第十九話 襲撃者は突然に
そこは暗い寝室の中、小柄な人影はベットに横たわる少女に近づいて手をかざし、少女の状態を調べる。
「完成率60パーセントですか、思っていたよりも早いですね。まあ、早ければ早いほど私の望みは早く叶うという物です」
その時ふとそれが近づく気配を感じた。
そういえば、ここには大きな犬がいたんでしたね。見つかると面倒ですから、今日のところはここで退散しますか。
そして寝室は少女一人になり、少女を起こさないためか寝室のドアが静かに少しだけ開いた。そしてその大きな犬とやらは寝室に異常が無いことを確認すると、また静かにドアを閉めるのだった。
そこはまるで王室を思わせるような巨大な部屋。部屋の壁やら柱にはいろいろな彫刻が彫ってあり、高そうな調度品まで置いてある。
そして部屋の奥には数段高くなっており玉座にサファドはそこに腰をかけていた。
「来ましたね」
静かに言ったサファドに答えるかのように、二人の人物がサファドの前に現れる。
一人は女性で背中に大太刀を二本、背負っており。その鋭い眼光はまるで刃のことく自分の存在を表しているようである。
そしてもう一人は男。小柄だが腰を曲げて立っている所為かよけいに小柄に見える。
そして二人とも嬉しそうな笑みを浮かべてサファドの前に並んで立った。
「私達を呼んだってことは、やっと出番なんだね」
「けけっ、随分と待たされたが、まあ、やれるんなら文句はねえ」
「まあ、一応そういうことですね」
「一応って言うのはなんだい」
まるでサファドの言葉が雑用をさせるように聞こえた女は不満げな声を上げる。
「羽室、私としてはこの計画に邪魔は入って欲しくないのです。ですから、あなた達をロードナイトとして実体化させてあげたのではないですか。ねえ、スクラウド」
サファドは男のほうに向かって同意を求めた。だが、スクラウドはそんなことはどうでもいいという感じで、あまり興味を示さず。ただ、サファドを見るめるだけだった。
さっさと命令を出せと言わんばかりに。
さすがにこれにはサファドも肩をすくめながら溜息を付いた。
「やれやれ、しょうがないですね。本題に入りましょう、とりあえずこれを見てください」
そういって羽室とスクラウド前に現れたのは四角いモニターのようなもの。そしてそこには昇の写真が映し出されていた。
「なんだい、こんな女が相手なのかい?」
「こうみえても男ですよ」
「ずいぶんと可愛い顔した男だね」
「けけっ、切り刻んだらさぞかしいい顔になるんじゃねえか」
「残念ながら、相手はこの人間ではありません。この人間と契約をした精霊です」
「まあ、そうだろうね」
「ですから、お二人にはまずこの人間を探してもらって、襲って欲しいのですよ。そうすれば自然と精霊も姿を現すでしょう」
「探すって、居場所は分かってないのかい?」
「はい、残念ながら」
「はぁ、ずいぶんと面倒なことをさせてくれるね。そこまでしてこいつを消す意味があるのかい?」
「羽室、私は計画を完璧にしたいだけですよ。だから邪魔になりそうなものは早めに排除しときたいのですよ。そのためにロードナイトを結成させたのですから」
「まあ、言いたい事は分かるけどさ。こんな奴があんたの邪魔になるのかい?」
「さあ、それはどうでしょう」
「そこもハッキリしないのかい」
「さっきも言ったでしょ。私は計画を完璧にしたいだけなのですよ。ですから邪魔になりそうな者は排除する。それだけです。それに、この付近で確認できた契約者は彼だけですから、彼さえ排除すればもう私の計画に邪魔は入らない、そういうわけですよ」
「まあ、そうだけどさ。わざわざこっちから出向くのかい?」
「ええ、そうしてもらうと助かります」
「まっ、俺は切り刻めればどうでもいいけどな」
スクラウドの本音に羽室も同調する。
「確かにそういえばそうさね。分かったよ、こいつを始末してくればいいんだろ」
「ええ、そうです」
「俺はやれれば誰でも構いやしねえよ」
「そうですか、それではお任せします。……ああ、そうそう、くれぐれもロードナイトとしての行動をとってくださいよ」
「はいはい、分かりましたよ」
「けけっ、気が向いたらな」
そういい残して二人ともサファドの前から姿を消した。
静寂が戻った王室にはサファド一人が残り、玉座に腰を座りながらもう一度、昇の画像を出す。
まあ、こんなのが私の邪魔になるとは思いませんが、万が一ということもありますからね。潰しておいたほうがいいでしょう。
それにもうすぐなのですから、もうすぐ私は王となる。くくっ、あーはっはっはっ。
その日は休日で昇るとしては家でゆっくりと静かな時間を過ごしたかったのだが、それは無理だった。
なにしろシエラがデートしようと言い出して、もちろん琴未がそんなことを許すはずも無く、さんざん議論した結果、シエラと琴未を連れて昇は出かけることになった。
そんな訳で両手に花の状態で昇は時折痛い視線を感じながら商店街を歩いていた。まあ、左右別々の女の子と腕を組んでいるのだから、時折感じる視線もしょうがないというところだろう。
「そういえば、閃華は?」
ミリアは友達と遊ぶと聞いていたけど、閃華の様子が最近変なんだった。与凪とはよく話しているし、自分でもいろいろと調べまわっているらしい。
昇には閃華の行動が何かをが起きる前兆のような気がしてならなかった。
「そういえば最近の閃華は部屋に篭ったり、ときどきいなくなったりしてるわね」
「この前言ってた、昔の顔なじみとの再会がよほど気になってると思う。昇にも警戒だけはするように言ったから」
「そうだね。そういえば、あれから閃華のおかしくなったみたいだけど。放っておいて大丈夫なのかな?」
「まあ、閃華のことだから大丈夫でしょ。そんな無茶をするとは思えないし」
「うん、まあ、そうだと思うけど」
だが昇にはどうして閃華がそこまでする理由がいまいち分からなかった。
というか、何で閃華はあんなに必死になっていろいろと探ってるんだろ。確かに僕が襲われる可能性もあるけど、契約者は僕だけじゃないし、他にも精霊と契約をした人もいるんだろうから、もしかしたらそっちに行く可能性もあるんじゃないのかな。
確かにその可能性もあるが、昇は致命的とも言える事実をすっかりと忘れていた。
それはシエラ達も同じで、シエラは店のショーウィンドに飾られている服の前に昇を無理矢理連れて行く。
「昇、この服なんはどう、私に似合うと思うんだけど」
ショーウィンドウに飾ってあるのは、軽くフリルの付いた白いワンピースだった。
「昇はどう思う」
「いや、どう思うって言われても」
そう言いながらも昇の脳内ではその服を着たシエラの姿を想像していた。
……う〜ん、白い長髪に白いワンピース。確かにシエラの清楚さが前面に押し出してて可愛いような気もするけど。というか、確かにこの服を着たシエラは確実に可愛いと思うんですけど。かなりきそうです。
だが男という物は案外正直なようで、昇は考えていることが顔に出て少しだらしない顔になっていた。
それを見た琴未が放っておくはずも無く、その隣飾ってある服の前に昇を無理矢理引き寄せる。
「昇、私にはこっちが似合うと思うんだけどどうかな。似合うと思う?」
それはミニのプリーツスカートにオレンジ色のシャツの上に袖の無いジャケットを着たマネキンだった。
「う〜ん」
シエラの時と同じように、昇の脳内は勝手にその服を着た琴未の姿を想像させる。
確かに琴未は活発的な部分があるから、こういう服も似合いそうだな。それにしても、あのスカートは短すぎないかな?
どうやら嬉しい反面、少し抵抗があるようだ。
琴未が僕の前だけであの短いスカートに突風でも吹いたら、って、僕はいったいなにを考えてるんだ。だー!、ダメだ、そんな目で琴未を見ちゃダメだ。
「ちょっと昇、大丈夫?」
「琴未、いきなり電信柱に頭をぶつける人は大丈夫とは言わない」
「そうだけど、ちょっとシエラ、とりあえず昇を止めないと」
「そうね」
再び両腕を取られた昇はそのまま引きずられるように、電信柱から離された。
「昇、いったいどうしたの?」
「いや、なんでもないよ。琴未、大丈夫だから」
「それより昇、こっちの服は私に似合いそう?」
シエラは昇を心配するよりも、先に自分に似合いそうな服を昇に指し示していた。
その服もスカートは短く、シエラの清楚さをまったく損なうことのない服だった。
えっと、これ、……抱きしめたい。ぐあぁ! 僕はまたなに考えてるんだ。ダメだ、そんなことを思っちゃ絶対にダメだ。
「昇……そんなに地面に頭を打ち付けると本当に怪我するよ」
「ふっ、琴未、それは健全な男子なら当然の発想」
「……シエラ、もしかしてワザとやってない?」
「ふふっ、そんなわけ無いでしょ」
嘘だ! 絶対に嘘だ。
昇はそこに抗議したいのだが、とりあえずシエラと琴未に地面に頭を打ち付けている昇を引っ張り上げてもらった。
「はぁ、はぁ」
「大丈夫、昇?」
「うん、まあ、なんとか」
「さすが昇、あんな方法で理性を保とうとするなんて凄い」
「シエラ! あんたやっぱり」
「軽い冗談、だからそんなに怒らないで」
「はぁ、まあいいけどね」
えっ、いいの? 僕、なんか酷い目に遭わされた気がするんだけど。
「私もいい加減、黒シエラに慣れてきたからね」
琴未、なに、その黒シエラって?
「変な呼び方をしないで」
「でも実際、シエラに黒い部分があることは確かじゃない」
やっぱりそうなんですか、シエラさん。というかかなり思い当たる節があるんですけど。
「ちょっとしたオチャメじゃない」
えっと、確か僕はそのオチャメで死に掛けた事があるんですけど。
「まあ、どっちでもいいけどね」
あの〜、僕が死に掛けた事はどっちでもいいのでしょうか。
昇のそんな気持ちをまったく気にかけない二人は再び昇の両腕に片方ずつ腕を組む。
「それじゃあ、次の店に行きましょうか」
「えっ、まだ行くの?」
「当然、昇には今日一日、付き合ってもらうから」
「はぁ、やっぱりそうなるんだ」
「まあ、これも運命だと思って諦めて、昇」
そんな運命変えたいです……。
そして昇達が今までいた店から離れようとした時だった。
突如、昇達より少し離れたところから光の柱が天に昇り、そこを中心点にドーム状に広がり、世界を赤く染めていく。
「精界!」
「シエラ、琴未」
「分かってる。おいで雷閃刀!」
「ウイングクレイモア!」
二人の体が光に包まれるとそれぞれの精霊武具をまとったい、光が消えるのと同時にその姿を現した。
「昇、エレメンタルアップ、いける?」
「うん、前ので発動条件は完全に分かったから、二人ともそれに合わせて」
「発動条件は何?」
「心を重ねること、つまり同じ思いを持つことが発動の条件。簡単に説明するとシエラと琴未が敵を倒したいと思っていて、僕も敵を倒したいと思えば発動できる」
「随分と簡単だね」
「でも、思いが弱いとそんなに能力を上げることは出来ない。今の例だとあんまり能力は上がらないかも」
「つまり、昇のエレメンタルアップは強い思いを繋げることによって、最大の効果を発することが出来る」
「う〜ん、そう言われると難しいね。同じことを思うだけならともかく、その思いが強くないといけないなんて」
「けど、最大値で成功させれば私達のレベルアップはとてつもなく上がる。効果が大きい分、その発動条件も難しいのは当たり前」
「世の中、そんな簡単にはいかないという事ですか」
「そう、……来た」
シエラは近づいてくる精霊の気配を確実に捉えていた。
「数は……2、後数秒で私達の前に姿を現す」
シエラの予告通りに、その精霊達はすぐに昇達の前に姿を現した。一人は昇達の真正面に着地して、もう一人は店の看板の上に着地する。
うわっ、閃華の言ったとおりに本当に巻き込まれたよ。というか、なんで僕だけ。
というか、あの二人精霊だよね。その割にはなんかシエラとは少し違うような気がするんだけど。
違和感を覚える昇だが、看板の上に膝を曲げるように座ってる男はまったくシエラ達を警戒することなく、もう一人の精霊に尋ねる。
「羽室、こいつで間違いないか」
「ああ、あんな女顔の男なんてそうそういないからね、こいつらで間違いないさ。それに精界の中に入れるんだ。どのみち潰しておいたほうがいいのさ、ねえ、スクラウド」
「けけっ、確かにその通りだ。精界に入れる奴は潰すに限る」
そのまま不気味に笑うスクラウドの笑い声に耐えられないのか、琴未は抗議の声を上げた。
「あんた達ね。さっきから何勝手なこと言ってんのよ。それに私達に何か用なの?」
「ああ、大有りなのさお嬢ちゃん。……おや、あんた精霊じゃなくて人間だね。どうやってそんな力を手に入れたんだい」
「私の特殊能力はエレメンタル。あなた達精霊と同等の力を得ることが出来るのよ」
「おや、そいつは今時珍しいね。昔はその能力を持つ人間が多かったけど、今ではめっきり少なくなってきたからね。けど、これで少しは楽しめそうだよ」
羽室は背負った二本の大太刀を一気に抜くと、まるで重さを感じさせないように構える。
「じゃあ、私の相手はあっちの変な奴かな」
「けけっ、変な奴と入ってくれるな。真っ白」
「あなたは色でしか判断できないの」
「んなことはどうでもいいんだよ。俺は只単にテメーを切り刻めればな。フレイムクロウ<炎を宿す爪>」
スクラウドの手が燃え上がると、炎はスクラウドの手を包むのと同時に両手から三本の炎が突き出て、それが精霊武具へと形を変える。
「さあ、焼かれるか、切り裂かれるか選びな!」
「じゃあ、あんたを倒すということで」
「けけけっ、いいねえ、その減らず口。ますます切り刻みたくなってきたよ」
「やれるものならやってみればいい」
「さて、じゃあ、そろそろ始めようかね」
「あなたは精霊武具を使わないわけ」
「あははっ、精霊武具ならすでに使ってるさ。この二陣乃太刀が私の精霊武具さ。私は刀の精霊だからね、よく似合ってるだろ」
「そお、私には只の刀にしか見えないけど」
「そいつは仕方ないさ。私は刀の精霊だからね、って二度も言わせるんじゃないよ!」
「あなたが勝手に言ってるんでしょ」
「シエラ、琴未」
後ろから昇が叫ぶ。
「分かってる」
「多分いけるよ」
「うん」
昇は精神を集中させると、黒い世界へと自らの精神を沈めていく。
そして昇が手を伸ばすと、その先が光だし赤く細い二本の糸が上るの目の前まで伸びてきて、昇はその糸を力強く掴む。
それと同時に昇の精神は現実へと回帰する。
「エレメンタルアップ!」
その声を合図に両陣は一斉に戦闘を開始した。
そんな訳で一日で二回も投稿してしまいました。……暇だな、私も。
そんなことよりも、少しずつ出てくるロードナイト達そしてサファドの野望とは、ということで少し予告をしてみました。まあ、別に意味は無いんですけど、なんとなく。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、今回は後書きが何も思いつかなかった葵夢幻でした。