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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
52/166

第五十二話 民主主義は絶対です

 昇の上にまたがった閃華の髪が垂れて昇の頬を撫でる。

 だが昇はそんな事を気にすることなく閃華の瞳を見つめる。

 なんだろう、閃華の目、すごく悲しいよ。

 悲しみ、悔しさ、後悔、そんな事を感じさせる瞳を閃華はしていた。

「のう昇、昇は人を殺したと思うほど人を憎んだ事があるか?」

「閃華?」

「私は止められなかった。いや、それどころか気付いてもやれなかった」

「……その事を後悔してる?」

「ふふっ、そうじゃのう、その通りかもしれんのう」

「そして風鏡さんからも同じ物を感じた」

「そうじゃ、あれは、あの笑みは、復讐を隠しておる笑みじゃ」

「復讐!」

 まさか、そんな、あの風鏡さんがそんな事を企んでたなんて。

 にわかに信じがたいが、閃華が迷いに迷って告げてきた真実だから昇は閃華の言葉を否定できなかった。

「それで閃華、僕に一体どうしろと?」

「分からぬ、私にも、どうして良いのか分からぬのじゃ」

 閃華は昇の首に手を回して体を昇に預ける。

 甘い匂いと暖かい温もりを感じながらも、昇はどうしていいのか分からなかった。

「だから昇、決めてくれ。私は……一体どうすればよい」

 閃華、泣いてる?

 昇の耳に微かに届く閃華の嗚咽。それと同時に閃華は思いっきり昇に抱きついてきた。

 昇は閃華の髪を優しく撫でるとそのまま頭を優しく抱き寄せる。

「分かったよ閃華。僕に何が出来るか分からないけど、閃華をこれ以上泣かせる事はさせないから」

 今の僕にはそう言う事だけが精一杯かな。

 ほとんど何も出来ない自分に昇は悔しさを感じるが、耳元では閃華が軽く笑っている声が聞こえてきた。

「どうしたの閃華?」

「いや、なに、昇は充分女たらしの素質を秘めておるなと思っただけじゃ」

「そんなことは無いと思うけど、というかいきなり何を言い出すの閃華」

「くっくっくっ、前から聞きたかったんじゃが、それは演技で聞いておるのか、それとも素か?」

「いや、閃華、意味が分からないんだけど」

「どうやら素のようじゃな。なら」

 閃華は昇に顔を見られないように、昇の胸まで移動するとそのまま顔を昇の胸に擦り付ける。

「今はそれに甘えさせてもらうとしようかのう」

「閃華……」

 胸の辺りから聞こえてくる閃華のむせび声、昇は閃華を包み込むように抱きしめる。

 今の僕にはこうする事しかできないけど、ここで終わるつもりは無い。

 それからしばらく昇は閃華を優しく包み込んでいた。



 横になっている所為か、昇が少しウトウトとし始めた時だった。

 急に閃華が昇から離れると外の気配を窺うように一点を見詰めていた。

「閃華?」

「……さて、私はそろそろ休ませてもらうかのう」

「どうしたの?」

「昇、修羅場が見たいならもう少しここに居るが」

「……シエラ達が帰ってきたんだね」

「くっくっくっ、さすがにそれくらいは察しが付くようになってきたようじゃのう」

「ははっ、もういい加減にそれくらい覚えるよ」

「それでどうする昇、修羅場に突入するか?」

「謹んでご遠慮申し上げます」

「そうじゃな、では私は休ませてもらうぞ」

 そう言って閃華が部屋を出て行こうとしたが、急に足が止まる。

「閃華?」

「昇、風鏡殿には気を許すな」

「えっ?」

「復讐を誓った者は、周りが見えなくなるどころか利用までする。じゃから昇、風鏡殿には常に警戒をしておけ」

「……分かったよ、閃華」

「……ではな」

 今度こそ部屋を後にする閃華。一人部屋に残された昇は閃華の言葉が意味する物を考えてみる。

 風鏡さんは、復讐の為に僕達を利用するって事なのかな。あの風鏡さんがそんな事を企んでるとは信じられないけど、閃華があそこまで自分を傷つけて伝えたことなんだから、そうなのかもしれない。

 それに閃華が、あの閃華が僕に頼ってきたぐらいだから、たぶん閃華もどうしていいか分からないんだ。……なら、どうすればいいんだ。僕は、どうすればいい。

 風鏡さんの復讐を止めればいいのかな。いや、それは風鏡さんの問題だし、僕が出て行っても変わらないか。けど、閃華はたぶん、風鏡さんが復讐するところを見たくないんじゃないかな。閃華の過去に何があったかは分からないけど、たぶん、風鏡さんの今は閃華の過去に繋がってる。

 そうか、僕は風鏡さんと閃華の繋がりを断ち切らないといけないんだ。

 でも、どうやって?

 そもそも閃華の問題は閃華自身が納得しないと終わらないし、風鏡さんの問題も風鏡さん自身の手で終わらせないといけない。……困ったな、この二つの問題は繋がっているようで繋がってない。

 僕に出来る事は閃華と風鏡さん、二人の問題を解決する手助けしかないか。

 昇は一応結論を出したが、新たな問題に直面する。

 ……というか、風鏡さんの復讐したい相手って誰? まさか一般の人じゃないよね。いや、それは無いか。もしそうだとしたら精霊と契約する意味が無い。ということは、僕以外の契約者、または精霊と考えるのが妥当か。

 はぁ、どっちにしても情報が少ないか。

 昇は考えに行き詰っていると、外から騒がしい聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 シエラ達帰ってきたのかな。そうだ、皆にも伝えておかないと。

 昇はシエラ達を呼びに部屋の外へと向かった。



「それで昇、話って何?」

 昇の部屋に集まったシエラとミリアと琴未に昇は先程閃華が話した事を伝える。もちろん、閃華が昇に抱きついてきた事は省いて。

「というワケなんだけど」

「ちょっと待って昇、それって閃華が勝手に思ってることで、何一つ確証が無いんじゃない」

「うっ、でも、あの閃華が僕に話してきてくれたことだし」

「どちらにしても閃華が迷ってる事は確か」

「まあ、そうかもね」

「じゃあ、風鏡の復讐相手を私達で倒しちゃうのは?」

「ミリア、これはそういう簡単な問題じゃないよ」

「それに相手が誰だか分からないじゃない」

「単純」

「昇、シエラと琴未がいじめる〜」

『だからそれをやめなさい』

 昇に飛び付こうとしたミリアだが、シエラと琴未の連携攻撃を前にしてあっけなく撃沈される。

 というかミリア、少しは真剣に考えてよ。……無理かな?

 結局、結論が出ずに行き詰って行く中でシエラが口を開く。

「昇、今のままだといくら考えても結論は出ない」

「そうだけど、このままにも出来ないし」

「私達には決定的に欠けている物がある」

「なにもったいぶってるのよ、シエラ」

「……情報」

「そう、今の私達には情報が欠けてる。つまり、何も知らないのと一緒」

「なら、やる事は決まったわね」

「えっ、えっ、何かやるの?」

 一人取り残されているミリアが昇達の顔を順に見回す。確実に何をやるのか分かっていないようだ。

 琴未は溜息を付くとミリアをこっちに向かせる。

「あのね、私達には情報が無いのよ。だから、無い情報を集めるのよ。つまり、情報収集よ、分かった?」

「琴未、情報収集なんて出来たんだ」

「うっ、それは……」

 何にも考えてなかったんだね、琴未。でも、どうしようか……。

 結局行き詰るのだが、またシエラが口を開く。

「大丈夫、私には情報収集のエキスパートに心当たりがある」

「えっ、本当?」

「うん、それに琴未も心当たりがあるはず」

「えっ、誰よ、それ」

「与凪」

 ……いや、与凪さん、ここに居ないんだけど。

「あのねシエラ、与凪は今ここに居ないんだけど」

「居なければ呼べばいい」

「連絡先は分かるの?」

「もちろん、先生も困った事があったらいつでも連絡をくれと言ってくれた」

「手回しがいいわね」

 そうですね。

「でも、先生にも都合があるんだし、来てくれるとは限らないんじゃない」

「大丈夫、与凪達は絶対に来る」

「……その心は?」

「森尾先生も男だから」

「いや、シエラ、意味分かんないわよ」

「そういう訳だからいつでも与凪と連絡が取れるけど、どうする昇?」

 昇は少し考えてから結論を伝えた。

「確かに与凪さんが居てくれれば心強いからね。でも今日は遅いから明日朝一で連絡しよう」

「でも昇、与凪がこれなかった時は」

「その時は僕達で何とか情報を集めよう」

「え〜、めんどくさそう」

「ミリア、お願いだからやる前に気を挫かないで」

「だって〜」

 その後も駄々をこねるミリアだが、それを無視してシエラが昇に告げる。

「何シエラ?」

「私達でも独自策を打ってみるのもいいかもしれない」

「なによ、独自策って?」

「もし閃華の仮説と昇の考えが正しければ、私達の他に契約者か精霊がいる。それを釣り上げるのもいいかもしれない」

「どうやってよ?」

 琴未の問いかけにシエラは昇を指差して一言。

「エサ」

 昇は自分を指差して固まる。

 ……えええぇ───っ!

「し、シエラ、僕がエサってなに!」

「そうよ、昇に何をやらせる気よ!」

「誰も昇一人にやれとは言ってない。昇を使って相手を誘い出すだけ」

 どっちにしろ僕は使われるんですね。

「それに誘い出すなんて、どうすればいいのよ?」

「それは簡単、目立つところで精界を張ってその中で待ってれば相手の目に止まる。後は相手が乗ってくるかどうか」

「もし相手が乗ってこなければどうするの?」

「それはそれで構わない。そもそも情報が無い、だから釣れればラッキー」

「要するに運任せってこと?」

「うまく相手が乗ってくれば情報収集の手間が省ける。それに新しい情報が出てくるかもしれない」

「まあ、確かにそうかもね」

「そしてここからが重要」

 急に真剣な眼差しになるシエラにつられて、昇達も真剣にシエラの言葉に耳を傾ける。

「あまり大人数が昇に付いてると警戒される可能性がある。だから昇と一緒にいるのは一人がいい」

 ……あの、シエラさん、それのなにが重要なんでしょうか?

 シエラの言葉に重要性が見つからなかった昇だが、ミリアと琴未はそうではないみたいだ。

「確かに、それは重要だね〜」

「そうね、あまり大人数が付いてると警戒されるよね」

「それに情報収集にも人数を裂いたほうがいい。だから昇の護衛以外は情報収集」

「そうね」

「いいよ〜」

 あの〜、なんか三人の間に火花が散っているように見えるのは、僕の気のせいでしょうか。気のせいですよね。気のせいだと言ってください。

 誰に言っているのか分からないが、昇が目に見えない人に問いかけている間にシエラ達は勝手に話を進める。

「っで、どうやって昇の護衛を決めるわけ」

「じゃんけん!」

『却下』

 声を揃えてミリアの提案を却下するシエラと琴未。そして今度は琴未がある提案を持ち掛ける。

「ここは公平にくじを作って昇に引いて貰うのはどう?」

「それでいいよ〜」

「構わない」

「じゃあくじを作るわよ」

 琴未はテーブルの上にあった菓子包みの紙を手に取ると、部屋に備え付けてある電話のところに行き、そこにあったボールペンでくじを作る。

 そして中が見えないように折られた三つの紙を適当な器に移すと昇の元へ持っていく。

「じゃあ、昇」

「ちょっと待って」

「なによ?」

 シエラが待ったをかけると、すぐさま琴未が作った三つのくじを手に取る。

 ミリアがシエラの肩口から覗いてくる中で、シエラは三つのくじを全て開いてみると、そこには全て琴未と書いてあった。

「やっぱり」

「琴未ずるい〜」

「ちっ! まさか見抜かれるとは思わなかったわ」

 というか、三人ともなにをやってるの?

 現実に戻って来た昇もさすがに呆れてるようだ。

 そんな中でシエラが紙を持って立ち上がる。

「琴未じゃ信用できないから私が作る」

「私はシエラの方が信頼できないんだけど」

「同じく〜」

「じゃあ、皆が見ている前で作れば問題ない?」

「そうね、ぜひともそうして」

「分かった。ミリア、ボールペン取って」

「はい」

「ありがとう」

 こうしてシエラは琴未とミリアの監視を受けながらくじを作った。そうして出来上がったくじにはちゃんと三人の名前が書かれており、それを琴未とミリアに確認させてからシエラはくじを折りたたむ。

「これで問題ない」

「……そうね」

「うん」

 琴未はまだ何かを疑っているようだが、何も不審な点が無いために文句のつけようが無かった。

「じゃあ昇、くじを引いて」

「昇、昇、ちゃんと私を引いてね」

 いや、ミリア、これくじだから誰を引くかなんて分からないよ。

「なに行ってるのよ、昇はちゃんと私を引くわよ」

 琴未、前から聞きたかったんだけど、その根拠の無い自信は何処から来るの?

「ふっ」

 シエラさん、その笑みが一番怖いです。

 昇は溜息を付いた後、しかたなく、くじの入った容器に手を伸ばす。

 ……あれ? くじが勝手に飛び込んできた?。

 そしてシエラは素早くくじが二つ入った容器をテーブルの上に戻した。

「じゃあ昇、くじを開いて」

 シエラに言われて昇は手の中にあるくじを開いて中に書いてある字を読む。

「シエラ」

 思いっきり落胆する琴未とミリア。だが琴未は何か納得がいかないのか、すぐにシエラに突っ掛かる。

「シエラ! また何かやったでしょ!」

「じゃあ琴未、私が何をやったか説明してみて」

「ぐっ、それは……」

「ふっ、説明できなければ私が何をやったかは立証不可能。逆にバレなければイカサマはイカサマにあらず」

「ってシエラ! やっぱり何かやったのね!」

「だから琴未、証明してみて」

「うっ、……昇! 昇ならシエラのイカサマを説明できるでしょ」

「無理」

「はっきりと言わないでよ!」

「いや、だって、シエラだし」

 その言葉は予想以上に説得力があった様で、琴未は思いっきり落ち込む。

「はぁ〜、こんな時に閃華がいてくれたら」

 琴未、それを言っちゃうんだ。

 それは昇達があえて口にしなかった事。三人でもいつもの様に騒がしくはあったのだが、どこか味気無さを感じていたのは琴未だけではない。その場にいる全員がそれを感じていたのだが、口に出そうとはしなかった。

 急に静寂が訪れる部屋に琴未は耐えられなかったのか、大声を上げる。

「ああっ、もう! 分かったわよ、こうなったら情報収集でも何でもやってやろうじゃない!」

「琴未、がんばって」

「……シエラに言われると、殴りたい衝動が湧き上がってくるのは何でだろ?」

「それは琴未がひねくれてるから」

「やっぱり殴るわ」

「琴未やっちゃえ」

『あおるな!』

 ミリアの発言にシエラと琴未は声を揃えて突っ込む。

「あっ!」

 その時、急に昇が声を上げた。

「どうしたのよ、昇?」

「そういえば、与凪さんが来てくれても情報収集はするの?」

『……』

 ……あっ、あれ、この静寂はなに?

 そして琴未がその静寂を破る。

「じゃあ与凪が来た時は、昇の護衛を交代でやるってことで」

「異議なし」

「意義あり!」

『却下!』

 珍しく琴未とミリアが声を揃えてシエラの意見を却下した。

「賛成二、反対一、という結果が出たので民主主義に乗っ取りこの案は受理されました」

「誰が受理するの?」

「そんなことはどうでもいいの! とにかく、与凪が来た時には昇の護衛は交代でやる事! それともシエラ、民主主義に反論する」

「うっ!」

 さすがに民主主義を持ち出されてはどうする事も出来ないのか、しかたなく頷くシエラに琴未とミリアはハイタッチで勝利を喜ぶ。

 ……なんか、また騒がしくなってきたな。

 だがそれでも、昇は何か足りない感覚を覚える。そしてそれは昇だけではないだろう。







 今回の本文頭で閃華フラグがたった事を確証して、閃華を中心に話を進めようとすると、実は罠が待っており、閃華フラグが消滅する。……ということが、あったり無かったり。

 皆、ちゃんと両方見られるように、選択肢ではこまめにセーブしよう、ちゃんと石を投げてるかい。と、某高校生には見えないロリキャラが言ってました。なので皆さん、閃華エンドが見たかったらこまめにセーブしよう。

 ……さて、戯言はここまでにして、そろそろ後書きをちゃんと書こうと思います。

 まあ、書くことなんてほとんど無いんだけどね。というか、冒頭の戯言でネタが尽きた。

 いや、ほら、なんか五十二話はそんな感じがするじゃない、本文の頭だけ読むと。……私の気のせい? 違うよね、間違ってないよね。私は道を踏み外してないよね!!!

 はいそこの方、すでに踏み外してると突っ込まないように。そんな事を言われたら、もう生きて行けないじゃないですか!

 ……さて、それじゃあ、今回はこの辺で終わっときますか。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票をお待ちしております。

 以上、インフルエンザが治り始めて久しぶりに絶好調な葵夢幻でした。

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