第三十六話 合流
両手両足を凍らされて、昇は振り下ろされてくる金砕棒を目の前にして少しでも抵抗するために目をつぶり全身に力を入れる。
そして振り下ろされる金砕棒。
だが昇が感じたのは死ぬほどの痛みではなくぶつかり合う金属音だった。
ゆっくりと目を開ける昇。そこには見慣れた白い後姿があった。
「シエラ!」
「ごめん、遅くなった。そこから脱出できる?」
「うん、シエラはそいつの相手をしてて」
「分かった」
昇は凍っている両手両足に力を溜めるとその力を炎に転換させて放出させて完全に氷を溶かした。
つめた〜、これは完全に凍傷かな。でもこのままシエラだけに任せるわけには行かない。僕も戦わないと。
昇はゆっくりと立ち上がると再び二丁拳銃を手にする。
さ〜て、どうしようかな。……やっぱりここは、修行の成果を見せてやるか。
「シエラ、いくよ!」
冷峰と刃を交えながらも頷くシエラ。
シエラは一旦冷峰の武器を弾くと翼をはためかせて宙に舞い上がる
「フレイムシュート」
そこへすかさず昇が冷峰の横から炎の球を発射する。
「小賢しいですよ」
昇の炎の球を弾く冷峰、だがその時にはすぐそこまでシエラが迫っていた。
慌ててシエラの攻撃を受け止める冷峰。そしてシエラと冷峰は攻防を繰り返していたのだが、突然シエラが再び宙に舞い戻る。
「フォースバスター」
冷峰の後ろから昇の攻撃が来るのを見越しての撤退だったらしい。
だから冷峰はすでに眼前に迫っている昇の攻撃を避けるのは不可能だった。もう受け止めることしか出来ない。
そして冷峰は完全に昇の攻撃を受け止めた。
目で宙に舞うシエラに合図を送る昇。シエラは無言で頷くとウイングクレイモアの翼を大きく広げる。
「フルフェザーショット」
無数の羽の弾丸が一塊になって冷峰に放たれた。
「くっ」
さすがに前後からの攻撃に苦戦する冷峰だが、片方の腕をシエラの方へ向けるとシエラの攻撃に合わせて結界を張って攻撃を受け止めた。
「シエラ!」
昇は宙に舞うシエラに向かって叫び、シエラも頷く。
「せーの、いっけーーーっ!」
昇の合図に合わせて、シエラも全力を出す。
昇もシエラも今までの攻撃は冷峰の動きを止めるための物で、倒すために力を温存しておいたのだ。
それが昇の合図で両方からの攻撃が一気に出力を増す。
「ぐっ、ぐああっ」
さすがにこれには冷峰も防ぎきれないのか段々と押されていって。ついには両方の攻撃がぶつかり合い爆発を起こした。
やった……のかな。うわっ。
だが、まだ油断が出来ないと判断したシエラは爆発の直後に昇に向かって飛び、抱きつくように抱えると爆発した地点から距離を取って地面へと舞い降りる。
「倒したのかな?」
「まだ分からない。だから昇、油断しないで」
「うん、分かってるよ」
「でも、さっきの連携はかなりうまく行ってたから、相当のダメージを与えたはず」
「ははっ、あれだけ練習したからね」
昇の修行はシエラの提案により、昇はシエラと琴未との連携の修行もしていた。実戦で使うのは初めてだったのだが、シエラと昇は見事に連携を決めて見せた。
「それに、私が来る前に昇がかなりのダメージを与えていたから、相手も限界が近いはず」
「こっちも、結構喰らっちゃったけどね」
「初めての実戦にしては上出来」
「ははっ、そうかな。つつっ」
今までは戦闘の高揚感で忘れていた痛みが急に思い出したかのように、昇の全身に痛みを走らせる。
だー、忘れてた。そういえば僕もまともに攻撃を受けてたんだっけ。
「昇、大丈夫」
警戒を解かないままシエラは昇を心配する。
「大丈夫、まだ戦えるよ」
本当はあばらの一、二本折れているのかもしれないけど昇は気丈に振舞う。というか、シエラが精霊とはいえ女の子の前で弱音を吐くのは、さすがの昇も抵抗が有るらしい。
そんなさなか、土煙の中からゆっくりと冷峰が歩いてきた。
嘘! なんで。
「まさか私と昇の攻撃を喰らってあの程度なんて……そうか。昇、失敗したみたい」
「えっ?」
「あいつ、私達の攻撃を喰らう寸前に攻撃をずらした。だから、私と昇の攻撃は互いにぶつかり合い、あいつを巻き込むことなく爆発した」
「じゃあ……」
「そう、あいつは私達の攻撃をななめに受け流すことによって、ダメージを最小限に抑えた。思ってた以上にやるみたい。昇、よくあんな相手にあれだけのダメージを与えられたね」
いや、それは違う。
「あいつは僕と戦ってるときは本気を出してなかったんだ。僕が人間だから」
「なるほど、まさか昇があれほどやるとは思ってなかったんだ」
そうかもしれない。僕が人間だからあいつは油断していたんだ。だから僕はあれだけたたかうことが出来た。……今更ながら、改めて精霊の実力を実感すると自信をなくすかな〜。
それでも昇の戦う意思は消えはしなかった。いや、シエラがいる以上はこれ以上の醜態をさらすのが嫌だったのかもしれない。どちらにしても昇は自分が足手まといになることが嫌なのだ。
けど、あれでダメならどうしよう。……やっぱり、ここは前衛をシエラに任せて、僕は後衛に回るしかないか。
「シエラ、前は任せるから、僕は後ろから援護する」
「分かった」
フォーメーションを組む昇達を見て、冷峰は薄ら笑いを浮かべる。
「おや、まだ抵抗する気ですか」
「そっちのほうが酷い状況」
「ふふっ、そうかもしれませんね。ですが、あなた方に私を倒す手段はありませんよ。さっきの攻撃で分かったでしょ。私の本気がどの程度か。それともそれすら分からないほど頭が悪いのですか」
「確かにあなたの本気がどの程度か分かった。けど、私達が倒せない相手じゃない」
「言ってくれますね。あなた達二人にこれ以上の攻撃は出来ないんじゃないんですか」
確かに、さっきのシエラとの連携は僕たちが出来る中では最強の攻撃に値するけど、でも僕達もそれだけじゃない。
「さて、では見せてもらいましょう。あなた達の力が本気の私に通用するかどうかを」
「それじゃあ遠慮なく行かせてもらうわよ。雷光閃」
突然昇達の後ろから放たれた雷が冷峰を襲う。予想外の攻撃に冷峰の動きが一瞬遅れるが冷峰はギリギリ雷をかわした。
「ごめん昇、遅くなった」
「琴未!」
「くっ、新手ですか」
昇が振り返るとそこには琴未の姿があり。琴未はすぐに昇に駆け寄る。
「昇、大丈夫?」
「なんとかね。けど、まだ戦えるよ」
「そう、あんまり無理しないでね」
それで言うと琴未はシエラの横に並び、共に前衛に出る。
「琴未、閃華は?」
「下でワケの分からない装置をいじってる。っで、私には分からない物だから、私だけ先に来たってわけ」
「そう、とりあえず助かった。今は少しでも戦力が欲しかったから」
「なに、あいつそんなに強いの?」
「たぶんかなりやる。今まで昇が相手だったから見くびって手加減してたみたいだけど、私達が合流したから本気でくると思う」
そう、あいつは今度こそ本気で来る。でも、この戦いは僕が挑んだ物だから、出来れば僕の手で決着をつけたい。けど、実際にはシエラと琴未の力を借りないと僕にはあいつを倒すことは不可能だから、せめて止めだけは僕が刺す。
「シエラ、琴未、少しの間時間稼ぎして」
「昇、何か手でもあるの?」
「この戦い、僕が終止符を打ちたいから」
「分かった」
「任せて、充分時間を稼いで上げるからね」
「それとシエラ、僕が合図をしたらあいつの動きを止めて」
「分かった、やってみる。琴未、協力して」
「了解、シエラもミスんないでよ」
「琴未じゃないからそれは無い」
「……シエラ、あいつの相手をする前に一回殴っていい?」
「いや」
「というか私は今あなたをグーで殴りたいんだけど」
「他の人を殴っといて」
「それだと意味が無いじゃない」
「じゃあ諦めて」
「嫌よ」
「あの〜、出来れば目の前の戦いに集中して欲しいんですけど」
『分かってる!』
ううっ、なにも声を揃えてどならくてもいいじゃないか。
「しかたないわね。とりあえず行くわよ」
「分かってる」
「GO!」
琴未の合図にシエラは一気に宙に舞い上がり、琴未は冷峰へと突っ込んでいく。
冷峰はまず突っ込んできた琴未に向かって金砕棒を振り出し、琴未はそれを受け止めたのだが。
最初は何とか受け止めていた琴未だが、冷峰の力に敵わず吹き飛ばされてしまう。だがそこへすかさず飛び込むシエラ。
上から振り下ろされるウイングクレイモアを冷峰は両手で金砕棒を持ち、完全にシエラの攻撃を受け止めた。
そのままシエラはブーストを強めて押しにかかるが、冷峰にはびくともしなかった。
これ以上はやっても無駄と思ったシエラは一旦離れて宙へと舞い戻る。
そしてすかさず飛び込む琴未、冷峰は琴未に金砕棒を振るが琴未は反撃をせずに交わすことに専念した。
そして冷峰は大きく上に金砕棒を振り上げる。
そして振り下ろされた金砕棒は床をも砕くほどの威力だが、琴未には当たらなかった。何しろ琴未はこの時を待っていたからだ。琴未は金砕棒を紙一重でかわした後で金砕棒の上に乗っていた。
─新螺幻刀流 改 乗り刀─
そのまま金砕棒の上を走っていく琴未。だが冷峰は琴未ごと金砕棒を再び振り上げた。
冷峰は金砕棒を振り上げた勢いを使い、そのまま後ろへと飛び。琴未とシエラは冷峰よりも更に後ろで合流した。
「シエラ、そっちはどう?」
「ダメ、浅い」
「そう、こっちも浅かったわ」
シエラと琴未が話しているのは、お互いに冷峰に攻撃した結果だ。
琴未は金砕棒を振り上げられたときに、琴未は自ら跳んで一回転しながら冷峰の肩に斬り付けていた。そしてシエラは冷峰が金砕棒を振り上げるタイミングを見計らって、一気に高度を落として横から冷峰に斬りかかったのだが、それに気付いた冷峰は金砕棒を振り上げた勢いを使ってそのまま後ろに跳んでいた。
結果、シエラも冷峰の胸に浅い切り傷しか付けられなかった。
だが、これでシエラと琴未は確信した。
二人同時ならいける。
その頃、昇は黒い空間へと意識を沈めていた。
そこはいつもならエレメンタルアップを行うために、契約した精霊と思いを繋げる場所なのだが、昇は目の前に伸びてきている二本の糸を無視して自分の精神を落ち着かせていた。
この二本の糸、たぶんシエラと琴未だろうけど、あいつを倒したいというい思いが繋がっただけだから、エレメンタルアップをしても弱いはず。それに、この戦いは僕の手で決着をつけたい。だから、やってみるしかない。どれだけの力がでるのか分からないけど、今の僕はこれに賭けるしかないんだ。
昇は自分の胸に手を当てると精神を集中させて一気に力を送り込む。そして昇の意識は段々と現実へと浮上を始めた。
地震でも起きてるかのように床は振るえ、突風が吹きつけているかのように空気が震える。それほどの力が昇から溢れ出ていた。
「えっ、昇?」
「琴未、動きを止めない! 昇を信じて」
「あっ、う、うん」
シエラと琴未は攻撃を再開するが驚いているのはシエラと琴未だけではない。異常ともいえる力の放出に冷峰も充分驚いていた。
「なんですかこの力は、あの人間にこれだけの力があるとでも言うのですか」
冷峰ほどの精霊が目の前の真実を受けきれないほど、昇は異常は程の力が溢れ出ているのだ。
そして昇の意識は現実へと回帰する。
すごい、これがエレメンタルアップなんだ。注ぎ込んだ力を数十倍にしてくれる。僕の能力ってこんなにも凄かったんだ。
改めてエレメンタルアップの力に感心する昇。
そうか、だから発動条件もあんなにも難しいんだ。たぶん今の僕はエレメンタルアップの力を最大限した場合なんだ。
昇は自分の力を確認すると片方の銃を冷峰に向ける。
「シエラ、琴未、どいて!」
昇の言葉を合図にシエラと琴未は冷峰から距離を取るのを確認すると昇は引き金を引く。
な、なんだこれ。
発射された弾丸は、もはや弾丸ともいえないほどの砲撃というかレーザー光線のように力は発射されて、その威力には昇自身も驚くほどの力が込めらている。
先程までシエラと琴未を相手にしていた所為か冷峰は昇の攻撃を避けるだけの余裕は無かった。たぶん傷つくのを覚悟すれば避けられたのかもしれないが冷峰はそれでも受け止めることを選んだ。
そして金砕棒を構えた冷峰に昇の攻撃が激突する。
「なっ!」
そして冷峰は昇の攻撃を防ぐことも、その場に踏みとどまること出来ずに、玉座まで吹き飛ばされてしまった。
「シエラ!」
そこへすかさず昇は合図を出す。
「フェザーバインド!」
ウイングクレイモアを振ると十枚の羽が冷峰に向かって跳んでいく。
だが、冷峰はそれを避けようと飛び出そうとするが。
「じっとしてなさい!」
琴未の跳び蹴りが再び冷峰を玉座に座らせる。そして両手両足、そして首と各箇所、二枚ずつの羽が冷峰を縛る。
「シエラ、琴未、思いっきりやるからこっちまで戻って!」
二丁拳銃を冷峰に向けながら昇は叫ぶのと同時に力も溜めていく。
そして二丁拳銃の銃口の前に光球が生まれて昇は力任せに膨らませるのではなく、そのまま力を圧縮させていく。
こうすれば威力は倍以上になるはずだ。これで一気にあいつを倒す。
シエラと琴未が横に戻ってきたことを確認すると昇は一気に引き金を引く。
「ヘブンズブレイカーーー!」
発射されたのは極太レーザー、それが一気に冷峰向かっていき冷峰を飲み込むとそのまま壁まで突き抜けてロードキャッスルの外にまで飛び出した。
これで、どうだ!
自分へのエレメンタルアップを解いて一気に疲労感が襲う中で、昇は未だに土煙が立ち上る向こうを見詰める。
そんな訳でお送りした三十六話でしたが、それとは関係なくこんなメッセージを受け取りました。後書きにツッコミを入れいいのか迷った、とのことです。
つーか、構いませんよ。もう私の後書きに突っ込みいれたい場合は感想欄でも、メッセージでも、心の中でも好きなところに突っ込んでください。ただ、私に届けたい場合は突っ込むところの場所を書いてくださいね。例えば何話の後書きのここにこう突っ込むとか、そう書いてくれないと何の事か分からないので。
まあ、私の後書きに突っ込みたい時にはご自由に突っ込んどいてください。……というか、私の後書きってそんなに突っ込むところあるのかな? まあ、それはともかく。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、なんか最近調子が悪いなと思ったら、やっと自分が風邪をひいたことに気付いた葵夢幻でした。