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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
73/166

第七十三話 責任

 閃華に引っ張られるようにして強制移動させられる昇。だが昇はその中で炎の発生源を発見した。

 あれは、竜胆さん!

 竜胆は灼熱斬馬刀を地面に叩きつけて、そこから昇達が居た場所に炎が走っていた。明らかに昇達に対しての攻撃だ。

 ……そうか、まだ終わりじゃないんだ。僕は、エルクを倒せなかった責任を取らないといけないんだ。……風鏡さんに対して。

 強制的に跳んだとはいえ、なんとか無事に着地する昇と普通に着地する琴未と閃華。そこにミリアを連れたシエラが舞い降りてくる。

「あっちは完全にこっちを敵視してる。昇、どうする?」

「それにしてもいきなり攻撃してくる事は無いでしょ! もう少し礼節って物を!」

「琴未、奇襲をするのにわざわざ挨拶してくるバカはおらんぞ」

「それよりご飯は、ご飯〜!」

 皆が、それぞれの意見を行っている間に昇は風鏡に対して、どうしたらいいものかを考えていた。

 正直……考えが甘かった。エルクがあそこまで強いなんて思わなかった。完全に僕達の油断だ。もう少し情報があれば戦況は違ってたのに。

 ……いや、今更そんな事を言ってもしょうがない。僕は僕が出来る事をするしかない。それが……僕の出来ることだから。それが風鏡さんの意に反しても、僕はそれを貫かなくちゃいけないんだ。それが唯一……僕が風鏡さんに出来ることだから。

 鋭い眼差しをシエラ達に向ける昇。そのことが昇の意を示していたのだろう。

「皆、ごめん、もうちょっと付き合って」

 真剣な表情で話しかけてきたので、シエラ達も口を閉ざして昇に視線を集める。

「今回の事は……完全に僕の失敗だ。だからこそ、風鏡さんに対して責任と取らないといけないと思うんだ」

「けど、謝って許してもらえる雰囲気じゃないわよ」

 琴未の言うとおり、風鏡達は完全に昇達を敵視している雰囲気を出しながら、ゆっくりとこちらに向かってきてる。

「もちろん、僕も謝るつもりは無い。これは僕の意思でやったことで風鏡さんは関係ないから」

「昇、そういう発言は控えた方がいい。人によっては自分勝手に思われる」

「分ってるよ、シエラ。けど、風鏡さんだけには……どんな風に思われようと自分の意思を貫きたい」

「それは風鏡殿のためか、それとも自分のため、どっちじゃ?」

 妙な笑みを浮かべて意地悪な質問をしてくる閃華に琴未は文句を言うが、昇ははっきりと答える。

「両方!」

 その答えに閃華は軽く笑い、シエラは微笑を向けて、琴未は溜息を付き、ミリアはワケが分らないという顔をしている。

「このまま風鏡さんが復讐を遂げるようなことは、絶対にやっちゃいけないような気がする。もしそんなことをしたら、風鏡さんまで死んでしまいそうだから。それに、僕は自分の意思でエルクを倒すと決めた。これ以上、エルクの被害者を出さないために。だから、皆には悪いけど、もう少し付き合って」

 はっきりと断言する昇にシエラは微笑みながら答える。

「私達は昇と契約を交わした精霊。だから昇の意思は私達の意志。だから私はどこまでも、昇に付いて行く。絶対に離れる事無く」

「シエラ」

 シエラの言葉に昇は少しだけ安心した顔を見せる。だが、シエラにいい所をもって行かれて不満な琴未はそれを表に出さずに、二人の間に割って入る。

「まっ、私は人間だけど、このままシエラ達にいい所を持っていかれるのもしゃくだし、それに昇の事は昔から私が一番分ってるから。だから昇、自分の信じた道を進んで。もし、邪魔な物があるなら私が蹴散らすから」

「琴未、ありがとう」

 琴未も琴未でなかなか良い雰囲気を作り出す。その事にシエラは少しだけ不満そうな顔になるが、ここはぐっと堪える事にした。今の状況で雰囲気を壊すと士気に関わると思ったからだろう。

 だが二人とも忘れている。この中には全ての雰囲気をぶち壊す者がいる事を。

「昇〜」

 昇の後ろから袖を引っ張ってくるミリア。昇はそんなミリアに振り向くと微笑を向ける。

「どうしたの、ミリア」

 今までの雰囲気が良かった所為だろう。昇はミリアの頭を撫でながら優しい笑みを向ける。だが、ミリアはまるで捨てられた猫のように昇を見上げて一言。

「ご飯はおあずけ?」

「……」

 さすがに笑顔のままで固まる昇、シエラは呆れたように溜息を付いて頭を抱え、琴未に至っては豪快にずっこけている。

「さすがは地の精霊じゃな。まさか大地だけではなく、せっかくの雰囲気まで破壊するとはのう。まさにフラグクラッシャーじゃな」

「突っ込むところはそこじゃないでしょ! というか何、フラグクラッシャーってなにっ!」

 勢いよく立ち上がり閃華に突っ込む琴未。閃華はそんな琴未を制しながらミリアに近づく。優しく頭を撫でる。

「ミリア、これからの一戦は昇と風鏡殿が己の決意を貫くための戦いじゃ。じゃからもう少し我慢してくれ」

 静かに語りかける閃華にミリアもそれなりに感じる物があったのだろう。すんなりとご飯の事は諦めたようだ。

 そして閃華はミリアをどかして昇の隣に並ぶ。

「それでどうするんじゃ昇。相手は邪魔されて話し合いが通じる相手ではないんじゃぞ。ここは力付くでねじ伏せるしかあるまい」

 だが昇は頭を横に振る。

「いや、それ以外に何かしら手があるはずだよ。それに……復讐なんてしたら自分自身まで殺してしまう。僕はそんな事を……風鏡さんにさせたくない」

 その言葉を聞いた閃華は目を細める。

(どうやら昇は分かっておるようじゃな、復讐が成す意味を。……じゃが昇、風鏡殿の思いは純真じゃ。じゃから昇が風鏡殿の心を理解できるかが、この戦いの鍵じゃな)

 たぶん、この時点で昇の意思と風鏡の心を理解しているのは閃華だけだろう。それは閃華が昔に経験した事が風鏡の心を教え、昇やシエラ達と築いてきた絆が昇の意思をしっかりと閃華に伝えていたからかもしれない。

 その後、妙に静かになる昇達。そんな昇達の前に風鏡達が言葉の届く距離に到着した。



「よくも人の決闘に横槍を入れてくれましたね」

 最初に会った時とは別人のような雰囲気を出しながら昇に語りかけてくる風鏡。その雰囲気はまるで研ぎ澄まされた刃のようだが、昇はそんな風鏡に動じる事無くしっかりと返事を返す。

「確かに結果的にはそうなったかもしれません。ですか、あなたがあなたの意思で戦っているように、僕も僕の意思で戦いました」

「その結果がエルクに逃げられるというものですがね」

 挑発というべき風鏡の言葉にも昇は表情一つ変えずに返答する。

「確かに僕の不甲斐無さでエルクを倒す事が出来ませんでした。ですが、それは僕とエルクの戦い。風鏡さんには関係ないと思いますが」

「なに勝手な事を言ってるのよ! 大体あの挑戦状だって元々はふ……」

 激昂する竜胆を制して風鏡は冷静に昇と向き合う。

「ですが、あなた達の勝手な行動でエルクを逃した事は事実。その責任はどう取ってくれるのですか?」

 鋭い睨みを利かせてくる風鏡。そんな風鏡に昇は武器をツインブレイドから二丁拳銃に戻すと片方の銃口を風鏡に向ける。

 その事に戦闘体勢に入ろうとする両陣営だが、昇と風鏡がそれぞれを制す。

「何の真似ですか?」

 冷静に、そして冷たく言い放つ風鏡。そんな風鏡に昇はしっかりとした意思を視線と言葉に込める。

「これが答えです。そして……僕がここに来たもう一つの目的です」

「もう一つの目的?」

「ええ、ここで……あなたを止める事です」

 さすがに驚きの表情を隠せない風鏡。それはそうだろう、昇の発言は……宣戦布告なのだから。

「なにを、いや、そんな事をしてあなたに何の意味があるのです」

 先程の宣戦布告が示している意味が分からないのだろう。風鏡は少し動揺しながら、昇に問いただす。

 だが昇はすぐには答えずに、少しの間目をつぶる。それはほんの数秒だったかもしれないし、もっと長かったかもしれない。だが再び目を開けたときの昇の瞳には何の迷いも無く、強い意志だけが宿っていた。

「正直、僕がいくら考えても風鏡さんの気持ちは分らない。けど、このままだと風鏡さんは自分までも殺してしまう。僕は、そんな風鏡さんを黙ってみているわけには行かない」

「例えそうであっても、私がどうなろうとあなたには関係ないでしょ!」

 昇の行動が分らない風鏡は明らかに動揺しているように声を荒げる。まあ、それはそうだろう。出会って数日も経たない人のために昇は命がけの戦いを申し込もうとしようとしている。そこまでして自分を止めようとしている理由が風鏡には見つからない。

 だが、昇にはしっかりとした理由がある。

 さっきのエルクでも、そしてロードキャッスルでも、僕は誰一人助ける事は出来なかった。確かに僕は凡人で無敵のエースにはなれないかもしれない。けど……自分の目の前でもう悲しい出来事は見たくないんだ!

「僕は目の前で風鏡さんが復讐の代価を払うのは見たくない。それは凄く……悲しい事だと思うから。だから、僕が戦う理由はそれだけで充分です」

 その言葉に今度は風鏡が目をつぶると、すぐに鋭い瞳を昇に向けた。

「どうやら、これ以上の言葉は必要ないみたいですね」

「そうかもしれません。それでも、僕はあなたを説き伏せてみせる。たとえ、力づくでも」

「言ってる事が支離滅裂よ」

「同じです。倒して見せます。あなたも、そしてあなたの心も!」

「……なら、やってみなさい!」

 一旦距離を置くために大きく後ろに跳ぶ風鏡、竜胆と常磐もそれに従い、昇達と距離を置く。

 相手が一旦退いた事で昇達はそのままで距離を保つ。どちらとも戦闘準備が出来ていない以上は多少の作戦会議をする時間が必要だ。だが、あまり時間も取れない。もちろん、先に先手を打った方が有利になるからだ。

 その事を理解している昇はシエラ達の方へと振り向く。

「琴未、ミリア。エレメンタルアップ無しで常磐さんの相手を出来る?」

 率直に意見を聞いてくる昇。時間が無い以上は無駄な説明をしている暇は無い。それを察している琴未も正直な意見を返してきた。

「正直、自信が無い。あの常磐って精霊は技を駆使してくるタイプだから。私はともかく、ミリアがどこまで付いて行けるか分らないわよ」

「分った。なら琴未が先行して常磐さんとぶつかって。ミリア、琴未の援護は出来そう?」

「シエラよりスピードが遅いから大丈夫だと思うよ」

 さすがにこの発言にはミリアを睨み付ける琴未。どうやらシエラと比較された事をねたんでいるんだろう。

 だがそれもしょうがない。なにしろ、この二人が組むのは初めてなのだから。普段はスピード重視のシエラに援護として重装甲のミリアが付いてバランスを保ち。まだ未熟な琴未には閃華が付いてフォローしている。

 それが普段の連携なのだが昇はあえて、その連携を崩してきた。だが、昇がそうするにはちゃんと理由がある。

「二人とも、常磐さんを倒す事は考えないで」

「どういうこと?」

「後で全部説明する。シエラ」

「なに?」

 今度はシエラに振り向く昇。

「エレメンタルアップを少し絞った状態で、あの竜胆さんと一人で渡り合える?」

 少し考え込むシエラ。だが、すぐに答えを出してきた。

「あまりエレメンタルアップを少なくされるとキツイ。あの斬馬刀を相手にしてだと、どうしてもかなりのスピードアップを要求すると思うから」

「分った。エルクと戦ってたときぐらいの力なら、なんとかなる?」

「それだけあれば充分」

 よし、これで竜胆さんと常磐さんは抑えられる。後は、一気に攻め込むだけ。

「じゃあ、琴未とミリアは常磐さんを、シエラは竜胆さんを押さえ込んで。倒す必要は無い。ただ風鏡さんの援護に回れないようにして。その間に僕と閃華が風鏡さんを倒す。それで終わりにしよう」

 一気に説明する昇。ミリアは追いついていないようだが、琴未が代わりに補足してやり、シエラはすでに宙に羽ばたいている。

「皆、準備はいい?」

 最後に全員に振り向く昇。シエラ達もそれぞれの答えを返してきた。

「大丈夫、任せて」

「まあ、何とかしてみせるわ」

「頑張るよ〜」

「では、行くとしようかのう」

 頷く昇。そして風鏡達に振り向くと合図を出して昇達は駆け出して行った。



 風鏡達に向かいながらも昇は指示を出していく。

「シエラと琴未は先行して二人を引き離して。ミリア、琴未を運んであげて」

「分った」

 シエラは返事を返して一気に急上昇するが、一方の琴未はあまり乗り気ではないようだ。それでもミリアはアースシールドハルバードを地面に付き立てる。

「琴未、行くよ!」

「ちゃんと狙いなさいよね」

「大丈夫」

 そう返事を返してくるミリアだが、やはり琴未は心配そうだ。そんな琴未の心境をミリアが察するわけも無く、手加減無しで一気に力を地面へと流し込み、琴未の足元から常盤までの砂浜を一気に硬化させて一直線の道を作る。

「いっけー!」

 ミリアは地面に突き刺したハルバードを抜き取ると、今度は先程作り出した道に向かって振るう。

「自動なんとかアースウォーカー!」

 その途端、一気に加速する琴未。いや、正確に言えば琴未が加速したのではなく。琴未が乗っている硬化した地面が動き出した。しかもかなりのスピードで琴未を運んでいる。自動歩道の精霊バーションとでも言うべきなのだろうか。どちらにしても、琴未が乗っている道が高スピードで動いていることは確かだ。

 だが、乗っている琴未はいきなり急加速したことにバランスを崩しそうになるが、なんとか体勢を取り直して方膝を付く。

「ミリア、手加減って物があるでしょ!」

 いきなり急加速した歩道に乗せられたのだから、琴未が文句を言いたい気持ちも分らなくないが、かなり加速が付いているため文句がミリアに届く事は無かった。

 だがそのおかげでもうすぐ常磐に迫れる。けれども琴未の頭にはふとした疑問が過ぎる。

(これって……止まってくれるわよね?)

 心配になり後ろを振り向く琴未は絶望する。なにしろ、かなり距離は離れてた位置でミリアも加速している道の上に乗っている。ということはつまり、この加速する歩道は現在誰も制御していないと言う事だ。

「ミリア―――っ!」

 文句を叫びに変えるがどうしようもない。

 しかたなく、加速する歩道上で常磐に狙いを付ける琴未。そして歩道の終わりが迫り、道が途切れる寸前に常磐に向かって雷閃刀を振り上げたまま跳んで突っ込む。

 歩道の勢いがあったからか、かなりのスピードで常磐に突っ込んでいくが所詮は一直線に加速しただけ、常磐が少し体をずらしただけで琴未は常磐の横を猛スピードで通り過ぎて行き。砂浜に足が付くと、砂浜を削りながらなんとか止まる事が出来た。

「あなた達はなにがやりたいの?」

 さすがに敵とはいえ常磐も呆れた表情を隠しきれない。だが、そんな常磐に向かって琴未は笑みを向ける。

「もうすぐ分るわよ」

 その琴未の笑みに常盤も真剣な表情に戻り、風陣十文字槍を琴未に向かって構える。だが琴未の狙いはまだ先にある。というか、先程の仕返しだろう。

(狙いは一瞬だけ、しくじれば後は力押ししかないわね。なんとか決めないと!)

 琴未も雷閃刀を構えて二人は戦闘体勢に入るが、常磐はちゃんともう一人の存在を忘れていない。もちろん、未だに加速する歩道で移動してくるミリアである。だが、常磐が背を向けているため、ミリアも攻撃のチャンスだと思ったのだろうアースシールドハルバードの矛先を向けて突っ込む。

 歩道の終わりと共に一気に跳んで常磐に突っ込むミリア。そして、誰もが予想したとおりに常磐はちょっと移動すると、猛スピードを制御できないミリアは常磐の横を通り過ぎていく。

「だから」

「甘いのよ!」

 ミリアに気を取られた間に常磐に突っ込む琴未。当然、常磐もミリアだけに気を取られて琴未の事を忘れていたワケではない。

 常盤も風陣十文字槍を縦に構えて防御の姿勢に入る。普通なら刀より槍を持つ常盤の方が有利なのだが、常磐はあえて防御の姿勢に入った。それはミリアに気を取られて初動が一瞬だけ遅れたからだ。

 その隙に琴未は一気に常磐の懐に入ってくると読んだから、常磐はあえて防御に出た。

 だが琴未が本当に狙っていた真の目的は常磐に防御させる事だった。

(思ったとおり、これで槍を突き出してくることは無わね。後は一気に決める!)

 常磐に迫る琴未。その途中でミリアが琴未の横を通り過ぎる。と、常磐も思っただろう。

 だが琴未はミリアが横に入る寸前に雷閃刀を消して素手でミリアを掴むと、片足を軸にして勢いを殺さずに一回転する。そして常磐に狙いを定めるとミリアを掴んでいた手を離す。

「必殺、ミリアアタック!」

 常磐に向かって飛んでいくミリア。先程までのスピードをほとんど殺していない事と、かなりの近距離まで詰めていた事で、もはや常磐には避ける事は不可能。そのため、猛スピードで突っ込んできたミリアを直撃する。だがそれだけでは収まらず、ミリアと一緒に風鏡から離れた方向へと飛んで行ってしまった。

 さすがの常磐もこんな馬鹿げた攻撃をしてくるとは思って無かっただろう。十文字槍でなんとかミリアを受け止めたものの、その勢いだけは殺しきれなかった。そのため、ミリアと一緒に明後日の方向へと飛んでいく羽目になったようだ。

「よし、狙い通り!」

 一人、満足な琴未は再び雷閃刀を手にすると、そのままミリアと常磐を追って駆け出していった。



「常磐!」

 さすがにあんな馬鹿げた攻撃をしてくるとは風鏡達はおろか昇達すら予想できなかった。

 そのことで常盤のフォローに回ろうと竜胆が動くが、すぐにその場で止まり風鏡を遠ざける。

 そして次の瞬間、頭上から猛スピードで突っ込んできたシエラのウイングクレイモアを灼熱斬馬刀で受け止める。

 重力とエレメンタルアップでかなりのスピードを得ていたシエラのウイングクレイモアと直撃したのだから、その衝撃は一気に竜胆へと圧し掛かり、周りへも衝撃波となり砂浜を陥没させる。

「ぐっ、前より……重い」

「当たり前、前は見せなかったけど、これが昇の能力、エレメンタルアップの力」

「エレメンタルアップ! あの子、そんな力を隠してたの!」

 さすがに驚きの表情でシエラの攻撃を受け止める竜胆。それでもシエラの攻撃を受け止めきると、すかさず反撃に出る。

 一気に燃え上がる灼熱斬馬刀。さすがに距離を取るシエラ。斬馬刀だけならともかく、あの炎まで相手にするには長時間も近距離に居るのは危ない。

 あの斬馬刀が炎の属性を帯びているのは先程確認済みだ。だからこそ、シエラはスピードを生かした攻撃に切り替える。それでもスピードだけではあの斬馬刀をどうにかできないのは以前の戦闘で経験済みだ。

 なにしろ竜胆の斬馬刀はああ見えても切り替えしが早い。だからこそ、うかつに飛び込めば斬馬刀に叩き斬られる事は目に見えている。

 だがエレメンタルアップ状態のシエラなら充分に竜胆の斬馬刀と打ち合うことが出来る。

 一旦距離を置くシエラ。だがエレメンタルアップでかなり加速しているシエラは、竜胆との距離はかなり開いた。

 ここまで開けば詰めて来る間に時間が出来るのは必至。だからこそ、竜胆も斬馬刀を構え直してシエラを睨み付けるが、そのシエラが一瞬にして姿を消す。

 いや、正確には低空で竜胆に迫ってきてる。シエラが低空で飛んでいるため、その風切りの影響で砂浜の砂が舞い上がってる。そのため、竜胆もシエラの姿は捉えられないものの、こちらに向かってきてる事は察した。

 だがそれだけで、それ以上の時間は無かった。竜胆が気が付いた時には自分の斬馬刀とシエラのウイングクレイモアがぶつかり合っていた。そこでシエラは更に追い討ちを掛ける。

「フルブースト!」

 低空で真横からではなく、少し相手を打ち上げるように切り上げていたものだから。竜胆はどうしても上に押し上げられて、踏ん張りが効かなくなって来る。そこにブーストを掛けて更に竜胆を押し上げようとしているのだから、とても踏み止まれるものではない。

 その場に留まり続けられない竜胆はシエラに押されるままに風鏡から離されて行った。



「これであらかたの大勢は決したのう。常磐は琴未とミリアが、竜胆はシエラが風鏡殿から遠ざけた。こうなってしまってはもう目の前の相手をするしかないからのう。上手く先手は打てたようじゃな。それで昇、これからどう進める?」

 ここまで体勢を作ってしまえば昇達はそんなに急ぐことも無いのだろう。すでに駆けているのではなく、歩きながら風鏡に向かっていた。

 そんな中で閃華は一人、昇に問い続ける。

「それにじゃ、先程のエルク戦でシエラが疲れてるのだとしたら、ここは私ではなく琴未を連れて行くところでないのか? 琴未とも一緒に鍛錬をしておったんじゃろ。なぜ、わざわざ私を選んだんじゃ?」

 確かに昇との連携を考えたのだとしたら、ここは琴未と組んだ方が連携が取りやすい。なにしろ、昇は無理矢理、まあ、最近では自主的になってきたが二人に鍛えてもらっている。だからこそ、シエラと琴未の思考を読むことが出来て、連携も取りやすくなる。

 それなのに今回は閃華を選んだ。そのことの意味を聞いてくる閃華に昇は笑みを向ける。

「たぶん、閃華が考えてる事と一緒だよ」

「……」

 一瞬の沈黙。閃華は驚いた表情をするがすぐに笑い出す。

「くっくっくっ、随分と一人前な口をきくようになって来たのう」

 茶化すような物言いで答えてくる閃華。だがそんな閃華に昇は真剣に答える。

「たぶん、これが閃華に出来る、たった一つの事だと思ったから。閃華は今でも小松さんを止められなかった事を悔やんでる。それはそれでいいと思う。もうどうしようもない事だから。けど、風鏡さんは違う。今からでも間に合うから」

 つまり、それこそが閃華の悩み続けた根源。閃華がずっと気にしてたのは小松のことではなく、あくまでも風鏡の事だった。それは小松と言う前例があるからこそ、風鏡を止めたい気持ちに駆られた。だが他人の自分が出て行く幕ではない。だからこそ、閃華は全ての思いを胸の内に秘めようとしていた。

 だが出来なかった。胸の内に封じ込めたいと思ってはいたが、どうしても抑えきれない衝動に駆られる。その度に、閃華は小松の最後を思い出していた。

 だからこそ、風鏡を止めたいと思っていただろう。もう二度と、小松の悲劇を繰り返さないために。

 だが、それはあくまでも閃華のワガママだ。それを他人である風鏡に押し付けるわけには行かない。それでも小松のような悲劇を見たくないことも確か。そんな葛藤をしている内に事態は閃華の知らぬ間に事は進んで行ってしまった。

「たぶん、こうすれば閃華の迷いも晴れると思ったから」

「つまり、エルクを倒せば風鏡殿の復讐は目的を失って意味を成さず。失敗しても力づくで、風鏡殿を説き伏せれば私の迷いは消えると思ったんじゃな」

「うん……余計な事だったかな?」

 少し心配そうで閃華を覗き込む昇。だが、閃華はそんな昇に笑みを返した。

「いや、ありがとう。そして、すまなかったのう」

「えっと、どうして閃華が謝るの?」

 ワケが分らず少し驚いた表情をする昇に閃華は微笑みかける。

「私は……もっと信頼すべきじゃった。昇達の事も、そして小松の事も。どこかで信頼して、いや、信用しきれていない部分があったんじゃろ。だからこのようなことに、私がもっと昇達を信頼していれば」

「それは違うと思うよ」

 閃華の言葉を遮り、今度は昇が微笑みかける。

「閃華は僕達を信頼してないからいつでもフォローに回れるようにしてくれている。それが僕の知ってる閃華だよ。だから閃華は、今の閃華でいいと思うよ」

「……くっくっくっ、あははっ」

 えっ、どうして笑われるの!

 突然笑い出した閃華に驚く昇だが、うっすらと閃華の目に涙が溜まっている事には気付いていないようだ。

(そうじゃな、それが私じゃ、私のやり方で生き方じゃ。今まで当然のようにしてきた事なのに、今更そのような事に気付くとはのう。……そうじゃ、あれはあれでよかったのかもしれない。あれが、私の精一杯じゃったのだから)

 現在も、そして昔も閃華の戦い方は何一つとして変わっていない。いつでも周辺を見ており、誰かのフォローに回れるようにしている。それが閃華の戦い方だ。そして生き方でもあったのだろう。

 周りに絶対の信頼を置かずにいつでも自分がフォローできるように動く。それが閃華のやり方だ。だからこそ、昇も、そして小松も閃華を信頼できた。いつでも閃華が見ていてくれると言う安心感があるからだろう。

 絶対の信頼を置かない事で、絶対の信頼を得る。それが閃華という精霊なのだろう。

 笑いを止めた閃華は昇に気付かれないように目を軽く拭うと、風鏡に向かって鋭い視線を向ける。

「では、行こうとするかのう。風鏡殿への責任、それを果たしに」

「うん、エルクを倒す事が出来なかった以上、風鏡さんを止めるのが僕達の責任だから」

 それからは無言で歩き続ける昇と閃華。その中でも閃華は少しだけ遥か昔に思いをはせていた。

(小松、私は未だに小松がそのような行為に及んだのかはよく分かっておらんのかもしれん。じゃがな、はっきりと分ったぞ。小松は……自分の業を私にまで背負わせる気は無かったと言う事がな。じゃからこそ、私達は道を違えたんじゃな)

 確かに閃華と小松は道をそれぞれに分けた。道勝が死んで以来、小松は道勝の敵を取るための道。閃華は小松を幸せにする道。どちらも互いを思いやり、強い絆で結ばれていた。

 だからこそ、二人の道は違うものとなった。

 小松には子が居なかった。そうなれば林家も断絶、そのうえ放逐されたからには閃華が小松に仕える意味が無い。だからこそ、小松は閃華に自分の道に戻ってもらいたかったのだろう。本来の精霊としての道へ。

 だが閃華の意思はそれとは間逆なものだった。残された小松の人生を精一杯、閃華は小松に生きて欲しかった。

 どちらとも相手を思いやる純真な思いから出てきたことだ。だからこそ、二人は道を違えるしかなかったのかもしれない。

(違えた道、もう戻す事は出来ない過去。じゃが、目の前に小松と同じ道を進もうとしている者が居る。それを踏み止ませることが私の願いじゃったのかもしれん。そして昇達は私のためにその道を作ってくれたんじゃ。もう迷う必要は無い、後は突き進むだけじゃ)

 無言で歩き続ける昇達、そしてお互いの言葉が聞こえる範囲で昇達は歩みを止めた。

「ここまでです、風鏡さん。あなたに復讐をさせるわけには行かない」

「どうあっても邪魔をしたいみたいですね。竜胆と常磐が私から離れた以上、後は私を倒すだけですか。そこまで私の邪魔をしてあなたに何の得があるのです」

「別に損得でやってるわけじゃないです。僕はただ、あなたが復讐をする姿を見たくない。それだけです」

 二丁拳銃を構える昇。それでも風鏡は長刀を構えようとせずに、長刀を強く握り締めて涙を見せる。

「それだけ、たったそれだけで私の邪魔をするの。あなたに……あなたになにが分るって言うの!」

 長刀を構える風鏡。閃華も昇の前に出ると龍水方天戟を構える。

「……確かに昇がやっておる事は風鏡殿にとって邪魔でしかないじゃろ。じゃがな、昇はそこまでしてまで風鏡殿に復讐をして欲しくは無いんじゃ。分ってくれとは言わん。じゃが、知っておいて欲しいのじゃ」

「だからなんだって言うの! あいつは、エルクは私の目の前で拓也を殺したのよ! 実験動物のように無残に! そんな奴を許せるわけが無い、だから……私の手で消してやる。永遠に!」

 恨み、憎しみ、殺意、それらを瞳に強く宿らせながら風鏡は昇達に向かって睨みつけてくる。それを見ても、昇の瞳から強さが消えることは無かった。

「確かにあなたの行動にどうこう言うのは僕の勝手かもしれません。けれど、あなたの幸せを望んでいる人がいる。それだけでも、あなたは幸せな未来を掴まないといけないんです」

 真剣な面持ちで言い放つ昇。だが風鏡は笑い飛ばすだけだ。

「どうやら私の身辺については調べていないようですね。今の私には両親も兄弟も居ない。孤立無援だった。そんな中で拓也だけが私の傍に居てくれた。だから、今の私にはそんな人は居ないのよ!」

「居ます! それは風鏡さんが気付いていないだけです」

「なら誰なの! それを教えて」

「ええ、教えてあげます。けど、それは言葉ではなくこれで」

 銃口を風鏡に向ける昇。その事に風鏡も笑い出す。もうその瞳には狂気しか宿っていない。

「結局、あなたはそうやって自分のワガママを貫くだけでしょ。なら私も、邪魔する者は全て倒す!」

 長刀に一気に力を流し込む風鏡。その力はかなりのもので力がオーラとなり長刀を包み込むほどだ。

「さあ、行くわよ。氷雪長刀ひょうせつなぎなた

「閃華」

 それを見て昇も閃華の名を叫び、自分の能力を発動させる。

 閃華から一気に昇の元へ伸びてくる赤い紐を掴む

 あれっ? なんかいつもより太いような。

 そんな事を一瞬だけ気にしたが、風鏡はすでに攻撃態勢に入っている。悠長に考えてる暇は無い。だからこそ、昇は高らかに叫ぶ

「エレメンタルアップ!」







 そんな訳でお送りしました、エレメの七十三話はいかがでしたでしょうか。正直に申しますと、私的にはちょっと自分の腕の無さを実感しました。伝えたい事を上手く伝えられていないんじゃないかと。そんな感じですが、たぶん、これが現在の私にとって精一杯なのでしょう。だからこそ、今回の教訓を活かして次につなげたいと思ってます。

 さてさて、話は変わりますが……琴未とミリアを組ませたら意外と面白い? とか思っちゃってます。……いや、自分で書いておきながら「必殺、ミリアアタック!」が結構気に入ってしまいました。書いている時にはニヤニヤしながら書いてたぐらいですから。

 さて、純情不倶戴天編もラストバトルに入ったことですし、そろそろ終わりが見えてきましたね。そんな訳で、そろそろ次のを作り始めないとなとか思ってるんですがね、ついつい後回しに……そろそろ始めないとヤバイかな。でもまあ、いつもの事なのでなんとかなるでしょ。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票と人気投票もお待ちしております。

 以上、九月ぐらいからいろいろと忙しくなりそうな葵夢幻でした。

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