第二十五話 加速し始めた運命
「はぁ〜、昨日そんなことがあったのね」
いつも使っている生徒指導室で閃華と落ち合った与凪は閃華から昨日のことを聞くとまず、そんな第一声を口にした。
「うむ、それで昇からの依頼じゃ。その雪心とか言う少女の事とロードナイト達について調べておいて欲しいそうじゃ」
「それは構わないんだけど。閃華さんは、本当にその雪心って女の子が今回の黒幕だと思います。だって、まだ一〇歳でしょ」
「ふむ、私もそれは気になっておったんじゃが。まず、一〇歳の少女がそんな大それた事を考えたとしても、実行することはまず不可能じゃろう」
「そうですよね」
「じゃから、こう考えるのが自然じゃろ。何者かがその雪心という少女を使って何かをしようとしている、とな」
「そうですね。じゃあ、まずその雪心ちゃんから調べてみますね」
「分かるのか?」
「その雪心ちゃんって器の資格を持ってないんでしょ」
「うむ、そなたが契約した森尾先生と同じようにな」
「あっ、やっぱり分かってました」
「当然じゃ」
「まあ、亮ちゃんは私が一目惚れして、そのままラブラブの生活をしてますけど。その雪心ちゃんって子はそうじゃないみたいね」
「うむ、昇の話だとエレメンタルロードテナーになれば、本気で母親が生き返ると信じておるそうじゃからのう」
「けど、エレメンタルロードテナーは精霊王の器でしかない。確かにエレメンタルロードテナーになれば少しは精霊王の力が使えるけど、逆に言えば精霊王の力意外は使えないって事なのにね」
「そうじゃのう。精霊王は地球の自然その物と言ってもいい。じゃから自然の摂理に反する蘇りなどということは出来んはずじゃ」
「それくらい、契約者なら少し考えれば分かることなのに、何で騙されたんだろ?」
「それは逆じゃろ」
「というと」
「一〇歳の少女じゃから騙しやすかった。そう考えた方が自然じゃろ」
「そっか、そうだね。まあとにかく、器の資格が無くて契約をしている人間を探せばすぐに見つかると思いますよ」
「どれぐらいかかる?」
「う〜ん、大まかな位置ならすぐに分かるんだけど、詳しく調べるにはかなりの時間がかかるかもしれませんね」
「ふむ、それはまずいのう」
「なんで?」
「ミリアと雪心が完全に決別したことにより、雪心に関する奴らが本格的に動き出しても不思議は無い。どうやら雪心とやらは本気になったらしいからのう」
「だから、相手がいつ動いても不思議は無いということですね。そういえば、ミリアさんはどうしたの、今日は欠席したみたいだけど」
閃華は立ち上がると、窓により外を遠い目で見詰める。
「ミリアはウチで寝ておる。今はそっとしてやるのが一番じゃと思ってな」
「そっか、そうですよね」
じゃがミリア、いつまでも落ち込んではおられんぞ。相手がいつ動くか分からんからのう。それに、今ぶつかっている壁はミリア自身で突破せねばならぬ壁じゃ。じゃからミリア、がんばるんじゃぞ。
閃華はそんなことを思いふけっていると、ふと校庭に目を向ける。普通に見れば各部活が、それぞれの部活をやっているのだが、閃華は目を精霊化させると精界内で行われていることを見た。
ふむ、どうやら火が付いたのは相手だけではないみたいじゃのう。昇、そなたも覚悟を決めたか。
精界内ではいつもと同じように昇の修行が行われていたが、今までの修行とはうって変わって、昨日の事件で今日の昇は気合が入っている昇の修行は屋上だけでは収まらず、校舎を破壊し続けながら、とうとう校庭まで降りてきたようだ。
「うわっ、今日の滝下君、なんだか気合が違うね」
閃華の横で同じく精界の中を見ている与凪はそんな感想を言った。
「ふむ、昇は昨日の事を目の前で見ておるからのう。じゃから、ミリアの悲しみと雪心の悲しみがよく分かるんじゃろう」
「でも、それを差し引いても、この短期間であそこまで成長するなんて凄いですよ」
「それが器の資格を持つ者の所以じゃ。器の資格というものは凡人と言っては聞こえが悪いが、普通の人には与えられん物じゃ。何らかの才ある者、その者じゃけが器の資格を得ることが出来るからのう」
「そうなのよね。だけど、滝下君って普通の人にしか見えないんだけど」
「まあ才能があっても、その才能を発揮できずに人生を終える人もおるからのう。もし、昇もシエラと契約せなんだら、その才能を発揮出来んかったじゃろ」
「ふ〜ん、ところで滝下君の才能ってなんなのかしら」
「そうじゃのう。生まれる時代と場所違えば、もしや名君になっていたじゃろうな」
「そうかしら」
「まあ、昇の性格からその才能は見えずらいからのう、分からんのも無理は無い」
「そうね、まあ、そういうことは近くにいる人にしか分からない物なのよね」
「そうじゃな、特に昇の場合はな。……おおっ、そうじゃった。今の話で思い出したことがあった」
「んっ、何かしら」
「たぶんじゃが、雪心の能力じゃ。この前に話したと思うが顔馴染みの精霊が実体化しておったから、もしやしたら、それが雪心の能力かもしれん」
「っで、その能力ってのはなんなの?」
「仮契約じゃ」
「仮契約。あの、契約をせずに精霊を実体化させることが出来る力が雪心ちゃんの能力なの?」
「うむ、そうなってくると、少しじゃが相手の戦力が見えてくるのう」
「そうだね。器の資格を持たない雪心ちゃんの力はそんなに強くない。だから、仮契約で実体化できる精霊の数もそんなには多くない」
「うむ、これは器の資格を持っておる者なら数百、下手すれば数千の精霊を実体化できる。いわば昇とは正反対の能力じゃからのう」
「エレメンタルアップは少数精鋭を作り出し、仮契約は数で相手を勝ることが出来る」
「じゃが、器の資格を持たない雪心の力を普通の平均で考えると、実体化できる精霊はせいぜい十以下、それ以上は無理じゃろう」
「だね。そういえば、そのシェードって精霊、なんで器の資格が無い雪心ちゃんと契約をしたんだろ」
「それは本人に聞かんと分からんのう」
「でも、これで敵の正体が少し見えてきたましたね」
「じゃな。じゃが肝心の黒幕が分からん」
「そうですね。雪心ちゃんに嘘を吹き込んで何かを企んでる、たぶん精霊。あっ、もしかしたら、この間話した精霊王に関係しているんじゃないかしら」
「ふむ、与凪、その後の精霊王の力は移動を続けておるのか?」
「うん、本当に少しずつだけど、何者かが精霊王の力をどこかに流しているのは確かみたいよ」
「場所は?」
「ごめん、まだ」
「そうか」
閃華は短く答えると再び校庭で模擬戦をやっている昇達に目を向けた。
そこではひけは取っているものの、何とかシエラと琴未を相手に奮闘している昇の姿がよく見えた。
……ふむ、少し整理してみるかのう。
この事件の黒幕は雪心という少女を騙して何かを企んでいる。そして器の資格を持っていないシェードが雪心と契約を交わしていた。いや、順番が逆か、契約して仮契約の力に目をつけた黒幕が何かの企みを思いついた、ということじゃろうか。
そして黒幕は、まずは戦力の増強のために雪心の仮契約でロードナイトと呼ばれている集団を作り出した。ふむ、となるとミラルドもロードナイトの一人と思っておいた方がよいのう。
そして戦力は揃い、雪心の役割は終えたというところじゃろうか。じゃからミリアと知り合って、友達になったんじゃろう。
そして黒幕はまだ何かを企んでおる。それはとてつもない計画なんじゃろうな。じゃからその障害となりうる、雪心の近くいる契約者、昇を始末するためにロードナイトを送り込んできた。そのときは黒幕もコチラの戦力を知らんかったろうから、その場は引いたんじゃと思うが、あれから襲撃が無いということは、私達がそれほどの脅威にならないと判断したんじゃろう。
確かに、そのままじゃったら私達もそやつの計画を見逃してたかもしれん。じゃが、昨日ミリアと雪心はお互いの立場を知って決別した。これから先、それがどう出るかでいろいろと決まりそうじゃのう。
じゃが、昇も皆も、ミリアと雪心をこのままにしとくつもりは無いらしいからのう。じゃからロードナイトとの戦いは避けられんか。
雪心の目を覚ますということは、今回の黒幕が企んだ計画を潰すのと同じかもしれんからのう。
まあ、どちらにしても勝負はこれからじゃのう。我らが先に黒幕の動きをつかめるか、それとも黒幕が先に動き出すか、出来ることなら先手を打ちたいものじゃが。そう簡単にはいかんかもしれんのう。
「与凪」
「んっ、なに閃華さん?」
どうやら与凪は今まで昇達の模擬戦を見物していたようだ。
「どうやら与凪の出番が多くなりそうじゃから。これからも協力をお願いしたい」
「はいはい、分かってますよ。どうやら今回は相手も組織的なものを作り出したみたいだからね」
「ふむ、ロードナイトがそうじゃろう」
「オッケー、まずはそこら辺から調べてみますね」
「うむ、では、よろしく頼む」
「あれ、もう帰るんですか?」
「うむ、私も少し足で調べてみるつもりじゃ」
「そう、じゃあ気を付けてくださいね、閃華さん」
「うむ、ではまた明日」
「はいはい、じゃあね閃華さん」
閃華は手早く自分の荷物を手に取ると、そのまま生徒指導室を出て行った。
「さて、じゃあ私も少しやってみますか」
与凪はそう言うと元の椅子に座り、精神を集中させる。そして自分の意識を霧状にすると広範囲に散布させるのだった。
「とりあえず、雪心ちゃんって子を探してみようかな」
そうして与凪は雪心探索を開始するのだった。
それから数日後の雪心の家。
「よいしょっと」
雪心は先程の買い物で買った物を玄関にそのまま置いた。
「これは先に持って行っとくぞ」
雪心の横にいたシェードは、もう靴を脱ぎさり玄関に上がって雪心が置いた荷物を手に持っていた。
「うん、シェード、お願い」
「ああ」
そのまま歩き出すシェードだが、その足は数歩歩いただけで止まった。
「シェード、どうしたの?」
「……」
だがシェードは答えず、荷物を手早くキッチンに持っていくと、そのままリビングへと向かった。
「何か用か、サファド」
少し怒気を込めた声にもかかわらず、サファドは雪心の家のリビングでコーヒーを片手にくつろいでいた。
そして、睨み付けているシェードにサファドは笑顔を向ける。
「ええ、とりあえずお留守だったので勝手に上がらせてもらいました」
「人間はそういう行動を不法侵入といって、罰せられるそうだ」
「そうみたいですね。でも、私達精霊ですから、そんな法は関係ないですよ」
「それでサファド、何の用だ」
「いえいえ、雪心に用があるだけで、あなたに用はありません」
「ッ!」
「おやおや、あなたがそこまで驚かなくてもいいでしょう。なにせこれで雪心の願いが叶うのだから」
「いつまで、そんな嘘で雪心を躍らせる気だ」
「くすくす、そう思うなら止めてみてください。私をね」
「くっ」
サファドはよく知っているのだ。シェードは決して自分に逆らえないということを。
もし、ここでサファドを消してしまえば、雪心は更に希望を失い、生きる気力さえもなくしてしまうかもしれない。シェードはそんな雪心の姿を心に思い描くだけで胸が張り裂けそうなぐらいの痛みを覚えるほど、雪心のことを大事にしているからだ。
「シェード、さっきから誰と話してるの?」
とその時、雪心がリビングのドアを開けて、シェードはいつもの無表情に戻り、サファドは雪心に笑みを向けると、敬意を払うように大きく頭を下げるのだった。
「サファド!」
嬉しそうに声に出す雪心。
「お久しぶりですね。我が主、雪心」
「なんで、なんでサファドがここにいるの?」
「はい、我が主、それは報告のためです」
「なんの?」
「全ての準備は終わりました。後は我が主がいらっしゃるだけで、全てが整います」
「それって……」
「はい、もうすぐ我が主の望みが叶う時が来ます」
「本当、サファド!」
「はい、我が主、雪心」
嬉しそうな雪心にシェードは複雑な思いになる。
くっ、とうとうこの時が来てしまったか。俺は雪心の目を覚ますことは出来なかった。なら、覚悟を決めるしかない。雪心に害が及ばない限り、ロードナイトの一員として雪心を守ると。
「聞いた、シェード、もうすぐお母さんが帰って来るんだよ」
「そうだな。よかったな、雪心」
シェードは一応笑みを浮かべるが、その笑みはとても悲しい笑みだが、今の雪心は気付かないだろう。なにせ、自分の願いが叶う問うことだけで頭が一杯なのだから。
「では、参りましょうか、我が主」
「うん。あっ、でもちょっと待って、これだけ仕舞って来ないといけないから」
そういって雪心はサファドの答えを待たないで、買って来た物を片付けに行ってしまった。
「くすくす、本当、我が主は純粋でかわいいですね」
「サファド」
「なんですかシェード、おやおや、そんなに怖い顔をしないでくださいよ」
「とりあえず今はお前に協力してやる。だが、もし雪心に何かしてみろ。その時は俺がお前を消す」
「くすくす、本当にあなたは心配性ですね。何度も言うように雪心に危険なことなんてありませんよ。只、我が主の願いを叶えるためには、我が主の協力が必要なだけですよ」
「俺も何度も言うようだが、俺はお前を信じてはいない。ただ雪心がお前を信じたから協力しているだけだ。だからもし、雪心を傷つけた時には」
「その時はどうぞ。あなたの手で私を消すといいですよ」
サファドは本音を笑みで隠しながら、睨み付けて来るシェードを微笑みで受け流していた。
「お待たせ!」
その時、元気よく雪心がリビングに戻ってきた。どうやらよほど嬉しいらしい。
「もう大丈夫ですか?」
「うん、いつでもいいよ」
「では参りましょうか、我が主、雪心」
そして三人の丁度真ん中を中心点にして魔方陣が展開され、三人は姿を消して魔方陣もその光が消えた。
「バカな! こんなことをして、あいつはなにを考えてるつもりだ」
そこは西洋風の城の一角、その奥の奥にあるロードナイトでさえ入ることが許されない禁断の部屋だった。
「ここはあの子の願いを叶える場所だと聞いていたが、この力は、まちがいなく」
「おやおや、困りますね。ここには入るなとサファド様が言いませんでしたか。ねえ、ミラルド」
「くっ、冷峰か」
ミラルドが振り向くと、そこには同じロードナイトの一人冷峰が壁に寄りかかりながら立っていた。
冷峰は中華風の服を身にまとい、元々目が細い為かいつも笑っているように見えるが、今は更に笑みを深めて、返って不気味に思えるほどの笑みを浮かべていた。
「ここはロードナイトさえ入るなと、サファド様の言葉を聞いていなかったのですか」
「冷峰、お前もロードナイトの一人だろ。それともサファドの懐刀のお前は特別なのか」
「そうですね〜、その通りかもしれませんね。では、サファド様の命により、ここへの侵入者を排除するとしましょう」
くっ、どうする。本当ならあれを破壊したいが、冷峰が相手では分が悪い。
その時ミラルドの頭を過ぎったのはこの前会った精霊の姿だった。
もう選んでいる時は無い。性には合わんがあいつを頼るか、あいつは正式に契約をしていたから本来の力を出せるはずだ。
だが、その前に今はここを切り抜けねば。だが、ただでは逃げる気はせん。
ミラルドは精霊武具のマジョリティーサイファー<多くの刃を持つ鎌>を出すと目の前の装置に思いっきり一撃を入れる。
「なっ!」
思いきったミラルドの行動に冷峰は驚くが、その一瞬を狙ったかのようにミラルドに一撃を入れる精霊がいた。
「ぐはっ、くっ、マルドか」
マルドは血の付いたバトルアクスを再び構える。
「マルド、お前まで……」
「俺はサファド様の代わりである冷峰に命じられてここに来た。そして裏切ったお前を攻撃しただけだ」
くそっ、冷峰だけなら何とかできたがマルドまで加わると一苦労だな。もうなりふり構ってる暇は無いな。
一気にここを抜け出してあいつに、閃華にこの事を伝えればどうにかしてくれるかもしれない。今はそれに賭けるしかない。
ミラルドは鎌を構えると一気に出口に向かって走り出すのだった。
運命という物は時に思わぬ場所で加速する場合がある。そして昇は未だに、加速し始めた運命の歯車に気付いてはいなかった。
そんな訳で第二十五話をお送りしました。
え〜、修正以前はこの後書きの欄に人気投票の説明を書いていたのですが、まったく反応が無いので削除しました。……というか少しぐらい反応があってもいいとおもうんだけどな。
まあ、そんなことはさておき、そんな訳で二十五話の後書きは全て書き直す事になりました。
……っと言っても書く事なんてそうそう無いんですけどね。はいそこの方、なら書かなくていいんじゃないかと思わないように。後書きにはそう不思議な力があるのです。なんかこう、何かを書かなくてはと思ってしまうほどのパワーを秘めているのです。その破壊力は銀河さえも破壊するほどだーーー!
まあそんなことはどうでもいいんですけどね。けど、後書きは何か書かないとって思うのは私だけでしょうか。まあ、後書きでここまで書いてるのも珍しいですよね。ちなみにブログでもこんな感じでいろいろと書いてますよ。……なんだろうね、いったいこれは。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、何も書く事が無くても本能とノリでいろいろと書く葵夢幻でした。