第三十五話 昇の初陣
契約者の能力は幾つかに分類できる。
まずは放出型。これは力を自分が持っている属性に変化させて放出する、つまり属性攻撃が出来るタイプ。この放出型は性格の個性が強いと現れやすい、怒りっぽい奴は炎、クールな人は氷という感じだ。戦闘では主に前線を精霊に任せて後衛からの援助攻撃で使われることが多い。
次に強化型。これは自分自身の身体能力を上げることが出来る。だが何処まで強化できるかは本人が今まで努力してきたかによって決まることが多い。ちなみに琴未のエレメントは強化型の最強形態にあたる。その他にも足だけを強化するスピードタイプ、力だけを上げるパワータイプなどがある。
そして最後に特殊型。昇のエレメンタルアップや雪心の仮契約などが当てはまり特別な資質を持っている者に出ることが多い。例えば仮契約などは人望を多く人の上に立つ資質を持っている。つまり、多くの人を仕切ることが出来る人がこの能力を発揮しやすい。昔は名将と呼ばれる人がこの能力を持つことが多かった。
そして昇のエレメンタルアップ。これは義に対して強い心の持ち主が発揮することが多い。つまり、人を思いやり人の為に自分が努力できる資質を持っている者に現れるのだが、人間そこまでお人よしな資質を持っているものはかなり少なので凄くレアな能力になっている。
そして特殊型がレアで強いワケが、型にはまりすぎないことだ。放出型、強化型、共に使い道が限られているが、特殊型だけは使い方によってはかなりの応用が利く。
昇が今着用している武器や防具はすべてエレメンタルアップの応用、精霊が契約時に発揮する能力である実体化を自分の武器や防具を作り出すために使っている。
本来なら精霊の能力を上げるわけだが、逆に言えば精霊の能力を自由にコントロールできるとも言える。つまりエレメンタルアップは精霊の能力や属性をを全て持っているとも言える。
そして昇は精霊が契約時に発揮する能力と実体化を使えるようになったわけだ。そしてその実体化を自分自身の武器や防具にかければ武器や防具は実体化する。後は本人の努力しだいで何処まで使いこなせるかだ。
そして昇はそれら全てを理解した上でミリアを先に行かせて自分の戦いに望もうとしていた。
今までは機動ガーディアンだけだったから射撃重視のこの装備でいたけど、さすがにロードナイトになると近接戦闘も考慮しないとかな。
昇は精神を集中させると、その身を光が包み近接戦闘用の武器と防具をイメージして実体化させていく。
武器の二丁拳銃は変わらないが、コートの下にはあきらに武装した装備が見えていて袖口からは篭手のような物が見えている。
「ダガーモード」
昇がそう呟くと左手に持っていた拳銃が変化を始めて、銃口から伸びた力はグリップの下まで届いて銃をガードするように囲んでいる。
そして銃口からは赤く光る刃が生えた。
「おや?」
銃を構える昇の姿を見た冷峰は肩をすくめて見せる。
「まさか、人間風情が精霊に戦いを挑もうというのですか、精霊の援助もなしに」
「そのつもりだけど」
「なにか私と対等に戦える能力でもお持ちでも?」
「さあ、それはどうかな」
今手の内をさらすわけには行かない。僕の能力が知られれば相手は容赦なくかかってくるだろうな。今は警戒させながら隙を付かないと。
だが冷峰は不気味なほどの笑みを浮かべる。普段から目が細い所為か冷峰の笑みは、より不気味に見える。
「どちらにしても、あなたが甘いことは確かですよ」
「なにっ!」
昇が冷峰の言葉に驚いている間に一気に昇との距離を詰めていた。
慌てて横に飛ぶ昇。だが、精霊から見れば今の昇の動きはかなり遅い。そのため冷峰は一気に昇を間合いに入れることが出来た。そして振られる金砕棒。
昇はガードの付いている銃身で防ごうとするが、その衝撃は銃身を通り越して篭手まで貫くほどの衝撃を感じさせるもので昇は大きく吹き飛ばされてる。
だが昇は吹き飛ばされる寸前に後ろに跳おり半分は自分で吹き飛んだのだ。
そして昇の着地点を予想していた冷峰は容赦なく追撃をかける。
「氷列」
冷峰は床に金砕棒を突き立てると、そこから氷の針が突き出して地面を伝わり列をなして昇へと伸びていく。
地面を伝わってくる氷の針の列に銃を向ける昇。そして銃身に力を溜めると一気に引き金を引く。
「フレイムシュート!」
昇の銃から発射された炎の弾丸はバスケットボールぐらいの大きさになり、地面の氷を溶かしながら冷峰へと向かっていく。
だが冷峰は動じることなく、向かってくる炎の球のタイミングを計り、片手で金砕棒を振る。そして金砕棒が炎の球の芯を捉えて横へと弾き飛ばした。
「おや残念、これではファールですね」
いや、それはそうだけど……。
こんなときに、そんなのんきな事を言って来る冷峰が昇には妙に恐ろしかった。
なんなんだこの精霊。
「そういえば、エレメンタルアップには属性が関係ないのでしたね。すっかり忘れてましたよ。何しろ珍しい能力ですからね」
「なっ、何で僕の能力を!」
「おやおや、何を驚いているのですか。我々を侮ってもらっては困りますよ。あなた方も私達のことを調べたように、私達もあなた方の事を調べさせてもらいました。ただそれだけです」
しまった。確かに学校内なら結界が有るけど、それ以外は情報に関する防御は一切やっていない。だから調べようとすれば簡単に調べられたんだ。
自分の手の内を知られてしまったことに昇は萎縮してしまう。だがそれも無理は無い、何しろ相手は精霊で昇は人間なのだから。その戦闘能力の違いは嫌というほど昇は分かっている。
それでも昇はしっかりと顔を上げると冷峰をしっかりと見据える。
確かに情報戦では負けたかもしれない。けど、この戦いに負けたわけじゃない。僕がここに立っている以上はまだ僕は負けてない。
昇は冷峰に向かって走り始めた。
「愚かですね」
いや、違う。昇は自然と分かっているのだ。戦闘で一番大事なのは、例えどんな相手でも踏み出す最初の一歩の大事さが、その小さな勇気の尊さが昇には分かっていた。
「サンダーショット」
拳銃から飛び出したのは弾丸ではなく雷撃。
さすがに先程の一撃で接近戦がどれほど不利かを理解した昇は遠距離戦へと切り替えたのだ。しかも実体の無い雷撃を使って、確かにそれなら先程のように防ぐ事は出来ない。
だが冷峰は表情をまったく変えないで、ただ金砕棒を振り下ろて地面を叩くとそこから氷の柱が立ち上った。
そして雷撃が氷の柱に当たると双方とも消えてなくなってしまった。
「むっ」
そこを冷峰としては一気に昇との距離を詰めたかったのだが、昇の姿が見当たらない。
「上!」
冷峰が昇に気付いた時にはもう昇はエネルギーチャージが終わっていた。後は放つだけだ。
「どうして上に!」
冷峰は昇の移動方法に困惑しながらも上からの攻撃に備える。
「フォースバスター!」
いつの間にか二丁拳銃に戻っていた銃口から放たれたエネルギーは一つになり、一直線に冷峰に向かっていく。
これは力の塊だから放ち続ければ跳ね返すことは不可能なはずだ。
確かに冷峰は昇の放った攻撃を跳ね返すことが出来ない。それどころか、金砕棒を両手で支えないと防ぎきれないほどだ。
昇の放ち続けている力が少しずつ冷峰を押していく。
「いっけー!」
昇は一気に出力を上げて決めにかかる。
一気に出力が上がったことによって冷峰はこらえきれなくなったのか、金砕棒を弾かれて昇の攻撃が直撃する。
しっかりとした手ごたえを感じた昇は攻撃を止める。そして今まで攻撃の反動で宙に浮いていた昇は一気に地上へと着地する。
「あれだけの攻撃だったから無傷なわけないよな」
だが、それは完全な昇の油断だった。
昇がそのことに気付いた時には左の脇腹に冷峰の金砕棒が当たり、痛みを感じながら吹き飛ばされた時だった。
昇は地面を二回、三回とバウンドしてやっと止まった。
「ど、どうして?」
全身に痛みを感じながらも、昇はやっと顔を上げて冷峰の姿を確認した。
「嘘だろ、あれを耐えたのか」
確かにあれだけの攻撃だから冷峰も無傷ではすまなかった。その証拠に冷峰はかなりの傷を負っている。だが冷峰は昇の攻撃を耐え切ってすぐに反撃に出たのだ。
「まったく、驚きましたよ。まさか人間にこれだけの傷を負わされることになるとは」
「くっ」
「でも、詰めが甘かったようですね」
ゆっくりと歩いてくる冷峰、昇は全身の痛みに耐えながら、何とか立ち上がろうとする。
「おやおや、まだ戦う気ですか。そのまま寝ていれば楽に止めをさしてあげたのに」
「僕は、こんな所で負けるわけには行かない」
「そうですか。なら、充分苦痛を味わってから死になさい」
冷峰が一瞬にして昇の前に来て金砕棒を振り上げる。
昇は軽く横に飛ぶと二丁拳銃を発射してその反動で一気に移動する。先程冷峰の上に回ったのと同じように銃撃の反動を利用した。
だが冷峰はすぐに昇に追撃をかけてくる。
すでに金砕棒を振り出そうとしている冷峰に、昇は後ろに軽く飛ぶと冷峰に向かって、ありったけの力を打ち出した。
そいて冷峰の金砕棒は空を切り、昇は冷峰に攻撃をするのと同時に反動を使って冷峰と大きく距離を取った。
「その程度の攻撃が効くと思いますか」
だが昇の狙いは冷峰の攻撃をかわすことでダメージは期待していなかった。
このまま距離を取りたい昇だがそれを冷峰が許すはずも無く。すぐに冷峰は昇に向かって走り始めた。
「くっ、ダガーモード」
今度は両方とも近距離戦の武器に変えると昇は自ら冷峰に向かって突っ込んでいった。
「愚かですね」
タイミングを計って金砕棒を振るう冷峰。だが昇は銃口から生えている刃の先に力を溜めると一気に放ちその反動で金砕棒を避けるとこんどはこっちから斬りかかって行った。
確かに冷峰の金砕棒は長くて破壊力もあるが、昇の武器とは真逆であり一旦懐に入られるとすぐには対応できない。そう昇は判断した。
だからこそ、冷峰の攻撃をかわした後にすぐに懐に入る昇。
そして刃をクロスさせるように振るうが冷峰は後ろに飛びよける。これは昇の武器であるダガーの弱点だ。確かに懐にもぐりこめば相手よりも有利に立てるが、刃が短い分当てるのも困難である。
そのまま冷峰の懐に入り続けて攻撃を続ける昇。さすがにここまで接近されると金砕棒を自由に振るえない冷峰はしかたなく一旦昇から距離を取るために、金砕棒を足元に打ち付けると床が壊れて粉塵が巻き起こる。
そして一気に昇との距離を開ける冷峰だが、昇はその時を待っていた。
通常の二丁拳銃に戻すとすぐに昇は粉塵から脱出して銃口を冷峰に向ける。
「ツインフォースバスタ───!」
そして二丁拳銃から放たれた力は一直線に冷峰に向かっていく。
さすがにここまで早い反撃が来るとは思っていなかった冷峰は慌てて結界を張ると昇の攻撃をそのまま受け止める。
「ぐっ、直撃ですか。ですかこの程度……」
「このまま押し切らないと僕に勝ち目は無い」
そのまま力の拮抗が続くが冷峰は一気に反撃に出る
「私を、あまり舐めないでください!」
冷峰は結界を解くとすぐに金砕棒で昇の攻撃を受け止めてそのまま下に打ち下ろした。
重低音をあげて床に大穴が開く。
そして粉塵が巻き起こるが冷峰も昇も相手の様子を伺うだけで自ら動こうとはしなかった。
二人ともそれほど先程の攻防で体力を使ったようで、今は様子を見ながら息を整えている。
そんな中で昇は次の手を考える。
このままじゃ追い詰められる。なんとかこっちも手を打たないと。……ッ! まだ全身が痛いけど、動けなくは無い。けど僕にはこれ以上攻撃されると耐えられる自信は無い。なら、一気に決める。
「ダガーモード」
再び近距離戦の武器に変える昇。
そして粉塵が晴れると昇は冷峰に向かって走り出した。
「愚かですね」
冷峰は走ってくる昇に氷の槍を飛ばすが、昇はその攻撃をかすりはしたが直撃だけは避けながら走り続けて一気に冷峰の懐に飛び込む。
「無駄ですよ」
銃口を冷峰に向ける昇だが冷峰は手を差し出すと結界を張る。
だが、それこそが昇の狙い。銃口から生えた刃と結界が衝突する。
「まさか!」
昇の狙いに気付いた冷峰が一気に結界を強める。
「りゃあああーーーっ!」
だが昇はその結界を貫こうと、渾身の力を込めて銃を推し進める。
貫け、貫け、貫け、貫け、つらぬけーーーーーーっ!
そして刃は結界を貫いて半分ほどが結界の中に入った。
昇は刃の先に一気に力を溜めると、刃の先に力の光球生まれてそれが一つにまとまり一気に膨れ上がる。
「フォースブレイカー!」
光球は一気に収束されて砲撃となって冷峰を飲み込んでいく。
そして昇の攻撃は壁にまで至り爆発を起こす。
その反動で昇も大きく後ろに吹き飛ばされてしまった。けど、昇は確信の笑みを浮かべる。
ほとんどゼロ距離、これなら倒せたはずだ。
確かに冷峰の防御を抜いての全力攻撃、冷峰が昇の攻撃を受けたのは間違いない。昇は両手を床につけて何とか座って未だに土煙が立ち上っている方を見詰める。
これで倒せなかったらどうしよう。ははっ、さすがにそれだと、もう笑うしかないか。
土煙は未だに晴れない。それが先程の攻撃の威力を物語っていた。
でも、油断はまだ出来ないかな。シエラ達にも確実に敵を倒したのを確認するまで気を抜くな、って言われてるし。
立ち上がろうとした昇だが立ち上がることが出来ずに異変にこの時初めて気付いた。
あれ、なんで。……うわっ、手と足が凍ってる。
後ろを振りむく昇。そこには土煙から大きく迂回して地面を伝わってきた、氷の道が出来ていてそれが昇の下まで繋がっていた。そして昇の両手両足の自由を奪っている。
まさか!
昇がそう思った瞬間、一気に土煙が晴れて冷峰が姿を現す。
「人間風情が、よくもここまでやってくれましたね」
冷峰はかなりボロボロになっており、体の何箇所からは血が流れ出ている。
「だから、これ以上いたずらが出来ないように手足を縛らせてもらいましたよ」
「くっ」
この氷、破れなくは無いけどかなり時間がかかる。
「さあ、終わりにしましょうか」
一瞬にして冷峰は昇の前まで移動して金砕棒を振り上げる。
「契約者であるあなたが死ねば他の精霊も実体化は解かれる。つまり邪魔者はいなくなるわけです。さあ、あなたに死んでもらって全てを終わりにしましょう」
なにか、なにか手は無いか、この状況を逆転できる手は。
だが手足の自由を奪われている昇にはこの状況をどうする事も出来なかった。
そして振り下ろされる金砕棒。
昇の目には振り下ろされてくる金砕棒がゆっくりと動いているように見える。
ああ、覚悟を決めろって事かな。ごめん、みんな。
昇は目をつぶりって謝りながらその時を待っていた。金砕棒が振り下ろされる、その時を。
難しいわボケ! おかげでかなりシーンの修正になってしまったじゃねえか、責任者出て来い責任者。……というか私なんですけどね。
……はい、いきなり愚痴から入った三十五話の後書きですが、この話を書くのにかなり苦労しました。
なにしろ昇自身が戦うのは初めてだし、しかも武器が二兆拳銃と重火器を使った戦いですから、どう近距離の武器と戦えばいいのか、かなり困りました。というか、自分で設定しておいて何言ってるんだ、とか思わないでくださいね。まさか、私もここまで難しいとは思いませんでした。
でもでも、初めての昇の戦いです。それなりに相手の手を読み取る頭脳戦を中心に書いたつもりでしたが、こんな形になりました。
まあ、今の私の力量がこんなもんだと思って、見捨てないでください。
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ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、もうちょっと昇のかっこいい所を書きたかったなと思った葵夢幻でした。