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エレメンタルロードテナー  作者: 葵 嵐雪
ロードナイト編
27/166

第二十七話 見え始めた真実

「おかわりー!」

 ミリアは空になったお茶碗を勢い良くシエラに突き出した。

「ミリア、なんでそんなに良く食べるの」

 さすがのシエラも呆れたようにご飯を山盛りにしてミリアに返してやった。

「いや〜、だって、ここ最近ずっと落ち込んでたから、たぶんそのリバウンド」

 ミリア、たぶんそのリバウンドの意味は違うと思うよ。

「でもよかったわ。ミリアちゃんが元気になって」

「あははっ、ご心配をおかけしました」

 和やかなミリアと昇の母ある彩香との会話。昇はそれを何故か複雑そうな表情で見ていた。

「んっ、どうしたの昇。変な顔して、末期症状?」

「何の末期症状なんだよ。というか、母さんもこの状況に慣れてきたな〜って思っただけだよ」

「そうね。今まで昇と二人っきりだったから寂しかったけど、今では賑やかになって、お母さんは毎日が楽しいわ」

「はいはい、そうですか」

「何昇、何か不満でもあるの?」

「いえ、何もありません、お母様」

 彩香に黒いオーラが見えた昇は、とっさに敬礼、反抗の意思がないことを示した。

 というか母さん、シエラ達だけじゃなくて、僕にも少しは優しくしてよ〜。さすがに毎回死に掛けるのは辛いんですけど。

 昇は別にマザコンというわけではないのだが、彩香の教育方法がムチどころか金棒を使っているように昇には感じている。それほど、彩香は昇に容赦が無い時がある。

 だが器の大きいところもあるようで、いきなり押しかけてきたシエラ達には文句を何一つ言わずに受け入れたのだ。だからなのか、昇は前よりも彩香に頭が上がらなくなってしまった。

 昇はシエラ達だけには優しい母親を見ながら溜息を付く。

「おかわりー!」

 昇がそんなことを思っている、再びミリアが勢い良く茶碗を差し出していた。

「まだ食べるの?」

 さすがのシエラも呆れたようだ。

「琴未〜、オカズまだ?」

「今やってるわよ」

 現在滝下家の台所はシエラと琴未が仕切ってることが多い。さすがに二人ともタダでお世話になる気はなく、家事の手伝いは積極的にやっていた。

「ミリアちゃん、育ち盛りだから沢山食べないとね」

 精霊にそんなものがあるんだろうか? というか母さん、ミリアは母さんより年上なんだよ。……まあ、一応。

「まあ、ここ数日ほとんど食べておらんかったからのう。シエラも琴未も文句を言わずに作ってやるんじゃな」

「じゃあ、閃華も手伝いなさいよ」

「残念ながら、私は料理は不得手なんじゃよ」

「平然と嘘を言うな! ウチにいたときにはちゃんと料理してたじゃない」

「へぇ〜、閃華も料理できるんだ」

「まあ、長年生きておるからのう、それぐらいは出来るぞ」

「じゃあ、手伝って」

「いやいや、残念ながら、今は手が離せんのじゃ」

「なんでよ」

「うむ、丁度崖のシーンじゃからのう、そろそろ犯人が自白をする頃じゃろ」

「って、なに二時間ドラマ見てんのよ!」

「じゃから琴未、がんばれるんじゃぞ〜」

「はいはい、わかったわよ」

「ははっ」

 そんな和やかに過ぎて行く滝下家の時間。

 だが突然近くに力の発生を感じると、それはすぐに広がり始めた。

「むっ!」

「皆!」

「分かっておる、全員落ち着け」

 状況を理解していない彩香だけを残して、シエラと琴未は料理を中断してミリアも口の中の物を飲み込こんで閃華も警戒態勢に入っていた。

 そして力の広がりは滝下家を通り抜けて、世界を灰色に塗りつぶしていく。

「精界! いったい誰が?」

 そして滝下家には昇達だけが存在して彩香は現実に取り残されてしまった。

「ふむ、この色の精界は刃系の精霊じゃな。それにこの力、どこぞで覚えがあるんじゃがのう」

「本当?」

「うむ、それにもしやしたらロードナイトが関わっておるかもしれん」

 閃華の言葉に全員に緊張が走る。

「じゃあ、また襲ってくるって事」

「居場所がバレた?」

「いや、そう感じでもないみたいじゃ。とにかく、力が発生したところに行ってみたほうが早いじゃろ」

「うん、なら行こう」

 昇の言葉を合図に全員が一斉に動き出して滝下家を後にした。



 そこは昇の家から近い運動公園。ここを中心に精界を作り出したみたいだ。

「ここなの?」

 精霊でない昇にはいまいち精界の中心点は良く分からないが、精霊達とエレメンタル発動時の琴未には、しっかりとここが精界の中心点だということが感じ取れた。

「うむ、ここで間違いないんじゃが」

「誰もいないね」

「うむ、もうどこかに移動したのやもしれんな」

「じゃあ、この精界を作り出した精霊はもうここにはいないのかな?」

「うむ、その可能性も、ッ! 誰じゃ、そこにいるのは」

 閃華が右にある茂みに向かって叫ぶのと同時に、すでに精霊武具をまとっているほかのメンバーが茂みにそれぞれの刃を向ける。

「さすがだな、気配は殺したつもり、だったんだが」

「その声、ミラルドか?」

「ああ、それとあまり騒がないでくれ、奴らに見つかる」

「奴らって?」

「無論、ロードナイト達だ」

 その言葉に閃華以外の者には衝撃が走った。だが閃華にはふに落ちない事があり、どうしてもミラルドの言葉をそのまま受け止めることが出来いようだ。

「ミラルド、そなたもロードナイトの一人ではないのか」

「ふっ、さすがに気付いてたようだが、今では裏切り者だ」

「それではいまいち信頼に足りんな」

「やれやれ、まあ、そうだろうが、しかたない、この姿を見てもらえば分かるだろう」

 その言葉を最後に茂みが揺れてミラルドが昇達に前にその姿を現した。

「うわっ、ひどっ」

「うぬ、お主ほどの者がここまで手ひどくやられるとは、相手は一人ではないな」

 茂みから出てきたミラルドは全身ボロボロになっており、精霊武具の甲冑も多少破壊されている。そのうえ左腕には大きな傷を負っているようだ。

「これで分かったか、閃華」

「うむ、では、この精界を作り出したのもミラルドお主か」

「そうだ。とりあえず閃華、お前に話がある。ここでは見つかると危険だ。こっちに」

 そう言ってミラルドは足にも怪我負っているのか引きずるようにして、昇達を茂みの奥へと先導して行った。

 茂みを少し進むと開けた場所があり、さすがに五人も増えると一気に狭くなるが、それでも話を聞くだけでも充分だった。

 そこへ、円陣の様に座るとミラルドは昇を見詰める。

「閃華、そいつがお前らの契約者か」

「うむ、滝下昇。なかなか面白い奴じゃ」

「そうか、それでお前達はどれだけの情報を掴んでいる」

「その前に、怪我の手当てをしないと」

「構わん、どうせ俺はすぐに実体化が解かれるはずだ。そうすれば、こんな怪我なんぞ一瞬で治る」

 そうなのと昇は閃華に目線を送り、閃華も黙って頷いた。

「それで、わざわざ精界を作り出したのは私に用があったからじゃのか」

「ああ、羽室とスクラウドがお前達にちょっかいを出したことは知っていた。だから、お前達に告げるのが一番いいと思っただけだ」

「それでこの間出合った場所の近くに精界を作り出したんじゃな」

「ああそうだ。私ではこれ以上は無理だったからな。だからお前達に託すのが一番いいと思った」

「いったい何を?」

「……お前達、古泉雪心こいずみきよみという少女を知ってるか」

 思いがけない名前が出てきたことに昇達は大いに驚き、ミリアはミラルドに詰め寄る。

「雪心が、雪心にいったい何が起こってるの?」

「ミリア」

 昇はミリアの肩を掴むと、そっと元の位置に座らせる。

「その様子だと、ずいぶんと知ってそうだな」

「当たり前だよ。私と雪心は友達だもん」

「そうか、あの子にもいつの間にか友達が出来ていたのか」

「それでミラルド、その雪心がどう関わってくるんじゃ」

「全ては雪心を中心に動いていた。俺がロードナイトの一員になったのも、最初は雪心の願いを叶えるために協力して欲しいといわれたからだ。だが、それは大きな間違いだったんだ。すべてはあいつの、サファドの野望のためだったんだ」

「サファド?」

「その様子だと知らないようだな。サファドはロードナイトを作り出した、いわばロードナイトの頂点に立つ者だ」

「ふむ、どうやらそのサファドとやらが今回の黒幕らしいのう」

「ああ、その通りだ」

「それでお主の事じゃ。サファドの動きに不審な点を見つけて嗅ぎ回ってたんじゃろ。そしてなにかをつかんだ、だから逃げ出して追っ手をかけられている。そんな所じゃろ」

「さすがだな閃華、話が早い」

「それでミラルド、お主が掴んだ物とはいったいなんじゃ」

「最近、精霊王の力が移動していることは知ってるか」

「うむ、エレメンタルロードテナーが決まっていないのに精霊王の力が、少しずつじゃが移動していることは掴んでおる」

「その移動先がサファドの拠点であるロードキャッスルで、ロードナイト達の住処でもある」

「むぅ、そのサファドとやらは精霊王の力をどうするつもりなんじゃ。そこいら辺がいまいち視えてこんのじゃが」

「そこで一番大事な存在が、雪心という少女だ。サファドは雪心に精霊王の力を移そうとしている」

「じゃが、雪心は器の資格を持ってない契約者じゃ。そんなことをしても精霊王の力は溜まることなく、雪心を通り抜けていくだけじゃろ」

「だから、サファドは雪心に器を作ったんだ。精霊王の力を受け入れる器を」

「う〜む、ますます分からん。それだったら、最初から器のある者を騙せばいいのではないのか」

「いや、あえて器の資格を持たない者をサファドは探していたんだ」

「何故?」

「器は完成しては困るんだ。多少の穴を開けないと意味がない。そうしないと精霊には精霊王の力に触れることも出来ないからな」

「そうか、そういうことじゃったか」

 納得したのか閃華は大きく頷くと、ミラルドは疲れたように木により深く寄りかかる。

 ……えっと、僕にはさっぱり意味は分かんないんだけど。

 昇はシエラ達を見るが、どうやらシエラ達もいまいち事態を飲み込めていないようだ。

「これでようやく、全てが見えてきたのう」

「あの、閃華、悪いんだけど僕達にはさっぱりワケが分からないんだけど」

「ふむ、そうじゃのう。事態はかなり複雑に絡み合っておる。じゃから細かい説明は後にしよう」

「そ、そうなんだ」

 そう言われては昇達も引き下がるしかなかった。

ただ一つだけ分かっていることだけは、目の前にいる精霊が元ロードナイトで今では裏切り者として追われており、昇達はミラルドをかくまっているという事だけだ。

 だがミラルドと閃華はそんな昇達を放っておいて会話を続けていた。

「だいたい理解できたみたいだな、閃華」

「うむ、後はサファドの拠点、ロードキャッスルの場所が分かれば良いんじゃが」

「さすがに今の俺には案内することは無理だな」

「それは分かっておる。それで場所は?」

「この町の中心点に大きな公園があるだろう」

「うむ、中央公園と呼ばれる税金を無駄使いして作った公園じゃな」

「そこにあるのだが、普通の方法では入れない。サファドが張り巡らせている特殊な結界はロードナイト以外を入ることを拒む。そのうえ侵入しようとすれば、結界が察知して侵入者を焼き殺す」

「随分と強固な結界みたいじゃな」

「それだけじゃない。ロードキャッスル内は無数の機動ガーディアンが配置されている」

「機動ガーディアン?」

「古代魔道技術が作り出した動く魔道兵器の事じゃ。じゃが、それだけではなくロードナイトもおるのだろう」

「当然侵入者を排除しようとするだろうな」

「ということは、またあの戦闘狂と戦わないといけないわけ」

「まあ、そうなるじゃろうな。じゃが琴未、もしそうなった場合は決して負けることは許させんぞ。負けは自分の死を意味するものじゃし、雪心も救えなくなる」

「って、閃華、雪心って今はそんなに酷い状況なの?」

「落ち着けミリア、今のところは大丈夫じゃろう」

「でもでも……」

「ミリア」

 昇はミリアを肩を掴んで下がらせると、優しく頭を撫でる。

 そんな時、霧でも出てきたかのように辺りを白く染めていった。

「まずい! お前らここから逃げろ」

「いや、もう遅いみたいじゃ。ミリア、頼む」

「えっ?」

「とにかく全員を守るんじゃ!」

「う、うん、分かったよ。アースドーム」

 ミリアがアースハルバードを地面に刺すと、土が盛り上がり昇達を囲むようにドーム状になり、完全に外界と遮断した。

 そしてすぐにドーム内でも分かるほどの衝撃と爆発、そして熱が伝わってきた。

「くっ、何この暑さ」

「たぶん水蒸気爆発だ。俺を追ってるロードナイトの一人、マルドの仕業だろう。奴は雲の精霊だからな」

「なるほど、雲は水蒸気の塊のような物だから」

「これくらいはお手もの、ということじゃな」

 衝撃が収まり熱も引いていくとミリアは自分達を囲っていたドームを解除する。

「うわっ、すごっ」

 昇が驚くのも無理はない。なにしろ先程まで木々が生い茂っていた林が完全に消滅したのだから。林だけではない、公園内にある物全てが吹き飛んでいた。

「そこにいたか」

 上から聞こえてくる静かな声に全員の視線が上空に浮かんでいるマルドに集中する。

 マルドは薄手の甲冑に長身で、その身長よりもでかい斧を持っていた。

 そしてマルドの隣に突然姿を現す陰が一つ。

「サファド!」

 ミラルドの叫びに全員が新たに現れた精霊に注目する。

 この、少年みたいな精霊がサファド。今回の黒幕。

「ご苦労様でしたマルド、あなたはもう下がりなさい」

「御意」

 マルドは一礼だけすると、その場から姿を消した。

「さてミラルド。まさかあなたにあれを見られるとは思いませんでしたよ」

「こう見えても感はいいほうなんでね」

「そうなんですか、そうと知っていればロードナイトに加えることはしませんでしたのにね。あなたのおかげで手を焼く羽目になってしまいました」

「なんなら本当に火傷を負わせてやろうか」

「ふふっ、それは無理ですよ。もうすぐあなたは消えるのですから」

 サファドは右手を横に突き出すと魔法陣が現れて、その魔法陣からゆっくりと現れてくる人影。

 その人影を見てミリアは声高に叫ぶ

「雪心―――!」

 だが、その悲痛にも似たミリアの叫びは決して雪心に届くことはなかった。







 ……そんな訳で二十七話をお送りしました……。

 テンション低っ! といますかね、今回はこんな話になったんですけど、なんといいますか、はっきりいいますと、納得できるほど書けなかった、という感じがします。

 いや〜、やっぱり書いてるとどうしても行き詰るというか、表現しきれないというか、特に今回は真実を明にしながらストーリーを少し進めないといけないので、そこいら辺に苦労しました。

 まあ、もしかしたら読者の皆さんも真実を理解できてないと思いますが、次回簡単に真実を明にする予定なので、皆さん諦めずに付いてきてくださいね。特に携帯読者の皆さん、がんばって付いてきてくれ。俺は応援してるぞ〜。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、最近後書きが長くなってきたなと思い始めた葵夢幻でした。

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