第六十八話 進化する機動ガーディアン
昇達と竜胆の前に現れた機動ガーディアン達はそれぞれに剣や槍などを手に持ち、昇達の前に立ちはだかっている。
そして肝心のエルクとはいうと機動ガーディアン達の後方で、まるで昇を観察するかのような目で見ている。
その視線には昇も気がついたからシエラと琴未の傍による。
「今回はエレメンタルアップは使わないで行こう。あいつの目線、まるで僕の能力を探ってるみたいだから」
「わざわざ奥の手を見せる必要は無い」
「そういうことなら分かったわ。それにこいつらは前にも相手をしたことがあるだから必要ないわよ」
そう、ロードナイトとの戦いで昇達は機動ガーディアン達を相手に奮闘したことがあった。
「だからこんな雑魚に必要ないわよ!」
そう言って真っ先に突っ込む琴未。それを察知した機動ガーディアン達も琴未を迎撃するべく動き出す。
そして一体の機動ガーディアンが巨大な斧を琴未に向かって振り下ろす。もちろん、この程度の攻撃なら琴未は簡単に避けられる。
紙一重でかわした琴未はそのまま斧を持っている機動ガーディアンに突っ込もうとするが、すぐさまシエラの手によって後ろに引き戻されてしまった。
「何するのよ」
「串刺しになりたかったの?」
「えっ」
シエラの言葉に目線を逸らすと斧の下を琴未を串刺しにするかのように槍のが突き出していた。
「嘘っ! まったく気付かなかった」
「あいつら、この前戦った奴とは性能が違いすぎる。油断してるとこっちがやられる事になる」
そう、この機動ガーディアン達はロードキャッスルで戦った奴よりもはるかに高性能の戦闘能力を持っている。
なんで同じ機動ガーディアンなのにこんなにも差が出るんだろう?
そんな疑問を感じながらも昇はシエラ達に指示を出していく。
「シエラ、琴未、無理して大勢を叩く必要は無いから、一体一体確実に倒していこう」
「分かった」
「そうするしかないみたいね」
先程の戦闘でこの機動ガーディアン達が依然戦った奴との違いを肌で感じ取った琴未は、嫌というほどこの機動ガーディアンの性能を感じ取ったようだ。
「じゃあ行くよ」
昇の合図にシエラと琴未は昇の前方に進み出て構える。
「GO!」
そして昇の合図と共にシエラと琴未は別方向へと一気に飛び出した。
そして昇はというと、その場から動かずに銃口だけをシエラ達に向ける。
こうしていればいつでも援護は出来る。それにシエラと琴未になら一体に集中すればどうになかるはずだ。
つまり昇は後衛からの完全援護、シエラと琴未は最前線での撃破。これが昇達の布陣だ。
そしてシエラは問題無く次々と撃破していった。持ち前のスピードを生かして相手を撹乱させるのと同時に攻撃も加える。そのうえ空中からの攻撃にはスピードもはるかに上がるので一撃で仕留められるらしい。
そしてシエラほどではないが琴未も奮闘していた。
─新螺幻刀流 三段突き切り返し─
瞬時に繰り出された三段突きの後に追撃を入れるこの攻撃に機動ガーディアンの一体は確実に倒れた。だがそれで油断できるわけではない。攻撃直後のを狙い別の機動ガーディアンが琴未に向かって剣を振るう。
もちろん、先程の事で琴未は油断なんかしていない。それどころか神経を鋭く、精神を集中させているようだ。
振るわれる剣、だが琴未はあえて避けずに懐に踏み込んで身をかがめる。そうすることで相手との距離をなくして、攻撃をかわすことが出来るからだ。
琴未の思惑通りに剣は琴未の上を通過していった後に、そのまま右足を大きく踏み出して引く姿勢のまま一気に切り上げる。
さすがにこのゼロ距離攻撃はどうする事も出来ずに機動ガーディアンはその機能を停止させた。
そんな最戦前で奮闘するシエラと琴未。もちろん、昇も後ろで遊んでいるわけではない。シエラと琴未が目の前の戦いに集中できるように昇は二人に接近する敵を確実に撃ち貫いていく。
だがそれでも二人に迫る機動ガーディアンを防ぐだけで精一杯だ。
なんなんだこの機動ガーディアン達、ロードキャッスルで戦ったのとは大違いだ。
反応速度に攻撃の鋭さといい、以前戦った機動ガーディアンとはまったくの別物と一定ほどの性能を発揮している。
それは竜胆も同じようで一体を相手にするのが精一杯で、昇も時々援護をしてくれるので、それでなんとかしのいでいる状態だ。
「くっ! 一体なんなんだ、この機動ガーディアンは!」
高い戦闘能力を持つ機動ガーディアンに昇は思わず大声で愚痴をこぼす。それがエルクにも聞こえたのだろ。エルクは笑い出すと不気味なほどの笑みを浮かべながら口を開いた。
「あっはっはっ、随分と苦戦しているようだね。だがそれも当然だろう。なにしろその機動ガーディアン達は私が作り出した最新型だからね」
まるで機動ガーディアンを誇るような口調で説明するエルク。
その言葉に昇は驚きながらも援護射撃を続ける。
最新型だって、この機動ガーディアンはロードキャッスルで戦ったのとは別物だという事か。
つまり機動ガーディアンにもいろいろと種類があるのだろう。それを説明するかのように竜胆は戦闘を続けながら口を開く。
「さっき名乗ったでしょ、あいつはアッシュタリアの技術開発者。そんなやつの手に掛かればこの程度の機動ガーディアンなんて簡単に作り出せるのよ」
昇に説明し終えた竜胆は斬馬刀を大きく振るい一体の機動ガーディアンを撃破する共に、その隙を突くように攻撃してきた剣を避けた。
つまり機動ガーディアンはロボットみたいに進化を続けているって言うのか。くそっ、だからこんなにも違いがでるのか。
しかもエルクは技術開発者だ。この手の技術に関しては最高級の技術を持っているのだろう。そんなやつが作り出した機動ガーディアン相手に昇達は苦戦を続けていた。
─新螺幻刀流 改 飛翔乱舞─
琴未は雷閃刀に雷を放出させながら一体の機動ガーディアンの周りを跳び回りながら、切り刻んでいく。
この技はかなりのスピードを有しているため、機動ガーディアンでも防ぐのは無理のようだ。だが一体やられようとも別の機動ガーディアンが琴未に襲い掛かる。
最後の着地から攻撃に備える琴未。だが機動ガーディアンの巨大な斧を横に薙いではすでに琴未を捕らえていた。
だが雷閃刀を斧にぶつける事で直撃は避けたが、衝撃まではどうする事も出来ずに吹き飛ばされてしまった。
そこへすかさず上空に跳び上がった機動ガーディアンが琴未に向かって槍を向けて落下してくる。
さすがにこの状態ではどうすることもできない琴未。だが落下してくる機動ガーディアンは昇の攻撃を四発ほど受けると、その衝撃で体がへこみその場で爆発した。
危なかった。でも間に合ってよかった。
荒い息をしながら一安心する昇。一方琴未はというと、すぐに立ち上がり別の機動ガーディアンと戦闘を開始していた。
このままじゃダメだ。いつまでたってもエルクに到達する事が出来ない。
確かに現状では機動ガーディアン達を相手にするのが精一杯で、それ以上のことは何も出来ない。
せめてミリアと閃華がいてくれたら。
だが二人ともこの戦場にはいない。どうやら閃華の相手はミリアがやっているようだが、今頃どうなっているのかは想像なんて出来ないし、している暇は無い。戦闘は未だに続いているのだから。
先程の援護攻撃でかなりの力を使った昇はやっと通常の呼吸に戻り、再び援護に回ろうとしたときだった。
突如、別方向から現れた機動ガーディアンが昇に向かって剣を振るった。
思いもがけない攻撃に昇は拳銃をダガーモードにすると、そのまま剣を受け止める。
だが相手は最新型の機動ガーディアンである。昇がそのまま相手の攻撃を受け止められるはずも無く、剣は振り切られて昇は吹き飛ばされてしまった。
くっ、こっちにまで来たのか!
今まで最後衛で援護をしていた昇だが、その昇の所にまで来たという事は最前線で奮闘しているシエラと琴未が抜かれたという事になる。
そうなると昇達は囲まれてどうしようもなくなる。
昇は急いで立ち上がるとシエラと琴未、それに竜胆も自分の元に呼び寄せた。もちろん、囲まれる事を前提にしてだ。
昇の呼びかけに応じて後退するシエラ達。だが相手もすんなりと逃してはくれない。しかたなくゆっくりと後退して、集結した頃にはすっかり囲まれていた。
「どうするの昇、囲まれた」
「分かってる。でも、あのまま攻めていても分断されて囲まれるだけだから、それなら全員集まって囲まれた方が勝機はある」
「へぇ〜、結構頭が回るんだね」
竜胆の言葉に昇は謙遜の言葉で返すとこれからの事を話し始めた。
「竜胆さん、風鏡さん達の到着するに後どれぐらい掛かりそう?」
「もうそろそろだと思うけど、この状況で風鏡達が救援に来ても突破できるか怪しいわね」
「そう、風鏡さん達がいても突破は無理か、なら残る手は一つしかない」
自身を持って言い切る昇にシエラ達には驚嘆の声を上げる。
「それで、どうするの?」
シエラの問いかけに昇はシエラに振り向く。
「シエラ、精界を解いて」
「なっ!」
思いがけない言葉に琴未はともかくシエラまでも驚愕の声を上げる。
精界は精霊と契約者にとっては専用の戦闘空間である。したがって精界内での出来事は現実に影響を及ぼさない。
だが精界の外はまったくの現実だ。物を壊せばそのまま壊れて、人が死ねばそのまま死ぬ。それを防ぐ為の精界なのだが、昇はそれを解けとシエラに言ってきた。
「昇! 分かってる、そんな事をすれば外の人達も巻き込むんだよ」
「だから精界を解くんだ。これほどの機動ガーディアン、それを表の人達に見せるわけには行かないだろう」
「なるほどね、こっちが精界を解く事で相手に機動ガーディアンを封じ込めるというわけね」
竜胆の言葉に昇は頷く。
つまり昇がやろとしている事は精界を解いて、相手に機動ガーディアンを仕舞わせる事だ。
たしかにそうすれば機動ガーディアンを無効化できるだろうが、エルクとの戦闘を開始するわけには行かない。つまりそれは、昇達の負けを示していた。
「このまま戦っても勝ち目はない、それどころかこっちが負けるだけだから。シエラ、精界を解いて」
しばらく黙って昇を見詰めていたシエラは静かに頷いた。
そして手を天にかざすと世界にヒビが入り始めた。
「なんだと! 精界を解く気か!」
さすがにこの行動にはエルクも驚くが、その行動の意味を悟ると高らかに笑う。
「あははっ、そうか、そうやって逃げるつもりか。まあ、いいだろう。今回は挨拶代わりだ。近いうちに決着を付けさせてあげるよ。あの復讐者さんにもね」
それだけいい終えると機動ガーディアン達の下に魔法陣が現れると、次々と魔法陣の中に入って姿を消していく。そしてエルク自身も精界が壊れるのと同時に姿を消した。
精界が壊れる寸前に昇達は人がいない場所に移動していたため、精霊武具で身を固めた姿を見られてはいない。
そして普段の姿に戻った昇達が表に出ると、そこには風鏡と常磐の姿があった。
竜胆に向かって歩き出す風鏡、昇はその前に立ち塞がった。
「どいてくれませんか」
静かな口調だが、その中には明らかに怒りが混じっていた。
「今回のことは僕の独断でやりました。文句があるなら僕に言ってください」
「それで竜胆を庇うつもり」
「そっちだって竜胆さんを使って僕達を監視していたんでしょう」
にらみ合う昇と風鏡。だが風鏡はすぐに笑みを浮かべる。
「ご存知だったのですね。まあ、それぐらい察すると思ってました。それから昨日も言いましたが、これ以上は首を突っ込まないで下さい。あなたたちには関係ないのですから」
「あんただって私達を囮にしようとしたでしょ!」
後ろから怒鳴り付ける琴未を制すると昇は再び風鏡と向かい合う。
「残念ですが僕達の事も相手に知られてしまいました。これで関係ないと言えますか?」
「それはあなた達が余計な事をしたからでしょう」
「ええ、その事についてはお詫びいたします。けど、僕にはあなたにこのまま赤沼さんの敵討ちをさせるわけには行かない」
「どうして……拓也の事を?」
初めて動揺を見せる風鏡。思わずよろけて常磐が慌てて支えるほど動揺したようだ。
だが風鏡はすぐに立ち直ると昇を思いっきり睨みつける。
「どうやって拓也の事を知ったかは知らないけど、あなた達に私の邪魔をして欲しくないの」
「そうは行きません。僕は……このまま風鏡さんが敵討ちをしても救われないと思うから!」
はっきりと言い切った昇は更に続ける。
「風鏡さん、このままエルクを倒せばあなたは救われるんですか。元の幸せを取り戻せるんですか。違うでしょう! そんなやり方は間違ってる!」
「じゃあどうしろっていうのよ! あいつは私の目の前で拓也を実験動物のように殺したのよ! 私に見せ付けるように、その時の私の気持ちが分かる! 愛してた、私は本当に心の底から拓也の事を愛してたのよ。それをあんな殺されかたをさらたら拓也だって浮かばれない!」
それ以上は耐え切れなかったのだろう。風鏡はその場に泣き崩れると嗚咽を上げ始めた。
とても見ていられない状況にシエラと琴未は思わず目線を逸らすが、昇だけはしっかりと風鏡を見詰めていた。
「確かに風鏡さんの言うとおりかもしれません。このままでは赤沼さんは浮かばれないでしょう。だから……僕達がエルクを倒します!」
思ってもみなかった言葉に風鏡は涙目のまま昇に目線を上げる。
「けど、僕達が戦うのは赤沼さんの敵討ちじゃない。これ以上エルクの被害者を出さないためだ。それが僕達が戦う理由です。それには風鏡さんも口出しは出来ないでしょう」
だが風鏡は涙を流しながら笑みを浮かべて、まるで昇の行動を笑うかのように言葉を放つ。
「なによそれ、そんなの言っている事が違うだけでやることは同じじゃない。そんなので私を納得させるつもりなの。それともなに、自分達が敵討ちをやってやるから拓也の事を忘れろというの」
「どれも違います。これは僕が決めた、僕達の戦う理由です。それはあなたには関係無い。だから、あなた達が僕達の邪魔をするなら僕はあなた達とも戦います」
「そんなの……ずるいじゃない」
再び涙に崩れる風鏡。
それはそうだろう。風鏡にとっては現実を突きつけられているのだから、もっとも逃げ出したい現実から。
風鏡は敵討ちという手段で自分を救おうとしている。それは違うかもしれないけど、昇にはそう思えてならなかった。だからこそ昇は風鏡を止めた。
そんな事をしても意味は無いから。現実から逃げて敵討ちに走っても風鏡が救われる事は絶対にないと分かっているから。
結局昇には分かっているのだろう。目の前の辛い現実を乗り越えられるのは自分自身だけだと。昇がそうしてきたように、雪心の死を乗り越えたように、風鏡にも赤沼の事を乗り越えて欲しかったのだろう。
ごめん、風鏡さん。でも、風鏡さんが幸せを手に入れるにはそれしかないと思うから、だから風鏡さんにも頑張って欲しい。
心の中で風鏡に謝罪する昇。だが昇に後悔などは無い。そう、全ては自分で選んだ道だから。
結局、その場は解散となった。風鏡は涙を止める事が出来ないようなので常磐に支えながら歩いている。
そして昇達も自分達の宿の帰る事にした。
その帰りの道中、昇はもう一つの問題を考えていた。
「ねえ、琴未」
「んっ、どうしたの昇?」
「閃華は、風鏡さんが復讐する事を察したんだよね」
「だから私達にその事を話したんでしょ」
「じゃあ、閃華自身はどうしたいのかな?」
その質問にはシエラも琴未も答えることが出来なかった。今回の事は閃華の過去と綿密に繋がっている。だからこそ、閃華は風鏡が復讐する事を察して迷っているのだろう。
多分それは二択。一つは風鏡の復讐に協力する事、そしてもう一つは風鏡の復讐を止める事。
たぶん閃華は過去の問題からその二択を迫られているんだと思う。けど、答えは本当にその二つしかないのかな。もしかしたら別の道もあるかもしれない。
だが閃華の過去を知らない昇はその道を見つけることは出来ない。なにしろ閃華が背負っている物を知らないからだ。
やっぱり聞くしかないか、閃華の過去を。う〜ん、あまり人の過去を掘り返すのは嫌なんだけどな、ここまできたらそうは言ってられないか。
閃華の過去を知る事を決めた昇は旅館への道筋でどう聞きだそうか迷いながら歩いていたが、それが杞憂に終わるのは旅館に戻った時だった。
旅館に戻った昇達を待っていたのは……宴会場だった。昇の母である彩香と担任である森尾はすでに酒に酔っており、ミリアと与凪も海の幸に舌鼓を打っていた。そして閃華一人だけが、部屋の隅で夜空を見ているようだった。
そんな中で戻ってきた息子に気付いたのだろう。すでに酔っている彩香が昇に声をかけてきた。
「おっ、おかえりドラ息子」
「母さんまた」
「いいじゃないかい、今回は先生もいるんだからあんたの今後についていろいろと話してるんだよ」
酒を飲みながら人の将来を語らないで下さい。
「そうだぞ滝下。今日ばかりは無礼講といこうじゃないか、という訳でお前もどうだ?」
「謹んで遠慮します」
というか生徒に酒を勧めないで下さい。
そしてこのままでは二人のペースに乗せられると思ったのだろう、与凪に目線で助けを送ると、それを察したかのように与凪は立ち上がった。
「さて、じゃあ滝下君達も戻ってきた事だし、私達は私達だけで宴会をしましょうか」
「え〜、一緒でいいじゃない」
文句を言って来る彩香に与凪はウインクをして返した。
「大人は大人の、私達思春期はそれなりの楽しみかたがあるんですよ」
それだけ言うと与凪は未だに食事にありついているミリアを引っ張って昇の部屋に移動していった。
一応、ミリアの要望で昇の部屋にもそれなりの食事を移動させながら与凪から話を切り出し始めた。
「じゃあ、まず私が聞いた閃華さんの過去についてから話すね」
「閃華の過去を聞いたの!」
与凪はいたずらでもしたかのような笑みを向けると一言付け加える。
「ほとんど盗み聞きですけどね。どうやらミリアさんに話したみたいですよ」
「そうなの」
昇はミリアに尋ねるが笑って誤魔化されるだけだった。どうやら最後まで聞いていないらしい。
「まあ、ミリアさんが途中で寝ちゃったんで私が最後まで盗み聞きしてたわけですよ」
ああっ、そういうことですか。
全てを理解した昇は深いため息を付くと与凪へと目を向ける。そして視線が与凪に全ての視線が集まると静かに閃華の過去を語り始めた。
全てを語り終えた与凪はジュースを手に取ると一気に流し込んだ。そして誰一人として言葉を発する物はいなかった。
それはそうだろう。閃華の無念を思えばそう簡単に言葉に出来る物じゃない。
気付けなかった事、何も出来なかった事、力を持ちながらそれがどんなに悔しい事か僕には良く分からないけど、閃華が何について悩んでいるのかは判ったような気がする。
つまり昇の答えはこうだ。
閃華は迷っている。過去の出来事と類似した出来事が目の前で起こっている。その時に自分はどうすべきなのだろうかと。
少なくとも昔のように何も出来ないのは嫌なんだろうな。けど、閃華の過去を振り切らせるという事は、風鏡さんの復讐を遂げさせる事になる。
つい先程、それだけはさせないと自分の口で言ったばかりなのに、昇はまたしてもそのしがらみに捕らわれる事になった。
もし、この二つの問題を同時の解決させるのだったら答えは一つしかない。それは閃華も協力して風鏡の復讐を成功させる事だ。
そうすれば風鏡は満足するし、閃華も過去のしがらみから開放されるだろう。
けど、でも、それは何か違うような気がする。
だが昇はその道を選ぶ気にはなれなかった。
この復讐を成功させて本当に二人とも問題を解決できるの? 本当に二人は手に入れたいものを手に入れることが出来るの?
どちらにしても違うような気がする。そもそも復讐を成功させるべきではないのではないのだろうか。そんな事をしても意味が無い事は昇だって良く分かっているはずだ。
閃華だって今更他人の復讐を遂げるのを手助けしたって救われるはずは無い。……ならどうすればいいんだ!
思わず畳を叩く昇。その音に驚きの視線が昇に集中する。そして昇もその視線に気付いたらしい。
「あっ、ごめん、つい」
「ううん、いいよ、昇の気持ちも分かるから」
琴未の言葉に昇は少しだけ気が楽になったような気がした。そしてそれをきっかけに与凪は話題を変えてきた。
「じゃあ次は滝下君達の番だよ」
「えっ、なにが!」
「なにがって、今日一日遊んでたワケじゃないんでしょ。分かった事を報告してよ」
「あっ、そっか」
事態を把握した昇達はまず琴未が調べてくれた事を話し始めた。内容は先程昇達に話したのと同じだ。風鏡の恋人である赤沼拓也がエルクの実験体として殺されて、風鏡はその復讐のために動いている事。
そして昇達の番になるとエルクとアッシュタリアの事を話すと与凪は驚いたように同じ言葉を繰り返す。
「アッシュタリアですって!」
突然驚いたように声を上げる与凪に呆然とする一同。それを無視して与凪は空中にキーボードとモニターを出現させると何かの情報を引き出しているようだ。
そしてモニターを昇達に向ける。
「これを見て、これ」
「いや、これって言われても」
モニターにはワケの分からない組織図のような物が映し出されていた。
「これがアッシュタリアの組織図よ。大まかな物だけどこれだけもても見てのとおり大組織だということが分かるでしょ」
えっと、つまりアッシュタリアというのは……これ全部!
やっと状況を理解した昇は驚きの表情を浮かべる。
そんな中で与凪は更にアッシュタリアについての説明を始めた。
「アッシュタリアって言うのはね。見たとおり契約者が組織した精霊と契約者の軍隊のような物。その頂点に立っているのは未だに謎だけど、今現在では一番エレメンタルロードテナーに近い人物といわれてるわ」
「なんでそんなのが存在しているのよ」
思わず声を上げる琴未だが、シエラは当然のように答えを返した。
「争奪戦は規模が大きくなると必ず組織戦になってくる。だから、こういう組織があっても不思議は無い」
「そう、シエラさんの言う通りなの。ほかにも小規模な組織が幾つか出来始めてるけど、全部アッシュタリアに潰されてるわ。この手の情報は私達のような精霊達の情報網には行きかってたんだけど、まさかこんなにも早く接触する事になるなんて」
苦々しい顔をする与凪。まさか昇達がこんなにも早くアッシュタリアと接触するとは思っていなかったのだろう。だからこそ、今まで話していなかったのだから。
そして与凪はさらにモニターに新たな画面を出現させる。
「そしてエルク・シグナル。アッシュタリアの技術開発者。けど実体はマッドサイエンティストのようなものよ。人を実験体にしていろいろな事をやっているわ。それから滝下君達が戦った機動ガーディアンもエルクが開発した物だと思う。最近、機動ガーディアンの開発戦争は頻繁に行われているから」
「なぜまた、機動ガーディアンの開発が?」
シエラの質問に与凪は頭を抱えるように答える。
「それがね、確かに機動ガーディアンは精霊に比べれば質はかなり落ちるわ。そしてどれだけ進化させても精霊ほどにはならないと言われてるの。けど、人海戦術とか、数で攻める時にこれほど優秀な駒は無いわ」
「そういうことか」
小規模な争奪戦は精霊の質が物を言うが、組織戦だとどうしても精霊だけでは追いつかなくなってくるのだろう。だからこそ、高性能な機動ガーディアンが必要となってくる。これほど便利な兵は他には無いからだ。
そんな事になってたんだ。だからあんな高性能な機動ガーディアン達があんなにも出てきたんだ。
先程の戦闘を思い出して、改めて新たな機動ガーディアンに感心する昇。その中でも一番やっかいなのは戦闘能力ではなく、戦闘思考の方だ。
戦況を確実に把握して的確な攻撃をしてくる。あれほどやっかいな物はない。
その事を与凪に話すと、またしても頭を抱える。
「そっか、そこまで進化してたんだ。滝下君、そんなやつらを相手に閃華さんを抜きに何か手はあるの?」
今度は昇が頭を抱える番だ。そんな高性能の機動ガーディアンを相手に閃華までも抜きにしてどれほどの事が出来るだろう。
それに、そもそも閃華の悩みすら自分は解決する事が出来るのだろうか。
結局八方塞の状態には変わりなく、誰しもが答えを出せないときだった。突如部屋の扉が開くと誰かが入ってきた。
「よう、盛り上がってるか?」
「亮ちゃん……」
入ってきたのはすっかり出来上がっている森尾だった。どうやら昇達の様子を見に来ただけのようだが、かなり酔っている事に違いない。だがそんな状態でも昇の担任という立場は忘れていないようだった。
ふらつきながら昇の元に行くと酒臭い口で言葉を掛けてきた。
「どうした滝下、なんか葬式みたいになってるぞ」
これにはさすがの昇もため息を付く。
「もう八方塞でどうしていいのか分からないんですよ」
「閃華君の事もそうかい?」
思いがけない質問に昇は驚いた顔で森尾に顔を向けるが、森尾は相変わらず上機嫌のように酔っているようだ。
「閃華の過去……聞いたんですか」
「よっちゃんと一緒だったからね。ついでに立ち聞きしちゃったよ」
何がおかしいのか笑い出す森尾に思わずため息を付く一同。だがそんな周りに関係なく森尾は喋り続ける。
「いや〜、閃華君も大変な過去を持っているみたいだね〜。けど滝下、人も精霊も変わらんぞ。皆それぞれ問題を抱えながら生きているもんだ。それをどう解決するのはその人自身だからな。まあ、無理して答えを出さなくてもいいんじゃないのか?」
随分とおき楽に言ってくれるな。
昇は思いっきりため息を付くと森尾がこれ以上いると邪魔なので、与凪に目線で合図を送ると森尾は与凪と一緒に部屋を後にした。
だが昇には何か引っ掛かる物があった。それは酔っているとはいえ、先程森尾が残していった言葉だ。
人も精霊も変わりなく問題を抱えながら生きているのは確かだよな。けど、それをどうやって乗り越えるのかが問題なんだよな。
どうやったら閃華自身が抱えてる問題を乗り越えさせるか、昇はその事を考えていた。だがしょせんは閃華の問題。昇に答えが出せるわけが無い。
結局答えが見つからずに迷走する昇達、そんな時だった。突如昇の部屋に来訪者が訪れたのは。
そんな訳で気付けばもう六十八話なんですよね。う〜ん、我ながらよくもまあここまで書いたものだと感心してしまいます。しかもこれ以上書くのだから、かなり長くなりそうですね。
というか、この作品に最終話など来るのだろうかと、そんな事を思ってます。
さてさて、今回の話で沢山出て来た機動ガーディアン。大元は信長が作り出した鉄兵なんですよね。それがそこまで進化するとは、精霊達の技術力も大した物ですね。
まあ、それはともかく、ついに全貌が少しだけ見えたアッシュタリア、こんな強大な敵に昇達はどう戦っていくんでしょうね。まあ、現状ではアッシュタリアとぶつかり合うのは無理でしょう。
さてさて、そんな事より、私事になりますが、最近ライターの仕事を始めました。仔細は私のホームページを見てください。まあ、簡単に言うとお客様が作り出したキャラクターが、こちらの用意したオープニングを見てどうプレイするか提示して、それを小説化するわけですね。まあ、ご興味がある方はぜひとも私のホームページから飛べますので是非ご覧下さい。それから「マギラギ」で検索しても私のオープニングが出ているときがありますので興味をもたれた方はぜひともどうぞ。
ではでは、長くなりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票と人気投票もお待ちしております。
以上、最近いろいろと悩んでる葵夢幻でした。