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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
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第五十話 重なる笑顔

 いつの間にか常磐と竜胆の後ろに現れた真っ黒な精界の切れ目から、突然雪崩が起きたかのように雪が怒涛の勢いで二人を襲い。すぐ傍で起こった雪崩に二人はどうする事も出来ずに雪崩に飲み込まれた。

「えっ、なに、どうしたの?」

 突然の事に驚いてるのは昇達も同じだった。そして琴未が目にした物は自分達に迫ってくる雪崩。

「雪───!」

「落ち着け琴未、ミリア!」

「うん」

「……ちょっと待って」

 ミリアがハルバードを振り上げた瞬間から雪崩の勢いは一気に弱まり、昇達の元にまで来ることは無かった。

 シエラは近くまで迫ってきた雪崩の一部を掴み取ると冷たい感覚がしっかりと感じ取れた。

「これ、本物の雪」

 昇もシエラと同じく雪を手にとった。

 本当だ、冷たい。でもこれだけの雪が一体何処から来たんだろう。それにあの二人の精霊はどうしたんだ?

「今は真夏だよね。何でこんなにも雪が?」

「昇、こんなことを出来るのは限られておるじゃろう」

「……精霊?」

「もしくは契約者のどちらかじゃろ」

「……どちらにしても相手の増援には間違いないかもしれない」

「そうじゃな」

「でも昇、相手の精霊が雪に埋もれてるよ」

「えっ!」

 ミリアの言葉に昇は積もった雪の上を見てみると、そこには雪からはい出して来る常磐と竜胆の姿があった。

 えっと、どうしてあの二人が雪崩の被害に?

 昇達にはまったく心当たりが無いのだが、竜胆と常磐の二人はそうは思わないようで雪から這い出すと昇達に敵意を剥き出しにする。

「あんた達ね〜、よくもやってくれたわね!」

「精界の外から奇襲なんて予想外だったわ」

「えっ、えっ、いや、僕達の仕業じゃないんだけど」

「この期に及んで言い訳するなんて男の子らしくないわよ!」

 いや、そう言われても困るんですけど。実際に心当たりないし。

 戸惑うばかりの昇に噛み付いてくる竜胆と常磐。閃華は昇の前に立って口を開く。

「とりあえず、私達の中に雪を扱える者はおらん。お主達に心当たりがあるのではないか?」

「あんた達ね! この奇襲は見事だったけど言い訳するのは見苦しいわよ!」

「ちょっと待って常磐。……これ、雪だわ」

「だからなんなのよ! 竜胆」

「もしあの精霊が言ってることが正しかったら、私は思い当たる節があるんだけど」

「私には無いわよ、ゆき、を……」

 常磐の声が段々と小さくなっていく。どうやら竜胆と同じように思い当たる節があるらしい。

 そして常磐が静かになった事によりその場は静寂に包まれて、今まで聞こえなかった音が聞こえてきた。

 それは雪の上を歩く時に鳴る独特の音。

 竜胆と常磐は顔を見合わせると二人の顔は青ざめていき、そして後ろから近づいてくる足音に恐る恐る振り返る。

「……風鏡!」

 後ろから来た足音の主に常磐は驚きの声を上げて、竜胆は頭を抱える。

 あれ? あの人はさっき浜辺で見かけた人じゃ。

 昇達の前に現れた風鏡は確かに昇がシエラ達と合流する前に見かけた女性だった。

 それにあの格好、もしかしてあの人も……。

 前に昇が見えかけた時には風鏡は普通のワンピースを着ていたが、今では白い長襦袢ながじゅばんと黒い袴の上に武装しており、たすき掛けで邪魔な袂をまとめて戦闘向きな姿になっている。

 それに手にしてるのは日本刀の刃と長い柄を持つ長刀なぎなた。その出で立ちはどう見ても精霊武具に他ならなかった。

 そして風鏡は常磐と竜胆の前に辿り着くと二人に笑みを向けて話しかける。

「常磐も竜胆も、こんな所で何をしているの?」

「えっ、えっと、あれだよ風鏡……」

「ほら、私達って精霊じゃない。だからあれよ」

 笑みを浮かべる風鏡に対して常盤と竜胆の二人は明らかに動揺している。

 そして竜胆は思いっきり昇達を指差した。

「あの契約者に私達が精霊だって事がバレたから、それでこんな風に巻き込まれたのよ。私達は断ったんだけどしつこくってね」

 いやいや、あなた達が僕達を誘い出したんでしょ。

「そうだよ。だから私達は被害者なのよ」

 いや、被害者は僕達ですけど。

「へぇ〜、そうなんだ」

 笑顔で返す風鏡だが常磐と竜胆は逆にそれが怖かった。

「それ……嘘よね」

「うっ!」

「ぐっ!」

 一発で見抜かれたことにより言葉を失う常磐と竜胆。風鏡は笑顔を崩すことなく更に二人に歩み寄る。

「あなた達がそんなに謙虚なわけないわよね」

『……』

 最早出る言葉も無いらしい。

 風鏡は始めて笑顔を崩して溜息を付くと大きく長刀を振り上げる。

「とりあえず二人とも」

「ちょ、ちょっとまって風鏡!」

「許して───っ!」

「反省してなさい!」

「いや───っ!」

「ごめんなさい、ごめんなさ───っい!」

 そして風鏡が長刀を振り下ろすと二人の足元にある雪が吹き上がり二人を飲み込んでいった。



「私の精霊が迷惑をお掛けした様で、本当にすいませんでした」

 昇達の前にやってきた風鏡は頭を下げて丁寧に謝罪する。ちなみに常磐と竜胆は首から下を完全に雪で固められて、雪だるまのようになって風鏡の後ろで涙を流していた。

「本当になんとお詫びしていいやら」

「いや、あの、別に気にしてませんから」

 丁寧すぎる風鏡に昇は思わずそう言ってしまう。

「甘いわよ昇! 私達はあの精霊達に散々酷い目に遭わされたのよ。それを簡単に許すなんて!」

「本当にすいませんでした。今後はこのような事をしないようにちゃんと二人には言って聞かせますから許してください」

「えっ、いや、その……」

 それでも下手に謝る風鏡に琴未はすっかり毒気を抜かれてしまった。それどころかここで怒っている自分が大人気ないように思えてすっかりおとなしくなる。

「えっと、風鏡さん……でしたっけ」

「あっ、自己紹介が遅れましたね。私は秋月風鏡あきづきふみねと申しまして、常磐と竜胆の主です」

「あるじ?」

 聞き慣れない言葉に昇は首をかしげるが、そんな昇を見てシエラは風鏡達が交わした契約について説明を始める。

「契約には幾つか種類がある。一つは私達が昇とした契約でキスをもって契約が完了する方法。これは精霊が己の全てを契約者に捧げる事を意味してる。つまり昇が私達に何をしようと私達は文句をいえない。だから昇は私達を自由に出来る権利を持ってる」

「……その割にはシエラ達って結構自由にやってるよね」

「それがこの契約の良い所。精霊が己の全てを捧げてる事によって精霊にも契約者の命令以外は自由に出来る。その代わり精霊には拒否権は無い。だから昇は私達にどんな命令でも出来る」

「なんか、それも気が引けるんだけど」

「昇は権利を持っても精霊に酷い事をしないって確信してたから、だから私は昇に全てを捧げる契約方法をとった」

 さすがにそこまで言われると気恥ずかしいのか、昇は少し照れながら風鏡達の契約について聞いてくる。

「それで、主って言うのは?」

「それは自分の武器を差し出す事によって契約をする方法。これは完全な上下関係を示してる。つまり精霊が契約者に絶対の忠誠を誓う意味を持ってる。だから精霊の行動は契約者に忠実であり、完全に自由が許されない。その代わりに精霊には主となった契約者の命令に拒否権を持ってる」

「んっ、それって逆なんじゃないの? 普通は上の人に逆らったらダメなんじゃ」

「主は人間、だから間違った事もする。精霊が拒否権を持つのは主が間違った方向に進んだ時にそれを正すため。あえて逆らう事で主である契約者をより良く導く事が出来るのがこの契約方法の良い所。本物の忠臣というのは主に逆らう事も必要」

「ふ〜ん、そういうものなんだ」

「まあ、昇には分からんと思うが、生来上に立つ事を決められた人間には逆らう家臣が必要な時もあるんじゃよ」

「……閃華、それっていつの話し」

「くっくっくっ、それは今の世も変わらん。人間は生まれによってそういう定めを負う者もおるんじゃよ」

「そうなの?」

「うむ、それにな、自分の手で勝ち取った立場でも時によっては自らの立場を忘れるときがある。そういう時にも自分に逆らってくれる忠臣は頼りになるもんじゃよ」

「……なんか、僕にはよく分からないんだけど」

「くっくっくっ、だから言ったであろう。それに昇は今のままで良い、それが私達が昇と契約を交わした理由じゃからのう」

 そう言われてもピンと来ないのか昇は考え込んでしまった。

 そんな昇を見て閃華が昇の代わりに風鏡との会話を始める。

「まあ、私達は戦闘に巻き込まれることは覚悟の上じゃ。それに昇もあまり気にしておらんようじゃし、お主が気に病むことは無い」

「はい、そう言って頂けるとありがたい限りです」

「それにしても、お主も契約者なら私達との戦闘を望むのではないか?」

「いえ、私はエレメンタルロードテナーに興味はありません。私は自分の目的を遂げるために契約したのですから」

「んっ、お主の目的とは?」

「それはあなた達に関係無い事なのでは」

 笑顔でそう言って来る風鏡の顔を見ながら閃華は風鏡の意思を読み取っていた。

 つまり、余計な首を突っ込むな、という事じゃな。やれやれ、また面倒な事になりそうじゃのう。なにしろ事と次第によっては首を突っ込みたがるのがおるからのう。

 閃華は昇に目を向けると未だに何かを考えているようだ。

 まあ、昇のことじゃから真相を知った時に首を突っ込むじゃろ。なら今のうちから情報を集めておこうかのう。

「ところで風鏡殿」

「なんですか?」

「この近くに風鏡殿の他に契約者はおらんのか? その精霊達の話ではそういう風に聞こえたんじゃが」

「……」

 風鏡はすぐに答えずに思い出すような仕草をしてから口を開いた。

「そうですね。私の知る限りではいませんね」

 ……嘘じゃな。

 風鏡の返答に閃華はそう思う。だがそれにはそれなりの根拠があった。

 あの精霊達の異常に強い好奇心、風鏡殿にはその好奇心をそそるだけの理由があるはずじゃ。それには必ず契約者が絡んでおるはず。例えどんな理由があろうとも契約者が絡んでおらん限り契約なんてせんじゃろ。

 つまり風鏡が契約をしたという事実が風鏡以外に契約者が絡んでいる事を示している。

「そうか。まあ、私達としても余計な戦闘を避けたいのは事実じゃ。それにここにはバカンスで来ておるじゃからのう。やっかい事に巻き込まれるのはごめんじゃ」

 まあ、それも昇次第じゃがのう。

「そうなんですか、何も無い所ですけどゆっくりとして下さい」

 んっ?

 笑顔でそう言って来る風鏡。だが閃華にはその風鏡の笑顔をどこかで見たような気がした。

「ふむ、ぜひそうしたいものじゃな」

 だが閃華は決してそれを表には出さずにそう答える。

「こちらにはどれくらいご滞在する予定なのですか?」

「一週間ほどじゃ」

「お詫びに観光地があったら案内したいのですが、生憎と何も無い土地なので」

「なに、そこまで気を使ってもらえなくても構わん。私達は好き勝手にやらせてもらうだけじゃ」

「では代わりにお土産を用意させてください。幸いに漁港が近いもので海の幸は豊富ですから」

「ほう、それはありがたいのう。ならぜひとも連絡先を教えてはくれぬか、あまり煩わせるのも気が引けるのでな」

「いえ、お気になさらずに。旅館を教えてくださればそこに届けますから」

 ふむ、相当私達に関わりを持たせたくないようじゃのう。

 閃華は今まで会話で風鏡の心理をそう読み取った。

 滞在予定を聞いてきたのは私達に介入させないためじゃな。おそらく私達がいる間には事を起こす気は無いのじゃろ。

 それに連絡先を教えずに私達の滞在先を聞いてきたのは監視をしやすいためじゃな。私達には不慣れな土地ゆえに風鏡殿の住所を調べるには時間が足らん、それにコチラの滞在先を教えれば私達の行動を自由に観察できる。

 さて、どうしたものかのう。とりあえずあまり警戒されてもやっかいじゃからな。

「私達はこの先にある旅館に滞在しておる」

 閃華は旅館があるところを指差して曖昧に答えるが、それでも風鏡には昇達の滞在先が分かったらしい。

「分かりました。では、お発ちになる時には届けますので」

「そうか、ではお言葉に甘えるとしようかのう」

「はい、ぜひそうして下さい。それと常磐と竜胆にもあなた達に手を出さないようによく言って聞かせますので、どうかご滞在中は安心して羽を伸ばしてください」

「変に気を使わせて悪いのう」

「いえいえ、元はあの二人が悪いのですから、これくらいは当然です」

「そうか……」

「はい」

 ……小松。

 風鏡の笑顔に閃華は記憶の底から蘇る笑顔を重ねていた。

 そうか、風鏡殿の笑顔はあの時の小松と似ておるのか。……やれやれ、変な事を思い出してしまったのう。じゃが風鏡殿の笑顔があの時の小松と一緒なら……風鏡殿の目的も推測が出来というものじゃ。

 それにしても……。

 閃華は改めて風鏡の笑顔を見る。

 やれやれ、これは困った人物と縁を持ってしまったのう。まだ推測に過ぎぬがこの事を昇に話したら確実に昇は動くじゃろうな。それに……私もあの時と同じ物を見るのはごめんじゃからのう。

 さて、どうしたものかのう。

 閃華は確実に迷っていた。推測とはいえ思っている事を全て昇に話せば、昇が動き出す事は確実だったからだ。つまり閃華の推測は昇を動かすだけの理由を持っている。

 だがその先は閃華にとってあまり見たくない光景であり、繰り返したくない過ちでもあった。

 つまり閃華の推測が正しいとすると、昇は動き出して閃華は過ちを繰り返すことは無いが見たくない光景を見ることになり、昇に話さなければ何も見ずに済む。閃華はどちらが正しいのか迷うばかりだった。

 私は……未だに引きずっておるようじゃのう。いや、それは琴未と契約をした時点で分かっていたはずじゃ。じゃが、あの時の小松と同じ笑顔をする者と巡り会う事になろうとはのう。巡り合わせというのは残酷じゃのう。

 それは閃華にとっては二度と繰り返したくない過ちであり、目の前にはあの時と同じ笑顔をしている人がいる。

 閃華は過去の過ちを清算するような選択を迫られているのだった。







 とうとうエレメンタルロードテナーも五十話を迎えました。だからと言う訳ではありませんが、ちょっと過去を振り返ってみました。

 そして思ったことが一つ、私は……どれくらい真剣にこの作品と向き合ってきたんだろうという事です。

 私としては自分で読んでつまらない物を書いてるつもりはありません。けど、今までに書いてきた物が面白いかというと正直自信を持って面白いという事が出来ません。

 けどそれは決して手を抜いてるわけではありませんが、自分の技量によって限界を感じで妥協してきたところは数多くあると思います。

 そういった事を含めて過去を振り返ってみると、私はどれだけこの作品と真剣に向き合ってきたかと思うわけです。

 それに私はこの作品をダラダラと妥協して続けていくつもりも無いです。それにはっきりいうと、この作品は今年中には終わらないでしょう。なので、そんなことを思ったんですよね。

 う〜ん、途中から何を言ってるのか自分でも分からなくなってきました。まあ、要するに自分はどれだけ過去の反省を取り入れられてるかという事ですかね。

 それは後悔ではなく反省。だから私は時々過去を振り返り、今の自分と見比べている訳です。そしてこのエレメという作品にちゃんとそれが出ているのかな、と思ったわけです。

 さて、随分と長くなりましたから、これで。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票もお待ちしております。

 以上、久しぶりにまともな後書きを書いた葵夢幻でした。

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