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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
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第五十一話 戸惑い

「では、私達はここで失礼させて頂きます」

 風鏡は丁寧に頭を下げると常磐と竜胆の二人を連れて昇達に背を向けた。

 はぁ〜、よかった。せっかく海にまで来たのにやっかいな事に巻き込まれなくて。

 昇はそんな事を思いながら風鏡の背を見送る。

 風鏡さんもああ言ってくれた事だし、これでゆっくり羽が伸ばせるかな。

 などと油断していると災難は別な方向から来るようだ。

「昇、昇!」

「うわっっと!」

 昇の背中に勢い良く跳び付いたミリアがそのままダダをこね始める。

「昇、おなか空いた」

「えっ、だってさっき食べたんじゃ」

「もう夕方だよ」

「えっ!」

 昇がミリアを背負ったまま海の方へ振り向くと、そこには水平線近くで赤く染まっている太陽があった。

「……もう、そんな時間なんだ」

「久しぶりの戦闘で集中してた?」

「というか、精界の中って時間が分かりずらくない。シエラの精界は真っ白だし、あの竜胆さんの精界は赤いし。そういえば二つ精界を張ったのに真っ白だったんだろ?」

「それは私の精界が内側に来てたから。精界は二つ重ねる事は出来ない」

「つまりシエラの精界が内側に来てたから中は真っ白で、竜胆さんの精界は外側にあったってこと?」

「そう。だから外から見れば精界は赤く見える」

「だから風鏡さんは竜胆さんが精界を張ったって分かったんだ。けど、どうやって中に入ってきたんだろ?」

「精霊が精界を張るときには通常外から入れるようにしてる。その代わりに中から外にはでれない」

「なんで外から入れるようにしてるの?」

「時と場合によるけど味方の増援を受け入れる為。でも一騎打ちを望む場合は誰も入れないようにする」

「けど僕達には増援が無いはずだよね?」

「だからあの風鏡って人は私の精界を切り裂いて中に入ってきた」

「えっ、シエラは外から入れないようにしてたの?」

「もちろん。ただでさえ足場の不利があったから念には念を入れて」

「その割には随分とあっさり侵入を許したわね」

 琴未、そんなシエラを怒らせるような事をわざわざ。

 そんな昇の心配を余所にシエラはまったく気にせず淡々と答えた。

「それは精界が外からの攻撃に弱いから。破壊は出来ないけど切れ目ぐらいは琴未でも簡単に入れることが出来る」

「……シエラ、喧嘩売ってる?」

「私は事実をそのまま言ってるだけ」

「とりあえず殴っていい?」

「嫌」

「……」

 ……あれ? いつもならここで……。

「どうしたの昇、変な顔して」

「えっ、いや、なんでもないよ琴未」

 急に話を振られて慌てる昇はなんとか平静を装う。

 おかしいな、なんか会話に違和感があるような。

 違和感を覚える昇だが、背中にいるミリアが騒ぎ出した事により思考が中断される。

「昇、昇、そんなことよりおなか空いたよ」

「はいはい、分かったから昇から降りなさい」

「このままオンブ〜」

「ダメ」

「う〜、シエラの言ったとおりにやったらおなか空いたんだよ。だからこれくらい大目に見るのが普通だよ〜」

「あんたね、どれくらい燃費が悪いのよ」

「精霊がそれくらいで根を上げない」

「昇〜、シエラと琴未がいじめる〜」

「ははっ、とりあえずここまでにして旅館に帰ろうか」

「はぁ、そうね」

「じゃあ、ミリアを降ろしてから」

「う〜、う〜」

 唸り声を上げながら抵抗するミリアだが、空腹には勝てないのかあっさりと昇から引き剥がされる。

「それじゃあ、帰ろうか」

「そうね。閃華、行くわよ」

 だが閃華はまったく反応せずに別は方向を見詰めていた。

「閃華?」

「……」

「閃華、閃華ったら!」

「……んっ、なんじゃ琴未」

「はぁ、ほら、帰るわよ」

「そうじゃな」

 ……あれ?

 琴未を先頭に歩き出す昇達だが、昇は先程の違和感がなんなのかようやく分かった。

 閃華が変だ。

 思いっきり失礼な事を思う昇だが、昇がそう思うには幾つか理由がある。

 さっきだって、いつもなら琴未の味方をしながら仲裁に入るのに。それにシエラと一緒に分からない事は説明してくれるのに、さっきはまったくそれが無かった。……調子が悪いってワケじゃないみたいだし、いったいどうしたんだろう。

 そのことを閃華に聞いてみたい昇だが、この場で聞いても答えてくれないだろうと思い。後で二人っきりで話したほうがいいと判断したので、何も聞かずに旅館に帰る事にした。



「はぁ、海に来てどうしてこんなに疲れなきゃいけないのよ」

 琴未は湯船に浸かりながらそんな愚痴をもらす。

 昇と別れた女性陣は戦闘の疲れと海の塩分を落とすために浴場へと入っていた。

「琴未の所為で余計に疲れた」

「あ〜、疲れてるから突っ込まなくていい」

 さすがにそこまで反応が薄いと寂しいのか、シエラは複雑な顔をする。

「それより、あんた達精霊なんでしょ。なんでそこまで丁寧に髪を洗ってるわけ」

 髪の短い琴未はすでに湯船に浸かっているが、髪が長い他の三人は未だに髪を洗っている。

「実体化してる精霊は人間と変わらない。だからこのままだと髪が痛む」

「なんか……変な所は人間臭いわね」

「琴未〜、それは人間のセリフじゃないよ〜」

「いいのよ、そんなこと。それより私には、長い髪をそのまんまにして戦闘してるシエラが信じられないわ。邪魔じゃないの?」

「慣れてるから邪魔じゃない」

「そう、それより髪を切ろうとか思わないの?」

「精霊の容姿は生まれたときから決まってる。だから髪を切っても戻そうと思えば一瞬で戻せる」

「それに髪は女の命だよ」

「ミリア、それは古くない」

「けど昔は女性が髪を長くするのが常識だったから、精霊は未だにそれを受け継いでる」

「つまり、髪が長いのは精霊王の意思ってこと」

「そう、それに今だと気にしないけど、昔はそういうことにうるさかった。だから普通に人間社会に溶け込めるようにそういう配慮があった」

「確かに時代劇なんかでも髪が短い人って出て来ないわよね」

「その時は日本にいなかったから知らない」

「そうなんだ。というかシエラって何処で生まれたの?」

「……西洋のどっか」

「覚えてないなら覚えてないと言いなさい。閃華、そういう事は閃華が詳しいでしょ」

「……」

「閃華、閃華ったら」

「んっ、どうしたんじゃ琴未」

「閃華……私達の話し聞いてた?」

「すまん、ちょっと考え事をしててな」

「ふ〜ん」

「悪いが先に上がらせてもらうぞ」

「あっ、それなら閃華、温泉の方を見てきてくれる」

「何故?」

「おばさんがいるかもしれないから呼んで来て」

「うむ、分かった」

 それだけ言うと閃華は浴場を後にして残された三人は閃華の背を見送った。

「ねえ、閃華少し変じゃない」

「……何かを企んでるに一票」

「同じく二票〜」

「あんたらね、いつも閃華をどんな目で見てるのよ。……ついでに三票」

 ……カポーンという音が聞こえそうな空気の中で、髪を洗い終えたシエラとミリアは黙って湯船に浸かるのだった。



 風呂から上がったシエラ達を待っていたものは、女性陣の部屋に用意された豪華な食事だ。

 部屋にはすでに昇の姿があり、テレビを見ながらくつろいでいた。

「昇、昇、凄いよ。海老とかカニとかあるよ」

「なんか知らないけど、僕が来た時にはすでに用意されてた」

「旅館をここに決めた理由に海の幸が安いこともある」

「つまり、この豪華な食事は母さんの意思?」

「おばさん、結構楽しみにしてたみたいよ」

「へぇ〜……」

 まあ、いいけど。

 昇は戻ってきたシエラ達の中に閃華がいないことに気付いた。

「あれ、そういえば閃華は?」

「閃華ならおばさんを呼びに温泉の方に行ってもらってるわ」

「やっぱり母さん温泉に行ってるんだ」

「私達が使ったお風呂にはいなかったからそうだと思う」

「へぇ〜」

 母さん、温泉でも飲んでないだろうな。

 昇がそんな疑念を抱いていると、部屋の戸が開き閃華と彩香が入ってきた。

「ただいま。おっ、もう用意されてるのね」

「おかえりなさい。閃華もご苦労様」

「うむ」

 彩香は用意されている食事を一通り眺めると昇の首を掴んでそのまま立たせる。

「そういえば昇、あれ持ってきた、あれ?」

「いや、その前に何処を掴んでるの」

「首」

 いや、それはそうだけど。

「まあいいや、とりあえず来なさい」

「えっ、えっ?」

 彩香は昇の首を絞め直すとそのまま引きずって部屋を後にする。取り残されたシエラ達は呆然とそれを見送るだけだった。

 そして彩香は昇の部屋に入ると、そこでやっと昇を解放した。

「ててっ、というか母さん、あれって何?」

 だが彩香はすぐに答えずに柱に寄り掛かって腕組をする。そして昇の目を真っ直ぐ見据えながら口を開いた。

「気付いてるんでしょ、閃華ちゃんのこと」

「……母さん」

 昇は首を縦に振る。

「やっぱりね、あんな閃華ちゃんも珍しいからね。それで、何があったの?」

「う〜ん、僕にもよく分からないけど、だから後で聞こうとしてたんだ」

「そう、ならいいわ」

「母さんは、いつ閃華の事に気付いたの?」

「迎えに来てもらった時。なんか、いつもの閃華ちゃんと違ってたのよね。普段の雰囲気が無いというか。あれは明に変だったわ」

「そこまで言うんだ」

「あそこまで思い悩んでる事を表に出してる閃華ちゃんが珍しいだけよ。それで昇、何があったかは話してくれないんでしょ」

「……うん」

「はっきりと言いやがったな、ドラ息子」

 彩香は大きく溜息を付くと、昇の肩に手を掛ける。

「まあいいわ。昇、昇は皆を引っ張って行かないといけないんでしょ。なら、閃華ちゃんが今目の前にしている事も一緒に見ていかないとね」

「うん、分かってる」

「ならいいわ。戻ってご飯にしましょう」

 昇に背を向けて出て行こうとしてる彩香に、昇は呟く。

「ありがとう、母さん」

 そして彩香の足がぴたりと止まると、急に反転して左足を思いっきり踏み込み彩香の拳が昇の頭にヒットする。

 昇は後ろに倒れると殴られた所を抑えながら悶絶する。

「わざわざ母親に礼なんて言わない!」

 それだけ言い残して彩香はさっさと部屋を後にする。

 というか、なんで僕は殴られたの?

 頭をさすりながらワケが分からないという顔をして立ち上がる昇は、しかたなく彩香の後を追って部屋を出る。

 まあ、昇には一生分からないだろう。それが彩香の照れ隠しだという事に。



 それからいつもの様に、いや、いつも以上に騒がしい夕食となった。

 なにしろ目の前には普段では目に出来ない新鮮は海の幸が、これでもかというほど並んでいるのだからミリアを始めとして騒がしくなるのもしょうがない。

 そして夕食が終わると彩香が急に。

「温泉に入って、卓球でもやりましょう」

 と言い出したので一気に盛り上がるシエラ達。ちなみに卓球の勝敗に昇が賭けられたのは今更言う事でもないだろう。

 そして部屋を後にするシエラ達と一緒に昇も自分の部屋に戻る。

 さーて、どうしようかな?

 部屋に戻った昇はどう閃華に切り出そうか悩んでいた。

 なにしろ閃華だからな、直接的に聞いて素直に答えてくれないだろうな。

 その後もいろいろと思考錯誤していると、急に部屋の戸が開いて誰かが入ってきた。

「昇、おるか?」

「閃華……」

「……やはり、おったか」

 閃華は複雑そうな顔をしてからテーブルを挟んで昇の向かいに座る。

「どうしたの閃華?」

 突然閃華が来た事に昇は内心動揺していたが、なるべく平静を装った。

 だが閃華には昇の動揺が手に取るように分かるらしく、軽く笑いながら返すだけだった。

「なに、これ以上心配をかけてもあれかと思ってのう」

「えっ、心配って?」

「別に隠さんでも良い。奥方も気付いてるようじゃからな、昇も気付いておるのじゃろ」

「……」

 まさか閃華の方から来るなんて……。

 昇と彩香が閃華の異変に気付いていたように、閃華も自分が昇や彩香に心配をかけている事を気付いていた。

 ははっ、やっぱり閃華には敵わないな。

 それを察して昇の所に来たのだから、昇は改めて閃華の行動が自分より先に行っていることに感心した。

「それで閃華、全部話してくれる」

「ふむ、正直未だに悩んでおるじゃがのう。奥方にも分かってしまうぐらいじゃから、しかたないのう」

「それじゃあ風鏡さんについてどれくらい知ってるのか話してくれるよね」

 閃華は一瞬だけ驚いた顔になるが、すぐに昇に笑いかける。

「そこまで気付いておったか」

「うん、だって風鏡さんと別れてからだから、閃華が何かに悩んでいるのは」

「くっくっくっ、敵わんのう」

 閃華は自分の顔を隠すように髪を掻き揚げると立ち上がり、昇の隣に移動すると押し倒して昇の上に馬乗りになる。

「って、えっ、えっ、閃華?」

 そして閃華はゆっくりと昇の首に手を掛ける。

「閃華?」

「……のう、昇。昇は……誰かを殺したいほど人を怨んだ事はあるか?」

「えっ?」

 閃華、泣いてる?

 閃華の顔はよく見えないが昇には閃華が泣いてるように見えた。

 それは閃華が昇に始めて見せる素顔。過去の傷が痛み出し、必死に堪えてるかのように手が微かに震える。

 そして閃華の手が昇の首を滑る。







 イーン、フーールー、エーーーンーザーーー!!! にかかってしまいました。

 というか未だに頭がボーッっとしてます。そんな訳でかなり更新期間が開いてしまいました。というか五十話の最後と後書きなんか何を書いてるのか分からないくらいです。

 という事は五十話をアップした時からインフルエンザにかかっていたということになります。……そんな訳で後書きがクデクデ、これを書いてるときも結構来てたりもします。

 まあ、後は本文に影響が出てなければいいのですが、なにしろ頭が真っ白になって、一度書き直したぐらいですから。

 ああっ、これを書いてると頭が真っ白になって行きます。 

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして最近では誰もしてくれない投票もお待ちしております。

 以上、もう後書きに何を書いてるのか分からなくなった葵夢幻でした。

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