表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
70/166

第七十話 戦場へ

「う、う〜ん」

 昇はゆっくりと目を開けるとけだるさと疲労感を覚えながら、目の前にある天井を見詰める。

 ……そうか、あれから旅館に帰ってからすぐに寝たんだっけ。

 昇は寝ぼけた頭で昨日の事を思い出すように記憶を手繰り寄せる。

 なんでも与凪が言うには明日に備えて今日は早めに眠るように、とシエラ達もさっさと寝るように部屋の中に押し込めてしまった。

 その結果だろう、昇がじっくりと熟睡が出来たのは。だが、その反動なのか体がだるさを訴えてくる。

 なんだろうな。ちゃんと寝たのになんか疲れが取れないんだよな。……まあ、しかたないか。昨日はいろいろあったし、閃華もこれでやっと立ち直ってくれるだろうし、これでよかったのかな?

 誰かに問うわけではないが、昇はまだ呆けている頭で昨日の事を振り返っていた。

 あれから閃華は笑みを見せてくれて、元の閃華に戻ったような気がするけど。今はどうなのかな。また悩んでないかな。

 そう思うとこのまま横になっているのも、まだるっこしくなってくるのだろう。昇は起き上がると一応身だしなみを直してから部屋を出た。それからシエラ達の部屋に向かうが、シエラ達も昨日の事で疲れていたのだろうか、その時は未だに眠っていた。だが閃華の姿だけはどこにもなかった。

 あれ? どこにいったんだろう。

 そう思いながら昇はシエラ達の部屋を後にする。そして次に向かったのは与凪達の部屋だ。一応断りの言葉を掛けると返事が帰ってきたので、昇が部屋に入ると閃華はそこに居た。

「ここにいたんだ」

「うむ、いろいろと情報を整理しているところじゃ」

 昇はそのまま部屋に入り、閃華の隣に座るとその横顔を見詰めた。

 その視線に気付いたのだろう。急に閃華が昇の方へ顔を向けた。

「んっ、どうしたんじゃ」

「えっ、あっ、いや、なんていうか」

 閃華の事が心配でここに来たのだが、いざとなると言葉が出ないのだろう。そんな昇の気持ちを察した閃華は笑みを向ける。

「大丈夫じゃ。昨日答えをくれではないか、私はこの罪から目はそむけん、常に向かい続けるだけじゃ」

「それってどういう意味なんですか?」

 横槍を入れてきた与凪と昇に閃華は笑みを浮かべると、今度は急に閃華は目の前のモニターを遠い目で見詰めながら答える。

「悩み続ける事。それが私の出した答えじゃ」

 やはり分らないという仕草で今度は昇に顔を向けてくる与凪。そんな与凪に昇は出来るだけ分りやすく説明しようとする。

「閃華の問題は過去の物で今からだと、どう足掻いてもどうしようもないよ。だからこそ、その問題を見詰め続けないといけないんじゃないかな。……という事かな?」

 一応閃華に同意を求める昇。だが閃華は笑うだけで答えを返してくれなかった。

 だがそれでいいのかもしれない、閃華自身が閃華の問題なのだから。

 それをみていた与凪も自分なりに答えを出してみた。

「えっと、つまり、閃華さんは昔の問題を抱え続けながら生きていく……ってことですか」

「まあ、そういうことじゃな」

 簡単に答える閃華だが、そこまで行き着くのにどれだけ辛いか。そしてその苦しみは未来永劫続くものだと知っておきながら、あえて微笑みながら答えるのだった。

 それを見た昇はやっと一安心する。

 よかった。どうやら昨日の事で閃華は立ち直ってくれたようだ。あの時は凄く酷い事を言ったような気がしたけど。たぶん、閃華にはそうやって生き続けるしかないんだ。そしてそれは、たぶん僕も同じだと思う。

 それは契約者としての覚悟を言っているのだろう。昇はすでに雪心の死を背負っている。それは昇が死ぬまで背負い続けるものだ。そして閃華も同じ、小松の事を背負いながらこれから生き続ける。

 どちらも似たようなものだ。だが背負う物があるから人は強くなれる。いや、それは人も精霊も関係ないのだろう。心が何かに立ち向かっている以上、それを乗り越えるために強くならないといけない。人も精霊も関係なく、それは心を持ちながら生き続ける者なら誰しもそうしないといけないのかもしれない。

 それはまさに棘の道。昇も閃華も自分の意思でその道を進む事に決めた。だからこそ、強く生きられるのだろう。

 改めて自分自身の覚悟を身に染みた昇は閃華達が見ているモニターに目を移す。

「そういえば、さっきから何をやってるの?」

「ああ、これ」

 与凪は昇の前にも同じモニターを出すと説明を開始する。

「昨日の戦闘でね、シエラさんが出来る限りのデータを取っててくれたから、それを検証してるの」

「これ、昨日の機動ガーディアン」

「そうだよ」

 そう言われて昇もモニターに目線を移すが、何が表示されているのかまったく分らないようだ。ただ昨日出てきた機動ガーディアンにワケの分からない言葉のような物が書かれているだけだ。

「えっと、どういう意味なの?」

「えっ、あっ、ごめんね。つい精霊用語でやっちゃってるから。日本語に変換は出来ないのよ」

「まあ、簡単に言うとこの機動ガーディアンの性能についてじゃな」

 更にモニターが現れるとそこには以前に見た機動ガーディアンが表示されて、二つを並べるようにグラフが表示された。

 昇は新たに現れたモニターを指差しながら与凪に訪ねる。

「これって、あのロードキャッスルにいた奴だよね」

「そう、そしてこっちが昨日滝下君達が戦った機動ガーディアン」

「これが結構やっかいなんじゃよ」

 そう言いながら閃華は空中に浮いているキーボードを叩くと、新たに数値が加えられる。

「えっと、これってどういう意味なの?」

 やはりワケが分からない昇が尋ねるので与凪は位置から説明していくとになった。

「まず、簡単に説明するとこの二体に関する戦闘能力の違い。これはあんまり変わらないんだけどね。スピードとか、パワーとか、そういった力の出力関係はあまり変わらないの」

「はぁ」

 それでも良く分かっていないようで、昇は生返事を返す。その返事に昇の理解度を理解したのだろう。与凪は更に砕けた言い方に切り替えてきた。

「つまり、この二体の戦闘能力はほとんど変わらないの」

「えっと、つまり強さは同じような物、ってこと?」

「ええ、そういうことよ」

 でもそうなると、さっき閃華が言ってた事は一体何になるんだろう。

「それでこれのどこがやっかいなの? ロードキャッスルにいた機動ガーディアンと大して変わらないなら、数が多くてもなんとかなると思うんだけど」

 そのセリフを聞いた与凪と閃華は同時に溜息を付く。

 えっ、えっ! 僕何か変な事を言った。

 ワケが分からないという風に二人を見回す昇。そんな昇に見かねて閃華はある問いを出してきた。

「では昇、昨日戦った機動ガーディアンはどうじゃった。ロードキャッスルで戦ったのと同じ位の強さじゃったか?」

 その問に昇は記憶を掘り返すと正直な感想を述べる。

「……ううん、なんていうか、ロードキャッスルで戦ったのとはまったく別な物のように思えた」

 そうだ、ロードキャッスルで戦った時は目の前の敵を倒すだけで終わったけど、昨日のはそんな感じじゃなくて……そう、まるで自分の意思を持って動いてるような、そんな感じがした。

「じゃから、やっかいじゃと言ったんじゃ」

 閃華が再びモニターに視線を戻したので、昇も釣られてモニターに視線を向ける。

「こやつらの戦闘能力は確かに以前相手にした機動ガーディアンと大差ない。じゃが、それは戦闘能力だけの話じゃ」

「というと?」

 昇が聞くと今度は与凪が話しかけてきた。

「滝下君、戦うっていうのはただ武器を振り回したり、力づくで押し出したりすれば勝てるものじゃないでしょう」

「うん、確かにそうだと思うけど」

 ただ敵に向かって行って武器を振りますだけなら、殺してくれと言っているようなものだ。そんななんの戦術も戦略も無い戦いなんて、ただの暴力に過ぎない。

 その事を理解した昇は与凪に向かって頷いてみせ、説明の続きを促す。

「それが集団戦になればなるほど、求められる物があるは」

「それって一体?」

「つまり、それがこいつらが最も改善された点……戦闘思考よ」

「戦闘思考?」

 と言われても良く分からないと思っていたのだろう。閃華は新たな資料を昇のモニターに写してやる。そこには精霊用語ではなく、日本語で書かれていた。

「つまり周りの状況を判断して、その場に最適な攻撃を繰り出すシステム。それが戦闘思考じゃよ」

「つまりこの二体で最も違うのは、その戦闘思考なの」

「詳しい資料を出してやったじゃろ、それを良く見てみい」

 そう言われて昇はモニターに視線を戻した。


              戦闘思考システム


 周りの状況から適切な情報を取得して、それに最も合理的な攻撃をする戦闘思考を有する事が出来る可能性がある。

 これによって以前の個体単体だけでの攻撃だけでなく、その他の機体とあわせて攻撃をすることが可能になる。つまり、個体の攻撃だけでなく連携の攻撃が可能になったと思われる。

 これは有史に残っている限り、まったく無かったシステムではないが、ここまでの完成度は以前までの記録には残っていない。

 これからは推測になるが、この戦闘思考システムはエルクが進化させたものであり、その完成度は完璧とは言えないが、かなり高い物だと推測される。

 以上が、これまでで推測される戦闘思考システムである。


 モニターに書かれた戦闘思考システムについて読み終わった昇は少し考え込む。

 えっと、つまり、ロードキャッスルで戦った機動ガーディアンは個別の攻撃だけだったけど、今度の機動ガーディアンは連携攻撃をしてくるってことなのかな。

「もしかしてこれって、例えば琴未や閃華が連携して攻撃するのと同じような事が出来るようなった……ってことなの」

 その問に与凪は少しだけ考えると、少しだけ違う点だけを示した。

「そこの報告書にもあるでしょ。この戦闘思考システムは完璧とはいえないのよ。だからあそこまでの連携は出来ないけど、それなりに同時攻撃とか、こっちの隙を付いた攻撃をしてくる事はあるわね」

「まあ、機動ガーディアン自体、精霊や契約者を越える能力を持つ事が出来ないって言われてるんじゃがな」

「それってどういうこと?」

 今度は与凪に変わって閃華が答えだした。

「つまりじゃ、精霊や契約者は個々の能力がかなり高く、その戦闘能力は普通の人間から見れば驚異的じゃろ。じゃが、機動ガーディアンは所詮機械、そこまでの判断能力や戦闘能力を所有する事は不可能なんじゃ」

「それじゃあ、なんでエルクは機動ガーディアンを進化させ続けているわけ?」

「それは簡単じゃ、つまり少数精鋭の争奪戦ではやくにはたたんが、組織戦での物量戦ではこれ以上無い力を発揮するんじゃよ。つまり、一兵卒としてはこれ以上無い兵器なんじゃ」

 えっと、それってつまり、兵士の代わりって事なのかな?

 確かに昇が思ったとおりである。エルクが作り出した機動ガーディアンは兵士として戦場で戦うには最強といって良い兵器であるが、やはり精霊や契約者を前にするとその質ははるかに劣る。

 だがそれでも、エルクがアッシュタリアという組織に属している以上は、そのような兵器を作り出していても不思議は無い。

 これでやっと機動ガーディアンを理解した昇だが、そうなると当然次の疑問が出てくるようだ。

「でも、なんで二人とも機動ガーディアンの情報を整理してるの?」

 その問にやはり閃華と与凪は疲れたような顔になる。

 えっと、とりあえずごめんなさい。

 まあ、それでも説明していた方が良いと思ったのだろう。与凪はモニターを別な物に切り替えた。

 それはエルクとその戦力である機動ガーディアンと昇達と風鏡の戦力数であった。

「見てのとおり、相手は精霊が一人、それにこっちは風鏡さんとやらも入れれば七人。こんな状態で機動ガーディアンを使わないとまともな戦いにすらならないでしょ。だからエルクが多数の機動ガーディアンを出してくることは必然なの」

 確かに与凪の言うとおりである。機動ガーディアン抜きで言えば相手はエルク一人である。そんな状態でエルクがまともに昇達と戦うとは思えない。だからこそ、エルクが機動ガーディアンを使ってくるのは当たり前といっていいだろう。

「確かに、エルク一人で向かってくるとは思えないし、そうなると僕達と風鏡さん達、そしてエルクの三つ巴になってくるかもしれない」

 その昇の言葉に閃華は溜息を付く。

「やはり風鏡殿と協力する気は無いんじゃな」

「うん、風鏡さんの気持ちが分らないわけじゃないけど、それでも復讐という目的で戦うのは間違ってると思うから。だから僕は僕の理由で戦いたい」

 そうだ、そうしないとエルクの被害者が出るだけだし、たぶん……風鏡さんも救われない。

 そう思う昇の瞳には確かに心強い意思が宿っている。そして閃華も与凪もそんな昇がどんな行動を取るかも予想で来ていた。

 だがそれでも与凪は昇に問いただしてみる。

「滝下君、本当にその理由でエルク達と戦うつもりなの?」

「うん、風鏡さんが正しいとは思えないし、このまま風鏡さんが復讐を遂げても救われないと思うから。それにエルクもこれ以上は放っておく事は出来ない。出来る事なら、この戦いで倒しておきたい」

 それが昇の戦う理由なのだろう。今回の事は無視しても全然構わないのだが、それが出来る昇ではない。目の前で何かしらの事が起こっていて、自分にやれることがあるなら真っ先に首を突っ込む。これが昇だからしょうがない。

 そんな昇の意思をしっかりと確認した与凪は軽く息を吐くと次の作業に入った。

「分ったわ。それじゃあ、戦場がどんな状態になってもサポート出来る様にしておくわね」

「うむ、では頼むとしようかのう」

 勝手に意思疎通をする閃華と与凪、だが昇には何の事か分かっていなかった。

「えっと、戦場がどんな状態になってもって、一体どういう意味」

 だがすぐに答えは帰ってこず、変わりに閃華は軽く笑うと昇の方へ真剣な眼差しを向ける。

「昇、今回の戦いは戦と同じじゃ。今までの戦いとはまったく違う物なんじゃよ。今までは少数戦力戦が多かったが、今回はこっちは少数、あちらは多数の戦と同じようなものじゃ。今までどおりの戦い方では勝てんのじゃよ」

 そう言われても意味が分からないのだろう。昇は首をかしげると閃華は真剣な眼差しのまま、説明に入る。

「つまりじゃ、今回の戦いは昇が風鏡殿よりも早くエルクを倒す事が絶対条件じゃ。これをクリアするにはそれなりの戦略が必要という事じゃよ。なにしろ、こっちの戦力は限られておるんじゃからな」

「つまりただ戦えばいいと言うワケじゃないってこと?」

「そういうことじゃ、戦況を把握して風鏡殿よりも早くこちらの戦力をエルクに届ける事が出来れば有利に事が進められるんじゃ」

 だが相手には多数の機動ガーディアンがある。だからこそ、戦況を把握して戦略を使う必要があるのだろう。

 だが今回の目的はあくまでも風鏡よりも早くエルクを倒す事。そんな大掛かりな戦略は必要が無いが戦況を把握する必要がある。そのために与凪がサポートに周る必要がある。

 確かに僕達は多くの機動ガーディアンを突破して逸早くエルクに辿り着かないといけない。いや、それだけじゃない。エルクとの戦闘にも余力を残しておかないと倒す事なんて不可能だ。

 やっと状況を理化した昇は与凪に顔を向ける。

「えっと、それじゃあ与凪さん、戦場のサポートをお願いできるかな?」

「サポートは私の得意分野、だから任せておいて」

 そう言ってウインクしてくる与凪に昇は軽く笑うと、そのまま閃華に顔を向ける。

「与凪さんのサポートもそうだけど、閃華にもいろいろと助けてもらわないと。僕は戦なんてやったことないから」

 その言葉に閃華は笑いながら返す。

「くっくっくっ、それは任せておけ、戦のやり方をしっかりと教えてやるぞ」

「なんかそういわれると怖いな」

 率直な感想を言う昇に部屋には笑い声が溢れた。



 昨日のことがあったからか、全員が起き出したのはもう昼近い時間になってからだ。

 シエラと琴未など自ら家事をする必要が無いものだから、随分とゆっくりする事にしたようだ。まあ、シエラと琴未は普段家事で忙しいから文句が出なくて当然だが、それに便乗するようにミリアもまったりとしていた。

 そんな有様を見た昇は何かを言おうとはしない。逆に優しい瞳で皆を見回すだけだ。

 今夜にはエルクとの決闘がまっている。それは皆分っている。だから……今のうちだけはゆっくりと休息を取ってもらわないと。

 そんな感じで今日はまったりと過ごしていく面々だった。



 そして夕刻、少し早めの夕食が始まると急にシエラが何かを思い出したようで、昇の隣へと席を移動させる。

「どうしたの?」

 だがシエラは昇の問に答えることなく料理の一つを箸で掴むと、そのまま昇の口へ持っていく。

「はい、あ〜ん」

「いや、いきなり言われても」

 戸惑う昇を前にシエラは料理を差し出してくるが、突然その料理が消えてしまった。それと同時に振り向くシエラ。そこには片手に持った箸を腰に当てながら口を動かしている琴未の姿があった。

「琴未、行儀が悪い」

「え〜、何の事かしら」

 どうやらとぼける気らしい。

 だが昇の目も琴未の行動はしっかいと見えていた。

 それはほんの一瞬、シエラが料理を昇の口に運ぼうとしてきたが、横からハイスピードで箸が伸びてくると料理をかっさらい、そのまま琴未の口へと放り込んでしまった。

 つまり、一瞬でも目を逸らしていれば琴未が何をやったのかは分らないことを利用しての作戦みたいだ。

 だが琴未の行動をはっきりと見ていたのは昇だけではなく、シエラもしっかりと捉えていた。

 もちろん、そんな事をされて黙っているシエラではない。立ち上がると琴未との間に視線の火花を散らす。

「えっと、とりあえず二人ともおち、んぐっ」

 二人の間に割り込もうと口を開いた昇だが、突如昇の口に料理が放り込まれる。

 まさかの事態に三人の視線は犯人であるミリアへと視線が集中する。

「えへへっ、どう、昇、美味しい?」

 えっと、とりあえず何でミリアさんがここで出てくるんでしょうか?

 そんな事を思いながら口を動かし、料理を味わう昇。もう、こうなってはその場の状況に流された方が楽だと経験から理解しているのか、昇はそれ以上は行動を起こさないようにしようとしたが、シエラと琴未は違う。

「ミリア、何をやってるの」

「それは私がやるはずだったのよ! それを何横取りしてんのよ!」

 いきり立つシエラと琴未、だがミリアはそれでもとぼけてみせる。

「だってシエラと琴未がやりそうに無かったから、私が代わりにやっただけだよ」

 その答えにシエラと琴未の怒りゲージが限界値を破壊して突破した。

「ミリア、覚悟して」

「こうなったら二人まとめて片付けて上げるわよ」

「へぇ〜んだ、二人とも隙があるから悪いんだよ」

 そのまま口喧嘩に突入する三人。一方の昇はというと、もう慣れているのか、こっそりと被害の少ない閃華と与凪の元へ移動していた。

「それにしても相変わらず賑やかね」

 シエラ達を見て率直な感想を言って来る与凪。

 まあ、確かにそうなんですけどね。やっぱり見てるだけで止める気は無いんですよね。

 もちろん、閃華も与凪もそのまま食事を続けており、シエラ達の行動を面白そうに見ているだけだ。

 そんな与凪に昇も溜息を付いてから答える。

「相変わらず他人事ですね」

「だって他人事だもん」

 それもいつもと同じ答えだった。

 それでも昇はシエラ達に目を向ける。

「今日はこれからエルクとの決闘がまっているのにですか?」

 それでも与凪は楽しそうに答えるだけだった。

「これでいいんじゃないの、考え込んでいる方が滝下君達らしくないわよ」

 いや、まあ、そうかもしれませんけど。

 そう思うと昇はシエラ達に目線を向ける。どうやらかなりヒートアップしてきているようだ。

 そんな状態に溜息を付きつつも、少しだけ安心感を覚えるのも確かだ。

「それに今更じたばたしてもしょうがないでしょ」

「そうじゃぞ、なにしろ大将は昇じゃからのう。ここはしっかりと構えてもらわんとな」

 その閃華の言葉が昇の思考を一旦中断させる。

 ……えっと、閃華さん、今なんて言いました?

「えっと、閃華さん?」

 急にぎこちない口調に変わる昇。そんな昇に閃華はしれっとして答える。

「僕が大将ってどういう意味でしょう」

「そのままの意味じゃ。今回の戦いは昇が負けた時点でこちら側の負けじゃ。つまりエルクを倒した時点でこちらの勝ちと言うことじゃがな」

「つまりどっちが先に敵の大将首を取れるかが勝敗を分けるのよ」

 えっと、与凪さん、それは分りますが、そんな楽しそうに言われても困るんですが。

 思いっきり現状を楽しんでるかのように言って来る与凪に昇は溜息を付くと、今度は急に首を捕まれるとそのまま引きずり出される。

 えっ、なに、なんなの!

 そして昇が解放された場所はシエラ達の中心地だった。

 ……えっと、僕はいったいどうすればいいのでしょう?

 だがその問の答えるものは無く。再びシエラ達のいさかいに巻き込まれていく昇だった。



 そして宴も終焉を迎えようとしていた頃。

 彩香と森尾は昨日飲みすぎたのか、今日は早めに切り上げて寝てしまった。まあ、与凪がそう仕組んだようだが、昇達にとっては好都合だった。これで誰の視線も気にすることなく。準備に専念できる。

 だが準備が整う前に与凪が口を開いた。

「どうやら始まったみたい。指定された場所に大規模な精界が張られたわ」

 モニター越しにそう報告してくる与凪。それは風鏡達がエルクとの戦闘を開始した事を意味していた。

 こうなっては昇達もゆっくりは出来ない。とりあえず昇は皆を集めると作戦内容を確認する。

「敵の布陣は分らないけど、僕達は風鏡さん達よりも早く、敵の布陣を突破してエルクを倒さないといけない。もちろん、エルクに辿り着いたとしても機動ガーディアンがそのまま大人しくしているとは思えない」

 まあ、それはそうだろう。たとえ布陣を突破されただけで行動を止める機動ガーディアンじゃない。

「だからエルクに辿り着いたら二手に分かれる。一方はエルクを、そしてもう一方は迫ってくる機動ガーディアンを足止めして欲しい。そうすればエルク組みが戦いに専念できるから」

「それで昇じゃが、当然エルク組へ参加してもらうぞ」

「分ってる。僕も元々そのつもりだったし、僕の手でエルクと決着を付けたいし」

「そうか……」

 それだけ確認すると閃華はもう何も言わなかった。その代わりに与凪が口を開く。

「それじゃあ私はいつものようにサポートに回るから、必要な情報はリアルタイムで送れるわよ」

「うん、お願いします。それで皆から質問はある」

 だが誰も口を開くことなく、ただ昇を見詰めるだけだ。それを確認した昇は頷いてみせると口を開く。

「じゃあ、行こう」

 一斉に立ち上がるシエラ達。そして部屋の出口からではなく窓から外に出ようとする。これからの一戦前に誰か余計な人に見られるのもまずいし、そっちの方が早いからだろう。

 そして窓から出て行く昇達に与凪は静かに言葉をかける。

「気をつけてね」



 旅館から出た昇達は今居る位置から見えるほど大規模な精界を目にしながら、そこに向かって走り始める。

 それにしても大きいな、あの中ではもう風鏡さん達が戦ってるんだ。

 そして精界に向かって走っている最中だった。閃華が微かに笑う。そのことを見逃さなかった琴未は不思議そうな顔をで閃華に尋ねる。

「どうしたの?」

 琴未の問い掛けに閃華は軽く頭を横に振った。

「いや、なんでもないんじゃよ。ただ、こういう雰囲気が懐かしいだけじゃ。そう、まるで長篠の戦い向かうときのような、そんな緊迫感が懐かしくてのう。それでただ笑っただけじゃ」

「ふ〜ん」

 戦という物を知らない琴未には良く分からないのだろう。戦前の緊迫感という物が、だがそれは閃華にとって懐かしい感覚だった。

 だが今回の戦いは長篠とはまったく違う。時代はもちろん、仲間も全て違う。その中で琴未は琴未なりに閃華を心配してたのだろう。その琴未が出した答えを閃華に告げる。

「閃華!」

「んっ、どうしたんじゃ琴未?」

 急に真剣な眼差しで言葉を掛けてきた琴未を閃華は不思議そうな顔で見るが、琴未にとっては真剣そのものだ。

「私は閃華と小松さんの絆とか、昔の出来事とか、閃華が悩んでいた事とか分らないけど。閃華は私と約束してくれたのは覚えてるでしょ」

「契約した時の事か?」

「そうよ、それを果たすまで絶対に私の傍から離れちゃダメだからね。閃華にはこれからも手伝ってもらわないといけないんだから」

 それだけ言うと急に恥ずかしくなったのだろう、琴未は閃華とは反対方向へ顔を向ける。だがそんな琴未を閃華は優しい顔で見る。

「そうじゃな、ありがとう」

 琴未に聞こえるかどうかぐらいの声で呟く閃華。それが琴未に聞こえたかは分らないが、それでも閃華は満足だった。

 それは琴未が琴未なりに自分を心配してくれてた事。それだけで閃華は少しだけ救われたような気がした。

(まったく、どうやら琴未にまでも気を使わせてしまったようじゃな。じゃが、なんじゃろうな。不思議と悪い気はせんもんじゃな)

 たぶん、それが今の閃華と琴未が築いた絆なのだろう。互いに隠すことなく真正面から向かい合える相手。それが閃華と琴未の絆なのかもしれない。



 そんな事をしているうちに昇達は精界の前に到着した。

 うわ〜、こんな間近で見るとこんなに大きいんだ。

 改めて精界の大きさに驚く昇。昨日もシエラはこれぐらいの精界を張っていたのだが、中と外から見るのでは、その大きさを実感するのも違うようだ。

 そして突如、昇達の前にモニターが出現すると与凪が映し出された。

「はいはい、そんな訳でその精界は二層構造になってるみたい」

「それってどういう」

「エルクと風鏡殿、それぞれが精界を張っておるというわけじゃ」

 昇の言葉を遮り、閃華が先に答えを言ってしまった。だがそれで昇も状況が理解できたようだ。

「まあ、そういうこと。だから中の状況は実際に入ってみないと分らないわ。解析準備は出来てるからいつでも突入していいわよ」

「うん、分ったよ」

 昇が相づちを打つと皆それぞれに顔を向けるのと同時に、シエラ達も精神を集中させて一気に力を解放する。

「ウイングクレイモア」

「アースシールドハルバード」

「雷閃刀」

「龍水方天戟」

 それぞれ精霊武具を身にまとい、武器を手に取る。そして昇も力を集中させると、放出された力を固めて実体化させる。そうして黒いコートを身にまとい、両手に拳銃を持った姿になる。

「シエラ」

 シエラに顔を向けて頷いて見せる昇、そしてシエラも頷き返すとウイングクレイモアの翼が羽ばたくのと同時にシエラ自身を上昇させる。

 そしてある高度まで達するとシエラはクレイモアを上に振り上げると、今度は重力に従い一気に落下してくるのと同時にクレイモアを振り下げて精界を切り裂いていく。

 そしてシエラが地面に舞い降りた頃には、大きく切り裂かれた精界が口を開いている。中の様子は真っ暗で何も見えないが、戦闘音だけは聞こえてきた。

 確かに風鏡達が戦っているのは確かなようだ。

 昇は一度だけ皆を見回すと切り裂かれた精界に視線を移す。

「行こう」

 そう言って昇達は精界内に突入して行く。







 そんな訳で、気付けばエレメも七十話になりました。早いものですね。半年ほどとはいえ、これほどの量を書くとは思っていませんでしたよ。というか、今までがニートだったからこれくらい書けたのかな。

 けど、そろそろ仕事につかないとな。まあ、そんな訳で就職活動の合間に書いている状態です。出来る事なら、これを本業にしたいのですが、世の中はそんなに甘くは無く、未だに金が無い生活を送っております。というか、いい加減にプリンターを買い換えて、投稿やら、同人とかやってみたいんですけどね。これがなかなか上手く行かないようで、未だにニート。そろそろ何とかしたいですね。

 さてさて、近況報告はこのあたりにしてそろそろ本編に触れますか。と言っても今回は触れる点があまり無いんですよね。まあ、今回の話は次回のバトルに繋げる話なのでそんなにピックアップする場面がありません。そんな訳で次回からは大いにバトリますよ。

 ではではそういうことで、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票と人気投票もお待ちしております。

 以上、いい加減に環境を変えないと次に進めない葵夢幻でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ