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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
71/166

第七十一話 敵陣突破

 よほど大規模な精界の中で中規模な戦闘が行われているのだろう。昇達が精界に突入した時には少し遠くの方で戦闘音が聞こえてきた。

 やっぱりもう始まってたんだ。

 たぶん風鏡達が戦闘しているのだろう、戦闘区域の一角から爆発音や衝撃音が聞こえてきた。

 遠巻きに風鏡達が戦闘している事を確認した昇達の前に突如モニターが現れて与凪が映し出された。

「はいはい、皆さんそろってますか?」

「ええ、それで与凪さん、現状はどうなってるの?」

 昇が聞き返すともう一つ別のモニターが現れる。そこにはVを逆にした形の右側に凸型のマークが示されていた。

「これは?」

「これが現状。どうやら相手は五〇〇近くの機動ガーディアンで鶴羽の陣で布陣してるわ。そして、その風鏡さんとやらは敵の左翼と交戦中。そしてエルクは中央の布陣よりも更に奥に居るわ。分った?」

 ……えっと。

 どうやら良く分かってないようだ。そんな昇を察したのだろう。閃華が布陣が映されているモニターで説明を開始した。

「つまりじゃ、鶴羽の陣とは見てのとおり鶴が羽を大きく広げたような布陣。まあ、今風で言うとV字を逆にした布陣じゃ。この布陣は下手に中央に突っ込んで行けば一気に包囲殲滅させる事が出来る布陣じゃ。そこまでは分るか?」

 頷く昇、どうやら鶴羽の陣をようやく理解したらしい。

「そしてじゃ、風鏡殿は相手の左翼、こちらから見ると右側じゃな、その先頭集団と戦闘中と言う訳じゃ」

「でもでも、なんで風鏡はそんな端から戦ってるの? 真っ直ぐ進めばすぐにエルクのところにいけるよ」

 そのミリアの質問に呆れた顔をする閃華と与凪、どうやらミリアには鶴羽の陣が良く分かっていなかったようだ。

 そんな呆れている二人に代わり、シエラがキーボードを出現させると中央から攻め込んだらどうなるかを説明し始めた。

「確かに現在、中央はがら空き、だからといってそこに突っ込んで行くと」

 シエラはキーボードを操り、自分達を締める凸型の印しを中央から進める。そして凸型が一番奥まで進むと、両翼が閉じて始めて、最後には完全に包囲されてしまった。

「こうなる」

「じゃから言ったじゃろ、これは中央の敵を包囲殲滅する布陣じゃと」

「あははっ、そうだっけ」

 笑って誤魔化すミリア、どうやらやっとミリアも理解できたようだ。そして全員が現状を理解すると、当然これからの行動を求められる。

「それで滝下君、どうするの?」

 確かに僕達が下手に中央を進むと包囲されるかもしれない。それが分っているから風鏡さん達も端から攻め始めたんだ。なら僕達も反対から攻めれば両端から削っていける。……いや、それじゃダメだ。僕達は風鏡さん達よりも早くエルクに到達しないといけないんだ。それにはどうすれば……そうだ!

「与凪さん、中央にどれぐらいの機動ガーディアンがいるか分かる?」

「ちょっと待ってね」

 そう言って分析を始める与凪、だが相手の数が少ないためかすぐに答えが帰ってきた。

「さすがに中央は厚いみたいね。一〇〇の機動ガーディアンが編隊を組んでるわ」

「つまり中央に一〇〇、両翼に二〇〇ずつの布陣じゃろうな」

 一〇〇か……でも、それを全部倒す必要は無いだからいけるかも。

 方針を決めた昇は顔を皆に向けると、とんでもない事を言い出す。

「中央を一気に突破しよう」

 さすがにこの発言には驚く一同。中央突破の危険性は先程説明したばかりで、昇も充分に分かっているはずだ。

「ちょっと昇、さっき中央を行くのは危険だってシエラが説明したじゃない」

 琴未の発言に頷く一同、それでも昇には策があるようで笑みを浮かべる。

「大丈夫、確かに危険な賭けだけど、スピードと突破力があれば上手く行く」

 その言葉に何かしらの策がある事を察した閃華と与凪は、その策を聞いてくる。

「それで、どうするつもりなの」

 与凪が聞くと昇は布陣が映されているモニターのある部分を指差す。そこはエルクがいる前に布かれている中央の部分だ。

「ここに攻撃を集中させて一気に道を作って突破する。たぶん全員で一斉に攻撃をかければ道は出来るはずだから、そしたらそこを一気に突破して二組に分かれる。一組はエルクを、もう一組は後続の機動ガーディアンをそれぞれ対処する。これで行こうと思う」

「確かに危険な賭けじゃな」

 もし一撃で突破できなければ包囲されることは確実だ。だが、突破できれば相手にするのは中央の機動ガーディアンだけですむ。つまり敵の右翼が幽兵、つまり戦闘に参加できない戦力にすることが出来る。

 もちろん、右翼が昇達を包囲するために動き出すだろうけど、二〇〇もの集団だ。包囲するにしても時間が掛かりすぎる。そのうえ左翼は風鏡達が相手にしているから布陣を崩す事はできない。もしそんな事をすれば風鏡達もエルクの元へ着き易くしてしまう。

 後は敵の右翼が昇達を包囲する前にエルクを倒してしまえばいい。

「けど、成功すれば一気に優位に持っていける」

「それに敵の左翼は風鏡さん達を相手にしているから崩せないはず。だから右翼が中央を包囲する前に突破できれば」

「エルクとの一騎打ちに持っていけるというわけじゃな」

 頷く昇、そしてモニターの向こうで与凪は呆れたようにため息を付く。

「相変わらず無茶な事をしようとするわね」

「でも悪い案じゃないわよ。それに私達には昇が居るしね」

 そう言って昇にウインクする琴未。そしてせめてもの嫌がらせにシエラが二人の間にウイングクレイモアを差し入れる。

 まあ、そんな事は置いておいて、確かにいざとなったら昇のエレメンタルアップで一気に突破できるだろう。それに昨日の戦闘で相手の機動ガーディアンが驚異的なのも分っている。だからどうしてもエレメンタルアップを使わざる得ないだろう。

 だが昇も戦闘に参加するのだからエレメンタルアップは最小限に抑えたい。使わないのが一番だろうだが、この状況では無理だろう。

 それでも、エレメンタルアップを入れれば、そんなに無茶な賭けではなかった。

「まあ、確かにいざとなったら昇のエレメンタルアップが有るしのう。そんなに分の悪い賭けではないじゃろ」

「そうね、確かに滝下君のエレメンタルアップは驚異的だもんね。それに滝下君も力をつけてきてるし、行けるかもしれないわね」

「じゃあ皆、それでいい?」

 昇が聞くと全員が頷いてみせる。そして昇もそんな皆に笑顔を見せると、すぐに真剣な眼差しになり振り向く。

「行くよ」

 その言葉を合図に昇達は敵の中央をエルクに向かって一直線に駆け出した。



 鶴羽の陣、その中央を一直線に突き進む昇達。当然、敵の右翼は昇達を包囲すべく動き出すが陣形を崩すわけには行かない。そのため、どうしても行動が遅くなる。

 だが昇達は少数、その機動力は敵の右翼よりもはるかに勝っている。そこがこの策で一番重要な点の一つだ。

 やっぱり敵の動きは遅い。これならこっちが先に中央につける。

 敵の動きを確認しながら、昇は自分達の状況を冷静に分析する。確かにこのまま行けば先行できる。後はどれだけ早く中央を突破できるかだ。

 そして敵の最右翼がやっと昇達の後ろに回りこんだのと同時に昇達も中央戦力とぶつかる事になった。

「琴未と閃華が先行して、その後にシエラと僕が一気に道を作る。ミリアは突破中に迫ってきた敵を一掃して」

 一気に指示を出す昇。どうやら昇の指示能力もかなり上がってきたようだ。

 そして昇の指示通りに琴未と閃華が一気に前に出る。

「もう大丈夫なんでしょうね」

「くっくっくっ、誰に向かって言っておるんじゃ。それに先程も約束したばかりではないか。琴未を昇の正妻にするまで手伝うと。じゃから、もう心配はいらん」

 琴未に笑みを向ける閃華、琴未もそれを笑みで返すと二人は敵陣に向かってそれぞれの武器を突き出す。

「一気に行くわよ!」

「任せておけい」

 琴未の雷閃刀は急激に帯びている電撃が一気に強まり、閃華の龍水方天戟に巻き付いている水龍が離れると、今までの倍以上に巨大化する。

「龍神激」

 そして敵陣に向かって水龍が一気に突入する。

「雷撃閃」

 そこに雷閃刀から幾つもの雷が水龍に直撃する。だが雷は水龍に吸収されて、水龍はその巨体に雷までもまとい敵陣の先頭へ、その巨体を当てるのと同時にまとっていた雷も連鎖的に爆発を引き起こす。

 やっぱり二人の連携は凄いな。

 琴未と閃華の攻撃で敵陣の先頭はほとんど全滅、かなりの数を倒したようだ。

 そんな二人の攻撃に感心しながらも、昇は次に取り掛かる。

「シエラ!」

「分ってる」

 ウイングクレイモアの翼が羽ばたき、空へ舞い上がるシエラ。昇も二丁拳銃を目の前の敵に向かって銃口を向ける。

 シエラは先程、琴未達が撃破した敵陣の上にまで進むとウイングクレイモアの翼を大きく広げる。

「フルフェザーショット」

 翼から放たれる無数の羽。それは一気に敵へと突き刺さり爆発する。そこへすかさず昇は銃口の先に大きな光の球を作り出す。

「フォースブレイカー」

 昇がトリガーを引くのと光球からレーザーが発射される。その太さは昇の体よりも大きく、そのレーザーが一気に敵陣を切り裂くいていく。

「敵陣中央に居た機体は全滅、滝下君、道が出来たわよ」

 モニター越しに与凪がそう報告してきたので昇は頷くと皆に向かって叫ぶ。

「一気に駆け抜けるよ!」

 その言葉を合図に一気に駆け出す昇達。機動ガーディアンの残骸が転がる中を一気に突き進んでいく。

「滝下君、早く、もう敵は穴が開いた中央に向かって進軍を開始してるわ。このままだと間に合わない」

 なにしろ敵陣の中央に真っ直ぐと全滅させられたのだ。敵もこのままじっとしているわけが無い。なにしろ敵の機動ガーディアンは戦闘思考システムを改良した新型。当然、開いた陣形を埋めに密集を始める。

 そんな事は最初から昇も分かっている。だがそれでも昇達は駆け続ける。

「とにかくギリギリまで駆け続けて、それからミリア、僕が合図を出したら一気にやっちゃって」

「うん、わかったよ」

 駆け続ける昇達、それを包囲しようとする機動ガーディアン達。双方、その距離を縮めながら昇達は駆け続ける。

 だが機動ガーディアン達の方が一歩早く、もうすぐで突破できそうな時に機動ガーディアン達が昇達の前に立ちはだかり、そのまま包囲しようと動き出す。

「ミリア!」

 ミリアに向かって叫ぶ昇。その言葉にミリアは頷くとアースシールドハルバードを地面に突き立てる。

「アースドーム」

 砂浜の砂が一斉に吹き上がると昇達を包み込み、砂は更に密集して岩盤へとその姿を変える。

「ブレイク!」

 更にアースシールドハルバードに力を注ぎこんだ途端、昇達を包んでいた岩盤は四方八方へと一気に破裂する。

 辺りに飛び散った岩盤は昇達を包囲しようとしていた機動ガーディアン達にぶつかり、時には突き刺さり、昇達の周辺に居た機動ガーディアン達を全滅させる。

 よし! これでいけるはずだ。

 確信を得た昇は高らかに叫ぶ。

「皆、一気に駆け抜けて!」

 再び駆け出す昇達。当然、機動ガーディアン達も昇達を追うが、先程の攻撃で昇達の近くに居た機動ガーディアン達が全滅したため、他の機動ガーディアン達とはかなり距離がある。

 それでも迫ってくる機動ガーディアン達を尻目に駆け続けた時だ。

「敵陣突破、やったよ滝下君!」

 喜びの声と共に与凪が報告してくる。

 よし、ならここで。

 残るはエルクだけだが、後ろにいる機動ガーディアン達も止めなければいけない。

「ミリア、琴未、閃華、皆はここで機動ガーディアン達を足止めして。僕とシエラがエルクを倒すから」

「うん、わかったよ」

「気をつけてね」

「油断するでないぞ、相手もかなりの使い手みたいじゃからな」

 それぞれ掛けてくれた言葉に頷く昇。それからかなり後方に居るエルクを見た後、シエラに視線を向ける。

「シエラ、行くよ」

「分った」

 昇はシエラの手を取るとウイングクレイモアが羽ばたき、二人を中に浮かせて翔け出した。

 結局僕は閃華や風鏡さんの答えを出すことは出来なかったけど。それでも! もうこんな事が起きないようにエルクを倒さないといけないんだ。僕は、僕にはそれだけしか出来ないから。

 それが昇の出した答えだ。それが正しいのか間違っているかは誰にも分かりはしない。人はそれぞれ自分の壁にぶつかりながら生きているのだから。

 昇、閃華、風鏡、それぞれ同じ問題を抱えているように見えるがそれは違う。そもそも同じ悩みや、問題などは存在しない。人はそれぞれ自分の心があり、自分の問題を抱えているのだから。たとえ似てようとそれはまったくの別物である。

 だからこそ、昇は自分が出した答えを信じて突き進む。それがたとえ……どんな道であっても。



 昇達を見送ったミリア達は迫ってくる機動ガーディアンに備える。

「与凪、敵陣はどうなっておるんじゃ」

「はいはい、ちょっと待って下さいね」

 すぐに解析に移る与凪、だが敵の数が少ないためか、すぐに答えは返って来た。

「敵中央、残り六四体。左翼は風鏡さん達に備えるためだろうけど、陣形は崩してないわ。けど右翼は二つに分かれた」

 新たに現れたモニター、そこには敵陣と昇達を指し示ており、確かに敵の右翼は二つに分かれていた。

「各隊一〇〇ずつに分かれて一方は中央、もう一方は迂回して皆さんを囲むつもりみたい」

「中央の戦力を強化しつつ、横からも仕掛けようというわけじゃな」

「それで閃華どうするの?」

 昇が居ない以上は、ここは閃華が指示を出すのが一番だろう。ミリアも琴未もそう思い、閃華に意見を求めるが、閃華は笑みを返してきた。

「くっくっくっ、良い機会じゃ。二人に戦のやり方を教えてやろうとしようかのう」

 その言葉に困惑するミリアと琴未を無視して閃華は与凪の方へ視線を移す。

「敵の右翼が私達の横を突くまでにどれくらいかかりそうじゃ」

「最初は包囲しようと中央に寄ってたから、このスピードだと……一時間半ぐらい掛かるんじゃないかしら」

 その言葉に頷く閃華は再び二人の方へと向き直る。

「集団での移動は時間が掛かるものじゃ。そして一時間半もあれば昇達も決着を付けられるじゃろう。つまりは」

「横からの戦力は気にしなくていいって事?」

「うむ、そのとおりじゃ」

 琴未の答えに満足そうに返事を返す閃華。それから迫ってくる機動ガーディアン達に向く。

「つまり私達の役目は一つじゃ。一兵たりとも昇達の元へ行かせてはならん。全ての機動ガーディアンをここで食い止める事じゃ」

「思いっきり暴れればいいんだね」

「昇達の元へは行かせないわよ」

 自分達の役目を理解したミリアと琴未はそれぞれ意気込む。それから閃華は何かを思い出したかのように与凪を呼び出す。

「はいはい、なんですか?」

「昇達に伝えておいてくれ、私達へのエレメンタルアップはいらんとな。これぐらいならなんとかなるじゃろ。それにエレメンタルアップをシエラ一人に絞ればかなり有利に出来るはずじゃ」

「はいはい、わかりました。では、伝えておきますね」

 与凪との通信を切った閃華は二人よりも前に出る。

「私が先頭で当たるから、二人とも思いっきりやってよいぞ。それに、戦のやり方もみせてやるぞ」

 それから閃華は少しだけ笑みを浮かべると龍水方天戟に力を注ぎこむ。

「龍水舞闘陣」

 龍水方天戟から離れた水龍はその体を大きくすると、閃華を取り巻くように宙を漂う。

「よいか二人とも! 相手は多数じゃ、どこから攻撃が来るか分らん。じゃから常に周りは確認してるんじゃぞ。それから大技を使うときは、その後に出来る隙も考慮するんじゃぞ、特にミリアはな」

 確かにミリアの性格なら後先考えずに大技を使いそうだが、それでも指摘されて少しだけ膨れる。そして琴未はというと、先程から軽い笑みを浮かべている閃華の横に並ぶ。

「なんだか嬉しそうだね」

「いや、懐かしいだけじゃ」

 そう、昔……小松との戦場もこんな臨場感じゃったな。じゃが、今は琴未が隣におる。

 それは昔の絆と今の絆。同じようでもまったく違う物。だけど今の閃華にはそれがまったく同じ物に感じてならない。

そう、閃華が紡いだ絆は人は違えど同じ物なのかもしれない。そしてそれは閃華だからこそ感じる事が出来る絆だ。

 隣にいる琴未に視線を移す閃華。その姿形は小松とまったく違ったもだが、しっかりと繋がっている絆を感じる。

 昇が言ったとおりじゃな。確かに今の私達もしっかりとした絆で結ばれておるんじゃ。じゃからこそ、この絆も大切にして行かんとな。

 新たに出来た絆を感じながら閃華は迫ってくる機動ガーディアン達に視線を移した。

「では行くぞ、二人とも油断するでないぞ」

「大丈夫よ」

「分ってるよ」

 返って来た言葉に閃華は笑みで答えると、敵の先頭集団に向かって駆け出した。

 今は昔に帰らん、じゃからこそ、同じ失敗をしないよう、今は全力で戦うだけじゃ。

 迫ってきた閃華に先頭集団から三体の機動ガーディアンが同時に槍を突き出す。だがその槍は閃華を取り巻いている水龍によって阻まれ、抜けなくなってしまった。

 それでも槍を引き抜こうとする機動ガーディアン。閃華は水龍を飛び越えると動きを封じられている機動ガーディアンを一気に撃破する。

 だが閃華の背後から別の機動ガーディアンが剣を振り下ろすが、それは閃華に届く前に水龍によってその機動ガーディアンは噛み砕かれてしまった。

 噛み砕いた機動ガーディアンの残骸を吐き捨てた水龍は再び閃華を取り巻き、閃華と共に敵陣へと突っ込んでいった。



「私達も負けてられないわね、行くわよミリア!」

「は〜い!」

 閃華に続けとばかりにミリアと琴未も敵陣に向かって駆ける。

 琴未は駆け続けながらも雷閃刀に力を溜めると、その力を一気に上空に向かって解き放つ。

 上空へ放たれた力はある程度の高度で止まり魔法陣を展開させる。

「さあ、久しぶりにやるわよ」

 琴未だけが駆けるのを止めて、その場に踏み止まると迫り来る機動ガーディアン達に狙いを定める。

「落雷陣!」

 上空の魔法陣から放たれた幾つもの雷が琴未に迫ってきた機動ガーディアン達に直撃して破壊する。

「よし!」

 一気に目の前の機動ガーディアン達を撃退した事に喜ぶ琴未だが、相手は新型の機動ガーディアン。たとえ他の機動ガーディアンがやられようとも最善の攻撃方法で攻撃を仕掛けてくる。

 突如、琴未の前に飛び出してくる機動ガーディアン。どうやら先程の落雷陣を己を武器を投げつける事で防いだようだ。そのため、素手で琴未に殴りかかってきた。

「私をなめないでよ」


 ─新螺幻刀流 改 飛翔乱舞─


 雷閃刀に雷をまとわせながら一気に機動ガーディアン達に飛び込んでいく琴未。だがその動きは初動からかなりのスピードがついており、機動ガーディアン達が琴未に殴りかかる前に一閃を入れる。

 だがそれで終わりではない。琴未はすぐに反転、そして一閃と一瞬のうちに機動ガーディアン達を切り刻む。

 そのため、機動ガーディアン達が地面に着いた頃には完全に切り刻まれ、溜まった雷により爆発した。

 これで最初の敵は撃破出来た。琴未は次に向かってきた機動ガーディアン達にも雷を落としていく。



 一方、ミリアはというとアースシールドハルバードを地面に突き立てると一気に力を注ぎこむ。

「連続アースウォール、いっけ〜!」

 ミリアの前方にある砂場が一斉に吹き上がり、幾つもの壁を作り凝固して完全にミリアに迫っていた機動ガーディアン達を阻んでしまった。

 だがその程度で進軍を止める機動ガーディアン達ではない。壁の高さがあまり無い事を察した機動ガーディアン達は一斉に壁の上を飛び越えようとするが、それを狙い済ましたようにミリアも一気に仕掛ける。

「ブレイク!」

 一斉に砕け散る壁。その破片が上空にいる機動ガーディアン達に激突、または突き刺さり次々と地面へ落ちていく。

 さすがに上空にいては新型の機動ガーディアンでもどうする事も出来ないようだ。

 だが後続の部隊は壁を飛び越えようとする寸前だったので、その被害は最小限ですんだみたいだ。そのため、障害物が無くなったことをいい事に一気にミリアに向かって突き進む。

 だが機動ガーディアン達は気付いていないようだ。ミリアのアースシールドハルバードが未だに地面に突き刺さっている事を。

 笑みを浮かべるミリアは一気に力を注ぎこむ。

「一気にいっちゃうよ〜。アースブレイカー!」

 アースシールドハルバードから幾つもの赤い光の線が地面を走る。それが後続部隊の最後方に達すると地震が起こり、赤く光る線が地面を二つに切り裂いていく。

 一気に切り裂かれた地面は、その破片を辺りに吹き飛ばすのと同時に衝撃波すらも巻き起こす。

 地震で動きが封じられた上に地割れと衝撃波が襲い掛かって来たものだから、機動ガーディアンの何体かは地割れに巻き込まれて落ちて行き、残った機体も衝撃波と地面の破片が突き刺さり撃破されていく。

「見たか!」

 迫ってきた機動ガーディアンを全滅させたミリアは、嬉しそうにアースシールドハルバードを地面から引き抜き満面の笑みを見せる。



「龍水閃」

 水龍から放たれた水は高圧縮されており、そのうえ砂も巻き込んでいるため、それだけで機動ガーディアンを貫けるほど威力を持っていた。

 手近に居た最後の一体を撃破した閃華は辺りを見渡す。ミリアと琴未は未だに戦闘を続けているようだが、閃華の付近に居た機動ガーディアン達は全滅したようだ。

 よし、なんとか行けそうじゃな。

 そして敵が来ない事を確認した閃華は与凪を呼び出した。

「はいはい、どうしました」

「中央の戦力は後どれくらいじゃ?」

「ちょっと待って下さいね」

 すぐに分析に掛かる与凪。だがそれほど時間が掛からずに終わった。

「中央戦力、残り三二」

「増援が来るまで後どれぐらいじゃ」

「元々中央に向かってましたからね、そんなに時間は掛からないみたいですよ。後、一〇分後には合流しちゃいます」

 一〇分か、出来る事なら合流する前に中央は全滅させておきたい所じゃな。

「与凪、琴未とミリアに通信をつなげてくれ」

「はいはい」

 そして新たに現れるモニター、そこには戦闘中の琴未とミリアが映し出されている。だが、そんな二人に構わず閃華は指示を出す。

「二人とも一時撤退じゃ。合流するぞ」

「ちょ、いきなり言わないでよ」

「こいつらどうするの〜」

「こっちが合流すれば敵も合流を計ってくるはずじゃ、そして集まった敵を一気に全滅させるんじゃ。このままじゃと敵右翼と合流して不利になるばかりじゃからな、その前に中央を全滅させる」

「分ったわよ!」

「付いて来るな〜」

 閃華の指示通りに後退する琴未とミリア。そしてある程度引き離したところで機動ガーディアン達も追撃を止めて合流するため中央に集まる。

 やっぱりのう、さすが戦闘思考システムじゃな。もっとも効率が良い戦法を選んでくるのう。じゃがそれ故に、その行動も読みやすいというものじゃ。

 段々と中央に合流してくる機動ガーディアン達。そしてミリアと琴未も閃華と合流する。やはり数が少ない閃華達の方が合流が早い。まあ、そこまで計算して上で閃華は指示を出したのだから当然といえば当然である。

「よし、あやつらが完全に合流する前に叩くぞ。琴未、まだ落雷陣は消しておらんな」

「もちろん、まだガンガン撃ち放題よ」

「ならミリア、私が合図を出したら地震を起こしてあやつらの動きを封じるんじゃ。そしたら琴未はあの集団に向かって雷を落としまくれ」

 一気に指示を出す閃華。だが琴未には引っ掛かる事があるようだ。

「閃華はどうするの? 普通に地面の上に居たら閃華だって動けないでしょ」

「くっくっくっ、大丈夫じゃ、心配いらん」

 まあ、閃華がそこまで言うなら何かしらの手があるのだろうと琴未は妙に納得する。

「では行くぞ」

 再び機動ガーディアン達に向かって駆け出す閃華達。その事に機動ガーディアン達も気付いているのだが、戦闘思考システムが合流を優先させる。

 それはそうだろう。なにしろ数では勝っているのだから集まった方が有利なのは決まっている。

 だがそれは相手の戦闘能力が同じぐらいならの話である。機動ガーディアンはどれだけ集まってもその戦闘能力は一兵卒。逆に精霊や契約者は一騎当千。その差までは新型の戦闘思考システムでも計算できないのだろう。

 その事を示すかのように閃華達は動き出す。

「ミリア!」

 閃華がミリアの名を叫ぶのと同時にアースシールドハルバードは地面へ突き刺さり、琴未はその場に停止する。そして閃華はというと機動ガーディアンに向かって突き進む水龍の上に乗る。

「やあっ!」

 ミリアが気合と共に一気に力を注ぎこむと、アースシールドハルバードを中心点として周囲に大規模な地震を巻き起こす。

 崩れてしまいそう程揺れる地面に機動ガーディアン達は立っている事すら不可能で、それは琴未も一緒に膝を付いて地震に耐える。

 そんな中でも琴未は雷閃刀を通して上空に展開されている落雷陣を一気に発動させる。

「いっけー!」

 掛け声と共に落雷陣から轟音を発しながら幾つもの落雷が機動ガーディアン達に降り注ぐ。

 さすがに地震の中で発動させているのだから命中度は低い。それに琴未自身も狙い定めるわけでなく、集団の中にありったけの雷を落としているだけだ。

 そんな中で宙を翔ける閃華を乗せた水龍は、多少上昇すると雷が降り注ぐ機動ガーディアン達がよく見える位置に移動する。

「一気に決めるぞ!」

 閃華の言葉に反応した水龍はその口を大きく開く。

「龍水閃」

 水龍の口から放たれた大量の水は機動ガーディアン達に襲い掛かり、その機体を吹き飛ばすのと同時に辺りに大量の水が降り注ぐ事になった。

 そのため、琴未が放っている雷は水を伝わり周囲の機動ガーディアン達にも一気に通電させる。そのうえ、落雷陣は未だに雷を落とし続けている。そのため、周囲に溜まった電力は凄まじく、それが限界に達した瞬間、大爆発を引き起こした。

 よし! 狙い通りじゃな。

「与凪!」

 未だに水龍に乗りながら爆煙が収まらない場所を見ながら閃華は状況確認を求めた。

「残りの中央戦力は?」

「はいはい、ちょっと待って下さいね……敵中央全滅、やりましたよ!」

 よし、これで残りは増援の右翼部隊だけじゃな。

 水龍を反転させて琴未達の元に戻る閃華。そして合流すると水龍も龍水方天戟に戻った。

「やったよ〜、これで相手は全滅だね」

「それは中央戦力だけじゃミリア、直に敵の右翼増援が到着するじゃろ」

「まあ、それでもちょっと休憩ね」

「そうじゃな」

 あれだけの数を相手に一気に暴れたのだから、閃華達にも多少疲労の色を見せているが、まだまだ余裕はあった。

「とにかく、こっちはこの場で待機して回復じゃな。後は敵の増援が付き次第、迎撃する。よいな」

 閃華の言葉に頷くミリアと琴未。そして閃華は昇達が向かったエルクの方へ視線を移す。

 後ろは任せておけい。じゃから昇、頑張るんじゃぞ。



 シエラの手を取り、ウイングクレイモアで宙を翔ける昇達は一直線にエルク向かって突き進む。

 見えた!

 完全にエルクの姿を捉えた昇はシエラの手を離すと地面に向けて落下、その勢いのまま砂浜をすべり、エルクの前で止まった。

「エルク!」

 すぐに銃口をエルクに向ける昇、その隣にシエラも舞い降りる。だがエルクは意外な事に笑い出した。

「何がおかしい!」

 昇が叫ぶとエルクは視線を昇に戻す。

「あははっ、まさか鶴羽の陣を逆手にとって少数精鋭による中央突破を図るとは。あははははっ、本当に君は面白い事をする」

 エルクとしては昇の戦略を褒め称えてるつもりらしいが、昇はその賞賛を甘んじて受ける気にな絶対になれなかった。

「そんな事はどうでもいい。それよりエルク、これ以上お前の被害者を出さないために、ここで僕が倒させてもらう」

 そう言って睨み付ける昇だが、エルクは逆に笑みを浮かべる。

「そうだ、そう来なくてはいけない。君が来なければわざわざ決闘状を出した意味が無いのだからね」

「やっぱり狙いは僕か?」

「ああ、そうだよ。契約者は実験体としてはとても貴重なんだ。だからここで確保させてもらうよ!」

 エルクの手が何かを掴むように握られた瞬間。シエラは一瞬にして昇の周りをウイングクレイモアで振るう。

 えっ、何があったの?

 突然の事態に困惑する昇だが、シエラはエルクを睨みつけ、エルクは更に笑みを浮かべる。

「ほう、それに気が付くとは、なかなかだね」

「どういうこと?」

 昇が目線を移さずシエラに聞くと、シエラは手を差し出した。

 えっと、それはどういう意味なんでしょう?

 それでも昇には分からないのだろう。だからシエラはエルクを警戒しながら口を開く。

「見えづらいけど力を収束させた糸。これで昇を絡め捕らえようとした」

 そうだったの!

 改めて己の事態を理解した昇はエルクに更なる警戒心を抱く。だが逆にエルクは楽しそうに笑うだけだ。

「あはははははははっ、そういえば、そちらの精霊もなかなかの者だったね。すっかり契約者に捉われてて忘れてたよ。でも、その程度だと私には勝てませんよ」

 つまり、自分の実力はこの程度ではないと言いたいのだろう。要するにエルクも未だに昇達に見せていない力があるということだ。

 ……なら、こっちから一気に攻め立てる。

「シエラ!」

 昇の目線だけで意図を察したシエラは頷く。

「私達の力もこの程度じゃない」

「あははっ、そういえばそうでしたね。君の能力、そろそろ見せてもらいましょうか」

「僕の力、全力で見せてあげるよ」

 昇はありったけの力で能力を発動させると、シエラから昇にしか見えない赤い紐が一気に伸びてきて、それをしっかりと握り締めると思いっきり力を注ぐ。

「エレメンタルアップ!」

 その途端、シエラの力は限界を超えて急激に上がり、エルクが驚く暇を与えずに突っ込んでいった。

 こうして、エルクとの最終決戦の幕は開かれた。







 ……長っΣ(゜Д゜ υ)  そんな訳で今回はかなり長い話になりました。というか、最後は収集できなくて無理矢理切ったように感じるかもしれませんが、それ皆さんの気のせいだと思い込ませてください。私はとっくにそう自分に信じ込ませました。

 さてさて、今回は未だに戦国時代を引きずっているのか、それっぽい話になりましたね。というか、好きなんですよね。少数精鋭による戦局逆転って。だからあえて鶴羽の陣を中央突破してみました。いや〜、いいですね。そういうの。……まあ、分かる人だけに分かればいいですこれは。

 さてさて、次回はいよいよエルクとの決戦ですね。どうしようか( ̄□ ̄;)!!  実は細かい事は全然考えて無かったりして( ^▽^)  まあ、そんな事は気にせずに次回、一気に決着をつける……と思います。まあ、どうなるか私にも分かりませんがねΣ(゜Д゜ υ)

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、更に投票と人気投票もお待ちしております。

 以上、人気投票でミリアと琴未を差し置いて与凪に入っていたことに正直驚いた葵夢幻でした。

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