第五話 エレメンタルアップ
「アースウェーブ!」
ミリアはハルバードを思いっきり振り下ろすと、そこを中心に地面は波打ち生えてる者や乗っているのもを全て吹き飛ばしていく。そしてデパートの外にある大型駐車場を全て更地にしてしまった。
そうなると当然、駐車場に身を潜めていたシエラはその身を二人に晒さざしかない
「ははっ、やっと見つけたぜコノヤロー。散々手間取らせやがって、もう逃げ場はねえんだからさっさと観念しな」
そう言われてさっさと降伏するシエラではない。それどころか最後まで、昇のために戦わないといけない。なにしろシエラが昇を争奪戦に巻き込んでしまったのだから。
その責任感と別の昇るへの思いがシエラに再びウイングクレイモアを持たせる。
「おい、さっさとやっちまえ」
「は、はい。陽悟…様」
未だに息の荒いミリアに対して陽悟はシエラを倒すように命令し、ミリアも多少ふらつきながも陽悟の前に出る。今までは軽そうに扱っていたハルバードも今ではとても重そうに見える。
どうやら先程の大技がかなり堪えてるようだ。確かに五〇〇〇台もの車を止められるほどの駐車場を更地にしたのだから、それだけ体力を失って当然なのだが、それでもミリアは懸命に戦おうとする。
だが敵に情けを掛けていられるほどシエラにも余裕は無かった。シエラはクレイモアを後ろに構えると翼を羽ばたかせて、一気にミリアへと突っ込んで行った。
一気に二人の距離が縮まる。
そして宙に舞い上がったシエラはクレイモアを一気に振り下ろすが、ミリアはそれを受け止めたが体に力が入らない。
それでもミリアはなんとかハルバードを横に押し出すと、シエラの攻撃を受け流した。そしてその勢いを使い横に一回転すると、更に遠心力の加わったハルバードがシエラへと迫る。
だがシエラはクレイモアを地面に突き刺すとそのままミリアの攻撃を受け止め、翼を広げて羽ばたき、推進力を利用してミリアを弾き飛ばした。
けどミリアも只吹き飛ばされるわけには行かない。何とか空中でバランスを取ると、一回転して着陸跡を残しながら、地に足をつけてシエラの追撃に備えるが、シエラは追撃してこなかった。
「……上!」
シエラはすでにミリアの頭上におり、一気に降下すると共にクレイモアを振り下ろす。
本来防御重視のミリアならそれぐらいの攻撃は受けきれるはずだが、先程の大技で体力が回復しきっていないミリアはシエラの攻撃を受けようとせずに、大きく後ろに跳んでシエラの攻撃をかわそうとした。
だがシエラは地面すれすれで急旋回、ミリアの追撃へと入っていく。
ハイスピードのシエラはミリアが地面に着地する前には、もう攻撃範囲にミリアを入れており、一気にクレイモアを振るう。
ハルバードを斜め下に向けてシエラの攻撃を受け止めるミリアだが、未だに地面に足が付かずに宙に浮いているミリアはこのまま吹き飛ばされるのがオチだが、ミリアはその前にシエラの腕に足をかけると大きく踏み込み、シエラの攻撃を緩めるのと同時に大きく後ろに跳ぶ事が出来た。
追撃を掛けたいシエラだが、先程のミリアの行動が完全にシエラの腕を一時的に封じたため、すぐに追撃には行けなかった。
そして一旦追撃を諦めたシエラは改めてウイングクレイモアを構える。ミリアも多少は体力が回復してきたようで、呼吸を整えながらハルバードを構えた。
だが未だに体力が回復しきっていないミリアは決して攻撃に出ようとはしなかった。それにミリアは本来なら防御重視のカウンター型だ。だからミリアは体力を回復させるのと同時にシエラの攻撃を待っていた。
そしてシエラは翼を大きく羽ばたかせると初動からハイスピードでミリアに突っ込んで行き、ミリアもシエラのその攻撃に備える。
そして二人は再び攻防を繰り返していった。
ったく、いつまでやってんだよ。
その二人の激闘を陽悟はイラつきながら見物をしていた。
まったく、何であの時あんな弱い奴が出てきたんだよ。どうせならもっと強い奴と契約したかったぜ。
溜息をつきながら未だに決着の付かない激闘を見物している陽悟。
それにしても、あそこまで言う事を聞いてくれるなんて思ってなかったぜ。そこだけは健気でいいんだが、ここまで弱いと話にならねえな。
陽悟はタバコに火をつけると、激闘を繰り広げていた二人は再び距離を取り、互いに回復しながら相手の隙を狙っていた。
それにしてもあっちの奴もがんばるな。なんでそこまでするんだか、あんなに必死になってよ。いったいなのためにやってんだか。……んっ、待てよ。
ふとあることを思いつく陽悟、笑みを浮かべながらタバコを踏み消す。もしこの場に昇が居て陽悟の笑みを見たら確実に嫌悪感を覚えただろう。
そして陽悟は二人の戦闘の合間を見てミリアの後ろへと回り込むと、なにかを静かに言うように顔をミリアの耳に近づけて指示を出す。
驚きと疑念に満ちた顔をするミリアだが、陽悟が一喝すると素直に首を縦に振るのだった。
突然の陽悟の介入によってシエラに不安がよぎる。
こっちはあの精霊だけで手一杯なのに、今あの契約者に介入されると結構やっかい。けど逆に契約者を倒すって手もある。
どちらにしてもシエラにとっては賭けである。やるかやられるかの瀬戸際が迫っていることを実感する。
そろそろ決着をつけないと、じゃないと私も持たない。
改めてクレイモアを構えるシエラを見て、ミリアもハルバードを構え、そして疾走するのだが、今まで先手は全てシエラだった。それはシエラがハイスピードの接近戦を得意としているからだ。
それなのに今度のミリアは自分から攻撃を仕掛けてきた、完全に後手に回ったシエラ。
すぐ傍まで迫ったミリアはハルバードを振り下ろす。シエラは横に軽く飛びそれをかわすが、ハルバードは地面に接する前に急に方向を変えてシエラを追撃する。シエラは翼をはためかせると今度は大きく距離をとった。
だがミリアはすぐに追撃に出てシエラから離れようとはしなかった。
その後もミリアは攻撃を続けてシエラはかわし続けた。
「いったい何を企んでる」
ミリアの攻撃をかわしながらもシエラは口を開く。
「私は陽悟様の指示に従ってるだけだよ」
「指示ね。だいたい察しはつく」
「なら、どうにかしてみれば」
「そうね、そうしたいけど」
それでもどうしようもない。ミリアは間髪をおかずに攻撃をしてくるうえに、シエラが退くとすぐに追撃には行って決してシエラから離れようとしない。そこに相手の策略があるとシエラは見抜いていた。
「私の動きを止めてどうするつもり」
「なっ!」
「どうやら図星みたい」
笑みを浮かべるシエラに対してミリアは顔をゆがませていた。まさか指示を完璧に読まれているとは思いもよらなかったのだろうが、急に先手に出てきたミリアの行動を見ればシエラには相手の策略は簡単に見抜けた。
だが、そうなるとシエラは一箇所に留まるわけには行かなくなった。相手の狙いがシエラの動きを止める事ならシエラは動き続けなければならない。そうしないと相手の思う壺だ。
シエラはミリアの攻撃をかわしつつも反撃もした。だがさすがに相手は防御型、シエラの攻撃は完全に受け止められた。だがシエラはすぐにその場から離れて一回の攻撃ですぐにミリアから距離を取ろうとする。
だがそれをミリアが許すはずも無く、ミリアはすぐにシエラに追いついた。
「さすがに粘ってくる。けど、これならどう!」
シエラは翼を大きく羽ばたかせると一気に上に舞い上がった。
さすがに空中までは追って来れないだろうし、例えシエラの高度まで跳んだとしても打ち落とされるのがオチだ。
そんな中でミリアは再び力を溜めて大技に出る。さすがに体力的にはキツイがそこはなんとかミリアは力を搾り出した。
「ブレイクアースシュート!」
ミリアは一気にハルバードを地面に突き立てるとそこから地面にヒビが入って行き、崩壊を始める。
大小様々に砕かれた地面は一気にシエラに向かって飛んでいく。
「さすがにそれは反則っぽい」
ミリアの大技に愚痴を漏らすシエラだが、それでも宙に舞っているシエラは小さな破片は避けて、大きな破片はクレイモアで砕いていった。
そんなことを続けているうちに全ての攻撃をしのぎきったシエラだが、改めて地上に目を向けるとそこにミリアの姿は無かった。
「どこ」
地上をくまなく探すシエラだが、ミリアの姿を見つける事は出来なかった。
「うりゃあーーーっ!」
上からの気合の入った声にシエラは上を向くとやっとミリアの姿を見つけた。
「いつの間に!」
シエラが驚くのも無理は無い。何しろ先程のミリアの大技はあくまでもカモフラージュで、ミリアは大きな破片の上に乗るとそのままシエラに向かって飛んで行き、シエラに気付かれる前に更に破片の上から大きくシエラの頭上を通り越すほど上に跳んでいた。
ミリアはシエラの真上からハルバードを振り下ろす。ただでさえ重量のあるハルバードに落下のスピードに重力が加わったうえに、完全な不意打ち、シエラはハルバードを受け止めるとそのまま勢いに押されて地上へと落下していく。
そして二人はそのままの格好で地上に激突、完全にミリアに乗られているシエラは思いっきり地面へと叩きつけられる事となった。
だがミリアの追撃は終わらない。そのままシエラを押さえ込み動きを封じる。
完全に上の乗られているシエラは動きが制限されるうえに、ミリアのハルバードも防いでおかないといけない。すぐには脱し得ない状況だった。
それでもこのまま硬直状態になるのはまずい。シエラは必死にミリアをどかそうともがくが、ミリアも必死にシエラを押さえつけていた。
「ははっ、よくやった!」
そんな中で横から聞こえてくる陽悟の声。
その声に焦るシエラ。さすがにこのままでは相手の思う壺だ。
だが二人の拮抗は解けることなく、ミリアはシエラに馬乗りになり完全にその動きを封じていた。
「それじゃあ、くたばれー!」
陽悟は今まで溜めていた力を一気に放出すると、炎が津波のように二人に迫っていった。
「えっ?」
自分にも迫ってくる炎の津波にミリアも驚きの表情を隠せなかった。だがそれはシエラも同じで驚いていた。
「まさか、私ごと相手を倒すつもり……」
相手の動きを完全に止めろといわれたけど、まさか自分ごと倒そうとはさすがにミリアも思いもよらなかった。
そして驚きが脱力感に変わり、一気に力が抜けていくミリアをシエラは力の限り押し返し、一気に吹き飛ばした。
「飛べばまだ間に合う」
だが正直少しは焼かれる事を覚悟したシエラはウイングクレイモアの翼を羽ばたかせるのだが。
「シエラ!」
そんな時、突如シエラの耳に思いがけない声が聞こえてきた。
「……昇? だめ、昇逃げて!」
だが迫り来る炎の津波を恐れることなく、昇はシエラの元へと走り続ける。
シエラは上でなく昇の元に向かって飛び出した。
後ろから迫ってくる炎の津波に遅れることなくシエラは飛び続ける、昇の元へと。そして昇もシエラに向かって炎の津波に恐れることなく走り続けた。
そして昇とシエラの手は互いに結ばれたその時、シエラは異常までの力が沸きあがってくるのを感じた。
「なにこれ、昇、なにをしたの?」
「えっ、僕何かした?」
二人ともワケの分からない状況だが、シエラは沸きあがってくる力に全身が光りだし、力がみなぎって来るのと同時に左腕の篭手が変化する。
「もしかして、これが昇の能力?」
「えっ、そうなの」
「そうだとすると、かなりラッキー」
「へぇ〜、そうなんだ。って、アツッ」
炎の津波はすぐそこまで迫っていた。
「説明は後、昇、私の傍から離れないで」
「分かった」
昇は後ろからシエラの肩を掴むとシエラは左腕を前に出す。そして何かの言葉を発するが、それは全て炎の津波が飲み込んでしまった。
昇とシエラと共に。
「おい、いつまで寝てんだよ。さっさと起きろ」
シエラに吹き飛ばされたことで何とか炎の津波を回避することが出来たミリアは、気絶していたところを陽悟に蹴り飛ばされて無理矢理意識を回復させられた。
「陽悟…様?」
未だにうつろな目をしながら寝ているミリアを見て、陽悟はもう一度ミリアに蹴りを入れる。
「ぐっ!」
呻きながらも完全に意識が回復したミリアが見た物は、未だに燃え続けている炎の海だった。
思わず背筋が寒くなるミリア。
もし私があの時シエラに吹き飛ばされていなかったら。
そう考えるだけでミリアは陽悟を睨み付けた。
「ああっ、何だよその目は」
「私ごと焼き払おうとした?」
「ったりめーだろ、いつまでちんたらやってるテメーがワリーんだよ」
「でも酷い!」
「うっせーんだよ」
腹部に蹴りを入れられてうずくまりむせ返るミリア。その目には先程の力は無く、すでに死んだ魚のような目になっていた。
「けど見ろよ、この炎をな。これが俺の力だ、全部俺がやったんだ。すげーだろ、あいつらだってこれでお終いだよ」
そのまま自分の力を誇示するよう笑い続ける陽悟。けどミリアは何の反応もせず、ただ地面に這いつくばっているだけだった。
「さーて、そろそろいい具合に焼けたんじゃねえかな。けどまあ、死体を残すのも面倒だし、このまま焼き続けるか」
陽悟は幾つかの火球を作り出すとそれを炎の海へと連射していく。
「酷い」
笑いながら炎を繰り出す陽悟を見てミリアはそう思わずにはいられず、そして偶然とはいえ自分が出会った不運を呪わずにはいられなかった。
まるで狂ったように炎を放ち続ける陽悟。だが突然一陣の風が吹き、陽悟は風によって吹き飛ばされそうになるが、何とかその場に留まることが出来た。
「くそっ、何なんだいったい。……なんだありゃ」
「うそ、そんな、あの炎の中でなんで」
二人が見て驚愕した物、それは炎の海から生えた白く巨大な一対の翼だった。
それは間違いなくシエラのウイングクレイモアの翼。それが炎の海より高い位置まで大きく羽を広げている。
そして翼が羽ばたくと強烈な風が巻き起こり、陽悟は思わず地面に伏せて、ミリアも吹き飛ばされまいと必死に地面に喰らい付く。
そして翼の羽ばたきは炎の海を完全に消し去るまで続き、強烈な風を巻き起こしていった。
風が収まり陽悟は立ち上がると信じられないものを目にする。
「何で生きてるんだ、あいつら」
完全に冷え切った地面に立っていたのは、確かにシエラと昇だった。
「おい、どうなってんだよ。これっ!」
目の前の光景が信じられずにミリアに尋ねる陽悟だが、ミリア自身もよつんばになり、信じられないという目で見ていた。
「昇、大丈夫?」
「まだ少し暑いけど大丈夫だよ」
「そう、よかった」
安堵の表情を浮かべるシエラを見て昇も和やかな心持になっていく。
「それにしても、昇もレアな能力を手に入れたものね」
「えっ、これって結構珍しいの?」
「今まで器の争奪戦、その歴史の中でその能力を持った人は確か、昇で三人目」
「へぇ〜、そうなんだ」
自分の手を見つめる昇。
何かしらの役に立ちたいと思ってきてみたら、まさかこんな能力が目覚めるなんて。
昇はあのピンチの中で自分の特殊能力を目覚めさせることが出来た。いや、正確に言うとあのピンチだったからこそ目覚めることが出来たのだろう。それほどやっかいであり、便利でもあるのが昇の能力。
「エレメンタルアップか」
「けど、これでもう負ける気がしない。昇、一緒に戦ってくれる?」
「もちろん」
力良く頷く昇。シエラはそれだけでも力が沸いてくるようだった。
「じゃあ、さっさと終わらせて買い物の続きと行きましょうか」
「ええ〜、まだ買い物が有るの?」
「当たり前でしょ。もちろん、昇にも付き合ってもらうからね」
「はいはい、分かりましたよ」
疲れたような表情を浮かべる昇を見てシエラは一笑すると、改めて敵を見据える。
もう負けない。昇が傍に居て力を貸してくれる。だから、私はもう負けない。
シエラは沸きあがる力を抑えることなくウイングクレイモアを構える。
そんなワケで特殊能力に目覚めた昇。さて、昇の特殊能力とはそしてこれからの戦いの顛末は……とまあ、そんなことはさおき、そろそろこの戦いに決着が付きそうです。
けど、なんか文庫本サイズに起こすと40ページ以上書いてるみたいですが、……本当、作家さんて大変だね。あれだけの物をひねり出す上に私なんて修正作業までやってますから、まあ、本職の作家さんは校正の人がやってくれると思うんですが、自分でやる辺りがネット小説の運命なんですね。……まあ、しかたないですけどね
はいそこの方、なにいきなり愚痴ってんだこいつはとか思わないでください。時にはそういう気分になる時にもあるんだ! というか愚痴って悪いかーーー! はい、まあ逆ギレなんで気にしないでください。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、次回で決着が付いてくれることを願う葵夢幻でした。