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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
ロードナイト編
43/166

第四十三話 最後の笑顔

 沸きあがってくる力は確かに今までに無いほど強かったが、どこか悲しい感じがするのをシエラ達は感じていた。

 だが昇とミリアが決断した以上は決して引くことは出来ない。それがどんな結果になろうとも。

 シエラは覚悟を決めたかのように力強い瞳でウイングクレイモアを見つめると水平に構えて力を集中させる。

「セラフィスモード」

 そして新たに生える四枚の翼。その白き輝きは力強く、白い羽を撒き散らしていてた。

「さて、私も久しぶりに本気を出すとしようかのう」

 閃華も方天戟を構えると力を集中させていく。

六韜三略りくとうさんりゃく開封」

 方天戟の前に二つの巻物が出現した。

二つの巻物は厳重に紐で巻きつけて封じられているが、閃華が方天戟を振るうと二つの巻物はその封印を解かれて、一気に巻き解かれいき閃華と方天戟に巻き付いて行く。

 閃華と方天戟に巻きつた巻物はそのまま吸収されるように、それぞれに溶け込むと変化を始める。

 方天戟は両端に付いている三日月形の刃が龍の爪のごとく形を変えて三本になり、槍の両端にまるで龍の爪のような刃となる。そして閃華自身も今までの軽装な武装から古代の中国武将を思わせるような鎧をまとった。

「ふむ、その姿になるのも久しぶりじゃのう」

「というか、閃華変わりすぎよ」

「そうはいうが、これが私が全力で戦うときの姿じゃからな。まあ、それなりに変わるわけじゃよ」

「どんなわけよ。まあ、いいわ。私も伊達に巫女をやっていないところを見せますか」

 琴未は雷閃刀を目の前に集中すると、天に向かってその切っ先を突き立てる。

建御雷之男神たけみかづちのおのかみご降臨願いたてまする」

 一本の雷が雷閃刀に落ちると琴未をも飲み込む巨大な雷となった。

 それと同時に雷閃刀もその姿を変えて打刀うちがたなから太刀へと長くなり、刃には雷を表した文様が刻まれた。

 そして琴未が太刀を振るうと雷は消えて、新たな姿を現した。

「ふむ、あまり変わりばえせんのう」

「そんなに姿かたちが変わってもしょうが無いでしょ」

「まあ、そうじゃな」

「それよりも、本当に戦うの……」

「もう後には引けぬ。琴未はそれを充分分かっておるじゃろう」

「そうだけど……」

「ためらうでないぞ。ためらえばやられるのこっちじゃ、それほど雪心の力は凄まじいんじゃぞ」

「……うん」

 琴未は力なく頷くと、改めて自分の手にある刃に目を向ける。

「……もう、これしかないんだよね」

「他の手があるなら、昇は間違いなくそれを選んでおるじゃろう」

「そうだね」

「さて、昇。こっちの準備は整ったわけだが、どうするんじゃ」

「ミリアがまだだよ」

「……そうか」

 閃華はそれ以上は何も言わなかった。

 そして昇はミリアの涙を拭いてやるとそのまま両手でミリアの顔を包んだ。

「ミリア、いける?」

「……うん」

「じゃあ、これで終わりにしよう。僕も出来るだけの事はやってみるから」

「……ありがとう、昇」

「礼を言われることじゃない。僕には……これだけしか出来なかったから」

「うん……」

 ミリアは昇から離れるとハルバードを床に付けて精神を集中させる。

 ごめんね、シェード。私には雪心を救うことは出来なかったよ。……だから、私の手で全部を終わらせるよ。もう、これしか私には出来ないから。だから、雪心の心を助けるためにシェードも力を貸して。

 ミリアは大きく目を開けると力を一気に放出した。

「ティターンモード!」

 ミリアのハルバードが双斧へと変わり、その装甲も一気に薄くなっていった。

 そして光の中からミリアが現れる。

 だが未だに悲しげな瞳をしているミリアに昇は心が少し乱れるが、一度目をつぶって心を落ち着ける。

「行こう。そして、これで全部終わりにするんだ!」

 昇の言葉に全員が頷いて閃華が先陣を切り雪心に向かって走り出した。



「やっぱり、邪魔するんだ」

 雪心は呟くと手を前に差し出して向かってくる閃華に狙いをつけると砲撃する。その砲撃の大きさは軽く閃華を上回るほどの大きさだ。

 閃華は後ろを振り向くことなく叫ぶ。

「避けながら突き進むんじゃ!」

 無理な注文だと琴未は言い返したくなったが、それよりも早く砲撃は閃華を飲み込んで琴未達にも迫ってくるが他の全員は何とか砲撃を避けることが出来た。

「閃華!」

 砲撃に飲み込まれた閃華を心配する昇だが閃華の姿すでに雪心の隣にあった。

「はやっ!」

 昇が感心している間にも閃華は新たな方天戟を振るう。

 雪心は閃華の攻撃をバリアで防ぎきる自信があったのだが、閃華は雪心のバリアを易々と切り裂いて三本の切り裂いた跡を残して雪心のバリアは消え去った。

 そのまま追撃を掛ける閃華だが雪心はゼロ距離で閃華に砲撃を放つが、一瞬にして閃華の姿は消えて砲撃は誰にも当たることなくロードキャッスルを貫いた。

「いい子だから」

 そして後ろから聞こえてくる声に雪心が振り向くと、すでに太刀を振るい始めてる琴未の姿があった。

「そこをどきなさーい!」

 そして琴未は峰の方で雪心に一撃を入れるが、雪心は寸前で結界を張って琴未の攻撃を受け止めるがそれこそが琴未の狙いだった。


 ─新螺幻刀流 嵐崩し─


 下から切り上げるように太刀を振るった琴未は雪心が太刀を受け止めるとそのまま力を流し結界を上に押し上げた。そして前面がガラ空きとなった雪心を思いっきり蹴飛ばす。

 その程度の攻撃なら今の雪心にダメージは与えられないのだが、吹き飛ばすには充分だ。

「そのまま雪心ちゃんを魔法陣から遠ざけて!」

 下から聞こえてきた昇の声にシエラが追撃を掛けて閃華と琴未もそれに乗じて一気に攻勢に出る。

 その間にも昇は雪心が立っていた魔法陣に辿り着くと、魔法陣に手を当てて何かを探るように力を伸ばしていく。

「昇」

 そこへミリアが到着した。ミリアの表情は未だに心配と悲しみが入り混じったように昇には見えたが、とりあえず知りえたことだけをミリアに告げる。

「ダメだ。もう精霊王の力は残ってない。今までサファドが溜め込んでいた精霊王の力は全部雪心ちゃんの中にある」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「やれるだけの事はやっておこう。与凪さん」

 昇の目の前に与凪を写したモニターが現れる。

「はい、なんですか」

 いつもとは違い元気のない声で与凪が応答する。

「与凪さん、雪心ちゃんから精霊王の力を出す方法は無い?」

「……ごめんなさい」

「……そうですか」

 昇も与凪も短く答えるだけで全て終わった。

 分かってた。分かってたけど最後の最後まで足掻きたかった。僕にはそれだしかできないから。

 結局僕はなにも出来なかった。あれだけ約束したのに何も出来なかった。所詮僕の力なんてその程度なんだ。

 自分の無力さに打ちひしがれる昇は裾を引っ張られる感じがして、振り向くとミリアが昇の裾を掴んでいた。

「ミリア……ごめん。助けるって約束したのに」

「ううん、昇は精一杯の事をやってくれたよ。だから……もう終わりにしようよ」

「……ミリア」

 ふふっ、ははっ、あははっ。

 昇はその時ほど自分を笑いたくなってきた。

 何も出来なくて、情けなくて、結局取り戻す事が出来なかった二つの笑顔。それがもう永遠に消える物だと悟ると昇は自分を笑うしかない。

 情けない。僕は、本当に情けない。結局何も出来ないのに、勝手な約束をして、それすらも遂げる事が出来ないなんて、僕ほど惨めな人は他に居ないんじゃないか。

 自分の無力さを痛感する昇だが、それでも立ち上がって未だに攻防を続けているシエラ達と雪心に目を向ける。

 けど、最後の事だけはやらないと。

「ミリア、行くよ」

「……うん」

 ミリアが頷くと昇達は雪心に向かって走り出した。最後にできることをやるために。



「う〜む、さすがに精霊王の力じゃな。これだけやっても傷一つ付けられんとは」

「閃華、感心してないで手伝ってよ!」

「分かっておる。んっ?」

 閃華の視界の片隅にこちらに向かってくる昇達が写った。

「……」

「閃華!」

「琴未、シエラ、私が合図したら一斉に下がるんじゃ」

「えっ、なんで」

「分かった」

「今は答えとる時間は無い。目の前の事に集中せい」

「分かったわよ!」

 本当なら閃華に文句の一つも言いたい琴未だが、変わりに目の前の雪心に一撃を入れるが雪心が張った結界に触れると軽く爆発して攻撃を弾かれてしまうが、それでも琴未は二撃、三撃と攻撃を入れるたびに小爆発されて攻撃が届かない。

 しかたなく一旦下がる琴未の代わりにシエラが上空から神速を超えるハイスピードで攻撃を入れるが、これは完全に雪心の結界に防がれた。

 シエラはそのまま雪心を通り越して距離を取り間を置かずに閃華が攻撃に入る。

さすがにこれだけのコンビネーションだと雪心も攻撃に転ずる事が出来ない。いや、シエラ達が雪心に攻撃をさせないためにお互いに間髪を置かずに攻撃に入っている。

 そして閃華の攻撃が雪心にとっては予想外の大爆発を引き起こした。だが、その程度では雪心にはまったく効かないのだが爆煙が巻き起こると閃華が叫んだ。

「今じゃ、皆一旦退けい!」

 閃華の言うとおりに一旦雪心から距離を取るシエラと琴未、そして別方向から感じる強大な力にシエラが振り向く。

「昇!」

 そこには銃口を雪心に向けている昇の姿があった。

 風を操って爆煙を全て吹き飛ばす雪心も昇の力に気付くが、その時にはもう遅い。

「ディファインブレイカー!」

 高圧縮された昇の力が一気に打ち出されて雪心にと迫る。

 慌てて結界を張る雪心だが、高圧縮されて一点に集中している昇の攻撃は雪心のバリアに穴を開けると同時にバリアは砕け散った。

 その一瞬の隙に雪心に追撃が入る。追撃に入ったのがシエラや琴未なら雪心ももしかしたら防いでいたのかもしれないが、雪心の目の前にはよく知った顔が現れた。

「ミリア……ちゃん」

「雪心、ごめんね」

 その一瞬だけ、雪心には迷いが生じて固まるがミリアはすでに覚悟を決めている。だからこそミリアは動く事が出来た。

 そしてミリアの双斧が雪心に突き刺さる。

 時間が止まったかのように二人は動かなくなり、昇には何も聞こえなくなった。

 ミリアが双斧を抜くと、今まで宙に立っていた雪心がゆっくりとよろけてそのまま地上に向かって落下を始める。

 ミリアは双斧を投げさると雪心を追って降下していき途中で雪心を抱きしめるように捕まえると、そのままゆっくりと地上へと下りてきた。



 取り戻したかったのは二人の笑顔。だが現実は二人に涙を流させていた。

「雪心……」

 ミリアは雪心を抱き起こすように抱えているが、ミリアの手から足、そして床へと雪心から流れ出た血が赤く染めていく。

「ミリア……ちゃん」

「ごめんね、ごめんね雪心」

「……ミリアちゃんが、謝る事じゃないよ。全部、私のわがままがこうしたんだから」

「でも、でも!」

「謝るのは、私の方だよ。ごめんね、ミリアちゃん」

「違う! 雪心が悪いわけじゃない」

「ううん、いいの、全部、私が望まなければ、よかったんだから」

「そうじゃない。雪心が思った事は間違いじゃない。ただ、やり方が違ってただけだよ」

「そうかな、どこで、間違えたんだろ。けど、よかった」

「雪心?」

「最後に、ミリアちゃんと、仲直りできて、よかった」

「雪心、私は、今でもちゃんと雪心の友達でいるよ」

「うん、私も、そうだよ」

「これからも、ずっとずっと友達だよ。雪心を一人になんかさせないから!」

「……そっか、そうだね、私、一人じゃないよ、ね」

「そうだよ。当たり前だよ。私は雪心の傍には居られないけど、雪心が呼んでくれれば行く事が出来た。だから寂しくなったら私を呼んで欲しかった!」

「そうだね」

「それにシェードも雪心のお母さんも姿は見えないけどずっと雪心の傍に居たはずだよ」

「……そうだね」

「だから、雪心は一人なんかじゃない。絶対に、絶対に一人なんかじゃなかったんだよ」

「……うん」

「そしてこれからも、雪心は一人じゃないよ」

「……うん」

 雪心はミリアの頬に手を当てると、そのまま温もりを確かめるように撫でてミリアに笑顔を向ける。涙を流し続けながら。

「こうすれば、よかったんだね。そうすれば、ミリアちゃんが、傍に居てくる事が、わかったのに」

「雪心……」

「私、もう一人じゃないって、分かったから。泣かないで、ミリアちゃん。ミリアちゃんには、笑って欲しいな」

「雪心」

「笑ってくれれば、私は、ずっと、ミリアちゃんの傍に、居られると思うから。だから」

「うんうん、分かったよ雪心」

 ミリアは一度涙を拭くが、それ以上流れ出る涙は拭かないで雪心に笑いかける。ほんの数日前までそうしていたように。二人は同じ笑みを向け合う。

 それだけでミリアは雪心を、雪心はミリアを感じる事が出来た。傍に居る事が分かった。本当にそれだけでよかったのに。

「ごめんねミリアちゃん、いろいろと、迷惑をかけて」

「ううん、いいよ雪心、だって友達だもん」

「……うん」

「一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に困るのが友達だよ。私は雪心とそんな友達で居るから」

「そう……だね。なんで、そんなことに気付かなかった、んだろう。私には、ミリアちゃんっていう、大切な友達がいることに」

「それは雪心がうっかり者だからだよ」

「ははっ、ミリアちゃん、酷い」

「雪心がしっかりしていれば、私が傍に居ることが分かったのにね」

「ミリアちゃん、存在感が薄いんじゃないの」

「う〜、なんだよそれ」

「ふふっ」

 それはあの楽しかった時のように話をする二人。だが二人とも流れ落ちる涙を拭く事も無く楽しい話を続ける。

 そして最後に雪心はゆっくりとあの楽しかった時のように同じ言葉を口にする。

「じゃあね、ミリアちゃん、バイバイ」

「うん、雪心、またね」

 そして雪心の手が力を無くして崩れ落ちた。

「……雪心」

「……」

 分かっている。分かっているけどミリアは雪心に答えて欲しかった。

「雪心、雪心」

 それでも何度も呼びかけるミリア。

 そんなミリアに閃華は軽く肩に手を掛けると、振り向いたミリアに顔を横に振って見せる。

 そしてミリアは全てを受け止めた。

「うっ、うわあああーーーっ! 雪心、雪心!」

 雪心を強く抱きしめて思いっきり泣き叫ぶミリア。誰もそれを止めようとしない、止められなかった。ただ一人、昇だけは雪心の最後を看取るとその場からゆっくりと離れていった。



 そして昇は天井も壁も無くなった部屋の端に立つ。すぐ目の前には何も無く、遠くに空が見える。

 昇は遠くの空に銃口を向けると力の限り空に向かって力を放ち続けた。何も言わずにただ力を放っていく。力尽きるまで。

 そして力の限り銃弾を撃ち尽くした昇は、そのまま崩れ去るようにその場に座り込む。

 結局僕は何も出来なかった。あれだけ偉そうな事を言っておいて、何も出来なかった。僕は弱くて無力だ。ほんとに情けないぐらい弱い。

 なんで、なんで僕はもっと強くなろうとしなかったんだ! そうすれば、こんな事にはならなかったのに、絶対にさせなかったのに。なんで僕は、強くないんだ。

 僕は何度ミリアに雪心ちゃんを助けるって言った。何度も言ってそれを実行できないなんて、僕はなんて不甲斐無いんだ。口だけで何にも出来なかった。誰も助ける事も出来なかった。

「昇」

 後ろから聞こえたシエラの声、だが昇は振り向こうとはしなかった。

「今は、一人にしといて」

「分かった。でも忘れないで欲しい。私が昇を契約者に選んだのは可能性があったから、強くなって、エレメンタルロードテナーになれる可能性があったから、私は昇を選んだ。そのことだけは、忘れないで」

 それだけを言い残してシエラは昇から離れようとするが。

「シエラ」

 昇が突然シエラを呼び止める。

「なに?」

「僕は、僕の力は誰かを助ける事が出来たのかな?」

「……」

「僕はもう、あんな悲しい笑顔を見たくないんだ」

「……昇がそう願うなら、昇はその願いを叶える努力をすればいい」

「……そうだね」

 そして昇が口を閉ざすとシエラは静かにその場から立ち去っていき、昇は手にした二丁拳銃を強く握り締める。

 取り戻せなかった。あれだけ約束して、あれだけ修行もしたのに僕は取り戻す事が出来なかった。

 そして昇の胸の中にぽっかりと穴が開いたような、そんな虚無感を覚えるのだった。







 まあ、今回はあまり書かない事にしましょう。

 以上、葵夢幻でした、

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