第三十八話 ぶつかり合う同じ思い
「与凪さん、あの先?」
「ええ、あの扉の向こうでミリアさんがロードナイトと交戦中です」
「なら急ごう」
シエラと琴未が無言で頷く。
そして昇達はその部屋へと足を踏み入れると、すでに人狼と化したシェードとミリアの戦闘が激化していた。
「ミリア!」
昇の声にミリアは昇達がここに到着したことを知るとシェードを相手にしながら叫ぶ。
「来ないで!」
「えっ?」
「こいつだけは、私が絶対に倒すから手を出さないで!」
「けど……」
昇はミリアが相手にしている人狼に目を向ける。
なんだあれ、あれも精霊なのか?
始めて見る精霊の別形態に昇は戸惑いを隠せなかった。それを見越したシエラが口を開く。
「あれは生物系の精霊、その最終形態」
「生物系の精霊って?」
「簡単に言うと動物や植物を元素にした精霊。あの形状からすると、たぶんあいつは狼の精霊」
「動物にも精霊って宿るんだ」
「精霊は森羅万象全ての物に宿ってる。動植物も例外じゃない」
「それは分かったけど、ねえシエラ、何でミリアはあそこまで必死になってんのよ」
「……」
「分からないんのね。そうなんの、そうなのね」
「あの琴未、それはシエラにも分からないことがあるんじゃ」
「昇、琴未がいじめる」
「って、シエラ、ドサクサ紛れに昇に抱きつくな!」
「……うらやましい?」
「ぐっ、そんなの、うらやましいに決まってるでしょ」
……あの〜琴未さん、素直すぎなのでは。
「でも琴未にはやらせない」
「なんでよ。次は私の番なんだからさっさと代わりなさいよ」
いつのそんなことが決まったんですか?
「嫌」
「あんたね!」
「あの〜、皆さん。一応、ミリアさんが必死に戦っている最中にそんな漫才なんてやってていいんですか」
与凪の指摘に一同が沈黙した後、シエラは昇から離れて琴未は顔を赤くしながら咳払いで誤魔化した。
「でも、確かに何でミリアはあそこまで自分一人でやろうとしてるんだろう?」
「ふむ、それはたぶん、あの狼の精霊がシェードじゃからじゃろう」
「えっ! あの精霊がシェード」
「それしか考えられんじゃろ。ミリアがあそこまで必死になる理由は。じゃからシェードとの因縁は自分だけの力で決着をつけたいんじゃろうな」
「そっか、だからミリアは僕達に頼りたくないんだ」
「うむ、そうゆうことじゃろうな」
「そっか、確かにあの二人は雪心ちゃんの事で因縁があると言ってもいいから、だからミリアは自分の手でその因縁に決着をつけるつもりなんだね」
「まあ、簡単に言うとそういうことじゃな」
「僕達に出来る事は無いのかな?」
「やめておけ昇、今は見守る事だけしかできん」
「ミリア……」
「……ところで昇」
「なに閃華?」
「いや、いきなり私が現れたことに驚きはしないんじゃな」
「うわ、閃華いつの間に」
「棒読みの驚きをありがとう昇」
……あっ、いじけた。というか閃華ならいきなり現れても驚かないというか、もうそういうものだと思ってるからな。今更そこに驚けと言っても無理なんじゃ。
そしてそんな昇達を与凪はモニター越しに見ていた。
「というか滝下君たち何やってるんですか?」
「いや、今更それをきかれても困るんだけど」
「はぁ、今の滝下君たちを見てるとよく今までの激戦を潜り抜けてきたのか不思議だわ」
……僕もそう思います。
呆れる与凪と昇。そしてそんな昇達を無視してというか構う気も無く。ミリアとシェードの激闘は続いていた。
シエラほどのスピードは無いけど攻撃が鋭いよ。
ミリアは人狼と化したシェードの攻撃に押されていた。確かにシェードのスピードはシエラよりも劣るが攻撃の切り替えしが鋭く、防御重視のミリアにとってはやっかいな攻撃だった。
上下左右あらゆる角度から来る攻撃にミリアは防御するだけで攻撃に転ずることが出来ない。
そして次第にミリアの鎧には傷が増えていくばかりで、ミリアは直撃を免れるだけで手一杯だった。
まずいよ。このままだと押し切られちゃう。けど、昇のエレメンタルアップには頼りたくないし、どうしよう。
その時、背後から迫るシェードの動きを完全に見切ったミリアはハルバードでシェードの爪を完全に防いだ。
あれ?
だが、すぐにシェードは距離を取って再びかく乱してから攻撃に転じてきた。だがミリアはシェードの攻撃を防ぎながらも、先程見たものに確信を得ていた。
さっき、攻撃を完全に防いだときのシェードは完全に息が上がってた。もしかして、あの状態だと結構キツイんじゃないかな。……そうか、そうだよね。この戦いはシェードも私も思いは同じなんだ。雪心のために私とシェードは戦ってるんだ。だから、私もシェードも負けられないんだ。
それなら、私もやるしかない。
ミリアは迫ってくるシェードに向かって走り出して、シェードの爪がミリアの肩に食い込むのと同時にミリアはハルバードで思いっきりシェードを吹き飛ばした。その衝撃でミリアの肩から血が一瞬噴水のように噴出すがすぐに止まってミリアの鎧を赤く染めていく。
それでもミリアは怯むことなくシェードへ再び突っ込んでいく。
シェードはスピードで撹乱しようとするがミリアはそれを許さなかった。すぐにシェードの懐に飛び込むとそのままハルバードで押さえつける。そして一気に壁にまでシェードを押し切り壁にめり込ませる。
「ショット!」
壁から土の弾丸が飛び出す。それはシェードだけではなくミリアにも直撃するがダメージ量からすれば壁にめり込んでいるシェードが多い。
ミリアは自分にも攻撃が当たる事を覚悟したうえでの攻撃だ。そこまでしないと今のシェードに攻撃を加える事は不可能だと判断してようだ。
だがシェードは弾丸が収まるとすぐにミリアの腕に噛み付いて、顎の力だけでミリアを振り上げるとそのまま振り回してミリアを吹き飛ばした。
壁に激突したミリアに腕にも痛みが走る。どうやらシェードの牙はミリアの装甲すら貫くらしい。
こうなってくるとミリアの重装備も役には立たないようだ。それぐらいシェードは命を賭けて戦っていることが今のミリアには理解できた
そうだよね。この戦いには私とシェードの雪心への思いが掛かってるんだ。だから私も全力で戦わないといけない。例え、この命を賭けてもシェードと全力で戦わないといけないんだ。
それがシェードの望んだ事だし、この戦いに決着をつける方法だから。
ミリアはハルバードを天に向かって差し出すと、一気に力を放出する。
その力に反応するかのように地震が起きて部屋中が揺れるが、シェードは怯みもせずにミリアを見守っていたシェードも待っていたからだミリアの本気を。
そしてミリアの足元に魔法陣が現れる。
「ティターンモード!」
ミリアが叫ぶとハルバードがその形を変えていく。槍の部分が引っ込んで変わりにもう一つの斧が出現した。そして斧の先端が伸びると槍の様に鋭くなっていく。その姿は槍の様な斧を二つ対等に柄の先端にくっ付けたようになっている。まるで双斧のようだ。
それと同時にミリアの装甲も変わっていく。今まで重装備だった鎧がかなりの軽装になり、まるで防御を考えてないほどの薄い装甲になった。
これがミリアの、いや、地の精霊のもう一つの姿。
ミリアの変化を見ていた昇はその変わった姿に驚きを隠せなかった。
「だいぶ驚いておるようじゃのう、昇」
まるで昇の心を読んだかのように閃華が口を開く。
「だって、地の精霊って防御重視じゃなかったけ?」
「それは地の精霊の姿の一つ」
「シエラ?」
「昇、大地は確かに全てを支える物だから普段は防御重視のなの」
「じゃが、大地は時には凄まじき破壊力をもたらす時があるんじゃよ」
「時にはって?」
「例えるなら地殻変動による地震、または地底を流れる溶岩を噴出させる噴火、どちらにしてもその破壊力は凄まじいものじゃ」
「確かに、そういった自然災害は凄い破壊力を持ってると思うけど」
「それにじゃ、津波だって元は地震から発生する場合が多いじゃろ」
「つまり、地の精霊のもう一つの姿ってのは」
「そう、全てを破壊する防御無視の殲滅攻撃型、それが地の精霊のもう一つの姿」
「というか、防御無視って、かなり危なくない」
「じゃから本来は使わないんじゃ。じゃが、この戦いはお互いに負けることが許されない戦いじゃ。じゃからこそミリアもあのシェードとかいう精霊も己の全てを賭けて戦っておるんじゃよ」
そうか、ミリアもシェードもそこまで雪心ちゃんのことを思ってるんだ。
改めて二人の思いを感じる昇。だが、それと同時に別な感情も昇の中に湧き出してくるのだった。
けど、そこまでして戦うなんて、なんか悲しいよ。
ミリアは双斧を振り下ろしシェードの肩に傷をつけて、それと同時にシェードの爪はミリアの腕にその爪痕を残す。
もう二人に防御なんて概念は無い。どちらかが倒れるまで傷つけあるだけだ。
こうなると勝敗を決めるは戦術でも戦略でもない。思い、どちらが強い思いを抱いているかで勝敗が決まることになる。
そうして二人の思いは攻撃という形で二人ともぶつけ合い、傷つけ合う。二人とも、もしかしたら戦う力なんて残ってないのかもしれないが、雪心を思う気持ちが二人を戦いへと駆り立てる。
そうすることでしか表すことが出来ないからだ。雪心に対する自分の気持ちを。
雪心を思う気持ちはミリアもシェードも同じかもしれない。だがすれ違い、ぶつかり合うことになった事は二人とも後悔はしていない。なぜなら、それが自分の選んだ道だから。
だから後悔なんてしない。ただひたすらに自分が信じたことをやり通すだけだ。
必死で。
雪心、ごめんね。私、もしかしたら雪心の大事な人を倒すかもしれない。でも、例え雪心に恨まれても怒られてもいい。私は雪心を助けたいから、だから、シェードを倒して雪心の元に行くよ。
そして謝らないといけないから。私、雪心の気持ちも分かろうとしないでシェードの事を酷い奴だと決め付けちゃったから、その事だけは謝らないといけないから。だから、雪心の所まで行くよ。絶対に。
それにしても、私もバカだよね。こうやって全力で戦って初めて分かったよ。シェードがどれだけ雪心のことを思ってるかを今頃気付くなんてね。本当、私バカだよ。
そして全部終わったら一緒に泣いてあげるよ。お母さんの事が嘘だったことも、シェードがいなくなちゃう事も、雪心が泣くなら私も泣くよ。一緒に、それが友達だから。
だから、ごめんね雪心、今は全力でシェードを倒すよ。
雪心は、もしかしたら本当に良き友人を得たのかもしれんな。ここまで必死になって俺を倒して雪心の元へ行こうとしているのだから。
二人とも別な出会い方をしていれば、もしかしたら雪心は幸せになれたのかもしれないな。だが俺が不甲斐無いばっかりに、雪心に別の道を歩ませることになってしまった。もし俺がもっと必死で雪心を止めていたなら、あの時にサファドを倒していたなら別の未来が待っていたのかもしれない。それは雪心とって幸せな、別の未来が。
だが、今はそんなことを思っても詮無き事。俺は信じるしかないんだ。今歩いている道が、雪心を幸せにするということを。あの時誓った事を貫くために。
だから今は、試させてもらうぞミリア、お前の雪心に対する思いを。
二人が交差するたびにお互いに傷を増やし、武器を振るたびに血が飛び散る。そんな激闘を前にして昇は思わず目を逸らしてしまった。
「昇、目を逸らしてはいかんぞ。私達にはあの二人の戦いを最後まで見守る義務があるんじゃからな」
「でも、もう見ていられないよ。出来ることならミリアに手助けしてあげたい」
「それはならん! 昇、こういう思いがぶつかり合う激闘は見ている方も痛いんじゃよ。じゃから見届けねばならん。たとえ、ミリアが倒れようともな」
「そんな事を言わないでよ閃華!」
「じゃが、今のところ勝負は五分五分じゃからのう。ミリアが負ける可能性もある」
「それでも、見届けろって言うの」
「そうじゃ、この戦いには手出しは許されん。もし横槍を入れればお互いに後悔することになるぞ」
「後悔って……」
「例えどちらが勝っても横槍が入れば、横槍を入れた者を恨むじゃろう。お互いに真剣な勝負しておるのじゃらのう。それを邪魔されれば例え勝っても嬉しくはないじゃろう」
「でも、この戦いは悲しすぎるよ」
「なら昇、昇はあの二人を上回るほどの思いを持つことが出来るか」
「えっ?」
「もし昇があの二人の思いを上回るほどの思いを持っておれば、二人の戦いをやめさせることが出来るじゃろう。どうじゃ昇、昇の思いはあの二人を上回れる物か」
……そんなの、無理に決まってる。だって二人とも、あそこまで雪心ちゃんの為に戦ってるんだ。僕に、あの二人を止められるだけの思いはない。
僕も雪心ちゃんは助けたい。でも、自分の全てを、いや、それ以上を賭けても今の僕にはそこまで戦う理由がない。でも、あの二人は違う。ミリアもシェードって精霊も雪心ちゃんの為に全てを賭けて戦ってる。僕に、それを止める権利はない。
昇はしっかりと顔を上げて二人の戦いを見守る。
「うむ、それでよい。こういった戦いは見ているほうが辛い時もある物じゃよ」
「そうだね。僕は……しっかりと見届けないといけないんだ」
「うむ」
ミリアはシェードの肩に、シェードはミリアの腕にそれぞれ傷をつけるとお互いに距離を取って呼吸を整える。
そして二人の荒い息が収まり、普段の呼吸に戻ると一瞬だけその場は静寂に包まれるが、すぐ二人は走り出した。
そして戦闘は再開されるが、今までの戦闘は違ってミリアもシェードも防御と避けることを取り入れて攻防を続ける。
どうやらお互いに分かっているらしい。二人とも限界が近いということと、その限界を超えた時が決着が付くときだと言う事を。
そして限界は確実にミリアに現れ始めた。
まずいかな、少し目がかすんできたよ。
それでもミリアはシェードの攻撃をかわして防いでいた。
攻撃のキレは相変わらずだけど、スピードがかなり落ちてるみたいだよ。そうか、シェードも結構きてるんだ。なら……。
ミリアはシェードの攻撃を真正面で受け止めるとそのまま力任せにシェードを吹き飛ばした。
もう決めるしかない。
ミリアはシェードに追撃はかけずに、出来るだけ精神を集中させて残っている力をありったけ無理矢理引き出す。
そのミリアの力を感じ取ったシェードもその場に留まり、出来る限りの力を引き出す。
「次で決まるぞ。昇、しっかりと見届けるんじゃぞ」
「うん」
「琴未とシエラも分かっておるな」
「分かってる」
「……ミリア」
琴未はまるで祈るように手を組み、昇とシエラ、そして閃華はしっかりと二人の戦いを見詰めていた。
そしてシェードの目が大きく見開く。
「うおおおぉぉぉーーーっ!」
シェードの咆哮が空気を震わせ、力が放出されて牙と爪に集中される。
「ファングスラッシャー!」
そして一気にミリアに向かって走り出す。そのスピードは速くて空気が押されて風を巻き起こすほどだ。
シェードが迫っているのにミリアは動こうともせずにただその場に立っているだけだ。
そしてシェードの牙と爪がミリアに迫る。
だが突如ミリアは光の柱に包まれて、シェードの牙と爪を完全に光の柱で止めた。
「なっ!」
ありったけの力を込めた牙と爪を簡単に止められたことで驚くシェード。だが反対にミリアは笑みを浮かべた。
「忘れた。地の精霊は防御重視なんだよ。そして防御こそ、最大の攻撃できる」
そして光の柱はシェードの牙と爪を飲み込み、完全にシェードの動きを封じる。
ごめんね、雪心。雪心の大事な人、倒すね。
そしてミリアが立っている床が崩壊を始め、ミリアは宙に浮く。
「タルタロスブレイカーーー!」
そして光の柱は完全にシェードを飲み込む。
それに伴ない、まるで大地震のような揺れが部屋を襲い。昇達もたっていることが出来ずに床に伏せてシエラだけが宙に浮く。
そして光の柱は、その内部にあるロードキャッスルの天と地まで崩壊させていき大きな光の柱はロードキャッスルを貫いた。
よっしゃあーーー! きたーーー! 途中までだけど降りてきてくれたーーー! 執筆の神様が降りてきてくれたーーー!
……はい、現在深夜二時、無駄にハイテンションです。けどまあ、途中までは調子良く書けてたんだよ。ほんとに。まあ、最後ほうで少し詰まっちゃったけど、久々に調子が良かったよ。
いや〜、今まで風邪をひいてたせいか、あまり書けなくてね。お昼頃までは調子よく書けてたんだけど、疲れてきたから溜まってるDVDを整理したら、また少し不調になちゃった。そんな訳で三十八話はこんな形になりました。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、ゴ○ラのDVDを二本レンタルしたら、二作ともDVDの傷が凄くてまともに見ることが出来なかった葵夢幻でした。