第六十五話 本能寺精霊戦
小松が旅立ってからというもの、閃華は一人で留守番をしていたが寂しさも感じていた。今までずっと小松に傍にいたのだから、こんなに長い時間を離れる事になると寂しさを感じても不思議は無い。
だが閃華が感じていたのはそれだけだった。そう、それだけ、それが以外の物はまったく感じ取る事が出来なかった。
なんじゃろう、小松が旅立つと言い出したときからのあの笑顔。普通の笑顔に見えたんじゃが何かが違っておったんじゃよな。
だからだろう、後で後悔する事になるのは。この時に感じた小松の小さな変化気付いていたなら未来は変わっていたかもしれない。だが、今更言っても詮無きことである。
そして運命の日。一五八五年、六月二日未明。京へ向かってくる兵馬の音、それで閃華の目が覚めた。
なんじゃこの音は、一体何が起こっておるんじゃ。……もしや! 信長公か。
さすがの閃華も京に住んでいるだけに、現在信長が本能寺に泊まっている事は知っている。だが、この兵馬の音だけは意味が分からなかった。
……確かめてくるか。何事もなければひっそりと引き返せばよい。
よほど気に掛かる事があるのだろう。閃華は一応精霊武具に身を固めながら表に出ると、屋根の上に飛び移り、そのまま屋根の上を跳びまわりながら移動する。
なんじゃ、この胸騒ぎは? これは兵馬の音が掻き立てるのではない。何か別な物がそうさせているようじゃ。
そこは契約者と精霊。多少の繋がりがあるのだろう。そしてその繋がりが小松の行動を閃華の脳裏に過ぎらせる。
もしや、これに小松が関わっておるのか!
とてもそうは思えない。今更軍に属して何の得があるのというんじゃ。それとも、何か別の目的が有るんじゃろうか。
更に進む閃華。だが突然閃華を中心に光の柱が展開されるが、世界の色は変わらずに人々は消え去って行った。
精界! じゃがなぜ!
「やはり動きましたか」
「誰じゃ!」
閃華の前に現れた精霊。それは長い髪をまとめて優美な着物姿おり普通の女性と変わりないのだろうが、精霊武具には変わりない。外見がそうであってもかなりの防御力を持っているだろう。そして手には扇、それも体がすっかりと隠れるぐらい大きな鉄扇だ。
その扇で閃華を指し示す。
「出来れば動いて欲しくなかったのですが、やはり動いてしまうんですね。まあ、契約者が明智軍に加わっているのですから、その精霊も動きますか」
「なんじゃと!」
思わず驚きの声を上げる閃華。そしてそこまで驚くと思っていなかったのだろう、相手の精霊までも驚いた。
「おや、どうやら知らなかったみたいですね」
「小松が明智に加わっているとはどういうことじゃ?」
「……」
相手に精霊は扇を口に当てながら少し考えると状況を理解した。
「なるほど、どうやら小松さんはあなたに何も告げずに行ったようですね。なら教えてあげますよ。全てを」
くっ、随分と余裕じゃな。この精霊は只者ではないようじゃ。
「申し送れました。私は織田家の軍師をしております吉乃と申します。信長様と契約を交わしており軍師として傍に仕えております」
「なるほどのう、時々信長公が神がかった戦略を疲労するのもそなたの入れ知恵か」
「まあ、軍師ですから、その役目を果たしているだけです。それで本題に入りますが、あなたの契約者である小松様が明智軍に加わりましたので、それで私自身があなたを止めに来たのです」
さすがに驚く閃華、まさか小松が明智に組するとは思わなかったのだろう。
「何故小松が明智に?」
「お分かりになりませんか。小松様の旦那である林道勝様。追放されたショックで亡くなったそうですね。御館様を恨んでも不思議は無いんじゃないんですか」
なん……じゃと、まさか、小松は信長公を恨んでいたのか。私にはそんな素振りは一切見せなかったというのに。
なんと不甲斐無い。一年近くも一緒にいたというのに小松の心が分らんかったと言うのか。くっ、なんと間抜けな。
今更ながら悔やむ閃華。だが吉乃とってはそんなことよりも重要なことがあるようだ。
「さて、契約者の事はお分かりになりましたね。では、次はあなたの番です」
「私……じゃと」
「はい、あなたに介入されると邪魔なのです。せっかく明智を潰す好機を逃すかもしれませんから」
「なんじゃと!」
思わず声を上げる閃華。
そう、この事態を見れば誰もが明智が織田に反旗を翻したと思うだろう。だが吉乃が言っていることは、まるで逆の事だ。
「これは明智の反逆ではないのか?」
「そうですよ。ですが……誰が明智殿にそうさせたんでしょうね」
もったいぶるような口ぶりで話す吉乃。だがそれだけでも閃華には全てが見えたような気がした。
「つまり、この反乱は仕組まれたという事じゃな」
「さすが、話が早いですね」
思わず笑い出す吉乃に閃華は睨みつける。
「ならここから出せ! 小松を説得させて明智から手を退かせる。その猶予をくれんじゃろうか?」
だが吉乃は意地悪な笑みを浮かべるだけだった。
「説得ですって、誰が聞いているかもしれないところでそんな事をさせるわけにはいけません。まあ、どちらにしろ小松さんが今更明智軍から抜けるとは思えません。林様が追放された時、一応私もお留めになったのですがどうしても聞き入れてもらえなかったのですよ」
「止めようとしたじゃと?」
「はい、契約者と精霊を手放すのは後で痛手にるからやめるように進言したのですが、御館様は聞き入れずにあのような処置を。小松殿にして見れば恨んでも当然、それで明智に付いたのでしょう。どこから聞き入れたかは知りませんが」
「くっ」
確かに、今まで信長公を恨んできたならこれは最大の好機。じゃがこれが仕組まれた物とは知らんはずじゃ。ここはなんとしても小松と会わねば。……んっ、じゃがちょっと待てよ。これは変ではないか?
「吉乃と申したな」
「なんでしょうか」
「確か、本能寺に泊まっておる織田勢は一〇〇〇にも満たないはずじゃ。そのような数で二〇〇〇〇もの明智軍を止められると思っておるのか?」
だが吉乃は思いっきり笑い出す。どうやらそれなりの手を打っているようだ。
「確かにこのままぶつかり合えば織田家は負けるでしょう。ですが、兵が一〇〇〇とは限りませんよ」
「なんじゃと」
「ついでです、表の様子を見せてあげましょう」
吉乃は扇を高く上げると元々無色の精界が表の様子を写し始める。
鉄兵じゃと!
驚く閃華。そう、明智軍と戦っているのは人間の兵ではない。刀や槍をもった鉄兵が戦っているのだ。そのうえ、屋根の上には何人もの人影が見えて明智軍を鉄砲で狙っている。
「なんじゃ、あの鉄砲を持っておる者は?」
「雑賀衆、聞いたことはおありでしょう」
「雑賀衆じゃと!」
「ええ、味方にするのに苦労しました。なにしろ雑賀衆の頭領は人間ではなかったのですから」
「なん……じゃと」
信じられない言葉に閃華は途切れ途切れに答える。
「妖魔、というのをご存知でしょうか?」
「精霊と人間の間に生まれた、ごく稀に精霊に近い存在じゃな」
「はい、ですから人間には見えず、精霊からも嫌われるそんな存在です。ですが人間と接触は出来るのですよ」
「なるほどのう」
つまり、雑賀衆の頭領は代々妖魔が勤めてきたようだ。確かにこれなら不気味なほどの強さと海の向こうに通じてるのも分る。精霊に近い存在が何人かいれば海の向こうなど簡単に行けるからのう。
「つまり雑賀衆とは」
「そう、妖魔の集まりなんですよ」
それが多数の鉄砲を持って織田に付いた。それに人では倒す事が困難な鉄兵が多数本能寺を囲んでいる。これでは明智が負ける事は充分にありえる。
「まあ、正直妙覚寺の信忠が討たれたのは計算外でしたが、後はあなたを止めれば計画通りです」
扇を構える吉乃。だが閃華には戦う理由が今ひとつはっきりとしなかった。
「なぜ私の邪魔をする!」
「それは決まってるでしょう。ただでさえ明智軍には契約者がいるのにこれ以上精霊に介入されてはやっかいなのですよ。ですので、明智を潰すまでここで私の相手をしてもらいます」
くっ、つまり時間稼ぎか。じゃが一つだけ忘れておるようじゃ。
「じゃが契約者にエレメンタルロードテナーは殺せんぞ。そんなことをすれば契約者自身も責を負うからのう」
「確かにそうですが、逆に言えば契約者以外なら殺しても何の問題は無いというわけなんですよ」
そういうことじゃったか!
つまり吉乃がしたいことは契約者と精霊を介入させたくないという事だ。確かに明知軍には契約者も精霊もいない。まあ、光秀自身に運が無かったのか、嫌ったのかは定かではないがどちらにしても精霊や契約者がいないのは事実だ。
そうなってくるとこの戦は人間同士の戦いとなる。だが織田方には鉄砲と鉄兵がいる。人間ではとても倒しにくい相手が多数揃っているのだから、どうみても負け戦に見える。
だが織田方は全て合わせて二〇〇〇足らず、片や明智方は二〇〇〇〇、数の優位は変わりなく戦略的にはどう見ても明智が有利だ。
だが信長はこれを戦術でひっくり返そうとしているのだろう。人では倒しにくい鉄兵を投入する事で少ない兵で大勢の兵を倒せる事が出来る。それにこの戦、お互いの首を取ったものが勝つ。
つまり信長も光秀もお互いの首を狙っているのだ。……桶狭間、信長はそれと同じ事をやろうとしているのではないのだろうか。
状況は分かった、後はこの状態をどうにかいて小松を迎えに行くだけだ。だがそのためには……目の前の吉乃を倒さないといけないらしい。
だがそれもしかたない。両者の目的を達するためには戦う以外の道は無いのだから。
方天戟を構える閃華に吉乃は、扇を右手から右肩まで折りたたんだ状態で乗せている。
さすがにあの武器とはやりあった事は無いからのう。まずは様子見しか入れんか。急ぎたいところじゃが負けては意味が無いからのう。
じゃが! ここは一気に突破させてもらうぞ。
精界は外からの攻撃には弱いが中からの攻撃には強い。つまり、吉乃を倒さない限りここはからは出られないということだ。
方天戟を中段に構えると一気に突っ込んで行く閃華。だが吉乃はまるで反応しない。
そして閃華自身も吉乃を貫いたと思ったときだった。開かれた扇が方天戟の攻撃を逸らしていた。
くっ。
しかたなく一度距離を置こうとする閃華は横に大きく跳ぶが、それと合わせる様に吉乃も閃華にぴったりとくっ付き、鉄扇での一撃を加えてくる。
まずい、やるしかないようじゃな。
その場から上に跳ぶ閃華。なんとか鉄扇を避けられたのだが、閃華の行動を読んでいるかのように吉乃も上に跳んできて閉じられた鉄扇を閃華に突きつける。
なんじゃと!
これにはさすがに驚く閃華、確かに戦いでは相手の行動を予測して動くも者も居るが、ここまで正確に読める者などいるはずが無い。
違和感を感じながらも吉乃の攻撃は続く。
重力で落下しながらも吉乃は正確に閃華に攻撃をしてくる。その動きは腰の動きだけを使い、回転を上手く利用しながらの攻撃だ。さすがの閃華もこれでは防戦一方だ。
攻撃をするときには普通、足を踏ん張り威力を出すものだが、吉乃は舞をやっているのだろう。舞うように足の踏ん張りを使わずに腰の回転だけで攻撃を繰り出してくる。
そして閃華の防御が間に合わなくなった時、吉乃は一気に力を溜めると攻撃と同時に解放、閃華を一気に吹き飛ばした。
これにはどうする事も出来ない閃華。吹き飛ばされるままに民家を二、三軒突き抜ける。
くっ、これほどとはのう。空中戦はダメじゃな、なんとか地上で戦わねば。じゃが、あの動きはなんじゃ、まるでこちらの動きを読まれているようじゃ。
「時間は与えませんよ」
声と共に吉乃が民家の屋根を突き破り閃華の頭上から一気に鉄扇を振り下ろす。重力と落下の威力が重なり鉄扇と方天戟がぶつかり合いかなりの衝撃が巻き上がり、閃華の周りにあったものは全て弾け飛んでしまう。
だがこのまま終わる閃華ではない。攻撃の衝撃が終わる前に、力が集中する一点をずらすとそのまま吉乃を地面に激突させて、すかさず方天戟を突き刺すがこれは避けられてしまった。
さすがは精霊武具じゃな、動きずらそうでもそれなりの動きが出来るようじゃ。
確かに吉乃の精霊武具は女官のような着物姿で動きずらそうだが、その分防御力もあるし、動きの邪魔にもならないようだ。
じゃが、これではっきりした。あの精霊は防御型じゃな、つまり攻撃には向いておらん。じゃが、それ故に時間稼ぎが出来るんじゃろう。
確かに吉乃から攻撃してきた事は無い。全てカウンターか隙を狙ったものだ。それにあの扇、攻撃には適してないが防御には適しているようだ。
さて、どう攻めようかのう。あまり時間が無いからのう。それに一番やっかいなのは、あの舞じゃな。
舞の動きというのは全て優雅であって、戦闘では攻撃に適してはいないが、その動きは防御には大いに適している、
それにしても、あそこまでの速さで舞われるともの凄い防御力を発揮するんじゃな。……じゃが、それが弱点にもなるはずじゃ。
再び方天戟を構える閃華。吉乃も扇を構えでどんな攻撃でも対処できるようにしている。
「龍水舞闘陣」
龍水方天戟に巻き付いている水の龍が大きくなると閃華との適切な距離を開けて巻き付く。
そして一気に突撃する閃華。
この龍水舞闘陣は本来多数を相手にする時に使う技なのだが、ここで使うという事は何かしらの意図があるのだろう。
一気に差を詰める閃華。水龍が閃華から離れると一気に牙をむくがこれは避けられてしまった。そこへすかさず方天戟を打ち込む閃華。
だが開かれた扇が方天戟を防ぐが、閃華は笑みを浮かべる。
方天戟を持ったまま手を滑れせて、そのまま吉乃と距離を更に詰めていく閃華。そして二人の距離がほとんどなくなると閃華は龍水方天戟を話してそのまま拳を打ち込む。
そう、武器での攻撃ではほとんど鉄扇で防がれてしまう。だからこそ打撃戦をいれたのだが、吉乃は今までどこに隠しえていたのかもう一つの鉄扇で閃華の拳を防いだ。
なんじゃと、これまでもか!
さすがにここまで読まれると疑問を感じ得ない閃華。
そのまま龍に守らせながら龍水方天戟を手に取ると再び距離を取る。
「なるほどのう、そういうことか」
そうやら何か分かったようで、閃華は悔しさを表に出す。だが逆に吉乃は笑みを浮かべている。
「どうやらお気づきになられたようですね」
「ああ、あんたの属性にじゃな」
「そう、私の属性は考相手の思考を読む事が出来ます。つまり、あなたがどのような攻撃をしようと私には事前に分かるのですよ」
そんなの反則だ―――!!! もし、ミリアがここにいたら、そう叫んでいただろう。
それほど吉乃の属性はやっかいなのだ。
じゃが、これで信長が吉乃を軍師にしている理由が分るというものじゃ。
相手の行動が分るのだから、事前に情報が漏れているのと同じだ。戦場ではこれほど有利な事は無い。桶狭間、金ヶ崎、これらの信長の行動は吉乃の属性を利用したものだろう。両方とも吉乃の力を使えば勝てない戦ではない。まあ、金ヶ崎では退くしかなかったようじゃが、神掛かった読みは吉乃の力が存分に発揮されたからだろう。
まさか相手の思考を読む属性とはのう。これはやっかいじゃな。じゃがどうにかして突破口を見つけんとな。
ここを抜けない限り小松の元へは迎えない。そのことが閃華に焦りを与えていたのだが、本人はそのことに気付いていないようだ。
再び方天戟を構える閃華、吉乃も二つの鉄扇を構える。そしてそのまま効力状態に入って行った。
吉乃の目的は時間稼ぎだから無理して閃華を倒す必要は無い。つまり、表の明智軍が負けるまで閃華を引き付けていればいいだけだ。
だが閃華は違う。なんとかここを突破して伝えないといけない事実がある。そのためにはなんとしても吉乃を倒さないといけない。
しかたない……やるか!
閃華は覚悟を決めると一気に力を集める。その速さは吉乃も驚くほどだ。
そして一気に開放する。
「六韜三略開放!」
龍水舞闘陣の効果が消えると光に包まれる閃華は精霊武具がその形を変えていく。それと同時に力も今までに無いほど上がっている。どうやらこれが閃華の本領らしい。
そして昔の中国武将がまとっていた鎧姿になると、再び吉乃の前に姿を現した。
確かにこれなら速さで吉乃の思考よりも早く動けるじゃろうが、あまり使える時間が無いのも確かじゃ。
ロードナイトとの戦いにもこの六韜三略を使ったが、それは短時間だけ。つまり長時間この力は使えない。まさに奥の手といったところだろう。
そして龍水方天戟を構えると閃華の姿が消える。いや、消えたのではない。一瞬にして吉乃の後ろに回りこんだ。
これにはさすがに驚く吉乃。慌てて防御に入るが、今の閃華は力も大幅に上がっている。例え防いだとしても吉乃は吹き飛ばされて、何軒もの民家を突き抜けていった。
「この力は一体? そうか!」
属性で閃華の思考を読む吉乃。どうやら六韜三略の意味を理解したようだ。つまり、強大な力を一気に出して吉乃を潰そうとしている。
「さすがにこれではこっちが持たない!」
相手の思考を読むということは、相手の力を正確に理解する事だ。つまり、相手の力が完全に自分を上回っていれば勝てるはずが無い。だが、手が無いわけではなかった。
「鉄刺舞踊!」
今まで鉄扇の梁が一気にくいなのようなひし形のナイフに変わると、一斉に吉乃の周りを旋回し始めて合図と共に半分が閃華の元に飛んでいく。
じゃが、速さはたいしたことは無い。
今の閃華にとっては避けられない速さで無い。閃華は飛んできたくいなを全て避けると一気に吉乃に向かう。だが避けたくいなも閃華を追ってくる。
なるほどのう、自動追尾か……なら。
吉乃との距離を一気に縮める閃華。そして吉乃の間合いに入ろうとした瞬間、一気に上に跳ぶ。確かにこうすれば追って来たくいなも吉乃に当たるかもしれない。
だがそんなに甘いものではなかった。くいなは急旋回、それでも閃華を追い続ける。
そこまで甘くは無いか、なら!
「龍水舞闘陣!」
再び龍水舞闘陣を展開する閃華。そして龍を追ってくるくいなに向ける。
「龍水刃舞!」
龍の口から放たれる無数の回転する刃。それが追って来たくいなを全て迎撃するのと同時に閃華は一気に吉乃との距離を詰める。
どうやらこの機に一気に攻めるようだ。
だが吉乃は笑みを浮かべる。
「忘れましたか、私の属性?」
気付いたときにはもう遅かった。閃華はすっかりくいなに囲まれ、刃の生えた鉄扇が一つ、回転しながら回避不可能な距離まで迫っていた。
ぐっ。ここまで読まれて手を打たれていたのか!
なんとか体を動かそうとする閃華。だが今一歩間に合わなかった。
回転しながら突っ込んできた鉄扇は閃華の体に突き刺さり切り裂いていく。さすがの精霊武具でもこれには耐えられずに破れて行き、閃華を切り裂いていく。
だが閃華は痛みを堪えると龍水方天戟の反対側で鉄扇を突き、なんとか機動を逸らして攻撃を止めさせる事が出来るがダメージは甚大なようだ。
まさかここまで読まれておようとは。くっ、くいなは時間稼ぎじゃったか!
今頃吉乃の意図に気付く閃華。だが傷は深く片膝を付いて血が流れ出ている。それもしかたない。なにしろ巨大な円状のカッターで体を切り裂かれたようなものなのだから。
どうする、ここからどう逆転すればいいんじゃ!
もう、今までのように援軍は期待できない。自分で何とかするしかない。だが吉乃の属性は凶悪の言って良い代物だ。苦戦は必至だった。
そのうえ奥の手とも言える六韜三略も使っている。これ以上の手は閃華には残されていなかった。
くっ、私はここで終わるのか、小松を救えず。いや、気づけもせずに救えもせず終わるのか。
更に傷から流れ出る血が閃華の体力を奪っていく。
何も出来ない、ここまま何も出来ずに終わってしまうのか!
悔しい、ただそれだけが閃華の中にあった。せめて小松の心に気付いていればどうにか出来たかもしれないのに。荷物をまとめていたあの数日に見せたあの笑顔、その笑顔の意味にさえ気付いていれば。その悔しさと後悔が閃華の中を渦巻く。
くそっ! 私は小松の一体なにを見ていたんじゃ。
悔しさで地面を叩く閃華。それと同時に先程受けた傷口から血が流れ落ちる。
……。
痛いんじゃない、もしくは悔しいのでもない。この時閃華は希望を見出した。
これでいけるはずじゃ、先程の攻撃が仇になったようじゃのう。
ふらつきながらも立ち上がるとうする閃華に吉乃は笑い飛ばす。
「まだ戦う気なのですか。私に勝てないのは充分に分かったでしょうに」
更に笑う吉乃に閃華も笑みを返す。
「それはどうかのう、まだ終わったわけではないぞ」
「なにを?」
さすがにこれには吉乃も不思議そうな顔に変わる。
そして閃華は方天戟を構えるのと同時に吉乃は気持ちを切り替えると迎撃態勢に入る。
「私は……小松の元へ行かねばならんのじゃ!」
血を撒き散らしながらも閃華は吉乃に向かって疾走する。そう、真っ直ぐに。
当然吉乃も二つの鉄扇を全面に構えるが、ここで閃華が一気に攻勢に出る。
まず龍水舞闘陣の龍で一つの鉄扇を食わえこみ封じると、そのまま更に距離を詰める。だが吉乃にはもう一つの鉄扇がある。それで閃華に攻撃を試みるが、閃華は方天戟を下から思いっきり鉄扇に向かって振り上げる。
そうなると当然、吉乃の前はがら空きになる。そこに閃華は真正面から吉乃の顔に向かって体当たりした。
慌てて閃華から距離を取る吉乃、どうやら顔を直撃されたようで閃華の血がべっとりとついて目が開けられないようだ。だが体当たり、そんなにダメージがあるわけではない。だが吉乃は完全に悔しそうな顔をする。
「まさかこのような手を打つとは」
「さすがに避けられんじゃろう。あそこまで防御を封じられてしまってはのう。じゃが、これでそなたの目は役に立たん」
そう、どんなに思考を読み取ろうと相手が見えなければ対処の使用が無い。そのうえ先程の吉乃は完全に油断していた。まさかあれほどの傷を負った閃華がこんな手を打ってくるとは読めていたが、完全に力を解放している閃華の早さで攻めてくるとは思っていなかった。
どんな情報でも使う人次第で変わってくる良い例である。
完全に目をやられた吉乃はぬぐうが完全に開く事が出来ない。それに血である。空気に触れれば固まってどんどん取れずらくなってくる。
これで完全に吉乃は思考が読めても対処が出来なくなったわけだ。そして閃華もそんな状態の吉乃を見逃すはずが無かった。
水龍を先行させて避けたところに方天戟を打ち込む閃華。だが吉乃も完全に目をやられたわけではない。多少は見えるようで、微かに傷を負いながら防戦に専念した。
いける。ここで一気に決めてしまえば。
そうして閃華が一気に攻め立てていたときだった。突如本能寺が大爆発した。
さすがに驚く閃華と吉乃。そして吉乃の驚きはそれだけではなかった。
吉乃の体が光の粒子となって消え始めたのだ。
「まさか、そんな、御館様!」
まさか!
そう、二人とも気付いたのだろう。信長が死んだことに。
「なぜ! 計画は完璧だったのに! なぜ御館様が!」
「……まさか小松か!」
「あの契約者ですか!」
そう、ただの人間が信長を殺しただけならこんな現象は起きない。だが、契約者がエレメンタルロードテナーを殺した場合には必ず加害者も殺すために自爆のような現象が起きるのだ。
「まさか、たった一人の契約者だけで!」
「くっ! 小松!」
もう吉乃か体は半透明になっている。精界が消えるのも遅くは無いだろう。だからこそ、閃華は本能寺に向かって走った。せめて小松に会う為だけに。
止められんかった! いや、気付いてもやれんかった! 私はなんと無能なんじゃろう!
悔しい。ただそれだけが閃華の中にあり、本能寺に向かって走っていく。
そして精界が消えた。
どうやら吉乃は完全に消えたようだ。こうなれば邪魔するものはいない。あとは小松の元へ行くだけだ。
せめて、せめて。
そう、先程も言ったように契約者がエレメンタルロードテナーを殺した場合加害者もただでは済まない。
だからこそ、閃華は急ぐのだ。
せめて……小松の臨終に立ち会うために。
そんな訳で次で終わりだ―――!!! という訳で胴でしたでしょうか、私なりの本能寺の変。
本来なら明智の反乱ということになっておりますが、実は信長が明智に謀反を起こさせたという設定になっております。
まあ、本編では長くなりすぎるので説明を控えましたが、ここで簡単に説明すると。光秀は義昭や朝廷とのつながりが強すぎた。だが信長はエレメンタルロードテナーになった以上。朝廷は邪魔でしかなかった。そこで朝廷を潰す第一歩として光秀に謀反を起こさせたという設定になっております。
まあ、こんなことはどうでもよいし、あまり長くして本編にあまり関係ない事を入れてもと思いカットしました。
さてさて、話は変わりますが、実は最近画力を上げようと頑張っております。いや、いつもどおり意味は無いんだけどね、やってみたかったから。そんな訳で現在デッサンを中心にやっております。
できたらそのうち、シエラや閃華も画きたいなと思ってます。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからによろしくお願いします。更に評価感想、そして投票に人気投票をお待ちしております。
以上、上手く画けたならホームページに上げよかなと思ってる葵夢幻でした。