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第二話 変わり始める日常

 

 昇が目を覚ますといつもの見慣れた天井が見えた。

 ……あれっ、僕はいつの間に寝てたんだろ。

 まだまどろんでいる昇の頭が先程の白い空間での出来事を思い出す

 シエラだっけか、結構可愛かったけど、最後はなんか思いっきり騙されたし、やっぱり夢でよかったのかな。でも。

 昇はシエラとのキスを思い出すかのように自分の唇を撫でた。

 ちょっともったいない気もするけど、やっぱり僕には戦う事なんて出来ないよな。だから、夢でよかったんだよ。うん、そういうことにしよう。

 そう思い直し昇は時計を見ると九時を過ぎていた。さすがに今日からゴールデンウィークといってもいつまでも寝てるわけにも行かない。

 起きようとする昇だが、何故か起き上がることが出来なかった。

 あれ? なんで、というか何か乗ってるような…。

 だんだんとはっきりしてくる昇の頭が五感を正確に脳へと伝え始めると、嗅覚がどこかで嗅いだ事のある甘い匂いを頭に伝達する。

 もしかして……。

 嫌な予感がする中で昇は掛け布団を取り去る。

「なんじゃこりゃぁーーー!」

 どこかで聞いたようなセリフを叫ぶ昇。

 けどそれもしかたないだろう。なにしろシエラが昇に抱きつく形で添い寝をしていたのだから。しかもシエラは下着姿だ。

 なんだこれ、あれは夢じゃないのか? というかその前にこの状況は何なんだー!

「シエラ、シエラ、っていい加減に起きろ」

 未だに昇にしがみつきながら寝ているシエラの体を揺らして起こそうとするが、せっかくの快眠を邪魔されているのが嫌なのか、シエラは昇の首に手を回すと思いっきり抱きつく。

 ……はっ!

 大胆すぎるシエラの行動に昇は一瞬我を忘れていたが、自分を取り戻すと少しずつ体を動かして行き、何とかベットの上に座る形になるが、それでもシエラは一向に起きる気配が無く、昇に思いっきり抱きついて未だに熟睡している。

 なんでこんな格好で熟睡できるんだよ。

「シエラ、シエラ、もういい加減におきてよ」

 何とかシエラを体から離そうとする昇だが、シエラは離れるどころか起きる事も無かった。

 いったいどんだけ朝に弱いんだよ。というか本当に寝てるのか?

 その後も昇はシエラを起こそうと奮迅するが、それが逆な結果に結びつくことになるとは思いもよらなかっただろう。というか今の昇にそれだけのことを考える余裕など無かったのかもしれない。

 そしてその時はやってくる。

 ドアがノックされその奥から声が聞こえてきた。

「昇、起きたの? それにさっきから何をそんなに騒いでるの?」

「母さん! いや、なっなんでもないから。本当、ちょっと朝だからハイテンションなだけだから」

 混乱からかワケの分からない言い訳をする昇。まあ、それもしかたないだろう。まさか自分の母親にこんな場面を見せるわけには行かない。けど、昇が慌てるのはそれ以上の意味が有ったからだ。

 まずい、本当にまずい。もし母さんにこんなところを見られたら……僕の命は無い。言い過ぎかもしれないけど、これだけは断言できる。僕が無事で済む訳が無いと言うことだけは。

「昇、昨日フラフラっと帰ってきたらすぐに寝ちゃったけど、どこか具合が悪いところがあるの?」

「いや、そんなんじゃないから、もう全然平気だし元気だから」

「そお、でも一応熱だけ測っておく?」

「いや、いいからそんなの、大丈夫だから」

「なに言ってるの、ちょっと待ってなさい。今体温計持ってくるから」

 それだけを言い残して一旦遠のいていく母親の足音。

 まずい、本当にまずい。こんな状況で母さんが入ってきたら、僕は、確実にやられる。

「シエラ、シエラ、頼むから起きてくれ、シエラ、お願いだから」

 それでもシエラは昇から離れることなく、それどころか更に力強く昇に抱きつく。

「というかシエラ、起きてるだろ、確実の起きてるだろ。まずいんだって、このままじゃ確実にまずいんだって」

「昇、入るわよ」

 そして再び聞こえてくる母親の声だが、今の昇には悪魔の声にしか聞こえなかった。それでも昇は最後まであがく。

「ちょっと待って! 今着替えてる最中だから入ってこないで」

「何を今更言ってるのよ。あなたの裸なんて赤ん坊の頃から見てるわよ」

「思春期なの。だからダメ」

「昇、さっきから何を隠してるの?」

「うっ」

 さすが母親といった所だろうか、昇の母親は見事にその心中を見抜いていた。

「じゃあ、入るわよ」

 ドアノブが回り開き始める。

「ダメーーー!」

 叫ぶ昇の関わらずドアは完全に開き、昇の母親はその光景を目にしてそのまま動かなくなった。

 まあ、さすがにこんな光景が待っているとは思っていなかったのだろう。自分の息子が女の子を部屋に招きいれて、しかも女の子は下着姿で昇と一緒にベットで抱き合っているだから。

 いったい何があったのか。昇母親の頭にいろいろな想像が巡り巡る。

「昇」

「いや、これは、ちっ違う。シエラがいつの間にかここに…」

「へぇ〜、その子、シエラちゃんって言うのね」

 笑顔を浮かべながら易しく言ってくる母親。だがこの親子の関係は意外と強いようで、昇の目には、はっきりと母親の後ろに漂う黒いオーラが見えていた。

「とりあえず、お母さんの前だし、シエラちゃんと離れてくれる?」

「それがさっきから離れなくて」

 再びシエラを引き剥がそうとする昇。だが意外なことにシエラはすんなりと昇から離れてベットへと寝転んだ。

「あれっ」

 さっきまではあんなに抱きついてたのに、ということは……こいつやっぱり起きてやがったのか!

 ベットに寝転んでいるシエラは寝返りを打つのと同時に自然と手を動かし、ごめんねのポーズを昇に向ける。

 やっぱりかぁぁぁーーー!

 殺気を出してシエラを睨み付ける昇だが、それ以上の殺気が近づいているのに気付く。

「あっ、あの、母さん、これは…」

「いつから女を連れ込むようになった。この、ドラ息子」

 母親のアッパーが昇にクリーンヒット、そのまま宙を舞うと母親の後ろへと落下する。そして母親は床に倒れている息子を足げにする。

「お母さんもさあ、女の子と付き合うなとは言わないけどさ。さすがに自分の部屋に連れ込んで一夜を過ごすのは早過ぎないかい。なあ!」

 そのまま母親は昇の背に蹴りを入れ続けながら文句を言い続けた。昇が意識を失うまで……。



「それでシエラちゃん、昇とどういう関係なの?」

 さすがにいつまで狸寝入り出来ないシエラは、昇の母が揺り動かすとすんなりと起きてそのまま指示に従った。

 そしてシエラは着替えを済ませるとリビングへと降りて行き、出されたお茶をすすりながら昇の母と対面しているわけだが、シエラは何のちゅうちょも無く、堂々と答える。

「私と昇との関係、それは一生離れられない、と言った感じです」

 そんな大胆発言にもかかわらず、昇のは母のんきにお茶をすすると何かを思い出したかのように手を叩く。

「あっ、そういえばまだ私のことを話して無かったわね。昇の母で彩香あやかです」

「はい、よろしくお願いします。お義母様」

「あら、いきなりお義母様だなんて、シエラちゃん本気なの?」

「はい、昇は私が選んだ人ですから」

「そう」

 彩香は再びお茶をすすると誰に言うでもなく独り言を呟く

「いつかはこういう時が来ると思ってたけど、こんなにも早く来るとはね…」

 それは思いっきり誤解なのだが、未だに目をつぶり物思いにふけっている彩香には、してやったりと笑顔を浮かべるシエラの顔は見えなかった。

「そういえば、シエラちゃんのご両親は?」

「今は居ません」

「えっ」

「実は…」

 シエラはまるで辛い過去を思い出すかのように表情が暗くなり、声も小さくなる。

「私の両親は突然の事故で死んでしまって、そして両親の遺産を狙ってる親戚たちに根こそぎ遺産を取られて、私は住むとこまで失い一人、何処にも行くあての無い私はこの町まで流れてきました。そんな時に出会ったのが昇です。昇はこんな私に優しくしてくれて、それで私、恩返しがしたくてせめてと思い。あんなことを……」

「そう、そうだったの」

 思わずうんうんと首を縦に振る彩香。

 もちろん先程のシエラの話は全て嘘である。そもそも精霊であるシエラに両親など居るはずも無く、シエラはまるで事実のように彩香に話したのだった

 それでシエラはうまく彩香を騙した……つもりだったのだが。

「まあいいわ、とりあえず本当の事を話してくれるまでウチにおいてあげるわ」

 彩香は完全にシエラの嘘を見破っていた。

 そしてそれ以上は何も聞いて来ない彩香に感心すると同時に負けた気持ちも湧き上がってきた。

 どちらにしてもシエラの完全な負けである。だが、それでもシエラはあまり悔しくは無かった。

 ……まあ、いいか。どちらにしろ昇の傍にはいられるみたい。

「そういえばシエラちゃん、荷物は?」

「ありません」

「えっ」

「私は元々荷物なんて必要じゃなかったんです。ですから荷物と呼べる物は今着ている服ぐらいです」

 さすがにこの発言には驚いたのか彩香は驚きの表情を隠せなかった。

「他の服も下着も無いの?」

「はい、これだけです」

「ダメよ、女の子がそれじゃあ」

「今まで必要が無かった物で」

「でも、これからは必要でしょ」

「……そうかもしれません」

「じゃあ、昇が起きたらシエラちゃんの服を買いに行きましょう」

「ではお義母様、これを」

 そう言ってシエラが差し出したのは一つ分厚い封筒だった。彩香がその封筒の中身を確認すると、かなりの大金が入っていた。

「ちょっ、シエラちゃん、これ!」

「これからお世話になるのですから、それぐらいは当然かと」

「けど、これは多すぎるわよ。こんなにも貰えないわ」

「では預かっといてください。私が必要な時にはいいますので」

 彩香は少し考えた後、シエラの言うとおりにお金の管理をする事にした。

 そして彩香はとりあえず預かったお金を整理するためにリビングを後にするが、シエラは彩香を見送ると再びお茶をすすり物思いにふける。

 あの人、あれ以上は何も聞いてこない。もっといろいろな事を聞かれると思ってたけど、私の嘘を見破った上に置いてくれるなんて、それほど器が大きいのか、それとものんきなのか、どっちらかね。

 けど、だから昇の母親なのかな? まあいいか、争奪戦が激しくなってくれば話す時が来るのかもしれない。その時が来るまで、私は私のやるべきことをやればいいか。

 シエラが彩香の器の大きさを計っている中で、彩香が戻ると二人はそのまま世間話に花を咲かせた。

 やっぱりこの人、器が大きい。

 シエラに関して何も聞いてこない彩香に、シエラは改めて彩香の器の大きさを実感するのだった。



「ねえ、まだ行くの」

 両手に荷物を持った昇がいい加減に飽き飽きした声で先行する彩香に声をかける。シエラはというと、昇の両手がふさがってるのをいいことにいつの間にか昇と腕を組んで歩いてる。

「当然でしょ。シエラちゃんの買い物が多いいんだから、まだまだ店を回らないと」

「え〜」

 不満の声を漏らして昇は辺りにある店を睨み付けた。

 今昇達が居るのは多数の店が入っているショッピングモール。中には大きなデパートもありかなりの店舗が軒先を並べている。

「昇、ごめん、私の所為で」

 上目遣いでなるべく猫を被るシエラに昇はいい加減に気付いてはいるのだが、そういう仕草をされるともう何も言い返すことが出来なかった。

 うっ、今まで僕は女の子に縁が無かったからな、シエラにそういう風にされると断りずらい。けど、……疲れた。いい加減に休みたい。

 それでも昇は数件の店を共に回らされて、その度に荷物が多くなってくる。

 そして昇はとうとう疲れたと言い出し、しかたなく荷物はシエラが一人で軽々と持った。

「まったく情けない。女の子に荷物を持たせるなんて」

「お義母様、私なら大丈夫ですよ」

「はぁ、どうしてこんなヘタレな子に育ったんだか」

 あの〜、一応母さんの息子で育てたのは母さんなんだけど。

「まあしょうがない。昇はどこかで休んでなさい。私達はこのまま買い物を続けてるから」

 やっぱりまだ買い物が有るんだね……。

 結局昇は駐車場近くにある休憩所に非難することが出来た。



 それから三〇分後

 どうして女の人の買い物ってこんなにも長いんだろう。

 昇は未だにここに非難していた。

 はぁ、まだ時間がかかるのかな?

 たそがれている昇だがいっこうに買い物が終わったという連絡は来ない。どうやら未だに買い物を続けているようだ。

 まったく、早くしてくれないかな

 そんなことを思いながらも昇は一番大事なことを忘れていた。騙されたとはいえ昇はすでに契約者であり、争奪戦に巻き込まれている。

 まあ、昨日契約したばかりで今日は普通の日常を過ごしているのだ。忘れてもしょうがない。だが相手はそんな昇の事情なんて知りえもせずに、ただ昇から感じ取れる精霊の気配に気付いていた。



「おい、あいつが本当に契約者なんだろうな?」

「はい陽悟様、間違いないです。確かにあの人から精霊の気配を感じます」

「そうか、じゃあさっさと狩っちまうか」



 争奪戦の幕はすでに上がっており、昇はすっかり争奪戦に巻き込まれていた。







 そんな訳で第二話ですが、なにこれ、コメディーとか思わないでくださいね。これからシリアスになっていくので、ですから見捨てないください。

 というか、シリアス部門で登録しておきながら出だしは思いっきりコメディー調だな。まあ、私が言うのもなんですが、やっぱりシリアスな部分だけを書いてると疲れんですよ。やっぱり時には笑いどころも作っておかなと、はいそこの方、そんな事を自分で言うなよって突っ込まないように、そんな事は百も承知なんじゃーーー!

 はい、そんな訳で第二話はこんな形になりました。とりあえず、これから一気に戦闘へと入って行くので見捨てずに付いて来てください、お願いします。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、見捨てないで付いて来てくれる読者が多くなる事を願う葵夢幻でした。

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