第二十一話 予期せぬ乱入者
「りゃあぁー!」
閃華の加勢により士気の上がった琴未は雷閃刀に溜めた雷を一気に解き放ち、枝分かれした雷撃が羽室へと襲いかかる。だが羽室はそれらを全てかわしながら琴未との距離を一気に縮めていく。
「させん」
閃華が羽室の前に立ちはだかり方天戟を一閃、当たりはしなかったが羽室は大きく後退せずにはいられなかった。
それでも羽室は笑みを浮かべている。
「いいね、いいね、この感じがさ」
羽室は再び走り出すと今度は閃華に向かっていく。当然閃華は攻撃を入れるが、羽室は閃華の攻撃をかわすと、今度は琴未に向かって走り出して止まった。
まるで攻めて来いと言わんばかりに、二人に挟まれる位置を選んだ羽室。
やれやれ、これじゃから戦闘狂はやっかいなんじゃのう。
閃華は目線を琴未に送ると、琴未は閃華の視線に答えるように頷いた。そして二人同時に羽室に向かって走り出す。
「さあ、きな!」
待ってましたと嬉しそうにする羽室。
琴未と閃華は同時に攻撃を繰り出しすが羽室の二刀に防せぐ。閃華と琴未は攻撃を続けるが羽室はその状況を楽しむかのように、二人の攻撃を防ぎつつも時々反撃も入れていた。
羽室の技量に琴未は改めて感心するが攻撃の手は緩めなかった。それは閃華も同じである。だが所詮は二対一、羽室が不利なことに変わりは無い。その証拠に攻防の中で羽室は少しずつではあるが傷を負っていく。
それでも羽室は満足そうに笑みを浮かべながら二刀の大太刀を振るうのであった。
さすが戦闘狂じゃのう、この状況でも楽しむか。
異常とも言える闘争心、それが羽室をかきたてる。
じゃがこのままでも追い込めるが、決め手がないとまずいのう。それにこやつがこのままで済むとは思えん。
その通りだった。
羽室は二人の攻撃を同時に受け止めると今まで溜めていた力を一気に解放、刃が重なっている部分が一気に爆発を起こす。
「キャッ」
「ぐっ」
思いがけない羽室の反撃に琴未と閃華は吹き飛ばされてしまうが、爆発がそんなに大きくなかったのか二人とも立ったまま着地することが出来た。
まるで自爆じゃな、じゃが威力が弱い。すぐに反撃に来るじゃろうな。……ほれ来た!
粉塵舞う中で羽室は閃華に向かって姿を現した。
羽室は分かっているのだ。琴未よりも閃華のほうが強いということを。普通なら弱いほうから倒すのがセオリーだが、戦闘狂にそんなセオリーは無い。ただ少しでも強い敵に向かっていくだけである。
さすがにここまでやられると、私でも嫌になってくるのう。
羽室は先程の爆発の中心点にいたのだから無事であるはずが無い。それどころか額から血まで流れている。それでも羽室の笑みは消えることは無かった。
今度は閃華と刃を交える羽室。
閃華は琴未の方へと目を向けるが、まだ粉塵が消えておらず姿を確認することが出来なかった。
琴未の事じゃ、この剣戟音を聞けば私と戦っていることが分かるはずじゃから、短慮的には動かないはずじゃ。とりあえず、今はこやつの相手をしておるか。
そのまま閃華は羽室との攻防を続ける。
だが今度は一対一、閃華は羽室に傷を負わせるどころか対等に立ち回るだけだった。
「いいね、さすがだよ。さっきの人間の小娘よりかは出来るじゃないかい」
「私としては、さっさと終わらせたいのじゃがのう」
「こんな楽しいことが、そう簡単に終わってたまるかい」
その時だった。粉塵が晴れて閃華はやっと琴未の姿を確認することが出来た。
琴未は雷閃刀を水平に構えており、その剣先には魔方陣が展開されている。そして魔方陣の先には巨大な雷球がすでに準備されていた。
閃華は上から振り下ろされた羽室の太刀を受け止めると、そのまま腰を沈めて羽室のバランスを崩し、前屈みにさせてから腹に蹴りを入れて宙に浮かせる。そして閃華は低い姿勢のまま横へと飛びのいた。
「雷神閃!」
それと同時に琴未の雷球が巨大な雷となり羽室に迫る。
「いかん、高さが足らんかったか!」
閃華は羽室が着地する前に琴未の攻撃が当たるように宙に浮かせたつもりだったが、思っていたよりも羽室は高くは上がらず、琴未が攻撃を放ってからすぐに地に足をつけることになってしまった。
確かに今のタイミングなら琴未の攻撃を避けることができただろう。だが羽室は避けるどころか、迫り来る巨大な雷に二刀を交差させるように構えた。
これも戦闘狂ゆえの行動かのう。避けるよりも受け止めるほうを選ぶか。
そして巨大な雷撃は羽室の刃とぶつかり合う。
「何この手応え、まさかあいつ受け止めてるの!」
「琴未! 攻撃を緩めるな、そのまま押し切るんじゃ」
閃華の言葉に琴未は頷くとありったけの力を羽室にぶつける。
だが羽室は少しずつ後退はしているが琴未の攻撃を完全に防いでいた。
「あははっ、やるじゃないか人間のお嬢ちゃん。なかなかのもんだよ」
それでも戦闘を楽しむ羽室は笑いながら攻撃を防ぎ続けるが、閃華も軽い笑みを浮かべた。
「ふっ、これも戦闘狂のサガじゃのう」
「なに!」
「もう遅いぞ。龍神激」
龍水方天戟に巻き付いていた水の龍はいつの間にか方天戟より離れており、水の量を大幅に増した巨大な龍となっていた。そして琴未の雷と大きさが負けないぐらいの水の龍は羽室に向かって突っ込んでいく。
「ぐっ」
羽室はとっさに片方の刀を放して水の龍を防ぐが、琴未と閃華の最大級クラスの攻撃である。羽室でもその両方をいっぺんに喰らっては持つはずが無い。
結果、羽室は琴未と閃華の攻撃に飲まれて、雷を帯びた水の龍となった二人の攻撃は建物を突き破っていき、数百メートル先が見通せるぐらい破壊してしまった。
「さすがに、これには、耐えられない、でしょ」
「そいつはどうかのう」
未だに息の荒い琴未と合流した閃華は不吉なことを言い出す。
「相手は戦闘狂じゃ。あやつらは自分の存在が完全に消えるまで戦いをやめようとせん。じゃからあやつが立てる限り、終わりとはならん」
「あまり、嫌なこと言わないでくれる」
「じゃが事実じゃ」
「ああ、もう、いい加減にして欲しいわ!」
「それは相手次第じゃのう」
「あのまま倒れて欲しいわ」
「残念じゃったのう、琴未」
「えっ」
そう言って閃華が指差す先には、よろけながらも立ち上がろうとする羽室の姿があり、その姿はすでにボロボロになっているが、顔の笑みだけは消えることだけは無かった。
その羽室の姿に琴未はヒステリーでも起こしたかのように髪を掻き続ける。
「ああ、もう、本当にいい加減にして欲しいわ!」
さすがに今のは効いたね。だがあたしをここまでするなんて何百年ぶりだろうね。あの二人、組めば本当に楽しいね。
ボロボロになり、各所から少しずつ流れ出る血をまったく気にすることなく。羽室は再び二刀の大太刀を構えようとした時、突如羽室の横から爆発が起こり、何かが羽室の前を横切っていき、強靭な建物にその身をぶつけることとなった。
羽室は横切った者の姿を確認すると肩をすくめながら笑いかける。
「おやおや、スクラウド。あんたも随分とやられたみたいだね」
「けけっ、そういうテメーだってヒデー姿じゃねえか」
「そうさね。こんなに楽しいのは久しぶりだよ」
「けけっ、そいつはちげーねえ」
これも戦闘狂のサガなのだろうか、完全な負け戦に見える状況でも二人は絶対に退こうとはしない。むしろ喜んで死地に向かっていくだろう。
そんな二人を前にしてシエラ達も琴未達と合流したようだ。
「おや、あっちも揃ったみたいだね」
「そうみたいだな」
「っで、どうするんだい」
「けけっ、これから楽しくなってくるんじゃねえか。ここで退席しちまったら勿体無いだろ」
「そうさね、そのとおりさ」
こうして戦闘狂の二人は再び戦闘体勢へと入っていく。
シエラとミリアの二人はスクラウドを吹き飛ばした後、琴未達の姿を確認するとそこに合流した。
「とりあえず、状況は四対二、こっちが有利なのは変わりない」
「じゃがあいつらは引くことを知らん戦闘狂じゃ。さて、どうしようかのう」
「皆、大丈夫」
「昇!」
振り返る四人は走り寄ってくる昇の姿に驚いた。
「急に静かになったから来てみたんだけど、皆大丈夫」
「うん、今のところは皆元気だよ」
「ミリア、私は少しうんざりしてるけどね」
「琴未〜、ファイト!」
「いや、そう言われても困るだけなのよね」
「あの二人、そんなに強いの?」
「いや、強いというよりやっかいという感じじゃな」
「やっかいって?」
「あの二人は退くことを知らない、ただ戦いを楽しむだけの戦闘狂。だからまだ、戦いは終わってない」
「えっ、あの二人かなりやられているように見えるんだけど」
「それでも戦うことをやめないのが戦闘狂じゃ」
「うわっ、すごっ」
「昇、感心してないでなんとかしてよ」
「いや、僕に言われても困るんだけど」
「とりあえず、私達にしてもこれ以上の戦闘はキツイ、というか嫌になってきた。だから今のうちに何か手を打たないと」
「じゃが、あまり相談している時間は無さそうじゃのう」
「えっ」
昇が閃華と同じ方向を見る頃には、羽室とスクラウドは今にも動きそうなほどの殺気を放っていた。
「とりあえず、キツイがじわじわと追い込んでいくしかないみたいじゃ。昇もなるべくエレメンタルアップを強く出来るようにしといてくれ」
「うん、分かった」
昇が離れたのを確認すると四人は再び戦闘体勢へと入っていく。
そして両陣とも一斉に動き始めた。
それは突然の砲撃のようなものだった。
それがぶつかり合おうとしている。シエラ達と羽室達の丁度真ん中に着弾して、小規模な爆発を起こす。
「なんだい、いったい」
「新手か、それともあやつらの手じゃろうか」
混乱する両陣営、だが砲撃をした人物は羽室達の後ろに浮いていた。
「羽室、スクラウド、戻るぞ」
「シェード! 何であんたがここにいるのさ」
「サファドからの命が届いた。二人を連れ帰るようにとな」
「ざけんな、これから楽しくなるの言うのに引き下がれるか」
「これもサファドからの伝言だ。これ以上ロードナイトとして醜態をさらすようなら、それなりの処分をするそうだ」
「ぐっ、」
「くそっ!」
納得がいかないのか、楽しみを奪われて悔しいのかは分からないが、羽室とスクラウドの二人はシエラ達に向かって高々と叫ぶ。
「今回はこれで終わりにしてやる。だが、次ぎあったときにはテメーらをぶっ倒す」
「そこら辺をよく覚えておきな」
言いたい事だけを言った二人は少しだけ満足したのか、先に姿を消した。どうやら完全に撤退したらしい。
そしてシェードも姿を消そうとした瞬間、昇が叫ぶ。
「ちょっと待って!」
その声にシェードの転送術は止まってしまった。
「物のついでじゃ、名乗っていったらどうじゃ」
だが先に口を開いたのは閃華だった。
「……ロードナイトが一人、シェード」
「なんで、あの二人は僕を襲ってきたの?」
「そう命令されたからだろう」
「やはりそうじゃのう」
「閃華?」
閃華には何か心当たりがあるようで、その顔は確信を表していた。
「ならお主らの主に伝えてもうらおうかのう。私達はお主らの邪魔をする気は無い。だから昇には手を出すなとな」
閃華の言葉にシェードは少し考え込むとゆっくりと口を開く。
「それはどうだろうな。もし真実を知ればお前達が動かないという保証は無い」
「その真実とやらはなんじゃ」
「それは俺も知らん。知りたければ自分で調べるがいい」
「ちょっと待って」
だが今度は昇の制止を聞かずに姿を消すのだった。
誰もいない虚空を見詰めながら昇は何かが引っかかっていた。
さっきの人、あの二人とはまったく違う何かを感じたんだけど、あの感じはなんだったんだろう。
昇がそんなことを考えていると、突如赤く染まった世界ヒビが入り始めた。
「しまった、この精界は敵の作った物」
「シエラ、大丈夫じゃ。私がこの精界の上にもう一つの精界を作っておいたからのう」
閃華の言ったとおり、赤く染まった世界が一瞬にして崩れ去ると、今度は青く染まった世界になった。
「よかった。……そういえば閃華、なんでこの精界が敵が作った物だって分かったの?」
「それは簡単なことじゃよ昇。我々精霊が作り出す精界は属性によって染まる精界の色が決まっておるからじゃ。私は水の属性だから青、ミリアは土の精霊だから茶色、シエラの場合は翼の精霊でも異なる物なんじゃが、シエラの場合は白みたいじゃからのう。そして赤い精界は炎の属性を示しておる。私達の中に炎の精霊はおらんから敵が作った精界だということはすぐに分かるのじゃよ」
「へぇ〜、そんな風に見分けるんだ」
「それより閃華」
「シエラ、なんじゃ」
「さっきの閃華の反応だと昇が襲われた理由について何か知ってるんじゃない」
「ふむ、この騒ぎが起きるまではあくまでも推測で動いていたんじゃが、今回のことで確信に変わったからのう」
「じゃあ、聞かせて」
「まあ、そう焦るでない。とりあえず、私達も戦闘の後じゃ。話は家に帰ってからゆっくりとしよう」
「……そうね」
「はぁ、やっと終わった」
琴未は崩れるようにその場に座り込む。
「琴未、大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れただけだから。でも、せっかくの昇とのデートがこんな形になちゃったのは残念かな」
「昇は私とデートをしてたの、琴未はおまけ」
「人をオマケ扱いするな!」
「まあまあ、二人とも……」
「じゃあ今度は私が昇とデートをする番だよね」
「ミリア! なんでそういうことになるのよ」
「え〜、だって、二人だけが昇とデートして私はしてないんだよ。不公平じゃん」
「ミリアは友達と約束があるから、そっちで遊んでなさい」
「う〜、雪心と昇は別だよ。だよね、昇」
ミリアはそう言いながらちゃっかりと昇に抱きつく。
『離れなさい!』
シエラと琴未は声を揃えてミリアを無理矢理昇から剥がす。
「う〜、これくらいのスキンシップぐらいいいじゃん」
「ダメ! それが許されるのは妻の私だけ」
「どさくさに紛れてなに言ってるのよシエラ!」
「……えっと、そろそろ家に帰るんじゃ」
『昇は少し黙ってて!』
「はい……」
そのまま続く昇を巡る言い争いを閃華は呆れながらも楽しそうにみていた。
やれやれ、いつもの事ながら騒がしいのう。けどまあ、それが一番よいのかもしれんのう。
じゃが、これから先、もし私の推測が当たってるとしたら。それに与凪が掘り出す真実しだいによっては当分この戦いは終わりそうにないのう。
いや、その前に昇がどう決断するかじゃな。このままロードナイトに関わるのか、それとも見過ごすのか。……まあどちらにしても出てくる真実次第では昇は動くじゃろうな、あまり大きなことが出てきてそれを見過ごせるほど昇は弱くは無いからのう。
それに……
閃華はミリアへと目と感覚を向ける。
もしやすると、ミリアは知らないうちにこの件に関わってるではないじゃろうな。この気配、どうも先程の奴と一緒のような気がしてならん。
……まあ、今ここで私が考えをめぐらしてもしょうがないのかもしれんのう。今はただ流れに身を任せるしかないのかもしれん。今の昇には未だに迷いがあるからのう。その迷いが消えん限り、昇は運命に立ち向かう事は出来んじゃろ。じゃから今は運命に身を任せるとするかのう
そんな閃華をよそに昇を巡る騒ぎは続き、なんとかそれを収拾すると皆揃って家路に付くのだった。
ロードナイト編、その初戦が終わりました。いやー、本当は一話にまとめたかったんだけど、どうしても二話になっちゃいました。バトルシーンって書き出すとどうしても長くなるよね。というか私がリアルに書きすぎ?
まあ、そんなことはこれから考えるので、とりあえずそこら辺に置いときましょう。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、この物語の主人公は本当に誰なんだろうと思い始めた葵夢幻でした。