第三十三話 貫く意志
閃華を相手にしていたスクラウドは焦っていた。
だがそれもしかたないだろう、なにしろ今まで一度も閃華に攻撃が届いてはいないうえに、閃華はスクラウドの攻撃を楽々と捌いているからだ。
「テメー、さっきから涼しい顔しやがって、少しはちゃんとやれ!」
「何を言っておる。ちゃんとお主の相手をしておるではないか」
「だったらさっきからよけてばかりじゃなくて、反撃したらどうだコラ!」
「ふむ、そうじゃのう。先程まで少し気になる事があってのう。それも終わった事じゃし反撃に出るとしようかのう」
どうやら閃華は琴未の事まで気にかけていたようだ。
ふむ、琴未は何とかあのロードナイトを倒したようじゃのう。途中ドキドキじゃったが、まあ、結果としてはこんなもんじゃろ。エレメンタルアップもそんなに長時間使っておらんかったから昇の負担も少ないはずじゃ。なにしろ昇は力の容量だけは巨大じゃからのう。
そんな事を考えながら、閃華はスクラウドの攻撃を捌いているのだから凄いとしか言いようが無い。
さて、こっちもあまり時間をかけてはいかんからのう、そろそろ決めるか。
今まで防戦一方だった閃華が一気に攻勢へと出る。
スクラウドの爪を両方弾くと、方天戟の柄でスクラウドを吹き飛ばして壁に激突させてその衝撃を示すように壁がへこみヒビ割れる。
では一気に決めさせてもらうぞ。
閃華は龍水方天戟を構えると一気に力を放出する。
「龍神激」
龍水方天戟に巻き付いていた水の龍が離れると、そのまま大きくなっていきかなりの巨体となる。
そして閃華が方天戟を横に差し出すと、水の龍は一気にスクラウドに迫る。
先程の奇襲で思っていたよりダメージを負っていたスクラウドは迫り来る水の龍から逃れようと跳ぶのだが、龍は正確にスクラウドの後追ってそして大きく口を開けると噛み付いた。
完全にスクラウドを捕らえた龍はそのまま部屋の壁に向かって進み激突した。後はスクラウドを壁に擦りつけながら部屋の壁に沿って進んでいく。
そして部屋を一周した龍は壁から離れると今度は閃華の元へと飛んでいく。閃華が横に構えていく方天戟の矛先を目指して。
そしてスクラウドを方天戟に突き刺して水の龍は閃華を通り抜けて再び方天戟に巻き付いた。
「ぐはっ」
完全に串刺しになったスクラウドが血を吐くがそれでも笑みを絶やさずにいる。
「テメー、本気で戦ってなかったのかよ」
「そんなことはないぞ、ある程度は本気で戦っていたんじゃがな」
「けっ、本気で戦ってる奴が他の事を気にするかよ」
「なんじゃ、気付いておったのか」
「こっちとら、戦いの申し子だからな、舐められた戦いは興がうせるんだよ」
「ならば、やられた方がましというわけか?」
「違わ、勝てるんなら勝ってたんだよ」
「ならお主の目は節穴ということじゃな。相手の戦力も計れん用では役に立たん」
「けっ、うまく自分の力を隠してた奴が言う言葉かよ」
「まあ、どちらにしてもお主はこれで終わりじゃ」
「そうみたいだな。けっ、最後につまんねえ戦いをやっちまったもんだぜ。どうせなら、もっと楽しみたかったんだがな」
「今のお主では私の足元にも及ばんよ」
「そうみたいだな。まあいい、今回はこれで消えてやる。次ぎ会った時は覚えてろよ」
そしてスクラウドは光の粒子になり、天へと登って行き、その姿が完全に消えた。
「まあ、次があるとは思わんがのう」
閃華は龍水方天戟を肩に掛けるとそのまま琴未の元へ向かっていった。
「それにしても、随分とやられたものじゃのう」
「悪かったわね。どうせ私は修行不足ですよ」
「くっくっくっ、そうひねくれるでない琴未。とりあえず、与凪はおるか」
閃華の問いかけに与凪を映し出したモニターが出現する。
「はいはい、なんですか?」
「与凪、そこからでも琴未の治療は出来るか?」
「ああ、そのことですか。それなら今やってますよ。とりあえず、傷はあまり深くないので応急処置と精霊武具の修復を今やってます」
「そうか、では琴未の怪我が治り次第、奥に向かおうとするかのう」
「そうですね。とりあえず、お二人が戦闘中に辺りを探索してみたんですけど、そこの奥の扉から精霊王の力が強く反応してるんですよ」
「ということは、この奥に目的の物があるわけじゃな」
「たぶんですけど……」
「じゃあ、行くわよ」
「琴未、大丈夫なの!」
「これくらい平気よ。こう見えても結構鍛えられてるんだから」
「ふむ、とりあえず与凪辺りに精霊反応はあるか?」
「えっ、ちょっと待って下さい。……ありませんね」
「では行くとするかのう」
「大丈夫なんですか、閃華さん」
「なに、琴未が大丈夫と言っておるんじゃから大丈夫じゃろ」
「いや、そういう問題じゃないと思うのですけど」
結局、琴未と閃華の二人は奥の道へと進んでいった。
「うわっ、なにこれ」
琴未と閃華は進んだ道の奥の奥にある部屋に辿り着いた。
そこにはあまり照明は無くて少し暗いが、それ以上に光り輝く筒状の物が上に向かって伸びており、その下にはワケの分からない装置みたいな物がある。
「ふむ、どうやらこれがそうみたいじゃな」
「っていうか閃華、結局これはなんなの?」
「これが精霊王の力を強制的に移動させて、溜め込んでいる装置じゃ」
「じゃあ、これをぶっ壊せばいいんだね」
「ちょっと琴未、そんなことをしたら大惨事になるわよ!」
刀を構えた琴未に与凪は慌てて止めに入った。
「大惨事って、なんでよ」
「あのね、その中にあるのは、仮にも精霊王の力なのよ。そんなものをこんな場所で爆発させたら、そのロードキャッスルどころか、この町全体が吹き飛んじゃうわよ」
「えっ、そうなの!」
その言葉に驚く琴未だが閃華は与凪に向けて呆れた視線を送っていた。
与凪、精霊王は精霊の生みの親、つまり私達の親でもあるんじゃぞ。それをそんなもの呼ばわりするのはどうかと思うんじゃが。
だが与凪はそんな閃華の眼差しに気付くことなく、装置の解析に移っていた。
「……うわ〜、凄いわこれ、かなり強引な術式を組み立ててるわ」
「っで、与凪、私達はどうすればいいの」
「とりあえず、私の指示通りに回線を切ったり、基板を壊したりして。まあ、爆弾を解体するような物だから慎重にね」
「うっ、痛い、さっきやられた傷が痛い」
琴未、あまり見え見えな芝居はやらんでくれ、見ているこっちが虚しくなってくるからのう。
「そうじゃのう、とりあえずこれの解体は私がやるから琴未は休んでおれ」
「ありがとう閃華」
「それと与凪、あれを琴未に渡してくれ」
「はいはい」
「あれって何?」
琴未が問いかけている間に、座り込んでいる琴未の膝に魔法陣が現れると光り輝き弁当箱が突如現れる。
「……お弁当?」
「うむ、腹が減っては戦は出来んじゃろ。それにそろそろ昼時じゃ」
「うわっ、もうそんな時間なんだ。というか閃華の分は?」
「私達精霊は人間とは違うからのう。二三日何も食わんでも全力で戦えるんじゃよ」
「へぇ〜、そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えていただきます」
弁当にがっつく琴未を無視して閃華は装置と向き合う。
やれやれ、これまた随分な物を作ってくれた物じゃのう。完全に解体するには時間がかかりそうじゃのう。ふむ、じゃが私達には時間が無いのは確かじゃ。解体は諦めて機能だけを停止させるかのう。
「与凪」
「なんですか、閃華さん」
「とりあえず、こいつを完全に解体するには時間がかかりすぎるじゃろ」
「そうですね。確かにそんなことをすれば二、三日かかりますね」
「じゃから、こいつが完全に機能できないようにするのが一番じゃからのう。与凪、こいつの完全停止を調べてくれ、出来れば二度と使えないようにな」
「分かりました。やってみますね」
「うむ、頼んだぞ」
じゃが、こいつを停止させてもポットには精霊王の力がある程度溜まっておる。それが後で裏目に出なければいいんじゃがのう。
そんな閃華の心配をよそに装置の解析は進んでいく。
その頃、別の場所ではシエラとマルドの戦闘が行われていた。
この感じ、さっき琴未がエレメンタルアップを使ったみたいね。けど私は使う訳には行かない。昇も戦っている以上は負担を掛け過ぎると大事なときにエレメンタルアップが使えなくなる。だから、こいつだけは私の力だけで倒す。
マルドのバトルアクスをシエラはクレイモアで受け止める。精霊同士が武器の重さはあまり関係ないかのように、シエラの細い腕がマルドの豪腕から繰り出されるバトルアクスを受け止める。
だが精霊にも体格差というものがあるのだろう。マルドは力任せにバトルアクスを振り抜き、シエラを吹き飛ばすのだがシエラのウイングクレイモアが空中でシエラの体勢を立て直させる。
やっぱり力勝負だと勝ち目は無い、なんとかスピードでかく乱したい所だけど、あの精霊武具がやっかい。
そう、マルドはシエラがスピードタイプだと判断すると、スモークバトルアクスから見えないほどの薄い雲を出してその雲の粒子一つ一つを感じていた。つまりこの部屋全体に見えないほどの薄い雲がかかっており、それがマルドのレーダーになっている。
換気でも出来ればいいんだけど、さすがにこんな城の一角じゃ無理。やっぱり相手が反応出来ないほどのスピードを出さないと。
考えがまとまったシエラは一気に行動に出る。
「フルブースト」
ウイングクレイモアの翼が光の粒子を放つほどの力を出すと、シエラは初動からハイスピードでマルドの後ろに回りこむ。
普通ならシエラが消えたように見えて、反応できないだろう。
だが、シエラが攻撃に移る瞬間にマルドのバトルアクスが横から迫ってきた。
正確には見切ったのではなくマルドは感じたのだ。この部屋全てがマルドの感覚といっていいほど、マルドの放った雲のレーダーは俊敏で正確なのだ。
シエラは攻撃を中断して防御体勢を取るが、明らかに力負けしているマルドの一撃を受けきれずに後ろに吹き飛んでいった。だが、半分は自ら後ろに飛んだのだからダメージは受けていない。
だが、吹き飛ばされては隙が出来るのも事実でマルドもその隙を見逃すはずが無かった。
シエラが吹き飛んでいった方向へ走り出すマルド。シエラもすでにマルドの追撃を確認している。
シエラはウイングクレイモアの翼を羽ばたかせて宙へと舞い上がろうとするが、途中で止まってしまった。
「なっ!」
マルドはバトルアクスを振り回すのではなく、腕を伸ばして宙に舞い上がろうとするシエラの足を掴んだのだ。
そしてマルドはシエラの足を掴んだまま一回転、シエラもなすすべも無く遠心力に身を裂かれそうな気になるが、マルドが掴んだ足を離してシエラはまったく体勢を立て直すことが出来ずに壁に激突する。
「ぐっ」
さすがにマルドの力に遠心力が加わってはシエラもかなりのダメージを受けたようだ。その証拠にシエラは壁にめり込み、壁は衝撃でクレーターのようにへこんでひび割れている。もう少し強ければ突き抜けていただろう。
シエラは壁からずり落ちいきそのまま倒れこんでしまった。
誤算だった。まさかここまで強いとは思ってなかった。けど、エレメンタルアップを使えば倒せない相手じゃない。でも、それは出来ない。昇にこれ以上負担をかけるわけには行かない。じゃあ、どうすればいい。
シエラは顔を上げ、ゆっくりよろけながら立ち上がろうとする。だが、マルドは追撃をかけることなく、シエラが立ち上がるのを待っているようだ。
ロードナイトにも紳士的な精霊がいるみたい、それとも騎士的かな、どちらにしても今の私ではあいつに勝つことが出来ない。けど、エレメンタルアップも使えない。……もう、あれしかないか。
シエラは立ち上がるとウイングクレイモアを構える。
昇の修行で強くなったのは昇だけじゃない。私もちゃんと成長したはず、だから、今ならこれが使えるかもしれない。
シエラはよろけるが、何とか足を踏ん張り、力を集中させていく。そんなシエラの姿にマルドは口を開いた。
「降伏すれば、これ以上の攻撃はしない」
どうやら降伏勧告のようだが、シエラは笑ってそれを拒絶する。
「冗談、そんなことできるわけない。今ここであなたを倒さないと昇達を追えない。そして雪心も救えない。だから、絶対に負けるわけには行かない」
「そうか……」
そのシエラの言葉にマルドは顔が少し俯き、シエラはその行動が何を意味しているのかはっきりと分かった。
「あなた、サファドがやろうとしてることを知ってる。それでも戦うの」
「俺は一度は主に忠誠を誓った。例えサファドがどんなことをしてようとも、騎士の名にかけて忠誠を裏切ることは出来ない」
「そう。でも、それは本当の忠誠ではない。本当の忠誠は例え自分の身がどうなろうとも、主の間違いを正す者。それが真の忠義」
「それも忠誠の一つかもしれん。だが、私は私の忠誠を貫くだけだ」
「不器用な生き方」
「そういう生き方しかできん」
「なら、私も私が信じた物を貫くだけ」
昇、エレメンタルアップはやらなくてもいい。だけど力だけは貸して、あいつを倒せるだけの力を私に貸して。私が信じた昇の意思を貫くために。
昇、私は昇の傍に居られるなら、本当はそれだけでよかった。本当はエレメンタルロードテナーにならなくても、私は昇の傍に居られるだけで充分だった。けど、昇が戦うと決めた以上は私も全力で戦う。
それは忠義なんかじゃない。私が信じるたった一つのもの。だから私はその信じたものを貫くだけ。
だから全力であいつを倒して昇の元へ行く!
シエラはありったけの力をウイングクレイモアに注ぎこむと空気が震えだし、その余波はその部屋全体に広がり自身のように空気と部屋が震えだしている。それほどウイングクレイモアが発している力が強いようだ。
そしてシエラがそれだけの力を発する意味をマルドはしっかりと分かっていた。この戦いに決着をつけようとしている事を。
そんな訳でお送りした三十三話なんですが、……閃華強すぎ! というか作者の私が言うなよ。まあ、そんな感じの話になってます。はい、そこの方、どんな感じの話なんだよって突っ込んでもいいですよ。まあ、実際に突っ込まれても困るんですけど。
といいますか、物語を重箱の隅を叩くように読むもんじゃない。物語の雰囲気を楽しみ、想像力で補うもんなんだ。はい、そこの方、じゃあ、それだけの物を書けよって突っ込んでもいいですよ。まあ、私は土下座するだけですけど。
ではいつものいきますね。
ではではここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に感想評価もお待ちしております。
以上、本当に私の後書きは自由でフリーダムだなと思った葵夢幻でした。