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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
純情不倶戴天編
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第四十五話 夏の始まり

 真夏の海で日差しをパラソルで遮りながら昇は待ちぼうけを喰らっていた。

 皆遅いな〜。というかいきなり海に来るとは思わなかったよ。



 事の発端は夏休みに入ってから二週間ほどすぎてからだった。いい加減にやる事が無い事に飽きたミリアが夕食後にいきなり言い出したからだ。

「昇、海に行こう、海」

「はぁ、いきなり何を」

「いいわね。どうせなら海と温泉が楽しめるところに行きましょ」

「……母さん、なんでいきなりそんな乗り気なの」

「昇、主婦というは結構きつい仕事なのよ」

 いやいや、洗濯はともかく料理とか掃除とかはシエラと琴未がやってるでしょ。

「だから、お母さんもたまには羽を伸ばしたいのよ」

 いやいやいや、母さんはいつも羽伸ばしてるから。

「昇、いいでしょ。彩香もそう言ってる訳だし」

「はいはい、そう言いながら昇に抱きつかない」

「う〜、琴未。琴未だって海に行きたいでしょ?」

「う〜ん、そうね」

 そうなんですか琴未さん!

「けど、後になって宿題見せてって言わなければいいわよ」

「ぐっ、それは、お願い」

「嫌よ」

「シエラ〜」

 今度はシエラに泣きつきますか。

「宿題は自分でやらないと意味が無い。それに海に行こうなんて宿題を終わらせた人が言う言葉。だから私と昇だけで行って来る」

「って、シエラ、なんでそんなことになるのよ!」

「私は宿題を終わらせたし、昇も少しぐらいならやらなくても充分間に合う」

 いや、そうですけど。シエラさん、あなたは毎日僕の宿題をチェックしてるんですか。

「それなら私だって終わってるから一緒に行くわよ」

「琴未は邪魔だから来なくていい」

「シエラ、グーで殴っていい」

「嫌」

「というか殴る」

「ほれほれ、そこまでにしとくんじゃな」

「閃華、閃華も加勢して」

 いや、閃華まで騒がれたら家が壊れますから。

「じゃが、たまには皆で旅行に行くのもいいんじゃないか」

 そこは賛成なんですね閃華さん。

「閃華までそういう」

「何を行っておる琴未、それに琴未にとっても良い事じゃぞ」

 その後は琴未に耳打ちする閃華。そして一気に琴未の顔は赤くなっていった。

 あ〜、なんかまた嫌な予感が。

「昇、私そこまで出来るかな」

 なにが! 一体何をやる気なんですか!

「でもそうだよね。昇のためならやらないと」

 だから一体何をやるんですか?

「くっくっくっ、それで昇どうするつもりじゃ」

「えっ、なんで僕に聞くの?」

「それは昇の決定次第で全てが決まるからじゃ」

 いや、そう言われても。というか僕はいつからそんな決定権を持ってたんですか。

「それにのう」

 そこからは閃華は昇に耳打ちをする。

「ミリアの事もある。少しじゃが未だに雪心の事を引きずってるようじゃ。それに皆は口に出さんがそれぞれ雪心の事を引きずっておるようじゃ」

 確かにあのロードナイトとの戦いから一ヶ月以上経ってはいるが、皆表面上は元気を装ってるけど、どこかで暗い影を落としてるように時々思うんだよな。

「じゃから今の皆には気晴らしが必要じゃ。ミリアも無意識の内にその事を悟っておるんじゃろ」

 そっか、だからいきなり海に行こうなんて言い出したんだ。

「そうだね。じゃあ海に行こうか」

「やった───!」

「さて、いろいろと準備をしておかないと」

 素直に喜ぶミリアと何かを画策するシエラ。それで琴未はというと。

「いやぁん、昇ったらそんなことまで」

 未だに妄想モードに入っているようだ。

 ミリアはともかくシエラと琴未の行動に溜息を付く昇。

 えっと、これでよかったのかな?

 というか琴未、お願いだからそろそろ戻ってきてくれないかな。

「くっくっくっ、よかったのう昇、これだけの女子を連れて海にいけるのだからのう」

 閃華さん、僕はそれが逆に心配なんですけど。

「さて、じゃあ明日は皆の水着を買いに行きましょう」

 やれやれ、また荷物持ちかな?

「あっ、昇はこなくていいから」

「えっ」

 予想外の言葉に驚く昇に彩香は楽しげな表情を向ける。

「お楽しみは後に取っておいた方がいいでしょ」

 母さん、確かに楽しみもあるけど心配もかなりあるんだよ。

「それじゃあ明日は皆で買い物よー」

『おおーっ』

 ……なんだろ。この心配でならない予感は。

 そんな中でシエラはいつの間にか昇と腕を組んで上目使いで見詰めていた。

「シエラ、何」

「昇、私昇るために頑張るから期待してて」

 いや、そういわれても。

 昇は改めてシエラを見回す。

 ……水着か、シエラごめん、できればもう少し……。

 そんな二人の間に現実に戻ってきた琴未が割り込む。

「はいはいそこまで、昇は私の水着姿に期待してるんだから」

 いや、そんなこと一言も行ってませんけど。だけど……。

 シエラ同様琴未の事も昇は一度見回してみた。

 ……オッケーです。琴未、確かにそれぐらいあった方が。って、僕の思考がいつの間にか変な方向に行ってる。

 そんな昇の心情を見抜いたかのように閃華が昇に寄りかかってくる。

「よかったのう昇。琴未はスタイルは抜群じゃぞ。決してシエラには劣らんほどの大きさじゃ。しっかり堪能せい」

 ぐっ、閃華さん、それはいじめですか。

「なんだったら私も混ざっても良いぞ」

 いや、それは、……お願いします。って、完全に閃華に思考を乗っ取られてる! ダメだ。こんな事じゃダメだ。

 それでもなんとか理性を保とうとする昇に閃華は後ろから抱きつき胸を押し当てる。

「ぐはっ」

「どうじゃ、琴未には劣るが私もなかなかじゃろ」

「って、閃華なにやってんのよ」

「いやいや、琴未をより引き立たせるための当て馬じゃ」

「そういう風には見えないんだけど」

「もう少し待っておれ」

 閃華は口元を昇の耳に近づけると呟く。

「琴未の胸は私以上じゃぞ。昇はそれを感じたくは無いのか、このまま無に帰していいのか」

 ぐっ、そう言われると確かに琴未の水着姿に凄い期待が……。

 更に何かを言おうとする閃華をシエラは無理矢理引き剥がした。

「おやおや、邪魔が入ったようじゃのう」

「当たり前、これ以上は閃華の思い通りにさせない」

「じゃがシエラのスタイルでは私達に対抗できるのかな?」

「ふっ、水着が全てスタイルで決定する事じゃないって事を証明する」

「ほう、それは楽しみじゃのう」

 あの〜、なんかシエラと閃華の目線が火花を散らしてるのは僕の気のせいですよね。そうですよね、誰かそうだと言って。

「昇、昇、私の水着姿も期待しててね」

 ……無理ですミリアさん。というかミリアは水着によってはマニア受けするんじゃ。……なんだろう、この不思議な感覚は。違うぞ、僕は絶対に違うからな。

「さ〜て、それじゃあ何処に行く?」

 彩香はいつの間にか多数のパンフレットをテーブルにばら撒いた。

「……母さん、なにこれ」

「決まってるでしょ。温泉と海が楽しめる旅館のパンフレット」

 いや、それは分かるんだけど、なんでこんなに持ってるの。

「おばさん、これなんてどうですか?」

 いつの間にかパンフレットを漁っていた琴未がとある旅館のパンフレットを差し出す。

「あら、いいわね」

「そうでしょ。海も近いし、それに露天風呂まであるんですよ」

「いいわね、海を眺めながら露天風呂に入るのも」

「お義母様、こちらはどうです」

 負けずとシエラもパンフレットを彩香に差し出す。

「あらあら、これは……」

「海水浴場が近くにあるのは当然、そのうえ夜景を眺めながらの露天風呂は最高と書いてます」

「……夜景を眺めながらの露天風呂か、いいわね」

 その後も旅館選びに女性陣は騒ぎ出して昇は一人でテレビを見ながらジュースを飲んでいた。

 もう何処でもいいから早く決めてくれないかな。それにしても海か……なんか、また一波乱があるの様な気がするのは僕の気のせいだよね。……というか。

 昇は未だに旅館選びで騒いでいる女性陣に目を向ける。

 この時点で一波乱起きてるような気がするのは僕だけでしょうか。



 そんな経緯があって昇達は一週間の旅行に出かけることになったわけだが、いつもの騒がしい面々が出かけるのである。静かな旅行なんて出来るわけが無かった。

 電車は二席ずつ向かい合って座るタイプの電車でシエラ達と昇と彩香の両隣の席に座っている。

 海が見え始めるとミリアが騒ぎ出して、それを注意する琴未だがそれで収まるミリアではなく。その後も騒ぎはシエラと閃華まで参戦して電車の中では昇はなるべく無関係を装うとするのだが結局は巻き込まれてしまった。

 結局僕には静かな旅行なんて出来ないんだね。

 ついに昇は諦めの境地に入ってしまったようだ。

 そんな息子の姿に彩香は肩をかけて話しかけてきた。

「どうしたの昇、そんなに小さくなって」

「はぁ、どうしたって言われても、って母さん酒臭い」

「あん、昼間っから酒飲んじゃ悪いのか」

 というかすでにからみ酒になってるんですけど。

「というかさ昇、あれだけ女の子に囲まれてるんだから一人ぐらい手を出しなさいよ」

 母さん、それはとても母親が言う言葉じゃないと思うんだけど。

「まったく不甲斐無い。そういうところはお父さんに似ちゃって」

 変なところが母さんに似なくて良かったです。

「お父さんもさ、お母さんが一生懸命アプローチしたのに一向に手を出してこなくてさ。正直もうお母さん焦っちゃったよ」

 いや、今更そんな昔の出会い話を聞かされても。

「そんな訳で昇。今回はチャンスなんだから誰か一人ぐらい手を出しなさいよ」

 いやいやいや、母親が息子に夜這いを進めてどうするの! それに一人ぐらいってそういうのは一人に決めないといけないんじゃないの。

「ふ〜ん、あんたの事だから誰か一人に決めないとって迷ってるでしょ」

 心を読まれた! さすが母親。

「いいのよこの際、だれかれ構わず手を出しちゃいなさい」

 ……母さん、もしそんなことしたら僕の命がないよ。だって……皆僕より強いし絶対に殺されるから。

「だから昇、頑張るのよ」

 いや、なんか頑張ってもオチが見えてるんですけど。

「すいませーん、ビール二缶下さい」

 あなたはまだ飲む気ですか! というかこれ以上からまれても困るんですけど。えっと、こういう時は……閃華しかいない!

 昇はそっと自分の席を離れると閃華に話しかける。

「んっ、どうしたんじゃ昇?」

「ごめん閃華、席替わってというか母さんの相手をしてあげて」

「ふむ、どうやらその様子だと奥方のからみ酒から逃れてきたようじゃのう」

「そうなんだよ。僕にはもうあれは止める事が出来ない」

「やれやれしかたないのう、じゃがこっちにいても騒がしいのは変わらんぞ」

「今の母さんよりまし」

「そこまで言い切るならしかない。では席を替わるとするか」

 昇は閃華と席を替わったことで一安心するが、それもつかの間で隣に座っているミリアが甘えるように昇の腕に抱きついてきた。

「昇〜、こっちに来たんだ」

「はいはい、おばさんの酒癖から逃げてきただけでしょ。だから引っ付かない!」

「う〜」

 ミリアは抗議するがシエラも加わり結局昇から離れる事になった。

「というかこの席順が気に入らない、替わろう」

「そうね」

 あの〜シエラさん、琴未さん、いきなり何を言い出すんですか。

「私はこのままでいいもん」

 再び昇に甘えるミリア。昇もそんなミリアの頭を撫でる物だから二人の闘争心に相当火をつけた。

「いいわけないでしょ」

「断固替わるべき」

「嫌だよ〜」

「ミリア、とにかくここは公平に席を決めるが決まりでしょ」

「そんな決まり知らないもん」

「閃華がいなくなったからもう一回席を決めるのは当たり前」

「別にいいじゃんこのままで」

『よくない!』

 こういうときは声が揃うんですね。

「そうだ。ここは昇に決めてもらうのが一番いい」

「そうね、そうしましょう」

「昇はこのままでいいよね〜」

 えっと、なんで僕に振るんですか。というか皆……目が怖い。

 それは自分が選ばれるという絶対の自信に満ちた目なのだが、今の昇にとってはその目ほど怖い物は無かった。

 どうする、どうするんだ僕。……というかかなり前にこんなCMがあったような。って現実逃避しても何にも解決しないじゃん、僕もっとしっかりしろ。

「っで、昇は誰の隣に座りたいのよ。今ここではっきりさせてもらいましょう」

「まあ妻である私に決まってるけど」

「昇はこのままでもいいよね!」

「……あっ、僕トイレに」

『ちょっと待った』

 一斉に掴まれる昇の腕。

 皆さんこんな時だけは息が合うんですね。

「はぁ、わかった。ならじゃんけんで決めよう」

 そんな妥協案に普通なら抗議の声が上がりそうなものなのだが、何故か三人は闘志を燃やしていた。

 うわ〜、精霊って闘争本能が強いんだね〜。

 それはまったく関係ないのだが、三人はまるでこれから戦いに望むかのように活きこんでいる。

「それじゃあいくわよ。言っとくけど一度決まったらもう替えないからね」

「分かった。それでいい」

「ふふん、私がどれだけじゃんけんが強いか見せてあげるよ」

「じゃあ行くわよ」

 なんだろう、三人から異様なオーラが出てるように見えるんですけど。

『じゃんけん、ぽん』

 ……っで、結局僕の隣にはミリアが座りって前にはシエラ、僕から一番遠いところに琴未が座る事になった。

 そして先程一度決まったら替えないと言ってしまった為かこれ以上は席について誰も異論を言う事も無く、昇に甘えてくるミリアは恨めしく見詰めるシエラと琴未の姿が異様に怖い。

 そんな空気の中で昇はもう諦めたかのように、というかいい加減に悟ったらしい。普通に振舞うのだった。

 そんな中で電車はやっと目的の駅に付いて昇達は駅から出るとそこには一面に海が広がっていた。

「っで、閃華。旅館はどっち」

「ふむ、ちょっと待っておれ……こっちじゃな」

 地図を見ながら閃華は旅館の方向を指差し一同は旅館に向かって歩き出して、数分歩いただけで旅館に着いた。

 旅館に付いた昇達は早速と海に出かけることになった。そんな訳で着替えが一番早い男の昇が荷物とパラソルを用意する羽目になり、シートに座りながら女性陣の到着を待っているのだった。

 なんで女の人ってこんなにも着替えに時間がかかるのだろう。

 そんな事を思いながら昇は海を見詰めているとそこに変わった人の姿を見つけた。

 あれ、なんだろあの女の人、海水浴場なのに水着じゃなくて普通のワンピースで海岸を何かを探すように歩いてる。何か落としたのかな、でもそんな感じでもないな。

 けどその女性は髪が長く大人びており周りの男の視線を集めているのだが、昇にはなんだかその女性が悲しげに見えた。

 なんだろうな。あの目はどっかで見たことがあるんだよな。

 昇がそんな事を考えていると後ろから忍び寄る一団が迫っているのだが、昇はその一団に気付くことなく考え事にふけっているのだった。







 一ヶ月もかかった。なにって、もちろん今までの修正作業がですよ。……疲れた。けどやっと終わってホッとしました。よかった、本当に終わってくれて。

 そんな訳で新たに始まった新章、純情不倶戴天編ですが読めますか。ちなみにいきなり私に聞かないでください。私もいきなりだと読めない場合がありますから。

 ですから意味も無く引っ張りたいと思います。この純情不倶戴天編は次回に読み方を発表しますね。ちなみになんでこんな事をするかは意味が無いからですよ。無理に意味をつけるなら、なんとなくやってみたかったです。

 ああ、後私の後書きが好きだーーー! という人に朗報? です。最近私のホームページにブログを追加しました。書いてる事はこの後書きとほとんど変わりません。なので興味がある人は私のホームページ、冬馬大社まで来て下さい。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、純情不倶戴天編のプロットを書いててなんか凄く長くなる予感がする葵夢幻でした。

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