第三十話 ロードキャッスル突入
光に包まれた昇は、あまりの眩しさに目をつぶっていたが、眩しくなくなると確認するようにゆっくりと目を開いた。
……着いたのかな? うわっ、なんだあれっ!
昇が驚いた物、それは朝日とはそぐわないほど黒い城。作りからして西洋風の城はまるで入って来る者を威嚇するかのようにそびえ建っている。
あれが、ロードキャッスル。
「どうやら、全員無事に着いたみたいじゃな」
「閃華、じゃあ、あれはやっぱり」
「うむ、サファドの根城で間違いないじゃろ」
「はいはい、当たり前のことを言わない。というか、私がミスをすると思った」
「うわっ、与凪さん!」
突然昇達の目の前に現れたモニターに与凪が映し出されていた。
「うん、どうやら無事に全員転送できたようね」
「はい、それで雪心ちゃんは何処に?」
「はいはい、焦らない焦らない。とりあえずさっきも言ったけど、奥の事は行ってみないと分からないわ。だから皆はそのまま奥に入って行って」
「はい、分かりました」
そうして昇が歩き出そうとした時。
「後、その城の警備は厳重だから、そこから一歩でも動くとすぐに機動ガーディアンが召喚されるから気をつけて」
「えっ」
いや、あの、そういうことは一歩を踏み出す前に言ってもらいたいんですけど。
時すでに遅し。ロードキャッスルの巨大な扉の前に数十の魔方陣が現れて、機動ガーディアンが召喚され始めていた。
「うわっ、もう出て来た」
「昇が一歩を踏み出すから」
すみませんでしたシエラさん。
「とにかくじゃ、こっちもいつでも戦えるように準備を怠るでないぞ」
その言葉を合図にシエラ達は精霊武具をまとい、昇も二丁拳銃とコートの武装姿になった。
そして昇達の準備が終わる頃には既に門前には三〇体程の機動ガーディアンが現れていた。
「さてそれじゃあ、あいつらぶっとばして先に進みましょ」
先行しようとする琴未だが、昇がそれを遮る。
「昇?」
「ここは僕がやる。皆はロードナイトを相手にしてもらうから、今は力を温存しといて」
「でも……」
それでも琴未は何かを言おうとしたが、シエラが琴未の肩を掴んでその言葉を飲み込ませる。
「今の昇なら大丈夫」
「そっか、そうだね」
今まで昇の相手をしてきた二人だからこそ、現在の昇の力を一番分かっている。だからこそ、この場を任せることが出来る。
「それじゃあ、いくよ」
昇は二丁拳銃を構えずにそのまま引き金を引くとシリンダーが回り、銃身と重なるたびに昇の周りには赤い球体が次々と出現していった。
昇は必要な分だけの球体を作り出すと、次は機動ガーディアン達に向かって銃口を向けて引き金を引き絞る。
「バルスシュート!」
赤い球体は力の弾丸となり一気に機動ガーディアン達を殲滅していく。
「ほう、ずいぶんと器用なことをするもんじゃのう」
「まあ、ただ撃つだけじゃ戦術が限られるからね。そう言ったら、昇るなりに考えていろいろな方法を思いついたみたい」
「その一つがあれ、それに力の使い方も覚えたみたい」
「ほう」
昇は全てのガーディアンを消滅させたことを確認すると、昇は二つの銃口をロードキャッスルの巨大な扉に向けて力を溜める。
その力は銃口には収まらず、すでに銃身から離れて銃口の前に大きく力を溜めていた。そして昇は引き金を引いて一気に力を解放する。
「ツインバスター!」
放たれた物は最早銃弾とは呼べずに砲撃のような物で、それはロードキャッスルの扉をぶち破り建物の内部で爆発を起こした。
……あれ?
『……』
何故か痛い視線が昇に集中する。
「……昇、とりあえず扉を破るだけでよかったんじゃが」
「ほらほら、中は凄く破壊されてるみたいだよ」
「昇、次は力のコントロールを覚えよう」
「というかさ、中まで破壊しちゃって大丈夫なの。ねえ、与凪」
「ちょっと待って琴未、今調べてるから。というか滝下君やりすぎ、おかげでジャミングが酷くて中の状況が確認できないわ」
……えっと、とりあえず、すいませんでした!
ロードキャッスルの入り口には粉塵が巻き起こっているが、それも徐々に晴れて中の様子が遠くからでも少しずつ確認できるようになった。
「皆、さっきの滝下君の攻撃はロードキャッスルのちょっとを破壊しただけで内部に影響は無いわ。それにラッキーな事に、中にいた機動ガーディアンの数がかなり減ったみたいね」
「まっ、結果オーライじゃな」
「でもよかったわ。いきなり入り口を潰されたら何処から入れば言いのよ、って言うところだったわよ」
「まあ、それだけロードキャッスルが頑丈に出来てたという事に」
「とりあえずよったね、昇」
……いや、というか、なんで僕だけそんなに責められるの? ……まあ、確かに入り口がつぶれたら元もこうもないし、内部でそんな事をやったら建物が崩れて生き埋め、なんてことにもなりかねないからな。……やっぱり、ちょっと反省しとこうかな。
だがそんな暇も無く、ロードキャッスルの内部から残りの機動ガーディアンが昇達を目指して飛び出してきた。
「いきなり何すんじゃボケ、ケツから手突っ込んで奥歯をガタガタいわしたる」
「……あの〜、シエラさん、そのセリフはいったいなんなんでしょう?」
「あの機動ガーディアン達の心情を言ってみただけ」
いや、機動ガーディアンって確か機械のような物だよね。そんなのに心情なんてものがあるの。というかシエラさん、それは僕に責任を取れということでしょうか。
昇は二丁拳銃を迫ってくる機動ガーディアン達に向けると、両方の引き金を二回ずつ引いて四発の弾丸が発射される。
発射された四発の弾丸はそれぞれ一体ずつの機動ガーディアンを貫くと急旋回、別の機動ガーディアンを撃破して行った。
「ほう、誘導弾じゃな」
「今の昇は四発をコントロールするのが限界だけど、それでも戦術の幅は広がる」
「これも私達が昇の修行を手伝った成果よね」
……というか、最初の頃は地獄でしたけど。
そして昇は全ての機動ガーディアンを撃破すると後ろを振り向き皆に言う。
「行こう」
昇の言葉に全員が頷き、昇達はロードキャッスルの中に突入して行った。
その頃、玉座の間ではサファドが冷峰から侵入者の報告を聞いていた。
「まさか、本当に来るとは思いませんでしたが、来てしまったものはしょうがありませんね。冷峰、今から儀式を始めます。本当なら月夜の晩に始めたかったのですが、失敗しては元もこうもありませんからね」
「御意」
「それからロードナイト達も配置につかせなさい」
「それならば各自すでに向かっております」
「よろしい。では冷峰、あなたに全指揮権を与えます。決して儀式の邪魔をされないようにしてください」
「はっ、心得ております」
そしてサファドは儀式を始めるために、玉座を後にしようとしたが。
「あっ、そうそう、冷峰、あなたはこの玉座の間に待機していなさい。儀式場の門前にはシェードを配備させます。まあ、ここまで来るとは思いませんが念には念をいれるように」
「御意、では、そのように配備します」
「それでは後は頼みますよ」
「はっ」
そして今度こそサファドは玉座の間を後にして雪心の部屋へと向かう。
やれやれ、こんな朝早くからの奇襲とは、これだから無粋なやからは困りますね。もう少し演出という物を考えて欲しい物です。月夜の晩に私が王になる、それこそが最高の演出であり芸術だというのに。
まあ、結局は私の元へと来れないのですけど、もしかしたらすぐにやられてしまうかもしれませんね。まあ、少しはがんばってもらわないと面白味が無いですからね。少しは奮戦を期待しようとしますか。
サファドは笑み浮かべながら長い廊下を歩いていった。
ロードキャッスルに足を踏み入れた昇達がまず最初に入った場所はエントランスホール。そこには機動ガーディアンは居ない。どうやら先程飛び出してきたのがエントランスホールに残った最後の機動ガーディアンのようだ。
機動ガーディアンが一掃されているエントランスホールを見渡すと中央には大きな階段があり左右に通路が延びており、それに一階にもそれぞれ通路と呼べる物がいくつか有った。
「与凪さん」
「はいはい」
空中にモニターが現れて与凪を映し出す。
「これからどっちに行けばいい?」
「とりあえず、中央階段を上って右に進んでください。そのほかの通路は全てトラップみたいですから」
「分かった。じゃあ行こう」
昇は与凪の案内に従いロードキャッスル内を進んでいく。途中で機動ガーディアンが現れるが、それらは全て昇が撃破して昇達は奥へと進んでいった。
そして昇達が到達したのは上下別々に伸びた階段だった。
「与凪さん、どっち」
再び現れる与凪。だが、先程までとは違って何故か申し訳なさそうにしている。
「ああ、ごめん。私が案内できるのはここまでなの」
「じゃあ、これから先は……」
「行って確かめてもらうしかないわ。けど、一つだけふに落ちないのよね」
「それはどういう意味じゃ」
「それがね。両方の階段とも、その先に強固な調査妨害の結界が張ってあるのよ」
「両方とも?」
「そう、両方とも。っで、これは私の予想なんだけど、もしかしたら両方に儀式に必要なものがあるのかもしれない」
「なるほどのう。じゃから両方とも調査妨害の結界を張っておるわけか」
「じゃあ、両方に行かないといけないの?」
「う〜ん、それがよく分からないのよね。もしかしたらどちらか一方を潰せばいいのかもしれないし、両方を潰さないといけないかもしれない」
「結局、分かんないんだ」
「琴未、そんな言い方しなくてもいいでしょ。私の能力にも限界があるんだから」
「じゃが困ったのう。せめてどっちに何があるか分かればよいのじゃが」
「たぶんだけど、それくらいなら分かるかもしれない」
「分かってるなら早く言いなさいよ」
「だから、たぶんって言ってるじゃない、確証は無いのよ。とりあえず、下の方からは精霊王の力を感じるし、上の方には人間の気配を感じる。だから上に雪心ちゃんがいるみたい」
「じゃあ、上に行こうよ!」
「ちょっと待ってミリア」
「う〜、昇なにかあるの?」
「与凪さん、精霊王の力は上から感じられないの?」
「そうね、今のところは下の方しか感じられないわね」
「そうか、昇、そういうことじゃったか」
「閃華、何か分かったの?」
「よう思い出してみい。サファドは無理矢理精霊王の力を移動させておるんじゃぞ、つまり下にあるのは精霊王の力を吸い上げるポンプ」
「それに貯水槽みたいに力を溜めているかもしれない」
「確かにその可能性はあるわね」
「それでは昇、どうする」
閃華の問いに昇は目をつぶって考える。一番最善な方法を。
確かに、どっちかを潰せば止まるかもしれないけど、もしそうじゃなかったら……。しかたない。
「二手に分かれよう」
「うむ、それしかあるまいな」
「琴未と閃華は下に、僕とシエラとミリアは上に行くから。もし、下で予想通りにポンプを見つけたら破壊してそれから上で合流しよう」
「もし何も無かったらどうするの?」
「その時も上に上がってきて、上に雪心ちゃんがいるのは確かみたいだから、雪心ちゃんを助け出す手伝いをして」
「分かったわ」
「うむ、了解した」
「じゃあ、気をつけて。また上で合流しよう」
「うん、昇達も気をつけてね」
「はいはい、その前にちょっといいですか、。注意事項があります」
「いきなり何よ」
「皆さん、調査妨害の結界を突破したら注意深く進んでください。あまり早く進まれると私の調査が間に合いませんので」
「つまり慎重に進めって事ですか」
「けど、だからと言って慎重になりすぎる必要も無いけど、私の調査範囲を追い越さないようにしてください。まあ、トラップに引っ掛かりたいなら別ですけど」
「そんなこと思うわけ無いでしょ」
「とりあえず、これからは皆さんの横には常にモニターを出しておきますので、そこに少し先の通路が表示されますから、表示されていない場所には行かないでください。そこはまだ調査をしていないところですから」
昇と閃華の横にモニターが現れて今まで辿ってきた道が表示されている。
「これからは皆さんを媒体にして調査しますから。たぶんですけど、結果以内の私の調査範囲はせいぜい十メートル程度ですから、あまり早く進まないでくださいね」
「分かった」
「では気をつけて進んでください」
与凪の顔が表示されていたモニターが消えて、地図が表示されているモニターだけが残った。
「じゃあ行こう」
全員が頷くと昇達は二手に分かれて進み始めた。そして調査妨害の結界を通り越すと、自分達を中心に十メートルぐらいの通路が表示される。
昇は横に有るモニターと視界で確認できる通路の先を見合わせる。
「どうやら上は一本道みたいだね」
「じゃあ、一気に雪心のところまで行こう」
「ミリア、あまり焦らない。変に焦ると全てが終わる」
「う〜、分かってるよ。というかシエラの言い方はいつも残酷だよ」
「私は真実を言ってるだけ、そして現実はいつも残酷な物」
あの〜、シエラさん、確かにそうかもしれませんけど、もう少し言い方というものが有るんじゃないでしょうか。
「と、とにかく、まだ時間は有るはずだからあまり焦らずに進もう」
「……うん」
それでもミリアは焦る気持ちを抑えきれないのが顔に少し出ている。
そして昇達が進み続けること十数分、目の前に扉らしき物が見え始めた。
「ミリア、分かってると思うけど、いきなりあの扉を開けないで」
「う〜、それぐらい分かってるよ」
いや、たぶんやりそうだったからシエラが言ったと思うだけど。
そして扉の前に辿り着くと、与凪が映し出されたモニターが現れる。
「滝下君、その先は気をつけてね」
「この先に何があるの?」
「どうやら広いホールみたいだけど、中に精霊の反応が一つあるのよ。確実にロードナイトが待ち伏せしてるわ」
「分かった。そういえば琴未達は大丈夫?」
「ああ、あっちはいろいろと苦労してるみたいだけど、今のところは大丈夫よ」
「そう……なんだ」
いろいろな苦労って、いったいどんな苦労なんだろう。
「じゃあ私は少しあっちのサポートに回ってるから、滝下君たちも気をつけてね」
「うん、ありがとう与凪さん」
そして与凪を映し出していたモニターは消え、昇は扉に手を掛ける。
ゆっくり、慎重に昇は扉を開いていった。
一方、琴未達はというと。
「ああ、もう、いったいここはどうなってるのよ!」
琴未が叫んでいた。
「まあ、落ち着け琴未」
「だって閃華、さっきからあっち行ったり、こっち行ったり、ここは迷路かって言いたくなってくるのよ」
「気持ちは分からんでもないが、ここは敵の根城じゃぞ。当然侵入者を妨害するように作ってあるはずじゃ」
「そんなの分かってるわよ。けど、いい加減に頭にくるのよー!」
「だからと言って叫んでも何も変わらないでしょ」
「おお、与凪、戻ったか。っで、昇達はどうじゃった」
「うん、もうすぐロードナイトの一人と接触するみたい」
「って、それって大変じゃない!」
「だから落ち着けといっておるじゃろ。ここは敵の根城じゃぞ、当然ロードナイトとの戦闘は避けられん」
「ぐっ、それはそうだけど」
「そして、いつ私達の前に現れても不思議は無いんじゃぞ」
「うっ!」
「じゃがその前にここを突破せんとな。与凪、次はどっちじゃ」
「そうね、じゃあこっちに行ってみて」
与凪がそういうと地図の一つの道に矢印が表示される。
「うむ、では行くぞ琴未」
「はいはい、分かったわよ」
先程の閃華の説教が効いたのか、琴未は冷静さを取り戻すのを通り越して落ち込みながら閃華の後を追って行った。
じゃが、さすがに手探りで進むのは時間がかかるのう。それにロードナイトいつ現れることやら。まあ、心配してもしょうがないじゃろうから今は進むかのう。
そして琴未達は迷路を手探りで進み続けることになった。
だが、昇達が進んでいる時にも、サファドの行動も進んでいるのは確かで、もう少しすれば儀式が始まってしまうところまで来ていた。
そんな訳でとうとう三十話まで来ました!。
いや、だからどうしたってワケでもないんですけどね、ちょうど切がいい数字なんではしゃいだだけです。
まあ、それはともかく、とうとうロードキャッスルに突入した昇達、これから待っているのはロードナイトとサファド、はたして昇達はサファドの野望を阻止できるのか、そして雪心の運命は……。そんな訳でノリでやった予告も終了したことで。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、俺この三十話で何ページぐらい書いたんだろうと思った葵夢幻でした。