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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
ロードナイト編
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第三十九話 悲しみを越えた決意

 あれはある夜のことだった。俺はあてども無くさまよっていた俺は、ふと泣き声らしき物をが耳に届いた。

 普段の俺なら捨て置いただろう。だがその時は何の気まぐれか泣き声のする方へと足を向けた。

 そして俺が辿り着いた場所。そこには明かりもつけずに泣いている少女がいた。

 だからどうしたと、本来ならそのまま捨て置けばよかったのだが何故か俺はその少女に近づいた。その時は契約を会話していない俺は実体化はしていなかったから少女は俺に気付くことなく泣き続けた。お母さんとなんども呼びながら。

 今思えば俺はその場を立ち去るべきだったのだろうが、俺は何故かその少女を見続けていた。

 ただ、悲しかったのかもしれない。少女ではなく俺が。

 精霊は普段から元素となった物の傍から離れない物だが、俺のように今の日本では絶滅してしまった狼だが海外では確実に存在している。だから俺もその場所へ行けば同じ精霊に会えただろう。

 精霊王が何故俺をこの地に生み出したのかは分からない。だから俺は宿る元素も無くてたださまよう事だけしか出来なかった。

 だからだろうか、俺がこの少女を選んだのは。器の資格が無いと知っていながらも選んだのは俺が寂しかっただけなのかもしれない。目の前で泣いている少女のように。

 そしてその時に俺はやっと自分が何をするために生まれてきたのかを理解した。俺は単なる探してにすぎない。器の資格を持ったものを探し出してその者をエレメンタルロードテナーにするためだけに俺は生み出された。

 これは後で知ったことだが、精霊王は自分の死期が近くなると新たな器を探すために多くの精霊を生み出すらしい。俺もその中の一人に過ぎない。

 だから俺は決めてやった。あえて器の資格を持たないものと契約して俺は自分の生まれた意義を消し去ってやろうと。

 そして俺は少女の、雪心の前に姿を現した。

 最初は怖がっていた雪心だが、これからは俺が傍に居てやると言った途端にその表情が変わった。そして俺は雪心の前にひざまついて自分の精霊武具を差し出す。

 これも契約の仕方の一つだ。精霊武具はその精霊の属性を示して自分の分身に等しい物だ。それを差し出すということは契約者に忠誠を誓うのと同じ、俺はその時から雪心の傍に居ることを約束して己の精霊武具にかけて忠誠を誓った。

 最初の頃は大変だった。雪心を引き取るという役人を追い返して初めての人間の生活という物に慣れるのにかなり苦労した。だがそんな中でも雪心が俺に笑い掛けてくれれば楽しかった。

 例えどんな失敗をしようとも雪心の笑顔が俺を励ましてくれた。それに、契約した精霊は契約時に人間界での生活に困らないように多額の現金が支給される。その額は雪心が成人するまでには充分な額だったから何も心配は要らないと思ってた。あいつが現れるまでは。



 シェードが目を覚ますとそこには石造りの天井が見えた。

 俺は……どうなったんだ。

 それは確認するまでもなかった。シェードの感覚がすでにその答えを示していたからだ。だがシェードは念の為に自分の手を目の前に持っていく。シェードの手は半透明なほど薄くなっており、それは全身がそうなっていることを示していた。

 そうか、俺は負けたのか。

 シェードは目をつぶって必死に流れ出てくる物を手で押さえていた。

 すまない雪心、約束を破ってしまった。だが俺は安心出来たぞ。

「おっ、ミリア、目を覚ましたみたいじゃぞ」

 その時、閃華の声が聞こえてその後に自分に駆け寄る足音がシェードにはしっかりと聞こえていた。

 シェードは目を擦るとゆっくりと目を開く。そしてそこには今にも泣きそうなミリアの顔があった。

「シェード……」

「俺は、お前に負けたみたいだな」

「……うん」

「そうか」

「……ごめん」

「お前が謝る必要はない。全ては俺の不甲斐無さが招いた結果だ」

「そんなことない!」

 ミリアの涙がシェードの頬に落ちてるほどミリアは思いっきり首を横に振る。

「そんなことないよ! 全部シェードが悪いんじゃない。全部あいつが、サファドが悪いんだからシェードが悪いわけじゃないよ」

「だが、俺は雪心を止められなかった」

「なら私が止める。友達の頼みなら私が止める!」

「とも……だち?」

「そうだよ。雪心は私の友達、だから雪心の大事な人も私の友達だよ」

「……ふふっ、ははっ、そうか、俺とお前は友達か」

「そうだよ。皆、友達だよ」

「そうか、雪心は……本当に良い友人を得たようだな。今まで敵だった俺を友達と言うとはな」

「もうそんなの関係ないよ。私もシェードも同じ思いを持ってる。同じように雪心を助けようとした。ただ、道が違ってただけだよ」

「そうだな、そうかもしれないな。ミリア、といったな雪心を頼んでいいか」

「うん、うん、絶対に助けるよ」

「そうか、これで、安心して消えることが、出来る」

「なんで! 実体化が解けても雪心の傍に居てあげてよ。何で消えちゃうんだよ」

「ミリア」

 閃華がミリアを呼ぶが、ミリアには届いていないようだ。

「雪心の傍に居てあげてよ。私がシェードの言葉を雪心に伝えるから、だから雪心の傍に居てよ!」

「ミリア」

「だから消える必要もどっかに行く必要も無いよ。雪心の傍に居てあげてよ!」

「ミリア!」

 閃華はミリアの肩を掴むと無理矢理こっちに向かせて、ミリアの頬を思いっきり平手打ちする。

「……何するんだよ、閃華!」

「ミリア、そなたにはもう分かっておるはずじゃ。なにしろ、シェードと戦ったのはミリアなのじゃからな」

「……」

「二人ともあの状態で戦っておったんじゃぞ。お互いに自分の存在である元素の力を使ってな。じゃから負けたシェードは実体化を解かれる時にはもう元素の力を使いきっておるから、実体化が解けたら消え行くだけじゃ。それぐらい分かっておるじゃろう」

「シェードが、自分の存在する力まで使って戦ってたから、だからもう消えるしかないって言いたいの」

「そうじゃ。ミリアもシェードも己の限界を超えて人間で言えば命ともいえる精霊の存在する力までも使って戦ってたんじゃ。じゃから負けた者は消えるしかない。人間で言えば死を迎えたというところじゃろうな」

「……なんで、なんでこんなことになるんだよ! 私もシェードも雪心を助けようとしただけじゃないか、それがなんで消えなきゃいけないんだよ! なんでこんなことになっちゃうんだよ!」

 閃華の平手打ちがもう一度ミリアの頬に当たる。

「ミリア、今ここでそなたが喚き散らしても何も変わらん。じゃからやるべき事をやるんじゃ」

「やるべきこと……」

 ミリアは再びシェードの横に座り、流れ落ちる涙を拭かないままシェードを見詰めていた。

「出来ることなら……泣くのをやめて欲しいんだがな」

「無理だよ、そんなの」

「お前は、雪心と、背格好が似ているからな。お前が泣いてると、雪心が泣いてるようだ」

 そう、あの夜の時のように、雪心が泣いているのをただ見詰めていた、俺を思い出してしまう。

 その姿は今思い出しても、情けなくて、嫌になる。

「だから、泣くな、ミリア」

「シェード……」

「これからは、ミリアが、雪心の傍に、居てやってくれ」

「ダメだよ! そんなのはダメだよ!」

「受け、入れろ。そして、助けて、やってくれ、雪心を」

「……うん」

「そして、これからも、雪心の、よき友で、いてやって、くれ」

「うん、うん」

「なら、これでいい。俺は分かっていたのかも知れない。ミリアが、俺を倒してくれる事を、そして、俺もそれを望んでいたという事を」

「何でだよ! なんでそんなこと思ったんだよ」

「さあな、俺もよく分からん。だが、ミリアなら雪心を、本当の雪心に戻してくれると、思ったのかもな」

「なんだよそれ、それならシェードがやればいいじゃないか」

「俺では無理だった。だから言っただろ、全部俺の不甲斐無さが招いた、結果だと」

「だからそんなの変えれば良かったんだ。シェードにはそれが出来たはずでしょ」

「いいや、俺には無理だった。だからこそ、ミリアに、託す事が出来る。雪心の事を」

「シェード! そこにはシェードも居なくちゃ意味が無いんだよ」

「そうだな。だが、俺は満足だ。俺が無し得なかった事を、代わりにやってくれる者が居て」

「シェード……」

「ミリア、最後に俺の手を握ってくれ」

「うん」

 ミリアは半透明になっているシェードの手を取る。そこにはもう体温すらなく冷たい手だがミリアにはとても優しく暖かい温もりを感じる事が出来た。

 この手が今まで雪心を支えていたんだと言う事を。

「すまないが、雪心の事を任せて良いか?」

「うん、絶対に雪心を助けるよ」

「そうか、これで、安心だ」

「……シェード」

 もう俺には後悔などはない。全力で自分が選んだ道を進み、それを正してくれた友に全てを任せることが出来る。もしかしたら、俺は最後に幸せを取り戻したのかもしれない。雪心と過ごしてきた楽しい日々を、取り戻したのかもしれない。

「ありが……とう」

「シェード。シェード……シェード、シェード!」

 シェードの体はもうほとんど透けている。あと少しすれば完全に消えるだろう。だが、それが分かっていても、ミリアは叫ばずにはいられない。

「ダメだよ! こんなことはダメだよ! シェードは雪心の傍にいなくちゃいけないんだ。だから、消えるなんて絶対にダメだよ! シェー──ド───!」

 そしてシェードの体は完全に消え去りミリアの涙は床に落ちていく。

「こんなの……ダメだよ」



 昇は思いっきり壁を叩いて歯を噛み締める。

 なんで、なんでこんなことになるんだ。ミリアもシェードも雪心ちゃんを助けようとしただけじゃないか、それがなんでこんな結末になるんだよ。

 昇はもう一度壁を思いっきり叩き、やりきれない気持ちをぶつけるが壁を叩いた手が暖かく包まれる。

「シエラ」

 昇が横に向くといつもの無表情とは違って悲しい顔をしたシエラが昇の手を包んでいた。

「昇、昇の気持ちは分かる。それは皆一緒だから。だから、これ以上はやめて」

「……うん」

 昇は壁に叩きつけた手をゆっくりと下ろすとシエラも手を離した。

「なんで、こんなことになったのかな」

「……しかたないこと」

「しかたない! この結末をしかたないでシエラは済ませるの!」

「なら昇! 昇にはこの結末を変えられた。ミリアもシェードも救えた」

「うっ、それは……」

「……だから、しかたないで済ませるしかない」

「それは、悲しすぎるよ」

「そうだね。でも一番悲しいのはミリアだと思う。だから昇……」

 昇は力無く頷くとゆっくりとミリアの元へ歩いていった。

 そして後ろからミリアを思いっきり抱きしめる。

「昇、昇、シェードが、シェードが」

「分かってる。みんな分かってるから」

「うん、うん」

 ミリアは昇の腕を思いっきり掴んでまるで何かに耐えてるように震えてる。

「私、こんなことをしたくて戦ったんじゃないよ。雪心を助けたかったから、だからシェードとも戦ったんだよ。でも、シェードが消えるなんて思ってなかったよ。私がシェードを」

「それは違う。ミリアは悪くない、いや、シェードも悪いわけじゃない。ミリアもシェードもああするしかなかったんだ。それしか、無かったんだ」

「でも、でも、私達がそこまでして戦わなければよかったよ。そうすればシェードは消えることは無かったのに」

「それも違う。二人があそこまで戦ったから二人とも後悔せずにすんだ。シェードも全部ミリアに託して消えることが出来た。もし二人ともあそこまで戦っていなかったら、未だに決着が付かずに二人とも後悔したかもしれない」

「でも、消えちゃったんだよ。シェードは、消えちゃったよ」

「それはミリアがちゃんとシェードの思いを受け止めたから、だからシェードも後悔しないで安心して消えていけたんだと思うよ」

「……私は、ちゃんとシェードの思いを、受け止められたのかな」

「ちゃんと受け止めたからミリアはあそこまで全力で戦ったんだろ。だから後悔なんてしちゃいけない。ミリアはちゃんとシェードの思いを受け止めたんだからその思いを引き継がなきゃいけないと思うよ」

「シェードの思い……」

「そう、それはミリアも同じ思いのはずだ。だからミリアの思いにシェードの思いも足してその思いを遂げないといけないんだ」

「……うん」

 ミリアは昇の腕を放すと昇と向き合う。

「でも、少しだけ、少しだけでいいから、時間をもらっていい」

「うん、いいよ」

 ミリアは昇の胸に飛び込むと思いっきり泣いた。昇もそんなミリアを優しく包むように抱きしめる。

 だが、昇の胸中も複雑な物がいろいろとごちゃ混ぜになってうごめいている。

 僕は、何も出来なかった。何も変えられなかった。僕の力はこの程度の物なのか、こんな悲しいことを止める事が出来ない程、僕は弱いのか。

 自分の力の無さを嘆き。

 僕はミリアと雪心ちゃんの笑顔を取り戻すために来たのに、なんでこんなことになってしまうんだ。こんなこと誰も望んでいないのに。こんなの、酷すぎる。

 悲しみに押し潰されそうになりながら。

 だから僕は絶対に許さない。ミリアと雪心ちゃんの笑顔を奪っただけじゃなく、シェードの犠牲してミリアを泣かせた。僕はあいつを、サファドを絶対に許さない。

 そして、決意する。



 それからしばらくして、ミリアも落ち着きを取り戻して昇達は与凪を呼び出した。

「はいはい、なんですか!」

 いつも以上に明るく振舞う与凪の目に昇は涙の後を見つけるが、何も言わないことにした。それは今更言うことでもないし、与凪も昇達をずっと見ていたからあえて明るく振舞ってくれているのだから。

「この先について分かる?」

「はい、皆さんお分かりだと思いますが」

 与凪の態度が急に真面目な物になる。

「その先に儀式用の魔方陣と人間と精霊の反応が出ています。ですから、その扉の向こうは……」

「サファドと雪心ちゃんがいる」

「……はい。おそらく」

「分かった。ありがとう与凪さん」

「いえいえ、私は皆さんに協力すると約束しましたから、その約束を守っただけですよ」

「でも、ありがとう与凪さん」

「……気をつけてくださいね皆。皆さんには帰る場所があって、待ってる人がいるはずですから」

「そうだね」

 僕達は帰らないといけないんだ、あの楽しい日々に。そして、そこには雪心ちゃんもいなきゃいけないんだ。僕達はその日々を取り戻すためにここまで来たんだから。

「行こう」

 昇の言葉に全員が頷きいて昇達は最後の扉に向かって歩き始めた。

 だが、その扉の向こうに待っている物が最悪の運命であることを昇達はまだ知ることは無かった。

 運命の歯車は確実に狂い始めて、そして加速していく。



 ミリア……ちゃん?







 ……眠い。何故だか分からないが、最近やたらと眠い。はいそこの方、なら寝ろよと突っ込まないように、私は充分寝てますから。それでも眠いから、こういうことを書いているわけで、特に意味は無いです。

 はいそこの方、意味が無いなら書くなよ、とか突っ込まないように。というか、意味が無いことを書いて悪いかーーー! ここは俺の後書きだ、俺の自由だ、俺の楽園だ。だから何を書いてもフリーダムなんだーーー!

 つーわけで、寝ます。でもその前に。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、寝ようと思って布団に入った途端、眠気が一気に吹っ飛ぶ葵夢幻でした。……なんで眠気が吹っ飛ぶんだよー! 寝れないじゃないか!

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