表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
66/166

第六十六話 語り終わり

「敵は本能寺にあり!」

 かの有名なセリフを明智光秀は軍を止めて、馬上から高らかに叫ぶ。

 本来なら明智軍は羽柴軍の援軍に向かうはずだったが、途中で光秀は軍を止めると兵を集めて高らかに叫んだ。

 だからだろう、兵たちはかなり動揺しているが、中には光秀の本心を知っている重臣が何人もいる。その者達が自分達の主が天下人になると説き伏せて兵たちを高揚させて士気を上げる。

 光秀も本心を信頼できる重臣達に打ち明けたのはこのためだろう。そしてその中に変装した小松も紛れ込んでいた。

 顔を泥にまみれ分厚い服を着て男のように見せている。どうやら兵の中に女性がいると間者に勘ぐられると思ったのだろう。

 そして安全域まで達すると光秀は本心を打ち明けて謀反を起こしたのだ。これが本能寺の変、その始まりである。



 兵を返し京へと向かう明智軍。なるべく音を出さないようにわざと鎧甲冑を脱いで行軍している。このほうが早いし、意外と鎧甲冑はうるさい。しかも奇襲するのだから相手に気付かれては意味が無い。

 だからこそ、今は鎧を脱いで身軽な格好で行軍し始めた。もちろん、この時に小松が女性であることに気付き、光秀の食客ということで特別な地位を得る事が出来た。

 それなりの待遇で進軍していく小松。どうやら京に着くまでは問題は無いようだ。

 鎧甲冑は攻め込むときに着ればよい。そうすれば信長に気付かれる事は無いだろう。

 どうやら謀反はかなり前から計画されていたようですね。

 対応の早さ、それから準備の良さと充分に整っているようだ。どうやら光秀はかなり前から謀反を企んでいたらしい。

 まあ、それもしかたないのでしょう。最初はあれだけ高待遇だったのに、今では嫌われ者扱い。そのうえせっかく徳川殿の接待役を任されたのに降ろされて戦に借り出される始末、これでは謀反も起こしたくなるというものです。

 光秀の心中を察しながらも小松は自分の目的も忘れていない。

 ですが、これで明智軍が本能寺に攻め込めば契約者である私が一番最初に信長の元へ行ける。そうなればやっと、やっと旦那様のご無念が晴らせるというものです。見ててください旦那様、必ずや信長を討ち取って見せます。

 小松の目的はただ一つ、信長の首だけだ。それに契約者でもある。契約者も精霊もいない明智軍に義昭が上手く取り入ったようだ。

 だがそのおかげでここにいられるのだから。

 そして明智軍は京が見下ろせるところまで進軍していた。



 再び身に付ける鎧甲冑、小松はというと精霊武具を着ていた。まあ、契約者なら精霊武具の方が存分に力を発揮できるというものだ。

 それから物見が戻ってきたのだろう。京の様子を聞いた光秀はそのまま指示を出す。

「相手は一〇〇〇足らずの織田軍だ! そのうえ兵を分けているらしい。本軍は妙覚寺の信忠、兵のほとんどが妙覚寺にいるらしい。だから先にそちらを叩いてから信長を討つ」

「ですが、それでは信長に気付かれるのでは」

 家臣の進言も一理ある。だが光秀はちゃんと考えているようだ。

「だからこそ兵を二手に分ける。まず一五〇〇〇を妙覚寺へ。そして残りを本能寺の信長へ向かわせる。これで信忠と信長を討てば我等の天下だ!」

 高らかに声を上げる光秀に兵も鯨波ときを上げて一気に京に向かって進軍を開始する。

 その中で小松はもちろん本能寺へと向かう事になった。そうでなければ意味はないし、義昭からの進言もあったおかげだろう、光秀自身がそれを許した。

 それになにしろ、信長の傍には森蘭丸という精霊が常にいる。これには何人もの人間が掛かってもそう簡単に倒せる相手ではない。だからこそ、小松という契約者が必要なのだから、この戦には不可欠な存在になっている。

 そこまで考慮したからこそ光秀は小松を受けれたのだろう。

 そして明智軍は京へと進軍していく。



 静かなものだった。なにしろ夜更けだし、誰一人横道に出ている者などいるはずがない。そんな中で明智軍は進軍を開始する。

 だが甲冑の音が鳴り響き、どうしても足音までは消せない。気付いている者は気付いているだろう。もちろん、閃華もこの音を聞いて動き出した。

 そして明智軍は予定通り二手に分かれる。そして小松は光秀達と一緒に本能寺へ向かう。

 もちろんこんな真夜中だ。何者かが現れるはずが無いはずだった。明智軍が本能寺に到着すると同時に鉄砲の音が鳴り響き、兵士の一人が倒れる。

 なんですか!

 こちらが奇襲をかけるはずなのに奇襲をかけられるとは思っていなかった明知軍は混乱するが、すぐに光秀の支持で再び陣形を元に戻した。

 ……上!

 再び名に響く発砲音。それは屋根の上から聞こえてきた。

 もちろん光秀もこのまま的になるはずも無く、ありったけの鉄砲を屋根の上にいる敵に撃ちながら城門を破壊した。

 このまま本能寺に入ってしまえば鉄砲では狙いにくいはずだ。そう思ったのだろう。

 だが光秀の思惑通りには行かなかった。

 突如本能寺の境内に多数の魔法陣が現れると鉄兵がせり上がってきた。この前の長篠とは違い槍や刀を持っている。どうやら近接戦闘を想定したいたようだ。

 くっ、まさか読まれていたとは。

 そう、ここまでの備えをされていれば、こちらの行動が読まれていたと考えるのがどおりだ。

 小松は一気に走り出すと未だに戦闘体勢に入れない鉄兵を一気に何体かを撃墜していく。そして光秀に向かって叫ぶ。

「これは近接戦闘用の武器ですから、倒さなくても動きを封じれば充分です。ですから押し倒して縛り上げれば無力化できます!」

 小松の叫びに光秀は頷くと多数の鉤縄。熊手のような先が曲がった爪がついた縄を用意させて鉄兵へと立ち向かう。

 鉤縄を鉄兵の首に引っ掛けるとそのまま押し倒して、動けない鉄兵の腕を叩き落しえてしまった。さすがに鉄兵の腕を切り落とすのは無理だったのだろう。

 だがこれで鉄兵は何とかできる。

 後は信長の元へ行くだけです!

 小松は明智軍が鉄兵に抵抗できると分ると奥を目指して走り始めた。

 この本能寺は手前に広い境内があり幾つかの施設がある。そして更に奥には門があり、信長はいつもその奥にある部屋に寝ていた。

 それは織田家の者なら誰でも知っている事で、もちろん織田家と縁のあった小松も充分に分っていた。

 そして奥にある城門が見えてきた。

 たった一人で城門を目指す小松。どうやら明智軍は鉄兵の相手だけでここまでは来れないようだ。

 そして小松は一気に城門を壊さずに跳び越すと奥へと入る。

 だがそれと同時に本能寺の奥から光の柱が生まれて世界を紫に染める。

 精界! 森蘭丸ですか!

 信長の元にいる精霊といえば蘭丸しかいない。だとしたら小松が侵入した事に気付いた証拠で、すぐに迎撃に来るかもしれない。

 しかたなく辺りを見回し広い場所を探すとそこに移動する。そして微動だにせず気配を探る。

 来た!

 人では出せない速さで迫ってくる気配。小松は一瞬にしてそちらを向くと影潜薙刀を構えてあての攻撃に備える。

 そして鳴り響く剣戟音。蘭丸の長尺刀と薙刀がぶつかり合い鳴り響かせる。

 そこまで接近すれば互いに確認できる。どうやら相手は思っていたとおりに蘭丸のようだが、蘭丸の方は驚いているようだ。

「何故、あなたが?」

 だが小松は答えずに一旦距離を取って互いに離れる。

「決まっています。信長を討つためです」

 だが蘭丸は困ったような顔をする。

「何故です! 追放されたとはいえあなたは織田家に仕えていた方の奥方様でしょう。それに幾つもの功績を重ねている。そのような方が何故御館様を?」

 蘭丸の質問に小松は顔を伏せると、歯を思いっきり噛みしてから答えた。

「旦那様は……亡くなりました」

「……そうでしたか」

「織田家を追放された所為で、その所為で旦那様は病に掛かり亡くなったのです! これでは旦那様は報われません。ですからせめて私が信長の首を取り、墓前にそなえて差し上げるのです」

 怒りの感情を思いっきり込めて答える小松に蘭丸は驚いた顔をする。

「あなたが御館様を討つつもりですか?」

「もちろんです!」

「そんなことをすればどうなるのか分っているのですか、契約者がエレメンタルロードテナーを殺すという事は」

「私はどうなろうと構わないのですよ!」

 それだけ叫ぶと小松は一気に蘭丸へと向かっていく。どうやらこれ以上は問答無用のようだ。それを悟ったのだろう、蘭丸も小松との距離を詰めてそのまま互いの武器を打ち合う。

 だがそれは様子見に過ぎない。小松も蘭丸もどうやら技量に差はあまり無いようだ。そうなると勝負の決め手は策となる。

 そして最初に仕掛けたのは蘭丸の方だ。一度距離を取ると力を集中させる。どうやら属性を発動させる気のようだ。しかも一旦離れるとなるとかなり強力な技を使ってくるだろう。

 それを想定して小松も決め手を用意する。目的は蘭丸を倒す事ではない、あくまでも信長を倒す事だ。そして信長はエレメンタルロードテナー、どれほどの力を持っているかなど分りはしない。

 だからこそ小松はここで時間をかけるわけには行かなかった。

 そして蘭丸の準備が出来たのだろう長尺刀を構える。

接差刀傷せっさとうしょう!」

 力を込めた長尺刀を上段に構えながら蘭丸は一気に小松に迫ってくる。だが小松はその場から動かずに蘭丸が接近してくるのを待っている。

 そして振り下ろされる長尺刀。だが当然、小松の薙刀に防がれるのだがそれで終わりではなかった。

「ぐっ!」

 なんですか、これは!

 ただ刀を防いだだけ、それだけで小松は斬り付けられたように一筋の傷を負った。それはまるで蘭丸がそのまま小松を斬った様な傷だ。

「驚きましたか、この技は例え防ごうとも自分の攻撃をそのまま通す事が出来るのですよ。それこそが私の属性、ざんの力です」

 そのまま次の攻撃に入ろうとする蘭丸、だが気付いていない。小松が笑みを浮かべている事に。

 再び振り下ろされる長尺刀、小松は今度はそれを避けると一気に薙刀を突き出す。

 ここ!

影刀連刃えいとうれんじん!」

 そして蘭丸は小松の薙刀を避けた……はずだった。いや、確かに小松が突き出した薙刀は避けた。だが蘭丸の周りには多数の闇で出来た薙刀が蘭丸に突き刺さっている。

「ぐはっ」

 血を吐く蘭丸。まさかこんな手段があるとは思っていなかったのだろう。そして小松の薙刀も蘭丸に突き刺さる。

「これで終わりです」

 蘭丸に決着が付いたことを告げる小松。確かにこの状態の蘭丸ではどうする事も出来ない。

「では最後に聞かせてもらいましょう。信長はどこにいますか?」

 以前の野田城と違って本能寺は調べたわけではないから信長がどこにいるなどは分かりはしない。

 だが蘭丸は笑みを浮かべると素直に答えた。

「右側の建物、その二番目が御館様のご寝所です。ですかあなたは、ぐはっ」

 せめてもの武士の情けなのだろう。小松は一気に蘭丸に止めを刺した。信長がいる場所を聞けばもう用は無いのだろう。

 せめてもの情けです、楽に消してあげましょう。後は信長だけ!

 場所は分かった後はそこへ行くだけだ。何もためらいも迷いもいらない、ただあるのは復讐という信念だけ。

 旦那様を追放して死なせた無念、これで晴らさせてもらいます。

 そして小松は信長の元へ向かい走り始める。信長がエレメンタルロードテナーあろうとなかろうと。



「何処だ信長!」

 信長がいるだろう建物の部屋を片っ端から明け放ち、中を確認していく小松。

 そして幾つもの部屋を空けただろう。小松は遂に信長を見つけることが出来た。

 信長は武装する事も無く、白い着物を一枚だけ来ており、まるで誰かが来るのを待っていたかのように刀を手にして入り口に向かって立っていた。

「女か、てっきり光秀本人が乗り込んでくるとは。だが蘭丸をどうにか出来たということはそなたも精霊か契約者だ」

「私をお忘れですか」

 部屋に明かりは無く月明かりだけが微かの明かりとなっているだけだ。そんな中で小松は更に信長に近づき顔を確認できる位置まで移動した。

「……そなたは、確か道勝の」

「はい、元織田家家老林道勝の妻、小松でございます。覚えておいでしょうか?」

「なるほどな、確かにそなたなら蘭丸も撃退できよう」

 長篠の戦で信長は小松の力を充分に知っている。だからだろう、蘭丸が小松に倒されたと察しても驚かないのは。

「それで、何用があってわざわざ信長の元へ来た?」

「復讐を、夫道勝の無念、ここで晴らさせてもらいます」

 小松の言葉が理解できなかったのだろう。信長は初めて不思議そうな顔をする。

「儂が道勝を殺したと?」

「そうです! 旦那様はあなた様に、織田家に奉公してきました。それも、二心も抱かずに必死にです。それなのに追放とはあまりにも酷過(むご)ぎる処置ではございませんか!」

 必至に訴える小松だが信長は当然のように答えるだけだ。

「奉公? 確かに道勝は織田家に仕えて出来た。だがそれだけだ。ただ仕えるだけなら誰でも出来る。この信長が求めるのは仕事が出来る人間だ、ただ仕えるだけの人間など使えぬ。だからこそ追放したのだ。それが何か間違っているのか?」

「確かに旦那様は優秀ではなかったかもしれません。ですが、本人なりに織田家に仕えてきました。その努力すら認めずに無能な人間は切り捨てるのですか!」

「そなたには分かっていないようだな。今や織田家は天下を取ったと同じ、そこに無能な人間はいらんのだ。優秀な人間が仕切るからこそ国が保てるのだ、だからこそ切り捨てた。まあ、無常ではあるとは思うがな。道勝も織田家ではなく、下の家に仕えていればそのような事にならなかっただろうな」

 つまり、天下人として国の頂点に立ち運営していく者に無能者は要らない。だから道勝を切り捨てた。信長はそう言いたいのだろう。

 けど、けど! なにもそこまでしなくてもよいのではなかったのですか!

 確かに小松が思ったとおり、切り捨てなくとも降格という手段もあったかもしれない。だが信長にとって、エレメンタルロードテナーの力を手に入れて天下人となった以上は道勝のような人間は邪魔なだけだったのかもしれない。

 いや、信長の性格から考えれば織田家にいること事態のが許せなかったのだろう。なにしろ今回の光秀排除もわざわざ武力行使を取るぐらいだから、今の信長が必要としているのは自分を絶対的に信仰している人間だけかもしれない。

 だからこそ、一度は謀反を抱いた道勝を切り捨てた。そして信長の本誌を理解した小松は更に復讐の念を燃え上がらせるのだった。



 確かに生まれは変えられないかもしれない。それに過去も取り戻せないかもしれない。けど、人間はやり直すことが出来る、失敗を取り戻す事が出来る。そして過去を悔やみ変わる事も出来る。それすらも認めないというのですか。

 最早問答無用、こんな人を天下人とさせるわけにはいかない。ここで倒します。旦那様のためにも。

 行きますよ、影潜薙刀!

 まずは一気に距離を取り、横からの一閃を……行きます。

 一気に距離を詰めて行く小松、だが当然信長は手にした刀を構える。

 くっ、防がれた。まあ当然ですか。この程度はまだ小手調べ、本番はこれからです。……えっ、なんですかその笑みは?

「燃えよ」

 刀が燃えた。くっ、こっちにまで急いで離れないと。

 突如燃え上がった信長の刀が小松の影潜薙刀まで通し小松にまで広がりそうになったので急いで小松は信長から距離を取る。

 急いで反撃備えないと、このまま追撃が来るかもしれない。……えっ、嘘!

 気付いた時にはもう遅かった。畳に刺した信長の刀から氷の道が出来ており、そのまま小松の足を氷付けにして動けないようにしていた。

 くっ、この氷、更に上がってくる。

 小松は一気に力を解放させると氷を一気に砕く。だがその瞬間に信長は一気に小松との距離を詰めて、すでに眼前に迫っていた。

 とりあえず防がないと!

 なんとか薙刀を前に出し、刀と薙刀がぶつかり合い剣戟音を発する。だがそれで終わりではなかった。

 完全に防いだはずなのに小松には信長に斬られた傷を負った。

 そのまま力任せに信長を突き飛ばすと小松は流れ出る血を気にすることなく、そのまま信長を睨みつける。

 これは蘭丸と同じ属性。それにさっきのといい、これがエレメンタルロードテナーの力。なるほど、つまりエレメンタルロードテナーとは全ての属性を仕えるという事ですか。

 エレメンタルロードテナーの力がある以上は不利なのは確か、それでも小松は退くという事をせずに薙刀を構える。

 たとえどんな力があようと、この方を認めるわけにはいかない。強者弱者、有能に無能、確かに人間にはそれぞれ長所も短所もあるかもしれない。けど! 長所しか使わない人を認めるわけにはいかない。そしてこれ以上、旦那様のような犠牲者も出させない!

 たとえ傷を負おうとも小松は攻勢に出続ける。常に先手の攻撃を繰り返し、信長を追い詰めているようだが、信長は様々な属性を使い小松を翻弄している。

 だがそれでも小松は下がろうとはしなかった。

 ここでこの方を、いえ、旦那様の無念を晴らす事が出来るのは私だけです。だからこそ、どのようなことになろうと退くわけには行かない。

 先程の蘭丸の属性である斬があるからだろう、確かに小松は信長の刀を直接的に防ぎはしないが属性の攻撃でかなりの傷を負っていた。中には半蔵の属性である空を使い、一気に迫ってきた。

 まさか、それまで!

 エレメンタルロードテナーである信長にとって、このような力はほんの一部でしかない。だが確かにこの属性はかなり凶悪である事は確かだ。だが小松はそこに何かを見つける。

 ……見つけた。やっと、この方を、旦那様の無念を晴らす方法が。これで全てを終わりにします。けど旦那様、私は旦那様の元へ行けないかもしれません。ですが、来世でも再び夫婦になってください。そしてどうかあの幸福だった日々をまた……私にください。

 ……懐かしい。閃華が来る前もそうだったけど、以前には小松にも子供がいた。戦で死んでしまったが、それまではこれ以上無いほど幸福だった。

 そして再び寂しくなったけど、それを閃華が埋めてくれた。閃華が来てからドタバタしたけれど、幸せだった、楽しかった。困ることもあったけど、確かに幸福だった。

 その日々はもう戻っては来ないかもしれない。だからこそ、来世は、来世だけは、そんな日々を暮らせますように。



 一気に信長に迫られた小松だったが、傷を負うのを覚悟で信長から一気に離れる。もちろん、影は小松の属性である。それで信長を縛り上げると一気に距離を取る。

 だが信長にそんな物が通用するはずが無かった。再び空の属性を使い小松に迫る。

 待ってましたよ、信長!

 刀を降り下げてくる信長だが、小松は影潜薙刀を捨てるとすぐ傍にいる信長に力の限り抱きいて締め上げる。

 そんなことをすればもちろん小松は信長の攻撃を直接受けるのだが、小松は痛みを信念で封じ込めると一気に力を解放する。

「影刀連刃!」

 夜襲を掛けたのだからもちろん辺りは闇に包まれている。だからこそ、小松の属性が最大限に発揮されるという物だ。

 闇から飛び出した何本もの薙刀が信長と小松をそのまま突き貫いていく。小松は信長を力の限り抱きつき拘束していたのだから避ける事は不可能。それはもちろん小松も同じだ。

 つまり、小松は信長の動きを完全に封じて自分ごと信長に止めをさした。

「ぐはっ」

 信長が吐いた血が小松に掛かる。だが小松は笑みを信長に向ける。

「これで終わりですね」

「馬鹿な! まさか自分ごと貫くとは、お前も死ぬ気か」

「私はすでに死んでいます。旦那様が亡くなったその時から、それからあなたの事を聞いて一時の生を取り戻しただけです」

 そう、旦那様が亡くなった時に私の命は無くなった。けど、この事が、この戦いだけが私に命をくれた。だからこそ、この命など一時の物に過ぎない。だからどうなろうといい。

「なるほどな、まさか道勝の追放がこのような結果になるとは、吉乃が必至で止めるわけだ」

 小松にとっては吉乃とは初めて聞く言葉だが、これから死に行く者、そのようなことはどうでもいい。

「最後に、何か言い残すことは有りますか」

「全てはこの信長が招いた結果、是非も無し」

 そして信長は全身の力が抜けたようにうな垂れると、小松はやっと技をといて信長を部屋の奥へと座らせて。

 切り捨てられたとは言え元は織田家の家臣である道勝の妻、それなりの敬意を払ったのだろう。

 だが自滅に近い攻撃をしたのだから、小松も無事でいるはずが無い。信長を座られて数歩歩くと小松は遂に立っている事ができずに倒れてしまう。

 そして見えるのは自分から流れ出る大量の血。だが小松は動じもしない、こうなる事は分かっていた。だからこそ、最後の攻撃に選んだのだ。

 更に流れ出る血を見ながら、小松は笑みを浮かべた。

 旦那様、旦那様、これで旦那様の無念は晴らしましたよ。ですから、これからはゆっくりと眠ってください。織田家はこれで終わるでしょう。だからもう、織田家の事など気にしなくて良いのです。

 そして出来る事なら、最後のわがままを聞いてください。これが、私の願いです。本当に最後のわがままです。ですからどうか、聞き届けてください。

『どうか来世も夫婦になってください』

 これだけで、これだけで良いのです。これだけが私の願いです。そのためだけに私は信長公を討ちました。そうすれば旦那様も私を認めてくれると思ったから、無念が晴れて再び私を受け入れてくれると思ったから。ですからどうか、これだけでよいのです。私の願いを……叶えてください。

 誰でもいい、神様でも仏様でもキリシタンの神様でもいい。どうか、この願いを旦那様に告げてください。そして旦那様と生活を再びください。特に面白い事はなかったかもしれないけど、幸福を感じられたあの日々を。

 どうか……再び。

 それに……そうですね、今度も閃華と契約をしたいものです。閃華がいた間も私は楽しかった。混まされる事が多かったけど、それでも幸せだった。それから子供も。現世では子に恵まれなかったけど、来世では子供が沢山欲しいですね。

 沢山の子供に囲まれて、そして閃華がわがままをいいながらも面倒を見てくれて。そして私は子供達と閃華の面倒を見ながら旦那様を待ち、旦那様が帰ってきたら再びゆっくりと話し合う。

 ふふっ、楽しそうですね。そんな生活をしたかった。いえ、来世ではどうか、そのような生活をさせてください。

 たったそれだけ、それだけで良いのですから。

 確かに小松の願いはささやかな幸福を願ったものかもしれない。だが世の中はかなり無常に出来ているものらしい。

 まだ意識のある小松の体の下から黒い淀みが発生する。

 なんですか……これは!

 薄れいく意識の中で小松は変化を感じ取り、辺りは昼間のように明るくなる。

 小松が明かりの方向に手をかざしながら目を向けると、どうやら信長の体が強烈な光を放っているようだ。

 そして次の瞬間。信長の体は大爆発を起こして本能寺は半分以上が吹き飛び炎上する。

 だがその中でも小松は何かに守られているように、下に発生した黒い淀みに少しずつだが吸い込まれていく。

 そういえば、先程蘭丸さんが何かいいかけてましたね。なるほど、私が信長を殺すとこうなるのですか。なんなんでしょうね、これは? まあ、どちらにしても良い者でない事は確かなようです。私が罪を犯したのは確かなのでしょうから。

 どうやらこれがなんなのかは微かだが分るらしい。これも契約者ならではなのだろうか。

 そう、これは罰。契約者は本来器の候補者であり守護者でもある。エレメンタルロードテナーが決まった以上は契約者はエレメンタルロードテナーを守れてという義務は無いが、殺してはいけないという絶対の掟がある。

 これは同じ力同士が再びぶつかり合うのを防ぐためだ。そうすれべエレメンタルロードテナーは長い間存在できる。つなり、地球を長い時間維持できるために作られた掟だ。

 だが小松はそんな事は知りもしなかった。ただ道勝の無念を晴らすためだけに、再び幸福の日々を手に入れるために戦っただけに過ぎない。

 そして小松の下に出来た黒い淀みが突如消えた。それと同時に小松も事切れる。

 どうやらこの罰はエレメンタルロードテナーを殺した契約者を殺すためのものらしい。だが小松が死んだ以上、その効果も消えたのだろう。

 そして小松は燃え上がる部屋に静かに横たわっているのだった。



「小松!」

 燃え上がる本能寺、その中を閃華は必至に小松を探して走り回っていたのだが、やっと小松を見つけたときにはもう何もかも終わっていた。

 なん……じゃと、これは一体、どういうことじゃ?

 隣で燃え上がる部屋には小松の体だけが眠っているように寝ているだけだ。

 だがこの爆発炎上の状態を考えられるとしたら答えは一つしかない。そして横たわっている小松の体。

 ……どうやら罰を受ける前に死んだようじゃな。くっ、刺し違えたか!

 それは無常というべき物なのかもしれない。閃華は四つん馬になると思いっきり畳を叩いた。

 なぜじゃ! なぜ私に相談してくれんかったんじゃ。……いや、分かっておる。もし相談しておったら私は小松を止めてたじゃろう。じゃからこそ……小松は一人で。

 それでも更に閃華を攻め立てるように、何も気付けなかった悔しさが襲い始める。

 どこじゃ、どこで小松はこんなことを決めたんじゃ! そして何故私はその変化に気付けんかった! 私は……なんと気が回らんのじゃろう。

 自然と流れ落ちる閃華の涙。だがその涙すら消せる物は無い。部屋はすでに爆発の影響でほとんど吹っ飛んでおり、近隣の部屋が炎上してこの部屋を明るく照らしているだけだ。

 そんな中で閃華は力なく立ち上がると小松の元へと歩み寄る。

「小松」

 だが答えは返ってこない。返って来るはずは無いがそれでも閃華は叫ばずにはいられなかった。

「小松! 小松!」

 なんじゃ、この失態は! 私は小松の事を知っていると思っておったんじゃが、それは思い上がりじゃたんか! 私は何一つ……小松を理解しておらんかったんか!

 何も出来なかった。いや、気付く事すら出来なかった!それは何も出来なかったよりも辛いのかもしれない。なにしろ相手の事を何一つ察する事が出来なかったのだから!

「ふっ、ふふっ」

 自然と笑い出す閃華。ここまでの失態をするともう笑うしかない。いや、自分を笑い飛ばして、けなして、壊れるぐらい卑しめてやりたいほどに自分が嫌になるのだろう。

 こんなもんだったんじゃな、私と小松の絆は。もっと深い物じゃと思っておったが、小松の変化に気付けぬほど絆は浅かったんじゃ。なんともろい、なんと弱い、なんと脆弱な物じゃったんじゃろうな。私と小松の絆は。

 閃華と小松が契約をしてからかなりの時間が経っている。閃華はその間に小松との信頼関係を強いものにしたと思っていた。だがそれは閃華の勘違いだったのかもしれない。

 何故何も話してくれんかった。何故何も相談してくれんかった! なぜ何も……頼ってくれんかった。確かに私は小松を止めたかもしれん。じゃが、小松の思い次第では協力も惜しまなかったのかもしれんのじゃぞ。なのに何故……私を信じてくれんかったんじゃ。

 どこまでも続く後悔と悲しみ。それは終わりを迎える事が出来るのだろうか。

 だが、無常な世の中はそんな閃華にも終止符を打つ。

 突如閃華の下に現れる黒い淀み、それは先程小松の下に現れたものと同じものだった。

 だが人間と精霊では違いがある。精霊は世界のバランスを保つための存在。無闇に消すわけには行かない。だがエレメンタルロードテナーを殺した契約者の精霊であることは確かだ。

「くっくっくっ」

 なるほどのう、つまり私も罰を受けろという事か。

 黒い淀みに沈み始める閃華、だがその顔には笑みが浮かんでいる。

 丁度いいかもしれん。これは信長を殺した罰ではない、私が小松を理解できんかった罰じゃ。それなら甘んじて受けよう。

 なにしろこの罰は私には絶対に受けねばならぬものじゃからな。小松を理解できんかった。絆を深められんかった。私は小松と一緒にいる間には何もしてやれんかった。これはその罰じゃ。なら拒否する理由は無い。小松に信頼されぬ私など罰を受けてちょう良いぐらいじゃから。

 なら受けてやろう。どんな罰じゃろうが私は構わん。それがどんな地獄が待ってようとも私にはそれを受ける義務がある。さあ、やるがいい、何も気付けんかった、何も変える事が出来んかった、何も気付く事が出来んかった私を罰するがいい。



「じゃが罰は思ってより軽いものじゃったんじゃよ。それが封印、三〇〇年じゃったかな、それぐらい封印されただけじゃったんじゃよ」

 そして閃華は大きくため息を付く、長い話をしただけに疲れたのだろう。そしてそれを聞いていたミリアとは言うと、すっかり閃華の膝枕で寝てしまった。

「くっくっくっ」

 思わず笑ってしまう閃華。だがミリアの眠りは深いようでそのような事では起きる気配は無かった。

 そして外を見るとすっかり暗くなっていた。

 もう夜か、まあ、長い話をしたからのう。ミリアが眠くなるのも当然じゃな。

「それに、そんなに面白い話でもなかったしのう」

「そんな事は無いですよ」

 突然聞こえた声に閃華は思わず膝の上にいるミリアを落として振り向くと、そこには入り口が開いておりある人物が立っていた。

「お主、なんで?」

「ちょっと呼ばれましてね。それよりミリアさんをちゃんと寝させてあげましょう。このままは精霊でも体調を崩しかねませんから」

 それから布団をひくとミリアをちゃんと寝かせてから閃華はその人物と向き合う。

「それで、なんでお主がここにおるんじゃ。与凪」







 そんな訳でやっと終わった―――!!!ヽ(`Д´)ノ

 これでやっと現在に帰ってこれたよ。皆さん、昇達の事を忘れてないですよね。もちろん覚えてますよね。

 そんな訳で以前もやりましたが、忘れている方は最初から読んでみよう。そうすれば全てを思い出すことが出来ますから。

 さてさて、そんな訳でやっと終わった本能寺。というか大爆発してましたね。ですが、一説によると実際に本能寺は爆発したという記述があるみたいですよ。そんな訳で、それを参考にエレメンタルロードテナーを契約者や精霊を一緒に殺すために自爆という設定が生まれました。

 それにこれなら信長の遺体が見つからなかった理由も付きますからね。まあ、こじつけですよ、こじつけ。

 さてさて、そんなことはさておき、これからやっと本編ともいえる現在の話に戻ってきました。さて、これでやっとあれが出せるよ。かなり前から考えてたんだけどね。まさか閃華の過去がここまで長くなるとは思ってなかったから、すっかり出番がなくなってしまいましたが、次回、には出る……はずですΣ(゜Д゜;エーッ!

 まあ、期待しないで待っていてくださいね。そして閃華の決着も結構以外というか、普通というか、そういう方法を取ろうと思ってます。まあ、どうなるかはお楽しみください。まあ……大して面白くないかもしれませんが(それはダメだろ!!!)まあ、そんな形になるかもしれませんのでよろしくお願いします。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれかもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票と人気投票もお待ちしております。

 以上、最近うつ病か風邪なのか分らなくなってくる症状が出てきた葵夢幻でした。(結局、風邪だったみたいですね)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ