づくで説得するだけだよ」

「同じじゃと思うんじゃがな」

「全然違うよ」

 そう、僕達がやる事は風鏡さんを潰す事じゃない、気付かせる事だ。

 そんな昇の思惑が通じたワケではないが、閃華は笑みを浮かべると一呼吸置く。

「まあ、そこは任せるとしようかのう」

 それだけ言って閃華から笑みが消える。

 それを合図に閃華と風鏡は前に出している足に力を入れると一気に飛び出す。互いに距離を詰めて行き、剣戟音が鳴り響く。

 ぶつかり合い、そのまませめぎ合う龍水方天戟と氷雪長刀。だが突然の変化が龍水方天戟に現れる。

「ッ!」

 龍水方天戟に巻き付いている水龍が凍りだした。最初はぶつかり合っている場所に近い頭から凍りだし、凍結する場所は段々と広がっている。

 その様子を見た閃華は目の前の風鏡に向かって口を開く。

「さすがはれいの属性じゃのう。水龍を凍らせるか」

「このまま行けば、その程度では済みませんよ」

「そうみたいじゃのう」

 氷雪長刀が放っている冷気は龍水方天戟を通して閃華の手にまで伝わるほどだ。確かに、このまま二つがぶつかり合っていれば龍水方天戟まで凍る事になるだろう。

 だが閃華が笑みを浮かべるのと同時に水龍の氷は弾け飛び、元の姿になると龍水方天戟から離れて風鏡に牙をむく。

「くっ」

 閃華から離れる風鏡。すぐに閃華の追撃が来ると思い、いつでも迎撃出来るように隙は見せないが、閃華が追撃する事は無かった。

 そのため、風鏡はゆっくりと再び龍水方天戟に戻る水龍を見ることが出来た。

「龍の水が、流れてる」

「正解じゃ。止まっている水はすぐに凍るからのう。じゃが、動いている水はそう簡単には凍らんぞ。まあ、気休め程度じゃがな」

 わざわざそんな事を口にする閃華。風鏡はそんな閃華を睨み付けるのではなく、冷やかな視線を送る。

(甘く見られてる。精霊はともかく後ろの契約者がまったく動こうとはしない。……なら、その余裕を今すぐに消してあげます!)

 風鏡が氷雪長刀をかかげると風鏡の周りから一気に雪が吹き上がる。それを見た昇は初めて二丁拳銃を構え、閃華は笑みを浮かべる。

「それでよい、本気の風鏡殿を叩かないと意味が無いからのう」

 吹き上げた大量の雪は風鏡の前に落ちると氷雪長刀が振るわれる。

雪流怒涛せつりゅうどとう!」

 昇達に向かって一気に流れ出す大量の雪。雪崩のように迫ってくる雪に閃華は振り向く事無く叫ぶ。

「昇!」

 昇の軸線上から飛び退く閃華。目の前が開けた昇は迫ってくる雪に銃口を向ける。

「フレイムレーザー!」

 銃口から飛び出す赤い閃光、それは昇に迫ってくる雪を一直線に溶かす。だが、そんな事をすれば雪が水に変わり、スピードを増して昇に迫るだけだが、閃華は流れてくる水に龍水方天戟を突っ込んで一気に持ち上げる。

 迫ってくる雪を溶かした事で昇と風鏡を隔てるのは大量の水だけ、その水を閃華は持ち上げて、龍水方天戟の後を追っている。

 大量の水を従えて風鏡へと迫る閃華。大きく跳んで上空から大量の水を風鏡に叩きつけようと龍水方天戟を振るうが、風鏡も合わせて氷雪長刀を振るう。

 龍水方天戟がぶつかる前に水が氷雪長刀とぶつかり合う。普通ならそのまま風鏡に大量の水が叩きつけられるはずだが、氷雪長刀とぶつかった水はその場で凍りつき、その範囲を急激に増していく。

 とっさに水を切り離して雪の上に避難する閃華。風鏡のぶつけようと持ち上げた水は全て凍らされてしまった。

 その光景に昇も驚いた。

 あれだけの水を瞬時に凍らした。う〜ん、さっき閃華が言ってた策は大丈夫なのかな?……今は閃華を信じよう。それが……閃華に応える事になるから。

 そんな事を思う昇。昇自身も風鏡が戦うのを始めて見る。だから風鏡がここまでの力を持っているとは思ってなかったのだろう。

 それでも昇は閃華を信じる事にした。かつて、小松が閃華を信じたように、昇も閃華を信じたかったから。だからこそ、今は閃華を信じて行動を起こす。

 その閃華は風鏡の動きが止まった事を確認すると雪の上から飛び出して一気に攻めに出る。

「龍水刃舞」

 水龍が大きく口を開けて、高速回転する水刃を大量に放つ。

 さすがにこれは風鏡も凍らせよとはせずに、その場から飛び退いて避ける。例え凍らせても回転までは止められず、氷の刃になるだけだ。

 だが、ただ避けるだけの風鏡ではなかった。避けた先は閃華の着地地点からはそんなに離れていない。だからこそ、避けきった後はすぐに閃華に向かって氷雪長刀を振るう事が出来た。

 閃華も龍水方天戟を振るって応戦するが、決して拮抗状態には持ち込ませない。さすがに少しの時間でも氷雪長刀に触れたくは無いのだろう。

 その事は風鏡も分っているみたいで、無理に拮抗状態に入ろうとしない。閃華の実力からして無理に持っていけば、こちらに隙が出来る事が分っているからだ。

 だからこそ、閃華と風鏡は打ち合いを続ける。

 剣戟音が鳴り続ける中で、閃華は一瞬だけ視線を外して昇を見る。どうやらかなりの力を集めてるようで、そろそろだと判断できる。

 閃華が風鏡から視線を外したのは一瞬だけだが、その一瞬を風鏡は捉えていた。

(何かを企んでいるようですね。……契約者の子がかなり力を集めてる。先にそっちを何とかした方がいいみたいですね)

 風鏡も昇が何かをしている事に気が付いた。だからこそ、風鏡は勝負に出る。

 閃華の龍水方天戟が打ち下ろされるのと同時に風鏡は一気に距離を詰める。お互い長い物同士、懐に入り過ぎれば武器は使えなくなる。

 だから風鏡は氷雪長刀を持った手を後ろにして、閃華の懐に飛び込む。

 龍水方天戟が風鏡の肩を打って激痛が走るが、風鏡は痛みを堪えると空いている手と片足を伸ばす。

「なんじゃと!」

 驚きの声を上げる閃華。だが次の瞬間には風鏡は閃華の手と片足を踏み付けていた。そして一気に力を発動させると、閃華の手足を凍らせて行く。

「くっ」

 閃華の手は龍水方天戟を持ったまま凍らされて、足は片足と地面を貫くように凍っていく。

 このまま全身を凍らされると思った閃華だが、風鏡は閃華の動きを封じるだけ凍らせると閃華から離れる。

「いかん、昇!」

 風鏡の意図に気付いた閃華は叫ぶが、風鏡は昇に向かって駆け出していた。

 昇も迫って来る風鏡に目を向けるが、あえてそこから動こうとはしなかった。

 僕を相手に風鏡さんが近距離戦を仕掛けてくるとは思えない。だから、あれが来る。

 風鏡の思考を読んだからこそ、昇は動かなかった。

昇の武器は明らかに遠距離。下手に近距離戦を仕掛ければ昇が先手を取り続けて反撃すらままならないだろう。だからこそ、風鏡はこの距離から一気に仕掛ける。

「雪流怒涛!」

 風鏡の足元から一気に舞い上がる大量の雪。今度は風鏡自身も押し上げて、風鏡を昇に向かって運ぶ。

 風鏡は昇を完全に捉えると雪を蹴って後方へと飛び退き、大量の雪は昇に向かって崩れ始める。

 怒号を響かせながら大量の雪が昇へと流れて行き。遂には昇を巻き込んで大量の雪は崩れ流れた。

 風鏡は雪が昇を巻き込んだ事を確認すると閃華へと振り向く。閃華はすでに腕と足の氷を砕いている。だが凍らされた後遺症が出ているのだろう、まだ上手くは動かせないようだ。

 閃華は凍傷を引き起こしている手足を軽く動かしてみる。どうやら完全に動かせないようでは無いようだ。

 まだ動く手は龍水方天戟を強く握り締めて、閃華は風鏡に目線を向ける。

 そして風鏡と視線が合った途端、風鏡は一気に飛び出して氷雪長刀を振るう。

 ここぞとばかりに一気に攻め立てる風鏡に閃華は避けに徹する。風鏡は攻撃の合間に閃華の表情を捉えるが、その顔に悲観や絶望は無い。むしろ何かを待っているようだ。

 閃華が距離を置くために大きく後ろに退がる。風鏡はあえて追撃は掛けずに氷雪長刀を構えなおす。

「ずいぶんと余裕ですね。何を待っているか分りませんが、契約者は雪の下ですよ」

 閃華の意図を探ろうとしたのだろう。風鏡は閃華に話しかけるが、閃華は笑って流す。

「くっくっくっ、確かにそうじゃな」

 あっさりと答える閃華に風鏡は心の底で歯を噛み締める。

「契約者の助けが無い以上、あなたに勝ち目はありません」

「くっくっくっ、それはどうかのう。それに……まだ昇が退場したと決まったわけではないぞ」

「……」

 閃華の言葉に風鏡は少しだけ意識を昇が居た場所に向ける。

「……ッ!」

 そこには微かだが、雪の下から力を感じることが出来た。

「くっくっくっ、気付いたようじゃな。じゃが、昇の元へは行かせんぞ」

 今度は閃華から仕掛けてきた。閃華に気付いた風鏡も先手を取るために氷雪長刀を振るおうとするが、一旦休んだ事により緊張が解かれて動かした肩に痛みが走る。

(くっ、こんな時に)

 どうやら戦闘の緊張が解かれた事により、痛みを認識できるようにしてしまったようだ。

 しかたなく防戦に回る風鏡。そんな風鏡の状態を察した閃華は一気に攻め立てる。だが風鏡はすぐに痛みを気合で押しのけて攻めに回る事が出来た。

 攻防を続ける閃華と風鏡。そんな二人にくぐもった声が聞こえた。

「フレイムシュート ガドリング」

 昇を飲み込んだ雪から聞こえる声と何かがぶつかり合う衝撃音。その音の正体はすぐに分った。昇を飲み込んでいる雪がすべて溶けて、それがまだ残っている雪にぶつかり始めたからだ。

 それは昇が放った火球。銃口から乱射される火球は残っている雪に当たって溶かし始めている。

 その様子に風鏡は一瞬だけ気が逸れた。その隙を見逃さない閃華は風鏡を弾き飛ばす。

「キャ!」

 海とは反対方向に飛ばされた風鏡はすぐに体勢を立て直すと、追撃してくる閃華に備える。だが閃華は風鏡に追撃しようとはしなかった。それどころか、風鏡に背を向けて海に向かって走っている。

(なっ、何をする気ですか?)

 ワケの分らない行動をする昇と閃華。呆気にとられる風鏡だが、このまま終わるはずも無く、これが次に繋げる布石だと判断する。

(そうすると、どちらかを潰さないとですね)

閃華は昇と海の間で止まり、昇は未だに大量の雪を溶かしており、その足元には大量の水が広がっている。

(……攻撃の要は精霊。なら、先に精霊さえ潰せば、後はこちらの思ったとおりに持っていける)

 閃華に狙いを定めた風鏡は一気に駆け出す。

 迫ってくる風鏡に閃華は面白そうに笑みを浮かべると辺りを見回す。それから迫ってくる風鏡に龍水方天戟を向けると水龍が大きく口を開く。

「龍水閃」

 水龍の口から放たれる圧縮された水。一直線に風鏡に向かって行くが、風鏡はスピードを落とす事無く避けてみせる。

 距離を詰められた閃華だが、風鏡の足元に龍水閃の一撃を放つと、風鏡の前に大量の砂が舞い上がり、風鏡は思わず足を止めてしまう。

 閃華との距離は詰めたことには変わりない。だから何をすればすぐに対応できると判断したのだろう。

 閃華も追撃を掛ける事無く。静かに舞い上げた砂が落ち着くのを待っている。

 そして砂が落ち着くと、風鏡は閃華に鋭い視線を向ける。

「もう逃げ場はありませんよ」

「別に逃げたワケではないんじゃがのう」

「でしょうね。なら、ここで終わりにしましょう」

 相変わらず風鏡の挑発に乗る事無く、軽く流してしまう閃華。そんな閃華に風鏡は苛立つ事も無くなり、冷静に物事を運ぼうとする。

 そんな風鏡を見て閃華は軽く笑う。

「くっくっくっ、さすがじゃのう。その態度、少しは琴未に見習わせたいものじゃな」

 笑う閃華に風鏡は警戒を解きはしない。そんな風鏡に閃華は笑うのをやめると大きく手を広げて自分の左右を指差す。

「さて風鏡殿、私の右側と左側に共通するものはなんじゃろうな?」

 馬鹿げてるとも言える質問。そんな質問は無視しても構わないのだが、それでは閃華にやられた気分になり士気が下がる。

 だからこそ風鏡は閃華を警戒しながら交互に左右を見る。

 右側、距離は開いているが昇が未だに雪を溶かしている。どうやら大半は溶かしたみたいで、今は残り少ない雪を溶かしている。その所為だろう、辺りはかなり水浸しだ。

 左側、これも距離は離れているが海がある。一応、観察してみるが、これと言って目立ったものは無い。

 風鏡は視線を閃華に戻す。閃華は未だに両腕を広げて風鏡の答えを待っているようだ。

 警戒を怠る事無く、風鏡は思考を巡らす。

(二つに共通する点? 海と浜辺に共通する物? いったい何を言いたいのでしょうか?)

 閃華の質問に戸惑う風鏡。もう一度、昇の方向に目を向ける。どうやら昇は雪を溶かし終わったみたいで、荒い息をしていた。

 そんな昇の足元にはしみ込め切れない大量の水があった。

「……そうか!」

 質問の意味を理解した風鏡は声を上げると共に先手をしくじった事を思い知る。

(くっ! やはり契約者から叩いておけばよかったんですね!)

 悔しそうな顔をする風鏡に閃華は口を開く。

「そうじゃ、答えは水じゃな。海には大量の水があり、昇が居る場所には大量の雪を溶かした大量の水がある。そして雪は全て溶かしたからのう、こうなっては風鏡殿の属性よりもこちらの属性が働くんじゃ」

 どちらにも言えること、それは水があるということ。そして雪を全て水に変えたことにより、風鏡の属性では操れないようにしてした。

 雪は水が固体化した物で、その支配属性は雪や冷などが優先されて水の属性では届かない。だが溶かしてしまえば水の属性が優先的に働きかける事が出来る。つまり、この場には風鏡が影響できる物は無いということだ。

「さて、では私の最高技を持って戦いを終わりにするとしようかのう」

 閃華が力を発動させると、昇の周りにある水は砂浜と完全に分離して水だけが舞い上がり、海からの大量の水が閃華の元へと集まってくる。

「龍水舞闘陣 八俣ノ大蛇舞やまたのおろちまい!」

 龍水方天戟から離れた水龍は大量の水と共に閃華の足元へと消えて行き、大量の水がそこに注ぎ込まれると閃華が何かに乗って舞い上がる。

 それは水龍の頭。頭だけでも閃華ぐらいの大きさがあり、首は更に長く続いている。しかも水龍の頭は一つだけではなく、ドンドンと地面から這い出して合計八つになる。

 八つの頭は一つの胴体に繋がっており、更に進むと一つの尻尾が海と繋がっている。

 まさしく、その姿は神話に出てくる八俣ノ大蛇そのものだった。

 八つの首を垂らしながら、水龍の上に乗った閃華は風鏡を見下ろす。

「どうじゃな、水場の強い場所だからこそ使える八俣ノ大蛇舞じゃ」

 閃華の策は全てこの技を発動させるために用意していた物だ。風鏡が大量の雪を使う事は分っていた。だからこそ閃華は昇に風鏡が雪を出したら、それを全て溶かすように頼んだ。

 おかげで風鏡の攻撃を封じつつ、自らの最高技を出す事が出来た。

 閃華が作り出した水龍の八俣ノ大蛇はかなりの大きさがあり、その威力は見なくても充分に分るだろう。

 だが風鏡は水龍の八俣ノ大蛇を目にしても一向に慌てる様子は無く、いつものように平静な態度で口を開いた。

「では、その八俣ノ大蛇を倒したら私はスサノオですね」

「くっくっくっ、そうじゃな」

「私には八塩折やしおりの酒も十握剣とつかのつるぎもありませんが、私なりに大蛇おろち退治と行きましょう」

 風鏡の言葉に笑みを浮かべる閃華。

「くっくっくっ、なかなかサビを分っておるようじゃのう。そういう所を琴未も見習って欲しい物じゃな。さて、風鏡殿はどうやって大蛇退治をするつもりじゃ?」

 閃華の問に風鏡は氷雪長刀を前に出すと刃を下に向ける。

「こうやってです」

 風鏡は氷雪長刀を地面へと突き刺す。地面と接している刃から氷が生まれて伸びていく。それは風鏡の少し前で止まり、円形に広がっていく。そして人の一人分まで広がると風鏡は叫ぶ。

「雪姫 哀愁白夢あいしゅうはくむ!」

 円形に広がった氷が一気に割れて、その中から人が一人、飛び出してきた。

 砂浜に着地するその人物。その姿は風鏡に似ているが、白装束を身にまとい、長く黒い髪を風になびかせて悲しい瞳をしている。その姿は雪女を想像させる者だった。

「雪姫」

 風鏡がそう呼びかけると雪姫は風鏡の前に移動して、守るように立ちはだかった。

 これにはさすがの閃華も驚いているようだ。

「凄いのう、まさか自分の分身を作り出すとはのう。どうやったか教えて欲しいものじゃな」

「別に特別な事はしてません。自分の力を時分に使った、それだけです」

「なるほどのう」

 理論で言えば昇がやった事と同じだろう。契約者や精霊達が使う力というものは属性を通さないと単なる力に過ぎない。そんな物を放出しても意味は無いし、上手く形にならずに散布するだけだ。

 だからこそ、昇は自分自身に力を送り、武具をイメージして具現化させて使用している。

 風鏡の場合だと、武具はエレメンタルがあるから必要ない。そこでもう一人の自分をイメージし、更に能力をイメージして具現化させている。

 やり方は昇と一緒だ。後は何をイメージしたかだけの違い。そしてこの違いこそ、精霊と契約者を分ける物だ。

 精霊にはこんな真似は出来ない。そもそも精霊は属性の象徴であり、生まれながらにして属性に縛られている。だが契約者は違う。その力は契約者本人の物であり、自由に使う事が出来る。

 だからこそ、イメージ次第で具現化などという芸当が出来るわけだ。

 風鏡は砂浜から氷雪長刀を引き抜くと大蛇に向かって構え、大蛇も声は出ていないものの威嚇するように口を開く。

「では、大蛇退治の開始ですね」

「くっくっくっ、そう簡単にはやられんがのう」

 雪姫が飛び出すのと同時に八俣ノ大蛇の首が一つ雪姫に向かって突っ込んでくる。再び死闘が開始された。



 えっと、これはいったいどういう事なんだろう。

 閃華達から離れた所に居る昇は常識外れの戦いに参戦できずに居た。まあ、この状況で昇が突っ込んでいったところで足手まとい以外の何物でもないだろう。

 う〜ん、ここは閃華に任せるしかないかな。まあ、閃華の事だからうまくやってくれると思うけど……僕は何をしよう?

 なんとなく仲間外れになった気分になる昇。少し考えて自分がやるべき事を思い付いた昇は虚空に向かって口を開く。

「与凪さん」

「はいはい、なんですか?」

 昇の呼びかけにすぐにモニターが現れて与凪の姿を映し出す。

「状況を教えて下さい」

「はいはい、ちょっと待ってくださいね」

 そう言ってキーボードを操作する与凪。それからすぐに昇の前に新たなモニターが三つ現れる。

 三つのモニターにはミリアと琴未、シエラ、そして閃華が戦っている様子が映し出されていた。

「皆さん有利に戦闘を進めているみたいですね。けど、相手の精霊もかなり粘っているみたいです。ここまでやれるって事は……かなりの執念ですね」

「うん、常盤さんも竜胆さんもこの戦いには負けられないからね」

 この戦いで負けたら風鏡さんの契約が解かれて、風鏡さんは力を失う事になる。けど……それ以上に二人には戦わないといけない理由があるはず。

 何かを確信している昇。それは確かな絆だと思うからこそ、昇はそこに賭ける事が出来る。

 昇はどちらかというとシエラ達より竜胆達の闘いを見ていた。

 そんな昇に与凪は何気なく口を開く。

「ところで滝下君」

「なんですか?」

「……暇なの?」

「……」

 ……言い難い事をはっきりと言わないで下さいな!

 暗い眼差しを与凪に送る昇。その事が与凪に図星だった事を伝える事になった。

「えっと、大丈夫だよ。滝下君の能力は戦闘向きじゃないから、それに大将は後ろで威張って構えておくものだよ」

 とっさの慌しいフォローをありがとう、与凪さん。

 だがこのまま大人しく待っているのも性に合わない。だからこそ、自分が思っている結末へ行くために昇は手を講じる。

 閃華が勝つのはいいけど……勝ちすぎちゃいけないんだ。どうにかして、丁度良い所で行ければいいんだけど。

 そう考えた昇は閃華の戦いに注目する。

 そのモニターには水龍八俣ノ大蛇を操る閃華と雪姫と一緒に大蛇と戦っている風鏡の姿が映し出されている。

 形勢は……やっぱり閃華が有利か。あの八俣ノ大蛇を相手だと風鏡さんも苦戦せざる得ないか。う〜ん、決めるにしても、あの雪姫をどうにかしないと難しいな。かと言って閃華が勝ち過ぎると機を逃すし……あっ、そうだ。

 何かを思いついた昇は与凪に向かって口を開く。

「与凪さん!」

「はいはい、どうしました」

「閃華と話せる? 出来れば風鏡さんに気付かれないようにしたいんだけど」

 昇に言われて風鏡はキーボードを叩く。

「音声だけの通話ですか? う〜ん、さすがにバレる可能性が大きいですね」

「そこを何とかできない?」

「……分りました、少し待ってくださいね」

 そう言って与凪はキーボードから手を離し、意識を集中させる。

 少し待っていた昇だが、自分の近くに小さな霧が出来ている事に気付いた。その霧は薄くだが閃華に続いているようだ。

「滝下君、準備できたわよ。その霧に向かって話しかけて」

 昇は頷くと与凪に言われたとおりに霧に向かって話しかける。

「閃華、聞こえる?」

『なんじゃ?』

 返事はすぐに帰ってきた。一応、昇はモニターに目を移してみるが閃華は視線を風鏡から外してはいない。どうやら閃華も霧には気付いていたようだ。

 昇は一安心すると続きを話す。

「閃華、どうにかして風鏡さんの近くに居る、あの人を倒す事が出来る?」

『雪姫か?』

 閃華に聞かれて昇は返答できずに困ってしまったが、与凪があれが人ではなく風鏡が作り出した分身だと説明してくれた。

 あれは与凪さんの能力が作り出した分身なんだ。なんか……皆いろいろな事を考えてるんだな。って、今はそんな場合じゃないか。

 昇は気を取り直すと話を続ける。

「その雪姫だけを倒せそう?」

 要するに風鏡は倒すなという事だ。無茶な注文ではあるが閃華なら出来ると昇は信じていた。

 そして閃華もそんな昇に応えようとする。

『随分と無茶な注文じゃのう。じゃが、やってみよう』

「うん、ありがとう。そして雪姫を倒した後なんだけど……」

 昇は更にその先の事を説明する。



 ………………。



 説明を終えて昇は閃華の反応を待つが、与凪が先に口を開いた。

「相変わらず凄いと言うか、そんな事をする必要があるの?」

 与凪の質問ももっともだろう。なにしろ昇は水龍八俣ノ大蛇すら使おうというのだから。

 だが昇はそんな風に水龍八俣ノ大蛇を使う事に閃華が怒るのではないかと心配だった。だが閃華は軽く笑い出した。

『くっくっくっ、何を企んでおるかは知らんが、その後はどうするつもりじゃ?』

「それで終わりだよ」

 閃華としてはそれで終わるとは思っていなかったのだろう。だが、昇はそれでこの戦いを終わりにするつもりだ。

『……まあよい、全ては昇に任せておる。じゃから昇の言うとおりにしようではないか』

「うん、ありがとう閃華」

『わざわざ、礼などいらんがな』

 そういう閃華だが、その声から少し嬉しそうな気持ちが昇には伝わってきた。

 昇は与凪に通信を終えた事を告げると、周りに浮いているモニターも全て消してもらってから走り出した。

 正直……自分のやっている事が正しい事だとは言い切れない。でも、風鏡さんの幸せを願っている人が居るなら、風鏡さんは復讐に捕らわれるべきじゃないと思う。

 押し付けかもしれない、自己満足かもしれない。でも、時間が戻らない以上はそれからは逃げられない。だから、向き合わないといけないんだ。例えどんなに……苦しくて答えが出ないものでも。それが……生きて行くという事だと思うから。

 その時になって昇はようやく風鏡に伝えるべき言葉を思いついた。それは昇が無意識に手を伸ばしていた事。閃華と風鏡がずっと見ていた物とはまったく逆の物。

 過去は過去、どんなに探しても問題しかない。答えは今日の続きにある。例え無くても作り出す事が出来る。それが未来だと昇は思う。

 過去をヒントに未来に答えを見出す。それが昇のやり方だ。

 だからこそ、今は目指して駆け続ける。自分が出した答えを風鏡に聞かせるために……。







 さてさて、そんな訳で七十六話でしたが、いかがでしたでしょうか。

 ……やりすぎ? まあぶっちゃけると怪獣と妖怪ですからね。八俣ノ大蛇と雪姫ですよ。

 これに関しては私もどうしようかと思ったんですが、八俣ノ大蛇舞はかなりの条件がありますし、雪姫ぐらいならありかなと思い、思い切ってやっちゃいました。……大丈夫!!! 後悔はしてないから……たぶん。

 さてさて、次回は風鏡との戦いに決着を付ける……予定です。まあ、相変わらずどうなるか分りませんが、予定では後二話で純情不倶戴天編を終わらせる予定です。

 いや〜、長かった純情不倶戴天編も終わりが見えて来ましたね。……閃華の過去が思ったより長かったのはご愛敬ということで。次章も長くなりそうだ!!! という事で末永いお付き合いをお願いします。……見捨てちゃヤダ、お・ね・が・い(ハート)

 ではでは、懇願が終わったところで締めましょう。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票と人気投票もお待ちしております。

 以上、戦国武将が女性の間では大人気ですね。ちなみに、私もその辺には広くて浅い知識を持っていますと、小声で主張してみる葵夢幻でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ