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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
ロードナイト編
32/166

第三十二話 琴未の意地

 琴未と羽室の刃が交わって二人はそのまま拮抗状態になる。

「はん、人間のお嬢ちゃんにしてはやるようになったじゃないかい」

「そう思うんだったら、さっさと本気を出しなさい!」

 琴未は刀に力を溜めるとそのまま雷閃刀が雷の塊となり放電する。さすがの羽室のじかに電撃を喰らうのには耐えられないのか刀を弾き大きく後退する。

 ただ雷を放つだけじゃ効かないけど刀を通りしての電撃なら効くみたいね。そうと決まればやってみたいことがあるのよね。

 琴未は刀を脇に構えると羽室に向かって疾走して行き、羽室の間合いに入る前に大きく前方へと跳ぶ。


 ─新螺幻刀流 改 飛翔乱舞─


 空中で羽室と刃を交えた琴未は雷撃だけを羽室に与えて、自分は跳んだ勢いを殺さないように羽室の後ろに着地する。そしてすぐにまた羽室に向かって大きく跳ぶ。

 この飛翔乱舞は本来なら相手を斬り付けながら飛び回る技なんだけど、今の私にはあいつを斬り付ける事は無理だから雷撃だけでも与えられれば、それが蓄積されていくはず。

 たしかに琴未の攻撃は羽室には通っていないが、確実に電撃のダメージだけは与えていた。

「このっ、ちょろちょろとうっとおしい!」

 羽室は琴未の攻撃に合わせて電撃を喰らいながらもそのまま力ずくで振り抜き、琴未を吹き飛ばした。

 だが琴未は先程まで空中にいた時間が長かった所為か、吹き飛んだまま体をひねりって見事に着地する。

 ここで攻撃を緩めちゃ意味が無い。攻めて行かないと。

 琴未はすぐに走り出して羽室の間合いに入っていく。それでは格好の的なのだが琴未は振り下ろされる刀を待っていたのだ。


 ─新螺幻刀流 乗り刀返し斬り─


 琴未は振り下ろされた太刀を紙一重で交わすと、振り下ろされた太刀の峰に足を乗せてさらに体重をかけると、羽室の太刀を地面へと食い込ませる。そして琴未自身も太刀にかけた足を曲げると、一気に真上へと跳んで刀を振り下ろす。

 だが羽室はもう一方の太刀で琴未の攻撃を防ぐが、琴未はそのまま刀を滑らせて一度地面に着地した後にすぐ刀を返して切り上げる。

 羽室もすぐに太刀を横に構えて琴未の攻撃を防ごうとするが、一方の刀は地面に刺さり封印され、もう一方は先程の攻撃を防いだばかりか利き腕ではない。

 そのため、一度地面に着地したことで力を溜めることが出来た琴未の攻撃を防ぎきれずに、飛び上がった琴未の刀は羽室の太刀を弾いて羽室の右肩に切り傷をつける。

 よし、じゃないか、この程度じゃあいつは本気を出さないかもね。だからもう少し、攻め続ける。

 琴未はいったん距離を取っている間に、羽室は地面に突き刺さっている太刀を引き抜くと再び構える。

 そして羽室が構える直前には琴未はもう走り出していた。そして、羽室が構えるのと同時に琴未の間合いにも入った。


 ─新螺幻刀流 嵐崩し─


 琴未は羽室が間合いに入ると一回転して勢いをつけて、片方の太刀を上に弾いてまた一回転して残ってる太刀をカチ上げる。そうなると羽室の前面はがら空きだ。そこにすかさず琴未は攻撃を仕掛ける。


 ─新螺幻刀流 二乃太刀無用─


 踏み出した右足を軸に琴未は刀を大きく振り上げて全ての力を初太刀に込める。そしてその攻撃は羽室の胸を切り裂いて鮮血が噴出した。

 そして琴未は大きく退いて相手の様子を見る。

 さっきの技は一撃必殺の剣。これで仕留められたとは思わないけど、これであいつも本気になるはずだわ。そしてもらわないとこっちにもプライドってものがあるのよ。

 じっちゃんから授かった新螺幻刀流、その名にかけて手加減している相手に勝っても名が汚れるだけなのよ。だから本気のあいつをぶちのめしてやるわ。

 それは武士の意地とまでは言わないが、武道をしている者として手加減してもらっている相手に勝っても嬉しくは無い、逆に悔しいだけだ。琴未にもそれだけの意地があり、本気の羽室を相手にしても勝てる手も持っていた。

 実際に出来るかどうか分からないけど、それに昇にも負担をかけたくないけど、ここはしょうがないのよ。昇、ごめん、ちょっとだけ力を貸して。

「くっくっくっ、随分とやってくれたね、人間のお嬢ちゃんさ〜。これだけやられたんじゃ、こっちもそれ相応に返してやらないといけないようさね」

「どうやら、やっと本気になったみたいね。あんたに手加減されてると無性にムカツクのよ」

「そうかい、お嬢ちゃんは本気のあたいを見たかったのかい。じゃあ見せてあげるよ、あたいの本気の力って言う物をさ」

 一瞬にして羽室は琴未の後ろに回る。なんとか殺気で羽室の気配を感じることが出来た琴未は、前に転がるようにして羽室の攻撃を避けようとしたが、背中には痛みが走ってたすきが切れると共に血が白衣を染めていく、

 くっ、やっぱり今の私じゃ無理か。ごめん昇、力を貸して。



 その頃、昇は広い通路の中でミリアと共に機動ガーディアン達を相手にしていた。

 そして突然琴未を感じる。まるで傍にいるかのように琴未がそこにいるように感じる昇は、そのまま琴未の思いを受け止めようとする。

「ミリア、ごめん、ほんの少し時間を稼いで」

「えっ、何かあったの?」

「うん、琴未がピンチみたい」

「分かったよ。その間は昇には敵を近づけさせないから」

「頼んだよ、ミリア」

 昇は一瞬にして黒い空間へと沈んでいく。これも修行の成果なのだろう。そして琴未から伸ばされてきた糸を掴むと同時に意識が現実へと戻る。

「エレメンタルアップ!」

 昇の叫びが廊下に響き渡る。まるでその声が琴未に届くかのように。



 そして琴未は沸きだしてくる力を抑えることなく羽室の動きを見切っていた。

「なっ、なんでいきなりあたいの動きについてこれるんだ!」

 琴未がエレメンタルアップで見切りの力も上がっていることには気付いていない羽室は驚くばかりであるが、琴未は本気で攻めてくる羽室の攻撃をかわし、隙を付いて吹き飛ばした後で一気に勝負に出る。

 昇に長時間エレメンタルアップを使わせるわけには行かないわね。時間が長くなるほど昇の負担は大きいから。だから、この一撃で勝負を決める。

 琴未は大きく腰を落とすと脇よりも後ろに構えて、刀の剣先を地面に少し突き刺す。

 今の私に出来るかどうか分からないけど、これしかあいつを倒す方法が見つからないのよね。だから、全てをこれにかける。じっちゃんもお願い、私に力を貸して。

 その様子を見た羽室も覚悟を決める。お互い刃を交えた者同士、決着の時が分かるものなのだ。

 そして羽室は二陣乃太刀を構えると、そのまま二人は硬直状態に入る。

 これが先に動いた方が負けるってやつかい。面白い、なら、先に行ってやろうじゃないか。

 これが戦闘狂のサガなのだろう。例え負ける可能性があるとしても戦いをやめることは出来ない。むしろそれでも勝ちに行く物だ。なにしろ負け戦を勝ち戦にひっくり返すのが最高に楽しいからである。

 先程の琴未の動きを見て羽室はもう容赦などはしない。全ての力を使って目の前の敵を倒すだけだ。

 そして羽室は第一歩を踏み出す。

 先程までの琴未なら羽室の動きには付いて来れなかっただろうが、今の琴未は羽室の動きをしっかりと捉えていた。

 真正面から勝負する気ね。これが閃華の言ってた戦闘狂のサガなのかしら。でも、私にとっては好都合。なにしろ今まで成功したこともないし、横から来られて確実に当てられる自信も無い。けど、真正面なら……行ける!

 そして琴未は羽室の間合いに入って羽室は両方の刀を大きく振り上げる。それと同時に琴未も右足を力強く一歩踏み出す。


 ─新螺幻刀流 奥義 地・脈・抜・刀─


 そして二人は刃を交えて羽室は突っ込んでいった勢いのまま、琴未を通り越してから止まった。

 琴未は刀を振りぬいたまま止まり、羽室は方膝を付いた状態で両手を地面につけながら止まっている。

 そしてその二人の間に、切り裂かれた刃が二本、今まで宙に舞っていたのが地面へと突き刺さる。

「ふっ、ふふっ、あっーはっはっはっはっ───!」

 突然笑い出す羽室。そしてゆっくり立ち上がると琴未の方へと向く。

 羽室の胸には横一線に切られており、そこから出ているのは血ではなく、白い粒子のような物が天に向かっていく。

「まさか人間のお嬢ちゃんがここまでやるとは思ってなかったさ。けど、まあ、楽しかったよ。出来ることなら、また今度やりたいくらいだね」

 今まで固まっていた琴未だが少しずつ動くと羽室と対等に向き合う。

「私はごめんだわ。もう二度とあんたに合いたくないのよね」

「なあなあ、そいつはちょっとつれないないかい」

「今の私は昇の力を借りてやっとあなたを倒すことが出来たのよね。だから、もし、またあんたとやる時には私の力だけで倒してあげるわよ」

「口の減らないお嬢ちゃんだね。まあ、だから楽しかったんだけどさ」

「……あんた、これからどうなるの?」

「おや、一応心配してくれるのかい。大丈夫さ、私達精霊は特に私は仮契約って言う能力で実体化してるからね。だから、このまま元に戻るだけさ。元の刀の精霊の姿にね」

「そう……」

「……そういやお嬢ちゃん、まだ名前聞いてなかったね」

「琴未、武久琴未」

「琴未か、いい名だね。じゃあ、もう時間みたいだから、あたいはいくよ」

「そう、元気でねって言うのも変ね」

「そうさね。まあ、あんたはやるべき事があるんだろ。今はそいつに集中すればいいだけさ」

「そうね、ありがとう、羽室」

「別に礼を言われることじゃないさ。じゃあもし、今度会ったら最初から本気でやらせてもらうさ」

「だから私はあなたに二度と会いたくないわ」

「ふふっ、最後までつれないね」

 その言葉を最後に羽室はすべて白い粒子に変わり、天へと登っていった。

 というか、わざわざ天に昇っていくのは演出なのかしら。けどまあ、何とか勝った───! 

 琴未はそのまま床へと座り込む。

 はぁ、さすがに昇の力を借りないとやばかったわ。でも、そのおかげで今まで一度も成功したことが無い奥義を完璧に放つことが出来たのよね。まあ、結果オーライかな。

 琴未は改めて先程まで刀の剣先が刺さっていた地面に手を触れる。

 アツッ、うわっ、地面がこんなにも摩擦で熱くなるなんて、さすがに奥義ね。さすが抜刀術の最終形態。

 新螺幻刀流の奥義は抜刀術の進化系で本来の抜刀術は刀を抜くときの摩擦で力を溜めて一気に振りぬくものだが、奥義の地脈抜刀は剣先を地面に食い込ませることで、より強く力を溜てその振りぬく速度と切れ味が抜群に上がるのだ。

 したがって先程の勝負は羽室が両方の刀を振り下ろした瞬間に、溜め込んでいた力を一気に解放して地面から飛び出した刀のスピードは並みの物ではなく、そのスピードと雷閃刀の切れ味、そして奥義を使いこなした琴未の技量により、羽室を太刀ごと切り裂いた。

 結果、完全に太刀を切り裂かれた羽室は攻撃を出来るはずは無く。琴未に斬られて突っ込んでいった勢いをでそのまま琴未の横を通り過ぎていった。

 そして両者は一瞬だが完全に出せるだけの力を出したのだから、その場を動くことが出来ずに固まっていたというわけだ。

 あっ、そうだ、エレメンタルアップも解除しとかないと。

 琴未は今まで昇と繋がっていた物を離して沸きだしてくる力が消え去った。そしてエレメンタルアップの副作用なのか、疲労感が一気に襲ってきて琴未は仰向けに大の字なって倒れこむ。

 はぁ、疲れた。でもよかったわ、これでロードナイトが一人減ったわけだし。後ちょっと休憩したら閃華の応援に行かないとね。

「閃華は大丈夫かな?」

「閃華さんなら大丈夫ですよ」

「うわっ、与凪、いきなり現れないでよ、びっくりするじゃない」

「そういう言い方は酷いと思うよ、琴未。私はせっかく閃華さんの言付けを聞かせてあげようと思ったのに」

「えっ、閃華、何か行ってたの?」

「なんか琴未に傷つけられたから、このまま回線切っちゃっていい」

「与凪! 私はさっきの戦いで疲れてるの、あまり怒らせないで」

「はいはい、分かりましたよ。閃華さんが言うには、琴未の増援はいらないそうです。だから琴未はしっかりと休憩をしていろって言ってました」

「要するに、私は閃華の増援に行かなくてもいいってこと」

「というか、足手まといなんじゃない」

「与凪、相手が閃華だとシャレにならないからそういうこと言わないで」

「まあ、確かに閃華さん強そうだし、琴未の増援が無くてもロードナイトを倒せそうよ」

「でしょうね」

「でしょうねって、琴未分かってたの?」

「そりゃあもう、私も毎日の様に閃華に鍛えられてた時があったからね。その時に閃華の強さは嫌って程、見せ付けられたわよ」

「じゃあ、閃華さんは琴未のお師匠様でもあるんだ」

「まあ、一応、そうなるのかな」

「でも、本当に大丈夫なのかな、閃華さん一人で」

「閃華が一人でいいって言ってるなら、一人で大丈夫でしょ」

「そうなの?」

「そうよ」

「ふ〜ん、ずいぶんと閃華さんの事を信用してるのね」

「まあ、閃華の最初の契約者は私だからね。だから閃華との付き合いも、私が一番長いわけよ」

「って、琴未も契約者だったの」

「そうじゃないと特殊能力が使えないでしょ」

「あっ、そっか。でも、なんで滝下君とも契約をしたの」

「それは閃華が……」

 琴未の顔が赤くなり、思わず与凪が移っているモニターから顔をそらした。そして与凪はそんなあからさまな態度を取られると、ついやりたくなるものなのだろう。

「琴未、あんた今、何思い出してるの?」

「べっ、別に何も思い出してないわよ!」

「おうおう、ムキになるところが、また怪しいですな」

「うるさい、うるさい、うるさい、もうなんだっていいでしょ」

「はいはい、分かりましたよ。あっ、ところで、何で琴未は閃華さんと契約をしたの?」

「いや──────っ! そのことだけは聞かないで、私の、私の初めてが───っ! いやーっ、いやっ、いや──────────────っ!」

「ちょ、琴未、どうしたの琴未?」

 のた打ち回る琴未に、さすがの与凪も混乱を隠せないようで必死に琴未を静めようとしている。

 そして、その叫び声はとなりの部屋にいる閃華に耳にもきっちりと届いていた。



 やれやれ、またなにか出たようじゃな。じゃが、あの様子だと相手のロードナイトを倒したみたいじゃのう。まあ、これで一安心じゃな。

 それじゃ、コチラもさっさと片付けて琴未の元へと戻るとするかのう。

 閃華はスクラウドの攻撃をかわし続けながら、そんな事を思っていた。

その閃華の姿はまるで、華麗に舞う蝶のように見事な身のこなしであった。







 十一月の一発目の話が上がりました。

 そんな訳で今回は今まで少し影が薄かったと作者が勝手に思ってた琴未が中心となった話です。というか、琴未はエレメンタルがなくても人間相手だったら、充分強いみたいです。

 ちなみに新螺幻刀流、これは私があるゲームで使っていた流儀の名前です。まあ、他に出すところも無いのでここで使ってみました。

 というか、そのゲームの次の新作でないかな、私的には結構気に入ってたんですけど、やっぱりマニアックすぎたのかな。まあ、そんなことはさておき。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に感想評価もお待ちしております。

 以上、なんか急に神社に行きたくなった葵夢幻でした。

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