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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
ロードナイト編
37/166

第三十七話 変わらぬ定めと変える意思

「はぁ〜、それにしても随分と綺麗に穴が開いたわね」

 琴未が言っているのは昇が冷峰を攻撃した時に出来た穴のことだ。

 あの後は土煙が完全に晴れると冷峰の姿は無く。与凪を呼び出して辺りに精霊の反応があるかも探ってもらったが、冷峰の精霊反応は出なかった。

 つまり昇の最後の攻撃が冷峰を倒した。

 それで安心したのか琴未はまるで観光気分で昇の攻撃の後を見ていたのだ。

「なんか、破壊したってより切り取った感じがするわね」

「それだけ昇の攻撃が鋭かったって事」

「そうなんだ。っで、昇は大丈夫なの与凪」

 昇は大丈夫だといったのだけど、シエラと琴未がどうしても無理矢理昇を床に寝かせると与凪に治療を受けている。

「はぁ、琴未、よく滝下君生きてたね。普通ならとっくに死んでるわよ」

「そんなに酷いの!」

「怪我事態はそんなにたいしたこと無いけどコートの方は完全にボロボロね」

「どういうこと」

「つまり、滝下君が防御力の高いコートを身にまとってからこの程度で済んだけど。もう少し弱い防具だと完全に死んでたわよ」

 あの、与凪さん、そんな恐ろしいことを簡単に言わないでください。

「とりあえず、コートは基礎構造だけを残してほかはボロボロ。だから後一撃でも喰らえば骨折どころか内臓が破裂してた可能性があるのよ」

 あの〜……僕って、もしかして凄い状態で戦ってた?

「まあ、とりあえず防御力の高いコートに助けられたことは確かね」

「近接戦闘だと人間の昇は確実に不利、だから私達が攻撃よりも防御力強い装備を使うように進言した」

「っで、シエラさんの予想通りに防御力が高いコートに助けられたってワケですね」

「そう、完全な状態の昇の装備なら一〇トントラックにはねられても大丈夫」

 そんな災難に見舞われたくないです。

「まあ、どっちにしろ、私達が昇を鍛えてきたことは無駄じゃなかったて証明出来たみたいね」

 あの酷い修行で何も身に付かない方が嫌だな〜。

「それだけじゃなくて、あの精霊は最初から昇の事を見下していた。それが私達の勝因」

 確かに、僕だけが相手をすると知ったあの精霊はどうみても最初っから僕を相手に本気を出してないようだった。

「昇がそんなにも強いとは思わなかったんでしょ」

「そう」

 う〜ん、そう言われても未だに強くなった実感が無いんだけど。

「だから昇を相手にあんなにもダメージを食らっていた。最初から本気で昇を倒すつもりなら昇に勝ち目は無かった」

 ……シエラさん、確かにその通りかもしれませんがハッキリと言わないでください。怖くなるから。

「まっ、どちらにしても外見だけで判断したあの精霊の敗因ってことね」

「そう。能力が特殊型の昇は使い方によっては幅が利く。そこまで見抜けなかった」

「それってつまり、僕がエレメンタルアップをここまで応用するとは思って無かったって事」

「そう、エレメンタルアップはレアな能力だから使い方も応用の仕方もあまり知られていない。だから昇の能力が分かっていても手加減した。エレメンタルアップは本来精霊の能力を上げる能力だから」

「まあ、確かにそれだけの情報だと昇があそこまで戦えるなんて思わないわよね」

 というか、僕もよくこれだけ戦えたと思ってるよ。

「それで与凪、昇は大丈夫なの?」

「とりあえずね。体の怪我はもう大丈夫だけど、さすがにコートの再建は難しいわね。一旦装備を解除して新しく実体化したほうが早いかもしれないわね」

「そうか、じゃあそうして早くミリアの後を追おう」

「昇、そんなに無理しなくてもいいんじゃない」

「琴未、僕達には余り時間は無いんだ。出来るだけ早く上に行かないと」

 そう、そこに雪心ちゃんがいて、あのサファドってやつもいる。一刻も早く雪心ちゃんを助け出さないと。

 昇は立ち上がると一旦制服姿に戻って再びコートの武装を実体化させた。

「行こう」

 シエラと琴未は頷くと、昇達は上へと続く階段に向かって走り出した。



 一方、ロードキャッスル最上階では、サファドが地面に魔法陣を出現させてその中心に雪心が眠っているかのように横になって宙に浮いていた。

 ふむ、この感じ、メインの装置がいじられたみたいですね。さっきから精霊王の力が移動してこない。やれやれ、まあいいでしょう。今まで溜め込んだ分でもそれなりに私は力を得ることが出来ますし、後は別な媒体を探しましょう。

 サファドは宙に浮いている雪心を改めて見詰める。

 この媒体も便利だったんですけどね。しょせん仮契約は仮契約でしかないと事ですか、仮契約では精霊本来の力がでませんからね。まあ、ロードナイトなんて所詮は飾りでしかなかったんですからここまで働いただけましという物でしょう。

 そしてサファドは手を振ると目の前に昇が走っている姿が映し出された。

 それにしてもこの人間、まさかあれほどの力を持っているとは思いませんでしたよ。仮契約とはいえあの冷峰を倒すほどの出力を出せるなんて、一体どれだけの力を秘めてるんですかね。いや、ただ単に力の容量がバカデカイだけかもしれませんね。

 そして今度はモニターにグラフが表示された。

 ふむ、やはり装置をいじられたのは痛いですね。おかげで儀式を始めるのに時間がかかってしまいます。ですかこの扉の前に控えているのはシェードです。飾りのロードナイトとは違い、彼は本当に契約をしていますから本来の力を出せるはずですからね。強いですよシェードは、今の私以上にね。けど……。

 サファドはもう一度雪心に目を向ける。

 もうすぐ、もうすぐ私はシェードを超える、いや、それ以上の力を手にすることが出来る。例え今は精霊王になれなくても一歩近づいただけでも良しとしましょう。あまり欲張るのもよくないですからね。まあ、今回は今ある分だけの力を吸収して撤退することにしましょう。やはり引き際をわきまえるのも王としての資質ですからね。

 サファドの笑みがこれから起こることを示してるかのように、不気味に最上階の明かりが照らし出す。



 そしてミリアはというと、大きな扉の前に居た。

「与凪」

 そして与凪を呼び出す。

「はいはい、なんですか」

「この先はどうなってるの?」

「はい、ちょっと待ってくださいね。……精霊反応が一つあります。確実にロードナイトが待ち構えていますね」

「分かった。じゃあいってくる」

「ちょっと、ミリアさん!」

 いきなり扉を開けようとするミリアを与凪は慌てて止める。

「なに」

 まるで人が変わったかのように見詰めてくるミリアに、与凪は思わず怯んでしまった。

「えっと、あの、滝下君達も今そっちに向かっているから合流してから入って入った方がいいんじゃないかって、思ったんですけど」

「それはダメだよ。私が今までほとんど力を使わないでここまで来れたのは昇やシエラが他のロードナイトを相手にして時間を短縮させてくれたから。だから、私がここで時間を無駄にするわけに行かないよ」

「それは、そうですけど……」

「大丈夫、私は絶対に負けない」

「はぁ、分かりました。では、滝下君達にはミリアさんの状況を伝えておきますね」

「うん、分かった」

 それだけを言い残して与凪を映したモニターは消えてミリアは扉を勢いよく開けた。

 そこは丸く広い部屋。そして、その中央に立っているのが……。

「シェード」

「……お前か」

 ミリアもシェードもお互いに相手の姿を静かに確認する。そしてミリアはその部屋に足を踏み入れてシェードと対峙する。

「まさかお前がここまで来るとは思わなかった」

「皆が、私をここまで来させてくれた」

「良き仲間を持っているようだな」

「雪心も私達の仲間だよ」

「……そうだな。もし、雪心がお前達ともう少し早く会っていればそうなっていたかもしれない」

「今でも変わってない。私は雪心の友達だし私達の仲間だよ」

「そうだな、そうなればよかったのかもしれない。だが変わらぬのだよ。雪心が決めてしまった以上は変わることは出来ない」

「決め付けるな!」

「決めたのは私ではない。雪心が自ら決めたんだ。だから、俺は……雪心が決めたことに従うだけだ」

「それが嘘だと分かっていても」

「ふっ、俺も何度も雪心に言ったさ。だが雪心は聞き入れなかった。だから俺も覚悟を決めた。ロードナイトとして雪心を守ると」

「なんだか、悲しいよ。それ」

「俺にはそれしか出来なかった。ただそれだけだ」

「今からでも変えればいいじゃないか!」

「そうはいかぬのだよ。俺には変えることは出来なかった。だから自分のやるべきことをやるだけだ」

「なら、私が変える! こんなこと、私が変えてやる!」

「出来るものならやってみるがいい。だがその前に」

 シェードは両腕を胸の辺りでクロスさせる。

「ファングガンドレット<牙のある篭手>」

 シェードの両腕が力のオーラを発すると、それは実体化を始めてシェードの篭手となった。

「俺を倒していくがいい」

「……この、バカ───!」

 ミリアはアースハルバードを振りかざしてシェードに向かって走り出す。シェードも構えて攻撃態勢に入ると、ミリアとシェードはお互いに攻防を繰り返す。

「なんで、なんで、なんでこんな悲しいことするんだよ!」

 ミリアの言葉がハルバードと共にシェードに向かっていく。

「俺とて好きでやっているわけじゃない!」

 シェードはミリアのハルバードを弾くと拳を繰り出すが、ミリアのハルバードに流されるようにかわされてしまった。

「じゃあ、なんで、こんなことをやってるんだよ!」

 ミリアはハルバードを大きく上に振り上げると一気に振り下ろすが、頭の前で腕をクロスさせたシェードに完全に止められてしまった。

「こうする以外、俺に出来ることが無いからだ!」

 ハルバードを弾くように両腕を大きく広げるシェード、そうなると完全に無防備な状態になるミリアの腹に拳をヒットさせて吹き飛ばした。

 ミリアはそのまま壁に激突。だが重装備のミリアにはあまりダメージは無いのか、床に足が付くとすぐにシェードに向かって走り出した。

「そんなのは言い訳だー!」

 ミリアはシェードに向かって大きく跳んでその勢いを使って一気にハルバードを振り下ろす。

「ならお前には何が出来るんだ」

 シェードは振り下ろされたハルバードの柄を両手で掴み、完全にミリアの攻撃を受け止めた。

 そして、ミリアごとハルバードを持ち上げるとミリアを床に叩きつける。

「結局、お前には、何も出来ない。俺と、同じだ。何も変えることが出来ず、ただ見守ることだけしか出来ない。それが、俺とお前の、定めだ」

 言葉を区切るたびにシェードはミリアを床に叩きつけて、最後には再び壁に向かってミリアを投げつける。

 そして再び床に足が付くとミリアはよろけながらもシェードに向かって走り出した。

「なら変えてやる。そんな定め、変えてやる!」

「無駄だ」

「無駄じゃない!」

 ミリアは横からハルバードを振るってシェードの脇腹を狙うが、シェードは素早く体勢を横に向けると真正面からハルバードを受け止める。

「雪心は私の友達だ! 楽しい時には笑ったし悲しい時にはなぐさめ合った。そして私が雪心と過ごした時間は楽しかったから。だから雪心が困っているときには助けてあげたい。その先にどんな定めあろうと、運命だろうと、全部打ち砕いてやる!」

 ミリアはハルバードの柄がしなるほど力を込めると、さすがのシェードも耐え切れないようで後方へ吹き飛ばされたが足だけは地面から離れることは無かった。

「定めを変えることなどできん。もう、何もかも遅いんだ!」

 再びミリアに迫るシェードは拳を振るうが、その拳は空を切るのと同時に重装備のミリアの腕、鎧に二本の牙がまるで鎧を削ったような後が残る。

「だから、そうやって全部決め付けるな!」

 ミリアはハルバードの柄でシェードの脇腹にヒットさせる。シェードは一瞬呻くものの怯みはせず拳を繰り出す。

 その攻撃はミリアの顔をかすめるのと同時に頬に切り傷を与えて、ミリアの頬から少しだけ血がなれる。

 だがミリアもシェードの攻撃にあわせてハルバードを突き出していた。その攻撃は顔を攻撃された所為か少しずれて、シェードの脇腹をかすめて服を切り裂き少しだけ血に染めた。

 その後も二人は一歩も下がることなく、その場での攻防を繰り返して次第に二人とも傷が増えていく。

 負けない、こいつだけには絶対に負けない。確かにこいつは雪心の大事な人かもしれないけど、今まで何も変える事が出来ずにただ従っていただけじゃないか。もし、昇が同じ事になるとしたら私は昇をぶっ叩いてでも目を覚まさせてあげるのに。

 それはミリアが昇から一番最初に教わったこと。最初の頃のミリアはただ怖くて、震えてて、従うことしか出来なかったけど。それを変えてくれたのが昇だ。例えどんなに怖くても、どんなに決意してても、最初の一歩を踏み出さない限り変わらない。

 その小さな勇気を教えてくれたから今のミリアがあるのかもしれない。どんな強敵だろうと怯むことなく踏み出す勇気。

 そしてその勇気の大事さを知っているからこそ、ミリアはシェードを許せないのかもしれない。シェードは例え雪心に嫌われようとも踏み出さなければいけなかったのかもしれない。雪心の決意を変える、最初の一歩を。

 そしてその勇気を持っている者と持っていない者のその差は確実に現れる。

 少しずつではあるがシェードは確実に押されていた。

 そして横から振り出すハルバードにシェードは堪えきれずに、ついにミリアに吹き飛ばされてしまった。そして壁に激突してヒビが入れて床に座り込む。

 どうだ! って言いたいけど、この程度であいつはねを上げないよね。なら、分からせるまでぶっ叩いてやる。

「うりゃあーーー!」

 追撃をかけるミリア。だが、シェードは立ち上がると振り下ろされてくるハルバードに拳をぶつける。

 力と力がぶつかり合ってそれは爆発を巻き起こした。ミリアも反対の壁まで吹き飛ばされてしまい。シェードも再び壁に激突することになる。

 いった〜い。まったく何て迎撃の仕方をするのよ。……けどなんでだろう、今のあいつには負ける気がしない。

 ミリアはすぐに立ち上がると、まだ爆煙渦巻く中のシェードに備えて構える。



 だがシェードは爆煙が渦巻く中で決意が揺るいでいた。

 俺は負けるわけには行かない。そう決めたはずなのに何故だろうな。こいつなら、ミリアなら負けてもいいような気がする。もしかたら雪心を助けてくれる気がする。……ふふっ、お笑い種だな、俺がこんなことを思うなんてな。

 だが、俺にもなさねばならぬことがある。可能性は限りなく無いかも知れないけど、雪心が信じた物を俺も信じねばならぬ。だから、雪心の願いが叶うまで負けるわけには行かない。

 あの時の雪心が心から願った想いを叶えるために、それが嘘だと分かっていても俺はもう二度とあの時の雪心を見たくは無いんだ。あの一人で泣いている雪心を、もう見たくは無い。俺はもう雪心を泣かせる訳には行かないんだ。

 そのためなら俺は命さえも賭けていい。

 シェードは全身に力を入れる。それはまるで縛り付けられている鎖を自力で解き放つように。そんな中でもシェードは雪心の事を思う。

 ……ふふっ、そういえばいつから雪心の事をこんなにも思う事になったんだろうな。やはり俺の存在と雪心の存在が似ていたからか、だから俺は雪心と契約したんだったな。

 俺も雪心も最初は似たようなものだった。だから、俺は雪心が信じた事を叶えてやりたい。その先に絶望が待っているのだとしても、俺は少しの望みを雪心に与えてやりたかった。だから俺はロードナイトになった。

 だが……なんだろうな。今のミリアを見てると何故か俺とは違うやり方で雪心を助けてくれそうな気がする。だから証明してくれ、俺の命を賭けた戦いに勝ったなら雪心を助けてやってくれ。

「ウルフモード」

 シェードの呟いたその言葉にシェードの篭手が消えるのと同時に全身が変化を始めだした。全身が毛に覆われて口が伸びて鋭い牙をむいて耳も頭の上に移動して大きくなっていく。人狼、そう呼ばれる姿がシェードの本当の姿だった。

 それは生物系の精霊にとっては最終形態で極限までの力を出すことが出来る。

 それほどまでにシェードが雪心を思う気持ちが強い。そしてその強さはミリアも変わることなく持っていた。

 そして爆煙が晴れると再び両者はぶつかり合うことになっていくだろう。







 そんな訳で、ロードナイト編も始まってから、もう二十話になりました。わー、パチパチ、………………はぁ、疲れた。

 いや、書いていることにではないですよ。いい加減に治らない風邪に対して言っているわけですよ。

 といいますかね。正直、この三十七話はもう少しうまく書けたかなと、思ってるわけですよ。それが、風邪が治らない所為か、いいところまでは行くんですけど、肝心な所でつまずく感じですかね。…………つーか、誰か何とかしてーーー!

 それじゃあ、そんな訳で。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、そろそろ健康な体が欲しいので、いっそのこと機械の体をくれるところに列車で行ってみようかと思い始めた葵夢幻でした。

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